宿る想いとケットシー(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

桜の名所として知られる、プリメール自然公園。
今は桃色の季節はすっかり過ぎ、青々とした木々が さわりさわり と音を立て公園を彩っている。

この時期、美大を目指す学生やその美大生、趣味で絵を描く一般の人などが意外にも桜が咲き誇る頃より多く見える。
ご本人たち曰く、屋台が立ち並ぶ時節は人が多すぎて絵を描く風景には少々不向き、という声がちらほらと。

そんな絵描きな人々の間で、今プリメール公園内は不思議な現象が噂となっていた。

【どこからか聞こえてくる証言A】
「広場で風景を描いていたわ。課題で使うつもりだったから、念入りに完成させたくってお弁当持参してたの。
 もう本当に来るのねっ、ケットシー!ちょっと夢中で色を作っていたら、横にあったお弁当が無いのよ!
 挙句に、描き途中だった絵の中に人影まで落書きされちゃって!
 え?ええ描いていたのを見たわけじゃないけど。でも他に考えられないでしょ?
 ……でもあの後ろ姿、憎めないのよねぇ……ぴょこぴょこしてて……」

【証言B】
「銀色の桜を描いていたんですよ。ええそう。その桜の前で告白したカップルは幸せになれる、っていうこの公園では有名な。
 今の時期は探しても見られるはずないから、想像でね。
 それでほとんど描き上がった時に、喉が渇いて飲み物を買いにキャンバスを離れたんです。
 戻ってきたらもうビックリですよ!銀色の桜の絵の中に、女性の後ろ姿が描き足されてるんですから…!」


ほとんどの噂が、描いている絵の中に女性の姿が突然映し出されている、というもののようだ。
それは本当に小さく、長い髪をなびかせた後ろ姿、どこか儚げな佇まいで。
絵によっては一瞬その存在にしばらく気付かない人もいる程とか。

そんな噂が後を引いてか、日増しにその公園では絵を描く人々が増えている。
特に害のないそんな不思議な現象を、直に見てみたいという好奇心が大半で。
公園管理側はそれに便乗して、有料でキャンバスと絵の具の貸し出しをちゃっかりと始めた様子である。

今日もプリメール公園は、稀に好奇の視線がチラチラ飛びながら、散歩をする人、絵を描く人々で静かにその時を刻んでいる。

解説

●緑溢れる公園で、お散歩や絵を描くまったりデート
 ……の中に、ちょっとしたミステリー。

 公園内には緑一色で覆われた桜の木々が立ち並ぶ、短い散策路が2つ。
 どちらも広場へと続いている。

●絵描き道具は持参しても、有料で借りても可。
 借りる場合は<20Jr> ⇒油絵具・筆一式・キャンバスF6号(410×318mm)サイズ

●ケットシー(猫の姿の妖精。二足歩行もする)がよく見かけられる。
 食べ物を持っていると、女性は特に狙われやすいとか。

 絵に不思議な現象が起こったときは、必ずと言っていい程
 ケットシーの姿が目撃されている。

★謎には言わずもがな、ケットシーが関わっている。
 解明する際は、ケットシーへどう接するかなどで物語が変わるかもしれない。
 

 デートを楽しむも、この不思議現象を解明しようと試みるも、この晴天の空の下 気分次第。。。

ゲームマスターより

ご拝読頂き誠にありがとうございます!いつもお世話になっております、蒼色クレヨンです。

ほんわか まったり でもちょっぴり謎があり

謎解明に挑む場合は、数人で役割分担しても良いかもしれません☆
(ハピネスだって連携してもいいじゃない♪とかそんなげふんっ)
(勿論、ケットシーとは戯れるに留めて個々にデートを満喫もOK)


……自分 いつ アドベンチャー 挑むの かし ら …… ウフフ(遠い目)

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リゼット(アンリ)

  アンリに証言と同じように銀色の桜の絵を描いてもらうわ
色鉛筆とスケッチブックを用意したからこれに描いてちょうだい
私はケットシーが来るか周りを見張っているから

…ちょっとアンリ、あなた絵下手すぎ!
これじゃ子供の方がよっぽど上手よ?
全く。使えないわね…ケットシーに手直ししてもらいたいものだわ

まあいいわ、お昼にしましょう
サンドイッチ持ってきたからぱっと食べて
手作り?そんなわけないでしょ
料理なんてしたことな…なんでもないわ

ケットシーが描き入れるのってみんな同じ容姿なのかしら
会いたい人でもいるの?
その人に桜の下で告白してみたかったの?
また花が咲いたら会えるといいわね
私にはそういう感覚、まだよくわからないけど



