花見大福(森静流 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 首都タブロスから高速バスで一時間半。
 サンレットという町がある。
 名前こそ片仮名だが、蔵や屋敷を囲む白壁の塀が続く、和風の情緒豊かな町だ。
 今の季節は繚乱と花開く桜が見事なのだが、電車も鈍行しか走っていず、首都からは高速バスしかないという立地条件のため、いわば花見の穴場となっている。

 あなたは精霊とともに、たまの休暇を利用して、このサンレットへ花見に来ている。

 桜はこの古い和風の町のそこかしこに花開き、夢のように美しい薄桃の花霞を見せている。はらはらとこぼれ落ちる花弁や、重たく花を乗せた枝が蔵の白壁とマッチしている様子は異国に入り込んだようだ。

 サンレットの中心にはヴィルブレという細い川が流れており、その川には紅桜橋という赤い橋がかかっている。
 それもまた和風建築の木製で、朱塗りの欄干がシンボルになっていた。
 その周辺にも、川縁全体に桜並木が続いており、和風の朱塗りの橋に桜並木の美しさ、川を流れ行く花筏は一度見て置きたいものである。

「なあ、この紅桜橋で桜を見ながら願い事をすると、叶うんだってよ。口に出して言わなきゃいけないんだって」
「へえ、お前、どんな願い事があんの?」
「それはっ……言えないけど」
 あなたは自分から話しかけたのに、精霊から目をそらしてしまった。鈍感な精霊は不思議そうにしている。
 あなたと精霊は、一進一退を繰り返す関係で、あなたとしては、精霊とちゃんとした恋人になりたいところなのだが。
「願い事してけば?」
 精霊は平然とそんなことを言っている。
「バカ、言えるかよ」
 あなたはつっけんどんにそう答えた。

 次にあなたたちはサンレット城跡の城址公園に訪れた。
 城跡には大きな石碑があり、それを取り囲むように美しい噴水が吹き上げている。
 桜が咲き乱れる他は、常緑樹の緑に恵まれており、非常に静かな公園であった。
 石畳の続く舗道が城を取り囲む森に続いている。
 森は森林浴に適しており、石畳の順路に沿っていけば迷う事もないらしい。鳥の声が以外は何も聞こえないような爽やかで静かな城の森だ。

「屋台とかあると思ったんだけどな……」
 城址公園の桜並木の下を歩きながら、あなたはそう思った。
 桜はソメイヨシノで、午後の日射しを受けて清楚ながらも華やかに咲き誇っている。花見客は地元の人間がちらほら見られるだけで、大勢詰めかけているというような事はない。平日の午後だからだろうか。
 城址公園で静かな花見を楽しみながら、何しろ暖かくなってきていたので、あなたと精霊は喉が渇いてきた。屋台があれば、何か飲み物を頼めるのにと思いながら、公園の奥に行くと、茶屋が一つ見つかった。

「ごめんください……」
 すると中から頭に手ぬぐいを巻いたおばあさんが出て来た。
「いらっしゃい、こちらはフルーツ大福の茶屋だよ」
 みるとガラスケースの中に色とりどりの大福が沢山詰められている。
「このフルーツ大福にほうじ茶か煎茶をつけたセットがおすすめだよ。お茶は熱いの、冷たいの、あるよ」
「へえ~」
 フルーツ大福はたくさんありましたが、二種類に分けられるようです。
 一種類は小ぶりのもので、キウイ、梨、マンゴー、みかん、ぶどう、白桃、柿、ラ・フランス、メロン、すいか、モンブラン、パイナップルが一口大に刻まれたものが大福の中にあんことともに詰められているらしい。
 もう一種類は、小ぶりのものより一回りも大きく、色は白、ショコラ、ピンクの三色のみであった。
「こっちの大きいのの中には、苺とバナナと栗が入っているんだよ。それに……ちょっと秘密の効果があるんだよ」
「えっ? どんな効果があるんですか?」
 精霊がびっくりしてそう聞いた。
 そのとき、おばあさんはふとあなたの顔を見て、何やら悟ったような表情になった。
「そうだねえ、それは食べてからのお楽しみだね……。どうだね、買うかい? 今なら特別に安くしておくよ」
 おばあさんは200Jrも負けてくれると言った。
 普段なら大きな大福のセットは500Jrなのだが、300Jrでいいというのです。ちなみに、小ぶりの大福の方は300Jrからかわらない。

