フェブラリーショアーパラダイス(革酎 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 タブロスを離れること、車で半日。

 とある海岸に人家が点在する寒村に、ひとりの変人が現れた。
 彼の名は、ウィッツ・ゴー。
 自称アイデアマンを気取る、売れない企画屋だ。
 しかしながらウィッツは生まれが某貴族の支流である為か、無駄に財力だけはあり、次から次へと妙な企画をぶち上げては一族から批判の嵐を浴びていた。
 今回ウィッツは、この見事なまでに何も無い海辺の寒村に観光客を誘致して、村民達から尊敬の眼差しを浴びようと、ありもしない知恵を絞ってみせた。
 結果、彼の貧弱な頭脳から飛び出したのは、

『フェブラリーショアーパラダイス』

 と銘打った極寒の海辺に於ける潮干狩りだった。
 はっきりいって、狂気の沙汰であろう。
 誰がこんな糞寒い時期に、膝まで潮水に浸して貝を漁ろうなどと考えようか。
 だがそれでも、ウィッツはこの無謀なるイベントを強行した。
 果たして、こんな無茶な企画に誰が参加するというのだろう。



「ねぇ……このお仕事、断った方が良かったんじゃない?」
 タブロスで活動するローカルシンガーグループ『グリーンバタフライ』のフィビスが、その美貌を恐ろしく不安げな色に染めて、相方のメディスに問いかけた。
 今、ふたりの美少女は厚手のコートを羽織り、雪が舞う灰色の大海原を眺めていた。
 実はこのふたり、ウィッツの依頼を受けて、フェブラリーショアーパラダイスのキャンペーンガールとして自慢の歌声を披露する為に、わざわざこんなひと気の無い海辺の田舎にまで足を運んできたのである。
 ところが車を降りるや否や、フィビスが真っ先に後悔の念を口にした。
 やめときゃ良かったという思いが、その言葉の端々に滲み出ている。
 一方のメディスはというと――ガタガタと震えながら、泣いていた。
 フィビス以上に、後悔していた。
 ウィッツが提示した、ふたりがこれまで見たことも無い金額が記された小切手にすっかり心を奪われたあの瞬間は、一体何だったのか。
 今思えば、あれが地獄の片道切符だった。
「フィビス、どうしよう……あたし、もう前金の半分ぐらい使っちゃった……」
「えーーーーーッ! じゃあ、もう断れないじゃんッ!」
 メディスの今にも消え入りそうな泣きべそは、フィビスの絶叫にかき消された。
 もっというと、フィビスの絶叫も寒々とした海辺を吹き抜ける轟音凄まじい風に、すっかり呑まれていた。
「と、取り敢えず……お客さんだよッ。確か、ひとりでもお客さんが来たらこのイベントはすぐ終わる、みたいなことをウィッツさんがいってたから、それに賭けようッ」



 その二日後、タブロスのA.R.O.A.本部のロビー内にある広告掲示板に、半ば悲鳴にも近しい、一組のローカルシンガーグループからの招待状が掲示されていた。

『フェブラリーショアーパラダイスへ、ようこそッ! 私達グリーンバタフライのふたりが皆さんをおもてなししちゃいますッ! クールでイケてる潮干狩りで、レッツエンジョイッ!』

 しかしその文面からは、何故か凄まじいまでの悲壮感しか感じられなかった。

解説

 極寒の海で、潮干狩りに挑みます。
 レジャーというより、修行に近い狂気の所業ですが、グリーンバタフライのふたりを助けると思って、頑張って貝を漁って下さい。
 場所は砂浜ですが、ウィッツが色んな貝をばら撒いてますので、本来なら砂浜には居ないような海の幸も適当に転がっています。
 尚、交通費として往復300ジェールを頂きますので、ご了承下さい。

ゲームマスターより

 何でこんな馬鹿なプロローグを書いてしまったのかと自問中の革酎です。
 今回は特に深く考える必要も無く、極寒の海で凍えそうになりながら、貝やら海の幸やらを漁って下さい。
 本当にもう、それ以上もそれ以下もありません。

 それでは、皆様のご参加を心よりお待ち申し上げます。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  防寒具装備 カイロも完備

完全に額を抑えているシリウスを見る
何か疲労の色が濃いような
ー大丈夫?風邪、治ってなかった?

