【夢現】若かりし君と(北乃わかめ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 これは夢だ。それはすぐにわかった。

「おい、おまえ。なにジロジロみてんだよ」
「……まさか、そんな年の頃から口が悪かったとは」

 憮然とした顔でこちらを見上げる少年。
 パートナーの姿をそのまま縮めたのかと思うほどに面影のはっきり残る少年は、どうやら自分のことは覚えていないらしい。

「まぁなんでもいいや。おまえ、ヒマならおれとあそべ! おまえが『あくのかんぶ・ディアボロ』な!」
「ちょっと待て。見ず知らずの人間と遊ぶなんて、危機感というものがないのか」
「なんだ、ちょうがつくほどマジメだな、おまえ」

 少年はふん、と呆れた態度を取る。どこまでも不遜なその態度は、やはりパートナーのそれだ。
 しかし、いくら夢とはいえこの状況はなんだろうか。小さくなったらしいパートナーと、このまま過ごしていいものか。
 あなたが頭を悩ませていると、少年が「おい」と声をかけてきた。

「なにをそんなにまよってるんだ」
「あのな、俺は――」
「おまえがなにをかんがえてるのか、しらないがな。ウジウジしててもしかたないだろう。今をたのしんだモンがちだぞ!」

 びしっと人差し指を向けられる。指を差すなと指摘しようかとも思ったが、あまりにもまっすぐこちらを見るので口を噤んだ。
 思えばこんな夢の中で、確かに堅苦しく考えすぎていたのかもしれない。
 夢が溢れてしまうなんて大変な事態ではあるが、何もすべてを難しく考える必要などないのだから。

「……とりあえず、俺が知っている役柄にしてくれ」
「なに?! おまえ、『テイルスせんたい』知らないのか?! 時代遅れだな!」
「あー……まぁ、そうとも言う、か?」

 何をして遊んだらいいか、と頭を悩ませそうだった。

解説

 もしも、パートナーの精霊が幼少期に戻ってしまったら?

 フィヨルネイジャの白昼夢です。
 夢から覚めるための必須条件などはありません。
 幼少期の精霊としばらく過ごしていただければ、自然と目覚めるようになっています。

 幼少期になってしまうのは「精霊のみ」です。
 記憶ごと幼少期に戻っているため、記憶はありません。
 プロローグのように夢の中で遊ぶでもよし、幼少期の精霊を慰めたり、逆に慰められたりもあるかもしれません。
 目覚めた後をプランに書いていただいてもOKです。
 白昼夢の内容は精霊の記憶にも残ります。目覚めた際、「幼少期の自分に、神人はこんなことをしてくれた(言ってくれた)なー」という感覚です。

 ほのぼのとした内容でも、シリアス全開でもOKなので、幼少期の精霊と夢の中で過ごしてください。



※目覚めた後、精霊とお茶しました。300jr消費します。
※個別描写となります。

ゲームマスターより

いつもお世話になっております。北乃わかめです。
せっかくなのでイベントエピソードをと思い、ついでに軽率に年齢操作ネタをぶっこみました。
今回は精霊のみ、幼くなる仕様です。

素直な言葉を言えたり、逆に周りの空気を察して言えなかったり。
人によって様々な過去・背景がありますので、その一片でも見せていただけたらなと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セラフィム・ロイス(火山 タイガ)

  何で森に・・・日差しが暖かい。花もこんなに、もう春だもんね
!今横切ったのって・・・!

(速っ どうやったら山をそんなに駆け上がれるの)
いた!危ない!?
わ!?(目を瞑り

怪我?怪我したの?みせて見て

それならいいんだけど・・・危ない事しちゃ駄目だよ
・・・お母さんが心配するよ?
・・・・・・そういう問題じゃなくて
よかったら僕も手伝おうか?

僕はセラフィム。よろしく、タイガ
(やっぱり小さい頃のタイガだ。幼くても変わらない。今に増してやんちゃだったんだ)
あ、女じゃなくて男だからね?

