好きって言って(梅都鈴里 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「――好きだなぁ、お前のこと」

 休日のとあるひと時。
 ソファでだらだらと本を読んでいた精霊の言葉に、コーヒーでも淹れようかとポットを傾けていた神人は、一瞬固まって、それから。
 目を丸くしたまま、視線を遣る。
 ぎ、ぎ、ぎ、と。ぎこちなく回る首の音まで聞こえてきそうだ。

「……えっ?」
「えっ」
「いや、今、お前が」
「うん? 俺なんか言った?」

 流石に『俺の事好きって言わなかった?』とは聞けず、今度は視線を泳がせ沈黙する。
 聞かなかった事にしてもよかったかもしれない。どうして反応してしまったんだろう。
 だんまりの間に、告白を口にした本人もどうやら怪訝の要因に思い至ったようで「あっ」と声を上げ、ゆるゆると頬を染め上げた。

「……あー。えっと、その。な?」

 頬を掻いて視線を泳がせ思案する。
 どうしよう。一度口にしてしまったものは戻しようがないし。
 かと言って、今ならまだ誤魔化せる気もする。脳味噌をフル動員して、言葉を濁して話題を逸らして、聞かなかった事にしてもらう事も出来る気がする。

(……まぁ、言っちまったものは、しかたねーかな)

「あのさ。ずっと、ちゃんと言ったことなかったけど。俺、お前のこと――」

 ――好きなんだ。恋愛対象、として。

解説

冒頭は一例、というか、会話の切欠が「貴方が好きです」的な意味合いの台詞から始まっていれば何でも構いません。
精霊から神人でもその逆でも構いません。恋愛感情でなくてもいいです。
ブロマンス、家族愛、親愛、友愛、恋愛、等々。
それぞれの形での「好き」の言葉と二人の掛け合いをプランにのっけてやってください。

・元々既に両想いの二人が改めて想いを再確認する
・なんとなくいい雰囲気になってきたけどまだ口にした事がないので思い切って告白
・想いを秘めてきたけどうっかり無意識に口に出てしまった

なんてのもいいです。自由度はとにかく高いので、日常の一コマとして捉えてもらえればと思います。
場所や時間に関しても、家でも外出先でも昼でも夜でもお好きなところで。
ついでにバレンタインも近いので、チョコレート添えてもいいです。

・プランにいるもの
シチュエーション(場所、時間など)
掛け合い、言葉に乗せた想いなど

足りない部分は総じてアドリブで補います

・出かけたり買出ししたりで300jr消費しました。


ゲームマスターより

こんな季節なので甘めの告白イベントが欲しいなぁと思いシナリオに託しました。
今のシーズンどこ行ってもオシャレなチョコレート売ってて誘惑が過ぎます。
相談期間短めで申し訳ないのですが、良ければお気軽にご参加ください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

クルーク・オープスト(ロベルト・エメリッヒ)

  「知ってる」
ロベルトの家に呼び出されてゴロゴロしてたら…一言余計っつーか…なんつーか
「期待はしてねぇな…お前が美女だったら考えたが」
「まあ、俺も好きだぜ。…お前んちで出るメシ」
うまいし、使用人の人たちも感じいいしな
過剰に意識されてるのも困るし、このくらいの距離感の方がある意味楽…っつか…行儀わりぃな、零すぞ?
このソファ…なんか高そうだし…
「…お前がそれでいいっつうんならいいけど…モノは大切にしろよ」
モノと言えば、さっき廊下でロベルトが好みそうな顔の美少女とすれ違ったな…
睨まれてちょっとビビったけど…客は俺一人のはずだよな?…泊めてたのか?
…ふーん
まあ今更驚かねぇけど…っつか、女もイケたんだな…


鳥飼(鴉)
  「鴉さんのこと好きです」(初めて家に招かれて感激し、紅茶に手を添えて呟く
「本気にしてませんね? 本当に好きです。人として」
鴉さんはちょっとわかりづらいですけど、優しいのに。「好意は伝えないと届かないですよ?」

