湖満堂(革酎 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 春の陽射しが穏やかな午後、メイとリックスのレスター夫妻は深刻な表情で、A.R.O.A.本部を訪れていた。
 ふたりは、タブロス市内のとある商店街内に店舗を構えているレストラン『湖満堂』の、オーナーシェフだった。
 ところがレスター夫妻は、夜な夜な店舗周辺に現れるという巨大なネズミの群れに頭を悩まされているのだという。

「巨大ネズミですか」
 A.R.O.A.本部を訪れたレスター夫妻に対し、応対している受付嬢のナルメディは、カウンター越しに小首を傾げた。
 よくよく話を聞いてみると、その巨大ネズミ共はどうやらデミ・ラットらしい。
 というのも、レスター夫妻は実はウィンクルムで、巨大ネズミがデミ・ラットであるということも、ほとんどひと目で分かったのだ。
 しかしながらレスター夫妻はこれまであまりオーガ討伐任務には就いたことがなく、実力は素人に近しいとの由。
 つまり、夫妻はデミ・ラットの討伐すら出来ない名ばかりのウィンクルムだったのだ。
 自分達の手でデミ・ラットの群れを退治することも叶わず、夫妻はほとほと困り果てていた。
 デミ・ラット共は店舗裏のごみ箱を荒らすだけではなく、近隣の通行人を威嚇して、ひとを遠ざけるということまでしているらしい。
 このままでは湖満堂がデミ・ラットの巣窟になっているという良からぬ噂が立ってしまい、店の経営に壊滅的な打撃を与えることになるだろう。

「デミ・ラットの群れがどこから現れるのかは、分かっていますか?」
「うちの従業員が、店舗近くの下水道口を出入りしているところを見たことがあるそうです」
 であれば、その下水道内を攻めればデミ・ラット討伐は可能であろう。
 しかし先述したように、レスター夫妻の実力ではデミ・ラットの群れを駆逐するなど、到底不可能だ。
 そこで夫妻はA.R.O.A.に協力を仰ごう、と考えたのである。
「それにしてもどうして、お宅の店だけにデミ・ラットが?」
「どうも掃除を担当しているグリーンカレーのビルが、ゴミ捨ての際に餌代わりだと生ごみを与えていたのが、切っ掛けだったようです」
 グリーンカレー担当のビル、略してグリーンカレーのビル。
 ほとんど省略にも何にもなっていないが、とにかく見習いシェフであるグリーンカレーのビルは現在では大いに反省し、デミ・ラット討伐の為なら何でも手伝うとまでいっている。
「分かりました。では上司に報告の上、ウィンクルムを何組か派遣しましょう」
 ナルメディの力強い言葉を受けて、レスター夫妻は大いに胸を撫で下ろした。

 その日の夜。
 湖満堂のウェイトレス兼雑用担当を務める女子高生アルバイターのベネトンが、店舗裏のごみ箱近くで、デミ・ラットの群れと対峙していた。
 変に好奇心と功名心に富んでいるベネトンは、店の包丁を持ち出し、デミ・ラットの群れをゴミ箱置き場周辺から追い払ってやろうと考えていたのだ。
 しかし相手は予想以上に不気味で、しかも群れを成しているから、もう怖いのなんの。
 中でもボスと思しきデミ・ラットは他と比べてもひと際体格が大きく、額には何故か黒いキスマークのような紋様が描かれていた。
 そんなデミ・ラットの群れを前にして、ベネトンの戦意は半分ぐらいは見事に砕け散った模様。
 ベネトンは包丁を握り締め、顔前にかざして身構えながら、泣きそうな顔で叫んだ。

「畜生ッ、てめぇらなんかッ! てめぇらなんか怖かねぇッ! 野郎、ぶっ殺してやらぁぁぁぁッ!」

解説

 シンプルなデミ・ラット討伐任務です。
 アルバイター女子高生のベネトンがデミ・ラットの群れに挑戦しようとしていますが、全く相手にされていませんので、そこまで緊急性は高くありません。

