桜の下であなたと(龍川 那月 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 息抜きに立ち寄ったハト公園は春真っ盛りでした。
 頭上から降り注ぐ桜の花びら、横を見ればチューリップや水仙が左右に揺れ、ついこの間まで冬枯れのせいで一面茶色だった芝生も青々と茂っています。
 天気は快晴で、冬の終わりを告げるかのようにさわやかで温かい風が駆け抜ける今日は絶好のお花見日和。
 幼い子供や赤ちゃんを連れたお母さんの姿があちらこちらで見え、少し遠くではお花見をしているのか若い男女の楽しそうな声が聞こえます。
「ここにあの人がいればいいのに……」
 ふと口をついた言葉に引っ張られるように、お花見特集を見ていたパートナーが、ピクニックも楽しそうだね。と言っていたのを貴方は思い出しました。
「確か……」
 二人の次の休みを思い出しながら携帯で天気を確認すれば、その日は天気も良く暖かくなりそうです。
 次のお出かけがピクニックならお弁当はどうしようか。そんなことを考えながら歩いていくと、
『桜のライトアップのお知らせ』
 そんな看板を発見します。
 夜桜もいいなぁ。夜ならどこかでご飯を食べてから見に来るのもいいかもしれない。
 素敵なプランがいくつも浮かび一人では決められなくなった貴方はパートナーに相談しようとメールを打ち始めました。

解説

パートナー様とお花見をお楽しみください。

 お天気は朝から快晴で一日中暖かくなります。
 昼間以外の時間でしたら薄手のコートやジャンパーなどは必要かもしれませんが、ないからと言って風邪をひくような寒さではありません。
 ライトアップは日没から21時くらいまでですが、月が明るいのでライトが消えた後も楽しめます。

 飲食代としてお一人300Jrかかります。

 エピソードの性質上完全個別描写になります。

ゲームマスターより

 こんにちは、または初めまして。龍川那月と申します。
 連日のように桜の開花やお花見の話題がテレビから聞こえてきますね。
 皆様にもお花見を楽しんでいただければと思いお花見のエピソードをご用意いたしました。

 昼間ベンチでお弁当を広げるもよし、夜桜の下で飲み物を片手に語らうもよし、朝方や夕暮れ時もいいかもしれません。
 皆様の素敵なお花見プランお待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ひろの(ルシエロ=ザガン)

  夜桜見物、薄手のジャンパー着用

「うん」(気まずくて、少し距離を開けてベンチに座る
明かりで照らされた桜はきれいで。けど、ルシェが気になってゆっくり見れない。
「!?」(驚いて凭れたまま

何が、正解……?(反応できずに固まる
触れてるところがあったかくて、恥ずかしくて。
何で。『私なんかを』

(されるがまま
ルシェ以外が、見えなくなる。何をって、そんなの。
「……ルシェ、が」

ううん。「違う、よね」(視線を下げる
「私を好きとか」違うって、言って。
いつかと同じ、強く伝わってくる。本当だって。『逃げれない』

わからない。役になんて立ってないのに。
ルシェはこんなにきれいなのに。何で。
※自信が無さ過ぎて、求められるのが怖い


ルン(テヤン)
  お花見は夜ね。
眺めの良い桜を見つけて、レジャーシートを広げるわよ。

スクールバッグから、一口サイズの黒パンと
保温ポットの中のシー(※野菜スープ)、
サラート・オリヴィエ(※ポテトサラダ)を食べるわ。

テディと話したり、食べたりしながら、夜の桜を見上げた。
「あぁ……桜が見られてホントによかったぁ」
えぇ!? 微妙って、そういう意味なの!?
「ちょっ! あたしのババ(※菓子パン)、食べないでよぉ!」
代わりに自分のを食べていい、と言うテディの小豆最中を取って食べる。
優しい味が消えない内に、水筒から温かい紅茶を口にした。

