プロローグ
バレンタインは過ぎました。
愛なのか義理なのか感謝なのか、ともかく人と人との繋がりを進展させたり確認したりするバレンタインという行事はとうに過ぎました。
そんなある日のとあるA.R.O.A.支部。
ウィンクルム達が連れ立ってやってきました。
そして、たまたま、偶然、神人達と精霊達で別の場所で事務処理なり確認なりをしました。
そこで、たまたま、偶然、ただの挨拶の延長として、精霊達の応対をしていたA.R.O.A.の職員がぽろっと言いました。
「そういえば、バレンタインはどうでしたかー?」
それに対して、三人いた精霊が三人とも顔色や表情を変えました。
一人目はでれぇっと顔を緩ませて「最っっっ高だった! 聞いてよ、滅茶苦茶可愛い格好してデートに来てさぁ、滅茶苦茶美味しいチョコくれてさぁ、もうその時の可愛さときたら! 僕はその場で押し倒さなかった自分を褒めたいね! よく我慢したよ! まぁその後彼女の部屋で色々ご馳走になりました! 我慢できなかった! あ、そうだ彼女の写真見る? 見る? 見たいよね? ていうか見てよこの可愛さ!!」と惚気出しました。
「お、落ち着いてください! あ、でも写真は見せてください絶対に。そちらは?」
二人目は顔を真っ赤にして「お、おお俺は別にチョコなんかどうだってよかったんだけどな! アイツが! どうしてもって言うから仕方なく貰ってやったんだよ!! そ、そもそも俺は甘いものが嫌いなんだ! けど食べ物を無駄にするわけにもいかなくてだな……し、渋々だ! アイツの事はどうでもいいけどチョコがかわいそうだったから貰ってやったんだ!!」とツンツンしだしました。
「ツンデレ美味しいです。じゃなくて、うわぁそうなんですかたいへんでしたねー。そちらは?」
三人目は無表情になって空気を重くし「……貰ってない」と言いました。
「え?」
「嘘だろ」
「マジで?」
職員プラス精霊二人の驚きと確認の声に、低く暗い「もう一人の精霊にはあげたようだが、俺は貰ってない」という声が返ってきます。
これはどうなんだ、怒っているのか、悲しんでいるのか、それとも実は何も考えていないのか、弄っていいの? 慰めればいいの? どうすべきなのこの精霊!
職員プラス精霊二人が、あわあわと精霊一人の対応をしている時。
そのすぐ横。
無機質なパーテーションに隔たれた、すぐ横。
そこで三人の神人が揃って事務処理をしていました。
(ななななな、何でかわ、可愛い、とか、写真とか、ご、ごご、ごち、ごちそ……とかぁぁぁ!! そういうこと人に言っちゃうのぉぉおぉ?!)
(あんたが! 欲しい欲しいって! 言ったんでしょうが!! しかも手作りチョコがいいって我儘ぶっこいたくせに『仕方なく』だぁ?!)
(き、気にしてるの? だって、甘いものは嫌いって、無理に準備しなくていいって……それに私達まだ会ったばかりで……でも、気にしてるなら……ど、どうしよう……!)
三人の神人の変化した表情を確認した神人達の応対をしていた職員は、それはとてもとても良い笑顔になって、パチン! と指を鳴らしました。
すると、何ということでしょう!
精霊達と神人達を隔てていたパーテーションを、通りすがりの職員が「おやぁ! こんなところに邪魔なパーテーションが!」と言ってガラガラと取り除いてしまいました。
対面する精霊達と神人達。聞かれていた事に気付いてまたも顔色と表情を変える精霊達。そこへにじり寄る神人達。
いやぁ、たまたま、偶然、本当に野次馬根性なんて欠片もなくてわざととか企んだとか仕組んだとかではなく、通常業務をしていただけなんですけどねぇ! こんな事もあるんですねぇ!
「皆さん、今、どんな気持ちですか?」
解説
精霊がベラッと話しちゃったバレンタインの日の事、それに対してどうしますか?
●アクションプラン
・精霊がバレンタインの時の事を話してるのをどんな気分で聞いてるか書いてください
ぐぬぬと耐えてるのか、きゃーきゃー喜んでるのか、青褪めてるのかはご自由に
でも声は出さないでね! すぐパーテーション消えるからね!
・精霊とご対面しました
べらべら喋ってた精霊に対してどういう行動に出るかはご自由に
だけど人の目がある事は忘れないようにね!
●ウィッシュプラン
・精霊のバレンタインの時の事を、精霊目線で喋っちゃってください
勿論、言いたくない事は無理に言わなくていいです
いやんばかんあはん、な事がバレンタインにあったとして、それを語ってもいいですけど、何処からともなく謎の音声による修正が入ります
・べらべらと話してた事が神人に聞かれてた!
