プロローグ
●甘い朝食はいかがですか?
「そういえば、古城カフェ『スヴニール』からモーニングフェアの知らせが届いていたぞ」
A.R.O.A.職員の男は、話のついでのようにそんなことを言った。
「古城カフェの主から、丁寧な招待状が届いてな。興味があれば、顔を出してみるといい」
曰く、必要なのは、タブロス近郊の小村の外れ――という少しばかり辺鄙な場所に位置するアンティークなカフェまでの交通費。それから、朝ごはんを楽しむための幾らかの早起きと、ちょっぴり我慢して空かせたお腹だけだという。
「招待状から見るに、今回も食事のお代は不要なようでな。ウィンクルムの皆様がささやかで特別な時間を過ごす手伝いをさせてもらいたい、だそうだ」
ウィンクルムは、これまでに何度も古城カフェを様々な危機から救っている。古城カフェの主であるリチェット青年は、深く恩のあるウィンクルム達に、こうして度々、好意からの誘いを寄越すのだった。
「モーニングのメニューは……チョコとバナナのトーストに、自家製あんバターサンドウィッチ。それから、雑穀ベーグルにクリームチーズと胡桃、蜂蜜を挟んだ物……随分スイーツめいた朝食だな。珈琲や紅茶、フルーツ入りのヨーグルトもついてくるようだから、甘ったるくて仕方がないということもないだろうが」
まあとにかく興味のある者は楽しんでくるといいと、職員の男は少し笑った。
解説
●古城カフェ『スヴニール』について
場所は、タブロス近郊の小さな村の外れ。
豪奢な造りの古城の中、価値のあるアンティークやとっておきのスイーツが楽しめるカフェです。
今回のお誘いは、甘ーいモーニング。
『古城カフェの~』というタイトルのエピソードが関連エピソードとなりますが、ご参照いただかなくとも古城カフェを楽しんでいただくのに支障はございません。
●モーニングフェアメニュー(※冒頭の数字で食べたい物をご指定くださいませ)
1)チョコレートとバナナのトーストセット
村の美味しいパン屋さんの食パンに、自家製のチョコレートクリームを塗り、バナナをたっぷり乗せて、外はさくっ、中はふわっとトーストしました。
ちょっぴりビターなチョコレートと蕩ける焼きバナナの組み合わせが堪らない、とびきりスイートなメニューです。
2)自家製あんバターサンドウィッチセット
手作りの粒あんを、ふわっふわの真っ白食パンにたっぷり挟んだサンドウィッチ。一緒にサンドされた良質のバターがアクセントです。
自家製粒あんは甘さ控えめなので、ぱくぱく食べ進められてしまいます。
3)クリームチーズと胡桃の雑穀ベーグルサンドセット
もっちもちの雑穀ベーグルに、クリームチーズと胡桃、上等の蜂蜜をサンドした一品です。
蜂蜜の量は調整可能なので、あまり甘いのが得意ではない方にもおすすめ。
全てのセットに、珈琲か紅茶、キウイ入りのヨーグルトがついてきます。
珈琲(A)か紅茶(B)はお好みでお選びくださいませ。
●リチェットについて
一族に伝わる古城をカフェとして蘇らせたパティシエの青年です。
特にご指定なければリザルトにはほとんど(若しくは全く)登場しない予定です。
●消費ジェールについて
タブロス市内から古城カフェまでの交通費として300ジェール頂戴いたします。
モーニングセットは無料です。
ゲームマスターより
お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!
外でのちょっぴり特別な朝ごはんに浪漫を感じています。
そんなちょっぴり特別を、ウィンクルムの皆さまにもお楽しみいただけると嬉しいなぁと。
皆さまにとって、心に残る朝ごはんな時間になることを願って。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!