「……うん」
桜の花弁の砂糖漬けを口に含む。
何度振り返っても、過去は戻らない。
「迷わないわ、もう」


シルキア・スー(クラウス)
  彼を誘ってお花見
昼間花見→夕方食事→夜桜 の予定

花見
桜を眺め歩きベンチへ
伸びをして桜を仰ぐ
「あー心の洗濯~」

彼の言葉に去年を思い出す
パートナーとしての成長を焦り依頼にあけくれ笑う事も減っていた
そんな私を彼が遊びに連れ出してくれて 私は張詰めた心を解放できた
「もう大丈夫」笑む

食事
2人で桜の和食御前に舌鼓
食事も話も桜尽くし

夜桜
こんな幻想的な夜はついセンチになる
だから繋ぐ手と向けられる笑みが心強い

彼が今抱えてるトラウマと察し
「うん お互い様だから 私も助けて貰ってる ありがと」
彼の真直ぐな視線に 克服したのだと理解した
「どうやって克服したの?」

舞い散る花びらの中 告げる横顔が愛しい
素敵な桜の思い出になった


エセル・クレッセン(ラウル・ユーイスト)
  ラル、お花見に行こう。桜が見たい。

夜桜もいいけど、とりあえず昼間かな。
ピクニックとかいいなあ。お弁当作って行って、木の下で…。
うん、そうしよう。
ラルはお弁当の中身、何が好きなんだ?

え?もちろん自分で作るけど?まあ、簡単なメニューなら、たぶん…。
…手伝ってくれるんだ?
ラル、ありがとう!

公園
あそこのベンチが空いてるぞ。
桜、綺麗だなあ。
お弁当も(一応)ちゃんとできたし。
ラルのおかげでできたんだから、たくさん食べてくれな。

(お弁当の後は、頭上の桜と周りに降る花びらを眺めつつのんびり)

ラル、一緒に来てくれて、ありがとう。


八神 伊万里(蒼龍・シンフェーア)
 

去年は受験勉強やヨミツキの事件で慌ただしかったけど
今年はお花見できてよかった
お弁当はお母さんに手伝ってもらったけど、一生懸命作ってみました

サークル?
うーん、いろ誘われてるんだけど、これっていうところがなくて
そーちゃんのところ?テネブラの研究かぁ…
それならウィンクルムの活動にも何か役に立つかも
私でよければ、入らせてもらおうかな
って、わわっ…!よ、よろしくお願いします…
抱きつかれて慌てるけど、逃げたりはせず

えっ、新歓会?のんびりはどこへ…?
でも、そーちゃん喜んでるみたいだし、いいか
じゃあ歌いましょうか!
降ってくる花びらの中で歌うなんて、何だかステージの演出みたい
本当に綺麗…
歌いながら樹を見上げる


●ほころび始めた想い(エセル・クレッセン&ラウル・ユーイスト 編)
「ラル、お花見に行こう。桜が見たい」
「……行ってこい」
 エセル・クレッセンの唐突な提案に、彼女の精霊ラウル・ユーイストの返事は何とも淡白なものだった。そんな対応に慣れているのか、純粋に聞こえなかったのか、エセルは話を続ける。
「夜桜もいいけど、とりあえず昼間かな。ピクニックとかいいなあ。お弁当作って行って、木の下で……。うん、そうしよう。ラルはお弁当の中身、何が好きなんだ?」
 話を聞いていなかったのか?そんな視線で彼女を一瞥し退席しようとしたラウルの足をある言葉が止める。
「……弁当を作る?誰が……?」
「え?もちろん自分で作るけど?まあ、簡単なメニューなら、たぶん……」
 そう言いながら、これもあるし。とエセルはラウルに初級マニュアル本「調理」を見せる。確かに、これがあれば大丈夫かもしれないが……それでもエセルの不器用さ加減がラウルの記憶通りなら不安はかなり残る。
「……弁当を作るのは手伝ってやる。だから……」
「……手伝ってくれるんだ?ラル、ありがとう!」
 一人で行け。と続けるはずだった言葉は彼女の嬉しそうな声の勢いに口の中で止まってしまう。
「……」
 マニュアル本をめくる彼女に、自分はいかない旨を言いだそうとするラウルだったが、一緒に作って一緒に行く気まんまんの彼女の姿になかなか言うタイミングがつかめない。
「……サンドイッチでいいか?なるべく火を使わない方が……」
 小さく息を吐き、二人分の材料を用意し始め、エセルに指示を出し始めた。

