プロローグ
「怪我の状態が酷い方は、奥の診察室へお願いします……!」
テルラ温泉郷にある旅館の一つは、臨時の診療所となっていました。
現在、テルラ温泉郷周辺は、オーガ、デミ・オーガ達の脅威に晒されています。
A.R.O.A.から要請を受けたウィンクルム達が、その迎撃に当っていました。
オーガ達との戦闘は熾烈を極め、負傷するウィンクルム達も少なくはありません。
また、戦いで疲労した彼らには休める場所が必要でした。
このため、有志が旅館を、臨時の診療所兼休憩所として、ウィンクルム達に提供しています。
旅館の中では、傷の治療は勿論、部屋で休んだり、食事を取る事が可能となっています。
「怪我の程度がそこまで酷くない方は、手前のお部屋へどうぞ!」
一般人の多くが避難している事もあり、人手は足りていません。
医師や看護師は数名しか居ない状況のため、怪我の程度が軽い人は、救急箱を借りて自身で治療をしています。
部屋のあちこちで、ウィンクルム同士で包帯を巻きあったりしている光景が広がっていました。
また、食事についても、材料はあるものの、料理を作る人手は勿論足りていません。
料理の腕に自信のあるウィンクルムの中には、自身で料理を作っている人々も居ます。
一方、料理を作る時間さえ惜しいウィンクルム達は、缶詰を開けて食べていました。
そんな旅館に、また新たにウィンクルム達がやって来ます。
束の間の休息を、貴方はどのように過ごしますか?
解説
オーガ達との戦闘の合間、束の間の休息をするエピソードです。
旅館は以下のようになっています。
・VIPルーム :怪我の程度が酷い人達用に、医師や看護師が居て治療に当っています。
・通常の個室 :怪我の程度が軽い人達や、休憩をしたい人達用に開放されています。
部屋には布団があるので、眠る事が出来ます。
怪我の治療をしたい方は、受付で救急箱が借りられます。
・宴会場 :食事が出来ます。缶詰や乾パンが常備されており、自由に食べられます。
・調理場 :料理人不在のため、自由に使えるよう開放されています。
ある程度の材料は揃っていますので、ご自由に調理が可能です。
※怪我の程度は、軽度の怪我までとさせて頂きます。
(VIPルームの利用は出来ません)
※怪我をした状態とする方は、誰がどのような怪我であるか、プラン内に明記をお願いします。(記載がない場合は、マスター側で決めさせて頂きます。切創となる可能性が高いです)
ゲームマスターより
ゲームマスターを務めさせていただく『血を見るのは超苦手な』雪花菜 凛(きらず りん)です。
ジャンルが「シリアス」となっていますが、コメディ展開もハートフルな展開も歓迎です。
治療したり、休んだり、食事をしたりで、パートナーとの親睦を深めて頂けたらと思います!
怪我の描写はあっさり目となりますので、あらかじめご了承ください。
皆様の素敵なアクションをお待ちしております!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
スウィン(イルド)
受付で救急箱を借りて通常の個室へ 二人とも切り傷や引っかき傷 先におっさんを手当てしてくれるのね、ありがと …何か考えなくていいこと色々考えてるんでしょうねぇ… おっさんの傷なんて気にしなくていいのに お姫様じゃないんだから 攻撃では殆ど役に立てない分せめて敵の攻撃くらいは受けて イルドが攻撃する余裕を作らなくっちゃね …それに十分、守ってもらってると思うわ (イルドの手をぎゅっと握って) こら、何か変な事考えてるでしょ? 二人とも無事だったんだから、気にしなくていーの! さ、今度はイルドを手当てしなきゃ 変な事考えてる余裕がなくなるくらい、ね! (遠慮なく傷を消毒) あら~、おっさんは優しいわよ~? はいはい、動かな~い |
アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