また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
3・A ……(半分寝ている) 大丈夫。大丈夫起きてる。 新作のレシピが降臨して忘れないうちに試作してるうちに うっかり遅くなったが大丈夫……朝日が眩しい…… というかお前は何で朝早くから通常運転なんだ…… リチェットに挨拶済ませて手早く注文 がっつり行く元気はないのでベーグルセレクト 甘いもんだし珈琲にしておくか、眠気覚ましにもなるし シンプルだけどしっかりうまい、腕もそうだが素材もいいんだな (徐々に目が覚めてきた) ん?あー悪い ……(またなんかほわほわしてるな、 あぁいうときは大体こっぱずかしいことを考えてるんだが) まあいいか さて、折角早起きしたんだ、今日はどうする? 休みの予定を立てつつのんびりするのもいいだろう |
俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
3B すげー久しぶりだな、古城カフェ 確か夏にデミ・ゴブリン退治しに来た時以来だったか 相変わらず盛況みたいで何よりだ しかしよく朝っぱらからこんなに甘いもん食えるな いや、甘いもの好きだし美味いけど …色んな意味で胸焼けしそうだからやめとく(恥ずかしさとかで 幸せの味、か… お前の兄貴が何を考えてたかは知らないが そこまで美味いものを弟に食べさせてやるってことは 元々家族思いのいい兄貴だったんだろうな それと、ここのスイーツも美味いが、俺はネカの作るケーキも好きだぞ 去年のパウンドケーキ、優しい味がした それは今後のお楽しみとして、続きを食べるか …ん?さっきより甘い気がする 蜂蜜の量増やしてないはずだよな?(首かしげ |
ルゥ・ラーン(コーディ)
1 B 恋人になっての初デートしませんか?とお誘いしてやって来た テーブルに着き注文品を待つ 素敵なお城にうっとり こんな場所で頂く朝食が楽しみです 一口ぱくり うふふ美味しい 折角ですしシェアしましょうか? なんでしたらあーんでも 狼狽える彼に笑む 困惑気味な様なので また次の機会にでも? ふふ 普通にシェア 「立ち退いて頂きます」 アレとは長屋の地縛霊の事 最近対話を試み正体を掴んだ 「力の程は分りましたし “彼”には説得の余地があります」 引き込まれそうになった時 必死にあなたを想ったら掴んだ手を緩めてくれた 心が届くなら説得し浄霊へ導きたい 凛として「このままにはできません」 喜んであーんに応じる 「はい」 寄り添い二人の時間を楽しむ |
アーシェン=ドラシア(ルーガル)
1 B砂糖多め 古城カフェで甘いひとときと朝食を 取るといいものだとレビューで見たのでルーガルを誘って足を運ぶ トーストセットは素晴らしく美味い 8割方食べてから本題を思い出して話を振る この前【12】俺の告白を遮っただろう ルーガルから言いたいことがあるのだと思って今日まで待っていたが、特に何もないなら続きを言わせてくれ 俺はお前が むぐ …ベーグルも美味いな ではなく 誤魔化さないでくれ 聞いてくれるだけでいい 俺の片想いであることは百も承知だ 多く望むつもりもない ただ願わくば勝手に好きでいるのを許して欲しい おい なにを …そういうことは、言われないと分かるわけないだろう 思わず笑う 風邪でもないのに頬が熱いのは不思議な感じだ |
歩隆 翠雨(王生 那音)
3 先日花見で、キスしたくなる大福をそうと知らずに買って 今も思い出すと顔が熱くなる 兎に角、あれは事故 原因を作ったのは俺 となれば、お詫びは必要だよな? 甘い物が好物な那音の為のような朝食 那音の顔を直視すると思い出してしまうから、メニューに視線を落とし…時間が経つにつれ羞恥心が大きくなるって何でだ? 好きなのを頼めよ。何とか笑顔で …あれ? 那音の態度が…何というか凄く… 前はもっと素っ気なくて、冷たかった…よな? 「何か良い事でもあったか?」 「あーでも何だ。那音が笑ってくれてるのは…何かいいな。 この間は…本当に悪かった」 那音が優しいのは知ってる これって信頼が深まったって事だよな うん、嬉しいぞ 写真撮っていいか? |
●想いを込めて
「すげー久しぶりだな、古城カフェ」