「あそこのベンチが空いてるぞ。桜、綺麗だなあ」
 楽しそうに歩く彼女の後ろをついていくラウルの表情には疲れの色が見える。
 お目当てのベンチに座ると、エセルはさっそくとばかりに卵、ハムとチーズとレタス、ツナとトマトの3種類のサンドイッチが入ったボックスを開いた。色鮮やかに並ぶサンドイッチは見た目にもおいしそうだ。エセルは、もうなんともない指先をちらりと見てから、ちゃんと出来たサンドイッチに目を落とし直し微笑む。バレンタインの二の舞にならなかったことに心から安堵しているのだ。
「ラルのおかげでできたんだから、たくさん食べてくれな」
「……ん」
 いわれるままにサンドイッチに手を伸ばし一口。美味しいという感想もないが、まずいとも言われないという事実にエセルの目尻がさらに下がる。自分もと伸ばした手にサンドイッチではなくお手拭きが渡された。
「あ、ああ」
 ベンチに座る前に座面を払った手を拭けという事らしい。その後も、一緒に持ってきた魔法瓶から紅茶を注いではエセルに渡したり、デザートの苺を食べる前に新しいお手拭きを渡したり、甲斐甲斐しくとも見えるほどラウルは彼女の世話を焼く。契約当時の彼であれば考えられないような行動だ。彼女の存在が彼の中で知らず知らずのうちに変わってきているのかもしれない。
「……たまには、花見も悪くはない」
 食後、のんびりと桜を見上げながら彼はぽつりとそう言った。その言葉一つで、少し強引に連れてきてよかったとエセルは思う。
「ラル、一緒に来てくれて、ありがとう」
「……」
 桜花の下、エセルの心からの言葉に何も言わないラウルの口角がほんの少しだけ上がった。

●華惑いの夜 (ひろの&ルシエロ=ザガン 編)
「約束した場所とは違うが、夜桜を見に来れたな」
「うん」
 宵闇に浮かび上がる桜の下、一組の男女、ひろのとルシエロ=ザガンには少しの物理的距離があった。桜へ顔を向けこそするがちらりちらりとひろのの視線はルシエロへと注がれる。
(戸惑いは存分に伝わってくるが……)
 気まずそうなその視線の理由を彼は分かりすぎる程に知っていた。
「ヒロノ」
 声をかけるのとルシエロが彼女を抱き寄せるのは同時だった。驚きのあまりもたれかかったまま動けずにいるひろの。
「意識されるのは嬉しいが、そう離れてくれるな」
「何が、正解?」
 こういう時どうするのが正しいのかひろのには分からない。彼が触れている部分全てが温かく心地よささえ感じるが、それと同時にひどく恥ずかしい。そこにルシエロの言葉が重なり、どうしたらいいのか、どうすべきなのか思考が追い付かない。頭の中は疑問の声だらけだ。
(何で、私なんかを)
 反応できずに固まっているひろのを見てルシエロは思う。
(急な出来事に思えるんだろう)
 彼女からしたら先日の告白は青天の霹靂だったろうと思う。
(此方は、二年以上想いを積もらせていたんだがな)

