寒いからこそ氷上釣り(木口アキノ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 2月。春まだ遠く。
 湖の表面は固く結氷している。
 そう。
 氷上釣りには最適である!

「今が旬です、日帰りワカサギ釣りツアー!」
 と、ミラクルトラベルカンパニーの営業係がA.R.O.A.本部の掲示板にポスターを貼り付ける。
「皆さんも目にしたことありませんか?氷にドリルで穴を空けて、そこから釣り糸を垂らして」
 冬場になると、ニュース番組などでよく見かける光景だ。
「釣りたてを現地で揚げて食べるのもまた、乙ですよ」
 それはとても魅力的だが、果たしてそんなに釣れるのだろうか。
「レジャー用にワカサギを放流している湖ですから、うまくいけば爆釣です!」
 それは、初心者でも?
「もちろん、やりようによっては」
 アタリがわかりやすい柔らかい竿で餌釣りが1番釣れますよ、とのことであった。
 餌、の言葉に、ちょっと眉をひそめてしまう。
 だって餌って、幼虫だよね?
「虫が苦手な人なら、擬似餌とか、餌を付けないサビキ釣りとかの方法がありますよ。餌釣りほどは釣れませんが、撒き餌を使えば、それなりには」
 それなら、チャレンジしてみてもいいかな。でも、寒いよね、やっぱ。
「寒さ対策にはテントのレンタルをお勧めします。小型のガスヒーターを使えば、いくらか寒さも和らぎますよ」
 揚げものの準備は現地で簡易キッチンが用意されていますので、どうぞお気軽にお越しください。
 そう言って、営業係は帰っていった。
 ワカサギ釣りは冬の風物詩のひとつ。
 一度は試してみるのもいいかも?

解説

ワカサギ釣りを楽しもう!というエピソードです。
テントレンタル(2人用、ヒーター付) 300ジェール
穴あけドリルレンタル 200ジェール
釣竿レンタル1本 100ジェール
生き餌1パック 100ジェール
撒き餌1パック 100ジェール
揚げものキッチンの使用と、小麦粉、塩胡椒はサービスとなります。
テントを使用してもやはり寒いので、防寒対策はしっかりと!
たくさん釣れるといいですね。

ゲームマスターより

寒さ厳しい中いかがお過ごしでしょうか。
こんな季節は家でぬくぬくと過ごしたいですが、折角ですもの、寒い季節ならではのレジャーも楽しみたいですよね!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

信城いつき(レーゲン)

  準備:折畳み椅子・味付(カレー粉・粉チーズ・青のり)・お茶

寒いー!虫-!
あ、釣れたレーゲン、楽しいね!

ねぇレーゲン折角だからどっちがいっぱい釣れるか競争しようよ、
勝負だからね手加減なし!
えっと……勝った方が負けた方の我儘聞く、とか?

負けちゃった…
勝負には負けたけど、揚げ物は頑張るからね
普通に揚げてもいいけど、味付けも変えてみようと思って
小分けした小麦粉にそれぞれ味付けした衣で揚げる

新鮮だとやっぱり美味しいね。
ワカサギ足りる?時間あるからもう少し釣れるよ
いっぱい食べてもらえるの嬉しいから

それ我儘なのかなぁ?(…俺も得した気分なんだけど)
分かった、カイロの役目果たすよ(笑顔でぎゅっとしがみつく)


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  ワカサギがオレを呼んでるぜ!
テントとドリルレンタル。
生き餌・撒き餌各1パックを手配。
餌は足りなくなったら随時追加だ。
釣り竿は各自1本ずつ借りる。
ラキアのお蔭で防寒対策は完璧。
スキーウェア中心に着こんできて結構動きやすいぞ。

ドリルで氷に穴開けて、餌撒いて。
いざ、釣りスタート!
アタリを逃さないようにしてバンバン釣るぜ。
オレ達虫も平気だし、集中して釣るぜ。
ウマいワカサギ沢山釣りたい。
時々、ラキアの耳が赤くなっている。
持ってるカイロを耳に当てで温めてやろう。
風が冷たいものな。