サンクの効果範囲でのんびり癒える 「漕げよウィンクルム事件(シナ)」で少し怪我したのと疲労が心地よく治るよ 「…かすり傷だっていうのにランスったら大袈裟なんだよな」汗(←目が嬉しそう あっちも神人が怪我しているんだな ふふ、なんだか仲間?(笑 *ランスとセイリュウ達が言い合いになったら仲裁 俺はホント掠り傷だしもう痕も残ってないよ(自分達用の個室で腕を出して見せる ランスこそ実は打撲とか大丈夫なのか?(おかえしに確認 …って何、 そう言えば服の下は確認していなかったとか真顔で言われると何か戸惑… …壁に追い詰めるのとか怖いんですけどっ(汗 捲るなって 俺は袖を捲ったのに、なんでそこまで捲… ちょ、こら、やめ…(ギャー← |
大槻 一輝(ガロン・エンヴィニオ)
無傷に近い軽傷 ……。 …救急箱、借りてくる。 (せっせと包帯周囲の人に巻いていく男 そのやり方じゃダメだ。 こっちに回して。 戦闘をするなら、怪我はつきものだけど。 やっぱり見ていて気持ちの良いもんじゃ、ないよな。 …それも、分かる。俺が頑張っても助けられる人なんて実質皆無に近いだろうし。俺の力と言うよりも殆どガロンの力だ。たまたま、神人になったから、って全員が全員助けられるなんて思ってない。 だから。・・・だから、とりあえず。出来る事をする。 それと、これ(食事)も。ありがと。 助けられてばっかり、だな。 ガロンは休んでて。 これは、俺の自己満足だから。 |
柊崎 直香(ゼク=ファル)
古今東西腹が減ってはなんとやら 携帯食とお菓子ばかりも飽きてきたしね 食材も設備もお誂え向きに料理人も揃ってるので 調理場でその料理人(というかゼクですけど)を使おう作戦。 僕は調理を監督してる 旅館なら大きい鍋も食材も食器も揃ってるでしょ 他の人も食べられるような物を作ろうか 一人分も二人分も数十人も大差ないって 僕作ったことないけど すぐにまた出掛ける人、食欲のない人もいるだろうから 食べやすいスープにしよう 盛りつけ配膳ぐらいは僕もできる んー、なんかね、怪我人も多いしこの特有の慌しい空気? なにかしなきゃって、そんな気に。 ほら僕落ち着きないしー? そういえばゼクは怪我してないんだっけ、と 今更さりげなく観察しつつ。 |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
怪我してたから手当てしに来たぜ。 ラキアが回復魔法覚えたのでドア開けたまま部屋で使ってみようぜ。どんなのか見てみたい。他の人達の役にも立つし。 さくっとトランスして使ってもらう。回復度合はどんな感じ? 普段、敵の直接対応はオレの役割。カウンター魔法を主に使ってるけど、敵に攻撃されなきゃ反撃出来ないだろ。だからオレが敵を斬りに行くこのスタイルで正解じゃん。 他の人が来たら「神人を怪我させちゃ駄目だろ」と精霊に言ってみたりして。お互い皆怪我しないのが一番いいけどな。と笑う。 ま、オレ的には「俺の大事なラキアを敵の手の届く所に居させるなんてとんでもないし」とラキアを(どさくさに紛れ)抱き寄せるぜ。ぎゅ。 |
●1.
テルラ温泉郷のとある旅館。
臨時の診療所となっているこの場所では、消毒液と血の匂いが漂っていた。
「フム。さながら野戦病院、といった所かな?」
ガロン・エンヴィニオは周囲を見渡しながら、そう瞳を細めた。
旅館のロビーでは、比較的軽傷なウィンクルム達が簡単な手当てを行っている光景が、あちこちに広がっている。
「……」
その隣で、大槻 一輝はきゅっと唇を結んでから、
「……救急箱、借りてくる」
小さくガロンにそう告げると、受付へ足を向ける。
直ぐに救急箱を持って戻って来た一輝は、自分達で怪我を手当てしているウィンクルム達へ歩み寄った。
「手伝うよ」
消毒液と包帯を手に、一輝は負傷者の手当てを始める。
「そのやり方じゃダメだ。こっちに回して」
上手く包帯を巻けていないウィンクルム達に声を掛け、次々と包帯を巻いていく。
「カズキ。私は食事を探して来るよ」
ガロンはその一輝の背中に声を掛けると、受付で食べ物の在処を聞き宴会場へと歩き出した。
(カズキは、根がマジメだからね)
歩きながら、ガロンは一輝の様子を思い出し小さく息を吐き出す。
ガロンも一輝も、無傷に近い軽傷で手当てはほとんど必要はない。
が、休息と食事は必要だ。
あのままだと、自分が休む事も忘れて手当てに没頭しそうな気がした。
(まぁ、カズキらしい……のだけども)
宴会場に着くと、受付で聞いた通り、缶詰や乾パン、そして調味料が大量に並べられている。