 ルシエロの膝の上、ひろのは横抱きの状態だった。ルシエロは抵抗もなくされるがままのひろのの髪をかき上げた。
「何を考えている?」
 優しく額と額を合わせその瞳から心をのぞき込もうとするかのように見つめたまま唇を動かす。
(何をって、そんなの)
「……ルシェ、が」
「ん?」
 視界いっぱいに広がる彼の整った顔が柔らかく相槌を打つ。ううん。と小さく頭を振り、タンジャリンオレンジの瞳から逃げるように視線を下げる。
「違う、よね」
 諦めを多分に秘めた言葉が彼女の視線をさらに下げてしまう。
「何がだ」
「私を好きとか」
(違うって、言って)
 ひろのは心からそう思っていた。本当にそう言ってほしかった。
「いいや?」
 その言葉と共に額が離れる。その代わりに彼の左手がひろのの頬へ添えられる。
「間違いなくオレは、ルシエロ=ザガンは。ヒロノを愛おしく想っている」
 心外だな。と言わんばかりの言葉。その言葉はいつかと同じ様に強く本心であると伝えてくる。
(逃げれない)
 自分の想いが伝わっているのは彼女の目を見れば分かる。彼女の瞳には混乱と戸惑いと幾ばくかの恐れが渦を巻いていた。
(何を怖がっている?)
 すっと細くなる目のまま、そっと胸に抱き寄せた。己に自信のあるルシエロは彼女が何を怖がっているのかがわからない。
(わからない。役になんて立ってないのに。ルシェはこんなにきれいなのに。何で……)
 理由を問う声が頭の中を駆け巡る。求められることを怖く思うほどに彼女は自分に自信がない。それなのにそんな自分を愛しく思うと、目の前の綺麗な男性は言う。
 ひろのにはどうしてもその真意がわからない。分からないからこそ彼の気持ちが本当だという事が彼女に混乱を招いているのだった。
(花見は改めるか)
 彼女の髪を撫でながらルシエロは桜を仰いだ。

●降り積もるは桜と(シルキア・スー&クラウス 編)
 桜を眺め歩く一組の男女が、一本の樹の下にあるベンチへと腰を下ろした。
「あー心の洗濯~」
 明るい金の髪を揺らしながら女性、シルキア・スーが伸びをして桜を仰ぐ。寛ぐその姿を見守りながら笑むのは彼女の精霊、クラウスだ。
「これ以上依頼を入れるのならば止める心積もりであった」
 彼の言葉にシルキアは去年を思い出す。次々と依頼を入れる彼女を彼が制した事があった。パートナーとしての成長を焦り、笑顔も忘れ依頼にあけくれていたシルキアをクラウスが遊びに連れ出したのだ。そのおかげで張詰めた心を解放できた彼女だったが、最近の依頼ペースはその頃に似ていた。
「もう大丈夫」
 今回休憩を提案し、公園へと誘ったのは彼女の方。以前とはもう違うのだ。と安堵していたクラウスに、意を理解したシルキアの笑顔が返される。応えるように頷き視線を彼女から外せば、そこには公園名物の
「ハトが寄って来たぞ」
 鳩と戯れ会話を楽しめば時間はあっという間に過ぎていく。

 夕食は、公園のすぐそばにある店だった。そこで出された桜の和食御前は花びら型の器に盛られたおかずや、桜の香りがほんのりとする炊き込みご飯、桜の塩漬けが添えられたデザート等名前の通り桜尽くし。
「去年はサクラウヅキでオーガ討伐に追われ花見どころではなかったからな」
「そうだね。今年は一緒に見られてよかった」
 窓の外で灯りに照らされている夜桜を眺めながら食事に舌鼓を打つ二人の口から楽しそうな声とともにこぼれるのは桜にまつわる思い出ばかり。

 店から出た二人の手は自然に繋がっていた。クラウスがトラウマに支配されないように。と、今に限らず外出の際には、二人の手はシルキアから絡められ繋がっている。
「……」
「……」
 だが、今夜は、こんな幻想的な夜は、少しだけ弱くセンチメンタルになるシルキアの心を繋ぐ手の温かさと向けられる笑顔が支える。
「……お前には助けられた。俺の弱さを補ってくれた事。感謝している」
 おもむろにクラウスが伝えた思いにシルキアの足が止まる。キョトンとした後彼女は彼の抱えるトラウマのことだと察する。
「うん。お互い様だから。私も助けて貰ってる。ありがと」
「俺も。もう、大丈夫だ」
 真っすぐな視線と声にシルキアは克服したのだと直観的に理解した。
「どうやって克服したの?」
「お前の信頼に応える。それだけに心を傾ければ良かったのだ」
 桜の向こうに広がる闇を真っすぐに見据え告げる横顔がシルキアには酷く愛しく感じられる。桜のどこか切ない香と相まって、胸がきゅっと締め付けられるような気がした。口からこぼれそうになる愛しさを伝える言葉を飲み込み、シルキアは祝いの言葉をかける。
「これから先桜を見るたび思い出すくらい素敵な思い出になったね」