 それで、あなたは、白の大きな大福セット、精霊はショコラの大きな大福セットを買った。
 涼しい古民家風の茶屋の中で、あなたたちは大福セットを食べた。
 フルーツ大福は上品ながらもしっかりと甘い味であなたは満足だった。
「うまいな」
 精霊も上機嫌で食べていた。それから冷えたお茶を飲んで落ち着くと、あなたたちは、森林浴をしようと石畳の舗道を歩いて行った。

 鳥の声しか聞こえない、静かで爽やかな森の中。
 森の中にもちらほらと山桜が咲いていて、とても情緒豊かな美しい光景だ。

「なあ、俺ッ……」
 不意に、あなたには衝動が沸き起こって来た。
 自分でも制御出来そうにない強い衝動。

(精霊に、ぶちまけたい。今までの想い、今考えている事……全部ぶちまけて、はっきり言いたい。俺とつきあってって……)

 しかし突然、そんなことを言える訳がなく、あなたは言いかけてはそわそわと目をそらし、必死に衝動を抑えていた。

「あの、さ」
 突如、そこで精霊が言った。
「え?」
「キスしていい?」
「はあッ!?」
 あなたはびっくりして後ろに飛び退いた。

「あの、俺――、今、お前に滅茶苦茶キスしたくて仕方ないんだけど」
「いや、何、何!? 何言っちゃってるんだお前ッ」
「ダメ?」
「ダメ? ダメって、あれ? あの、なんでそうなるの? ダメっていうかさ……」

 元々、精霊とはっきりした関係になりたいあなたは頭が大混乱。
「やっぱ、ダメだよな……でも」
 精霊は熱っぽい目であなたに迫ってくる。
 あなたは後ずさりをしながら考える。

(お、俺、ここで言えばいいのか? 言うべきなのか? 誰もいないしっ……でも、何で? 何で精霊は突然こんなことを言うんだ!?)

 そういえば、おばあさんが秘密の効果があると言っていたか。もしかして、これか――? あなたは激しく狼狽えつつも、そんなことを考えていた。

解説

 花見の穴場の町のサンレットでのエピソードになります。

※サンレットは蔵や屋敷の白壁や石畳の舗道、朱塗りの欄干の紅桜橋、花筏のヴィルブレ川と、和風情緒たっぷりの町になっています。そこを自由に観光してください。

※サンレットまでの移動費に300Jrかかります。

※紅桜橋の上で桜を見ながら願い事を口に出すと、叶うらしいという伝承があります。特に恋愛に関係することは橋の神様が叶えてくれると言われています。

※城址公園は桜並木の花見と森の森林浴が出来る公園です。見事な桜並木がありますが、非常に静かで人もまばらです。森林浴コースには人の気配がありません。

※公園の茶屋で不思議なフルーツ大福を買う事が出来ます。また、普通の大福を買う事も出来ます。
※普通の大福セット。
キウイ、梨、マンゴー、みかん、ぶどう、白桃、柿、ラ・フランス、メロン、すいか、モンブラン、パイナップルの中からどれか一個。
これに、ほうじ茶か煎茶(ICEかHOT)で300Jr。

※不思議な大福セット。現在300Jr。
中身は苺とバナナと栗とあんこ。一つの生地の中に三つの味が入っています。
ホワイト……自分の恋愛感情を相手にぶつけたくなります。主に言葉で。
ショコラ……一緒にいる相手にキスしたくて仕方なくなります。(好意前提、嫌いな相手などにはそうなりません)
ピンク……好きな相手を抱き締めたくなります。また、愛の囁きもしたくなる模様です。