釣ったワカサギはラキアと唐揚げ作って食べる。
新鮮だから超ウマイ!
ラキア唐揚げ作るの上手だし。
これぞ冬の味覚だな。超嬉しい。


鹿鳴館・リュウ・凛玖義(琥珀・アンブラー)
  テント、ドリル、釣竿、生き餌を借りる。
防寒対策には手袋とマフラーと長靴ね。
ワカサギが釣れるであろう場所を直感で探し、そこに穴を開けて、釣糸を垂らすよ。
(※フィッシングスキル使用)
あまりにも釣れないなら係員さんに聞こうか。

にしても、ワカサギの唐揚げだよ?美味しそうだよねぇ、おっと思い出すだけで涎が。
「ハハ!もう、琥珀ちゃんったら、完全武装じゃない!」

「じゃあ、分担しようか」
僕はワカサギを洗って、一口サイズに切る。
(※調理スキル使用)

え?琥珀ちゃん、血、駄目なの!?
よし、出でよ!回復アイテム!
(コートのポケットから、絆創膏を取り出して手当)

琥珀ちゃん、美味しい?
じゃあ、今日はドンドン食べるよ! 


ユズリノ(シャーマイン)
  早朝 日の出前
「僕もシャミィも温暖地方の出身だからね」
頷き合いテントでぬくぬく釣りをする事に決定
しっかり予習してきたのでお弁当等準備も万端

欠伸にクスッ
「はい コーヒー」
ヒーターを横にしお湯を沸かし珈琲淹れた
「テントのお陰で快適だね」
自分も珈琲ズズ…
「竿ピクピクしてる?」

チャンス到来に興奮
きゃわー
しゅごいー
はわわ
釣り上げて目がキラキラ
彼と目が合ってえへへ
※釣れ具合お任せ

キッチンへ向おうとテントを出たら丁度日の出で清々しい
「ん?」
何となく深読みしちゃいけない言葉だけど
キスも嬉しい 今は彼を独り占めしてるから

ワカサギは唐揚げで

その後も釣れたり釣れなかったり楽しんだ

※テント 釣竿2 穴あけドリル 生き餌2 撒き餌2


アーシェン=ドラシア(ルーガル)
  実は釣りをするのは初めてだ
初心者なのでルーガルの指示に従ってドリル・釣竿・生餌を用意する
テントは却下された 寒い
だが寒さに耐えるのも醍醐味らしい

この日のために釣りの教本も用意していたのだが 穴をあけるのも餌を付けるのもルーガルがしてくれたので俺は竿を持つのみになってしまった
魚がかかったときは代わりに引き上げてくれる
…楽しい…のか? これは
だがルーガルは楽しそうなので 来て良かったとは思う

釣った魚はルーガルが調理してくれた
美味い

来年もまた二人で来れたらいいな
魚を釣り上げてるときのあんたの 子どもみたいな楽しそうな顔は来年もまた見たい
ただ次回はテントをレンタルさせてほしい
寒い とても