<メイとリックスのレスター夫妻>
 夫婦で湖満堂のオーナーシェフを務める現役ウィンクルムですが、とにかく弱いので、戦力的には余り期待出来そうにもありません。

<グリーンカレーのビル>
 一般人ですが、周辺地理に詳しく、デミ・ラットが唯一敵愾心を持たない見習いシェフです。

<ベネトン>
 湖満堂のウェイトレス兼雑用担当のアルバイター女子高生です。変に野心的です。

ゲームマスターより

 本プロローグをお読み下さり、誠にありがとうございます。
 初心者向けの手軽な討伐任務ですので、お気軽にご参加頂ければ幸いです。
 どうぞ宜しくお願いします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  デミ・ラットに餌を…?
ビルさんて優しいのね 動物が好きな人に悪い人はいないわ
だけどこのままだと 皆が困ってしまうから頑張って退治しないと

現場についたらトランス
ベネトンさんを保護 
危ないです 早くこちらへ
彼女を後ろに庇う
近くのラットの駆除が終われば ベネトンさんはレスター夫妻に
危ないことをしちゃ駄目ですよ
皆が心配します ここで待っていてください、ね?

マグナライトで足元を照らしながら下水道へ
事前に下水道内部について ベンさんや夫妻から聞き取りできれば地図を作って周知
入る時にk2 
戦闘時は灯り確保しながら 敵の動きに注意
攻撃当て回避下げる
ボス分かれば周知を
あの紋様、もしかして…!
神符の拘束やライトの目晦ましでサポート


ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  ディエゴさんが
「ハロルド…これから「狩り」に行く…いっしょに来てくれ」
と、デートだと思ってたのに

地獄に落ちろデミ・ラット!!(怒りのハイトランス)
さっさと片を付けます。
でもディエゴさんのいう通り、先を見据えて戦わないと…プレッシャー…
下水道内の巣の場所は、手負いのラットをわざと逃がすかして追跡できないでしょうか?
それか湖満堂に知っている方はいませんかね?ラットの追跡が不可の場合は詳しい話を聞きたいです。

急に闘志がわいて来ました…
料理は衛生が命、後で精霊と食べる為にも確実に駆逐します
ディエゴさんが撃って、まだ息のあるラットを優先的に狙い撃ち

<討伐後>
プレッシャーを跳ね返す神人と呼んでください!


水田 茉莉花(八月一日 智)
  ほづみさんそのネタわからない人が多いと思います
止めましょう

まずはベネトンさんの保護よね
到着次第トランスであたしが盾で庇いつつ
普通の武器じゃ太刀打ちできない事を言い含めながら後退
戦闘中に余りにも暴れたら、申請しといた結束バンドで手首足首縛らなきゃ
ごめんなさい、でもこれ依頼なんで!

下水道突入時には申請した懐中電灯でしんがりから周囲を警戒するわね
オーガ・ナノーカも警戒するのに使うわね
残党デミラットに遭遇したら、時の砂「輝白砂」を使って足止めし
しっかり退治しなきゃ

ビルさんの動物を可愛がりたいって気持ちは分からなくないけど
それで店長さん達に迷惑かけることになったら本末転倒じゃないですか?


アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
  申請
懐中電灯

最近デミオーガ程度では動じなくなった自分が怖い

慣れって怖いね…

ベネトンさん
その勢いがあれば悪漢に押し入られても大丈夫そうですね…!
でも今回は危ないのでメンタルヘルスで落ち着かせて一旦下がってもらいましょう
それでも付いて来ようとするなら水田さん達に任せます

ビルさん
下水道へ案内が出来るのか
地図とか描けますか等聞いてみる

デミラット達が一カ所に集まったの確認後トランス
ボスラットの姿確認後HTG
戦闘
ビルさんも案内等で一緒にいる場合はビルさんの護衛を主に
呪符で援護
下水道
懐中電灯を点けオーガ・ダソーダで索敵