「味気ないけど、仕方ないね」
調味料があるのが救いだ。
ガロンは鯖の水煮缶を開けると、柚子こしょうを添えポン酢と醤油を掛ける。
次に鮭の缶詰めを開けて、マヨネーズを掛け、こしょうを振った。
最後に蟹の缶詰めを開け、粗挽きこしょうを振って、簡単な調理が完了する。
盆に缶詰料理と乾パンを乗せ、ガロンは一輝の元へと戻った。
「そっち、押さえてて」
ロビーでは、先ほどと変わらぬ様子で一輝が手当ての手伝いをしている。
「カズキ。食事を持って来た。少し休憩しないかい?」
「ガロン」
声を掛けると、一輝はガロンの手元の缶詰料理に少し驚いた顔をしてから、手当ての途中のウィンクルム達を見遣った。
「もう大丈夫だから、食事を先に取ってよ」
ウィンクルム達に笑顔でそう言われ、一輝は一旦その場を離れ、空いている個室で食事を取る事となった。
柚子やポン酢の調味料が、食欲を促進してくれる。
「美味い」
「よかった」
一輝の口から自然に出た言葉に、ガロンはにこやかに微笑んだ。
「戦闘をするなら、怪我はつきものだけど……」
食べ終えて箸を終え、一輝がぽつりとそう口を開く。
「やっぱり……見ていて気持ちの良いもんじゃ、ないよな」
「気に病む必要はないと思うよ」
俯く一輝をじっと見つめ、ガロンは穏やかな声で言った。
「『もっと自分が頑張ったら、彼等は怪我をしないで済んだかもしれない』とかね」
ピクリと小さく一輝の肩が動くのを眺め、ガロンは目を細める。
「誰が頑張ろうが怪我をする時はするし、彼等は前に立つだろう。
その分、彼等の怪我をする確率は高くなるし、全員を君一人で背負える訳ではないのだから」
「……それも、分かる。俺が頑張っても助けられる人なんて実質皆無に近いだろうし」
一輝は顔を上げてガロンを見つめ、直ぐまた視線を下へ落とした。
「俺の力と言うよりも殆どガロンの力だ。たまたま、神人になったから……って、全員が全員助けられるなんて思ってない」
思ってないんだ。
「だから」
膝の上に置かれた手を、ぎゅっと握り締める。
「……だから、とりあえず。出来る事をする」
「そうかい? それなら、別に構わないのだがね」
ガロンは小さく肩を竦めた。
気遣ってくれているのだと、一輝は彼の優しさに感謝する。
「これ(食事)も。ありがと。
助けられてばっかり、だな」
顔を上げられないままお礼を言うと、ガロンが微笑む気配がした。
●2.
古今東西腹が減ってはなんとやら。
「さあ働くがいいよ」
柊崎 直香がびしっと指差しそう言うと、ゼク=ファルは、
「既に働いている」
そう一言答えた。
そんな彼らは、今、旅館の料理場に居る。
受付の男性に渡されたエプロンを身に着けて、ゼクは食材置き場で調理する食材を選んでいた。
「ならば、さらに働くがいいよ」
直香は少し拍子抜けた様子ながらも、胸を張ってもう一度びしっと指差した。
「リクエストはあるか?」
しかし、ゼクは卵を手にそんな事を尋ねてくる。
『あれ?』と直香の首が傾いた。
「なんだよ?」
ゼクは大きく瞬きして、直香を見遣った。
「素直すぎてつまんない」
「お前……」
唇を尖らせる直香に、ゼクの眉間に皺が刻まれた。
「馬鹿言ってないで、リクエストがあれば言え」
ちぇーと直香は半眼になるも、少し考えるようにして、大きな鍋が並ぶ調理道具置き場を眺める。
「他の人も食べられるような物を作ろうか」
ゼクは意外だとばかりに、目を少し丸くして彼を見つめる。
「一人分も二人分も数十人も大差ないって」
直香はにっこりと微笑むと、『僕作ったことないけど』と続けた。
「すぐにまた出掛ける人、食欲のない人もいるだろうから……そうだ! 食べやすいスープにしよう」
「……わかった。スープだな」
ゼクは頷くと、生姜と長ねぎ、白菜を手に取る。
「滋養のある食べやすいのがいいな」
そう言いながら、直香はさりげなく茸とピーマンを除けて、棚の奥へ押し込めた。
このような悪魔の食材は、スープには不要なのだ。
一方ゼクは、冷蔵庫から鶏むね肉を取り出すと包丁で細切りにし始めた。
「直香」
それをじっと見ていると、ゼクがふいに呼んでくる。
「皮剥きくらい、出来るだろ?」
スプーンと生姜を渡されて、直香は目を丸くした。