神人はどんな状態になってるかな? それに対してどういう行動に出るかはご自由に
だけど人の目がある事は忘れないようにね!
●その他周囲の状況
・ここはA.R.O.A.支部だ! つまりA.R.O.A.の職員がええ笑顔で見守ってるかもしれないぞ!
・一応二人きりになれる相談室も必要とすれば提供できますが、その場合はちゃんと職員に声かけてね! 勝手に入っちゃ駄目よ!
・まぁ職員に声かけたら要らん事言われるかもしれないがしょうがないよね!
・プロローグでは三組のウィンクルムが同時に来てますが、一緒に来ても別々に来てもどっちでもいいよ! 一緒に来た場合は宥めたり諌めたり応援したりからかったり色々絡めるんじゃないかな!
●ここに来るまでに実は買い物してたんだ
・300Jrいただきます
ゲームマスターより
コメディ色強いけど、プランによっては甘くする事も可能だと思います。(ぶん投げ)
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リチェルカーレ(シリウス)
神人同士で楽しくお喋り かのんさんたちご結婚されたんですよね おめでとうございます!ふふ 天藍さん嬉しそう セララさんも嬉しそうですね羽海さん…あれ、どうしたんですか?(おろおろ) ひろのちゃんもニーナさんも手作りだったんだ わたしも作ってみたけど どうだったのか、な… …そうじゃないかなと思ってはいたけど…やっぱり? 渡した物を嫌がられたことはないんです ありがとうって笑ってくれるけど でも、そもそも甘いもの嫌いだし 気を使って受け取っていただけとか…? チョコ 迷惑だった? 何となく焦った顔と答えをじっと見て 安心したように笑顔 あのね 美味しいもの作れるよう練習するから また来年も渡していい? 少し照れた笑顔に 自分も頬を染めて |
ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
>羽海さん なんというかチョコへの熱意がすごいです…ね? >かのんさん つい話しちゃうくらい嬉しかったんですよ、きっと >リチェルカーレさん だ、大丈夫っ、気持ちは伝わってますよ!(励まそうと必死) >ひろのさん 素敵な習慣ですね、いいなぁ… 入らないで下さいって言ってたのに聞かないんですからっ! ちょっかいかけられるのは嫌ではないですけど… え、あれ遊ばれてたんですか? てっきり色々甘えてもらえてるものだと… 恥ずかしかったけど頼まれたから頑張って応えたのに…え、半分は本気? あの…私がキッチンにいる間、グレンもしかして寂しか… 頬をひっぱるのはやめてくださいぃーっ …なら来年はリクエストで…あ、それとも一緒に作ります? |
かのん(天藍)
皆さんと一緒 天藍の声が聞こえ飲みかけのお茶むせそうになるのを堪える …やっぱり去年も頑張って渡せば良かったです(少し後悔 喜んで貰えているのは分かるのですけど、そんなに他の人に話さなくても良いんじゃ…(恥ずかしい シリウスさんああ言ってますけど、リチェさんが渡したら喜んでくれるのでしょう? …1ヶ月強請るってセララさんすごい… ひろのさんの様子見てにこにこ 皆さん手作りされているんですね 私も次は頑張ってみようかしら グレイさんのからかい半分って、照れ隠しですよねきっと 最初、隣に皆さんが居るの知らなかったんです! …というか その、あんなに話さなくても 恥ずかしさも相まって恨めしげに見上げる 当日の事思い出し真っ赤に |
ひろの(ルシエロ=ザガン)
「シリウスさん甘いの苦手なら、少なくとか。ビターとか」(リチェに提案 (向こうにいるんだ、と一瞬手が止まるが他人事で作業再開 みんな、付き合ってるんだっけ?(ちらっと周りを窺う !(自分の事を言うと思っておらず動きが停止 (「下手ではない」の言葉に思わずパーテーションを見る …………あげた、けど。(羞恥で段々顔が赤くなり、顔が下がっていく 下手じゃないんだ。「よかった」(口の中で呟く 対面: 恥ずかしい以外、なにが。(聞こえた職員の声に思う な、なんで近づいて。(椅子から動けず混乱 「……るしぇが、言うから」(周囲が気になり動けない しなくていい。(反射で思う みんないるのに。(余計顔が赤くなり、額をつけるように俯く |
和泉 羽海(セララ)
他組と同伴 ・精霊ののろけは恥ずかしさはあるけど もう慣れてしまったので死んだ目でスルー むしろ他の人の話で何故か照れてしまう 頷いたり相槌を打ったりはするけど、絡みは消極的 (いつもたくさん貰ってるからあげる気なかったけど… ほぼ毎日アピールされてれば…あげないわけにはいかなくない…? 形は…売ってたのがそれしかなくて…仕方なく…だから) 精霊の呟きに落ち込む (うっ……そうだよね…手作りが良いって言ってたし… でも…何度やっても…上手くいかなくて…(超絶不器用 ・『チョコ、失敗して作れなかったの。ごめんなさい』(筆記 …いや、あげる人に手伝ってもらうって…意味なくない…?(呆気 それで…いいの、かなぁ…?? |
■偶然の隣り合わせ
事件は会議室でも現場でもなく、パーテーションで区切られた事務受付で起きた。
「バレンタインはどうでしたか?」
「バレンタイン?」
聞こえてきた声はパートナーの『天藍』のもので、『かのん』が飲みかけのお茶に咽そうになる。
(向こうにいるんだ)
一瞬作業の手を止めた『ひろの』は、けれどすぐ再開する。パートナーの『ルシエロ=ザガン』は、問われても自分を話題に出さないだろうと思って。
(みんな、付き合ってるんだっけ?)
