厄払い!?鬼コスパーティ!!(木口アキノ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 ミラクルトラベルカンパニー企画会議室。
 後刻行われる会議のため、社員2人が机を並べていた。
「そう言えばレイコさんの出身地では、2月には厄祓いのイベントがあるんですってね」
 後輩と思しき男性社員モリノが、もう1人の女性社員に声をかける。
「節分のことかしら」
「きっとそれです。今回僕、そのセツプンをフューチャーしたイベントを企画したんですよ」
 なにやら自信ありげに胸を張るモリノだが、節分をセツプンと言っているあたりに、レイコは嫌な予感がした。
「えーと……どんなイベントかしら」
「鬼のコスプレしてパーティするんです!」
 レイコは目眩を覚えるが、モリノは話を続ける。
「パーティの食事は海苔巻きですよね。自分たちで太巻き作って食べるんです」
「まあ、太巻きを食べないこともないけど……」
「本場のセツプンでは一本の細巻を2人で両側から食べていくっていうゲームをやるっていうのは本当ですか?」
「やらないから!それ、どこ情報!?で、肝心の豆撒きはどこいったのよ?」
 するとモリノは、豆鉄砲を食らったような顔をした。会話の流れが豆だから、というわけではない。
「え?豆?チョコですよね、撒くの。餅撒きみたいな感じで一口チョコ撒いて、年の数だけ拾って食べることができたら、厄祓いできるんですよね。レイコさんがお好きなら、ピーナッツチョコも撒きますね!」
 違う。それ違う。
 しかし、いい笑顔で白い歯を光らせるモリノ。
 レイコが節分について一から教えようと思ったところで会議室に人が集まりだしたため、それは叶わなかった。

 そして残念なことにその2時間後。
 モリノの発案したイベントが採用されてしまったのだった。

解説

本来の節分とはかけ離れてしまったけれど、楽しめればオールオッケー?
参加費&コスチューム費で500ジェール消費します。
参加者は必ず鬼のコスプレをしてください。
食事は自分たちで作る太巻き。
一般的な寿司ネタが用意されていますので、お好きな太巻きを作ってください。
お茶やソフトドリンクも用意されています。
会場では豆撒きでも餅撒きでもなくチョコ撒きが行われますので、ご自由にご参加ください。

ゲームマスターより

鬼は外〜福は内〜
今回のエピソード、お気楽に楽しんでいただければ幸いです。
厄祓いは出来ないと思います(笑)
基本個別描写ですが、同じ会場にいますので、他の参加者と顔を合わせることもあるかもしれません。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

上巳 桃(斑雪)

  鬼のコスプレねえ
角付けて虎っぽい模様の服を着ればいいのかな?
虎っぽいってなんかあったっけ
確かおかーさんがヒョウ柄の上着持ってたような…
似てるし、これでいっか
(そして、大阪のおばちゃんが完成しました)

へー、はーちゃん物知りだねーすごいなー(なでなで
よし、この調子でチョコ撒きもがんばっちゃおう
麦チョコとかいいんじゃない?
誰かにぶつかっても痛くなさそうだし
おにはそとー

さて、次はお昼寝…じゃなかった、お昼の太巻きだ
真ん中に細く切った卵焼き、その周りにちょんちょんと細めの魚肉ソーセージを並べて、御飯と海苔で包むと、切り口がお花みたく見えるかな?
手抜きの飾り寿司だけど、はーちゃんに喜んでもらえると嬉しいな


水田 茉莉花(八月一日 智)
  なっ、何であたしの服をこんなのにしたんですかぁ!
(律儀に虎革ビキニ着ている)
もうっ、ほづみさんのマント貰いますよっ!
その王冠だけでも鬼の王様に見えるから良いじゃないですか!
(エプロン着けて完全防備)

料理作ってるときは真面目よね
って言うとほづみさん怒るから、普通に手伝おうかな配膳とか…あれっ?
ほづみさん、太巻き切った上に何を乗せてるんですか?
イクラだけじゃなくてスライスオニオンも乗せてるのが美味しそう
なっ、摘み食いなんてしませんってば!(バチコーン)

チョコ撒き…ほづみさん、厄落しの為にチョコぶつけてもいいですか?
そうですか、では、遠慮なく…
ほれ食えすぐ食えたんと食え!(首根っこ捕まえて放り込む)


真衣(ベルンハルト)
  節分にオニの服を着るって、ざんしん?っていうのであってる?

