(……は、恥ずかしいっ!)(KAN マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 今日はよく晴れている。そしてあなたの心もこのお日様のようにピカピカだった。
 だって、久しぶりの休日。ウィンクルムとして日々多忙な業務をこなすからこそ、こういった休日は非常に貴重だった。
 そして何より。この貴重な休日に、パートナーが買い物に付き合ってくれるというのが嬉しかった。

「おい、そんなに急ぐな。店は逃げねーよ」
 後ろで呆れたようにパートナーが言うが、どうしたって足取りは軽くなってしまう。
 だってこの日のために、あなたはこっそりと買ったばかりの靴をおろしたのだ。菫色の綺麗なパンプス。一目惚れして買った可愛らしいパンプス。
 今日はデートとは呼べないかもしれないけれど。彼とのお出かけはやっぱり特別だから。

 あなたの足取りはますます軽い。そう、スキップだって踏めちゃうくらい。
「お、おい! こんな石畳でスキップなんかするな!」
 あなたのちょっと不自由な運動神経を心配したパートナーが声をかける。
「大丈夫よ、スキップくらい!」
 あなたはふふと笑って軽やかにスキップしていたら……。
 ―――カッ。
「あっ?!」
 あなたの運動神経と新しいパンプスと石畳とスキップの化学反応により、あなたは見事にバタッ! と転んでしまった。
 それは見事な転びっぷり。何とパンプスがスポンと脱げてしまったくらい。

(……は、恥ずかしいっ!)

 石畳に見事に両膝、両手をつきながら、あなたは顔を真っ赤にしてううとうな垂れる。靴を拾う気力もない。
 後ろからパートナーが走ってくる音が聞こえる。きっと指さして自分を笑うのだろう。ほれ見た事かと。
「―――おい」
 頭上から声が降ってくる。さあ、笑いなさいよとあなたが身構えた時、目の前ににゅっと菫色のパンプスが差し出された。
「掴まれよ。履かせてやる」
「え?」
 あなたが思わず顔を上げると。パートナーが苦笑しながらも優しい瞳であなたを見つめていた。

解説

 あなたとパートナーが久しぶりの休日を一緒に過ごします。その時あなたが恥ずかしい! と思うような事が起こってしまいます。その時のあなたの気持ちと、それに対するパートナーの態度を教えて下さい!
 プロローグでは靴を飛ばしてすっ転んだシーンでしたが(うん、結構恥ずかしいよね)、他どんなシーンでも構いません。

・喫茶店でジュースをこぼした
・料理を作ったら塩と砂糖を間違えた
・風でスカートがひらり……み、見たね?!
・小さい頃のおねしょ写真を見られた
・着替え中バッタリ!
・人に言えない趣味がバレた

 まだまだあると思います。
 パートナーはその時どうするでしょう。
 笑う? 戸惑う? フォローしてくれる? 一緒に赤面する?
 是非その可愛い瞬間を教えて下さい♪

 なお、今日は久しぶりの休日で、あなたは出がけに色々買い物しておりました。300Jrお支払い下さい。

ゲームマスターより

こんにちは、KANです!(すみませんほんとご無沙汰してます)

私が恥ずかしい事……は、恥ずかしすぎてここでは言えないっ!
という訳で(どんな訳)、皆様の可愛らしい恥ずかしい出来事、教えて下さいね♪

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アデリア・ルーツ(シギ)

  シギくんとはそういうんじゃないって言ってるのに、お母さんてば!
おかげでちょっと遅れちゃったじゃない。
「シギくんお待たせ。ごめんね、ちょっと遅れちゃった」(両手を合わせる

「じゃ、行きましょう?」
声をかけられ振り返る。「どうかした?」
差された指を辿って気づく。……靴下の色、左右で違う。

「ぅゎぁ……」全然気づかなかった。(じわじわ顔を赤くし、蹲る
恥ずかしい。
「うう、年上の威厳が」(引っ張られ、立ち上がる
「年相応に見られないから、気をつけてるの」