そんなに、優しいと言われてしまう状態なんでしょうか。
誰かを駄目にする……。なら。

「鴉さんも、駄目になるんですか?」(単純に疑問
鴉さんが屈託なく笑うの、初めて見ました。(こんな風に笑える事に安心する

「構いませんけど。大丈夫ですか?」
「そうだ、今日はチョコのお菓子を持って来たんです」(小さなチョコケーキ入りの箱を渡す
「すみません。誰かの家にお邪魔するのってあまりなくて。あ、ちゃんとビターですよ」


テオドア・バークリー(ハルト)
  好きって台詞、30回超えた辺りで数えるのをやめた。
…むしろよくここまで数えたよな、俺。

今日はハルが鍵を家の中に忘れたってことで、
おばさんが帰ってくるまでうちにあげることにした。
クリスマス以降、何となく顔を合わせづらくて何だかんだ用事作ってきたから、
こうしてのんびり一緒に過ごすのは久しぶりな気がする。
とはいってもソファでハルはゲーム、俺は本読んでるだけだけど。

しかし、その…何なんだよこの状況は…
ハルに好きって言われる度にどうにか冷静を装って必死に答えるけど、
もっと他に言葉があったんじゃないかって思うものばっかりだ。
…そして今、また言われたから次の返答を必死に考えてる。


ルゥ・ラーン(コーディ)
  深夜
彼の自宅
お言葉に甘えて一時避難にお邪魔させて貰っている
お酒とお惣菜用意して宅飲みの態
最近の怪現象報告をしつつ
お酒を飲む彼を見てポツリ

「一目ぼれしました」

「あなたを初めて知った時
この美しい人を私は愛する様になるのだと
とても幸せな予感に包まれました」
笑み返し「はい あなたに恋をしています」
彼の面白くなさそうな顔を見ても穏やかに笑んで
「ふふ つい愛しくて」

「うふふ ええ構って頂けて幸せです」
「テネブラを一緒に見上げた時とても感動していましたね」
彼に愛の予感を感じると未来を思い胸が苦しい
彼にお酒を注ぎ自分もくいっと一口

それにしても
「あなたに文句を言うなんて 照れた時のあの可愛らしさを知らないんでしょうね」


アーシェン=ドラシア(ルーガル)
  家で大量に余っていたみかんをルーガルの家に届けて、そのまま一緒に剥きながら、いい機会だし伝えておこうと「好きだ」と言う

心外な、本心だ
この雑誌のフローチャートの結果がそういっている

触れると安心する【3】し、あんたに優しくされる【4】と満たされる感じがした
これが好きということなんだろう?

そうだ、あんたが俺の精霊だからだ
だから出会うことができた

あんたしか知らない俺では、駄目なのだろうか
他を知らなければ、比較しなければ駄目なのか?

俺は、ルーガルと過ごす時間が好きだと思うのだが
精霊がルーガルで良かったと思っている
共に戦うパートナーとしてこれからもよろしく願いたい

どうした突然突っ伏して
みかんがあたったか?



