【夢現】オーガが消えたらどうなるの?(木口アキノ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 フィヨルネイジャから溢れている夢をなんとかしてほしい。
 そんな要請を受け、あなたたちは詳しい依頼内容を聞くためにA.R.O.A.本部を訪れたはずだった。
 しかし、本部に足を踏み入れた途端、受付の職員が受話器を持ってどこかと通話している声がロビーに響く。
「ちゃーっす、え?なになに?オーガが?」
 随分砕けすぎた口調であるが、その時のあなたたちはなぜかこれが気にならなかった。ロビーにいた他のウィンクルムたちも、気に留めていない様子だ。
「えーマジっすか、オーガ消滅したっすか。やったじゃん!」
 職員は受話器を置くと、その場の皆に大きな声で伝えた。
「皆さーん、聞いてください!ついにこの世からオーガがいなくなりましたよー!」
 そんなことを軽く言われて、信憑性なんてあるものか。しかし、なぜかこの時のあなたたちは、これもすんなり受け入れてしまうのである。
 ロビーにはウィンクルムたちの歓声が響いた。
 高揚のあまり、その場で口付けを交わす者もいたほど。
 あるウィンクルムは、
「これで世界は平和だ!何も憂えることはない。さあ、早速僕たちの結婚式を挙げに行こう!」
 と手に手を取って表へ出て行く。
 またあるウィンクルムは、
「もうウィンクルムとして戦う必要がなくなったのか。よし、これからは夢だった冒険家として生きるぞ!」
「素敵!私もついていくわ!」
 と、これまた連れ立って出て行く。
 さらに別のウィンクルムは。
「ふーん、そっか。じゃあ僕たち、もう一緒にいる必要ないね」
「え、ちょ……そんな!」
 精霊が神人に背を向けて立ち去る。
 ウィンクルムたちの反応は千差万別。
 あなたは、チラと自分の精霊の横顔を見上げる。
 世界からオーガがいなくなった。
 もうウィンクルムは必要ない。
 あなたと精霊は、ウィンクルムとして共にいる必要はない。
 私たちの関係は、どうなってしまうのだろう……?


 まあ、これ、白昼夢の中の話なんですけどね。

解説

あなたたちは既にフィヨルネイジャの夢に取り込まれていたようです。
もし世界からオーガがいなくなり、「ウィンクルム」という縛りがなくなったとしたら、2人はその後どんな人生を歩むのだろうか。そんなエピソードです。
ウィンクルムじゃなくなっても伴侶として添い遂げたり。
ウィンクルムじゃなければもう、それ以降はそれぞれの人生を歩んだり。
2人の関係によって様々かと思います。

フィヨルネイジャまでの交通費や、帰りに喫茶店に寄ったりして、一律【700ジェール】消費いたします。

ゲームマスターより

こんにちは!
もし平和な世が訪れたら、その後の皆様とパートナーは、どんなふうに過ごすのでしょうか。
このエピソードで聞かせていただけたら、と思います。
よろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

  それは戦闘の時、前線に斬り込んでいく天藍が戦いで負傷する事がなくなること
…良かった
願っていた戦いの無い状態がこんなに早く実現したことにほっとする

違いますよ
天藍の言葉が彼との契約前を指しているように感じて否定
ウィンクルムじゃなくなっても、天藍と私が一緒に暮らすのは変わらないでしょう?
元の生活にじゃないです

これから?
…そうですね
年間の管理を請け負っているお庭達にもっと手をかけられますし、こまめな管理が必要で避けてた草花も使えますね
造る庭のバリエーションが増えたらお客様に喜んで貰えそうです
…薔薇の育種ももう少し先に進めれたら良いですね

天藍が出かけている時はちゃんと留守を守っておきますね
寂しいのは我慢


ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  オーガがいなくなってから数日は私達は一緒にゆっくり生活していたんですが…
ディエゴさんが何かしら無理をしてるのは私にはお見通しです、というか隠してるのが心外ですね。