かのん(天藍)
  持参:お弁当にオープンサンド用のスライスしたバゲット。具材はハム、サーモン、レタス、ピクルス数種にラタトゥユ。締めの甘味は林檎と木の実が入ったクラムケーキ(天藍仕様でカルバドスたっぷり使ってます)をバスケットに詰めて
ケットシーの姿を探しながら園内を散策
遭遇確率が増える事を期待して、落書きの女性の雰囲気に似せた格好にして、普段結い上げている髪はおろしておく
天藍の行動はどれも嫌ではないが反応に困る
ケットシーと遭遇の際は、あくまでも優しく悪戯の理由を尋ねる、何かできる事があれば力になりたいと思っていることも、書き込む女性の事等
お弁当は沢山ありますし、一緒に食べながら、事情を教えては頂けませんか?



ファリエリータ・ディアル(ヴァルフレード・ソルジェ)
  絵に描き足された女性ってケットシーが描いてるのかしら?
何だかすっごく気になるから謎の解明頑張るわっ!

絵描き道具は自分のがあるから持ってくわねっ。
あと、食べ物も狙われるらしいから美味しいお菓子屋さんのクッキー持ってくわ、
お腹空いたら食べれるしっ♪
「描き足された事に気付かない」場合もあるって事は、
違和感を感じさせないくらい上手なのかなって思うのよね。
ただの悪戯とは違う感じ……?

ケットシーが出てきたら、お話聞いてみたいわっ。
女性の絵が描き足されてるのって、貴方が描いたの?
それとも別の理由? 何か知ってる事あるかしら?
おやつ分けてあげるから教えてほしいの、
何かしたい事があるなら力になれるかもだしっ。


ペシェ(フランペティル)
  お一人様数量限定スイーツを買いに二人で行った帰り道に公園に来てます。
なので絵を描く人が多くて不思議だなと思ってたら、気づけば手にしていたスイーツが片方ケットシーに取られてしまいます。返して!

見失ってへこんでいたらフランが聞き込みしてました。
ケットシーが何故こんなことをしているのか?それよりスイーツが……!
絵と食べ物で吊る……ですか。じゃあ、絵の道具を買って来ましょう。
フランはケットシーの行動が気になるみたいなので、協力します。
捕まえたら、何でこんなことしてるのか聞きたいですね。

……取られたの、フランの分なんです……。
取られたものを取り返すのが優先で、謎の解明はその手段です。


●ケットシー驚く

 今日も柔らかな日差しが公園の木々へと降り注いでいる。
絵を描く人々の景色に慣れ親しんだその公園内、辺りを見渡し首を傾げながら歩く姿があった。

両手に一つずつ、可愛らしい星柄の付いたラッピングの中は、タブロス市某商店街にあるスイーツ店で
この時期だけ買える、お1人様数量限定のミニチェリーパイだ。
満足気な顔でそれを大事に持ちつつ、ペシェは隣りを歩くパートナー、
何やら今はむくれ顔をしているフランペティルに言葉をかける。
「こんなに人で溢れてる場所でしたっけ?ここ」
「さぁな。吾輩、他人なんぞ興味はない。それより……」
 じっとペシェの持つパイへと視線を落とすフランペティル。この時点でペシェには何を言われるかある程度の想像がついた。
「太るぞ肥えるぞブタになるぞ」
「はいはい」
 おいしい食べ物に目が無いペシェは、日頃言われ慣れている台詞をあっさり流す。
二の句が告げないフランペティルを他所に、まだ絵を描く人々が気になり思わずその足を止め、好奇心で近くの絵を眺めていた。
その時、黒い影がどこからかバッと飛び込んできたかと思うと、気づいた時にはすでにペシェの持つパイが片方無くなっていた。
「え!?どうして!?」
「あぁ。あの黒猫だな犯人は」
 慌てるペシェ、まったり答えるフランペティル。その示す先にまさに一匹の黒猫がいた。
その姿を捉えた瞬間、不思議な声が頭に響いてくる。