「好きだ」
 精霊ルーガルが聞き届けた神人アーシェン=ドラシアの言葉に、集中して剥いていたみかんの一房を思わず握りつぶした。
 卓上には、アーシェン宅で大量に余らされていたみかんの山がこんもり盛られている。
 眩しい柑橘色、ぷしゃりと飛び散った果汁が目に染みた事で、瞳を何度か苦々しげに瞬かせて、ルーガルは戸惑いを隠しつつはあ、と一つ溜息を吐いた。
「……今度は何に影響されたんだお前」
「心外な。本心だ」
 間髪いれず真摯な瞳が返る。
 刹那心臓が跳ねた――直後、バサッ! と広げられた雑誌の一ページ。
 浮付いた記事の一覧に『相性診断』等と書かれた項目があって、そこを指しているのだと把握する。
「このフローチャート結果がそう言っている」
「……これ言い方が違うだけでほぼ全部『好き』に行き着くじゃねぇか」
 アホか、とつっけんどんに、手の平をひらひらと振って。論議するのも馬鹿らしいというような顔で雑誌から視線を背ける。
「そんな事はない! 結果は大事だが経過も大切だ、この項目など俺に当てはまっていると思わないか」
「あー……なになに、末っ子気質で一人の時間が欲しいと思っている……? いや知らんわ」
「驚いた……最近の恋愛診断は、ここまで見抜いてくるものなんだな」
「……」
 読むのもアホらしいがちらりと見遣った「生真面目過ぎる」「マニュアルに頼りすぎで融通が効かない」等の項目も確かに当てはまる。気がする。
 本人が蛍光ペンで線引きしているから、そう思うだけなのかもしれないけれど。
「触れると安心するし……あんたに優しくされると満たされる感じがした。これが、好きということなんだろう?」
 見上げてくる瞳に思い起こすのは、雪道での暖かな距離と、二人で囲んだ鍋。
(ガキみたいにふわふわした理由並べて簡単に好きとか言うな)
 そう口にしてやりたい。雑誌にばかり影響されて肝心なものが見えていない彼の、子供だましみたいな甘い言葉たちを、まとめて払拭してやりたいのに。
 ルーガルが好きだという理由を、必死に並べ連ねるアーシェンの表情が、いつもよりもずっと緩くて。
「……俺がお前の精霊だから、そう言う事だろ」
「そうだ。適合する精霊だから出会う事が出来た」
「他を知らないだけだ。その理屈だとお前の精霊が俺じゃなくても同じ事を言ったんだろう。適合精霊が俺じゃなかったら? 他にもっと優しくしてくれるヤツが居たらどうなんだ?」
「……」
 考え込む様に黙り込んでしまったアーシェンに、は、とルーガルは我に返る。
 まるで「精霊とか関係なくお前だからいい」と言う言葉を引き出したがっているかのようだ。
 気付いて頭を掻いてごほん! とわざとらしく咳払いして。
 核心をずらす様に「そんな刷り込みみたいな勘違いは――」と、言いかけた所で、アーシェンが口火を切った。
「あんたしか知らない俺では、駄目なのだろうか」
「……は?」
「他を知らなければ、比較しなければ駄目なのか?」
 おくする事も恥じる事もなく、まっすぐに見つめてくる瞳は、確かに雛鳥が親鳥を見るそれにも似ている。
 なんて熱烈な告白だ。あなたひとりでいい、だなんて――唖然とするルーガルに、アーシェンは更に表情をほどかせた。
「俺は純粋に、ルーガルと過ごす時間が好きだと思うのだが……適合する精霊がルーガルで良かった、とも思っている。共に戦うパートナーとして、これからもよろしく願いたい」
 付け加えられた一言に、ルーガルは思わず卓上へがくりと突っ伏した。
「恋愛と友愛の区別もついてなかったのかよ……」
 ぽつりと落とされた呟きは当然アーシェンの耳には届いておらず。
「どうした突然。みかんがあたったか」
 小首を傾げつつ盛られた山のひとつを手にとって「あ、傷んでる」なんて暢気にぼやく神人には、盛大に肩透かしを食らった精霊の心境など知る所ではなかった。
(――くそ、これじゃ俺の方がお前の一番になりたがってるみたいじゃねえか!)


 その日、神人の鳥飼は精霊、鴉の自宅に訪れていた。
『たまにはうちでゆっくりお茶でも飲みませんか』
 何の気紛れなのか先日唐突にそう言い出して、精霊自ら自宅に招いてくれた事が知り合って以来初めてで、鳥飼は素直に感激した。
 それゆえ、ごく自然に、心の底から出た言葉だった。