ふと気付き、ひろのは周りを窺う。
他の神人達がちらちらと、或いはじっと隣を見つめているのが見える。
同時に、A.R.O.A.職員が満面の笑みを浮かべているのも見え、ちょっと嫌な予感がした。
■Side精霊 セララ
職員の質問の意味が掴めず、無表情のまま僅かに首を傾げたのは『リチェルカーレ』のパートナーの『シリウス』で。
「え、それ聞いちゃう? むしろ聞いて!」
そして、笑顔を咲かせて反応したのは『和泉 羽海』のパートナーの『セララ』だ。
「超可愛かったよ! チョコは市販のだったんだけど、リボンのついた可愛いラッピングで! オレの為にビターを選んでくれて! しかもハート形!!」
声高らかに、そのまま当日の羽海の服装やら表情やら仕草やらまで語りだす。何だその正確な記憶は。脳内にレコーダーでも備え付けてあるのか。
「もう愛しかないよね! ひと月前から強請ったかいあった!」
「1ヶ月前から?」
思わず驚きとも呆れとも取れる声を漏らしたのは天藍。
付き合いの中で既にセララの羽海への反応に慣れつつあったシリウスは、特に反応する事無く見守った。
「……まぁ本当は手作り期待してたんだけどさ」
ぼそりと小さく呟いたセララの声も、実は隣の神人達にしっかりと聞かれていた。
何故か? それは受付に集音マイクが設置してあって、それに対するスピーカーが隣に設置されてたからだよ! 何でそんな事になってるんだろうね! 不思議!
■Side神人 和泉 羽海
「……1ヶ月強請るってセララさんすごい……」
かのんがそう呟けば、『ニーナ・ルアルディ』も羽海を気遣う。
「なんというかチョコへの熱意がすごいです……ね?」
リチェルカーレだけは笑顔で「セララさんも嬉しそうですね羽海さん」と言っていたが。
「……あれ、どうしたんですか?」
羽海を見て困惑する。
なんせ、羽海は死んだ目をしてスルーしていたのだ。
恥ずかしくないわけではない。だが悲しい事にこの精霊ののろけに慣れてしまったのだ。そんなものに慣れる予定はなかったのだが。
(いつもたくさん貰ってるからあげる気なかったけど……ほぼ毎日アピールされてれば……あげないわけにはいかなくない……?)