 ユズリノとシャーマインが行動を始めたのは、日の出前。
 1番冷える時間帯である。
「僕もシャミィも温暖地方の出身だからね」
「そうだ!寒さは敵だ」
 冬のレジャーは楽しみたい。けれど、寒いのは嫌だ。
 そんなわけで、この2人にはテントが必須なのである。
「予習はばっちり、お弁当も作ってきたよ」
 ユズリノはウインクしてみせる。
「リノは釣りの経験はあるの?」
「一応あるけど、自信はないかな。ワカサギは初めてだし」
 ユズリノはへにゃりと笑う。
「シャミィは?」
「俺も似たようなもんさ」
 答えながらシャーマインは、今日はリノの可愛いリアクションが見られそうだ、と内心喜んでいた。
 早朝だというのに、湖上にはすでに釣り人の姿がちらほら。
「釣り人が多いところが、よく釣れる場所なんじゃないか」
 シャーマインの意見に基づきテントを設置し、ヒーターも点けて。釣り穴を開けると、人心地。
「たくさん釣れますように」
 祈りながら釣り糸を垂らし、じっと待つ。
 アタリが来ないかとじっと竿先を見つめていたら……なんだか瞼が重くなってくるシャーマイン。
「ふぁ〜」
 思わず欠伸のシャーマインにユズリノはくすっと笑うと、お弁当と共に持ってきた珈琲を差し出した。
「はい、コーヒー」
「サンキュ。こんな早起き久し振りふぁ~」
 ずず……と珈琲を啜れば「うー旨い」と声が漏れる。
「テントのお陰で快適だね」
 自分も珈琲を啜りながら、ユズリノはにこにこ笑顔。
「後は釣れてくれりゃ万々歳……」
 テント内にまったりした空気が漂い始めた時。
「竿ピクピクしてる?」
「!来たか?」
 ユズリノの竿が反応し、一気に緊張が走る。
「きゃわー」
 目をまん丸にして大興奮のユズリノ。
「しゅごいー」
 興奮のままに慌てて引き上げようとするユズリノにシャーマインが自身の竿にも気を配りながらも声をかける。
「リノ、ゆっくりだ。ゆっくり上げろ」
 シャーマインの言葉に落ち着きを取り戻したユズリノが引き上げた竿先には、なんと3匹のワカサギがかかっていた。
「はわわ」
 ピチピチ踊るワカサギに、ユズリノの目がキラキラと輝く。
 そんなユズリノを見て、シャーマインは綻んでしまう。
 ユズリノの姿を堪能しているシャーマインと目が合うと、ユズリノは照れたようにえへへと笑った。
(可愛い生き物キター)
 シャーマインはユズリノの笑顔にずきゅーんと撃ち抜かれ、密かに身悶える。
 しかし、身悶えてばかりもいられない。
 シャーマインの竿にもアタリが来ている。
 即座に気を引き締めて竿を上げれば、そこにも3匹のワカサギが。
 どちらの竿にもこんなにかかるということは。
「群れに当ったんじゃないか?入れ食いチャンス!」
 ここぞとばかりに撒き餌も使うシャーマイン。ユズリノもそれに倣って撒き餌を使う。
「よし来たー!」
「僕も!」
 その後はしばらく、釣れすぎて忙しい状態が続いて……。
「たくさん釣れたね!」
 あっと言う間にバケツいっぱいのワカサギ。
 さすがに疲れた。
 ぐう、とシャーマインのお腹が鳴って、2人は顔を見合わせ笑う。
「それじゃ、調理しようかな」
「ああ」
 ユズリノがバケツを持ってテントを出ると、丁度日が昇るところであった。
 ユズリノが日の出の清々しさに見惚れていると、後からテントを出て来たシャーマインが、感動したように言葉を漏らす。
 朝日も、朝日に照らされるユズリノも眩しくて。
「こんな風に朝日見たのリノが初めてだ」
「ん?」
 何となく、深読みしてはいけないような台詞のような……?
 しかし、額にそっとキスされて、ユズリノの胸からは疑念が吹き飛ぶ。
 だって、今は彼を独り占めしてるから。
 シャーマインは唇を離すと、満足気に
「モーニングキス」
 と笑った。

 ユズリノが揚げたワカサギは美味しくて、いくらでも食べられそうだった。
 それでも、釣り上げた分を全て食べきる頃には、かなりお腹も満たされた。
「あとはゆっくり楽しもうか」
「そうだね」
 2人はテントに戻り、いろいろな話をしながらゆったりと釣り糸を垂らすのだった。