古城の中を見回す俊・ブルックスの琥珀の双眸を、窓から射し込む朝の光が煌めかせる。家のキッチンが改装中という事情も重なり、古城カフェを訪れた2人。と、店内で立ち働く中に見知った顔を見留めて、ネカット・グラキエスはこの店の主――リチェットの元へと歩み寄った。
「リチェットさん、お久しぶりです」
にこり、好青年然とした笑みを向ければ、返るのは懐っこいような笑顔。
「わ、来てくださったんですね。お二人とも、ありがとうございます」
「確か、夏にデミ・ゴブリン退治しに来た時以来になるのか」
「そうそう、あの時のかき氷も美味しかったですね」
俊の呟きに、ネカットが声を華やがせて応じる。相変わらず盛況みたいで何よりだと俊が言葉を足せば、もう一度感謝の言葉を口にして、古城カフェの主は面映ゆげに目を細めた。そして2人は、案内された窓際の席へ。やがて目の前に供された雑穀ベーグルサンドを齧った後で、俊はぽつりと零した。
「しかし、よく朝っぱらからこんなに甘いもん食えるな。いや、甘いもの好きだし美味いけど」
「そういえばシュンって朝はご飯派でしたね」
とりわけ、応じるネカットの選んだメニューは甘さを極めた様相だ。紅茶を口に楽しみながらも、ついつい俊がチョコレートとバナナが蕩けるトーストに視線を奪われれば、
「ふふ、美味しいですよ? 食べます?」
その眼差しに気づいたネカットは、楽しそうに口元に弧を描いて「あーん」の構え。
「……色んな意味で胸焼けしそうだからやめとく」
と、俊はネカットの提案に丁重に断りを入れた。甘さだけではなく、恥ずかしさその他諸々の破壊力もすごそうだという俊の胸中を覗いたように、ネカットがくすりと音を漏らす。そうしてネカットは、珈琲を喉に流した後、ゆるりと声を紡ぎ始めた。
「甘いものはね、上の兄が……レギ兄様が昔よく作ってくれたんです」
そう語るネカットの深緑色の瞳は、カップの中に揺れる珈琲に向けられているようでいて、どこか遠くを、懐かしむように捉えている。
「私もそこから見様見真似で作ってみましたが、兄様ほど上手にはできませんでした」
そう言って、ネカットは眼差しを俊へと戻した。優しい微笑が、そのかんばせを彩っている。
「私にとっては、甘味は幸せの味なんです」
「幸せの味、か……」
恋人の言葉を繰り返して、お前の兄貴が何を考えてたかは知らないが、と俊は語る。
「そこまで美味いものを弟に食べさせてやるってことは、元々家族思いのいい兄貴だったんだろうな」
それと、と、俊は少し照れたように、僅かに視線を逸らして言葉を続けた。
「ここのスイーツも美味いが、俺はネカの作るケーキも好きだぞ。去年のパウンドケーキ、優しい味がした」
俊の言に、「それは当然です」とネカットは堂々として胸を張る。
「シュンのために愛情込めて作りましたからね……あ、そうか」
ふと、気づいた。自分の兄も、同じだったのではないかと。
(レギ兄様もそういう気持ちで作ってくださったんですね、きっと)
そう思うと、胸の奥にあたたかいものが満ちていくような心地がした。そのまま、気合いを入れるようにぐっと拳を握るネカット。
「よーし、私もまた今度作りますね! ここのスイーツにも負けないくらいの……」
「ん。それは今後のお楽しみとして、続きを食べるか」
ネカットの宣言にそっと目元を和らげて、俊はそう促した。このままではトーストが冷めてしまう、という事実に思い当たったネカットが、頷いてそれを一口。もぐもぐごくん、と行儀よくその一口を食べ終えた後で、神妙な面持ちでネカットは呟く。
「……美味しすぎる、強敵です」
ライバルと相対するネカットの前、俊は俊で、
「……ん?」
と、怪訝そうに首を傾げていた。
(さっきより甘い気がする……蜂蜜の量、増やしてないはずだよな?)
ネカットがトーストと睨めっこをし、俊が益々首を傾ける中。2人の朝ごはんな時間は、ゆったりとして過ぎていく。
●その笑顔の意味は、
(おお、内装もすごい……写真、撮りたいけど……)
今は我慢だと、歩隆 翠雨は自身に何度も言い聞かせた。そうして、傍らに立つ王生 那音の顔をちらと盗み見る。ついつい、視線がその口元へと引き付けられた。
(っ……!)
慌てて、顔を逸らす。先日2人で花見に向かった際、食べるとキスがしたくなるという不思議な大福を、そうと知らずに買ってしまった翠雨である。その時のことを思い出すと、翠雨の顔は何度だって熱く火照るのだった。
(兎に角、あれは事故。原因を作ったのは俺……となれば、お詫びは必要だよな?)