終了後
レスター夫妻にネズミ対策に猫を飼ったらどうでしょうと提案
招き猫兼看板猫にもなりますし


●ただの案山子ですな

 深夜。
 四組のウィンクルムがレストラン『湖満堂』の裏手にあるゴミ置き場へと、颯爽と駆けつけてきた。
 そこでは湖満堂のウェイトレス兼雑用担当のアルバイター女子高生ベネトンが、今まさにデミ・ラットの群れに勝負を挑もうとしていた――のだが、全く相手にされず、ベネトンひとりが何やら意味不明の雌叫びをあげているばかりであった。
「どうどうどうッ……ベネトンさん、ちょっと落ち着きましょうね」
 水田 茉莉花がまるで凶暴な野生動物をなだめるかのように、包丁を握り締めて威嚇のポーズを取っているベネトンに優しく語りかけた。
 一方で八月一日 智がデミ・ラットの群れに対してスタッカートを叩き込む態勢を取っている。
 が、デミ・ラットの群れは思った以上に素早く、且つ妙に頭が廻るようで、智が攻撃の姿勢を見せるや否や、ぱっと散開して包囲陣を形成する動きを見せたのだ。
 これには智のみならず、茉莉花も思わず目を剥いた。
「勢いに任せて、デミネズミは消毒だぁってやった方が良かったか?」
 渋い表情で茉莉花に振り向いた智だが、茉莉花は茉莉花で、ベネトンを落ち着かせるのに手を焼いていた。
「あのぉー、ベネトンさん。その勢いがあれば暴漢もやっつけちゃいそうな勢いですけど……」
 茉莉花に手を貸す形で、アラノアが横から口を挟んできた。
 正直なところ、対オーガ戦に関しては全くの素人であるベネトンが変に顔を突っ込んでくるのは、ウィンクルム達には迷惑以外の何物でもない。
 何とかしてベネトンには退場願いたいところだが、果たして上手く追い払うことが出来るかどうか。
 だが、そうやってベネトンを落ち着かせようとしているアラノアを、ガルヴァン・ヴァールンガルドが苦笑を浮かべて眺めている。
 何が可笑しいのかと小首を傾げるアラノアに、ガルヴァンは掌を掲げてかぶりを振った。
「いや……お前も最初はデミ・ダック相手に怯えていたな、と……」
「う、良いじゃないですか……慣れって怖いってことですよ」
 神人なりたての当初と比べると、デミ・オーガ程度では怯まなくなった自分に驚きを禁じ得ないアラノアだったが、今はとにかく任務だ、と頭を切り替える。
 茉莉花も智も、そしてアラノアも何とかベネトンを引き下がらせようとするものの、上手くいかない。
 こうなると、デミ・ラットよりも女子高生ベネトンの方が何となく強敵に思えてきた。
 そこへ、他のウィンクルム達も参戦してくる。
「ベネトンさん、危ないですから、早くこちらへ……」
「そんな物騒な物を振り回されては、守りたくても守ってやれんぞ」
 リチェルカーレとシリウスがデミ・ラットの群れとベネトンの間に割り込む形で位置を取ったが、ベネトンはまだ怯えと警戒と変な攻撃心を剥き出しにして、何か訳の分からない台詞を吐いている。
 依然として、退く気配が見えなかった。
 一方、ハロルドはベネトンにはまるで見向きもせず、ただただ怒りの眼差しをデミ・ラットの群れに対して向けていた。
 何故ハロルドがここまで怒っているのかはさておき、少なくともディエゴ・ルナ・クィンテロはベネトンを後退させたいという意図を持っていた。
「なぁベネトン。その包丁は料理に使うものであって、ネズミを殺すには勿体無さ過ぎる代物だぜ」
 ディエゴのこのひと言に、ベネトンが僅かに反応した。
 成程、そういう性格か――ディエゴからヒントを得たガルヴァンが言葉を繋げる。
「その心意気は認めるが、厨房の包丁をネズミ退治に使うな……衛生面に支障が出る」
 ガルヴァンからの諫める言葉に、ベネトンはかなり動揺した様子を見せた。
 もうあとひと押しだ。
 ここでディエゴが再び、口を開く。
「君が引き留めてくれたお陰で、討伐が出来る状況になった……後は、任せてくれ」
 ベネトンの自尊心をくすぐる台詞でディエゴが退場を促すと、ようやくベネトンは納得した様子で包丁の切っ先を下ろした。
 やがて、茉莉花と智がベネトンを裏口から店内へとエスコートしてゆく。
 やっとここから、ウィンクルム達の仕事が始められるという訳だ。
 ディエゴが思わず、大きな溜息を漏らした。
「さて、何から始めましょうか?」
「そうだな……折角ビルが、餌を撒いて集めてくれたんだからな。ひとつ大惨事大戦といくか」
 アラノアの問いかけに、ディエゴが肩を竦めて冗談めかした応えを返した。
 今の彼ら彼女らにとっては、デミ・ラットは群れをなしていたとしても、然程の脅威になるとは思えない。
 いうなれば、ただの案山子といったところだろう。