本心を言わなければ実家に帰るとおど…説得してなんとか本音を引き出します。
ディエゴさんの気持ちはわかるような気もしますけどね
そういう事を言われると私も傷付きますよ、貴方が一番大事ですから。

それに…平和じゃないですよ!思い詰めたら視界がこーなっちゃう(狭く)んだから
まだオーガや教団の爪痕が残って困る人がいるんですから助けを求めてる人もいるかもしれない…ディエゴさんはそれを確かめないと!
必要なものだけもってバイクで見に行きましょう、今すぐ。




ひろの(ルシエロ=ザガン)
  もう、戦わなくていいんだ。そっか。「なら」(呟く
「自分の家に帰る、ね。私」(ちらりと見上げ、俯き小さく告げる

(小さく首を横に振る
「オーガがいなくなったら、一緒にいる理由が」なくなる、から。(自分で言って胸に刺さる
「……言った、けど」

「契約は、オーガを倒すためで。いなくなったら……」
「一緒に、いれない」ウィンクルムがいらないなら。私はただの役立たずだから。(声が掠れる

(反応が怖くて肩を揺らす
? 何。(体勢に困惑し、場所がロビーでより恥ずかしい
……え?(一拍置いて見上げる
(想定外で思考停止

……え?(思考が空回る
でも「家には、帰る」一度も帰ってないし。
「……あ、の」
どうしよう。(嫌ではない。臆病なだけ


向坂 咲裟(カルラス・エスクリヴァ)
  オーガが消えたの?
…これでお母さんもお父さんもお友達も、オーガに怯えなくて済むのね
良かったわ…ねぇ、カルさん?

…これでお別れ?どうして?
カルラスさんの言葉に一つ一つ反論
いいえ、家族は反対しないわ
いいえ、歳なんて関係ないわ
いいえ、貴方のお陰で色々な事を知ったわ

視線を合わせてくれないカルラスさんに、瞳を見てとお願いするわ
ねぇ、カルラスさん
ワタシが貴方と会いたいから
理由はそれだけではダメなの?

カルラスさんの手にそっと手を重ねて言うわ
ねぇ、カルラスさん
今度バイオリンの練習に付き合って欲しいわ
もっとお出かけして、素敵な思い出を作りたいわ
サキサカサカサは、ずっと貴方と一緒に居たいわ
それでも、ダメかしら?


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  オーガが居なくなった、と言われても。
俄かには信じがたいぶぶんがありますし、何処かからはぐれオーガが出現するかもしれない。1年程度は今までと似た生活を送ります。
どんな場合でも『もう大丈夫』と気が緩んだ時が一番危険ですから。
急速にオーガ関連の資料が失われる可能性が高いので
今までのオーガ関連事件の記録・報告書を読み漁ります。
スキル記憶も使用し覚えてゆきます。
可能な限りAROAに通う感じですね。
毎回フェルンさんを誘って行きます。
出来ればこれらの記録などを研究できる大学へ進みたいです。
院まで行けるとなお良いてすね。
こういう事をじっくり話せるのはフェルンさんが一番なので、色々と相談することも増えそう。