グリーンバタフライの歌はしっかり聞く
終わったら全力で拍手
すごいです!ガッツを見ました!
早く体を温めて?
持ってきた温か柚子茶を 嫌いじゃなかったらと進める

アラノアさんたちに笑顔で挨拶
海の幸でお鍋ですか?楽しそう!
じゃあわたし 食材拾ってきますね

ホタテ見つけた
これはアワビ?
楽しく食材探し 少し先に桜貝を見つけ目を輝かせる
わあ、綺麗
拾い上げてうっとりしていると高波が
え と思った時にシリウスの腕が
ごめんなさい
妹たちにお土産にしたくて
…怒ってる?
返事に笑顔 
皆でご飯食べよ?
食材を持って皆の元へ 鍋大会


アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
  極寒の潮干狩り…実にクール(物理)ですね…

防寒具
食材求めて波打ち際まで行くと思うので長靴+ゴム手袋
上には温かい上着とマフラー+カイロで首を重点的に守る
耳当て
カイロは幾つか持っていき寒そうならグリーンバタフライのお二人にも分けてあげましょう

目的
嫌な思い出は残したくないので貝とか海の幸を集めて皆でお鍋にしましょう
ウィッツさんか地元の人にお願いして鍋とか調理場を借りれたら幸いです
調理+家事使用
調理で出たゴミは家事スキルで纏めて持って帰れるように
地元の人に迷惑は掛けれません

グリーンバタフライ
もし良ければお二人もお鍋どうですか?と誘ってみます
この場所に罪はないのでせめていい思い出作りになればなと思います


●新たな1ページ

 冬の海というものは、人間にとっては基本的に、大変厳しい世界である。
 あの冷たい灰色の世界に挑めるのは、プロの技を持つ職人か、決死の覚悟を持つ者だけだ。
 だが今、その極寒の海に敢えて試練を求めようとしている者達が居る。
 ひとびとは後世、彼らを英雄と呼んだ――かどうかは、正直よく分からない。

 広い海岸線、それもだだっ広い砂浜を間近に望む寒村を舞台に選んだ狂気の潮干狩りイベント『フェブラリーショアーパラダイス』。
 浜辺に設置された特設ステージでその開幕を宣言するふたりの美少女、グリーンバタフライのメディスとフィビスが、如何にも頑張って作りました的な笑顔で潮干狩り開始の合図を大声で響かせた。
 しかしながら、そのハイテンションなステージ上の出だしとは裏腹に、波打ち際へと向かうひとびとの数はまばらである。
「まぁ……こうなるだろうな」
 見た目にも温かそうな上着とマフラーに、潮干狩り用の長靴とゴム手袋といういでたちで、がっつり貝漁り態勢を整えてきたガルヴァン・ヴァールンガルドだったが、参加者とは対照的にグリーンバタフライだけがハイテンションに声を張り上げる光景は、彼の中でも織り込み済みだったようだ。
 傍らのアラノアは、ガルヴァンと同じか、或いはそれ以上の防寒態勢を取りつつも、矢張り同じく熊手とバケツを両手に携え、寒風吹きすさぶ鈍い鉛色の海岸線を静かに眺めている。
「極寒の潮干狩り……実にクールですね」
 皮肉ではなく、素直な感想であった。
 クールはクールでも、雰囲気や空気感での意味ではなく、紛うことなき物理的クールであった。
 が、アラノアは決して後ろ向きな発想は抱いていない。
「でも折角こうして足を運んできたんだし、嫌な思い出は残したくないよね」
 イベントに選ばれたこの浜辺には、罪は無い。
 ならば発想を転換し、この悪条件を楽しい場に変えてみせてはどうだろうか。
 アラノアのこの着想には、ガルヴァンも肯定的に頷いていた。
「主催者のウィッツとかいう男も、潮干狩りに参加したら良いんじゃないか? 企画屋だそうだが、少しは頭も冴えて企画力も向上するだろう」
 このガルヴァンのひと言が、主催者ウィッツ・ゴーの耳に聞こえたのかどうか。
「ほんなら、わしも行きますぞぉーッ!」
 どこかでびっくりする程の貧相な叫び声が響き、黄色いウェットスーツに身を包んだ小柄な中年男性が、文字通り砂煙を噴き上げながら水際へと突撃していった。