※大福セットは茶屋で食べてください。

※紅桜橋と城址公園は、PM17:00~22:00までライトアップされます。茶屋は21:00まで営業しています。人が混雑することはないようです。

ゲームマスターより

不思議な大福はいかがでしょう。
普通の大福もおいしいですよ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セラフィム・ロイス(火山 タイガ)

  桜きれい・・・古風な町並みも城跡も趣があるね
城主気取り?(笑

いいよ?お弁当は家でも食べれるし
いいのに(照
僕も少食だし…二人で一つにしようか
煎茶二つで

美味しい
・・・タイガのお母さんの事わかった気がする。優しいほっとする人なんだね


◆森林浴
今日はありがとう。今年はお花見できないかな、って思ってたんだ
よく見つけたね?

頑張ってるのはタイガだ
(あれ?止まらない)

一生に一度の恋だって今すぐにだって結婚したいと思ってる
突然で強引で驚いてばかりだけど、タイガといると毎日が輝いていて
僕はこんなに幸せでいいか、なんて思う

ん…甘いね

それでもタイガが好きだよ
(どんな僕も受け止めてくれた。僕だってタイガを受け止めたいんだ


歩隆 翠雨(王生 那音)
  桜だー!撮るぞー!
カメラで思う存分撮影
紅桜橋から臨む景色が特に気に入った
願い事が叶うっていうのも浪漫あるな
那音は願い事しないのか?
俺はもう桜を撮るっていう願いは叶ってるしなぁ

よっし、公園でちょっと休憩するか
おお、森林浴…こういう静かな景色もいいねぇ…
ついつい手が動くんだよな
(那音の機嫌が悪くなる前に甘いもので和ませるか)
ちょっと待ってろ

秘密の効果ってのが気になったから、不思議な大福セット(ショコラ)を二個購入
ささ、食べようぜ

んー?普通に美味しいけど、特に何か効果は感じないな

じーっと那音の顔を見てると…

やっぱり王子様みたいだよな、お前
男の俺でもキスしたくなるというか…

!?
理解が追い付いたら真っ赤


●歩隆 翠雨(王生 那音)編

 今日、歩隆 翠雨は、精霊の王生 那音と、城下町サンレットに花見に来ています。
 蔵や屋敷を囲む白壁の塀が続く情緒たっぷりの町には、今を盛りと桜の花が咲き誇り、町の真ん中を流れる川には見事な花筏が出来ています。
「桜だー! 撮るぞー!」
 そんな町に来た訳ですから、翠雨はさっそくカメラを取り出し、思う存分写真撮影を始めました。
 満開の桜をカシャ。桜と白壁をカシャ。花筏と花枝をカシャ。
 大喜びで撮りまくっています。
(誘っておいて、自分は撮影に夢中。……まあ、予測はしていたが……本当にこの人は)
 そんな翠雨のツレである那音は、半ば以上、ほったらかしにされて、こっそりため息をついています。
 サンレットの情報を手に入れた翠雨の方から那音を誘ってやや強引に鈍行を乗り継いでこの町に来たのですが……。翠雨は、那音よりも美しい桜しか眼中にないようですね。
(嫌ではないと思っている俺はきっとどうかしている)
 夢中になって桜を撮りまくっている翠雨を見ながら、那音はそう思います。
 確かに嫌ではないのです。けれど、胸の奥が微かにツンと痛むのでした。それでため息が出るのです。
 那音はその痛みがなんなのか、うまく自覚する事が出来ません。それは寂しさに似た感情なのですが、那音はここで自分が寂しいと感じる理由がないと思うので、その感情が分からない事にしました。
 ……翠雨が、もっと那音を見てあげればよかったのですけどね。