「鴉さんのこと、好きです。とても」

 湯気の立つ紅茶に手を添えて、水面に視線を落とした鳥飼の口から、ぽつりと落とされた一言。
 鴉はけれども、張り付けたような薄い笑みを崩す事はない。
「……何を言うかと思えば」
 カチャリ、と静かな所作で、ソーサーにカップを置く。
 ややあって「主殿は人が良いようで」と続けた。
「信じてませんね? 本当に好きです。人として」
 真剣な眼差しを湛えて告げる鳥飼の言葉に嘘はないだろう。
 けれども、分かっているのだろうか。
 繰り返すその一言一言が、逐一鴉の心をざわめかせていると言う事を。
「そういった言葉は、軽々しく口にしない方がよろしいかと」
「好意は、伝えないと届かないですよ?」
 更に続けて、小首を傾げる。どうしたら、この気持ちが伝わるのだろう。
 鴉から感情を読み取る事は酷く難しい。知り合ってから随分経つけれど、鳥飼が彼に関し知る事はとても少ない。
 家に招かれたのだって今日が初めてだ。
 元来、警戒心強い人なのだろう、とは何となく理解している。
 けれどその心根は、本来とても優しいものなのでは、とも。
「主殿は優し過ぎる。……以前から忠告差し上げてますが」
 どこか遠くを見るような瞳で、鴉は弧を描く唇を薄く開いた。
「過度の優しさは返って残酷なのですよ。よく例えて言うでしょう? 獅子はわが子を千尋の谷に落とす、などと」
「……」
「強くする為に敢えて試練を与える事もある――優しさだけでは、人は駄目になってしまうのですよ」
 鴉の言葉を受けて、鳥飼は紅茶に映った自分の顔を見つめた。
 そんなに自分は優しいだろうか。自覚はない。
 ただいつでも、自分が善しと判断した想いに準じて、話して、動いているだけで。
 自身の事はよくわからない。けれどそんな風に、自分を想って忠告してくれる鴉の事はわかる。
「鴉さんも、駄目になるんですか?」
「……。……はい?」
 一拍あって、鴉は薄く目を見開いた。
 らしくない動揺が初めてその瞳に浮かんだ事に、純粋な疑問を浮かべるばかりの鳥飼は気付かない。
「優しさが人を駄目にするのなら……やさしい鴉さんも、駄目になってしまうのかなぁ、と」
「…………」
 また、ややあって。鴉は不意に顔を俯かせた。
「……っく、くくっ……」
「鴉さん?」
「く、ははははっ……!」
 たまらず、といった風体で、口元に袖を寄せてからからと笑い出した精霊に、鳥飼は目を丸くした。
 すみません、ちょっと待ってください、落ち着くまで……等々、喉を鳴らす合間にも鳥飼を気遣うが、堪えきれないらしい。
「……鴉さんが屈託なく笑うの、初めて見ました」
 心底楽しそうな鴉の様子に、ふっと鳥飼も微笑む。
 こんな風に笑える人なのだと分かって、無性に安堵した。

「……はあ、失礼しました」
「構いませんけど……大丈夫ですか?」
「問題ありません」
 しこたま笑って落ち着いて、ほとんどぬるくなってしまった紅茶に口をつける。
「そうだ! 今日はお菓子を持って来たんです」
 手をぱちんと鳴らして、荷物の中からケーキボックスを取り出す。
 蓋を開くとチョコレートをあしらった上品なケーキが二人分鎮座していた。
「主殿、出すのが遅いのではありませんか?」
「すみません。誰かの家にお邪魔するのってあまりなくって……あ、ちゃんとビターですよ」
 鴉を気遣った選別に薄く笑みを浮かべる。
 紅茶も随分冷めてしまったし、なんだかもう少しこの不思議な主人と話していたいような気もしたし。
 仕方ないですね、と満更でもなさそうに告げて、二人分の紅茶を淹れなおしに、キッチンへと立った。