『見た……ない……食べ……にゃっ』

「……猫って立って喋れるんですね。ッハ!まってー!!」
 その黒猫はペシェの言葉に驚いたようだった。
しかして追いかけようとした時にはすでに遅く、あっという間に公園茂みの中へと消えてしまう。
「ふむ。貴様がこれ以上肥えないようにとの配慮にちがいな……あいたぁっ!?」
「……あれ?猫って喋れませんよね……?」
 落胆空気を纏うペシェの横で、その空気を読まなかったフランペティルが強烈に足を踏まれ叫ぶ声がコダマし、
その叫び声で我に返り冷静に驚き始めたペシェがいた。


 噂をすでに耳にしていたファリエリータ・ディアルとヴァルフレード・ソルジェは、真相を確かめようと
広場の見渡せる木陰にて絵を描く準備をしている。
「描き足された事に気付かない場合もあるって事は、
 違和感を感じさせないくらい上手なのかなって思うのよね。悪戯、とは違う感じかしら……」
 持参したキャンパスをセットしながらファリエは推測を口にする。
「ファリエ、食べ物は何を持ってきたんだ?」
「あっ、クッキーよ!ここのは美味しいって評判なの!後で私たちも食べましょうねっ」
「へぇ。どれ」
 着いて早々に一枚クッキーが減った。
「もうヴァルっ。ちゃんとケットシーの分も残しておいてね?」
「美味いよこれ」
「でしょ?♪……聞いてる?!」
 そのやり取りの後ろから、たった今ヴァルフレードが手を伸ばした箱の中に、肉球の付いた小さな手が伸ばされた。

『きょ……は、おいし……モノ、いっぱ……にゃっ』

「え?」
「なに?」
 突然頭に鳴り響いた声に反応し振り返ったファリエリータとヴァルフレード。
ケットシーと目が合う。
『にゃっ!?……聞こ……る、にゃっ?』
「あ!お前それ……!」
 条件反射的に叫んでは捕まえようとしたヴァルフレードから飛びのき、くるりと踵を返すケットシー。
「待ってヴァル!私ケットシーと話がしてみたいの……!」
 ファリエリータの言葉に、一度躊躇いがちに振り返るケットシーだったが、クッキー抱えてすぐに小さな茂みへと逃げてしまった。
「ヴァル~~~……」
「………悪かったよ」
 心底反省している様子のヴァルフレードに、仕方ないわねと笑顔を向けると、
ファリエリータは気を取り直して絵を描く準備を始めるのだった。


 ファリエリータたちのいる木陰からほんの2、3m離れた場所で、すでに半分程絵を完成させているのは精霊のアンリ。
そこから少し離れた木の後ろに、隠れるようにしてケットシーの姿を探しているリゼット。
そのリゼットが用意した色鉛筆とスケッチブックを手に持ち景色を眺めては、
対象部分を囲うように人差し指と親指で構図を取るアンリに、リゼットは一度木の裏から出て近寄る。
「……アンリ、これは何?」
「え?見て分かるだろ。リズが所望した銀色の桜」
「じゃあコレは?」
「鳥と花びら。情緒豊かだろ?」
 どう頑張って見ても、白い大きなキノコから胞子が飛び出しているように見える。
「……ちょっとアンリ、あなた絵下手すぎ!これじゃ子供の方がよっぽど上手よ?」
「ったく、この絵の芸術的価値がわからんとは。リズはやっぱお子様だな」
 予想外なアンリのセンスに、リゼットは深い溜息を吐き。
口を尖らせるアンリとその絵を見つめながら。
「全く。使えないわね……ケットシーに手直ししてもらいたいものだわ。……それにしても……」
 リゼットは公園の景色を瞳に映し。独り言のようにぽつりと呟く。
「ケットシーが描き入れるのってみんな同じ容姿なのかしら……会いたい人でもいるの?」
 悪戯と思われてまで会いたい人なんて……私にはそういう感覚が、まだよく分からないけど。
思いにふけったその横顔をアンリは見つめる。凛としたその姿を。
手が自然と絵の方へと移動し、そんなリゼットの立ち姿がひっそりと映し出された。

