プロローグ
『――どうして、こんな戦いに参加しなくちゃならないんだ』
『――俺達の魂は今、確かにここに在るのに……』
『――何故、家族にも友人にも会えない。生きながら死んでいるのと同じだ』
『――我々は道具じゃない、国を救った誇り高き騎士であるぞ……!』
募るのは主への疑心と不信感。
揺らぐのは国への忠誠と信義。
かつて国を守った英雄達は、しかしこの半永久的な牢獄で永きを過ごす内に、心を黒く染めてしまった。
デミ・オーガ化。世間ではそう呼ばれる現象――しかし、人の心を持つならば、不信は敵意へと容易に姿を変える。
僅かに芽生えた疑心や不安も、ほんの少し後押ししてやるだけで。
『――お前たち、復讐したくはないか?』
一人の英霊が、他よりも数段厚く禍々しい甲冑に身を包み、鬱蒼と声を地にはべらせた。
彼の名はルドルフと言った。領主階級に産まれ裕福な貴族の一族として育ち戦で名を上げた。
故に、こんな理不尽な扱い方をされる事には、常より不満も募らせていた。
『さあ。皆、剣を取り闘おう。我々の力を、今一度人間達に見せ付けてやる為に!』
オオッ! と、騎士達が天目掛け武具を突き上げた。
曇天の昼空は、今にも泣き出しそうな灰色を色濃く淀ませた。
* * *
「――というのが、事のあらましだ」
説明資料を配り終えた職員の男性が剣呑な眼差しで告げた。
「デミ・オーガ化した騎士達だが、懸念するほどの強さはない。精々Dスケールほどのステータスしかない。だがあまり、事態を軽く見てはならないようだ」
甲冑に魂を宿らせているだけの存在は、心に巣食う闇さえ取り除けば戦意喪失する。
ショコランドの一画――小人や妖精が集落を作っているそこへ、デミ・オーガ化した騎士の一団が進行した。
数はおおよそ十数体ほど。軽視してはならない、と表情を曇らせる理由はここにあるようだ。
「彼らは統率を取り隊列を形成している。デミ・オーガ化していても騎士精神を忘れてはいない。逆恨みし、倒すべき対象を履き違えていると言うだけで。集落や住人――小人たちにも、一部被害が出ているらしい」
「俺たちは、どうすればいいんですか……?」
一人のウィンクルムが聞いた。
理不尽な扱いに憤るのは健全な人の精神だ。
ただ無作為に斬り捨ててしまうには、これまで国のため尽くして来た彼らにはあまりに哀れだ。
「……英霊にも事情は様々だ。今は亡き家族に会いたいと願うもの、存分に剣をふるいたいと願うもの、魂の解放を願うもの……心境は汲むが、かといって全てを我々の判断でなんとかしてやることも出来ないだろう。今回依頼されたA.R.O.A.の仕事は、あくまで凶暴化し反旗を翻した英霊たちの討伐だからな」
職員の男性も無念そうに表情を曇らせた。
しん、と静まった部屋で一拍置き、改めて任務の概要を伝える。
「ショコランドの一画に攻め入った、堕ちた騎士一団の殲滅が君たちの任務だ。しかしやり方は各々に任せる。甲冑を破壊するか、あるいは説得により彼らの心が満たされれば戦意喪失し動かなくなる。組織に属し上の命令で動く者たちだからこそ、理解出来る気持ちもあるだろうからな……」
少しでも多く、救ってやってくれ。
男性はそう言って、深々と頭を下げた。
解説
▼目的
・国を攻撃している英霊たちの討伐
手段は問いません。説得でも戦闘でも、最終的に全て動かなくすれば成功です
全員斬り捨てても構わないです
▼敵概要
・ルドルフ
一団を率いているリーダー
他の英霊よりも若干レベルが高いです
イメージとしては野犬の群れを率いるボス程度のステータス
・他十数名の英霊
ルドルフの統率に従っています。デミ・ワイルドドッグくらいのステータスです