 アルパカの毛で作られた衣服は保温性に優れており、とても温かいらしい。
 そんなアルパカ毛100パーセントのコートを着ているのに、寒い。とにかく寒い。
 アーシェン=ドラシアは恨めしそうにルーガルを見遣る。
「やっぱこういうアウトドアはいいよなー久々に腕がなるぜ」
 ルーガルの方は楽しそうだ。
 実はアーシェンはワカサギ釣りどころか、釣りをすること自体が初めてであった。
 それを聞いたルーガルは、ここは俺の出番とばかりに、アーシェンに色々指示し、竿や餌など道具を準備したのだが。
「テントは……」
 アーシェンが言いかけると、
「テントは無くていいな、高いし」
 と、あっさり却下された。
「寒いのも醍醐味だって」
 からから笑うルーガルに、アーシェンは、そういうものなのだろうか、と納得せざるを得なかった。
 そんな経緯で今、アーシェンは寒風に吹かれている。
 ルーガルは楽しそうに、穴の開けやすそうな場所を探している。
「餌の付け方は……」
 アーシェンはこの日のために集めた釣りの教本を取り出し、手袋をはめてなおかじかむ指でページをめくろうとする。
 アーシェンが教本を取り出したのを見たルーガル、むむっと眉間に皺を寄せるとドリルで穴を開け始めた。
「あ……」
 まだ、教本の確認終わってないのに。と、抗議の目でルーガルを見るアーシェンだが、穴を開け終えたルーガルは今度はさっさか針に生き餌をつけていく。
 アーシェンがマニュアルモードに入ると長いのだ。ルーガルはアーシェンが本格的なマニュアルモードに入る前にと、餌の付いた釣竿を手渡した。
「取り敢えずやってみようぜ」
 アーシェンは躊躇いがちに釣り糸を垂らした。
「この後はどうしたらいいんだ?」
「ただ待ってりゃいいんだよ」
 ルーガルも自分の釣り糸を垂らす。
「待つ?」
「そう」
 ルーガルが頷いたところで、竿先がピクピクと動く。
「アタリが来た!」
 嬉しそうにルーガルが声をあげると、アーシェンが目に見えて硬直した。
 仕方がないな、とルーガルは素早くアーシェンの後ろに回り、彼の手ごと竿を引き上げる。
 ぴちぴち尻尾を左右に振るワカサギが2匹、釣り糸にかかっていた。
「この釣り上げる瞬間が最高なんだよなぁ!」
 ルーガルは歓声をあげる。
(……楽しい……のか?これは)
 アーシェンは目をぱちぱちさせた。
 何しろ、彼は竿を握っていただけだ。釣った!という実感がない。
 だが、嬉しそうにしているルーガルを見ていると、来て良かった、とは思うのだった。
 連続して10匹ほど釣れたので、ルーガルはアーシェンを誘いバケツを持って簡易キッチンに向かう。
 やはり釣りたてを食べさせてあげたい。
 ルーガルはワカサギに薄く小麦粉をつけ、さくっと揚げていく。
 紙皿にワカサギを乗せ、ほら、とアーシェンの前に差し出す。
 アーシェンはおずおずとそれに手を伸ばし、慎重に口に運ぶ。
 サクっ。
「美味い」
 一口齧れば、自然と言葉が出てきた。
「そうだろ美味いだろ」
 ルーガルは満足気に言うと、アーシェンのために次々にワカサギを揚げていった。
 アーシェンは、この時ばかりは寒さを忘れていた。
 2人はこの後も、釣っては食べを繰り返し、気づけば日も高くなり、少しずつ、アタリが鈍くなってきた。
「そろそろ引き上げるか」
 ルーガルが体を伸ばしながら言う。
 アーシェンも素直にそれに賛成した。
「来年もまた二人で来れたらいいな」
 帰り支度をしながら、ふとアーシェンか呟く。
「来年か……来年も一緒だったら、な」
 ルーガルには、来年も一緒にいるという確たる自信が、今はまだ、無い。
「魚を釣り上げてるときのあんたの、子どもみたいな楽しそうな顔は来年もまた見たい」
「……俺そんな顔してたかあ?マジかよ」
 ルーガルは苦笑する。
 そしてアーシェンは至極真面目な顔で言った。
「ただ次回はテントをレンタルさせてほしい。寒い。とても」
 その様子にルーガルは思わず吹き出した。
「あー、わかったよ。次はテント好きにしな。鼻水垂れてるぜ。ハンカチ使いな」
 ルーガルに差し出されたハンカチで、アーシェンは鼻を押さえた。