「スプーンで擦るようにして皮を剥くんだ。少し水に濡らすとやりやすい」
「へぇ……」
言われた通り、スプーンを生姜に当てると簡単に皮が剥ける。
「剥けた!」
「生姜は任せたぞ」
ゼクは少し微笑むと、再び包丁を動かすのだった。
「良い匂い~」
仕上げに少量のごま油を入れて、漂う香りに直香は頬を緩ませた。
直香が手伝いゼクが作ったのは、鶏肉と白菜、長ネギの入った、生姜の薬膳スープ。
「ほら」
ゼクは小皿にスープを取り分けると、直香に差し出してきた。味見をしろという事か。
「いただきます」
スプーンで掬って一口飲んでみると、鶏肉の旨味と生姜の香りが口の中に広がった。
食材はすべて細かく刻んであるので、固形物が食べられない人でもこれならば飲めそうだ。
「うん。ゼク、上出来!」
グッと親指を立てると、ゼクの瞳が和らぐ。
「それじゃ、冷めない内に運ぶか」
●3.
「おっさん、腕出せ」
旅館の個室に入るなり、救急箱を手にしたイルドはそうスウィンに言った。
スウィンは少し驚いたように瞬きしたが、直ぐに微笑む。
「先におっさんを手当てしてくれるのね、ありがと」
素直に好意に甘えて、促されるまま座椅子に座ると、切り傷や引っかき傷だらけの腕を差し出した。
「……」
イルドはぎゅっと口元を引き締めると、救急箱から消毒液とガーゼを取り出す。
「少し染みるぞ」
消毒液を染み込ませたガーゼをその傷口へ当てる。
「…ッ…」
スウィンは僅かに眉根を寄せるも、動かずにじっと手当するイルドの手を眺めていた。
傷口を丹念に消毒し、薬を塗って、ガーゼで覆いテープで止める。
包帯を巻きながら、すっかり無口になったイルドは考えていた。
スウィンが怪我をしたのは、守りきれなかった自分のせいだ。
ハードブレイカーであるイルドは、防御が苦手だという自覚がある。
(俺が傷付くのはいい)
けれど、スウィンを完全には守りきれない事が、嫌だった。
今回も、今までも軽傷だったが……いつか酷い怪我を負うかもしれない。
(もし、俺がロイヤルナイトだったら守りきれるのか?)
【アプローチ】を使い、自分へ敵の攻撃を引き付ければ、その分スウィンへ向けられる攻撃を自分へ向けられる。
そうすれば、スウィンはこんな風に怪我をする事はなかったのかも……。
(……何か考えなくていいこと色々考えてるんでしょうねぇ……)
考え込んで顰めっ面になっているイルドを眺め、スウィンは心の中で小さく嘆息した。
(おっさんの傷なんて気にしなくていいのに。お姫様じゃないんだから)
神人は精霊のような力は持っていない。
オーガに対抗する力を精霊に与えるだけだ。
(攻撃では殆ど役に立てない分、せめて敵の攻撃くらいは受けて……イルドが攻撃する余裕を作らなくっちゃね)
スウィンは自分に出来る事をしているだけなのだ。
だから、イルドが気に病む事などは何もない。
(……それに十分、守ってもらってると思うわ)
何時でも、イルドが自分を気遣ってくれているのは伝わってくるから。
「こら、何か変な事考えてるでしょ?」
イルドが包帯を巻き終わったタイミングで、スウィンはぎゅっとイルドの手を握った。
「二人とも無事だったんだから、気にしなくていーの!」
スウィンの言葉にイルドはハッとした様子で顔を上げ、大きく瞬きしてその目を見る。
「さ、今度はイルドを手当てしなきゃ。変な事考えてる余裕がなくなるくらい、ね!」
明るくウインクすると、強張っていたイルドの顔が漸く和らいだ。
「そう、だな……頼む」
「任せなさい♪」
彼が頷くと、スウィンは救急箱を自分の方へ引き寄せ、早速消毒液を手に取る。
鼻歌混じりにガーゼに消毒液を染み込ませる様子を眺め、イルドは瞳を細めた。
(柄にもなく色々考えちまった)
アレコレ仮の話を考えても仕方がない。
(やれる範囲で守る。それしかねーか)
今目の前にある、このスウィンの明るい笑顔が消えないように。
「……って、イッテェ!? すげー痛いんですけど、おっさん!?」
「そう? だらしないわねぇ~」
思考を掻き消すような遠慮のない傷口への手当てに、イルドは抗議の声を上げるが、スウィンは涼しい笑顔で微笑む。
「もうちょっと優しくしろ!」
「あら~、おっさんは優しいわよ~?」
スウィンは満面の笑顔で、その後も優しく(?)傷口を手当てしたのだった。
●4.