という次第で、翠雨は2人分の交通費を用意して那音を古城カフェへと誘い、今に至る。じきに、2人は席へと案内され――前を行く翠雨の後ろ姿を、那音は、翠雨が抱いているのとは異なる想いを胸に見遣っていた。
(奢る理由は直ぐに思い当たる。俺に悪い事をしたと思っているんだろう)
だが、実際のところは違っている。那音はあの一件を経て、自分が翠雨に抱く感情が何なのかをはっきりと自覚していた。
(俺は……翠雨さんを好いている、そういう意味で)
そんな那音の胸中など露知らず、翠雨は「いい席だな」とどこかぎこちなく零す。席に着き美しい装丁のメニューを開けば、そこを彩るのはきらきらしいような朝ごはん達だ。
(甘い物が好物な那音の為のような朝食だな……)
なんて思いながら、翠雨はじぃとメニューを見つめた。那音の顔を直視するとあの時のことを思い出してしまうから、メニューに視線を落としておかずにはいられないのだ。
(……時間が経つにつれ羞恥心が大きくなるって何でだ?)
問いに答えはなく、いつまでもメニューと睨めっこをしているわけにもいかず。翠雨は顔を上げると、
「好きなのを頼めよ」
と、何とか笑顔で言い切った。すると――那音のかんばせに、ふわり、微笑が乗る。
「ありがとう、翠雨さん」
笑みを湛えた青の双眸が、翠雨を確かに捉えた。翠雨の方はというと、目をくるりと丸くしている。
(……あれ? 那音の態度が……何というか凄く……)
前はもっと素っ気なくて、冷たかった……よな? なんてぐるぐると思考する翠雨の前、
(案の定というか……全く、少し傷ついてしまうくらいの反応だな)
と、那音は笑顔の向こう側で思っていた。しかし、それ以上揺らぐことはない。
(己の感情に整理が付けば、態度も変わる……思えば、子供じみた態度だった己に笑いが出そうなくらいだ)
那音は、そんなふうに自身のことを分析していた。そうこうしているうちに店員が注文を取りにきて、それぞれに所望する物を告げる。じきに、テーブルの上を甘やかな朝食達が華やがせた。
「――何か良い事でもあったか?」
那音の態度が変わったことへの言及だろう、翠雨は雑穀ベーグルサンドを一齧りした後で、そんなことを尋ねる。
「ああ、そうだな。良い事はあった」
そう応じて、那音はまた少し笑った。つられたように、翠雨も口元を緩める。
「そっか。……あーでも何だ。那音が笑ってくれてるのは……何かいいな」
この間は……本当に悪かった、と、翠雨。那音は無言で柔らかな笑みを返すことを答えとし、チョコレートとバナナの甘い香りを漂わせるトーストをそつなく口に運んだ。内心には、かんばせに咲かせた笑顔とは幾らか色の違う感情を湛えながら。
(全くこの人は……俺が抱く感情を知ったら、どんな顔をするだろうか)
もう、逃がさない、とそれが那音の胸の内。
(あの時とは違う。貴方に俺を見て貰う)
ひた隠しにしている、孤児だった時分のことを思い出す。迷い込んだ豪邸、そして、あの出会い――。那音が過去へと心を飛ばすその前で、翠雨はくすぐったいような喜びに浸っていた。
(那音が優しいのは知ってる……これって、信頼が深まったって事だよな。うん、嬉しいぞ)
弾む心のままに、「写真撮っていいか?」と切り出す翠雨。構わない、というような返事を、那音は整った笑みと共に翠雨へと手渡した。
●まだ、帰らない
「素敵なお城ですね。こんな場所で頂く朝食が楽しみです」
テーブルに着き甘やかな朝食が供されるのを待ちながら、ルゥ・ラーンは金の双眸をうっとりとして和らげた。楽しげな様子のルゥを前にして、
「そうだな、僕も楽しみだ」
と、コーディは満更でもない、という心持ちで相槌を打つ。いつもより早起きをしたせいで先ほどから欠伸が止まらないが、「恋人になっての初デートしませんか?」というルゥの誘いはコーディの気分を害するものではなかった。己の内側に恋愛感情があるかを未だはかりかねている身でこそあるものの、ルゥに期待を寄せてもいるコーディである。と、辺りに漂う香りの芳しさやら人々の笑顔の眩しさやらについて弾む声音で囀っていたルゥの眼差しがふと虚空へと移り――にこり、そのかんばせに微笑が乗る。何かに笑み掛けたようにも見えるその様に、コーディの肌はぞくりと粟立った。
(何かいたのか? ……気付かなかった事にしよう)