十数体と数は多いですが固体はそれぞれ弱いので、火力で攻めても十分討伐は可能
家族と会いたい、鏡から解放されたい、戦場で剣をふるいたい(ルドルフはこれ)など、それぞれ事情が違うので、説得する際には参考にしてください
・フィールド等
真昼のショコランド一画、温暖な地方の荒野
草花や原材料の元になるような木がまばらに自生しているだけなので障害物などはほとんどありません
攻め入る村や集落を探し回っているところです
▼全体描写となります
ゲームマスターより
久しぶりにアドベンチャーエピソードを出させてもらいました。
軍隊ほどの強制力はなくとも、かつての英雄達と同じように、組織の任務や命令で動くウィンクルムさん達ならではのやり方を見せて頂けたらなと思います。
相談期間のみ短めなのでご留意ください。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
説得したい 本当は武器も持ちたくないけど・・・大丈夫。心配かけるから持ってくよ 意気込むタイガ)お手柔らかにね ■英霊の家系や資料がつかめないか尋ね、説得材料にしたい タイガの気遣いに心を強くもち ◆後衛で銃。皆の背後や攻撃を支援。合間に説得 同じ立場だったら・・・寂しくて存在意義もわからない、気が狂ってしまうのもわかる でもどんなに苦しくても罪もない住人を傷つける理由にはならない 貴方達を救いたいんです! 話して下さい 望みはなんですか?これからどうしたいか教えて下さい 言葉にするだけでも違います 名前や趣味、家族や思い出を汲み、墓を立てたり、家族のその後を調べて報告したい。好きなものを渡したり できる範囲なら何でも |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
英霊達と出会ったらトランス。 敵の攻撃をパラソルで往なしつつ英霊達の主張を聞こう。 お前達が襲おうとしているのは武力を一般民衆。以前護ろうとしたものだろ。 強い力を持つ者はそれを振るう結果に責任を追う。 武人が一般民衆を虐げて良いのか、それはお前達が心底望むことなのか、と 騎士・貴族的な視点から、英霊達の行動を咎めるぜ。 ただ、持つ力を存分にふるいたい気持ちも解るぜ。 でもソレは弱者に向けちゃダメだろ。 どうしてもというならオレが相手になる。 ハイトランスしてルドルフと戦うぜ。 オレの今までの経験を全て使い本気で戦うぜ。 それが戦う礼儀ってものだ。 戦う事は生命のやりとりをすること。 だから、手加減はしない。 |
ユズリノ(シャーマイン)
殺気か発見でトランス 殺気を感知したら方向を知らせる 対峙 「民に被害が出ています それを止めに来ました」 戦闘 r5内で行動 振われた剣を剣で受け止め 戦闘の態ではあるが憤りの発散になればいい こちらから攻撃はしない 「境遇を思えば怒るのは当然です でも意思の伝え方を間違っている」 「嘗て理不尽な暴力と戦い 勝利を掴んだ皆さんなら分る筈です 今 自分がその理不尽な暴力に成り下がっていると」 彼の背後警戒 狙われたら体当たり MP不足にDI オーガに半落ちした魂は輪廻の輪に戻れるのだろうか 討伐に至った魂に浄化の祈りを 瘴気を少しでも取り払いたい 来世で人生を全うしてほしい 愛する人と幸せになって欲しい どうか… 戦後 共に感謝の祈り 彼を手伝う |
●
「……説得したい」
神人、セラフィム・ロイスは。
今回の依頼を受け、武器や流れの最終確認中、気持ちを改めて再確認するように呟いた。
手元には事前に用意した――A.R.O.A.で把握出来るだけの、英霊に関する家系資料がある。