 舞い散る桜でところどころ隠された道を寄り添って歩く二人。そこには穏やかに弾む会話と笑顔があった。その中で彼を愛しく想う気持ちが目の前で、道を覆っている桜のように積もっていくのを感じ、シルキアはぼんやり考える。
(伝えたい『いつか』は近いのかもしれないなぁ)

●暗い過去と決別を(ルン&テヤン 編)
 ツインテールの少女が眺めの良い場所はないかときょろきょろと視線を動かす。その横では褐色肌の少年が、夜桜を楽しんでいる人々にぶつからないようにと辺りを見回しながら歩いていた。
 褐色肌の少年、テヤンとツインテールの少女、ルンがレジャーシートを広げたのはライトアップの光に照らされた桜が夜の闇に負けじと咲き誇る一本の桜の樹の下だった。予想以上に良い場所が取れたと二人は嬉しそうに笑いあう。
 ルンはスクールバッグから、一口サイズの黒パンと保温ポットに入ったシーと呼ばれる野菜スープ、そして、サラート・オリヴィエという名のポテトサラダを取り出した。どうやら彼女の今日の晩餐の様だ。
 隣ではテヤンが風呂敷から、焼おにぎり、焼き鮭、沢庵の漬物、そして保温ポットに入れた赤味噌汁を取りだしていた。
 たわいもない話をしながら、口にする温かい汁物が少しだけ冷えた体に優しい。ほぅ。と息を吐きながら見上げた夜の桜はその薄紅がぼんやりと空に溶け幻想的な美しさを醸し出している。
「あぁ……桜が見られてホントによかったぁ」
「てやんでい、桜なら昨年の依頼で見ただろ?」
 テヤンが言っているのは、去年参加したデミ・コボルト討伐依頼のことだ。
「あの依頼の目的は桜じゃないでしょ!?」
 確かにあの時は討伐が主で桜見物をゆっくりと。という感じではなかったが。
「……微妙でい」
 去年のことを思い起こしてテヤンはそうひとりごちる。何よ?というルンの視線を感じテヤンはもう一度口を開く。
「何とも言えねぇウツクシサがあるって意味だ」
「えぇ!? 微妙って、そういう意味なの!?」
 思いもよらない回答に驚きの声を上げるルン。その隙をついたかのように菓子パンをひょいっと口に放り込む相棒に今度は抗議の声が上がる。
「ちょっ! あたしのババ、食べないでよぉ!」
 ババというのは彼女の持ってきた菓子パンのこと。むくれる彼女に代わりに自分のを食べていい、と言うテヤン。彼の持っている和菓子の中から小豆最中を取って食べると、ルンの口の中に優しい味が広がった。その味が消えてしまわないうちに、温かい紅茶を口にする。優しい味は喉の奥へと落ち、紅茶の温かさと混ざり合って知らず知らずのうちに彼女の顔に笑顔が戻っていた。

 会話の狭間、唐突に二人の間に沈黙が生まれた。花見客は帰ってしまったのだろうか、人の声もない。かすかに聞こえる風の音だけが耳に届く。
「過去の失敗」
 静けさを破るようにテヤンの声がルンにかかる。二年も前のことだ。彼女が気にしているとは思えない。だが、みなまで言わずとも何の事か分かる程度には彼女の中でも強い記憶として残っているようだった。彼女の反応を見ながらババを食い、抹茶を飲み干す。
「これから返すでい」
 掌にある桜の花弁の砂糖漬けを摘まみ食いながら放たれた声。その言葉には決意めいた強い意志がこもっている。
「……うん」
 ルンも彼の手から桜の花弁の砂糖漬けを一つ摘み口へと含む。
「迷わないわ、もう」
 彼女の声からもまた強い意志が感じ取れる。
 何度振り返っても、過去は戻らない。しかし未来ならば変えられる。それならば望む未来のために。