時にさり気なく、時にあからさまに、しつこすぎず、だが途切れる事もない、見事なアピールだった。
(形は……売ってたのがそれしかなくて……仕方なく……だから)
ともあれ、それに対して精霊が喜んでいるのも事実だ。
だからこそ、続いた精霊の呟きに落ち込んだ。
(うっ……そうだよね……手作りが良いって言ってたし……でも……何度やっても……上手くいかなくて……)
チャレンジはしたが失敗した。超絶不器用な羽海には、簡単なチョコ作りも難関だったのだ。
■Side精霊 天藍
「天藍さんはどうでしたか?」
セララの語りをほくほくとした笑顔で聞いた職員は、次のウィンクルムに話を振る。
「バレンタインか……去年貰えなかったから今年も無いかと覚悟してたんだよな」
天藍は嫌がる事も無く、頬を緩ませながら話し出す。
「今年は、かのんからは花言葉の意味も含めて選んだピンクの薔薇の形をしたチョコ貰えた」
もっと正確に言えば、ピンクで一重咲きの薔薇を模したチョコだ。
「やっぱり嬉しかったな」
二人は同居始めて二月程。はっきり言って幸せ絶頂期なのだ。幸せオーラが満開の笑みだ。
惚気というのはこれか、と一人納得するのはシリウスで、ふっと微かに表情を柔らかくする。
気持ち悪いほどの笑顔で天藍を拝みだす職員を、ルシエロは諦観の目で見て、『グレン・カーヴェル』は頬を引き攣らせた。
「ラブラブだね~、いいなぁ幸せオーラ!」
羨ましそうに、けれど気持ちのいい笑顔でセララが言えば、シリウスも微かに柔らげた表情で伝える。
「おめでとう」
その言葉に、天藍は改めて嬉しそうに笑んだ。
■Side神人 かのん
(……やっぱり去年も頑張って渡せば良かったです)
語り始めの天藍の言ったことが引っ掛かり、かのんは少し後悔をする。
去年はチョコをあげる事が出来なかった。チョコではなく愛の言葉を貰ったと天藍は言ってくれたが、それでもそれはやはりバレンタインとは違うのだ。
「かのんさんたちって、確か……」
そわそわした様子で覗き込んでくるリチェルカーレに、かのんが頬を赤らめ微笑みながら頷けば、神人達と職員は小さく歓声を上げて顔をほころばせる。
かのんと天藍はもう恋人ではない。その先の関係だ。一生を共にする二人なのだ。
「おめでとうございます! ふふ、天藍さん嬉しそう」
自分の事のように喜ぶリチェルカーレに、かのんはありがたく思いながらも照れくさく、恥ずかしく、それでも嬉しそうに微笑んで「ありがとう」と返した。
「ただ、喜んで貰えているのは分かるのですけど、そんなに他の人に話さなくても良いんじゃ……」
「つい話しちゃうくらい嬉しかったんですよ、きっと」
ニーナが言えば、ひろのと羽海もこくこくと首を縦に振った。
■Side精霊 グレン・カーヴェル
「うちはケーキだったな、午前中いっぱいは何を作るか散々悩んでた」
次に話を振られたのはグレン。当日を思い出しながら、記憶を辿りながら話し出す。
「キッチンには完成するまで入るなって前日に言われてたんだが……ずっと放って置かれたら様子ぐらい見に行きたくなるだろ」
覗きに行ってはちょっかいをかけ、そしてぷんぷんと怒るニーナに押しだされる。そんなじゃれあいを繰り返しながら、プレゼントは作られた。
「最終的に何を作るか決められずにケーキと普通のチョコと両方作ったっぽかったんで、どちらも貰っておいた、美味かったぞ」
どちらもいい味だった、と反芻するグレンに、セララが「手作り最高だね! 羨ましい!」と冷やかしも含めた声をあげた。
「で、チョコもらうついでにからかい半分で色々要求してみたんだが……まさか全部やるとは……本当、一緒にいて飽きない」
やれやれ、と満更でもない笑みで首を振るグレン。
色々、とは?
一体彼は何を要求したのか、どんな事を思い出していたのか、ていうかそこ突っ込んでいいのか。精霊達は苦笑する。
「からかい半分な、で、残りの半分は何なんだ?」
天藍が別の角度から茶々を入れれば、グレンは敢えて答えず、ただ意地悪そうにニッと笑った。
■Side神人 ニーナ・ルアルディ
「入らないで下さいって言ってたのに聞かないんですからっ!」
握りこぶしをプルプルさせながら小声で文句を言うニーナを、神人達は苦笑しながら落ち着かせるよう宥める。
「まぁ、ちょっかいかけられるのは嫌ではないですけど……」
宥められながら、口を尖らせボソリと言う。そのニーナの声を拾った神人達は、目を見合わせクスリと笑った。
しかしそこへ追加爆撃『からかい半分で色々要求してみたんだが……まさか全部やるとは……本当、一緒にいて飽きない』が飛んできた。
ニーナは目を丸くする。
「え、あれ遊ばれてたんですか? てっきり色々甘えてもらえてるものだと……」
甘えられたから、それが嬉しくて可愛くて、恋人のようで、いや、正真正銘恋人だからこそ応えたのに。恥ずかしくても応えたのに。
それが、からかわれてただけ?