●彼女を目覚めさせないでくれ、死ぬほど怒ってる

 ベネトンを店内に退避させた茉莉花と智だが、依頼者であるメイとリックスのレスター夫妻にはベネトンをちゃんと見張っておくようにと釘を刺すことも忘れない。
 更に茉莉花は、カウンター席で所在なさげに腰かけているグリーンカレーのビルに対しても、厳しい視線を向けた。
「ビルさん、ちょっと良いですか?」
 茉莉花のただならぬ調子に、ビルは僅かに緊張した様子を見せた。
「動物を可愛がりたいって気持ちは分からなくはないけど、それで店長さん達に迷惑かけることになったら、本末転倒じゃないですか?」
「いや本当に……申し訳ない限りです」
 しかし茉莉花は、それ以上ビルを責めるつもりはなかった。
 今はデミ・ラットの群れを退治することが先決であり、悠長にビルを説教している暇はない。
 と、そこへアラノアとシリウスが少し遅れて店内に入ってきた。
 この辺に詳しいというビルに、デミ・ラットが巣くっていると思われる下水道の地図か見取り図の作成を依頼しに来たのである。
 流石にデミ・ラットが根城にしている場所までは分からないものの、この地区の下水道内に関しては、簡単な地図ぐらいなら作成可能だという。
 実はビルには下水道内で生活している浮浪者の知り合いが多いとのことで、彼自身、下水道内によく足を運んでいるのだという。
 この話には、レスター夫妻が露骨に嫌な顔を見せた。
 レストランのシェフが下水道などという不衛生な場所に頻繁に出入りしているという事実は、衛生面では最も慎重にならなければならない飲食店のオーナーにとっては一番聞きたくない話だったのだ。
 だが、ここでビルの日頃の行動を云々している時間は無い。
 アラノアとシリウスはレスター夫妻の感情を敢えて無視して、ビルに見取り図を描かせた。
 その間、アラノアはちょっとした提案だとばかりに、レスター夫妻に猫を飼ってみてはと進言した。
「だってほら、招き猫兼看板猫にもなりますし」
「いえ……衛生面で問題があるので、それは出来ません」
 確かにそれもそうか、とアラノアは頷いた。
 しかし少し前にガルヴァンがぼやいていたことを、アラノアは思い出していた。
「でも、せめて自衛手段は持っておいた方が良いですよ。折角ウィンクルムなんですから」
「えぇまぁ、その点については仰る通りです」
 流石にレスター夫妻も多少負い目に感じているのか、アラノアのふたつ目の提案には素直に頷くしかなかったようだ。
 それからややあって、ビルが下水道内の見取り図を完成させた。
 アラノアがすぐさま事務所の複写機を借りて人数分のコピーを取り、そのうちの一枚をシリウスに手渡す。
「んじゃあ、行ってくる……ついてくるんじゃねぇぞ、ベネトン」
 出際にもう一度、智が意気消沈した様子のベネトンにとどめとばかりの釘を刺した。
 四人が再度裏口からゴミ置き場に出ると、外に残っていた面々がデミ・ラットをあらかた駆逐していた。
「それにしても、ビルさんって優しいのね。動物好きなひとに悪いひとは居ないわ」
 シリウスと目が合うや、リチェルカーレが恐ろしく呑気な台詞を吐いてシリウスをぎょっとさせた。
 たった今、茉莉花がビルに餌付けの罪を説いたばかりなのだ。
 リチェルカーレを店内に連れて行かなくて良かった、とシリウスは内心で思わず胸を撫で下ろした。
「それは兎も角として、ネズミを下水道方面に逃がしたか?」
「はい……二、三匹、逃がしました」
 シリウスの問いに対し、相変わらずハロルドが妙に怒気を孕んだ声で応じた。
 やけに気合が入っているというか、闘志が内側から噴き上がってくるかの如き勢いでデミ・ラット討伐に臨んでいるハロルドに、シリウスのみならず、他の面々も不思議そうに小首を傾げた。
 が、そのハロルドの傍らで、何故かディエゴが脂汗のような雫を頬や額に浮かべている。
 一体、このふたりの間に何があったのか――他のウィンクルム達は訊いてみたい気もしたが、やめた。
 訊いたら訊いたで、要らぬとばっちりを受けそうな予感がしたからだ。
 触らぬ神に祟り無し。
 実際、ハロルドが逃がそうとするネズミに向けて放ったセリフには、その場に居た誰しもが、背中に冷たいものを感じていた。