それでも!まあ火山家のパワフルさは身をもって知ってるけど・・・


・・・それは、できるかもね
(小さな君もいいけど、本当のタイガに会いたい)


信城いつき(ミカ)
  ミカが小さくなってる、かわいい!
抱きしめようとしたら蹴られた…手強い。

知らない人がダメなら、友達にならない?
ちょうどマフィン作ってたから、一緒に食べよう

幼いミカは…ちょっと口は悪いけど素直だな
表情がころころ変わるのがかわいい

大丈夫、ひとりぼっちになんかならないよ
彼を大事に思う人がちゃんといるから

小さい頃からレーゲンの事大事にしてくれてたんだ
ミカも、優しいいい子だね
泣いてるミカをだっこして頭をなでてあげる


目覚め後
うわぁ…ミカめちゃくちゃ怖いオーラ出してる

でもこれは伝えないと

俺!レーゲンの事ひとりぼっちにさせない!幸せにするからね!
もちろんミカもだよ。ミカの事もちゃんと幸せにするから!


楼城 簾(フォロス・ミズノ)
  ミズノさんはモノクルをしてないし、瞳の色も両方ヘーゼルだ
「道を教えてくれないかな」
愛くるしく笑い、丁寧に交番の行き方を教えてくれる
けどね?
「君はいつもそうなのかい?」
小首を傾げるミズノさん
「本心からなら優等生だけど、僕は子供の頃から君の様な子供と出会うのに困らなかったものでね、君のは演技と判る」
すると、演技終了…
「君は、最初から『そう』なんだね」
僕とは違う
だから僕の契約精霊になれたんだろう

目覚め後
「いい反面教師だよね」と彼を見る
紅竜の事を聞かれたら「紅竜さんは自分の立場抜きにして僕に遠慮しない。下心なく対等でいてくれる大切な人だ
君とは違う」
宣言には「受けて立つよ。僕は独りじゃない」
紅竜がいる


シムレス(ソドリーン)
  白昼夢と認識

少年に
「ソドリーン あんたなのか?」
彼が驚き警戒の睨みを見せ逃げた
「いいだろう その挑発受けて立つ」
追いかけっこの態に
上手く逃げるものだ(感心
「こういう者だ」左手紋章見せる

止まってくれた 息切れ
彼は過去 自身を精霊と知らずAROAから保護と分らず逃げ回った時期があったそうでどうやら それ と思われてると察した
脅しに ああ と薄く笑む

問われ
「知っている…だがそれは俺の主観だ 正解ではない」
彼なら何と言うか興味が湧いた
「何であったらいいと思うのだ?」
小声で囁かれた 家族 のワードが意外
俺を見上げた顔が寂し気に見えた

覚めた
「家族? …興味深い」

「…戒め だ」
一層渋い顔になった
意を察して不服な様だな

愉快な一時だった


アーシェン=ドラシア(ルーガル)
  話のできる場所に行かねばならない
俺の家よりは安心できるだろうと、ルーガルの部屋に連れて行く

俺達がウィンクルムであることと、現状を説明する
…記憶が無いと分かっていても、全く信用されないと傷つく
証明として新聞の日付を見せると、俺を睨む目の鋭さが和らいだ気がした

質問にも真摯に応える
あんたは今19だ

…返答に思わず抱きしめる

迷惑なものか
大人は子どもを守るものだ
実際大きくなったあんたはいつも孤児院に仕送りしている

頼って寄りかかって生きればいい
そして大きくなって、俺と会うんだ
何のために生きるか見いだせないなら、俺のために生きてくれ
俺にはあんたが必要だから

ルーガルをぞんざいに扱うことは、あんた自身でも許さない



 空が、狭いな。
 シムレスはぽつり、そんな感想を漏らした。背の高いビルが乱立する姿を遠くに見ながら、これはどんな夢なのだろうと壁の崩れかけた家屋を見回す。
 ふと視界の端に映った少年の姿が目に留まる。少年の持つ鋭い眼光には、覚えがあった。

「ソドリーン……あんたなのか?」
「――!」

 問われ、はっと少年の目が大きく開かれる。それは少年がパートナーであるソドリーンであることを物語っていた。
 途端に踵を返し、走り出す幼いソドリーン。警戒を強めた彼の瞳から、逃げられたのだと即座に気づいたシムレスはすぐさま地面を蹴った。