●温かな未来を夢見て
 この世界から、オーガがいなくなった……。
 かのんは、隣に立つ天藍の顔を見上げた。
 彼も、こちらを見返してくる。
 それは、戦闘の時、前線に斬り込んでいく天藍が戦いで負傷する事がなくなるということ。
 それは、かのんが戦闘に赴く必要がなくなるということ。
(良かった……)
 かのんがずっと願っていた戦いの無い状態。それがこんなに早く実現するなんて。
 かのんはほっと安堵の微笑みを浮かべる。
 天藍も同じらしく、
「これで、元の生活に戻れるな」
 とかのんに笑みを向けた。
 元の、生活。
 その言葉を口中で繰り返し、かのんの顔からすっと笑みが引いた。
「どうした?」
 その変化に気づいた天藍が問う。
 かのんから笑顔がなくなったばかりか、若干不満そうにも見える。
「違いますよ」
 かのんにしては珍しく、強い口調で言う。
 天藍は瞳を瞬かせた。
「ウィンクルムじゃなくなっても、天藍と私が一緒に暮らすのは変わらないでしょう?元の生活にじゃないです」
 そう言うかのんの真剣な表情に、天藍は頰を緩めた。
「そうだな、これからも2人で一緒に暮らす事は変わらないよな」
 帰ろうか。2人で暮らす、2人の家へ。
 どちらからともなく手をとって。ゆっくりと、家路を歩く。
 そう、手を繋いでお互いの温かさを感じながらゆっくりと歩きたい。そうして平和な世というものの空気をたっぷりと味わいたい。
「これからどうする?」
 晴れた空を仰ぎ天藍が訊く。
「これから?……そうですね」
 天藍に倣って空を見上げながら、かのんは少し、考える。
 これから。
 考え始めたら、やりたいことが次から次へと浮かんできた。
「年間の管理を請け負っているお庭達にもっと手をかけられますし、こまめな管理が必要で避けてた草花も使えますね」
 かのんの口から、滑らかに言葉が溢れ出る。
「造る庭のバリエーションが増えたらお客様に喜んで貰えそうです……薔薇の育種ももう少し先に進めれたら良いですね」
 かのんにはまるで、目の前に咲き乱れる花が見えているかのようであった。
 いつになく饒舌なかのんを微笑ましく思い、天藍は彼女の横顔をそっと見る。かのんの瞳は、未来への期待できらきらと輝いていた。
(かのんらしいな)
 天藍の唇の端に笑みが浮かぶ。
 自分ばかりが喋ってしまったことにはたと気付いたかのんは、ばつの悪さに少し頰を染めながら「天藍は?」と訊き返す。
「……俺は」
 天藍は再び空を見上げた。平和な、空を。
 この空の下で、自分たちばかりではなく動物たちも生活しているのだと思いを馳せる。かのんと見たあのエゾリスたちも。
 ああ、またいつか、かのんとエゾリスたちに会いに行きたいな。なんて考えると、自然と言葉が出てきた。
「近隣の瘴気の様子や野生動物たちの影響をまずは確認に行きたいな」
 言いながら天藍は、野外活動が増えれば家を空ける機会が多くなることに思い当たり、口を噤みかのんを見遣る。
「天藍が出かけている時はちゃんと留守を守っておきますね」
 かのんは、そんなことは承知していると言わんばかりに微笑みを彼に返した。
 もちろん、天藍がそばにいないのは寂しいけれど。それでも、天藍の夢のためなら我慢できる。
「でも、できれば、携帯がつながる場所で状況が許す時にでいいですから、電話をしてくださいね。……声を聞きたいですから」
 上目遣いでそう言われ、天藍の顔に笑顔が戻る。
「もちろんだ。と、言うか。俺の方こそかのんの声が聞きたくなって、機会がある毎に電話をかけてしまうかもな」
 天藍が照れ笑いすると、かのんも笑う。
 花のこと、野生動物のこと、愛する人のこと。
 これからは、自分たちの好きなもののことを考える時間が存分にある。それはなんて素敵なことなんだろう。
 2人の笑い声は、穏やかな空にいつまでも響いていた。