「ドア開けたまま、サンクチュアリを使ってみようぜ」
セイリュー・グラシアが振り向いてそう言うと、ラキア・ジェイドバインは少し緊張した表情で頷いた。
「……上手く行くといいんだけど」
「大丈夫だって! ラキアならきっと上手く出来るって!」
セイリューはぐっと親指を立てて、ラキアの背中をポンと叩く。
セイリューとラキアも、他のウィンクルム同様、旅館へ休息と治療に着ていた。
少し休んでラキアの魔力が回復したところで、手っ取り早く【サンクチュアリ】で怪我を治してみようという事になったのだ。
ラキアは覚えたての魔法を使うのに、少し緊張していた。
「俺達もその恩恵を受けてもいい?」
開け放たれた扉からテイルスの金色の耳がひょこっと覗き、続いて見知った顔が現れた。
「ランスじゃん! 勿論いいぜ。な、ラキア?」
「えぇ、どうぞご自由に」
「ありがと! じゃ、扉の外でお邪魔するな。セイジ、いいって」
笑顔で頷いたセイリュー達にお礼を言って、ヴェルトール・ランスはパートナーを呼ぶ。
「ランス、そんなに引っ張るな……!」
ランスに手を引かれ、アキ・セイジが姿を現した。
「二人共、お疲れ様。そして、すまない。お邪魔する」
律儀に一礼するセイジに、セイリューはヒラヒラと手を振る。
「んな堅苦しい挨拶はいいよ。存分に癒やされていってくれよな」
(癒やすのは俺なんだけどね)
心の中でセイリューに突っ込みを入れ、ラキアは深呼吸した。
「んじゃ、始めるか。よろしく、ラキア」
セイリューがそう言ってラキアへ身を寄せ、その頬へ唇を寄せる。
『滅せよ』
力ある言葉、インスパイアスペルと共に、頬へ誓いの口付けを。
セイリューとラキアの身体が、温かな光に包まれる。
自分の中に揺るぎない力が湧いてくるのを感じて、ラキアは瞳を閉じた。
祈るように両手を組んで、集中する。
自分を中心に光が広がるように、癒やしの力を高めて、放つ。
セイリューは、戦いの度に敵の前に出て立ち向かっていく。
だから、いつも生傷が絶えない。
ラキアを庇って怪我をする事だってある。
(危険な事は控えて欲しいけど、俺の事……怪我しないように心配してくれてるの、良く判るし)
だから、ラキアには彼を止める事は出来ない。
ラキアが他の生物を傷付けたくないと、そう考えてる事も彼は良く判ってくれていて。
ラキアが何かを傷つけずに済むよう、代わりにセイりューが引き受けくれている。
彼は『この方が得意だから』って言うけれど。
こっそり気を使ってくれてるのは解っている。
(だから余計に、セイリューには怪我して欲しくない)
せめて、その傷を癒やす事が自分に出来るならば、それを行わない理由は、ない。
ラキアを中心に光の輪が広がる、と同時に光の中に居るセイリューにその力が伝わった。
「おぉ! 傷が塞がってきたぜ、ラキア!」
じんわりとゆっくり傷が癒えていくのを指差し、セイリューが笑顔でラキアを見つめると、彼はホッとした表情で微笑み返す。
「でも、体力自体が回復する訳じゃないから、休息は必要だよ」
「セイジ、どう?」
扉の外では、ランスがセイジを心配そうに眺めていた。
「凄いな。ゆっくりだが、塞がって来てる」
セイジは傷の出来ていた手を出して、傷が癒える様子をランスに見せる。
それから、少し親近感を得た表情でセイリューを見遣って笑った。
「セイリューも怪我しているんだな。何だか仲間?」
「仲間って……そっちはセイジが怪我してるのか。神人を怪我させちゃ駄目だろ」
耳聡くその言葉を捉えると、セイリューはランスを指差した。
「む。俺だって、好きでセイジに怪我させてる訳じゃない」
ランスの耳がしゅんと垂れて、拗ねたような表情になる。
「セイジ、やっぱりお前、前に出て戦うの止めろ」
「なッ……馬鹿な事言うな。ランスが魔法を詠唱している間、守るのが俺の役割だろ」
「あーそういう事なら、それは正解だわ」
セイジが慌ててランスに言い返すと、セイリューは大きく頷いて肯定した。
「こっちもさ、普段、敵の直接対応はオレの役割。
カウンター魔法を主に使ってるけど、敵に攻撃されなきゃ反撃出来ないだろ?