「捕まらねぇよ、べー!」
「……いいだろう、その挑発受けて立つ」

 振り向きざまに舌を出したソドリーンに、ほんの僅か口角を上げる。
 地の利を持つソドリーンは、それを活かし細い路地裏を通ってシムレスの後ろに回り込むなど突飛な行動を見せた。「こっちだ!」と挑発する余裕を見せながら、スピードを緩めることなく走り続ける。
 シムレスもまた、時折ソドリーンを見失うことがありつつも、懸命に追いかけた。上手く逃げるものだと感心するも、そろそろシムレスの体力が限界に近い。

「あんた何モンだ!?」

 一方で、追っては来るものの捕まえようとする素振りを見せないシムレスに、ソドリーンがしびれを切らした。
 荒げた声に、シムレスは走りながらも「こういう者だ」と左手の紋章を見せる。そこでようやく、ソドリーンは驚きで足を止めた。続いてやっと歩を緩められたシムレスが、乱れた呼吸を整えようと胸を押さえる。

「……ガキだと思って舐めると痛い目見るぜ」
「あぁ、わかっている」
「絶対に、捕まってたまるか」

 自分と一定距離を保とうと後退するソドリーンを見て、両手を挙げて立ち止まった。警戒心は消えないが、その目には好奇心が混じっているのもわかる。
 ソドリーンの言葉から、自身が『追っ手』だと思われていることに気づいた。ソドリーンは過去、A.R.O.A.に追われたことがある。とは言っても、自分が精霊だという自覚がなかったために、保護とわからず逃げ回ってしまっただけなのだが。
 おそらく目の前の少年は、その時代のソドリーンなのだろうと容易に推測できた。

「これが何か知ってんのか?」

 シムレスと同じ紋章が浮かんでいる左手を見せるように掲げ、ソドリーンが問う。

「知っている……だがそれは俺の主観だ。正解ではない」
「あ? それってあんたも知らねぇって事?」

 明確な答えがほしかったソドリーンだが、シムレスの返答につまらなそうに紋章を見つめた。その姿を見て、シムレスはひとつ興味を投げかける。「何であったらいいと思うのだ?」と。
 ソドリーンはその場で首を傾げた。同じ紋章を持つ者がいる、その意味とは何か。自分にとって、どんな意味を持っていてほしいのか。

「んー……」
「……」
「……家族の印?」

 ぱちり、と一瞬目が合う。だが、シムレスが何か声を発する前に、ソドリーンが再び走り出してしまった。「バーカ!」とめいっぱい声を張り上げて。
 シムレスの脳裏には、走り出す直前のソドリーンの顔が――寂しげに揺れた幼い瞳が焼き付いていた。



「家族? ……興味深い」

 しげしげと呟いたシムレスの言葉に、ソドリーンの眉間のしわが深くなる。どうやらソドリーンにも夢の中の記憶は残っているようで、不公平だと唇を尖らせた。

「あんたの答え聞いてねぇぞ」
「……戒め、だ」

 言いながら、自らの左手の紋章をくるりとなぞる。その様子に、ソドリーンは一層渋い顔をした。不服そうなソドリーンを見て密かに笑む。

(――愉快な一時だった)





「ミカが小さくなってる、かわいい!」

 目を開けた信城 いつきは、目の前の少年を見て目を輝かせた。
あまりの可愛さに抱き着こうとしたいつきの鳩尾に、幼いミカが容赦なく蹴りを入れる。

「しらないひととはなしちゃ、だめなんだぞ!」

 子どもの力なのでさほど痛みは感じなかったが、びしっと指を差されて言われた言葉に手強さを感じた。
 警戒心を隠さないミカの鋭い瞳に、いつきはゆっくりと呼吸をして冷静になる。それから、その場にしゃがんでミカと視線の位置を合わせた。

「知らない人がダメなら、友達にならない?」

 ともだち? とミカが繰り返す。いつきは柔らかな笑みを見せ、持っていたカバンから手のひらサイズのマフィンを取り出した。
 ミカともうひとりの精霊のために作っていた物だ。カバンの中身も夢に反映されていて、いつきはこっそり安堵する。