「グレイさんのからかい半分って、照れ隠しですよねきっと」
ずぅんと落ち込むニーナを見て慌ててかのんがフォローすれば、「だといいんですけど」と乾いた声と笑みが返ってきた。
■Side精霊 ルシエロ=ザガン
自分はどうだったのだと尋ねられたルシエロは、躊躇いもなく素直に当日の事を語りだした。
「チョコを貰った。ばあやに見て貰いながら作ったというトリュフと。自信がなかったと口直し用に市販品も添えられてな」
こっちも手作り! と羨ましそうな声をあげたのはセララだ。
「だが、トリュフは良い出来だったぞ? 甘過ぎもしなかった」
そこまで言って、ルシエロはふと眼差しを柔らかくして呟く。
「下手ではないから、少し自信を持って良いんだがな」
声色もさっきまでより優しく、精霊達と職員はつられるように柔らかな笑顔となった。
「オレからは薔薇のチョコを添えたカードを贈った。オレの家はバレンタインに男から女へカードを贈る習慣でな」
他ではあまり馴染みのない習慣だったが、シリウスはルシエロに似合いそうだなと首肯する。その横では、良い事聞いた! セララが目を輝かせた。
「なにその習慣! 来年真似していい?!」
「ああ、構わないが」
「カードを贈る習慣か、良いなそれ」
天藍もまた感心する。
来年は、今年とは一味違うバレンタインを過ごす者が現れそうだ。
■Side神人 ひろの
「!」
ひろのは驚いて動きを停止させる。自分の事を言うとは思っていなかった。だからこの展開に、じっと耳を澄ませてしまう。
『下手ではないから、少し自信を持って良いんだがな』
その優しい声色に、見えないとわかっていても、思わずパーテーションを見てしまう。
「…………あげた、けど」
小さな声で呟く。色々と恥ずかしくて段々顔が赤くなっていく。顔が下がっていく。
それでも、心にあったのは一つの安堵。
――下手じゃ、ないんだ。
「よかった」
口の中で小さく呟く。
そんなひろのの様子に気付いたかのんは、ついにこにこと見守る。
さらに聞こえてきたカードを贈る習慣に、ニーナがほぅ、と甘い息を吐く。
「素敵な習慣ですね、いいなぁ……」
グレンがこれを聞いて来年には……からかったりせず……などとつい考えてしまう。
「ひろのちゃんもニーナさんも手作りだったんだ」
リチェルカーレが、ふと、自分との共通点に気付き口に乗せれば、かのんが感心したように言う。
「皆さん手作りされているんですね。私も次は頑張ってみようかしら」
その言葉に、羽海もぎこちなく頷く。
そんな皆の様子を見ながら、リチェルカーレはまだ声の聞こえていない自分の相手を気にした。
(わたしも作ってみたけど、どうだったのか、な……)
■Side精霊 シリウス
さて、最後の一人。
上手いこと職員の目から外れてきたシリウスだが、お前逃げられると思うなよ、とばかりに職員が笑顔で「では、シリウスさんは?」と訊かれてしまった。
そして、答えてしまった。
「ああいう行事ごとはあまり興味がない……というか似合わないと」
ほぼ無表情で告げるシリウス。
凍りつく精霊達と職員。
横たわる沈黙。
今、静かなる爆弾がそっと置かれて炸裂した。
「シリウス、それ、リチェルカーレ本人に言ってないだろうな」
止まっていた時を動かしたのは天藍で、恐る恐る尋ねてみた。
「? リチェには別に言っていない」
きょとんとしたシリウスに、その場にいた全員が頭を抱えた。
「合うとか合わないとかの問題じゃないと思うが」
天藍が言っても、シリウスにはいまいちピンとこない。
「だけど客観的に見て事実……」
「そうじゃなくてさ~、男がそんなテンションじゃ女の子が可哀想だよ~」
セララの発言で、ようやくシリウスは気付く。この行事は、バレンタインというイベントは、一人で参加するものではなかった事に。
■Side神人 リチェルカーレ
シリウスの静かなる爆弾は、パーテーションを無視して女性陣にもその威力を発揮していた。
完全なる沈黙。
「……そうじゃないかなと思ってはいたけど……やっぱり?」
沈黙を破ったのは、当事者とも言えるリチェルカーレ。
さっきまでと違い、何処か暗い声と表情だ。
「シリウスさんああ言ってますけど、リチェさんが渡したら喜んでくれるのでしょう?」
かのんがまたもフォローを入れれば、リチェルカーレは小さく頷く。
「渡した物を嫌がられたことはないんです。ありがとうって笑ってくれるけど……でも、そもそも甘いもの嫌いだし 気を使って受け取っていただけとか……?」
浮かんでくる不安と疑惑が、リチェルカーレの心を苛む。
「だ、大丈夫っ、受け取ってもらえたなら、気持ちは伝わってますよ!」