「テオくーん、好きっ」
「うん」
「テオー。なぁ聞いてるー? 好きだよ」
「聞いてる」
「俺テオくんのこと、ずっと前からすきでしたっ!」
「はいはい」
「すーきすきすきすきす……あっ噛んだ」
「…………気をつけろよー」
 ソファに腰掛けたまま、のしりと体を預けてきた親友――精霊ハルトの戯れを、はあぁと深い嘆息と共に受け流す神人、テオドア・バークリー。
 ハルトが合鍵を家の中に忘れて外出し、そのまま家人が家を空けてしまったので、母親が帰って来るまで家に入れない、なんて顛末になったらしく。
 両親ともども顔見知りであるテオドアの家でひとまず預かる運びとなった。
 クリスマス以降、なんだかんだとあの手この手で用事を作りハルトと顔を突き合わせない様にしていたため、こうしてのんびり二人で過ごすのは久し振りの様な気がした。
 ……どうして顔を合わせづらい、と意識するようになったのか、理由まで深く考えないでおきたかった。
(うーむ、段々返答が適当になってきたなー)
 ソファでゲームするのも飽きて――というか、折角二人で過ごせる時間を無駄にするのも勿体無くて、ゲーム機の電源を入れたままだらだらとテオドアにくっついて『好き』と繰り返すだけの遊びを、かれこれ49回ほど続けていた。
 ちなみにテオドアは30回を超えたあたりで数えるのを止めた――というか、数える意義がよくわからなくなった。
 テオドアはソファの足元で、背を預けて本を広げてはいるものの、なんだかんだでちゃんと返事を返してくれるのがハルトには嬉しい。
 ついでに逃がさないよう後ろから抱きついたままの体勢をキープして「もう飽きただろその遊び……」と横目で呆れるテオドアに「あっ、折角だから50回目まで言わせて!」と、このハルトだけが楽しくて仕方ない遊びを継続していた。
(少しは意識してくれるようになったなら嬉しいなぁ)
 そもそも今日、部屋に上がった直後はこんなに近くに座ってなかった。
 初めて部屋に招いた訳でもないのに、妙にそわそわと所在なさげにしていたのは主であるテオドアの方だ。
『……俺、こっちで本読んでるから』
 目を合わせない様にして、離れた位置で本を読み始めた彼を見ていたら、無性に好意を告げたくなった、というだけの話なのだけれど。
 スケートリンクを共に滑ったあの日以降、この鈍感な親友が、ずっとまともに顔を合わせてくれなかった理由。
 それが、ハルトがテオドアに対し望む気持ちと同じものであるような思いが、ここに来て確信めいてきた。
(……なんだこの状況)
 ページを捲る手を止めて、テオドアはふと考える。本の内容なんてとうに集中出来てない。
 背後の存在を意識しながら、好きという言葉を重ねられる度に、なんとか冷静を装って答えているけれど。
 もっと他にマシな返答があったんじゃないかと後悔するものばかりだ。
 ざわめきたつ胸の内の動揺を、悟られないような良い切り返しが。
 ハルト曰く五十回目の『好きだよ、テオ』はなんだか無性に艶めいて聞こえて、次の返答を必死に考えた結果何も浮かばず、一度ぎゅうっと目をつむって、思わず話題を逸らしてしまった。

「……ハル、本が読みづらい」
「別にいいじゃん、だってそれさっきから――……あっ、いやなんでもない」
「なんだよ。言いかけて止めるなって」
「うーん、言っても良いけど……」
 ちら、と。角度的に未だ見えないテオドアの表情を伺うも、どんな顔をしているのかなんて、とっくに予想は出来ている。
 先程から全くページが進んでないとか、陽だまり色の房からのぞく耳はもうずっと赤いままだとか。
 気付いて、秘めている全てを正直に告げた瞬間、ハルトのホールドを振り切ってでも脱兎の如く逃げ出すテオドアの姿が目に見えていたから「やっぱりなんでもなーい」と、気持ち悪がられるのも構わず一人、楽しそうなニヤけ顔を浮かべるに留めたのだった。


「一目ぼれしました」
 神人ルゥ・ラーンの発した一言も、先程から報告の続く怪現象の一部かと思ってあやうく精霊のコーディは酒を吹きかけた。
 酔ったのか、と思うも、続く言葉に興味が湧いて。ルゥに身を寄せ「……何が?」と妖艶に微笑んで見せた。