「……えぇっと、あのおじさんは?」
 誰に問いかける訳でもなく、半ば独り言に近い疑問を口にしたアラノアだったが、応じたのは意外な人物だった。
「ウィッツ・ゴーさんです。このイベントの主催者の」
 背後からの応えに慌てて振り向くと、そこには薄手のステージ衣装の上から分厚いダウンコートを羽織ったフィビスの姿があった。
「あ、フィビスさんッ! 本当にご苦労様ですッ! この寒い中、大変だったね」
 アラノアとフィビスは、初対面ではない。
 過日、タブロス市内におけるデミ・オーガ事件で、フィビスはアラノアとガルヴァンに危ないところを救われたのだ。
 いわば、グリーンバタフライにとっては恩人ともいうべきふたりのウィンクルムが、今度はこの地獄のような極寒イベントに於いても、颯爽と登場してくれた。
 フィビスとメディスにとっては、本当に頭の上がらない恩人であるといって良い。
「それにしても、こんなところまでわざわざ来て頂いて、本当にありがとうございます」
「気にすることはない。だがお前達は本当に災難続きだな……しかしながら、少しばかり感動した」
 先程グリーンバタフライが披露したスタートアップライブは実に見事だったと、惜しみない称賛を口にするガルヴァン。
「この極寒の中でも懸命に笑顔を届けようとするプロの魂、しっかりと見させて貰った」
 いってから、ガルヴァンはその視線を水際へと転じた。
 グリーンバタフライの戦場がステージの上なら、これから潮干狩りに挑もうとするアラノアと自分にとってはまさにこの海こそが、戦いの場となる。
「あそこでゲットした新鮮な食材を使って、後でお鍋にしようかと思うんだけど……もし良かったら、一緒にどう?」
「わぁ、良いですねぇ~ッ! 是非、ご一緒させて下さいッ!」
 眼を輝かせるフィビスに対し、アラノアは任せろといわんばかりに胸を張った。
 そんなアラノアに、ガルヴァンがひとつ気合を入れ直した凛々しい表情で、静かに呼びかける。
「では行くか」
「うん、行こう」
 波打ち際へと歩み出すふたり――その足並みは、まさに戦士。
 サッカーは格闘技だ、野球は格闘技だ、料理は格闘技だ――過去に色んなジャンルの競技や技術がその激しさになぞらえて、格闘技と呼ばれてきた。
 そして今、ここに新たな1ページが加わる。
 そう――潮干狩りは、格闘技だ。

●寒空の中の決意

 遡ること、今から一時間程前。

 海岸線の寂れたバス停に降り立った時、シリウスは軽い目眩を感じた。
(どうしてこんな、意味の分からない依頼に反応するんだろう……)
 ふと、そんな台詞が唇の内側に生まれた。
 防寒具必須、波に呑まれたら生死に関わるというのは、最早それはレジャーとは呼べない。
 潮干狩りなどという穏やかな表現でオブラートに包んでいるが、これはある種の戦いに近しい。
 何故こんな訳の分からないイベントに、我がパートナーたるリチェルカーレは手を出してしまうのか。
 その疑問が、先程の呟きという訳だ。
 幸いにも、シリウスの声はリチェルカーレの耳には届いていない。
 彼女はただ、心配そうな面持ちを浮かべて傍らに佇むばかりである。
 リチェルカーレは、具合の悪そうなシリウスに気が気ではない様子であった。
「ねぇシリウス、大丈夫? やっぱりまだ、風邪が治ってないのかな?」
「いや、俺自身には何も問題は無い」
 それ以上の言葉は、不要だった。
 無謀なシチュエーションに心理的な疲労が出たのは間違いがなく、それが目眩という形となって表れただけであり、別段、体調が悪いという訳ではない。
 平素からリチェルカーレの取る行動には極力付き従う方針で動いているシリウスではあったが、今回ばかりは流石に、気苦労が尽きそうにはなかった。