●サクラサイタ(八神 伊万里&蒼龍・シンフェーア 編)
「桜が綺麗だねえ。合格祝いも兼ねて、今日は二人でのんびりしようね」
 満開の桜と暖かい日差しの下、蒼龍・シンフェーアは彼のパートナー八神 伊万里に微笑んだ。
「今年はお花見できてよかった」
 去年の今頃、サクラヨミツキで起こった事件と伊万里の受験でゆっくりお花見どころではなかった。
「お弁当はお母さんに手伝ってもらったけど、一生懸命作ってみました」
 そう言って蒼龍の前に広げられるお弁当には、伊万里の得意な肉料理や煮込み料理も見える。
「そういえばこの時期は新歓会とかあるけどイマちゃんはサークル入った?」
 お弁当に舌鼓を打ちながら蒼龍が尋ねるのは、同じ大学で始まった新しい学生生活のことだ。
「サークル?うーん、いろいろ誘われてるんだけど、これっていうところがなくて」
 大量に渡された勧誘チラシも、学内に乱立する看板もピンと来ないのだと話す彼女にそうなんだ。と相槌を打つ蒼龍。
「それなら僕のところに入って欲しいな」
「そーちゃんのところ?」
 蒼龍のいるサークル。それだけでも彼女の興味をひくには十分だった。
「うん。その名もテネブラ研究同好会!」
 じゃーん。と効果音を入れ紹介するパートナーの前で伊万里は真剣に考える。
「テネブラの研究かぁ……それならウィンクルムの活動にも何か役に立つかも」
 不純な動機でサークルを選ぶ学生も多い中、何事にも真剣な彼女の姿に蒼龍はそんなところも魅力的だと思いながらうんうん。でしょ?と頷く。
「メンバーは現在なんと僕一人!だから入ってくれたらすっごく嬉しいし助かるんだけどな……」
「私でよければ、入らせてもらおうかな」
 蒼龍の言葉と伊万里が決断するのはほぼ同時で、蒼龍が彼女の言葉を理解するのに一瞬の間が生じた。
「……え、ホントに?」
 予想外にあっさりと決めた伊万里の言葉に驚きの声が漏れた。え、ダメ?と首を傾げる伊万里に何度も首を横に振り、こみ上げる喜びをそのまま言葉にする。
「やったー!ありがとうイマちゃん!」
 嬉しさは言葉では足りず伊万里におもわず抱きついてしまう蒼龍。
「これで予算も増えるし、サークルでもイマちゃんと一緒だしいいことずくめだ」
「わわっ……!よ、よろしくお願いします……」
 突然のことに目を丸くしながらも逃げたりせず蒼龍を抱きとめる伊万里。そのまま小さく頭を下げ挨拶する。
「よーし、それでは今からこのお花見は同好会の新歓会に変更します!改めてイマちゃんの加入に乾杯!」
「えっ、新歓会?」
 少し前に今日はのんびりしようね。と言ってた彼の姿が頭をよぎり、のんびりはどこへいったのだろうと、疑問が伊万里の中に浮かぶ。
(そーちゃん喜んでるみたいだし、いいか)
「そして新歓会の定番といえばカラオケだよね。機材はないけど歌っちゃおう」
「じゃあ歌いましょうか!」
 はしゃいでいるようにも見える蒼龍の喜びを感じながら伊万里も笑顔で応える。肩を組み、二人が歌うはデュエット曲。
 風の中踊るように降る花びらが二人のオンステージを華やかに演出する。
(本当に綺麗……)
 その花びらの道筋を逆になぞるように樹を見上げ、心の中でうっとりと息をつく伊万里の耳元で桜とともに軽やかなステップを踏む【イヤリング】エトワールのチャームが二人の新しい生活を祝福していた。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 龍川 那月
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月03日
出発日 04月11日 00:00
予定納品日 04月21日

参加者

会議室

  • [4]八神 伊万里

    2017/04/10-09:41 

  • [3]ひろの

    2017/04/09-22:29 

  • [2]ルン

    2017/04/08-12:27 

    1年ぶりになります、精霊のテディと、神人のルンです。
    よろしくお願いします。

    桜、まだ見られるみたいでよかった……。
    散らない内に、お昼に見るか、夜に見るか、決めておかなきゃ。

  • [1]シルキア・スー

    2017/04/07-16:48 

    シルキアとパートナーのクラウスです。
    よろしくお願いします。

    今年はゆっくりお花見できそう…。


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