だからオレが敵を斬りに行くこのスタイルで正解なんだよな」
「そうだよな!」
セイリューの援護射撃に、セイジは瞳を輝かせて同意する。
「お互い皆怪我しないのが一番いいけどな!
ま、オレ的には大事なラキアを敵の手の届く所に居させるなんてとんでもないし?」
セイリューはキラリと瞳を輝かせると、さりげなくラキアを抱き寄せてポーズを取った。
「俺だって、セイジを敵の届く所に居させたくないぞ!」
負けじとランスもセイジを抱き寄せて主張する。
バチバチと、セイリューとランスの間に火花が散った。
「ナンダコレ」
「セイリュー、他の人茶化すのはやめなよ」
抱き寄せられたセイジとラキアは、赤くなる頬を隠しながらそう言ったのだった。
●5.
「ゼクは休んでていーよ」
「……休む?」
宴会場にスープを運んで、さて配膳といった所で直香から放たれた言葉に、ゼクは思わず聞き返した。
「ここに来た本来の目的そっちだし」
ゼクからエプロンを奪い取り、大きすぎるそれを何とか身に付けながら、直香は当然のように言う。
「その論理なら、お前も休むべきだろ」
「んー、なんかね、怪我人も多いし……この特有の慌しい空気? 何かしなきゃって、そんな気になったんだよね。
ほら、僕落ち着きないしー?」
それからおたまを持つと、それをびしっとゼクに向けた。
「僕は通常運転、やりたいことやってるだけだから。ゼクは好きに休んでていーよ」
「……好きにしていいんだな?」
「だからそう言ってるってば」
「なら、好きにさせて貰う」
ゼクはそう言うなり、直香からおたまを奪い取ると鍋の前に陣取る。
「好きにするから、文句ないよな?」
直香は思わず一瞬停止してから、『好きにすれば』と笑った。
「さあ皆、食べるといいよ!」
直香とゼクが作ったスープを配り出すと、美味しそうな香りに、缶詰と乾パンに飽きていたウィンクルム達は殺到し、ちょっとした行列になった。
「沢山食べて、早く元気になるんだよー」
エプロン姿で、楽しそうにスープを渡す直香を横目に、ゼクはひたすら皿にスープを盛り付けている。
「うわーこれ、手作り?」
生姜の良い香りを嗅いで、セイリューが瞳を輝かせた。
「すげー美味そう!」
「本当、良い匂い……!」
ラキアも思わず頬を緩ませた。
「そうだよ、手作りだよ、美味しいよ」
直香はエヘンと胸を張りつつ、セイリューとラキアにも皿に盛られたスープを渡す。
その後も行列は絶えず、大きな鍋いっぱいに作ったスープは、あっという間に無くなったのだった。
「ガロンは休んでて。これは、俺の自己満足だから」
食事を終えて、少しは休憩するのかと思いきや、一輝は再び負傷者の手当ての手伝いをするという。
ガロンはそんな一輝を少し難しい顔で見つめてから、口を開いた。
「なら、一つカズキにお願いをしてもいいかな?」
「お願い?」
「いや、なに。少し思う所があってね」
不思議そうに瞬きした一輝の耳元へ唇を寄せ、ガロンは願いを囁く。
「……」
一輝は少しだけ戸惑うような表情を見せたが、ガロンが何をしようとしているのか理解すると小さく頷いた。
『絶えざる光を我等が上に』
触神の言霊と共に、少し屈んだガロンの頬へ軽く口付ける。
「有難う、カズキ」
薄いオーラを纏ったガロンは微笑むと、手を振り一輝と別れた。
ガロンが向かった先は、重傷者が居るVIPルーム。
そこでガロンは、傷を癒やす魔法【サンクチュアリ】を使用したのだった。
「今一実感は沸かなかったが、まあ、自己満足という奴が満たされるのかね?」
一生懸命手当てを手伝っている一輝の姿を思い浮かべながら、ガロンは彼の元へと足早に戻った。
●6.