 翠雨は特に、紅桜橋から挑む景色が気に入ったようでした。
 立て看板に出ている「願い事がかなう」という伝説も読んで喜んでいます。
「願い事が叶うっていうのも浪漫あるな。那音は願い事しないのか?」
「生憎と願いは自分の力で叶える主義なんだ」
 やっと構ってもらえた那音でしたが、そのときは既に拗ねてしまっていたのか、憮然としてそう答えました。
「そういう翠雨さんは?」
 翠雨の事が気になるのか、それともちょっと困らせたい嫌みなのか、那音はそう聞き返しました。
「俺はもう桜を撮るっていう願いは叶っているしなぁ」
 しかし翠雨は平然として、カメラを構えて川と桜並木の良い角度を探しながらそう答えました。
 彼は美しい見事な桜が見られて、さらにそれを写真にたっぷり撮る事が出来て、とってもゴキゲンの様子です。
「欲がないというか……」
 那音はそう言いかけて、口をつぐみました。
(ああ、一つ願いたい事はあった。翠雨さんの失った記憶が知りたいという……口に出せる筈もないが)
 那音は朱塗りの欄干の上で桜吹雪を受けている翠雨の笑顔を見つめながら、その言葉を噛み殺したのでした。
 翠雨は失った記憶に関しては無頓着です。
 忘れてしまった事ならば、きっと思い出さない方がいいだろうと、何の執着も示しません。
 那音はかつて翠雨に会った事があります。だからなのか、彼の方が翠雨の過去を気にしているのです。
 知りたいけれど、それを翠雨の前で、口にすることは出来ませんでした。