『会いた……ヒ、ト…… ぅにゃ……』

 突然しょんぼりした声が頭に響き、リゼットとアンリは顔を見合わせる。
先程までリゼットが隠れていた木の影に、耳がぴこぴこ見え隠れして、チラリとケットシーが顔を出した。
「あ!いたわ!まさか今の声、アナタ……?」
『にゃ!?きょ……聞こ……ヒト、多……っにゃ!?』
 あまりに驚いたのか、ケットシーはすごい速さで散策路の方へ逃げてしまった。
「……速すぎるな。しかしなんだ今の声。あいつが喋ったのか?」
 アンリの言葉に、リゼットも分からないといった顔を向け。ふとアンリの絵へと向き直る。
「あら?さっきまでこんなのあった?」
「!!……あーほら!たった今、ケットシーが描いていったんだろっ」
「……今まで聞いてた女性の姿と随分違うわね。ケットシー、こんな下手だったのかしら。アンリといい勝負ね」
 複雑に黄昏るアンリの背中があったとか。


 プリメール公園に二つある散策路の一つ、そこを歩いているのはかのんとパートナーの天藍。
かのんの用意したお弁当の入ったバスケットを今は天藍が代わりに持っている。
ケットシーがいないか視線を移動させるかのんだが、その意図は若干時折違うものが混ざっている様子で。
「あの……天藍。どうしてもこれは必要なこと、ですか……」
「嫌か?」
「ぁ、いえ。嫌というわけでは……。……何だか聞き方、ずるくないですか?」
「気のせいだろう」
 これ、と呼ばれた二人の繋がれた手。かのんが落ち着かない理由である。
これまでかのんがパートナーである自分に慣れるまでと様子を見ていた天藍だったが、
ここ最近、多少は己の欲に正直になっても大丈夫そうだと踏んだ(かのんからしたら、踏んでしまった)ようで。
時折こうして、かのんの照れる表情を楽しんでいた。
一度繋いだ手を離す天藍。不思議な顔をしつつ少しホッとしたかのんであったがそれも束の間……
噂の絵に描かれる女性の容貌を耳にし、少しでもそれに近づけようと、いつもはアップにしている髪を下ろしているかのん。
その肩から流れる潤いのある一房を天藍は手に取って。
「同じ黒でも俺のとは随分違うな」
 躊躇うことなくその一房を己の口元へ持っていくのに気付いたかのんは、慌ててその髪をするりと抜くように一歩引く。
「天藍……今日の目的、お、覚えてますよね……?」
 冷静を保とうとしていたものの、すっかり頬を赤くしたかのんが若干睨むように天藍を見上げる。
(ふむ……やり過ぎも禁物だな)
もちろん、と軽く片手を上げ意思表示したところで、天藍の視界に黒い物体が近づいてくるのが見えた。
「ん?……あれは……」
 天藍の真剣な表情に気付いて、かのんがその視線の先を追えば明らかに猫が二足歩行で走ってくる。
先程のリゼットたちとのやり取りでまだプチパニック状態のケットシーは、前方に人がいることに気付いていない様子だった。
「あの……そのまま行くと木にぶつかりますよ……!」
『にゃっ?』
 ついと声をかけるかのんの言葉に、ようやく顔を上げスピードダウンしたケットシー。
キキーッと止まったそこは、かのんたちとの距離僅か数メートル。

『ま、またこえ、聞こえ……にゃっ??』

「え?」
「……なんだお前。話せるのか?」
 少々驚いたものの、まぁ妖精だしなとあっさり納得したらしい天藍はずいっと一歩前に出る。
「話せるなら話は早いな」
『ふにゃ!?』
「天藍。怖がらせてどうするんですか」
 天藍を押すように横へと下がらせると、かのんはその場にしゃがんでケットシーと少しでも目線を合わせるように語り掛ける。
「あの……この公園で、絵に女性の姿を描いているのはアナタですか?」
 まだ天藍を警戒しびくびく耳を震わせながらも、ケットシーはしばしかのんを凝視。
『こえ……聞こ、る……にゃ?』
「え?ええ。この頭に直接入ってくる感じの声、アナタの、ですよね。聞こえますよ」
『……絵……、描い……る、にゃ……』
 ぷに、ぷに、と自分の手を合わせもじもじするケットシー。
微笑みを向けかのんは頷く。その様子を静かに見守る天藍。
「もし良ければ、理由を教えてもらえますか?何かあるなら、お力になれるかもしれませんし」
 迷いを見せるケットシー。かのんと天藍を交互に見てから、突然向きをかえ走り出した。
「え!?ま、待ってください!どうし……」
 少しの距離が空いた位置で、ケットシー、ちらりとかのん達を振り返る。
「……ついてきて欲しい、といった感じだな」
「いきましょう」
ケットシーの後に続いて、二人は駆け出したのだった。