 鹿鳴館・リュウ・凛玖義が管理小屋で係員にテントやドリル、釣竿のレンタル、そして生き餌の購入手続きを進めていると。
「ドリルと釣竿、あと生き餌下さいっ」
 横から、可愛らしい声が聞こえた。
 やる気に満ち溢れた目の琥珀・アンブラーだ。
 どうやら、自分の分の釣り穴は自分で開ける心意気のようだ。
 わっせわっせとドリルを抱えて運ぶ姿が愛らしい。
「釣れそうな場所は……っと」
 凛玖義は直感を働かせテントを建てるべき拠点を決める。
「よし、ここにテントを建てようかねぇ」
 簡単に建てられる構造のテントだったため、ものの数分でテントを設営する。
「にしても、ワカサギの唐揚げだよ?美味しそうだよねぇ、おっと思い出すだけで涎が」
 凛玖義はドリルで氷にガリガリ穴を開けながら、幸せそうな笑顔になる。
 琥珀も自分で釣れそうな場所を選んで懸命に穴を開けている。
 こう見えて琥珀も、凛玖義ほどではないがフィッシングスキルを持っているのだ。
 釣り糸を垂らす前に、琥珀は自宅から持ってきたカイロを体のあちこちに付け始める。
 その様子を見て、凛玖義は快活に笑う。
「ハハ!もう、琥珀ちゃんったら、完全武装じゃない!」
 手袋、マフラー、長靴といった必要最低限の防寒具の凛玖義に対し、琥珀はさらに耳当てはもちろん、鼻の冷え防止にマスクもして、実は靴下も重ねばきしているのだ。
 釣りの心得のある2人、手慣れた様子で餌を針に通していく。
 凛玖義が釣り糸を垂らせばものの数分で竿先がピクピク動いた。
 タイミングを逃さずにひょいと釣り上げれば、釣り糸には同時に3匹掛かっている。
 シーズン半ばを過ぎたワカサギは丸々と太っている。
「食べ応えありそう!」
 琥珀は瞳を輝かせた。
「ほら、琥珀ちゃん、アタリが来てるよ!」
 凛玖義は琥珀の竿先が動いているのを見て声をかける。
 慌てて琥珀は竿を引くも、ワカサギには逃げられてしまった。
「あぁ〜」
 残念がる琥珀を凛玖義はからかう。
「琥珀ちゃん、着込み過ぎで動きにくいんじゃないの?」
「だって、寒い」
 そうこうしているうちに、凛玖義はさらに5匹、6匹と釣っていく。
「そろそろ調理してこようかね」
「あっ、まだ1匹も釣ってないよぅ!」
 凛玖義が言うと、琥珀は慌てる。
「ワカサギが大漁に釣れるまで帰らない!」
 琥珀は竿を握り直しじっと釣り穴を睨め付ける。
 凛玖義は苦笑し、それに付き合うことにした。
 やがて、琥珀も1匹2匹と釣れ始め、2人で50匹以上ものワカサギを釣り上げた。
 満足した琥珀は、にこにこ笑顔で
「はく、ワカサギ食べたい!」
と、凛玖義を見上げた。

「じゃあ、分担しようか」
 簡易キッチンに立ち凛玖義が言うと琥珀も頷く。
「僕はワカサギを洗って、切っていくよ」
 ワカサギは元々小さい魚だが、さらに琥珀が食べやすいサイズにしてあげるのだ。
「はく、衣をつけて油で揚げる!」
 ワカサギを揚げながら、琥珀がちらちらと凛玖義の手元を見ている。
「はく、切るのもやってみたい」
 交代して、というお願いに、凛玖義は快く応えてあげた。
 調理スキルを持つ琥珀なら包丁は危険ではない、と思ったのだが。
 手が悴み上手く動かなかったようで、指の腹を刃先で突いてしまった。
「わあ!血、血が出たよぅ!」
 青ざめる琥珀。
「え?琥珀ちゃん、血、駄目なの!?」
 凛玖義は真っ青になった琥珀を落ち着かせようとした。
「よし、出でよ!回復アイテム!」
 冗談めかして取り出したのは、こんなこともあろうかと、自宅の救急箱から持ってきていた絆創膏。
 凛玖義はハンカチで琥珀の指を押さえ血を拭き取ってから、絆創膏を巻いてあげた。
「ありがとう」
「やっぱり切るのは僕がやろうね」
 やがて、紙皿の上にどどん、と大量のワカサギ揚げが出来上がる。
「ワカサギ〜!」
 ぱくりと一口。途端に琥珀は幸せそうな笑顔に。
「琥珀ちゃん、美味しい?」
「うん!」
「じゃあ、今日はドンドン食べるよ!」
「お腹一杯になる迄、はく、今日はもっと食べる!」
 寒いけれど、楽しく美味しい1日となった。