え?(顔を見る
「シギくん?」
「何を言いかけたか教えてくれないの?」

「ああ、ちょっと待ってってば」(せめてこれだけはと、靴下を脱ぎポシェットにしまって追いかける


西島 紫織(新藤 恭一郎)
  一緒に帰宅してひと息ついた所で私のスマホに着信。
相手は10年来の親友。
精霊が自室に入ったのを見て安心し、つい素を丸出しで喋る。

えー、なしてわがっだな?(えー、どうして別れたの?)
おめみでーだめんごこそんげいねなさ!(あなたみたいな可愛い子そんなにいないのに!)
いでんだ、そのうぢもっといなみつがっさげ(いいじゃない、そのうちもっとイイのが見つかるから)

と、最近彼氏と別れたらしい親友を励まし慰めると、今度は親友から精霊との同居について訊かれ…

んでね!わぁがら住みでがったんでね!(違う!自分から住みたかったんじゃない!)

電話を切り振り返ると背後には精霊が!
方言丸出しトークを全て聞かれてたなんて!


イザベラ(ディノ)
  我々は愛を深めなければならない。
目的のない店巡り、建設性のない雑談、景色を見るだけの時間、
あれが望むのなら喜んで付き合おう。
これが愛だ。

確かに居眠りは失礼だった。
そこは謝罪するし、起こさないでいた気遣い自体は感謝する。
しかし何故お前は私の顏を見ていたのだ。
お前はよく私にデリカシーがどうこう言うが、お前も相当だぞ。
訳が分からん。一体何がしたいのだ。おかしな奴め。
クソが。
大体人の顔を凝視するなど無礼の極み、マナーがなってない。
帰ったら礼節の教育を付けなければ。
今後は二度とこの様な非常識な真似はしない様に。
クソが。

妙な事をほざく奴に、私は思いっきり足を踏みつけてやるのだ。
小指を狙って何度も何度も。


●イザベラ

 麗らかな休日。笑顔の人々が行き交うショッピングモールのベンチで、精霊ディノはそのごつい背を少し丸め、途方に暮れていた。

 彼の筋肉質な肩の上には、女性の安らかな寝顔があった。ディノのパートナー、神人イザベラだ。いつもはきりりと吊り上がったその目尻を心持ち下げ、規則正しく寝息を立てている。
 この人は、本当に今日という日を何とも思ってない……んだろうな。
 イザベラに貸しているディノの肩が力無く下がる。俺は……少し楽しみだったんだけど。貴方に、あんな風に言われても。
 ディノはちょっと遠い目をして抜けるような青空を眺めた。


「我々は愛を深めなければならない。オーガ殲滅こそが我々の悲願。愛の深さを強化しなければならないのは当然の事だ」
 休暇が取れると分かった数日前。イザベラは尊大な調子でディノに言い放った。
「愛を深める……仲良くなるという事ですね。えーと、デートでもしますか?」
 少し照れながらディノが提案する。イザベラの美しいアイスブルーの瞳がちょっと大きくなった。
「デート? そんなまどろっこしい事を。接吻や抱擁の3、4発でもかませば愛は深まるだろう?」
「さ、3……4発って……」
 ディノはさっと顔を赤らめた(が、彼の肌は浅黒いのでよくは分からなかったが)。
(イザベラさんは愛をなんだと思ってるんだろう? 信じられない、幾ら何でも酷すぎる)
 仲良くはなりたいけど……この人に任せるわけにはいかない。ディノはきょとんとしているイザベラに言った。
「とにかくまずデートをしましょう。ショッピングモールで買い物でもして」
「……買い物?」
「はい。買い物」
 ディノは繰り返す。イザベラはちょっと考えているようだったが、やがて鷹揚に頷いた。
「目的のない店巡り、建設性のない雑談、景色を見るだけの時間。お前が望むのなら喜んで付き合おう。これが愛だ」
(……何か違います、イザベラさん!)
 デートというのはもうちょっとパステルカラーの甘いものではなかっただろうか。
 ディノはその浅黒い顔を今度は青くした。