「面白いネズミさんですね……気に入りました。殺すのは最後にしてあげます」

●下水道、ウィンクルム、コードレッド、地下二階

 ビルに描いて貰った下水道の見取り図をマグナライトで照らしながら、リチェルカーレはシリウスと共に先頭を歩いた。
 下水道の構造自体は然程に複雑ではないのだが、問題は側溝だ。
 人間では到底通り抜けられないサイズのこの小さな道を、デミ・ラット共は自由自在に通行している。
 その証拠に、小さな足跡が無数に残っており、追跡の難しさを思わせた。
「あ、見つけました……あれが昇降機ですね」
 下水道内には数メートル規模の段差があるらしく、その段差を行き来する為の昇降機が何箇所にか設置されているとのことだった。
 が、動かない。
 スイッチを幾ら押しても、うんともすんともいわないのだ。
「もう、こんな時に……」
 リチェルカーレが途方に暮れていると、ディエゴが操作盤をいきなり殴り始める。
「動けこのポンコツが……動けってんだよッ」
 二度三度殴るうちに、突然駆動音が鳴り出した。
 リチェルカーレが目を丸くする隣で、ディエゴが澄ました顔で小さく頷く。
「こういう場合は矢張り、この手に限るな」
 元軍人にあるまじき適当な意見だが、案外、ディエゴにはそういう一面があるのかも知れない。
 ともあれ、無事に二階層構造の下段に辿り着いた一同は、足跡の先に続く下水道の最深部に視線を向けた。
「少し偵察といきましょう」
 いいながら、アラノアがオーガ・ダソーダを取り出した。
 すると茉莉花も同じようにオーガ・ナノーカを手に取り、アラノアと並んで下水道の濁った流れにそっと乗せた。
 既に四組ともトランス状態に入っているが、ここで茉莉花とリチェルカーレが更にコンフェイト・ドライブを発動し、万全の態勢を敷く。
 相手はたかだかデミ・ラットとはいえ、集団で襲いかかってこられると、何が起こるか分からない。
「居た……結構な数が居るみたい」
 オーガ・ナノーカから送信されてきた映像をA.R.O.A.支給のタブレットで確認した茉莉花が、眉間に皺を寄せた。
 ざっと数えただけでも、五十匹近くは居るだろうか。
「よし……まずは俺と智で接近戦に持ち込む。ディエゴは狙撃でカバー、最後のとどめはガルヴァンのコスモ・ノバで、というのはどうだ?」
 シリウスが簡単に立てた作戦に、誰も異論は無い。
 もともと智はオスティナートの手数で押し切るつもりだったし、ディエゴも跳弾による自己被害という可能性がある為、無駄弾を撃ちたくないという思いがあった。
「ボスは……多分、あいつだな」
 タブレットの映像の中に、ひと際体格の大きなデミ・ラットの姿が見える。
 その大柄なボスの周囲には複数のデミ・ラットがガードするかの如く、簡素ながらも陣形を組んでいるように感じられた。
「よし、行くぞ……智は手前の群れを頼む。俺は、奥に居るあのでかい奴を狙おう」
「あいよ。デミ・ネズミ共を消毒といこうぜ」
 シリウスに相槌を返す智だったが、傍らで茉莉花が内心、溜息を漏らした。
(ほづみさん、そのネタ、分からないひとが多いと思います……)
 しかし、口に出してはいわない。
 今の智は良い緊張感の中で、ノリにノっている。ここで余計なひと言を入れて、その勢いを削ぐ訳にはいかなかった。
 ともあれ、ウィンクルム達によるデミ・ラット掃討戦が始まった。
 やっぱり来たな、流石だぜウィンクルム――とデミ・ラット達が思ったかどうかは定かではないが。

●来いよデミ・ラット、餌なんか捨ててかかって来いッ!