 家から持ってきた折り畳み椅子を2つ並べ、2人で釣り糸を垂らしているレーゲンと信城いつきだが、レーゲンは、いつきがこのレジャーを楽しんでくれているのかどうか心配になってきた。
 なぜなら、先程からいつきの口からは「寒いー!」「虫ー!」など、叫び声ばかりが聞こえてくるからだ。
 テントを借りたほうが良かっただろうか、生き餌はやめておけば良かっただろうか、などと考えてしまう。
 レーゲンは顔をあげ、早めに切り上げようか、と言い出そうとしたが、いつきの顔はことのほか楽しそうだった。
 悲鳴ではなく嬌声だったようだ。
「あ、釣れた。レーゲン、楽しいね!」
 寒さで鼻を真っ赤にしながらもいつきは満面の笑みで、ワカサギがピチピチ踊る竿を掲げてみせる。
「ねぇレーゲン折角だからどっちがいっぱい釣れるか競争しようよ、勝負だからね手加減なし!」
 レーゲンより先に1匹釣れた自信からか、いつきが勝負を持ちかける。
「勝負良いんだけど、勝ったら何かあるの?」
「えっと……勝った方が負けた方の我儘聞く、とか?」
 伺うようにレーゲンの顔を見る。
(その条件なら負けても嬉しいんだけど)
 なんて思いながらレーゲンは良いよと答える。
「それじゃあ、スタート!」
 負けても嬉しいとはいえ、レーゲンに「わざと負ける」という選択肢はなかった。
 ワカサギたくさん釣れたらいつきが喜ぶだろうな、と思うと、つい熱が入ってしまうのだ。
 勝負は1時間。2人とも順調に釣り上げ、果たしてその結果は。
「俺は23匹!」
「私は31匹だよ」
 手先の器用さが餌をつけるスピードに繋がったのか、勝者はレーゲン。
「負けちゃった……」
 落胆するいつきに、レーゲンは優しく声をかける。
「我儘は何にするか考えるから、まずは食べようか」
「勝負には負けたけど、揚げ物は頑張るからね」
 調理に関してはいつきの腕の見せどころ。すぐに気を取り直す。
 実はいつきは、自宅から少しずつ調味料を持参していた。
 カレー粉、粉チーズ、青のりと、料理が得意ないつきの家には常備しているものばかりだ。
「普通に揚げてもいいけど、味付けも変えてみようと思って」
 いつきは小麦粉を3つのトレイに分け、それぞれにカレー粉、粉チーズ、青のりを混ぜていく。
 揚げたてのワカサギは、外の冷気ですぐに食べ易い温度まで冷える。
 いつきはそれをひょいと摘むと、レーゲンの口元へ運ぶ。
「いただきます」
 ありがたく1匹目のワカサギを齧ると、レーゲンの口中に爽やかな青のりの風味が広がった。
 レーゲンの顔が綻ぶのを見て、いつきも1匹ワカサギを食べる。
「新鮮だとやっぱり美味しいね」
「味に違いがあるから色々食べたくなるね、今度は粉チーズでもらっていい?」
「はい、どうぞ」
 シンプルな料理なのに、ついもう1匹、と手が伸びる。
「ワカサギ足りる?時間あるからもう少し釣れるよ」
「だけど、いつき、寒くない?」
 レーゲンは冷え切ったいつきの頰を掌で包んだ。
 いつきは、平気、と、にかっと笑う。
「いっぱい食べてもらえるの嬉しいから」
 いつきが「嬉しい」と笑うのなら、それはレーゲンにとっても嬉しいこと。
「じゃあ、もう少しだけ釣ろうか」
「うん」
 早速真剣な顔で釣りにかかるいつき。レーゲンは出来るだけいつきにくっつくように、隣に並んだ。少しでも、風除けになるように。
「やっぱり氷の上にしばらくいると寒くなるね。交代しながら釣ろうか。」
 レーゲンの提案にいつきは「うん」と頷くが、彼が交代すると言い出すにはしばらく時間がかかりそうだ。
 そこで、レーゲンは。
「思いついた、我儘。カイロになってもらっていい?」
 ぎゅっと背後からいつきを抱きしめた。
「それ我儘なのかなぁ?」
 だって、いつきも得した気分なのだから。
「うん我儘だよ」
 笑顔できっぱり言い切るレーゲン。
「分かった、カイロの役目果たすよ」
 背後から回された腕に、いつきは釣り竿を持っていない方の腕を、ぎゅっと絡ませた。
 これでお互い温かい。あともう少し、ワカサギが釣れそうだ。