 そして、現在。
 シリウスはステージ前の集合エリアから波打ち際へと向かうアラノアとガルヴァンの姿に気づき、先方もこちらの姿を認めた様子であった為、静かに目礼を送った。
 すると、アラノアとガルヴァンから、ふたり揃っての会釈が返ってきた。
 実のところ、リチェルカーレは少し前にアラノアから携帯電話で連絡を受け、このフェブラリーショアーパラダイスで海鮮鍋を企画しようということで合意している。
 その話をしてみると、普段は物静かで冷静なシリウスが、珍しく目を丸くした。
(これは、最後まで付き合うしかないか)
 放っておくと面倒なことになりそうだ――シリウスは遠い目で、波打ち際をそっと眺めた。
 そんなシリウスを尻目に、リチェルカーレはステージを降りてひと息入れているメディスに、足早に近づいていった。
「お疲れ様ですッ! お体、冷えてないですか? もし嫌いじゃなかったら、柚子茶を持ってきましたので、是非どうぞッ」
「わぁ、どうもありがとうッ!」
 リチェルカーレが差し出したカップから、柚子の甘酸っぱい香りが湯気に乗って立ち昇ってくる。
 メディスは心底嬉しげな様子で受け取り、そっとひと口。
 吹きさらしのステージですっかり体が冷え切っていた年若い娘には、体の芯まで温まる柚子茶は最高の贈り物であったろう。
 グリーンバタフライのパフォーマンスが終わった直後に、リチェルカーレは人数の少ないギャラリーの中で、力一杯の拍手を贈っていた。
 その様子が何よりも印象的だったらしく、メディスはリチェルカーレの姿をしっかりと覚えていた。
「さっきはあんなに大きな拍手を、ありがとうございました。何だか、凄く元気づけられました」
「こちらこそ……本当に、凄かったです。プロとしての、本物のガッツを見ましたッ!」
 若い娘で、シンガーとして活動していくとなれば、恵まれた環境でちやほやされたいというのが、誰しもが抱く願望であろう。
 だがグリーンバタフライは違った。
 例えこの極寒の地で、数える程しか観客が居ない貧相なステージでも、全力を尽くしてパフォーマンスを披露する――その姿に、リチェルカーレは心から感動した。
「今度は私達が、お返しする番です……実はこの後、潮干狩りでゲットした貝とか色々な物を使って、海鮮鍋を作ろうと思ってるんです。本当はアラノアさんが発案者なので、アラノアさんご自身がおふたりをお誘い出来れば良かったんですけど」
 既にフィビスに対してはアラノアが誘いをかけているが、メディスはまだのようだ。
「もし良かったら、ご一緒にどうですか?」
「えっ、お鍋ッ! わぁ、凄いッ! あたし、お鍋大好きなんですッ!」
 大いにはしゃぐメディスに、リチェルカーレは、
「任せて下さいッ! とびっきり美味しいお鍋を用意してみせますッ!」
 ぐっと拳を握り締め、決意に燃えた。
 こんな寒い日だが、しかしだからこそ、その寒さを吹っ飛ばせるぐらい目一杯楽しもう。
 リチェルカーレはどこまでも前向きだ。
 一方、その様を眺めていたシリウスはこの日、何度目かになる溜息を漏らしていた。最早、潮干狩りがメインなのか、鍋がメインなのか、主旨がよく分からなくなっていた。
 否、リチェルカーレにしてみれば、双方がメインなのだろう。

●アラノア、イメチェン案件

 思いの外、調理器具や大型鍋等は簡単に調達出来た。
 アラノアが主催のウィッツや地元民に掛け合ってみたところ、鍋という発想は微塵にも無かったらしく、そのアイデアには皆が驚きつつも、笑顔で歓迎してくれた。
 かくして、アラノア発案の海鮮鍋はフェブラリーショアーパラダイス内のひとつのイベントとして正式に認められることとなり、ウィッツがその為の予算を割いて、潮干狩り後に皆で海鮮鍋大会を開くということが堂々とアナウンスされた。
 こうなれば、アラノアとしても気合を入れて臨まなければ、失礼になるだろう。
「さぁ、頑張りますぜぇ親方ァッ!」
「……アラノア、ちょっとキャラ変わってないか」
 ガルヴァンからの突っ込みなど華麗にスルーし、アラノアは長靴でガードした両足で潮水へと突入。
 それからものの数分としないうちに、次々と戦果を挙げていった。
 以下、アラノアの収穫報告と、ガルヴァンの感想。