「よっし、公園でちょっと休憩するか」
 好きなだけ橋の上から花筏や川と桜並木の風景写真を撮りまくった翠雨は、自分からそう言い出しました。
 二人は城址公園の方へと移動しました。
 そこには美しい緑の静かな森林浴コースがあります。
「おお、森林浴……こういう静かな景色もいいねぇ……ついつい手が動くんだよな」
 そう言って、翠雨はまた、早速カメラを取り出すのです。
「翠雨さん、結局写真を撮っていては休憩にはならないんじゃないか?」
 そこで那音は呆れてしまってそう言いました。
 もしかしてまたほったらかしなんでしょうか。
「う」
 翠雨の方も、自分がちょっと強引に那音を誘った自覚はあります。桜撮ってるばかりなら、誘わなきゃいいのに……。でも、誘ったということは美しい風景を那音とこそ見たかったんでしょうね。
(那音の機嫌が悪くなる前に甘いもので和ませるか)
 何はともあれ、対処しなければと翠雨は考えました。
「ちょっと待ってろ」
 翠雨は近くの茶屋に向かって行って甘いものを買う事にしました。
 そこで、秘密の効果というものが気になったので、不思議な大福セット(ショコラ)を二個購入してきます。
「ささ、食べようぜ」
 そう言って満面の笑みを見せる翠雨でしたが、那音の方は微妙な反応。
(甘い物で機嫌取り……俺を子供か何かと勘違いしてないか?)
 ちょっと嫌そうな顔をする那音でしたが、それでも大福の方には手を伸ばしました。
「有難く頂こう」
 そういう訳で二人は公園のベンチに座って大福とお茶で休憩することにしました。
 翠雨は早速、大福をぱくつきます。
「んー? 普通に美味しいけど、特に何か効果は感じないな」
 普通に美味しい大福。
 那音もそう思って食べてしまいました。
 するとだんだん……。
 那音は何故か翠雨にキスしたくて仕方なくなります。
「効果ってなんだ?」
 翠雨の言葉が気になって、那音は問い直します。
 もしかして、このキスしたい気持ちに関係あるのでしょうか。
「なんだか、秘密の効果があるって茶屋のおばあちゃんが言ってた」
「……秘密の効果? どうしてそれを先に言わない」
 衝動を必死に押さえて苛立ちながら那音はそう言います。
「だって……」
 翠雨の方も言い訳に困っている様子です。
 衝動と苛立ちを押さえて焦った表情の那音の顔をじっと見ています。
 普段、クールな那音のそんな表情は滅多に見る事が出来ないでしょう。
 見つめられて、那音も、心音が高まり、息が切れてしまいます。
「やっぱり王子様みたいだよな、お前。男の俺でもキスしたくなるというか……」
 そこで、那音の顔をじっと見つめながら翠雨はそう言いました。
 その途端に、那音は翠雨の事を強く抱き寄せ、思い切り口づけました。
 最初のキスは一瞬でしたが、唇が触れ合った事を確かめると、違う角度から確かめるように深く唇を合わせ、強く吸い上げました。
 翠雨は何が起こったのか分からず、目を大きく見開いています。
「!?」
 やがて、理解が追いついてくると、翠雨はたちまち顔が真っ赤になってしまいました。
 顔どころか――耳まで。
「な、なっ……な、何、お前」
 唇が離れると、翠雨は震える声で那音を問い詰めようとします。
 けれど、自分もキスしたいと言ったのだし、キスしたかったのは本当だし……。
 那音は目元をそっと押さえ、彼の方も顔を赤くしているようでした。
 自分が衝動を抑えきれなかった事や、支離滅裂な行動が理解不能な事や……そういう、自身への不甲斐なさの苛立ちがあります。
(だが、嫌ではない。――嫌ではないんだ)
 大福の不思議な効果、などとは関係なしに、那音は翠雨とキスをする事が、全然嫌ではなかったのでした。
 むしろ、ずっとしたかったのかもしれないし、そういう目で翠雨を見て来た事に、いくらかの自覚が出て来たようです。
「いきなりなんなんだよ……」
 翠雨は珍しく気弱そうな声を出しました。そうして唇を自分の指で押さえています。飄々とした彼がそんな仕草を見せるのは珍しいので、那音は心臓が思い切り大きく鳴って、取り乱しそうになりました。
「大福の不思議な効果だろう。効力を確かめもせず買うからだ……これからは気をつけるといい」
 那音は気まずさを隠せない口調でそう言いました。
「不思議な効果――それか」
 翠雨は驚いたようでした。那音は翠雨の表情に探る視線を投げました。翠雨が突然のキスの事をどう思っているのか、知りたかったのです。翠雨はまた唇を指で押さえて、何か考え込んでいるようでした。
(何を考えているか知りたい……)
 那音は滅多にないコントロール出来ない自分を抱えながら、そういう欲望を抱きました。何者にも囚われない翠雨の心の動きを、理解出来るただ一人になりたいと望んだのです。

●セラフィム・ロイス(火山 タイガ)編

 今日、セラフィム・ロイスは精霊の火山 タイガと城下町サンレットにお花見に来ています。
「桜綺麗……古風な町並みも城跡も趣があるね」
 セラフィムは春の日射しに照らされた満開の桜の溢れる町に対して嬉しそうにそう呟きました。
(桜の下のセラが一番綺麗だろ)
 そんな彼を見守りながら、タイガはナチュラルにそう思っているようです。
「昔もこうして花見をしてたんだと思うと得した気分だ!」
 歴史ある城下町を歩きながらタイガはそう言い切りました。
「城主気取り?」
 セラフィムは笑っています。
「えっへん」
 タイガは胸を張っています。

 しばらく町並みを歩いて白壁と桜の情緒を楽しみ、やがて二人は城址公園にやってきました。
 和風の風景を楽しんでいた二人は、昔ながらの茶屋を見つけて近づいて行きます。
「茶屋か。全種くいてーけど……弁当」
 たくさんのフルーツ大福を見て、タイガは残念そうにそう呟きました。
「いいよ? お弁当は家でも食べれるし」
 自分も興味があったのか、セラフィムがそう言いました。
「駄目だ! セラが丹精込めて作った弁当は青空の下で食うって決めてる!」
「いいのに」
 照れてしまうセラフィム。
「僕も少食だし……二人で一つにしようか」
 セラフィムがそういうと、ペアではんぶんこ出来ると思ってタイガはすぐに動きました。
「ホワイトで! お茶は……セラは?」
 タイガは即座に茶屋のおばあさんにホワイト大福を頼むと、セラフィムを振り返ります。
「煎茶二つで」
 こういうことは慣れているのか、セラフィムはごく普通におばあさんに煎茶を頼みました。