ちゃんとトラ模様の服よ? ママにみてもらったもの。タイツもはいてるから大丈夫。
ハルトもママがえらんだ服でしょう? ハルトこそ、インナーは無くてもいいと思うわ。
オニってそんなに服着こまないと思うの。

太巻き作り:
えびと、かにと。まぐろ! サーモンも入れるわ。
そうね、赤ばっかりになっちゃった。(少し考える
いくらも入れる。(赤づくしにすることにした

なら、ハルトにすこしわけてもいい?
ありがとう。(笑顔

できた。お茶をもらってくるわ!

チョコ撒き:
年の数ひろうの? 私は9こね。
かぞえ?(知らない

ハルトの分、ひろうの手伝うね。いくつひろうの?
がんばってひろうね!


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  カチューシャに鬼っぽい角をつけて
虎縞なタンクトップと巻スカートでそれっぽくしてみました。
やっぱり少し気恥ずかしいです…が、他の人達の姿を見て安心。
「オーガも豆をぶつけて退散させられると良いのに」と角を見て思いました。

「これ、本当の節分とは随分違います」とフェルンさんに耳うち。
彼の故郷にこの風習は無いようです。

私、太巻きよりも具1種類の細巻きの方が好きなんです。
鉄火巻きとカッパ巻をがお気に入りです。
フェルンさんの分も作りますね。
太巻きなら何が良いですか?
それはチョコ菓子でするゲームで・えと・・カッパ巻きでなら(顔真っ赤。
顔凄く近くて緊張しちゃいます。

チョコは一緒に拾って。幾つか食べさせてあげる。


夢路 希望(モーリエ・コート)
  私の知っている節分とは少し違いますが…これはこれで楽しそう
コートさんも、楽しんでくれるといいな


衣装:
鬼といえばのアニメヒロイン風コス
際どさは肌色インナーで対策
(一度やってみたかったっちゃ…な、なんちゃって…)(照

「す、すみません」(しゅん

彼の仮装は知っているゲームキャラに似ていてそわそわ
「コ、コートさんの…かっこいい、です、ね」

太巻き:
卵と胡瓜とレタスとツナでサラダ巻き
苦戦する彼におずおず助言とお手伝い<調理
「お魚、好き、なんですか?」
…そう、ですよね

チョコ蒔き:
いっぱい食べられるのは嬉しいけど複雑
…うぅ…(食べるの躊躇


少しだけど、コートさんを知ることができました
一歩全前進、です


 これは、モーリエ・コートと仲良くなる機会かもしれない。
「私の知っている節分とは少し違いますが……これはこれで楽しそうですよ」
(コートさんも、楽しんでくれるといいな)
 夢路 希望が誘うと、モーリエは即答。
「断る」
 希望の顔がみるみる曇る。泣きそうな顔になりながら、「わ、わかりました」と答えると、流石にモーリエにも罪悪感が生まれたようだ。
「……と思ったけど付いて行ってやらないこともない」
 無表情で素っ気ない口調だったが、希望はほっと安堵した。