「ちょうどマフィン作ってたから、一緒に食べよう」
「そんなおやつなんかで……。……おいしい」
「よかった」

 はじめは怪訝そうに見ていたが、見るからにふわふわで美味しそうなマフィンの誘惑に抗えず、おそるおそる口に含んだミカ。途端、ぱぁ、とミカの目がきらめいた。

(幼いミカは……ちょっと口は悪いけど素直だな。表情がころころ変わってかわいい)

 もぐもぐと食べ進めるミカ。その姿はまるで小動物のようだ。
 しばらくいつきがにこやかに眺めていると、マフィンを半分ほど食べたところでミカが動きを止めた。ミカがマフィンを見つめながらぽつりと呟く。

「マフィン……レーゲンにたべさせたら、よろこぶかな」
「え……レーゲン?」
「レーゲンはおれのおとうとだ! いつもいっしょにあそんでやってるんだ」

 いつきを見上げ、自慢話をするように声を弾ませた。「遊んでやっている」と言いながらも、仕方なく遊んでいるなんて感情は微塵も感じられない。
 ふと、ミカの表情が陰る。視線は、今度は足元に落とされた。

「……あいつ、たんじょうびのプレゼントもともだちも、なにもほしがらなくて。いつもひとりでいるんだ」

 赤い髪の隙間から見える瞳がゆらゆらと揺れる。きっと今のミカの頭には、ひとりぼっちで佇む幼いレーゲンの姿が浮かんでいるのだろう。
 いつきはなるべく落ち着いた声色で、ミカ、と名前を呼んだ。

「どうしよう、このままずっとひとりぼっちだったら……」

 ぼろぼろと大粒の涙を零すミカは、それを袖で強引に拭う。だが溢れる涙が容易に止まるはずもなく、ミカの袖を濡らしていった。
 いつきはそっと、ミカの小さな手を優しく包み込む。

「大丈夫、ひとりぼっちになんかならないよ。彼を大事に思う人がちゃんといるから」
「だいじに……? あいつにともだち、できる?」
「うん、できる」

 まっすぐに目を見て言い切ったいつきに、ミカはほっと肩の力を抜いた。澄んだ青空のようないつきの瞳を見つめ返しているうち、ミカの涙はすっかり止まったようだ。
 よかった、と呟きが聞こえて、いつきはミカを抱き上げた。

「小さい頃から、レーゲンの事を大事にしてくれてたんだ」
「俺はお兄ちゃんなんだから、弟の面倒見るのは当然だ」
「ミカも優しいいい子だね」

 言いながら、いつきはあやすようにミカの頭を撫でる。お兄ちゃんと言ったミカだが、今は素直に甘えてくれるらしい。
 ミカはぎゅっといつきにしがみつき、いつきもまた、ミカを抱きしめる腕の力を強めたのだった。



(うわぁ……ミカ、めちゃくちゃ怖いオーラ出してる)

 白昼夢から目覚めた後、すっかり顔を合わせてくれなくなったミカの横顔を見て、いつきはひとつ苦く笑った。
 幼かったとは言え、自身の行動をひどく羞恥しているらしい。これ以上触れてくれるなと、全身から立ち上るオーラが物語っている。
 だけどいつきには、それでも伝えたいことがあった。ミカ、と名前を呼んで、それから。

「俺! レーゲンの事ひとりぼっちにさせない! 幸せにするからね! もちろんミカもだよ。ミカの事もちゃんと幸せにするから!」

 直後、ミカの胸の内に嬉しさもプラスされてしまい、撃沈したのは言うまでもない。




 いつもの町中、いつもの風景。そんな中、アーシェン=ドラシアは幼いルーガルを見下ろし、ふむ、と思案する。

(まずは、話のできる場所に行かなければ)

 一声かけ、きょろきょろと周りを珍しそうに見回していたルーガルの手を引く。状況を飲み込めていないルーガルは抵抗の意思を示したが、すぐに諦めた。

(なんだコイツ……俺を誘拐したって、身代金なんて取れないってのに)