子供や家族は亡くなっていてどうしようもないけれど、一族のその後や辿った軌跡はわかる。
少しでも彼らとの対話に生かせれば、と考えた。
「そうだな……好きな人や家族が居たら、俺だって絶対、居ても立ってもいられねえもん」
セラフィムの想いを受けた彼の精霊、火山 タイガも。
同じように、資料へ記された人名や家系図を目にして、物憂げに呟く。
タイガにだって大好きな兄弟と家族がいる。仮に戦いで自分が命を落としたとして、現世に彼らが存在しているのに会えないまま尚戦わされるというのは、どんな気持ちなのだろう。
「本当は、武器も持ちたくない――」
「いや、持ってけよ!?」
優しい心根の神人が発した言葉を、遮るほどの剣幕で忠告を発したタイガに「……ないんだけど」と、セラフィムは苦笑した。
「ちゃんと、持って行くよ。心配かけたくないから」
みんなや、タイガにね。
重ねて告げて、柔らかく微笑む。
ならいいけど、と胸を撫で下ろしつつ、タイガも心中で想いを再認識した。
(……セラは優しいから。俺がしっかりしねえと)
出来ることなら、彼に刃を振るわせたくはない。
ぐっと拳を握って意気込むタイガに、セラフィムは「タイガも、お手柔らかにね」と駄目押しのように告げた。
「ああ。聞き分けねぇ奴には、わからせてやるけどな!」
にっ、と歯を見せ虎の子は頼もしく笑う。
英霊たちと同じように、大切なパートナーを思い戦場へ赴きながら、願わくばこの戦いが、彼らにとって最良の形で終幕するようにと願った。
* * *
「……西の方向、来ました」
報告を受けた場所で待ち伏せし、殺気を感知した神人のユズリノが一行に敵の到着を知らせる。
英霊たちとの対面を皮切りに、各々トランスを行使した。
「女神リンゴのご加護を」
「絆の誓いを」
「滅せよ」
パーティーは、ユズリノとその精霊シャーマイン、タイガとセラフィム、神人セイリュー・グラシアと精霊ラキア・ジェイドバイン。
足跡が少しずつ近くなる。報告に聞いていた数とほぼ同数。
逃げも隠れもせず正面から堂々と、英霊――騎士達は、ウィンクルム達と対峙した。
『……汝らは、敵か?』
英霊の一人が問い、
「敵ではない、と答えても……あなた方は俺たちに攻撃してくるんでしょう」
ラキアが静かに答える。
言葉を交わせるだけの知性がありながら、彼らには最早敵味方を識別する理性がない。
『我々に無体を働いた王族達。彼らに賛同するのならば、それは敵と同じことだ』
チャキ、と剣の切っ先を向けて来た英霊からは、一際どす黒いオーラが滲み出ている。
シャーマインが一歩、前へ歩み出た。
「英霊ルドルフ殿とお見受けします。この度の集落等への侵攻、その真意をお聞きしたい」
ロイヤルナイト――同じ騎士である精霊の言葉に、ルドルフと呼ばれた英霊はくつりと自虐気味に笑った。
『俺はただ、戦いたいだけだ。主たる王達の命で、都合よく動かされるブリキの軍隊で居ることには飽いでしまった。騎士である以上力を誇示したいと願う気持ち、そなたなら分かるのではないか』
「力があるからこそ、それは正しく行使されるべきだ」
『綺麗事だな。愛する者達と間近に並び立ち、正しさを見失わない正常な時を生きるお前達に――しかし、彼らの気持ちはどう汲めるというのだ?』
ルドルフが顎で示唆した先に、彼へ従う英霊達が続いた。
『……護るべきものを見失ってしまった。今はただ現世に生きる全てが憎い』
『我々は永きの時を封じられ、都合よく扱われて来た……』
『愛する者の、家族の居ない世界など、守る道理はどこにある。お前達は、何のために戦うのだ』
次々に紡ぎ出される言葉に闇が混じる。
凛と通る声で、ユズリノが大きく告げた。