 外出前から、セイリュー・グラシアのテンションは上がりっぱなしであった。
「ワカサギがオレを呼んでるぜ!」
 今すぐにでも家を飛び出して行きたい、そんなセイリューをラキア・ジェイドバインはしっかと引き止め、きちんと温かい格好をさせる。
「いいかい、セイリュー。寒さだけじゃないんだよ。氷上は吹き曝しだから意外と風が強いんだ。そして、釣りということは、濡れることも想定しなくちゃならない。つまり、寒さ・風・濡れ。この3つに対応できる服装、尚且つ動きやすさも重要だよ。携帯カイロも忘れずに」
 と、ラキアは自分だけじゃなくセイリューの分も防寒具を見繕ってくれた。
 そのおかげで、釣り場に到着したセイリューは温かいのに動きやすいという、快適な状態であった。
「こういう時はテイルス達がとても羨ましい。まふまふな耳だと暖かそうだもの。」
 呟くラキア。その視線の先には、ルーガルの姿があったとかなかったとか。
 それはともかく、細く尖ったファータの耳は、確かに寒さには弱そうだ。
 ファータにイヤーマフは必需品、というラキアの主張もよくわかる。
「テントも立てるから大丈夫!」
 セイリューが借りたテントを氷上に広げ始めたので、ラキアもそれを手伝った。
 テントの設営が終わるとセイリューはすぐさま穴開けに取り掛かる。
 がりがりがり、と順調に氷を削るセイリューに、ラキアが目を丸くする。
「セイリュー、案外上手だね」
 褒めると、セイリューは得意気な笑顔を返す。ラキアに褒められればセイリューのやる気は倍増するのだ。
 穴を開ける速度が早まり、やがて立派な釣り穴が出来上がると、セイリューはそこに撒き餌を撒いた。
「いざ、釣りスタート!」
 2人で寄り添って釣り糸を垂らせば、寒さもかなり軽減される。
 生き餌をつけることには、2人とも抵抗はない。
 サバイバルの心得のあるセイリューは虫くらいじゃなんとも思わないし、ラキアだって、ガーデニング作業に虫は付き物、慣れっこだ。
「アタリは逃さないぜ!」
 セイリューの目が真剣になる。おそらく今の彼は、オーガとの戦闘と同じくらいの集中力を発揮している。
 ウマいワカサギ沢山釣りたい。それがセイリューの原動力。
 わずかな竿先の震えを感知し、タイミングよく引き上げる。
「キター!早速1匹ゲット!」
 釣り針にかかったワカサギに、セイリューはガッツポーズだ。
 ラキアはセイリューの真剣かつ楽しそうな表情を微笑ましく見守りつつ、釣りを楽しむ。
 セイリューは次々とワカサギを釣り上げ、ラキアも良い調子でアタリが来る。
(ワカサギ釣りは本当冬をひしひしと感じるよネ)
 ヒーターを点けたテントの中とはいえ、ラキアは足元からじんわり冷えてくるのを感じた。
 ブーツの中で足の指を伸び縮みさせて寒さを紛らわせる。
 ラキアがもぞもぞ動く様子に、セイリューはラキアが寒がっていることに気付いた。
 防寒具の下からひょっこりはみ出しているラキアの耳先が赤くなっていたから、セイリューはそこにカイロを当ててあげた。
 ラキアは顔を上げ、微笑む。
「ありがとう。セイリューは、寒くないの?」
「全然!」
 セイリューの頰も赤かったが、それは寒さによるものではなく、釣りの興奮で上気していたからだったようだ。
 2人合わせて50匹ほど釣れたところで、どちらからともなくそろそろワカサギを食べようか、という話になる。
 簡易キッチンでは、ラキア主導でワカサギに衣を付け、揚げていく。
 できたそばから2人で摘んで、笑顔を交わす。
「新鮮だから超ウマイ!ラキア唐揚げ作るの上手だし」
 セイリューが相好を崩して感激する。
「一緒に釣って、一緒に作ったから尚更美味しいんだよ」
「これぞ冬の味覚だな。超嬉しい」
 1匹1匹は小さなワカサギだけど、大きな感動を運んできてくれたようだ。



依頼結果:大成功
MVP
名前:ユズリノ
呼び名:リノ
  名前:シャーマイン
呼び名:シャミィ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木口アキノ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月05日
出発日 02月11日 00:00
予定納品日 02月21日

参加者

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