 そして、今。
 愛を深めるためのデートで、パートナーはぐーすか寝ていた。
(曲がりなりにもデートなのに、まさか寝られるなんて)
 ガックリとディノの頭が下がる。
(この人はデートを……そもそも俺を一体何だと思ってるのだろうか)
 半ば魂の抜けた目でディノはイザベラの寝顔を眺める。と、ディノの瞳がふっと真剣なものになった。
(もしかして昨日の俺との訓練の後も、1人遅くまで続けてたのか……?)
 昨日、ディノは彼女と一緒に訓練をした。訓練が終わると自分の方が先に帰ったので、その後の事は分からない。でも確かにイザベラはあの場に残り、着替えるそぶりもなかった。体格のよい自分との訓練は、普通の男でも音を上げるくらいのものだろう。それを、女の身でその後も訓練をしたというのだろうか。
(……自覚がないだけで本当は凄く疲れてるのではないだろうか)
 だとしたら、起こすのは気が引ける。
 ディノはふうと溜息をつく。しかしその口元は笑っていた。
 この人は、本当に真っ直ぐで、妥協をしなくて……だからこそ、彼女の瞳は凛々しく美しいのだろう。
 そんな事を思いながら彼女の寝顔を眺めていると、その凛々しく美しい瞳がパッチリと開いた。

「お……? 私はどうした?」
 ディノの肩から頭を起こし、イザベラがきょろきょろと辺りを見回す。ディノは彼女ににっこりと微笑んだ。
「おはようございます」
「おはよ……う? 私は……もしかして寝ていたのか?」
「はい、ぐっすりと。あんまり気持ちよさそうだったので起こしませんでした」
 ディノの言葉にイザベラが数秒、彫像のように見事に固まる。不思議に思ったディノが首を傾げた時、イザベラが突然喋り出した。
「確かに居眠りは失礼だった。そこは謝罪するし、起こさないでいた気遣い自体は感謝する」
「はあ」
「しかし何故お前は私の顔を見ていたのだ!」
「え?」
「お前はよく私にデリカシーがどうこう言うが、お前も相当だぞ。訳が分からん。一体何がしたいのだ。おかしな奴め。クソが!」
「イザベラさん……?」
「大体人の顔を凝視するなど無礼の極み、マナーがなってない。帰ったら礼節の教育をつけなければ。今度は二度とこの様な非常識な真似はしない様にな、クソが!」

 怒濤の如く自分を罵倒してくるイザベラの顔を、ディノはきょとんと見つめる。言い終えた後、はあはあと肩で息をしているイザベラに、ディノは不思議そうに言った。
「もしかして……照れてるんですか?」
「! な、な、な……!!!!」
 イザベラのその抜けるような色白の頬にさっと朱が差し、彼女の目尻がますます吊り上がる。その様子を見てディノの口元が緩んだ。
(どうやら図星らしい。何て可愛くない照れ隠しなんだ)
 あわあわするイザベラを前に、ディノはますますその口元を緩める。珍しく余裕のない彼女を見られて、少し嬉しいのだ。
 にやにやするディノを前に、イザベラのこめかみに青筋が立つ。彼女はおもむろに足を上げると―――ダン! と思いっきりディノの足を踏みつけた。
「痛い痛い!」
 悲鳴を上げるディノに構わずイザベラは彼の足を踏みつける。それも、小指を狙って何度も何度も。

 泣き声を上げるディノ。鬼の形相で踏みつけるイザベラ。ショッピングモールのベンチでは何とも奇妙なデートが繰り広げられていたが、内心でディノは思っていた。
(居眠りの事をイザベラさんは躊躇なく謝罪してくれた……そんなところも漢らしくて、好き)
 そのうっとりとした瞳がまたイザベラの逆鱗に触れ、ディノは一層こっぴどく足を踏まれ続けたとかいないとか。



●西島 紫織

 西島 紫織と新藤 恭一郎は細々した買い物を終えると、一緒に帰宅した。
 そしてリビングで紫織が買った物を片付けているうちに、パタンとドアが閉まる音が彼女の耳に届いた。どうやら恭一郎が自室に入ったらしい。紫織はその音を聞いて、知らずふうと息をついた。
 超絶イケメン精霊との暮らし。高身長、人当たりも良く、気遣いも完璧な紳士との同居なんて誰しもが羨むシチュエーションだ。だがしかし、紫織は彼と知り合いほどなくしてそれがうわべだけのものと知ってしまった。
 紫織を前にすると恭一郎はその本性を現すのだ。その超絶ドSの本性を。
 そもそもこの同居だって恭一郎が手を回したものだった。冷静に、狡猾に、恭一郎は紫織の退路を断って、紫織を手中に収めた。まるで彼女は足を痛めた可哀相なガゼル。特に腹が減ってる訳でもないのに恭一郎という黒豹はガゼルを面白半分に弄びながらこう言うのだ。