「……かすり傷だっていうのに、ランスったら大袈裟なんだよな」
ランスと個室に入ったセイジは、少し恨めしげに彼を見遣った。
「大袈裟じゃない。セイジは直ぐ隠すし、やせ我慢するからな」
ランスはジロジロとセイジを眺めてくる。まだ怪我がないか心配しているらしい。
「俺はホント掠り傷だしもう痕も残ってないよ」
安心させようと、セイジは服の袖を捲って腕を見せた。
「ランスこそ、実は打撲とか大丈夫なのか?」
続いて、ランスの服の袖を捲り、腕に怪我がないかの確認をする。
「……そう言えば、服の下は確認していなかった」
「え?」
ふいにランスが真顔でそう呟くなり、セイジは気が付けば彼に壁に押し付けられていた。
「ら、ランス?」
「怪我、ないか確認しないと」
ランスの手が遠慮のない動きでセイジの上着を捲り始める。
「ちょ、待っ……! 怪我とかしてない……!」
「確認しないと心配だから」
「目が……! 目が怖い、ランス! ちょ……待てって……!」
「待てないよ。心配だ。……さっきも言ったけど、本当は、セイジに前に出て戦って欲しくない」
その声には切実な響きがあった。
「ランス……俺は、俺に出来る事をしたいんだ。ランスにだけ頼るなんて嫌だ。
ランスに頼られる人でありたい。……頼りないかも、しれないけれど」
「セイジのことは頼りにしてる。俺はお前が居るから、戦えるんだ。
けど、頑張るセイジは好きだけど……もう少しだけ、自分を大事にして欲しい」
「……うん」
「だから、怪我がないかチェックさせて」
「ちょ、こら……!」
セイジは怪我がないか確認するまで、ランスに離して貰えなかったのだった。
「さって、手当ても終わったし、少し眠って体力回復しましょ♪」
「酷い目にあった……」
個室で手当てを終え、スウィンとイルドは布団を並べて敷いた。
二人で並んで布団に入り、天井を見上げる。
「こうしてると旅行にでも来た気分ね」
「だな。……まぁ、今だけ少しくらいリラックスしてもいーんじゃねーか」
「ふふ。おっさんもそう思うわ」
目が覚めたら、またオーガ達との戦いが待っている。
けれど、今は。今だけは。
「おやすみなさい」
Fin.
依頼結果:大成功
MVP:
名前:柊崎 直香 呼び名:直香 |
名前:ゼク=ファル 呼び名:ゼク |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 雪花菜 凛 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | シリアス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 05月19日 |
出発日 | 05月24日 00:00 |
予定納品日 | 06月03日 |
参加者
- スウィン(イルド)
- アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
- 大槻 一輝(ガロン・エンヴィニオ)
- 柊崎 直香(ゼク=ファル)
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
会議室
-
2014/05/23-17:31
お言葉に甘えてサンクの効果範囲で癒させてもらうよ。
「漕げよ事件」で少し怪我したのでそれを。
…かすり傷だっていうのにあいつったら大袈裟なんだよな。(汗 -
2014/05/23-00:55
毎度おなじみクキザキ・タダカくんです。はろー。
僕の精霊に休憩時間など無いのです、とばかりに
調理場で働かせてるよーな気がするよー。 -
2014/05/23-00:39
セイリュー・グラシアだ。
部屋で傷の手当ての予定。
相棒がサンクチュアリⅠが使えるようになったので
部屋の中でスキルを展開してみて
回復がどんな規模で使えるのか試してみようかと思う。
ドアは開けておくので回復したい方はどうぞ。
-
2014/05/22-18:26
こんちは、スウィンとイルドよ~。個室で手当て、でプラン提出済み。
向こうで会う事はなさそうだけど、思い思いに過ごしましょ~ね。