●ケットシー、お願いをする

「……おい貴様。これはまさか吾輩か?」
「も、もちろんですけど」
「……人間とはここまで酷い絵が描けるものなのか……」

 ケットシーを探しているうちに、フランペティルの聞き込みにより某噂を知ったペシェは
広場で道具一式をレンタルしているのを見かけ、パイを取り戻すべくケットシーを誘き寄せる作戦に出ていた。
強引な要望により、フランペティルをモデルにした絵をたった今仕上げたところだ。
どうやら絵的センスは残念だったようだが。

と、そんな二人の目の前に先ほどのケットシーがいつの間にかちょこんと立っていた。
「え!?……もしかしてこの絵気に入ってくれて……」
「そんなわけあるまい」
 バッサリとダメ出しを受けつつも、パイ!!とばかりにケットシーを捕まえようと手を伸ばすペシェ。
ひらり、とその手をかわしたケットシーは再び駆け出した。
その後を追うペシェ(と走るのが嫌で見失わない程度に続くフラン)の後ろから、かのんと天藍が合流する。
「え?こ、こんにちはっ。……えーと、あなたも何か取られたんですか?」
「こんにちは。あ、いいえ。私たちは……」
 走りながら合いまみえて、何となく挨拶を交わすペシェとかのん。
ケットシーはたまに振り返りながら、広場の木陰目指して。

「……うん?あれ、さっきのケットシーじゃないか?」
「え!?どこヴァル!」
「あー本当だね。……なんだか追いかけられているようだけど」
「悪戯が過ぎたのかしら」
「「「「 ん ??? 」」」」
 ほぼ同じ場所に居たファリエリータ&ヴァルフレード、リゼット&アンリが同時にケットシーの姿を捉え立ち上がる。
そして無自覚に繋がった会話にお互いを見合っては、誰からともなくとりあえずニッコリ。
そんな4人の前で、ケットシーはようやく立ち止まった。
かのんと天藍が不思議そうな顔でケットシーに倣ってその場で止まり。
ぜーはーと息を切らしいつの間にか若干遅れてやってきたペシェ、物凄いのんびりやってきたフランを待ってから。
一同を見渡しケットシーは嬉しそうに声を響かせる。

『はじ、て、にゃっ。こえ、聞いてく……ヒト……!』

「えーと。どういうことかしら?」
 ワケが分からず、当然の疑問をリゼットが口にする。
「ケットシーの声が聞こえる人が集められた、ということでしょうか」
 かのんの言葉にケットシーが首を縦に振った。皆を見渡し、ぺっこんとお辞儀をする。
『おねが、ある、にゃ……聞、て……くれる、にゃ?』
「ええもちろん!」
「まぁそのために来たようなもんだし」
「内容によるわね」
「リズ、こんなときまで冷静すぎるよ」
「吾輩面倒くさ……ごふッ!」
「パイ返してくれるなら」
 即答するファリエリータとヴァルフレード。慎重なリゼットのあまりのらし過ぎる回答に突っ込まずにいられなかったアンリ。
断り文句を放つ前に、パイ取り戻そうと必死なペシェに脇腹どつかれたフランペティルと、目的がハッキリしているペシェの返答。
そして元々協力を申し出ていたかのんと天藍の肯定の表情を見て。
それぞれのその反応で十分だったのか、ケットシーは語り出したのだった。

たどたどしく語られた内容は、つまりはこういうことだった。
『 絵を描いてほしい
  銀色の桜と、そこに並んで佇む男女2人の
  髪の長い女性と、一回り背が高く銀の髪の男性を 』