 二人は公園のベンチに座ると、仲良く大福をはんぶんこにして二人で食べる事にしました。  
「うめえ! 果物と餡子が絶妙」
「美味しい」
 自然で上品な甘みを堪能して、二人とも顔を綻ばせています。
「……タイガのお母さんの事わかった気がする。優しいほっとする人なんだね」
「ああ『大福みてーな笑顔』か。ホワイト選んだのもイメージに近いのがこれでさ。俺も思い出してた」
 タイガは本当に美味しそうに大福を噛みしめながら、いい笑顔で母親の事を語ります。
 土砂災害で亡くなった母の事を、タイガは今でも変わらず真っ直ぐに愛しているのです。その姿にセラフィムは愛情を覚えつつ、鼻の奥がツンとなるのをこらえきれませんでした。
「バカ、お前が落ち込むなよ。そのために買ってきた訳じゃない」
「あ、ごめ……」
「母さん達の事を分かってくれるのは嬉しいけど、それは二人で笑顔になるためだよ。セラを悲しませたい訳じゃないんだから」
 そう言ってタイガはセラフィムの頬を軽くつねりました。
「タ、タイガ!?」
「へへ……セラのほっぺたも柔らかくて手触り良くて……ハリがあって綺麗で……なんだか大福みてえ」
「そ、そんな……」
 ふにふにとセラフィムの頬を伸ばしてタイガは喜んでいます。セラフィムは反撃しようかどうしようか迷いました。