「民達に被害が出ています。それを、止めに来ました」
『――その気持ちひとつで我々を止められると言うのならば、やってみるがいい!』
一人の英霊が、剣を高く振り上げ駆け出した。
「リノ、中へ!」
「うん!」
シャーマインがスキル『フォトンサークル』を発動する。
飛びかかった英霊の一撃が結界の光にバチン! と弾かれた。
『妙な技を使う奴らだ!』
『倒せ! 奴らは敵だ!』
一人の攻撃が弾き返されたのを皮切りに、次々と英霊達が武器を振り上げた。
剣を使うもの、槍や弓矢を使うもの、英霊により得手は様々。
それらを取り仕切り隊列を成そうとするのが、敵陣の真ん中に位置するルドルフだ。
「背中と説得は任せたぜ、セラ!」
「タイガ……わかった!」
ポンポン、とタイガがセラフィムの頭を叩いた事で『コンフェイト・ドライブ』の恩恵がもたらされる。
武器を持ちたくないと告げたセラフィムが、極力戦わなくて良いようにという、タイガの気遣いが伝わった。
一層気を強く持ち、サポートに徹する構えで銃を手にした。
「暴れたいのなら、相手します!」
続けざまに発動されたシャーマインの『アプローチ』が数体の英霊を引き付ける。
しかし向かってきた英霊に攻撃は行わず斧と盾で防ぎ、ユズリノへ向かう固体には割り入って防ぐ。
前衛数人を削がれた敵陣へ、セイリューとラキアが突っ込んだ。
『お前達も敵ならば、殺す!』
振り下ろされた剣をパラソルで横薙ぎに弾いた。
振り仰ぐと同時に剣で武器を弾き飛ばす。英霊達が次々と繰り出す攻撃を武器一本で往なし、力を見せつける。
「――お前達が襲おうとしているのはかつて守ろうとした民衆だ。力を持つものには、相応の責任が伴う」
セイリューの瞳が英霊達を射抜く。気圧された様に刹那彼らは踏みとどまった。
「武人が民衆を襲っていいのか! それが、本当にお前達の望む事なのか!?」
『彼らは我々の事などとうに忘れて、かの主人達に従いのうのうと生きている! 我々がどのような気概で魂だけとなり生き永らえてきたのか、知りもせずにだ!』
「彼らがそうして平和に暮らせたのはあなた達の助力があったからこそだ!」
『ッ!』
セイリューの背後を狙った英霊の一撃を防ぎ、叫ぶようにかばい出たのはラキアだ。
ぎっ、と憎々しげに睨め付ける英霊を、おくすること無く凛と優しい眼差しで、ファータの精霊は受け止めてやる。
「……彼らは君たちが護った者の子孫だ。英霊の存在がなければ、君たちが今まさに襲おうとしている平和な集落だってなかったかもしれない。護った者を、今度は君達が手にかけるの?」
『く……だがもう、俺の家族は』
「そんな事を、君が愛した人達は望まないよ」
……あの世でも、きっと。
首をゆっくりと横に振って、静かに説き伏せるラキアとセイリューに、英霊たちはどうして自分が彼らを攻撃できないのか理解出来ず、狼狽えた。
『――小癪な真似を!』
ユズリノを庇うシャーマインに騎士の狂刃が降りかかる。
英霊たちは、シャーマインがあくまでパートナーの守りを優先し本気を出して攻撃してこない事を理解していた。
かつて何かを護った自分の姿をそこに重ねて、込み上げる激情に任せ振るわれる一撃は避ける事も容易い。
けれどそれを、シャーマインは騎士の盾で受け止めた。
「……っ、かつてはあなた達も何かを護り、そこには誇りがあったはずだ!」
盾と刃が擦れ合い耳障りな音を奏でた。
『ああ。だが! 後には何も残らない、愛する者を亡くした今となっては……何も!』
喚く英霊の甲冑の奥に光る雫を見た気がして、ぐ、と一歩押し出たシャーマインも強く叫びかけた。
「破壊の虚しさを、知っているなら!」
『……ぐあ!』
――キンッ!