「どうしてその絵を描きたいのかしら?」
 最初にファリエリータが質問を口にする。
『……その女のヒトの、ねがい、だったにゃ……
 男のヒトも、同じねがい、持ってたにゃ……
 二人とも……いつもすれ違ってばかりで……想い、伝わらなかった、にゃ……』
その女のヒトにはいっぱい優しくしてもらったのにゃ……と。
沢山言葉を使ったおかげか、最初の頃より大分頭に響く声が聞き取りやすくなっていた。
「それ、今からでも本人たちに想い伝えさせて叶えさせた方が早くない?」
 リゼットの問いにアンリも頷き。
「どれくらい前のこと、なんだ?」
『にゃ。ご、ご……』
「なんだ。5か月前か?もしや5年前か?」
『……ご、じゅうねん……?』
「50年……?!」
 リゼットとアンリ、ハモる。
『いつからか……二人とも、想い、残したまま……姿、見えなくなった、にゃ……』
「それはそうであろうな。それぞれ諦めて別の相手を見つけたか、
 今はもう下手すると亡くなっフガ!?」
「フランはちょっと黙っていましょう」
 ペシェにより口を塞がれたフランは、不満そうにもごもごしている。
「その絵を描きたくて、他の人たちの絵の中に女性の姿を描き込んだんですね」
 かのんが穏やかな声でケットシーへと確認する。
『にゃー……でも、いつも、女のヒト描いたところ、で……ヒトに見つかっちゃう、にゃ……
 こえ、とどかないから……追いかけられちゃう、にゃ』
「それはあなたが食べ物を盗るせいもあるかと……」
『にゃ!ご、ごめんにゃ!つい……ヒトの食べ物、おいしーのにゃぁ……』
 ふみゅん、とほっぺに手を当てて幸せそうな顔をするケットシー。
「とりあえず私のパイは返してください」
『にゃにゃ……っ。絵、描いてくれたら、返す、にゃ……!』
 ケットシー、だんだん調子にのってきているような。ペシェは仕方なさそうに溜息をついた。
「それにしても何だって50年も経った今、絵を描き出したんだ?」
 天藍が、怖がらせないよう控えめに声を出す。
『会いに来てくれた、にゃっ。女のヒト、さいごのそのねがいだけ、叶えたくて……
 とってもとっても、さみしそうなの、にゃ……』
「え?最近女性が会いに来られたんですか?」
 かのんの問いに、ケットシーは少し首を傾げてこう放った。

『 今もとなりにいる、にゃ 』

「!?!?」
 女性陣一同、咄嗟にパートナーの服を掴む。
「さぁ!ちゃっちゃと描きましょうか!アンリっ、頼んだわよ!」
「私、精一杯描かせてもらうわ!」
「鋭意努力致します……っ」
「私っ、画材道具ないのですが何かお手伝いを……っ」
 やたら張り切る女性陣、の横で肩を震わせている数名の男性陣がいたとか。
『にゃ?女のヒト、見えてなかった、にゃ??』
「見えません……!」
 今度は女性陣一同がハモるのだった。


●ケットシー、品評する

 女性(つまり幽霊)が見えないと知ったケットシーの提案により、後ろ姿が似ているというかのんをその女性のモデルにし
アンリ、ファリエリータ、ペシェがそれぞれ絵の制作に入っていた。
男性モデルにフランペティルが嬉々として名乗りを上げたのだが。
「吾輩!吾輩がその男のモデルになろう!
 ほれ!麗しいお嬢さんと並んでバランスも良かろう!」
フランがかのんの肩に手を置いた瞬間、皆に見えない位置にいた天藍の額に青筋が走る。
『にゃー……似てない、にゃぁ。もっと逞しいかんじ、だったにゃ』
「な!?き、貴様猫のクセに……っって、あ?!貴様ら何をする!?」
 かのん、ファリエリータによるアイコンタクトによって、天藍とヴァルフレードがフランペティルの左右の腕を掴んで、
向こうへ引きずっていったのだった。時間差でその方向から「うわ何だこの匂い!?」とか声が聞こえたりも。
「本当皆さんうちのフランが邪魔ばかりしてスイマセン……」
 そういえば本部などで見たことがあるような、とお互いがウィンクルムだと分かった一同は
すでに自己紹介を終え、絵も描き終える後半にはすっかり馴染んでいたのだった。