そこに本当に何か――霊のようなものがいたのか否かは、ルゥのみが知る。真実は闇の中だが、とりあえずコーディの欠伸はぴたりと止まった。一気に眠気がとんだのだ。じきに、そんな2人の前へと、輝くばかりの朝ごはん達が運ばれてきて。
「うふふ、美味しい」
「んー、悪くない」
ルゥはチョコレートとバナナが蕩けるトーストを、コーディは蜂蜜控えめの雑穀ベーグルサンドを。それぞれに一口ぱくりとして、それぞれに感想を零す。言い様こそ似ても似つかないが、満足いく味だったことは同じのようだ。ふふ、と音を漏らすルゥ。
「折角ですしシェアしましょうか? なんでしたらあーんでも」
優雅な気分に浸っていたコーディの頭上に、ごく静かに爆弾が投下された。ベーグルサンドを喉に詰まらせ掛けた後で、
「ちょっ、それは……」
と、コーディは答えを濁して紅茶を啜る。その狼狽っぷりを前にルゥは口元に柔らかく弧を描いて、
「困惑気味な様なので、また次の機会にでも? ふふ」
なんて、小皿へとトーストの口をつけていない箇所を取り分けていく。その手つきを眺めながら、コーディはぼんやりと思った。
(あーんは嫌いじゃない。でも……)
そんな自分を出すのは、まだ躊躇われる。それが、今の2人の距離感だった。互いにシェアしたメニューも味わいながらの、まったりとした時間。美味しそうに紅茶を口に運ぶルゥを前に、コーディは静かに口を開いた。
「ルゥ、アレどうする考えなの?」
「立ち退いて頂きます」
アレというのは、長屋の一室を淀ませている地縛霊のことだ。ルゥは最近その霊と対峙し、対話の末に正体を掴んだのだった。
「力の程は分りましたし、『彼』には説得の余地があります」
霊に呑み込まれそうになった時、ルゥは必死にコーディを想った。その時、こちらの手を掴む力が、緩んだように思ったのだ。心が届くなら説得し浄霊へ導きたいと、それがルゥの願いだった。しかし――コーディの方は、ルゥが霊を『彼』と呼ぶのさえ気に食わない。何せその霊は、神人との運命を求めていた未契約精霊だという話ではないか。
「やめろって言ったら?」
「このままにはできません」
問いに返るのは、僅かの迷いもない、凛とした言葉。苛立ちが胸を刺すままに、コーディは近くの店員を呼び、あんバターサンドウィッチセットを追加で頼んだ。
「気が変わった、あーんで食べさせろ」
やがて運ばれてきたサンドウィッチを前にそう言えば、ルゥはいっそ喜んでそれを実行した。
(僕は何をイラついてるんだ……)
口の中に甘味を噛み締めながら、思う。そうしてコーディは、食後、古城カフェの外へと出るや強引にルゥの手を握った。確かに繋がれる、手と手の温度。
「近場散策しよ」
長屋に帰りたくない、なんて考えながらそう声を紡げば、
「はい」
と応じたルゥが、2人きりの時間を堪能せんとばかりにコーディへと身を寄り添わせる。まだ今日は始まったばかりだと、コーディは胸中に言い聞かせるように呟いた。
●しあわせ朝ごはん
「今日は朝ご飯をいただきます! 早起き頑張りましたよー!」
青の双眸をきらきらと輝かせて、イグニス=アルデバランはぐっと拳を握る。が、しかし。
「……」
ちょっと落ち着け、的ないつものつっこみは初瀬=秀の口からはとび出さない。そっとイグニスがその顔を覗き込めば、秀は、立ったままうつらうつらとしていて。
「って、秀様! 寝ないで! 起きて!!」
「……大丈夫。大丈夫起きてる」
イグニスに肩を揺さぶられながらも、秀の返事は、言葉とは裏腹にまだ夢の中に片足をつっこんでいるようなふわふわとした声音だ。
「新作のレシピが降臨して忘れないうちに試作してるうちにうっかり遅くなったが大丈夫……朝日が眩しい……」
「だから、早く寝ましょうって言ったじゃないですかー!!」
色付き眼鏡越しでも、窓から店内へと射し込む朝日が言葉通りに目に染みるらしく、細めた秀の目は、常以上の鋭さを纏ってしまっている。
「そういう仕事熱心なところはいいところですけど良くないところだと思いま……」
立場逆転、今日は何やらイグニスの方が保護者めいている……と思ったら、愛に満ちたお小言を子守唄に、秀はまたうとうとと夢の世界へ――、
「わああ、だから寝ないでください秀様!」
――旅立ち掛けて、イグニスの声に現実へと引き戻された。ゆるゆると、秀の眼差しがイグニスへと向けられる。
「というか、お前は何で朝早くから通常運転なんだ……」