真上に弾き飛ばされた刀身がくるくると弧を描き落下し荒れた地に突き刺さった。
「……剣を、収めて下さい、俺達が戦う理由なんてない」
『……く』
騎士の真摯な瞳を甲冑の奥に映し、彼はがくりとうなだれた。
武器を失えば戦うことはできない。
目の前の英霊が停止した事で生まれた僅かな隙に、シャーマインの背後から一人の英霊が襲いかかった。
『隙あり!』
「シャミィ!」
横合いから飛び出し、英霊に体当たりを食らわせたユズリノがシャーマインの背を護った。
低レベルの相手とは言え硬質な甲冑に打ち付けた皮膚が痛まない訳はなく、肩を抑えながらもユズリノはしっかりと英霊を見据えた。
『互いを庇い合う美しい友情だな。健全な精神で戦えるお前たちに、やはり我々の想いなど理解出来ぬ』
チャキ、と切っ先を向けた英霊に、ユズリノは悲哀を灯した瞳で告げる。
「……境遇を思えば怒るのは当然です。でも、あなたたちは意思の伝え方を間違ってる」
『伝え方など……もうどうでもいい。あの日の栄光はもはや戻らぬ。理不尽な暴力に立ち向かい、勝利に湧いたあの喜びは、』
「その理不尽な暴力と戦いで、勝利を掴んだ皆さんなら分かるはずです。今、自分たちがその理不尽な暴力に成り下がっていると……!」
ユズリノの言葉に、突きつけられた切っ先が僅かに揺れた。
「同じ立場だったら……苦しくて寂しくて、存在意義もわからなくなって、狂ってしまうのも分かる」
後衛から銃での援護に徹していたセラフィムが、向かってくる英霊の誰にともなく告げた。
その顔は自分ごとのように辛そうで、数体の英霊は彼らのまっとうな正義に何かを思い出し、怯んだ。
「でも、どんなに苦しくたって、罪もない人を傷つける理由にはならない!」
『……抜かせ、戯言を!』
士気が下がり始めた事にルドルフが気付いた。
その凶刃が、セラフィムに向かい突如襲いかかった。
「させねぇ!」
『!』
ルドルフの刃より早く駆けたタイガが、進路を阻む様に飛び出した。
間髪いれず振り下ろされた剣を片手鈍器ひとつで弾き返す。
「……無抵抗の奴を傷つける事が、騎士のやる事かよ!」
『フン、言うじゃないか虎の子よ』
一撃を防がれ一歩後退し、ルドルフは距離を取った。
「止まれ、俺が相手になるぜ!」
挑発的に笑ったタイガに、ルドルフは甲冑に覆われた瞳を細めた。
「望みは何ですか、家族に会う事ですか、力を振るう事でしょうか」
震える切っ先に気付いて、セラフィムは銃を下ろした。
穏やかで、どこか辛そうな表情を浮かべ、けれども必死に言葉を紡ぐ青年に、英霊たちは誰一人攻勢にうって出る事が出来ない。
「言葉にするだけでも違います、話して下さい……あなた達を救いたいだけなんです」
「大切な人の墓や子孫、現王への伝言――可能な限り、あなた方の意思を伝えたいと願う」
セラフィムに続くように、シャーマインも。
最早戦意を削がれつつある数体に向け語りかけた。
彼らの声を聞き、自分達に出来る事をしたいと望んだ。
たとえ迷う魂の解放が、その甲冑ごと破壊する事でしか叶わないとしても。
『……俺はもう疲れた。そなたに託せる事があるなら願おう』
「はい。全てしっかり記憶して、御伝えします」
一人の英霊が武器を下ろした事を皮切りに、一人、また一人と、シャーマインに何かを伝えて停止し、魂が抜けた様に倒れ伏せる甲冑が現れ始めた。
中には予想通り、とどめを刺してくれと請う英霊も居た。
(――……オーガに半分落ちした魂は、輪廻の輪に戻れるのだろうか)
次々に停止し生命の気配を消していく甲冑達を見つめて、ユズリノは心の中で呟き、手を胸の前で組み合わせた。
(瘴気を少しでも取り払いたい。来世では、愛する人と幸せになって欲しい……どうか)
討伐に至った魂にも、浄化の祈りを。
ユズリノの祈るような姿を受けて、二人が相対した殆どの英霊達が昇華されていく中で――けれども戦意を失わない者も居た。
『――お前等のせいで、仲間たちはアアァッ!』
「!」
ユズリノの背後から突如襲い掛かった一体を、しかしすかさず駆けつけたシャーマインが刃に伏した。