 大福を食べ終わった二人は、公園の遊歩道を歩いて行って森林浴を始めました。
「今日はありがとう。今年はお花見できないかな、って思ってたんだ。よく見つけたね?」
「ふふ~頑張ってるセラへ息抜きとご褒美を兼ねてな」
 恋人にお礼を言われて褒められて、タイガは鼻の穴を膨らませて喜んでいます。
「頑張ってるのはタイガだ」
 そう言った途端、セラフィムは次々とタイガへの愛しい気持ちがこみあがってきて止まらなくなってしまいました。
「一生に一度の恋だって今すぐにだって結婚したいと思ってる。突然で強引で驚いてばかりだけど、タイガといると毎日が輝いていて。僕はこんなに幸せでいいか、なんて思う」
 そのセラフィムの愛情の溢れる言葉を聞いて、タイガは思わずセラフィムの事を抱き締め思い切りキスしてしまいました。
「反則……」
 そう呟いて、タイガはセラフィムを抱き締め頬ずりをします。
「ん……甘いね」
 フルーツとあんこの味のするキスに対して、セラフィムは思わずそう言ってしまいました。
「今すぐどうにかしたくなるだろ。駆け落ちや閉じ込めたり独占欲で傷つけそうになった事もあったんだ。でも堪えた。立ち直って、セラを幸せにするって決めた時から」
 セラフィムの家は、彼が幼い頃から病弱だったためか、とても過保護で、なかなかタイガの事を認めてくれない事もあったのです。
 けれど、それでも、セラフィムはタイガといる事を選び、将来もずっとともにありたいと望むのです。望んでくれたのでした。
 そして今、晴れて、両親から認められた二人。
 もう何も遠慮することなんてないのかもしれないけれど、今までの長い道のりの事を振り返って、タイガは言葉を紡ぎました。
「でも、たまに枷が外れそうになる」
 さらなる衝動をこらえて、大事にしたいセラフィムを抱きながら、タイガはくしゃりと笑いました。
「それでもタイガが好きだよ」
 セラフィムははっきりとした声でそう言いました。
 それから、すぐそばにいるタイガにも聞こえないような、弱い小声で言いました。
「どんな僕も受け止めてくれた。僕だってタイガを受け止めたいんだ」
 タイガはいつだってセラフィムの事が大好きで、ずっとセラフィムのそばにいると、最初から決めていたのです。
 そんなタイガに対して、セラフィムは自分の気持ちを正直に返していきたいのでした。
「へへ」
 タイガは不敵にも見える様子で笑っています。
 そして彼も聞こえないような声で呟くのでした。
「そうだったらいいな……」
 過保護に育てられ世間知らずのセラフィムに対して、タイガはもう少し現実を知っています。
 どんなに自分が望んで、どんなに一生懸命努力したとしても、引き裂かれてしまう恋人同士だって世の中にはいるのです。
 自分達がそうはならないように、タイガは懸命に努力しているし、セラフィムだってそうだけれど、明日はどうなってしまうか分からない……。
 そうだとしても、後悔のないように、精一杯空に向かって咲く桜のように、毎日、胸いっぱいに愛の花を咲かせて生きているつもりです。これでも。
 だから、セラフィムの気持ちは嬉しいし、彼の心には答えていきたいと思います。
「セラ。一緒に暮らそう。ずっとお前を守るから」
 今までの積み重ねを振り返りながらタイガは想いを告げます。
 鍵を渡し、ログハウスも立て、彼の家族にも受け入れてもらい、それでもどこかに残る不安は、未来は誰にも分からないからなのでしょうか。
「……この手が僕を守ってくれていた」
 不意に、セラフィムはタイガの手を掴んで、答えました。
「だけど、僕もタイガを守りたい。例え右腕になれなくても、自分で自分の身を守り、タイガを助ける力を持ちたい……」
 セラフィムは真剣な瞳で想いをほとばしらせるのです。
「ずっと隣にいたいから、僕も強く、タイガを守りたいんだ」
 そのときタイガは胸のつかえが落ちたように不安が消えて行く事を感じました。そう。一方的な守り/守られる関係ではなくて、セラフィムも誰かを守りたいという強い願いを持つ事。弱かった自分を乗り越えて、神人としての誇りと責任を持っていく事。その事により、タイガの重荷と、それによる不安を振り払ったのです。
 セラフィムもまた、初めて告げた時の気持ちが、甦ってきました。
(気遣いよりも対等でいたい。一緒にいたい。二人で旅をしよう……)
 人生の長い旅路をタイガとともに……。
 それも、タイガだけが守る訳ではなく、対等の、守り合う絆へ……。
 ずっと胸の奥に封じていた想いを言葉に乗せながら、セラフィムはタイガの手を強く抱き締めました。
 ウィンクルムとしてではなく、パートナーとしての絆の誓いの日は、そう遠くない事でしょう。
(僕はこんなに幸せいいのか?)
 ――全ての子供は最高に幸せになるために、生まれてくるのです。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 津木れいか  )


エピソード情報

マスター 森静流
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 2 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月07日
出発日 04月15日 00:00
予定納品日 04月25日

参加者

会議室

  • [2]歩隆 翠雨

    2017/04/14-21:41 

    挨拶がギリギリになっちまった…!
    歩隆翠雨だ。相棒は那音。
    今回は思う存分、桜舞う景色を写真に収めるつもりだ。
    休憩に大福を食べる予定だぜ。
    勿論、効果が気になるから、不思議なフルーツ大福一択だな!

    楽しい一時になるといいな。
    よろしく!

  • [1]セラフィム・ロイス

    2017/04/14-00:40 

    どうも僕セラフィムと相棒のタイガだよ。よろしく
    タイガに誘われて、やっと今年初めてのお花見。楽しみだなぁ
    よい一時になるといいんだけど。タイガは花より団子かな?(笑)

    皆もよい一時になりますように


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