 ぜったいヤバイ奴だ。手を引くアーシェンを見上げながら、そんなことをずっと考えていた。
 他人の家よりは自身の家だろう、とルーガルの部屋に入ったが、幼いルーガルは未だ不安げに辺りを窺っている。

(どこだよ、ここ。……だめだ、死んだなこれ)

 いっそアーシェンを殴って逃げ出そうとも考えたが、じっとこちらを観察されていることに気づきそれは無理だと察した。
 アーシェンは近くに腰を下ろすと、ルーガルにも座るよう促す。ルーガルは少し距離を開けて座った。
 ひとまず落ち着けたので、アーシェンは現状をありのままに話した。しかし返ってくるのは、否定か、信じられないという言葉ばかりで。
 自分との記憶がまだ無い幼少期の姿だとしても、ルーガルに否定されるとひどく胸が痛んだ。

「そうだな……これが、証明だ」
「新聞? なんだ、この日付……」

 アーシェンは近くに置きっぱなしにされていた新聞をルーガルに見せた。そこにはアーシェンが生きる時代の日付がはっきりと印字されている。
 ルーガルは目を丸くしたが、さすがに信じざるを得なくなったらしい。そっか、と声が漏れる。

「……少なくとも、俺の記憶と違う時間にいるんだってのは理解した」

 こちらに向ける目の鋭さが和らいだのを感じ、アーシェンは知らず詰めていた息を吐き出す。
 突飛な現象ではあるが、ルーガルはその瞳に好奇心を宿した。やや身を乗り出して、あのさ、と切り出す。

「本当の俺は今いくつだ?」
「あんたは今19だ」
「そうか。……じゃあ、19まで生きてるんだな」

 孤児院出身であるルーガルには、未来を生きる不安が付きまとっていた。
 自分は未来を生きているのか。仮に生きていても、十年、二十年先は? 尚も孤独のまま、日々が過ぎるのを見ているだけではないか。
 そこはかとない不安の中、そんな自分には目の前の青年が傍にいると言う。

「どっかの養子にもなれてねえみたいだし、食い扶持減らずに迷惑かけたろうなぁ」

 そう言われ、アーシェンは思わず抱きしめた。
 今のルーガルにとっては初対面だ、さすがに抵抗して離れようと腕の中でもがく。

「おいっ、離せ――」
「迷惑なものか。大人は子どもを守るものだ。実際、大きくなったあんたはいつも孤児院に仕送りしている」

 ぎゅう、と力は強まる一方で、その中で落とされた言葉にルーガルは動きを止めた。
 アーシェンは表情ひとつ変えず、だがどこか誇るように揺るがぬ声で言い切る。

「頼って、寄りかかって生きればいい。そして大きくなって、俺と会うんだ」

 二人の兄の背中を見つめ憧れる反面、長く顕現しなかった自身に劣等感しかなかった過去。きっとそれは、ルーガルと出会うために必要だった過程だったのだ。
 今、腕の中にいるルーガルも、その過程の途中にいるのなら。

「何のために生きるか見いだせないなら、俺のために生きてくれ。――俺には、あんたが必要だから」

 ウィンクルムになるため――そんな理由ではない何かが、先の未来にあるから。
 そう思いながら言えば、おずおずと背中に細い腕が回ったのがわかった。

「仕方ねえなあ、お前のために生きてやるよ」

 幼いルーガルには、難しいことはまだわからない。だが、自分を抱きしめるこの青年が、いずれ遠くない未来に自分のものになるんだと思うと、悪い気はしなかった。
 にかっと笑顔を見せたルーガルの白い歯を見て、アーシェンはそっと目を閉じた。



 傍らにはうずくまったままのルーガルがいた。微かに唸り声が聞こえるので、起きてはいるらしい。

「ルーガルをぞんざいに扱うことは、あんた自身でも許さない」

 丸まった背中に向けてそう言えば、「そうかよ」と弱々しく返ってきたのだった。




 少年は利口であった。
 どんな行動が好かれるのか、どんな言葉が愛されるのか、それを理解していた。
 少年にとって世界はハリボテのようで、つまらないものだった。

 遠目からでも、光に反射した金色がフォロス・ミズノのものであると気づいた楼城 簾は、その容姿が幼くなっていることにまず驚いた。
 彼の特徴でもあるモノクルも無ければ、両目とも色がヘーゼルだ。現在のブラウンの瞳は後天的なものだとわかる。
 しかしながら、その瞳。世の中を諦観しているそれが、ひどく気になった。