『ガ、ァッ……!』
物理的に甲冑を破壊された事で騎士は動きを止めた。
最後まで仲間と戦う事を信念とし散った英霊――。
「……大丈夫か、リノ」
「うん……」
彼もせめて、満足のいく生を、来世で受け継いでくれたなら。
『ハハハ! 楽しい! 楽しいぞ、少年!』
タイガを相手取るルドルフが甲冑の奥に恍惚を宿し剣を振るっていた。
薙ぎ降ろされた刀身を武器の柄で受け止めながら、至近距離に迫った兜へタイガが問うた。
「お前の信念はなんだ……ッ!何の為に戦う!?今の自分を誇れるか!」
親父の受け売りだけど、とタイガは小さく笑う。
間違っている相手を正すのも愛情なのだという言葉が、今なら理解出来る気がした。
『この剣こそが信念であり、誇りだ! 強い相手と合間見え、全力を振るえる今こそが、至高!』
「ッ!」
武具同士が小競り合い硬直した状態からルドルフが動きを変えた。
片手に装着した盾をくるりと回し持ち替えて、刹那身を引き互いの重心が崩れた一瞬に、盾の鋭い尖りをタイガの頭上から振り下ろした。
「タイガ!」
セラフィムが叫ぶ。
存分に相手が戦えるようにと、タイガがスキルを封じて戦っている事を知っていた。
「……っやるじゃねーか」
間一髪で盾の一撃を避けたタイガの額に、掠り傷から一筋の赤が糸を引いた。
数歩身を引き再度間合いを取る。
顔の見えない騎士は、終始笑っているようだった。
『ああ……最高だ。この瞬間が永久に続けばいい。牢獄の様な鏡の中にはもう戻りたくない。お前達は、かなえてくれると言うんだろう!』
再び騎士が駆け出した。
額の傷を拭って武器を構えたタイガに襲い掛かるより前に、騎士の一撃は別のものに防がれた。
「――存分に力をふるいたいって気持ちは理解出来るぜ。ただそれは、弱者に向けちゃ駄目だろ」
手負いの獣の前へ庇い出て、剣で攻撃を弾いたのはセイリューだった。
戦場で戦いを、と望んだ数体を望みどおり討伐した。中にはラキアの声で穏やかに昇華した魂もあった。
シャーマインらが相手取った英霊達も含め、気づけば最早ルドルフ以外に、動ける騎士は残っていなかった。
「どうしてもというなら、俺が相手になる」
真正面からルドルフを見つめ、彼はハイトランスを行使する。
そっと歩み寄ったラキアがスキル『シャイニングスピア』を施し、更に『シャインスパーク』でタイガの怪我を治し、ルドルフの命中低下を狙った。
「サンキュ、ラキア!」
「うん、気をつけてね」
微笑んだラキアにタイガが礼を告げて、セイリューに並びルドルフと対峙した。
『……お前は、俺と本気で戦ってくれるのか?』
盾を構え直し、騎士が問う。
「今までの経験を全て使い本気で戦うぜ。それが戦う礼儀ってものだ」
戦う事は生命のやりとりをすること――だから、手加減はしない。
まなざしひとつで告げて、セイリューはルドルフの想いを真正面から受け取る。
「お前の全て、ぶつけてこい!」
タイガの叫びに、騎士の踵が荒れた地を強く蹴った。
* * *
『……これは、俺たちの家系図の……?』
薄く消えかけた騎士の一人が、セラフィムの持参した資料に目を留めた。
「はい。先程、家族の話を出していたのは貴方だけだったので……せめてお届け出来たら、と」
『そうか……我が一族は、今も血を絶やさず立派に生きているのだな』
騎士は不意に兜を外した。
もう殆ど透けて見えなくなった男性の顔は、幸せそうに、切なげに微笑んでいた。
「……祖先に会えたら、感謝と誇りを、と、彼らは言っていました」
『確かに受け取った。ありがとう。君たちに、会えてよかったよ――』
空へ吸い込まれる様にして魂が昇華されていくのを、セラフィムは最後まで見送った。
傍らで、ほとんど動かなくなった騎士達の『浄化を』という願いを受けて、ラキアはスキル『キュア・テラII』で瘴気を取り払ってやる。
ルドルフは戦いでの消滅を望んだけれど、そうでない者には倒す以外の方法で、この呪縛から解き放たれるようにと、心から願いながら。
『お前たちのおかげで、何かを守る為に戦っていた自分を思い出せた。後の事は、頼む』