 日々報告の尽きないおかしな出来事。それはルゥが曰くつきの部屋と知りながら、同じ共同長屋の一室に居を構えているからだ。
 瘴気を浄化する事でコーディの運気も上がる、なんて随分虫のいい話も聞いたが、彼がいいと言うならそれでいいだろうと納得してはいるものの、今日のように避難所として自室へ招くこともしばしばだった。
 テーブルにはアルコールとつまみの惣菜。宅呑みの体をとってから時間はとっくに日付を越え、窓の外は夜闇に包まれていた。
「あなたを初めて知った時……この美しい人を私は愛する様になるのだと。とても、幸せな予感に包まれました」
 顕現するより以前、占い師を生業としていたルゥは、その日の事を今でも鮮明に覚えている。
「そういえば君って契約した頃から僕に好意的だったね それって……?」
 コーディの問いかけに「はい」と頷いて。
「あなたに、恋をしています」
 あまりにてらいない言葉に照れて、コーディは刹那視線を泳がせるが、ぐいっと酒を煽りなんでもない様な態度を取り繕った。
「――へぇ。でも、僕の外見に好意を持つ人は多いよ。中身を知って文句言う奴もね」
 体を離して元の位置へ座りなおし、コーディは肩を竦めた。
 ダンサーを生業とし一見女性の様にも見える彼は、その生き方故に面倒ごとも多く経験してきた。
 過去を思い起こしつつ、つまみを一つ齧り再度ルゥに話題を振る。
「何でいきなりそんな話?」
 何か嫌な相手の事でも思い出したのか、さして面白くなさそうな顔でルゥを見遣るコーディに。
「ふふ。つい、愛しくて」
 と、あくまでこちらは穏やかだ。
「あ……そう」
 返す言葉を見失って、脱力する。
 相方のマイペースさを嫌と言うほど知ってはいるが、ふわふわとした雰囲気に反しあくまで純粋な好意を突き通してくる神人の性格は、けれども外見だけで判断し中身に文句を言って逃げる様な男達に比べれば、幾分居心地がいいような気がした。
「僕は……そういうのはまだよく分らないけど。あの部屋の事もあるし、ほっとけなくはあるかな」
 答えあぐねた末、ルゥに対するコーディ自身の思いを、誰にともなくぼやく。
「それに……テネブラを見せてくれた人だし、特別枠、って言うか……」
 ルゥはにこにこ、うんうんと、首を縦に揺らしながら聞いてくれているものの。
 次第に、じわじわと羞恥心がこみあげてきた。
「……なんだよ。何か言えよ」
「うふふ、ええ。構って頂けて幸せですよ」
 僅かに唇を尖らせた所作がまた愛らしい。
 ふとルゥは目を閉じて、契約を交わしたあの日の事を脳裏に描いた。
「テネブラを一緒に見上げた時、とても感動していましたね」
 契約を交わした二人にしか見えない幻想の月。
 その瞬間は確かに、幸せな未来を二人に予感させたけれど。
(彼に愛の予感を感じるほど……いつかの未来に訪れる不吉を思い、苦しい)
 顕現前に視た、精霊の死を予感させる不吉な未来の断片。
 それがいつまでもルゥの心の片隅に付き纏う。
 浮かんだ不安を払拭するように、手にした酒を「いれますよ」とコーディの杯に注ぎ足して。
 自分もくいっと一口に呑み干した。
「それにしても……あなたに文句を言うなんて。照れた時のあの可愛らしさを知らないんでしょうね」
「か、可愛いとか言うなっ」
「ふふ。ほら、その顔」
 ぼっ! と途端に茹で上がったコーディに、にこやかな表情のままルゥが指摘する。
 ぐっ……と唇を引き結んで、仏頂面のままぷいっと視線を逸らした。
「……まあ、こういう僕を知った上で付き合えてるなら、好きって言葉も本物なのかな……」
「はい。本物ですよ」
「さらっと聞いてんなよっ!」
「うふふふふ」
 最後の最後まで神人のペースに飲まれて、ついでに酒にも呑まれた気がする。
 ふわふわと心地いい酔いのなか、浮かんだルゥの終始変わらぬ微笑みは、なんだか無性にコーディを安心させてくれた。