「地獄に墜ちろ、デミ・ラット!」
 いつになく闘志満々のハロルドが、珍しく荒っぽい口調でデミ・ラット討伐戦の先陣を切った。
 慌ててシリウスと智も突撃を敢行し、デミ・ラットの巣は一気にネズミ達の甲高い鳴き声がこだまする阿鼻叫喚の地獄と化した。
 作戦通り、智が手数を駆使してデミ・ラットを次々と薙ぎ倒してゆく。
 前面の主力として活躍する智をサポートする形で、茉莉花も輝白砂を駆使して効果的にデミ・ラット共を追い込んでいった。
 その一方で、シリウスは早い段階から目を付けていたボスと思しき大柄なデミ・ラットに、じりじりと接近してゆく。
 しかしあからさまに猛然と突っ込んでは逃げられる可能性があった為、他のデミ・ラットを討伐して戦局を混乱させながら、少しずつ距離を詰めてゆく。
 死角を取るという訳にはいかなかったが、意識的に戦局をばらつかせることで、ボスの注意を発散させることに成功していた。
 ディエゴの狙撃も、シリウスがボスへ接近するのを巧妙にサポートしてくれている。
 弾道がボスの逃走ルートを上手く潰してくれており、更にハロルドによる援護射撃もシリウスに幸いした。
 だが、中には恐ろしく獰猛なデミ・ラットも少なからず居る。
 智が討ち漏らした一匹が、猛然とハロルド目がけて突進していった。
 その個体に、ハロルドは見覚えがあった。
「プレッシャーを跳ね返す神人と呼んで頂きたい、というところですが、それよりも……」
 尚も突進してくるデミ・ラットに、ハロルドは冷たくいい放った。
「あなたは最後に殺す、といいましたね……あれは嘘です」
 直後、ハロルドが放った銃弾は突撃してくるデミ・ラットの眉間を撃ち抜き、一撃で息の根を止めた。
 今日はいつにも増して、ハロルドの凄みが大変なことになっている。
 ディエゴは戦闘中であるにも関わらず、思わず首を竦めた。
「それにしても、大した数だ。鼠算の恐ろしさ、ここに極まれりといったところか」
 呟きながら、ガルヴァンがコスモ・ノバ発動の態勢に入った。
 智、ハロルド、ディエゴの三者による遠近織り交ぜた攻撃で、残るデミ・ラットはおおよそ一箇所に固まりつつあったのだ。
 そこへ、最後の高出力による一撃を叩き込んで一網打尽に仕留めてしまおうという訳だ。
「よし、大体こんなもんか……少し退がるぜ」
 ある程度の目処が立ったところで、智はガルヴァンの突進経路を確保する為にデミ・ラットの群れから距離を取った。
 ガルヴァンはその智と入れ替わる形で、残りのデミ・ラット共の中央へと突撃する。
 ここで、一気にエネルギーを解放した。
 一方、シリウスもボスとの戦闘に突入していた。
 ボスとはいえ、所詮はデミ・ラット。
 シリウスが手を焼く相手ではなかったが、しかし少しばかり気になることがあった。
 その、額に浮かぶ黒い紋様だ。
「こいつは、まさか」
 襲いかかってくるボスにカウンターの一撃を叩き込み、ほとんど瞬殺に近い形で討ち取った。
 タイミング的には、ガルヴァンが残りのデミ・ラットを全て始末するのとほぼ同時だった。

 討伐は完了した。
 一匹残らず、デミ・ラットは全て始末した。
 ここ最近は強敵との戦闘が続いていたが、たまには今回のような簡単な任務で完勝の味に酔いしれるのも、悪くはない。
 だがリチェルカーレとシリウスだけは、違った。
 ふたりは倒したボスの額に、じっと視線を固定していた。
「ねぇ、シリウス……あの紋様って、もしかして……ッ!」
 リチェルカーレに小さく袖を引かれ、シリウスは渋い表情のまま僅かに頷き返す。
「あぁ。また、あいつだな……デーモンリップス」