「道を教えてくれないかな」

 フォロスの目が自分を捉えたことを確認し、片手を軽くあげて声をかける。フォロスは瞬きの間に、愛くるしく子どもらしい笑みを見せた。

「いいですよ。おまわりさんは、こっちのみちをまっすぐ行って、いっぽん目をひだりにまがるとあえます。おおきなくりの木が目じるしですよ」

 道を指差し、フォロスはそう答える。適切な道案内であることは、この辺りの土地に明るくない簾にもすぐわかった。「ありがとう」と礼をひとつ。
 ――だが。

「君はいつもそうなのかい?」

 小首を傾げるフォロス。何を言っているんだろうという表面の向こうに、僅か驚愕が覗いているのを見逃さない。

「本心からなら優等生だけど、僕は子供の頃から君の様な子供と出会うのに困らなかったものでね、君のは演技と判る」

 すると、フォロスの瞳がすぅ、と細められた。
 簾の父は会社の社長だ。他とのつながりを深めるという名目で催されるパーティーに同席することも少なくなかった。幼い頃から繰り広げられる、腹の探り合い。今思えば、なんて夢の無い子どもだっただろうと思う。

「君は、最初から『そう』なんだね」
「もうすこしみがいたら、気づかなくなりますよ」

 歪に上がった口角は、子どものそれではなかった。
 自身の両親でさえ見破ることができなかったのに、目の前の男――簾は容易に見破った。理由はどうであれ、フォロスにとって今までにない人間だ。興味の対象となるには充分だった。
 ――せいぜい今はわらってればいい。
 そう言外に滲ませながら、幼いフォロスは簾の横を通り過ぎていく。当初の目的地である図書館に向かうためだ。
 幼い頃から、無垢な子どものふりをしていたフォロス。打算的で、どこかつまらなそうで。遠ざかるまっすぐに伸びた背中を、簾は見えなくなるまで見送った。



「――いい反面教師だよね」
「瞳の色が同じという感想ではないのですね」

 もちろんそういった感想も抱いたが、目覚めた後真っ先に口にしたのは違うものだった。フォロスは随分と不満げだ。
 夢から目覚めた際にずれたモノクルの位置を正す。モノクルの奥のブラウンの瞳は、高校時代の交通事故が原因だ。幸いにも五体満足で生きているが、左目の虹彩はそのときの怪我が原因で変わってしまった。

「コウリュウさんは良き教師ですか?」
「紅竜さんは自分の立場抜きにして僕に遠慮しない。下心なく対等でいてくれる大切な人だ」

 フォロスの問いに、簾は淀みなく答える。もうひとりの精霊は、教師という場に立つことはない。
 彼は、簾のとなりにいてくれる存在だ。

「君とは違う」

 はっきりそう断言する簾に、フォロスは眉間のしわを深くした。しかしそれは一瞬のことで、すぐにいつものフォロスへと戻る。
 穏やかな表情を浮かべてはいるが、瞳の奥には征服欲が激しく渦巻いていた。

「より、あなたを獲物として狩りたくなりました」
「受けて立つよ。僕は独りじゃない」

 フォロスの宣戦布告に簾は毅然とした態度で返す。その様子に、フォロスは面白くないと感じつつも、いつかその顔が自分の手で歪む日が訪れるのだと思うと、待ち遠しくてたまらなかった。
 簾の心には紅竜がいる。彼の姿を、声を思い出しながら、簾はその場を去ったのだった。




 鬱蒼と茂る青々とした芝生や、色の濃い葉をつける木々。まるで絵画のような色鮮やかな花の数々。あたたかな陽光差し込む森の中で、セラフィム・ロイスは目覚めた。
 ふと、不自然に草が揺れる音が聞こえてきた。出所を探そうと見渡した、そのとき。

「! 今、横切ったのって……!」

 セラフィムの腰よりも少し小柄な少年が、真横を通り過ぎた。落ちていたのだろう枝を振り上げ意気揚々と走り去る。
 セラフィムは反射的に少年を追いかけた。猪突猛進に走るその少年が、火山 タイガによく似ていたからだ。

(速っ! どうやったら山をそんなに駆け上がれるの……!)