秀がそう呟いた時、ホールへと古城カフェの主――リチェットが顔を出した。2人に気づいて、リチェットがぺこりと頭を下げる。
「リチェット、あー、今日は……」
「リチェット様おはようございます、秀様今日ちょっとローギアですけどお気にせずに!」
まだぼうっとしている秀のフォロー込みで、元気良く挨拶を済ませるイグニス。どうぞ良い朝をとにこりとしたリチェットの案内で、2人は今の秀にも明るすぎない席へと。
「トーストもサンドイッチもおいしそうー!」
イグニスがはしゃぐ前で、メニューに軽く目を通して、秀は手早く注文を済ませる。
「ベーグルサンドセットと珈琲を」
ベーグルサンドを選んだのは、がっつり行く元気はないから。甘いものに合わせるように選んだ珈琲は、眠気覚ましの役割も兼ねている。正面に座る秀がそんな調子なのを確認して、
「サンドイッチにします!」
と、イグニスは宣言した。今日の秀には、甘やかを極めたトーストは重いとの判断だ。つまり、当然のようにシェア前提。やがてテーブルの上を、運ばれてきた特別な朝ごはん達が煌めかせる。
「わーふわふわ! あんことバターってなんで合うんでしょうね!」
紅茶の味と香りを楽しんだ後で、あんバターサンドウィッチに齧り付いたイグニスは声を弾けさせた。雑穀ベーグルサンドを口にした秀も、徐々に目が覚めてきたらしく、その味わいに頷いている。
「ん、シンプルだけどしっかりうまい。腕もそうだが素材もいいんだな」
零す声は随分としっかりとしてきたが、ベーグルサンドの端っこからは蜂蜜がとろり。それに当人よりも早く気づいたイグニスが、秀の手元へと指を伸ばした。
「秀様、蜂蜜垂れてますー……甘い!」
蜂蜜を指で拭って、そのままぺろり。イグニスの方を見遣った秀が、
「ん? あー悪い」
なんて、何でもないふうに短く言った。その様子に、イグニスは思う。
(……前なら『何やってんだお前』とか言われたでしょうね、これ)
慣れてきたんですねえ、と、イグニスはほわんと表情を緩めた。そんなイグニスを前に無言で思案して、今度は蜂蜜に注意しながらベーグルサンドをもう一口齧る秀。
(またなんかほわほわしてるな、あぁいうときは大体こっぱずかしいことを考えてるんだが……)
そこまで気づいていながらも、まあいいか、と秀は思考を閉じた。さて、と、その唇が音を紡ぐ。
「折角早起きしたんだ、今日はどうする?」
休みの予定を立てつつのんびりするのもいいだろうと、秀は湯気薫る珈琲を啜った。
●甘いひとときの作り方
「お前本当……本当さぁ……深い意味はねえと分かっちゃいるがよ……」
雑穀ベーグルサンドと湯気立ち昇るブラックの珈琲を前に、ルーガルは深く深く息を吐いた。砂糖を満足いくだけ溶かした紅茶を美味しそうに啜っていたアーシェン=ドラシアが、ルーガルの声に面を上げて、不思議そうに首を軽く傾ける。その姿を前に、ルーガルはもう一度ため息を漏らした。
(――甘いひとときを過ごそうって、なぁ)
アーシェンに真顔でそう誘われて、こうしてそれなりに辺鄙な場所まで足を伸ばすことになったルーガルである。道すがら聞いた話によると、『古城カフェで甘いひとときと朝食を!』といった調子の、このフェアを勧めるレビューをアーシェンは目にしたらしい。
(だからつまり……深い意味はねえんだろうけど、それにしたって……)
ため息の数を数えるのも、億劫になってきた。しかし、ルーガルに煩悶を呼んだアーシェンはというと、黙々として、しかしとても満足げな顔で溶けたチョコレートと焼きバナナの甘い香りが漂うトーストを齧っているのだ。
(やっぱ、単純にここのメシ食いたかっただけだよなー)
アーシェンの様子を眺めてそんなことを思いながら、ルーガルはようやっと自分も珈琲を口に運ぶ。と、その瞬間。
「――この前、俺の告白を遮っただろう」
綺麗に、爆弾が投下された。完全に油断していたルーガルは珈琲を噴き出しかけ、しかしすんでのところで面目を保つことに成功する。なんということはない、アーシェンは、トーストを8割方食べ終えてから本題を思い出したのだった。それほどまでに、アーシェンにとってトーストセットは素晴らしく美味しいものだったのだが、ルーガルの方は勿論それどころではない。
(確かに俺から言うタイミング逃したままにしちまってたが、ここでか!?)