 リチェルカーレとシリウスが深刻な表情でボスの屍骸を見つめている一方、アラノアと茉莉花はディエゴにそっと小声で訊いた。
「で、結局ハロルドさんは何で機嫌が悪かったんですか?」
「いや、実は」
 ディエゴ曰く、これから狩りに出かけるから一緒に来てくれ、とハロルドに頼んだところ、どうやらハロルドはデートのお誘いだと勘違いしたらしい。
 それが実際に来てみればウィンクルムとしての任務だと知らされ、随分とご立腹だったのだという。
 だが、アラノアも茉莉花も、ハロルドの気持ちが何となく分かった。
「そりゃまぁ……」
「怒っても仕方ないですかねぇ」

●奴らが居れば死体は増える

 その数時間後。

 デミ・ラットの屍骸の山を前にして、黒衣の長身が下水道内で小さな溜息を漏らしていた。
「またかよ。最近はウィンクルムの皆様方も随分、お忙しいこったなぁ」
「旦那、どうするんです? 俺が牙の群賊を引き継いだのは良いとして、ガドの兄貴がそろそろ、ブチ切れ寸前っすよ」
 黒衣の傍らで、狙撃用ライフルを担いだ若者が小さく肩を竦めた。
 対する黒衣の長身も、仕方なさそうにかぶりを振りながら頭を掻く。
「しゃあねぇな。ガドにはGOを出す。お前さんらも手伝ってやってくれ」
「そうこなくっちゃあな。まぁ旦那に命令されずとも、ウィンクルム共相手なら、喜んで殺しに行くぜ」



依頼結果:成功
MVP
名前:リチェルカーレ
呼び名:リチェ
  名前:シリウス
呼び名:シリウス

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 革酎
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 少し
リリース日 04月18日
出発日 04月25日 00:00
予定納品日 05月05日

参加者

会議室

  • [16]ハロルド

    2017/04/24-23:41 

  • [15]水田 茉莉花

    2017/04/24-23:27 

  • [14]リチェルカーレ

    2017/04/24-20:56 

    シリウスが記憶スキル5なので、ベンさんが下水道内部のことを知っていれば構造教えてもらう、としました。
    アラノアさんが言うように、できるだけ行き止まりに追い詰めるとか囲うとかしてしまいたいですね。
    サバイバルもいいと思います。

    それにしても、ボス・ラットの額の模様…。デーモンリップスが関連しているのかしら?

  • [13]アラノア

    2017/04/24-20:36 

    遅れましたが満員御礼ですね。
    よろしくお願いします。

    ベネトンさんについてはメンタルヘルスで落ち着かせて一旦下がってもらうとしてみました。
    無理なら水田さん達に任せます。

    デミラットに関しては下水道内で逃げられても行き止まりに追い詰めて袋のネズミとか…できたらいいですね。

  • [12]水田 茉莉花

    2017/04/24-13:08 

    とりあえずおれ達の行動表明しとくぜ。
    おれとみずたまりはベネトンを店長夫婦に渡せるように取っ捕まえる。
    結束バンド申請して、手首ふん縛って引き渡すことにするぜ。

    あと、おれ達も懐中電灯申請して、下水道探検の時には一番後で警戒することにすんぜー。
    あとさ、おれのサバイバル知識って、レベル1だけど何かの役に立つかなー?

  • [11]リチェルカーレ

    2017/04/24-00:06 

    茉莉花さん、智さん、よろしくお願いします。

    ビルさん、下水道の中も入ったことあるのでしょうか?
    だったら道案内…が無理なら、簡単な地図とかお願いできないかな。
    暗いと思うし、なるべく迷わないようにしたいですよね。
    ライトは持っていくつもりです。

    ベネトンさん、確かにきたいというかもですね。
    でも危ないし…お店のオーナーさんにお願いしちゃうとか、何か考えとかないと気づいたら後ろに、とかありそうですね。

  • [10]ハロルド

    2017/04/23-23:51 

    よろしく

    ベネトンについては説得しようかと思っていた
    包丁は料理に使うもんだ、と
    だがそれで収まりそうにもないという不安はあるから
    安全の為にも店主に任せておくのもいいと思う

    巣については、ラットに任せるにしてもビルに任せるにしても
    不確実なところはあるから、頼れるならどちらも使ってしまったほうが良いんじゃあないかという考えだった。

  • [9]水田 茉莉花

    2017/04/23-23:45 

    どもー、滑り込み参加の八月一日とみずたまり、じゃねぇ、水田のペアです。
    これっておれ達も「ヒャッハー」って言って殴り込む必要あんの?