俯きそうになるリチェルカーレを励まそうと、ニーナがわざと明るい声を出す。羽海も同意するようにこくこくと首を縦に振る。
「あの、シリウスさん甘いの苦手なら、今度から、少なくとか。ビターとか」
ひろのも自分で思いつく限りのアイデアを告げる。
リチェルカーレはそんな仲間達の心遣いをありがたく思いながらも、心を浮上させることが出来ないでいた。
その時。
「うわぁ、ぱーてーしょんをだしっぱなしだった、しまわなきゃー」
そんな棒読みの声を合図に、ガラガラとパーテーションが動かされ、神人達と精霊達はご対面となった。
そして。
「あらぁ! 偶っ然! 隣だったなんて! あらあら皆さん、今、どんな気持ちですかぁ?」
職員達は殴りたくなる笑顔でそう言った。
■リチェルカーレ&シリウス
視界の中央には、明らかに凹んだ顔のリチェルカーレ。
固まって動けなくなってしまったシリウスの背後で、ルシエロが一つ息を吐く。
「悪戯が好きな職員だ」
さして気にした様子もなく言って、シリウスの肩を叩く。それでハッと気付いたシリウスは、一度ルシエロと目を合わせてから、リチェルカーレの元へと歩み寄る。
今にも泣き出しそうなリチェルカーレを目の前にして、思わず頭を抱える。その仕草がなおさらリチェルカーレを不安にする。
「チョコ、迷惑だった?」
ぽそり、呟くように尋ねれば、困ったような声が降ってくる。
「……嫌とは言っていない。お前から貰う物を迷惑と思ったことはな……悪い、言い方を変える」
今まで、一人になってからリチェルカーレに会うまで、イベント事に無縁だった。自分には合わないものだと思っていた。だから出た答えだったが、違ったのだ。もう、違うのだ。
「嬉しいと、思っている。少し面映ゆいけどな」
何となく焦った顔と答え。それは紛れもなくシリウスの本心。それがわかって、安心したように笑顔になる。
「あのね、美味しいもの作れるよう練習するから、また来年も渡していい?」
笑顔に変わったリチェルカーレに、そして紡がれた言葉に、シリウスはほっとして頬を少し緩ませる。
その少し照れた笑顔に、リチェルカーレも頬を染めた。
■かのん&天藍
「最初、隣に皆さんが居るの知らなかったんです!」
シリウスがリチェルカーレに近づいたのをきっかけに、ウィンクルム達はそれぞれのパートナーの元へと移動していった。
かのんは天藍と合流してすぐ弁明をした。別に盗み聞きをしていたわけではないと。そしてその上で、どうしても言いたかったことを訴える。
「……というか、その、あんなに話さなくても」
天藍が語った内容は完全にプライベートのもの、それを暴露されたのだ。恥ずかしさも相まってつい恨めしげに見上げてしまう。
しかし、そんなかのんの様子も、天藍にとっては可愛らしいものでしかない。自然と顔がほころんでしまう。
……かのんから貰えた事を自慢したい気持ちはある。だからこそあんなに語ってしまった。けれどそれでも。
「流石に一部始終話すつもりはない、内容は考えているつもりだ」
言って、天藍はかのんの耳元へと顔を寄せて囁く。
「貰った後、食べさせ合ってキスした事は2人の秘密だろ?」
耳に伝わる息に、熱に、かのんの顔は真っ赤に染めてしまう。
思い出すのはあの日の事。愛を囁きあい、幸せなキスを何度も交わした、甘い甘い、今年のバレンタイン。
赤くなった顔よりもなお赤い唇は、今もその日のように甘いのかもしれない。
■和泉 羽海&セララ
(めっちゃ落ち込んでるー?!)
平常運転で可愛い可愛いと言っただけだ。それが原因で羽海が落ち込むことはないと思ったのだが。
そこまで考え、一つの可能性に気付いた。
(もしかして、手作り期待してたってのも聞こえてた?)
そうと見当をつければ即行動である。羽海に気にしないよう、慰めるよう、口を開く。
「いや、ほんのちょーっと期待してただけで、別に手作りとか……え?」
口を開いてすぐ、セララはその動きを止める。何故なら、羽海がメモ帳をセララの前で広げたからだ。
『チョコ、失敗して作れなかったの。ごめんなさい』
メモ帳に書かれていたのは、隠していた事実と謝罪の言葉。
セララは両手で顔を覆って天を仰ぐ。神に感謝したい。この奇跡のような存在を生み出してくれてありがとう。
(なにこの可愛い生き物ハグしたい……ていうか)
「呼んでくれたらオレ手伝ったのに!! 来年は呼んでね!」
バッと顔を戻し、羽海の目を見ながらセララは叫ぶ。
(……いや、あげる人に手伝ってもらうって……意味なくない……?)
呆気にとられながら、それでも羽海はこくりと頷いた。
セララが歓声をあげる。来年はきっと二人でチョコを作ることになる。
(それで……いいの、かなぁ……??)