「アサリ、獲ったどーッ!」
「うむ、まぁ、普通に潮干狩りだな」

「ハマグリ、獲ったどーッ!」
「ほう、そんなものまで獲れるのか」

「アワビ、獲ったどーッ!」
「中々、主催者も気の利いたものを撒いておいたようだな」

「ウニ、獲ったどーッ!」
「これはこれは……高級食材だな。しかし潮干狩りでそこまでやるか」

「サザエ、獲ったどーッ!」
「いや、流石にそれはちょっと無理があるんじゃないか」

「伊勢海老、獲ったどーッ!」
「待て、ちょっと待て。それはもう、漁と呼ぶべきではないか」

「ヒラメ、獲ったどーッ!」
「待て待て待て。もう潮干狩りではないぞ」

「ウツボ、獲ったどーッ!」
「おいアラノア。お前は一体、どこへ突き進もうとしているのだ?」

 僅か30分で、バケツどころか巨大なドラム缶一本にも収まりきらない程の収穫を得て、アラノアはほくほく顔だ。
 一方、ガルヴァンは食材には見向きもせず、装飾用に加工可能な貝殻の収集に勤しんでいた為、普通のバケツで済んだ。
 それにしても、アラノアの野人の如き収穫はウィッツの過剰なサービスの結果によるものだろうが、それにしても驚きを禁じ得ない。
「アラノア改め、海女乃亜と呼んで下さい」
「どうやら、サバイバル系女子という新境地を開拓したようだな」
 ガルヴァンは呆れると同時に、感心した。
 地元の村人やウィッツといった面々も、アラノアのほぼひとり勝ちに近い怒涛のような収穫速度に、皆一様に度肝を抜かれていた。
「でも、潮干狩りってこんなに楽しいものだったんだね」
「待てアラノア。ここは異常だ。他所の潮干狩りも同じだと思ってはいけない」
 この場は、ガルヴァンの分析が正しい。
 普通、潮干狩りの主催者が浜にばら撒くのはアサリのみだ。
 それ以外の海産物は一切用意しないのが普通だから、このフェブラリーショアーパラダイスでの収穫はこの場限りの特別編であることを意識しなければならない。
 実際、ガルヴァンが加工用に拾い集めた貝殻も、通常であれば常夏のリゾート海岸でもなければ絶対に手に入らないような種類が多数、見られた。
「あれ? ガルヴァンさん、もう切り上げるの?」
「加工せねばならんからな」
 答えながら、ガルヴァンは腰に吊り下げた道具袋を軽く叩いた。
 中には、貝殻を装飾品に加工する為の道具が詰まっているらしい。