「はぁ~……ほんと好きだなぁ、クルークの顔」
 ソファでごろごろと猫の様に駄弁りながら、頬杖を突き神人の顔を恍惚と見つめて、ぽつりと呟いたのは精霊、ロベルト・エメリッヒ。
 対する当人は「知ってる」となんでもないような顔で返し、模様の入り組んだティーカップを眺め値踏みしている。
「僕の審美眼に敵うだけの事はあるよねぇ」
「……」
 続いた二の句には流石に沈黙したまま、剣呑な眼差しで丸い瞳を見返す。
 どこか不服げな神人――クルーク・オープストにロベルトは悪戯っ子の顔で笑った。
「なに、もしかして期待してたの?」
「何がだ」
「僕が君の事、ただのいち蒐集品とは違った目で見てるって」
「一言余計だと思ってただけだよ。……ま、お前が美女だったら」
 考えたけどな。ふい、とそっぽを向く様な仕草で視線を逸らす。
「なぁんだ、つまんないの」
「俺も好きだぜ」
「んっ?」
「お前んちで出るメシ」
「……」
 別に期待した訳ではないがなんだかやり返された様な気になって、半眼でクルークを見たあと「あっそ」と不満げにソファへ寝転がり、執事が運んできた紅茶をそのまま取って啜った。
「美味いし、使用人達の感じもいいしな」
「当然! みんな腕が良いからね。僕も好きだよ」
 自慢げな顔でティーカップを掲げながら話すロベルトを見ていると、いつ中身を零すかヒヤヒヤする。
「おいおい行儀悪ィな零すぞ? このソファも、高そうだし……」
 自身が座っているそれにも視線を落とし、見慣れない模様と上質な質感に気後れする。
 クルークの心配など何処吹く風で、紅茶を飲み干したロベルトはカップを執事に手渡すと、体を起こしてソファを撫でた。
「別にいいよ、飽き始めてて……丁度新しいのが欲しいなぁって思ってたんだ」
 新調する口実にもなるでしょ、と肩をすくめるロベルトに、なんとなく釈然としない気持ちになるのは庶民肌との違い故なのだろうが。
「……お前がそれでいいっつうんならいいけど。モノは大切にしろよ」
 ロベルトの実家は美術商でこの屋敷も随分な豪邸だが決して居心地は悪くない。
 神人だからと過剰に意識される訳でもなく、適度に距離感を保ってくれる屋敷の人たちも好きだ。
 それでも、彼の言う様な割り切り方はどうにも自分には向かない、とクルークは思う。
 パートナーが神妙な面持ちで告げた一言に、ロベルト自身はよく理解出来ないといった表情で首を傾げていた。

「モノと言えば、さっき廊下でお前が好きそうな顔の美少女とすれ違ったぜ。睨まれてちょっとビビったけど……客は今、俺一人のはずだよな?」
 泊めてたのか? と問えば「あー……」と思い返した様に頷く。
「その子の事は気にしなくていいよ。身寄りがない子を気に入っちゃう事もあってさ。家と職が見つかるまで部屋貸してるんだ」
「……ふーん。今更驚きやしねぇけど。女もイケたんだな」
「女の子も好きだよ?……あれ、なんか意外そう」
 日頃から蒐集品の『●●くんと遊ぶ』だとか『▽▽くんがお気に入り』だとか――男である自分の顔を『美しい』と評するだけあって、てっきりロベルトの審美眼の対象は同性に限定されるものかと、どこかで過信していただけにその答えは意外だった。
「美しいものは何でも好きだよ。……クルークの事もね?」
「……あ、そう」
「もーぉ! 淡白! こんなに再三好き好きってこの僕が言ってあげてるのに、ちょっとは期待するとかないワケっ?」
「だーっ、じゃれつくなっ! 蒐集品みたいなもんなんだろ。俺の事だって……」
「あれれ~? 妬いてるのかなぁ~?」
「妬いてねぇーしっ!」
 猫の様に、ソファでごろごろとじゃれつく精霊を手の平でぐいぐいと押しやりながら、けれども本気で引き剥がそうとはしない神人の姿を、執事や使用人たちは微笑ましく見守っていた。



依頼結果:成功
MVP
名前:アーシェン=ドラシア
呼び名:アーシェン
  名前:ルーガル
呼び名:ルーガル

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 梅都鈴里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月04日
出発日 02月10日 00:00
予定納品日 02月20日

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