●一緒に、帰ろう
 もう戦わなくていいんだ。
 ひろのの胸に広がったのは、安堵か、それとも。
(そっか)
「なら」
 傍に立つルシエロ=ザガンにだけやっと聞こえるくらいの小さな呟き。ちらりと目線で彼を見上げる。
 ウィンクルムとして、彼と戦線に立つ必要は、もうないのだ。
「自分の家に帰る、ね。私」
 ひろのは俯くと、小さくそう告げた。
「ヒロノ?」
 告げたきり、顔を上げる気配のないひろのにルシエロは怪訝そうな顔になる。
「オレの家は居心地が悪いか」
 訊きながらも、どうしたらひろのが自分の家に帰らずに、ずっとルシエロの家にいてくれるだろうか、と目まぐるしく策を練る。
 訊かれたひろのは、控えめに首を横に振った。
「オーガがいなくなったら、一緒にいる理由が」
 言いながら、どんどん声が小さくなる。
 自分の言葉ながら胸に刺さって、最後まで言えない。
 一緒にいる理由が、なくなる、から。
 最後まで言ったら涙が溢れてしまうかもしれない。そうしたら、きっとルシエロに迷惑がかかる。
 けれどルシエロは、自分が否定されたわけではないと知り、ひとまず安堵する。
「ずっと一緒にいると言ったのはオマエだろう」
 苦笑まじりに言えば、小さな声が聞こえ返ってくる。
「……言った、けど」
 衣服の胸の辺りをぎゅうと掴み、ルシエロから視線を外して答えるひろの。
「けど?」
 ルシエロはひろのの視線の先に回り込んで問う。
 まさか、オーガが消えたら精霊など不要だと言うのか。ひろのに限ってそんなこと考えるはずはないとわかっていても、さすがのルシエロにも若干の不安が生じる。
 ひろのはルシエロの視線から逃れるように反対側に顔を背け、細々と話す。
「契約は、オーガを倒すためで。いなくなったら……」
 2人の間に流れる沈黙。
 ルシエロは次の言葉をじっと待った。
 この時間がもどかしいが、ルシエロは続きを急かすような真似はしない。
 待たなければ、ひろのは話さないだろう。きっと、話せない。それをよく理解していたから。
 漸くひろのが口を開く。生じたのは、ひどく掠れた声だった。
「一緒に、いれない」
 その言葉に、ルシエロは目を瞬かせた。
 ルシエロは徐々に表情を和らげていき、尚も掠れた声で苦しそうに、ウィンクルムがいらないなら。私はただの役立たずだから。と呟くひろのの言葉を遮る。
「ヒロノ」
「?」
 ひろのは、これから言われるであろう絶望の言葉に身構えるように肩を震わせ、「何」と問い返す。
(まだ告げる気は無かったが、オマエに理由が必要ならば……)
 ルシエロは優しい嘆息を吐く。
「共にいる事に理由が要るなら、よく聞け」
 ひろのの頭を自らの胸に抱き寄せた。
 ひろのはその体勢に困惑する。ここがロビーであるからその困惑はより一層大きなものであるが、ルシエロはそれに構わず耳元で囁く。
「好きだヒロノ」
 ひろのはすぐに反応できなかった。
「……え?」
 一拍置いてルシエロを見上げるが、思考は未だ停止中。
 囁いたルシエロの唇は、そのままひろのの髪に触れる。
「愛してる。手放せない程に」
「……え?」
 続けざまに耳に入ってくるルシエロの言葉をなんとか理解しなければと頭を働かせるが、思考は空回り。
「これからも共に暮らしたい。理由が必要なら、オレの言葉を理由にしろ」
 何を言っているんだろう。何を言われているんだろう?
「それに。逃げても追う」
 ルシエロの唇がにぃっと弧を描く。
 なんと返事をしたらいいのか、ひろのにはわからなかった。でも、とりあえず。何か答えなければ。
「家には、帰る」
 もしかしたら的を外したことを答えているのかもしれないけれど。
「一度も帰ってないし」
 すると、ルシエロはさらに笑みを深めた。
「オレも行こう。契約した精霊を知りたいだろうからな」
「……あ、の」
「返事は後でいい」
 ルシエロはにこやかにひろのを解放すると、「帰るぞ。オレの家に」とひろのを促した。
(どうしよう……)
 ルシエロの隣を歩きながら、ひろのは返事をどうするか考える。
 共に実家に帰るのは、少し怖い。
 けど、決して嫌なわけではないことに、ひろのは気付いていた。