残った疑問に、羽海は小首を傾げ、それを見たセララがまた「かわいい!」と叫んだ。
■ニーナ・ルアルディ&グレン・カーヴェル
「おい、何をそんなにへこんで……」
「恥ずかしかったけど頼まれたから頑張って応えたのに……」
ニーナは俯きがちにぷるぷると震えながら訴える。その訴えで、グレンは何に対してへこんでいたのか理解する。
「言っとくが、半分は本気だったからな」
「え、半分は本気?」
ニーナはパッと顔を上げた。目の前には、グレンがいる。
「さっきも話したが美味かった、来年もちゃんと寄越せよ。あと当日に作るものを悩むのは無しだ」
またキッチンに篭られてもな、と溜息をつくグレンをじっと見る。もしかして。もしかしなくても。
「あの……私がキッチンにいる間、グレンもしかして寂しか……」
唐突にニーナの頬がぐいーっとひっぱられる。電光石火の早業だった。
「頬をひっぱるのはやめてくださいぃーっ」
「よく伸びるなー」
「やーめーてーくーだーさーいーっ」
必死の抵抗でようやく離してもらえた。どうやら踏んではいけないところを踏んでしまったようだ。
「……なら来年はリクエストで……あ、それとも一緒に作ります?」
ふと思いついた事は、とてもいいアイデアのように思えた。
グレンは一度目を瞬かせ、そしてすぐににやりと笑う。
「二人でキッチンに篭りましょうってお誘いか?」
「そ、そういう意味じゃありませんっ」
来年は二人で甘く騒ぎながらチョコを作るのかもしれない。
■ひろの&ルシエロ=ザガン
(どんな気持ちって、恥ずかしい以外、なにが)
ひろのは驚きと恥ずかしさで体が動かなくなってしまった。それでも目はしっかりとルシエロを捉えていて。
そのルシエロもまた、ひろのの姿をしっかりと捉えていた。
(驚いた猫のように固まってるな)
このまま待っても絶対にひろのは来ないとわかるルシエロは、自らひろのへ近づいていく。
(な、なんで近づいて)
当然、近づいてはいけないという事はない。むしろパートナーとしては自然だ。
だが今のひろのはそんなこともわからない。
「どうした。顔が赤いぞ?」
ひろのの目の前にたったルシエロは、ふっと訳知り顔で笑いながら言う。
「……るしぇが、言うから」
視線だけをちらりと周囲へ動かす。周りにはさっきの話を聞いていた人達がいるのだ。
「少し自慢したくなった」
(しなくていい)
反射的に思うが、それが咄嗟に声に出なかった。
どうあっても動けない、見られたくないひろのを、ルシエロはおかしそうに喉で笑ってから。
「見られたくないならこうしていろ」
そう言って抱きしめ、ひろのの顔を周囲から隠した。
(みんないるのに)
それなのに、今この瞬間、たった二人きりのようだ。
背中に回る力強い腕。体中に伝わる体温。微かに香るカカオの香りは甘い。
ひろのは顔が余計赤くなるのを感じ、ルシエロの胸に額をつけるようにして俯いた。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 青ネコ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 02月20日 |
出発日 | 02月27日 00:00 |
予定納品日 | 03月09日 |
参加者
会議室
-
2017/02/26-23:56
-
2017/02/26-23:35
-
2017/02/26-23:35
こんばんは
皆さんご一緒できることになって、一体どんなことになるのかどきどきしています
少しずつでもリアクション等入れたいと思っていたら、今回は特にモ・ジスウが強敵でした
もう少しで出発ですね、楽しい時間が過ごせますように -
2017/02/26-20:30
わぁ、皆で一緒ですね。楽しみです!
皆さんと話たい…と思っていたら文字数がたいへんなことになりました。
なんとか一言ずつは!と今整理中です。
出発までもう少しですね。よろしくおねがいいます。
>かのんさん
…あげたら「ありがとう」と笑ってくれるんですけど、そういえば甘いもの嫌いだったなって…(しょんぼり)
>天藍さん
言ってはいないが、客観的に見て似合わないだろうと…(パーテーション開いて明らかにへこんでいるリチェを見て固まった) -
2017/02/26-00:47
わぁ、何だか楽しくなりそうですねーっ!
(色々暴露されることになるのは忘れている)
グレン:
うちはケーキだったな、午前中いっぱいは何を作るか散々悩んでたな。
最終的に決められずに両方作ったっぽかったんでどちらも貰っておいた。
で、チョコもらうついでにからかい半分で色々要求してみたんだが…
まさか全部やるとは。
ニーナ:
もう、あれだけ前日のうちにキッチンは入らないで下さいねって
言ってたのにちっとも聞かないんですから…っ!
だってホワイトチョコレートもミルクチョコレートもどっちもおいしいからつい…
え、あれ遊ばれてたんですか…えっ
てっきり色々甘えてもらえてるものだと… -
2017/02/25-08:50
ルシエロ=ザガン:
ルシエロ=ザガンと、ヒロノだ。よろしく頼む。
挨拶が遅くなったが、此方も同伴して構わないか?