    作戦の概要了解っと。
    んでデミネズミの巣を確認するのにネズミを追いかけるのと
    えっと名前忘れた、カレーの奴に道案内させんのと両方使うってことなのか?

    それと、ネズミと戦ってるおねーさんは、下手するとついてくるかもしんねぇから
    ふん縛って店の旦那に任せちまうのもアリなんじゃないかと思うんだよな。
    おれが確認してーのはその2つかな?

  • [8]ハロルド

    2017/04/23-22:18 

    よろしく

    解説にあるビルの説明に態々「周辺地理に詳しい」とあるのは、こいつを使えって事なんだろうか
    ラットの誘導も良いかもしれないが、ビルを頼るのも考えるか?
    敵愾心を持たれていないっていうのは…こいつあ餌を与えていると覚えられてるからなのか。

  • [7]リチェルカーレ

    2017/04/23-11:44 

    飛び込み失礼します。
    リチェルカーレです。パートナーはTDのシリウスです。わたしたちも参加させてください。

    ここまでの流れ、読みました。
    野生動物に安易に餌をあげたら駄目ですよ…気持ちはわかりますけれど。
    ネズミさんはともかく、わたしもスズメとかだとあげたい気持ちになりますけれど。
    敵の数がわからないので、確かに巣?の場所までいかないとダメな感じもしますね。
    ベネトンさん保護して、近くにいるのをやっつけて、逃げるラットを追いかけて下水道へという感じでしょうか?

  • [6]アラノア

    2017/04/22-12:18 

    >ベネトンさんについて
    解説を読むと、交戦状態というより、群れの手前で必死に威嚇してるけど無視されてるような感じがしました。適当にあしらわれてる可能性もありますが。

    確かに数が確定していないので根絶を目指すならやはり下水道内に入るしかないんですね…(嫌そう)
    では表ではビルさんに出来るだけ集めてもらって討伐、一匹だけあえて逃がしそれを追って残党がいるだろう下水道内へ、という流れになるのでしょうか?

    まあ人と時間が来るまでまったり練りましょう

  • [5]ハロルド

    2017/04/22-08:12 

    アラノアの作戦はこれからデミラットをおびき寄せ討伐しようというシチュエーションなら俺も賛成したいんだが…
    プロローグを読むと既にラットとベネトンは交戦状態にあってそこからスタートしているように思える、間違いだったらすまん
    今回は生ごみ漁っているラット討伐+下水道にいる残党狩りを目標にしているのでは?

    下水道内のラットも根絶するならラットは一匹だけあえて逃がして根城までの道案内をさせたいな、うまくそこへ逃げてくれればいいが。

  • [4]アラノア

    2017/04/21-22:32 

    グリーンカレーの人のせい?で大参事ネズミ大戦ですね…
    ベネトンさんの勢いも凄いです

    一応、作戦初期案を提示しときますね
    まず巻き込んじゃいけないのでベネトンさんを一旦引かせて、ビルさんにいつものように餌(生ごみ)を持って行かせてネズミ達を出来るだけ一カ所に纏めてもらいましょう。
    ボスネズミ含め餌に意識が行っているところを囲んで叩く…といった感じでしょうか。

    …正直、ガルヴァンさんがs7発動してネズミの群れの中でただのカカシしてたらカウンターで勝手に倒れてくれそうな気がしなくもないですが、これだと動きが無さ過ぎなので実際にはもうちょっとアクティブにいきたいです。ボスは流石にしぶといでしょうし

  • [3]ハロルド

    2017/04/21-21:13 

    大惨事大戦だ

  • [2]アラノア

    2017/04/21-21:06 

    ―――何が始まるというんです?

    …というのは置いといて、アラノアとSSのガルヴァンさんです。
    よろしくお願いします。

  • [1]ハロルド

    2017/04/21-18:26 

    元グリーンベレー(医官)の俺に勝てるもんか
    ディエゴ・ルナ・クィンテロと神人のハロルドだ、宜しく頼む


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