内心慌てるルーガルの心持ちなど露知らず、
「ルーガルから言いたいことがあるのだと思って今日まで待っていたが、特に何もないなら続きを言わせてくれ」
なんて、アーシェンはマイペースに自身の想いを紡ぎ始めた。
「ルーガル、俺はお前が……むぐ」
口を塞いだのは、ルーガルのベーグルサンドだ。さすがにまずい、と咄嗟に自身の朝食をその口に突っ込んで、一旦はアーシェンを黙らせたルーガルだったが、
「……ベーグルも美味いな――ではなく、誤魔化さないでくれ」
という具合で、口の中のベーグルをきちりと食べ終わったアーシェンは、花の香りに溢れていたあの日と変わることなく、どこまでも真っ直ぐにルーガルのことを見つめるのだ。
「聞いてくれるだけでいい。俺の片想いであることは百も承知だ。多く望むつもりもない」
ただ願わくば勝手に好きでいるのを許して欲しいと、それがアーシェンがルーガルへと手渡すことを望んだ言葉。話を聞き終えて、ルーガルは、苦く眉間に皺を寄せた。
(……そんなこと考えてたのかよ。ひでえ誤解だが、そう思わせたのは俺か)
ならば、どう贖えばいいのか。ルーガルが答えを出すのは早かった。メニューをテーブルに立てて他の客達の目から逃れるや、贈るのは、口付けを一つ。
「っ、おい、なにを……」
「あの時も今も遮ったのはな、言われたら止まれなくなるからだ。お前を食いたくなるからだよ」
低い囁きに、アーシェンが瞳を瞬かせる。その瞬きの数さえ見逃しようがないほどに、今はルーガルも、真っ正面からアーシェンと向き合っていた。
「それくらい分かれよ」
「……そういうことは、言われないと分かるわけないだろう」
思わず、といった調子で、アーシェンのかんばせに笑みの花が咲く。
(風邪でもないのに、頬が熱いのは不思議な感じだ……)
けれどその熱さは、少しも不快さを纏ったものではなく。頬を心地良い熱に染めたまま、アーシェンはルーガルの金の双眸にじぃと見入った。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:アーシェン=ドラシア 呼び名:アーシェン |
名前:ルーガル 呼び名:ルーガル |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 巴めろ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 04月21日 |
出発日 | 04月27日 00:00 |
予定納品日 | 05月07日 |
参加者
- 初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
- 俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
- ルゥ・ラーン(コーディ)
- アーシェン=ドラシア(ルーガル)
- 歩隆 翠雨(王生 那音)
会議室
-
2017/04/26-00:12
アーシェン=ドラシアという。パートナーはルーガル。
趣のある古城で甘いモーニングとは惹かれるものがある……。
ルーガルに聞きたいこともあるし丁度いい。
よろしく頼む。 -
2017/04/25-01:05
歩隆翠雨だ。
今回は、ちょっと那音へのお詫びを兼ねて、甘いモーニングを奢ろうかと。
あ、でも普通に美味そう。
そして、写真も撮りたいぜ…(わくわく)
よろしくな。
-
2017/04/24-21:12
俊・ブルックスとパートナーのネカだ。
古城カフェは久しぶりだな…今回は何にしようか…
ともあれよろしく頼む。 -
2017/04/24-17:17
ルゥ・ラーンです。パートナーはコーディ。
よろしくお願いしますね。
ふふ、甘い朝食…楽しみです。