それとバレンタインの話だったな。
結果を言えば、貰った。ばあやに見て貰いながら作ったというトリュフと。
自信がなかったと口直し用に市販品も添えられてな。
トリュフは良い出来だったぞ? 甘すぎもしなかった。
下手ではないから、少し自信を持って良いんだがな。
オレからは薔薇のチョコを添えたカードを贈っている。
オレの家は男から女へカードを贈る習慣だったんで、カードは毎年だな。
ひろの:
!(動きが止まり、「下手ではない」に思わずパーテーションを向く
…………あげた、けど。(羞恥で段々声が小さくなり、反比例するように顔が赤くなる
下手じゃないんだ。よかった。(ものすごく小声 -
2017/02/25-00:14
はろはろ~可愛い羽海ちゃんとセララ君だよ~
みんな、よろしくね!
遅くなったけど、オレ達も一緒にいてもいいかな?!
羽海ちゃんはアレだから、相槌くらいしかできないけど…よかったら。
とりあえず職員さんへの答えは簡単に書いておくね。
セララ:
一月前から強請ったかいあって、チョコ貰えたよ
可愛いラッピングでさぁ、甘いの苦手だからってちゃんとビターにしてくれたり…まじ可愛いよね!
…まぁ欲をいうなら、手作りが良かったんだけどな~
羽海:
(精霊の話というかのろけは、もはや慣れてるのでスルー
…正月終わってから…ほぼ毎日アピールされてれば…あげないわけにはいかなくない…?
……手作りは……失敗した、の…(落ち込む -
2017/02/24-22:18
わ、ご一緒できる方がいらっしゃいました♪よろしくお願いします
最終的に何人とご一緒できるかはまだ分からないですけれど、職員さんに聞かれて答えることとか残して置いた方が良いですよね
天藍:
去年もらえなかったんで今年もないかもしれないと覚悟してたんだが、家にいるときにピンクの薔薇の形をしたチョコを渡してくれた
花言葉の意味とか考えてくれていて、やっぱりもらえると嬉しい
(同居始めてまだそんなに経ってないこともあってか幸せオーラダダ漏れのようです)
>シリウス
それ、リチェルカーレ本人に言ってないだろうな
合うとか合わないとかの問題じゃないと思うが
かのん:
(聞こえてきた天藍の声に、何を話すつもりなのかと飲みかけたお茶でむせそうに)
……タイミング逃してしまっていましたけど、去年も何としてでも渡せば良かったです……(ちょっと後悔)
何というか、喜んでもらえているのは分かるのですけど、バレンタインのこと、そんなに他の人に話さなくても良いんじゃないかと思います……
(改めて聞かされるととても恥ずかしい)
>リチェさん
シリウスさんああ言ってはいますけど、リチェさんが渡したら喜んでくれるのでしょう? -
2017/02/24-22:00
明日、明後日と少しばたばたしそうなので、書き込んじゃいますね。
かのんさんたちとニーナさんたちとはご一緒できると思っていいのかな(わくわく)。
よろしくお願いします。
最初は神人と精霊は別にいて、お話している感じなんですよね?
わたしはシリウスが「バレンタインとかの行事ごとはあんまり興味ない」みたいなこと呟いたのでしょんぼりしました…。
シリウス:(頭抱えて)嫌だとは言ってない。…知っているだろう、ああいうイベントと俺が合わないことくらい。
リチェ:いいもん。女の子同士でお話聞いてもらうから。
(PL:と、いうような話をするつもりです) -
2017/02/24-00:07
ニーナとグレンです、よろしくお願いしまーす!
皆仲良しで楽しそうな職場なのはとってもいいことですね!
…いえ、こういう時にそれを発揮してくれなくてもよかったような…
私も一人はなんだか寂しいのでできればご一緒したいですっ -
2017/02/23-19:43
リチェルカーレです。パートナーはシリウスです。
皆さん、よろしくお願いします。
職員の皆さんも仲良しさんで、いいですね(ほやほや)。
わたしもせっかくなので、どなたかとご一緒したいなと思います。
かのんさん、天藍さん、よければお話してください。 -
2017/02/23-19:08
こんにちは、かのんとパートナーの天藍です
よろしくお願いします
……たまに思うのですけど、A.R.O.A.の職員さん達って時折とんでもない連係プレーをされるような気がします……
(気を取り直して)今回は複数組でも別々の行動でも良いみたいですけど、皆さんはどのようなご予定ですか?
私達は複数組での行動される方がいらっしゃったら、ご一緒できたら良いなと思っています