 当初から銀色の桜(と思われるもの)を描いていたアンリは早々に完成させ、リゼットの持ってきたサンドイッチに口をつけている。
「へぇ。美味いじゃん。リズの手作り?」
「そんなわけないでしょ。料理なんてしたことな……なんでもないわ」
 ぷいっと横を向いたリゼットへ、アンリはにっと笑みを向ける。
「まさか作れないのか?」
「や、やればそれくらい出来るわよ」
「へー。じゃぁ今度作ってきてみろよ」
「望むところだわ!」
 こっそりとアンリが心の中でガッツポーズをとったとかとらないとか。
『にゃー……』
 羨ましそうにサンドイッチを見つめるケットシー。
「やらないぞ!」
『にゃ!』
 アンリと睨み合うケットシーにクスクスと笑いながら、後ろ姿のポーズを崩さないままかのんが声をかける。
「お弁当沢山作ってきてますから、後で一緒に食べましょうね」
『にゃ☆』

 ナンパを始めたフランを置いて、天藍とヴァルフレードが戻ってきた頃各自の絵が完成した。
『にゃにゃ』
 あらぬ方向と相談しているケットシーの様子は見て見ぬふりをしながら、かのんも一緒に絵を拝見する。
「皆さん個性的で素敵ですね」
「かのんさん、ありがとうございます。
 ……でもいいのです。分かっています。どう見てもファリエリータさんの絵が断然素敵ですから」
 並べられた自分の絵と比べ、息を吐きつつもファリエリータの綻ぶような銀色の花と寄り添う二人の絵に
自然とはにかんだ笑みを向けるペシェ。
しかしてケットシー(&女性)が出した判定は。

『とっても喜んでるにゃ!この絵、にゃ!』

 アンリの絵の縁をぺちぺちとするケットシーに一同の目が丸い。真ん丸だ。
「ほら見ろ!分かる人には分かるんだな!」
「嘘でしょ……」
 リゼットが唖然と呟く。
『ありがとうにゃっ。ありがとうにゃ!』

 その瞬間、ケットシーの横で美しく微笑む女性が見えた気がした。


 夕暮れも差し掛かり。
返してもらったパイを嬉しそうに頬張るペシェ。
取り返そうとしていたのが自分の物だと知って、渋々パイを一緒に食べているフランペティル。
また、かのんの作ってきたバゲットを食べるケットシーと、クラムケーキを口にして嬉しそうな顔をする天藍の姿。
「洋酒、か?」
「あ、はい。カルヴァドスという蒸留酒を」
「とても美味い」

微笑を交わし合うかのんと天藍。

その背後では、誇らしげに立つアンリの描いた絵を、横にしたり逆さにしたりして唸っているリゼットと
色合いが絶妙ね!と褒め称えるファリエリータ。
いやいやいや……とどこを突っ込もうか悩むヴァルフレードの影たちが
オレンジ色に照らされていた。

もうこの公園で女性の絵が浮かび上がることはないだろう。

相変わらず、ケットシーに食べ物を取られたという噂は尽きなかったとしても……



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 岬ゆみのこ  )


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 05月22日
出発日 05月28日 00:00
予定納品日 06月07日

参加者

会議室

  • [4]リゼット

    2014/05/25-15:29 

    リゼットよ。連れはアンリ。よろしくね。

    うまいかどうかはさておき、ケットシーを見てみたいから
    アンリに絵を描かせて私は様子を見張っているつもりよ。
    お弁当くらいは用意していってもいいかしらね。

  • [3]ペシェ

    2014/05/25-01:04 

    始めまして、ペシェと言います。こちらは、精霊のフラン……
    「ふはははは!吾輩の名はフランペティルである!見目麗しき淑女諸君!吾輩と共に……」
    フランうるさいです(ゴッ)

    えと、私はお買い物した帰り道なんで、持っているスイーツが取られてしまうと思うんです。取られたら……全力で追います。

    フランは気にしてるみたいですが……謎よりも、取られたものを取り返す事を優先したいです。
    必要になったら絵の道具は買うつもりです。誘き寄せるとか……

  • ファリエリータ・ディアルよ、よろしくね!
    パートナーはヴァルフレードよ。

    やっぱり謎が気になるから、絵を描いてみるつもり!
    食べ物も狙われるらしいからおやつも用意していこうかしら。

  • [1]かのん

    2014/05/25-00:17 

    はじめまして、皆様。
    かのんと申します、パートナーは天藍です。
    こちらは2人とも絵心については皆無なので、お弁当持って園内の散策予定です。
    ケットシーに会ったら、いたずらの理由を聞いてみたいなと。
    天藍は、悪さするようなら首根っこ捕まえて確保するかなどと冗談めかして言ってますけど。


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