「はい。これまで世界の為に頑張ってくれて、ありがとうございました」
また別の英霊を、そう告げて見送ったのはシャーマインだ。
託された言葉を、違う事が決してないようにと、固く胸に誓って。
ラキアが昇華した魂と並ぶように、空に上っていく騎士達を、シャーマインの隣に寄り添ったユズリノも、共に感謝を祈りに込めて見送った。
「今日のこと忘れねえから。お前らが生きた証も、思いも」
「……そうだな。ルドルフは、強い武人だった」
セイリューとタイガが告げた先の甲冑には、もう既に魂の気配は消えうせていた。
全力の二人と戦い、最期はあっけなく散ってしまったけれど、彼は魂の消滅する最後の瞬間まで、戦いに昂揚する心を持ち続け、剣の誇りと共に昇華した。
力を誇示したいと願い続けた騎士の最期は、己よりも強き力と信念を認めた者達によって見送られる、最良の結果であった。
依頼結果:成功
MVP:
名前:セラフィム・ロイス 呼び名:セラ |
名前:火山 タイガ 呼び名:タイガ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 梅都鈴里 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 3 / 3 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 04月21日 |
出発日 | 04月26日 00:00 |
予定納品日 | 05月06日 |
参加者
- セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- ユズリノ(シャーマイン)
会議室
-
2017/04/25-23:59
伝えわすれてた
タイガは対ルドルフで動いてるから、そちらは任せて。ぎりぎりですまない -
2017/04/25-23:53
プランは書けたぜ。
出来る限りの想いを込めて行動はした。
いい結果になるようあとは祈るしか無いな!
人事を尽くして天命を待つ、っていうか?
日程的にも厳しいなか、相談その他あれこれ、お疲れさまでした。
きっと巧くいくと信じてるぜ。 -
2017/04/25-23:39
ごめん。書き込み遅くなった。皆の意図は理解したから、
考えが深くて参考になったよ。まだぎりぎりまで調整してみる。
シャーマインの未練のかぶりの件も大丈夫。人数多いからその人なりの言い方で
良いと思う。
セイリューは確かにね。神人の攻撃力の差あるもんね。盾や魔法も助かるよ
書き込みが次、出来る自信がないから。皆プランお疲れさま。頑張っていこう! -
2017/04/25-21:35
ゴメンよ、返事が遅くなった。
オレとラキアは基本的に盾役だ。
対ルドルフも想定して、オレはハイトランス・ジェミニを持っていく。
向こうが全力で戦うつもりなら、こちらも全力で応じるのが礼儀かなって。
あと手加減できるほどオレは攻撃力強くないので
戦うなら本気出さないと、逆にヤバイ。
腕力勝負じゃない英霊達への対応は、皆に任せた。
ラキアは皆の回復と、戦意を無くした英霊をl10で浄化出来ないか試す。
セラさんの援護射撃はありがたいぜ。
シャーマインさんのアプローチ使用の意図や
タイガさんの高攻撃力を抑制して対応する、も了解だ。
-
2017/04/25-21:06
シャーマイン:
プランは一応提出した。
英霊から伝言を受けようと思う。
大切な人の墓や子孫や現在の王様(アーサー)に伝えたい事、だな。
被せにいったつもりはないがセラフィムさんの未練と被ったらすまん。
英霊は人数がいる訳だし、手分けして、て事で問題はないだろうと思う。
何かあれば調整はできる。 -
2017/04/25-18:56
シャーマイン:
>アプローチ
統率の取れた行動をしているとそれに意識が行くから
崩してやれば会話に応じやすくなるか?という狙いで使おうと考えている。
隊列を組んで来たら崩すというタイミングになると思う。
行動妨害で使う予定はしていないが、問題ないよな?