「ほぉ? 胃炎臥床の分際で俺の言う事が聞けないと?」

 しくしくしくしく。生まれつき滅法弱い胃腸が痛みだし、紫織はきゅっとお腹を押さえる。彼の事を思うと胃腸に悪い。そして彼の最も良くない所は……なぜかたまに優しくしてくれる所なのだ。
(考えるの……やめよう)
 これ以上考えていたらまた急性胃炎になりかねない。紫織はふるふると首を振り、さっさと片付けを済ませてリビングでゆっくりする事にした。

 紫織がリビングでほうっと一息ついていると、彼女のスマホに着信があった。
(あ……!)
 着信画面を見て紫織の茶色の瞳が輝く。そこには彼女の10年来の親友の名前。紫織は急いで通話ボタンを押した。受話口から聞こえるのは気が置けない友人の声だ。
 紫織はそこでぱっと後ろを振り向いた。もしかしたら恭一郎が部屋から出てくるかもと思ったのだ。しかし、視線の先には誰もいない。
 ほっと安心した紫織は、10年前の小娘に戻って親友と話し始めた。どうも親友は彼氏と別れてしまったらしい。自分も失恋の痛手を背負っていた紫織は、自分の事のように彼女の話に聞き入り、慰め始めた。


(ん……? やけにリビングが騒がしいな)
 自室で読書をしていた恭一郎は、本から顔を上げた。
 ドア越しに紫織の声が聞こえる。恭一郎は首を捻った。リビングには彼女1人しかいないはずだ。自分の知る限り彼女に大声で独り言を言う癖はない。
(という事は……電話か?)
 興味を惹かれた恭一郎は椅子から立ち上がった。

 自室を出た恭一郎はリビングの様子を窺った。遠目から見える紫織の表情。それは、生き生きと輝いていた。
(あんな表情豊かで明るい紫織を見るのは初めてだな……)
 携帯を持って話す彼女は本当にくるくると表情を変える。あんなに親しげに話す相手とは、一体誰だろう。そして、どんな事を彼女は話しているのだろう。
 気になった恭一郎は紫織の背後までそっと近付いて行った。彼女は恭一郎に気付くことなく話し込んでいる。ようやく紫織の話す言葉が聞こえてきた。それに耳を傾け……恭一郎はカッ! と目を見開き驚愕の表情を浮かべた。

「えー、なしてわがっだな?」(えー、どうして別れたの?)
「おめみでーだめんごこそんげいねなさ!」(あなたみたいな可愛い子そんなにいないのに!)
「いでんだ、そのうぢもっといなみつがっさげ」(いいじゃない、そのうちもっとイイのが見つかるから)

(これはどこの国の言葉だ!?)
 恭一郎は愕然とした。紫織が言っている言葉がさっぱり分からないのだ。恭一郎は慌てて自分のスマホの翻訳アプリを起動させる。しかしアプリは『該当する言語なし』とにべもなかった。
(翻訳アプリでもダメとは、恐るべし紫織……!)
 いや、恐れている場合ではない。これでは紫織が話している内容が理解出来ないではないか。
(くそっ、何を喋っているのか気になるというのに、肝心の言語が理解できないとは……!)
 為すすべもなく恭一郎は己のスマホを握り締めた。


 そんな事とは露知らず。紫織は明るく親友を励ましていた。すると、親友が今度はこちらに話を振ってきた。恭一郎との同居をツッコんできたのだ。紫織はちょっと頬を赤くして声を大きくした。
「んでね! わぁがら住みでがったんでね!」(違う! 自分から住みたかったんじゃない!)
 その後、わいわいきゃいきゃいと少し言葉を交わし、紫織は親友と通話を終えた。
(元気になったみたいで良かった)
 ちょっと明るい気持ちで紫織はふっと後ろを向く。そしてその笑顔が貼り付いた。
 そこには、恭一郎が憮然とした表情で立っていたのだ。
「きょ、恭一郎さん?!」
(う、嘘?! 方言丸出しトーク……聞かれてたの?)
 紫織は恥ずかしさの余り耳まで真っ赤になった。