 山道に慣れているらしい少年との差は歴然だった。木々の間を縫い、岩肌のむき出しになった道もぴょんぴょんと通っていく彼は、あっという間に小さくなっていく。
 反対に、セラフィムはそんな環境に翻弄され、随分と体力を消耗していた。

「……いた!」

 肩を大きく上下しながら進んだ先に、少年はいた。
 そこは、急斜面の途中。濃い葉をたくさんつけた木々が、頑丈な根の力だけで折れることなく並んでいる場所だ。
 少年は器用にも斜面を登り、そのうちの一本にしがみついていた。

「ん~、あとちょい……」

 危なげにその場で片手を伸ばす。目指す先には、真っ赤に熟れた赤い実があった。
 数度空を掻いた少年の手が、僅かに赤い実に触れ、そして。

「……やった! アニキみたか! オレ、木登りますたーしたんだぜ! ――れ?」
「危ない!?」

 赤い実を掲げた、その瞬間。セラフィムの視界に映る少年の小さな体が傾ぐ。バランスを崩したのだとわかったときにはもう遅く、セラフィムは堪らず目を瞑った。
 ――どしん。その音をきっかけに目を開けると、少年は強かに尻餅をついていた。痛みのせいか涙目だ。

「あたた……」
「怪我? 怪我したの? 見せてみて」
「平気へいき! 傷は男の勲章なんだ!」

 我慢できずに駆け寄るセラフィムに、心配させまいと笑顔を向ける。

「それならいいんだけど……危ない事しちゃ駄目だよ。……お母さんが心配するよ?」
「だ、大丈夫だってば! ちょっと尻ぶっただけだし、女にみせるわけにはいかねー!」
「……そういう問題じゃなくて」

 ぴょんと飛び上がり、照れながらも元気なことをアピールする少年。
 家族が心配する、というニュアンスで伝えたつもりなのだが、男としてのプライドが勝ったようだ。

「それよりみてくれ! キレイだろ? 夕飯の足しになるかな。あ、山菜とってくのもいいな~」

 キラキラと光に反射する赤い実は、まるでルビーを彷彿とさせた。それは本当に宝物のようで、まるで冒険者のような少年の姿にセラフィムは胸を熱くした。

「よかったら僕も手伝おうか?」
「ほんと!? 助かる!」

 つい、口をついて出た言葉。
 少年の表情がさらに輝きを増し、嬉しさのあまりくるくると回った。勢いのまま、セラフィムの手を握りしめる。

「オレ、タイガ!」
「僕はセラフィム。よろしく、タイガ」
「よろしく! ……セラ!」

 いつもより高い声色で、だけどいつもと同じように呼ばれて。セラフィムは目の前の少年が幼いタイガであると確信した。どうやら、この頃のタイガの方がずっとやんちゃらしい。

「あ、女じゃなくて男だからね?」
「うそだー! 母ちゃんよりずっと細ぇーし、アニキより弱そーじゃん」
「それでも! まあ、火山家のパワフルさは身をもって知ってるけど……」

 以前、タイガの家族に会ったときのことを思い出す。タイガに負けず劣らず、むしろもっと豪快にも思えたが、とてもあたたかい家族。
 なーんだ、とタイガが唇を尖らせる。

「嫁さんにしようと思ったのに」

 タイガは獣道を歩き出しながら、そう呟いた。まさか、そんな直接的なことを言われるなんて。
 でも、と徐に考える。目の前を歩くこの背中が、いつもの頼りになる彼の背中だったとして。

「……それは、できるかもね」

 踏み出す勇気を、持てるかもしれないと思えたから。
 何かいった? と振り向く小さなタイガに何でもないよと笑顔で返しながらも、セラフィムの心の中にはタイガに会いたい気持ちでいっぱいだった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 北乃わかめ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月16日
出発日 03月23日 00:00
予定納品日 04月02日

参加者

会議室


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