●いつでも見ていてくれる瞳

 アラノアには及ばないが、リチェルカーレも結構な勢いで食材をゲットしつつあった。
「あ……ホタテ、見つけた」
 更に今度は、アワビも拾い上げる。
 海の幸で鍋を作ろうという企画にはうってつけの食材が、リチェルカーレの手にするバケツに次々と放り込まれていった。
 本来ならば磯に生息する筈の貝類が、こんな砂浜に散乱している訳は無いのだが、そこは矢張り、主催のウィッツが財力にものをいわせてばら撒いたと解釈するのが正しい。
 折角これだけ沢山の貝類が用意されているのだから、収穫しなければ失礼に当たる。
 リチェルカーレは精力的に歩き、せっせと拾い集めていたのだが、不意にその足が止まった。
 食用に適した貝類ばかりだと思っていたのだが、予想外に綺麗な桜貝を見つけた。
 思わず手に取り、うっとりとした表情で目を輝かせる。
「わぁ……綺麗……」
 例え極寒の海であっても、矢張り良いものは良い。
 だが、冬の海というものは想定外な程に変化が激しい。
 この時、ほんの一瞬ではあったが、人間ひとりを軽くさらっていってしまいそうな程の高い波が、白い水飛沫を上げてリチェルカーレの頭上から襲いかかろうとしていた。
「……え?」
 弱い日光を遮って、影を作る程の巨大な波の気配にリチェルカーレが気づいた時には、高波の魔の手が眼前に迫りつつあった。
 直後――。
 リチェルカーレの体は、強い力の作用を受けて、もと居た場所から一瞬にして位置を変えた。
 が、彼女が次に居たのは冷たい海の中ではなく、シリウスの力強い腕の中であった。
 何が起きたのか、まだ理解が追いついていないリチェルカーレに対し、シリウスは厳しい顔で叱責の言葉を加えた。
「波打ち際には寄るなといったろうッ!? 寒中水泳でもするつもりかッ!」
 リチェルカーレの華奢な体躯を離し、真正面に見据える形で厳しい表情を見せるシリウス。
 対するリチェルカーレは、しょんぼりと項垂れている。
「……ごめんなさい。妹達のお土産にしたくて……その、怒ってる?」
 だがシリウスはそれ以上リチェルカーレを責めるつもりはなく、表情を和らげつつ小さな溜息を漏らした。
 次いでそっと腕を伸ばし、リチェルカーレの頭をくしゃり。
「怒ってはいない。ただ、冬の海は危険だから、絶対に油断してはいけない。兎に角、気を付けてくれればそれで良い」
「うん……分かった」
 リチェルカーレの面に、笑顔の花が咲いた。
 猫の目のようにくるくると表情が変わるパートナーに、シリウスは苦笑で応じるしかなかった。
 その時、砂浜の特設ステージ近くからスピーカーに乗って、鍋の準備が出来たとのアナウンスが響いた。
 食材をゲットした参加者は、下ごしらえの為に一旦、調理テントにまで戻ってきて欲しいとの由。
「じゃあ、行こっか。皆でごはん食べよ」
 ふたりは、波打ち際を後にした。
 防寒具はしっかりと着込んでいるものの、矢張りこの冷たい風と、海水に濡れた足元から、体温が相当に奪われている。
 そろそろ暖を取る頃合いでもあった。

●ほくほく熱々の大団円

 それから、およそ30分後。
 特設テント周辺は、海鮮鍋の美味しそうな香りが大量の湯気に乗って充満していた。
 真冬の潮干狩りで消耗した体力を回復し、冷え切った体を温めてくれる海鮮鍋は、イベント参加者だけではなく、地元の村人達にも大変な好評だった。
 勿論、グリーンバタフライのふたりも熱々の海鮮食材に舌鼓を打ち、ご満悦な様子。
 この寒風吹きすさぶ鉛色の海の前で、前途多難なイベントをどう乗り切ろうかと憂鬱で仕方が無かったふたりだが、こんなにも楽しい時間を過ごせることが出来ようなどとは、思っても見なかったらしい。
「この海鮮鍋に温かい柚子茶……すっごく合いますねッ!」
「喜んで貰えて、嬉しいです。柚子茶、お好きだったんですね」
 笑顔で応じるリチェルカーレに、メディスは美味しさと嬉しさで頬を上気させつつ、大きく頷き返した。
 貝類に伊勢海老の出汁が効いた鍋に、旨味を引き出すバターを投入。
 たっぷり出汁を吸い込んだヒラメの白身とホタテの肉厚な貝柱が程よい食感で、皆を楽しませてくれる。
 フェブラリーショアーパラダイスは、開始当初の閑散とした雰囲気から一変して、大成功のうちに幕を閉じようとしていた。
 そんな中でガルヴァンが、フィビスとメディスに自作の貝加工品を差し出した。
 この寒空の中で必死に頑張ったふたりに対して、労いの意を込めて製作した、貝殻のブレスレットだった。
「わぁ……良いんですかッ!?」
「勿論だ。ふたりに受け取って貰えたら、俺の腕にも箔がつくというものだ」
 フィビスとメディスには、断る理由などない。
 早速身に着けて、自撮りタイムスタート。