>戦闘
こちらからは攻撃はせず攻撃を受けつつ語り掛け、を基本でいこうと思う。
「倒すのは最終手段」こちらもそのつもりでいる。
>ルドルフ
個人的にルドルフの対戦はどなたかに任せたいと思っている。
動かなくなった英霊に被害が行かない様守る方に動きたい。
最後まで残るのかな、彼は。
まだ、うまくプランが纏められなくてな…、考えろ俺! -
2017/04/24-23:14
:タイガ
>武器とジョブスキルの装備
やっぱ万が一が怖いから、弱くしてみた。防具は強いままで
「使わない」とは書いておくけどな
「攻撃力195」でスネイクヘッド、ローズガーデン、タイガークロー装備だ
何かあったらいってくれ。また明日くるときにでも対応する -
2017/04/24-22:51
あ。ジョブスキルも装備したままだけど「使わない」とプランにね
・・・・・・・・・・ううん、どうしたものか
(付け替えると後日うっかりしそうで。必要な手間かな)
仮プランは今送ったから、とりあえずは安心だ
>情報収集
英霊の手がかりがないか聞いてみる、をプランに入れてみた。もし掴めれば説得の材料にならないかと -
2017/04/24-22:40
タイガは詳しく言うと「熱くなれよ」じゃないけど手合わせ風で叱咤激励してる感じだ
「今の自分を誇れるか?」「やり残したことぶつけてみろ」的な
ジョブは・・・SSは火力押しだから何もなくて「使わない」つもりだよ。
レベル高いからタイガークローとか初期の技でもどれだけ威力がでるかわからなくて
武器のことも悩んでるけど「手合わせ風」で「倒すのは最終手段」としてるから、
そのままでもいいかな・・・って
セイリューの着眼点すごいね。現実的というか
貴族的視点とか考えてもみなかった。その辺りはこちらは書いてないからお願いしたいな
反対に子孫の方は僕も考えてた。「家系を追ってみるからあなたの事を話して?」や
未練を聞きたいかな
>戦場で剣をふるいたい
うん。タイガも前線で戦うし、とりあえず前は任せて
殺気感知やフォトンサークルも助かるよ。アプローチも個人的にはほしいかな
統率があるのと大人数が相手ということで
僕は援護射撃してる。背後が取られないよう気をつけていきたい
その辺の動きはつめるかい? -
2017/04/24-10:10
ユズリノとRKのシャーマインです。
どうぞよろしくお願いします。
シャーマイン:
失礼する。
俺等も事情や訴えを聞き出して掛けられる言葉があれば掛けたい考えだ。
封印したなら解く方法もあると思うんだが、俺達は倒す以外の方法を知らない…んだよな。
封印を解いた(倒した)として、オーガに半落ちした者は輪廻の輪に戻れるんだろうか。
もし倒すに至った英霊にはユズリノに神人の浄化の力を施して貰おうとは考えている。
来世で人生を全うして欲しいという祈りを込めて。
>戦場で剣をふるいたい
これは破壊衝動系と実力誇示系がいるような気がするな。
前者は討伐に至りそうだが、後者は満足すれば剣を降ろしてくれそうかな。
戦意喪失を見極める為に殺気感知を使おうと思う。
スキルはr5は使う予定だ。
r2は、統率を乱す必要があるなら使う。
今はこんな所だ、よろしく頼む。
(すまん、再投稿した) -
2017/04/24-01:24
セイリュー・グラシアとLBのラキアだ。
依頼が成立したようで安心した。今回もヨロシク。
日程的にも内容的にも色々と厳しいけど
皆で力を合わせて頑張ろうぜ。
オレ達も出来るだけ説得でいきたいと思っているけど。
思い切り剣をふるいたいと考えている相手には、
「負けた方は勝った方の言う事を聞く」
的な理屈が有効ってことが多いんだよな。
鏡の封印から解放されるには「死ぬ」→「魂の離脱」が必要になるかも。
そうなると武力行使は必要になりそう。
なので具体的な説得は
「お前たちが武力を振るおうとしているのは、
その力を持たない、かつてお前達が魔物から守ろうとしていた一般民衆だろ」と
領主・貴族階級の倫理観というか、そんな所を揺さぶれればなぁ…とか考えてる。
家族に遭いたい、な者には
「子孫たちが居るだろう、それを襲うつもりか」と説得できれば…とか。
今考えているのはこのくらいだな。
スキルや装備の編成はこれから考える。
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2017/04/24-00:47
出発は確定したし参加人数は達してないけど先に挨拶しておくね
僕セラフィムと、シンクロサモナーのタイガだよ。どうぞよろしく
久々のアドエピで時間もないことだし気をつけてこう。全体描写だし頑張ろうね
今のところ僕は説得。未練とか話をきいて
タイガは前線で防戦。聞かない人には手合わせみたいにしたいと考えてるよ