●理由なんて
「オーガが消えたの?」
 向坂 咲裟は職員の言葉を噛みしめると、やがてじんわりと嬉しさが込み上げてきた。
「……これでお母さんもお父さんもお友達も、オーガに怯えなくて済むのね」
 きらきらした瞳で、傍の精霊、カルラス・エスクリヴァに顔を向ける。
「良かったわ……ねぇ、カルさん?」
 咲裟の言葉と瞳から勢いが消える。
 同じように笑って喜びを分かち合えると思っていた彼は、静かに微笑んで咲裟を見つめているだけだったから。
「これで、私たちはお別れだな」
 静かな声でそう告げる。
「……これでお別れ?どうして?」
 咲裟は納得がいかなかった。
 オーガが消えたことから、どこをどう繋げれば2人がお別れすることになるというのだ。
 だがカルラスの方は、咲裟と違って分別のある大人である。何の関係もない中年男性と年端もいかぬ少女が共にいて世間からどのように見られるのか、よく知っている。そしてそれが、咲裟にとって良い方向には転ばないであろうことを、充分に予測できる。
 だから、大人であるカルラスから、引導を渡さなければならない。
「どうして?……もう、ウィンクルムではないんだ」
 カルラスは優しい笑みで咲裟を諭す。
「私達が会う理由はなくなっただろう?」
「ウィンクルムでなければ、会ってはいけないなんて誰が決めたの?」
 カルラスはやれやれと後頭部を掻く。
「私たちはこんなにも歳が離れている」
「いいえ、歳なんて関係ないわ」
「親御さんが心配するだろう」
「いいえ、家族は反対しないわ」
「……君の将来の為にはならないだろう」
「いいえ、貴方のお陰で色々な事を知ったわ」
 カルラスがどんなに理由を並べ立てても、咲裟はすぐに反論を返す。
 咲裟の瞳から逃れるように、カルラスは自分でも気づかぬうちに少しずつ、彼女から顔を背けてしまっていた。
 カルラスが「理由」を述べれば述べるほど、そんなものは何の問題にもなり得ないのだと咲裟に打ち破られる。
 何を言えば、彼女は納得してくれるだろう。それ以前に、彼女を納得させられる理由なんてあるのだろうか。
 カルラスは、次の「理由」を考える。
 が、ずい、と視線の先に唇を引き結んだ咲裟の顔が割り込んできた。
「ワタシの瞳を見て」
 またしても顔を背けようとしたカルラスだが、咲裟の言葉に先回りされてしまい、躊躇いがちに彼女の瞳を見返した。
「ねぇ、カルラスさん。ワタシが貴方と会いたいから。理由はそれだけではダメなの?」
 彼女の言葉はいつだって、自分の心に嘘偽りなく真っ直ぐで。
 大人が持つ常識だとか、偏見だとか、そんなものでは彼女の行く先なんて阻めない。
 彼女の存在は、強く、眩ゆい。
 カルラスは眉を下げ目を細めた。
 前からわかっていたではないか。
 彼女の持つ輝きを。
 そして自分は、本当はこの輝きから離れたくないのだと。この輝きを失いたくないのだと。
 咲裟は自分の手をカルラスの手にそっと重ねる。
「ねぇ、カルラスさん。今度バイオリンの練習に付き合って欲しいわ」
 先ほどとは打って変わって柔らかな口調であった。それは、雨粒が乾いた石に染み込むように、カルラスの胸に染み入った。
「もっとお出かけして、素敵な思い出を作りたいわ。サキサカサカサは、ずっと貴方と一緒に居たいわ。それでも、ダメかしら?」
 純粋な希望の前に、一般論という張りぼてで作られた「理由」なんて何の意味も持たないのだと、改めてカルラスは思い知らされた。
 ああ!私の負けだ!
 カルラスは自分の髪をくしゃくしゃと掻いた。
「こんな男だが……私も、会いたいさ」
 絞り出すようなカルラスの言葉に、咲裟はみるみるうちに表情を華やがせる。
 それは、「オーガが消えた」と聞いた時以上のものであった。
 カルラスは苦笑いを返す。
 そして、ああ言ってしまったからには、この少女を大切にしていかなければならないな、と思った。
 それこそ、大人の責任として。