「最初はどうなるかと思ったけど、結果オーライってやつだね。良い思い出になって、良かったよ」
「本当に、皆さん楽しそう。イベントは、やっぱりこうでないと」
 アラノアとリチェルカーレは、何故かほっと安堵した気分に浸っていた。
 別段、このふたりが今回の企画を立てたという訳ではなかったのだが、海鮮鍋を提案した以上は、失敗したくないという思いが心のどこかにあったのだろう。
 と、そこへ胡散臭げなおっさんがひとり、人込みを掻き分けて近づいてきた。
 フェブラリーショアーパラダイスの企画者である、ウィッツだった。
 さっきまでは黄色い派手なウェットスーツを着込んでいたが、今は水色のジャケットに赤いネクタイ、グレーのスラックスと、やっぱりちょっとおかしい格好だ。
 どちらかといえば、古き良き時代の漫才師を彷彿とさせる衣装であろう。
 そのウィッツが、アラノアとリチェルカーレに感謝の言葉を述べてきた。
「いやいやいや、ほんまにもう、助かりましたわー。お二方のアイデアが無かったら、今頃どないなっとったことやら」
「……企画者がいってはならん台詞だろう、それは」
 シリウスが、すっかり呆れ果ててかぶりを振ったが、ウィッツの耳には届いていない様子。
 だが、この程度で驚いてはいけない。
「ほんでですね、次は氷上スペシャル草野球っちゅうもんをですね……」


 まだやるんかい。


 誰もが、そう思った。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 革酎
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 2 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月07日
出発日 02月12日 00:00
予定納品日 02月22日

参加者

会議室

  • [6]リチェルカーレ

    2017/02/11-23:53 

  • [5]リチェルカーレ

    2017/02/11-16:21 

    カイロとかも持って行った方がいいかもしれませんね。あったかくしないと、風邪ひいちゃう。
    じゃあわたし、温かいお茶を魔法瓶に入れて持っていきます。シリウスが病み上がりだし、柚茶とかにしようかな。

  • [4]アラノア

    2017/02/10-23:20 

    長靴を履けばある程度防いでくれるので波打ち際ならいける気がします(長靴以上の高波は防げませんが)

    わー皆でお鍋楽しいですよ絶対。
    グリーンバタフライの方々も鍋に誘って皆でわいわい温まりましょうっ(ぐっ

  • [3]リチェルカーレ

    2017/02/10-22:24 

    アラノアさん、ガルヴァンさん、よろしくお願いします。
    折角ですもの、楽しみましょうね。
    綺麗な貝があるみたいだからお土産に拾いたいんですけど、シリウスに「波打ち際に近づくのは厳禁」と言われてしまいました…。
    アラノアさんと一緒ならいいでしょう?
    お鍋、楽しそう。皆で一緒にやりたいな。

  • [2]アラノア

    2017/02/10-20:51 

    アラノアとガルヴァンさんです。
    よろしくお願いします。
    前回助けたグリーンバタフライが大変な事になっているらしいので来てしまいました。

    …それにしても極寒の潮干狩りとは…実にクール(物理)ですね…(遠い目

    雪+浜辺特有の暴風という最悪な環境ですが、風邪引かないよう防寒対策はきちんとしたいですね
    とりやえず長靴とゴム手袋は必須ですよね確実に。
    太い血管が通っている首を温めれば末端も自動的に温まってくるので、そこらへんを重点的に守りたいですね。

    あ、それとですね。ただ寒さに耐えて潮干狩りをするのもあれな気がするので、皆で集めた食材で鍋とか、何か温まるものを作りたいと思っています。
    どこか海の家的な場所とか借りれないでしょうか…

  • [1]リチェルカーレ

    2017/02/10-20:29 

    リチェルカーレです。パートナーはマキナのシリウス…ってシリウス、帰っちゃダメよ!(腕掴んで引っ張って)すごくたいへんそうじゃない、応援しにいかなくちゃ!
    冬の海も楽しいかもしれないわ。泳ぐわけじゃないし、大丈夫よ。ね?

    ーええと、ご一緒する皆さん、よろしくお願いします。


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