 紫織の愕然とした表情に恭一郎はますます憮然となった。と、同時に彼女をこの上なく苛めたい気持ちがむくむくと湧いてくる。恭一郎は努めて冷静に言った。
「何を話していた? 君の事だ、どうせ俺の愚痴でも暴露していたんだろう」
「え?! えっ、えっと……」
 勢いとはいえ、自分から住みたかったんじゃないと言ってしまった手前否定ができない。紫織は赤い顔で俯いてしまった。
(その顔……くっ、図星か。そこは否定して欲しかった……)
 話の内容はさっぱり分からなかったが、紫織の様子を見て恭一郎は思う。そして彼はなぜか胸が少し痛むのを感じるのであった。



●アデリア・ルーツ

「シギくんとはそういうんじゃないって言ってるのに、お母さんてば!」
 アデリア・ルーツは玄関口で声をかけてきた母親に少し口を尖らせながら答えた。今両親は、彼女の異性の交友関係に少々興味があるようだ。年頃の娘が気になるのだろう。
 しかし、当の本人は結婚願望も薄く、どこ吹く風だ。そんな事よりも今日約束をした弟のような精霊シギを待たせている事が気にかかってしょうがない。アデリアは壁の時計を見て息を呑んだ。
「もう、ほんとに遅れちゃうから! いってきま~す!」
 アデリアは外見上は17、8歳にしか見えないその笑顔を輝かせて家を出た。


 シギは、アデリアより一足先に待ち合わせ場所に到着していた。
 彼は、時間通りに来ていた。……と言うか、少々早すぎたくらいだった。
 別に、デートと呼べるものでもないし。ただ買い物するだけだし。相手は、あのアデリアだし。神人だし。
 そう、精霊が神人と待ち合わせをしているだけなのだ。それだけのはずなのだ。それなのに……どうもシギは落ち着かなかった。
 何でだろう。シギはそわそわとその黒い尻尾を揺らす。彼女を待っていると、どうしても彼女の事を考えてしまう。今、どこら辺にいるのだろうか、とか。俺の前に来た時、いつものようにあの翡翠色の瞳をきらきらと輝かせるのだろうか、とか。
(いや、そーじゃなくて!)
 シギはわしゃわしゃと自分の三角の黒耳を掻いた。
 落ち着くんだ。待ち合わせで来てない相手の事を考えるのなんて当たり前じゃないか。そもそも来てないのが悪いんだし。
 そうだそうだとシギは本来の自分を取り戻す。と、その時聞き覚えのある明るい声がした。

「シギくんお待たせー! ごめんね、ちょっと遅れちゃった」
 シギの予想通り、その翡翠色の瞳をきらきらさせながらアデリアは現れた。両手を合わせ、済まなそうに片目をつぶる。
 そんな仕草を一瞬凝視していたシギは、はっと気付いて目を逸らすとぶっきらぼうに言った。
「別に、大して待ってない」
 『大して』という言葉は非常に個人差があると思うが、アデリアは素直に受け取ったようだ。彼女はほっとしたように胸を撫で下ろした。
「よかった。じゃ、行きましょうか?」
 そう言うとアデリアはその長い黒髪を軽やかになびかせ、くるりと街の方に足を向ける。その姿にシギは何となく違和感を覚えた。
(? 何でだ?)
 シギは軽く眉をひそめ上から追うようにアデリアを見た。顔……服……そしてその視線が彼女の足元までいった時、シギはあ、と固まった。
「おい」
 シギはアデリアに短く声をかけた。アデリアが笑顔で振り向く。
「どうかした?」
「それ」
 シギは無表情で彼女の足元を指差した。
「色違わないか」
 アデリアはシギの言っている事が分からなかった。……色?
 アデリアは首を傾げながらもシギの差している指の方向を目で辿る。そしてそれが自分の足首まで来た時、彼女の瞳が大きく見開いた。
 ……靴下の色、左右で違う。