●今までも、これからも
 本部から帰る途中で立ち寄った喫茶店で、フェルン・ミュラーはアイスコーヒーの氷をからりと回す。
 そんなフェルンの表情を見て、瀬谷 瑞希は言った。
「フェルンさん、嬉しそうですね」
「それはそうだよ。オーガが居なくなったら、ミズキが危険な目に遭わなくて済む」
 すると、瑞希はきりっと表情を引き締める。
「オーガが居なくなった、と言われても。俄かには信じがたい部分がありますし、何処かからはぐれオーガが出現するかもしれないです」
 フェルンは、なるほど、と瑞希の話に耳を傾ける。
「しばらくは今までと変わらない生活を送りたいと思います」
 フェルンは、ミズキらしいね、と笑った。
「どんな場合でも『もう大丈夫』と気が緩んだ時が一番危険ですから」
 瑞希の提案はフェルンにとっても大歓迎だった。ウィンクルムではなくなっても、パートナー解消にはならないということなのだから。
 それからの瑞希は、これまで以上に足繁くA.R.O.A.本部に通うようになった。
 瑞希曰く、
「急速にオーガ関連の資料が失われる可能性が高いですから」
 ということで、今までのオーガ関連事件の記録や報告書を片っ端から読み漁る。
 ただ読むだけではなく、記憶力のスキルも活用し、それらをきっちりと記憶してゆく。
 瑞希は時間の許す限りA.R.O.A.に通った。
 そしてその時にはいつも、隣にはフェルンがいた。
「毎回付き合ってもらってごめんなさい」
 今日目を通した資料を片付けながら瑞希は眉を下げる。
 フェルンは微笑み静かに首を振る。
「いいんだよ。今までの出来事をちゃんと記憶しておきたいというミズキの気持ち、俺もわかるから」
 フェルンにそう言ってもらえると、瑞希の心も軽くなる。
 それに、とフェルンは続けた。
「それに毎回誘ってくれるのは嬉しいよ」
 俺は毎日だって瑞希に会いたいし、と、にこっと笑みを深めるフェルンに、瑞希は胸が高鳴ってしまう。
 A.R.O.A.に足を運んだ日は必ず、その帰りにフェルンは瑞希を街へと誘う。
 疲れたんだから、という理由でスウィーツ巡りをしたり、ランチをしたり、映画を見たり。
 資料の記憶に付き合ってもらったお返しにと、瑞希はそれを断らなかった。
(これがデートになってるって、ミズキは気付いているのかな)
 街のショーウィンドウに映る自分たちの姿を見て、フェルンはこっそり笑った。
 フェルンが瑞希からのA.R.O.A.への誘いを断らないのには、こういった理由もあったのだった。
 2人が合う頻度は、ウィンクルムであった時よりもむしろ増えたかもしれない。
 ある日、いつものようにA.R.O.A.へ行った帰りのこと。
 2人で新作のパフェを食べながら、いつになく真剣な表情で瑞希は打ち明けた。
「出来ればオーガの記録などを研究できる大学へ進みたいです」
 フェルンは少し目を丸くしてから、
「うん、良いと思う」
 と微笑んだ。
 フェルンに肯定してもらい、瑞希にも笑みが広がる。
 フェルンにこうやって背中を押してもらえると、言いようのない安堵に包まれる。
 いつの間にか、フェルンが掛け替えのない存在になっていた。
「院まで行けるとなお良いですね」
 瑞希が語る夢を、フェルンは優しい瞳で聞いていてくれる。
「こういう事をじっくり話せるのはフェルンさんが一番かも」
 瑞希はそう言って、照れくさそうに笑ってパフェを突く。
「そう言ってもらえると、嬉しいよ」
 フェルンもにっこりと双眸を細めた。
「これからも、色々と相談に乗ってくれますか」
「もちろん」
 ウィンクルムではなくとも、掛け替えのないパートナー。
 きっと2人なら、夢に向かって進んで行ける。