「ぅゎぁ……」
(ど、どうしよう。全然きづかなかった)
 アデリアの顔がアルカリ液を吸い取るリトマス試験紙のようにじわじわと赤くなる。
 そして液を吸い取り最後まで真っ赤になったアデリアは、耐えきれなくなったようにその場に蹲った。

 そんなアデリアの様子を、最初シギは腕を組み淡々と眺めていた。
(まあ、恥ずかしいよな)
 しかし、その腕が慌てたように解かれる。目の前でいきなりアデリアが蹲ったからだ。
「おい、そんなところでしゃがむな!」
 アデリアは本日はスカートではなかったが、蹲ればその下半身のラインなどが色々露わになるものだ。
(スカートじゃなくても充分際どいだろう!)
 シギは半ば強引にアデリアの腕を掴み、引き上げた。
「うう、年上の威厳が」
 相当ショックを受けたのだろう。アデリアはシギになされるがままうな垂れている。シギは彼女を立たせると呆れたように言った。
「威厳? その見た目でか? バリバリ童顔じゃないか」
「年相応に見られないから、気をつけてるの」
 アデリアの言葉にシギはぼそりと言った。
「別に、威厳とかいらないだろ」

(え?)
 子供っぽい所をバカにされるのかと思っていたアデリアは思わず顔を上げシギを見た。
「シギくん?」
 しかしシギはさっとアデリアの視線から目を逸らす。そしてちょっと口を尖らせながら「ただでさえ……」と小さく呟いた。

 ただでさえ。ただでさえ年が違うのに。
 更に年の差を感じるようなのは御免だ。

「え? 何?」
「……いや、なんでもない」
 シギはそっぽを向いたままその瑠璃色の瞳を伏せる。アデリアはそんな彼を覗き込むようにして聞いた。
「何を言いかけたか教えてくれないの?」
 しかしシギは変わらず視線を合わせない。シギは彼女にその少し赤くなった横顔を見せたまま、
「どうでもいいだろ。行くぞ」
と言うと、スタスタと1人歩き始めた。
「ああ、ちょっと待ってってば」
 アデリアは彼を追いかけようとして、はっと立ち止まった。
(く、靴下!)
 せめてこれだけはと、アデリアは慌てて色違いの靴下を脱いでそれをポシェットにしまうと、タタタッと彼の背に駆け寄った。

 何となく恥ずかしそうなシギの背中。でも彼は立ち止まるとアデリアに振り向き、言った。
「靴下……買ったら? 選んでやるよ」
「……うん!」
 弾むように頷くアデリア。彼らは並んで歩き出した。
 




依頼結果:成功
MVP
名前:アデリア・ルーツ
呼び名:あんた、アデリア
  名前:シギ
呼び名:シギ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター KAN
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月24日
出発日 03月04日 00:00
予定納品日 03月14日

参加者

会議室

  • [5]イザベラ

    2017/03/03-21:57 

    ふむ…これは…。

    ……何とも嗜虐心を煽(何処からか物凄い音)だな…。
    ふん、其方の精霊は今回の出来事でさぞや(続けて更に物凄い音)な事だろう。
    其方の結果も楽しみにさせて貰うぞ。





    おい、煩いぞディノ。
    会話中だ。静かにしろ、失礼な奴め。

  • [4]西島 紫織

    2017/03/03-00:30 

    私も提出してきました♪
    私は醜態のデパートみたいなもんなので(決して天然ではないんですよ!)思い当たる節が多すぎますが、すごくしっかりしてそうなイザベラさんがいつどんな時に恥ずかしさを覚える事態に遭遇したのか……私も結果がどうなるかすごく楽しみです。

  • [3]イザベラ

    2017/03/02-18:04 

    プランを提出させて頂いた。
    結果を楽しみにしている。

  • [2]西島 紫織

    2017/03/01-09:06 

    初めまして、西島紫織と申します。
    パートナーは恭一郎さんです。
    よろしくお願いします。

  • [1]イザベラ

    2017/03/01-02:42 

    イザベラだ。
    連れはディノという。
    エピソードへの参加は今回が初めてとなるが、どうか宜しく頼む。


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