●新たな旅路
 オーガはいなくなった。
 俺達の悲願成就というわけだ。
 役目もなくなる。

 ディエゴ・ルナ・クィンテロはやっと訪れた平穏な日々を、ハロルドと共に、買ってそのままだった本を読んだり、バイクをいじったりなどして過ごしていた。
 趣味に没頭できるなんて、有難い毎日だ。
 時間はゆったり、ゆったりと過ぎ……。
「………」
 気付くとディエゴは所在なさげに遠くを見つめることが多くなった。
 そんなディエゴを、ハロルドは冷静な目で観察していた。
「ディエゴさん」
 バイクいじりの後のコーヒータイムに、ハロルドが口火を切った。
「何か、無理をしているんじゃないですか」
「急に何を……そんなこと、あるわけがない」
 笑いまじりに言うが、視線は泳ぐ。
 ハロルドは厳しい口調で言った。
「ディエゴさんが何かしら無理をしてるのは私にはお見通しです、というか隠してるのが心外ですね」
 ディエゴの視線が更に激しく揺れる。
「いや、隠すとか、そういうつもりは……」
「ディエゴさん」
 ぴしりと、ハロルドは宣告する。
「本心を言わないようであれば、夫婦としてやっていけません。実家に帰らせていただきます」
 実質脅しの説得で、ディエゴは口を破らざるを得なかった。
 躊躇いがちに話し始める。
「俺は……ウィンクルムになる前も後も戦うために生きていた。だから平和だと言われると俺の存在価値について……詮無い事を考える」
 ディエゴは窓の外に視線を移す。そこに広がる穏やかな世界。しかしそこに、自分は相応しくないのではないかと。平和な世界に身を置くには、ディエゴは硝煙の匂いに塗れ過ぎてしまったのだ。今のこの世の中にとって、ディエゴは異質な存在なのだ。
 ディエゴはそっと目を伏せた。
「不謹慎なことだとは思うが……オーガがいた方がな、と……」
 ハロルドはため息を吐いた。
「ディエゴさんの気持ちはわかるような気もしますけどね」
 共に戦いの場に身を置いたハロルドだ。全てとは言わないまでも、ディエゴの感じている居心地の悪さを理解できる。だが。
「そういう事を言われると私も傷付きますよ、貴方が一番大事ですから」
 大切な人が、自らの存在を否定して生きている。その事実は胸を痛める。
「それに……」
 ハロルドはぱんとテーブルを叩いた。ディエゴが驚いて目を開ける。
「平和じゃないですよ!思い詰めたら視界がこーなっちゃうんだから」
 ハロルドは顔の前で両手を向かい合わせて狭まる視界を表現してみせる。
 その両手の間に、瞳を瞬かせているディエゴの顔が見えた。
「まだオーガや教団の爪痕が残って困っている人がいるんですから。助けを求めてる人もいるかもしれない……ディエゴさんはそれを確かめないと!」
 ハロルドは椅子から腰を浮かしディエゴにびしっと人差し指を突きつけた。
 ディエゴはしばしの瞬きののち、その顔にふっと笑みを浮かべる。
(神人に打ち明けて正解だった。俺の気持ちを汲んで不安を晴らしてくれる)
 ディエゴの胸に温かいものが広がった。急速に世界に色彩が戻っていくような気がした。
 ……が、いきなり旅に出る事になった。
「必要なものだけもってバイクで見に行きましょう、今すぐ」
 ハロルドはディエゴの腕を引いて立たせると、クローゼットの奥から小さめのトランクを引っ張り出し、ぽいぽいと衣服やら日用品やらを放り込み始める。
「ほら、ディエゴさんも早く準備する!」
「いや、その……」
「行かないんですか?」
 ハロルドは本気だ。本気で、今すぐ旅に出るつもりらしい。
 ディエゴは苦笑するしかなかった。
 なぜなら、それはディエゴの心も求めていた事なのだろうから。
「ああ、すぐに準備する」
 恐らく暫くタブロスには戻らない。
 が、神人と一緒ならどこでも幸せな気がした。

 だから俺達は世界を回る。

 トランクを括り付けた2台のバイクが走り去る。エンジンの音が遠のいて、後には風に吹かれる草花が揺れるのみ。

〜Fin〜



依頼結果:大成功
MVP
名前:ハロルド
呼び名:ハル、エクレール
  名前:ディエゴ・ルナ・クィンテロ
呼び名:ディエゴさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木口アキノ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月24日
出発日 03月30日 00:00
予定納品日 04月09日

参加者

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