 会場には、思い思いの「鬼コスプレ」をした参加者たち。
(一度やってみたかったっちゃ……な、なんちゃって……)
 2本角カチューシャを付けた希望はアニメヒロインを意識した虎柄ビキニとブーツである。
 大胆!と驚くことなかれ。ビキニの下には肌色インナーを着用している。
 照れながら、どうでしょうか?と希望が訊くと、モーリエは希望の姿を上から下までじっくり観察。
 このアニメヒロインはモーリエも知っている。しかし、記憶の中にあるヒロインと、目の前の希望とでは、かなり体型が違う。さらにインナーが野暮ったさを醸し出している。色々台無しだ。
 モーリエの口からボソッと感想が漏れた。
「底クオリティ」
「す、すみません」
 モーリエはというと、精巧な作りの付け角に虎縞柄の和装。希望も目にしたことのあるゲームに出てくる鬼族のキャラクターだ。
「コートさんも仮装してきたんですね」
「面倒だったけど必ずってあったから」
 無愛想なモーリエ、実は内心ノリノリで衣装を準備していた。
「様になっていますね」
「……ふん」
 モーリエは素っ気なく視線を逸らす。
 こう見えてモーリエは褒められて嬉しがっているのだが、残念ながら希望がそれに気づけるほど、2人の仲は親密ではなかった。

「なっ、何であたしの服をこんなのにしたんですかぁ!」
 水田 茉莉花は、虎柄ハーフパンツに虎マント、王冠まで被り鬼の王に扮した八月一日 智の襟首をぐいと掴んだ。
「フガッ、なんだよぉ!スタイルいいからそれ似合うとおもっ……イタイイタイ、ハリボテ金棒痛い!」
 虎革ビキニの茉莉花が金棒を振り回す。
 希望とは違い、インナーのないビキニである。
 衣装の用意を智に任せたのがまずかった。
 着替えの時点でどんな衣装か判明したのだから、そこで止めても良かったのだが、律儀に着てしまった。
「もうっ、ほづみさんのマント貰いますよっ!」
 茉莉花は智のマントを剥ぎ取る。
「ああっ、そのマント取られたらおれ下っ端鬼になっちまうじゃねー……ガフッ」
 追い縋る智の口元にハリボテ金棒を突きつける。
「その王冠だけでも鬼の王様に見えるから良いじゃないですか!」
 反論は許さない。茉莉花の吊り上がった眦がそう言っていた。

 鬼のコスプレとは、どのようにしたら良いのか。
 上巳 桃は夢に鬼が出て来るほど懸命に考えた。
 パートナーの斑雪は、主様と同じ衣装が着られる!と無邪気に喜んでいる。
「角付けて虎っぽい模様の服を着ればいいのかな?」
「じゃあ拙者は2本鬼の青鬼しますね」
「確かおかーさんがヒョウ柄の上着持ってたような……」
 ヒョウ柄は果たして虎っぽいのだろうか。猫科の猛獣、という部分では同じだから、きっと「虎っぽい」に含まれるに違いない。
 桃は自宅で母のクローゼットを覗き込み、獣っぽい柄の服を探す。
 全体にヒョウ柄、さらには胸に大きなヒョウが描かれたニットカーディガンが見つかった。
「………」
 桃はその服を広げてしばし観察する。
「虎柄に似てるし、これでいっか」
 そして、当日。
 ヒョウ柄ニットカーディガンに角の付いたアフロカツラの桃は、商店街を闊歩するおばちゃんと化していた。
「何か違うような……?」
 首を傾げる桃。
「……主様の格好は、普通の鬼となにかちょっと違うかもしれませんが、でも個性的でいいと思います」
 青色シャツにズボン、その上にトラ柄の腰巻、角付きカツラで正統派な青鬼になった斑雪がそう言ってフォローすると、桃は「そうかな」と微笑んだ。
「はーちゃんは、虎柄だね」
「鬼はですねー、丑寅の方角から来るので虎の毛皮を着てたりするんですよ」
 少し自慢げに胸を張り知識を披露する斑雪。
「へー、はーちゃん物知りだねーすごいなー」
 桃にカツラを被った頭をなでなでされ、斑雪は嬉しそうに目を細めた。
「よし、この調子でチョコ撒きもがんばっちゃおう」
「あれ?節分ってチョコをばらまくんでしたっけ?」
 斑雪はきょとんとする。
 彼が生まれ育った故郷では、正しい節分の風習があるのだろう。
「それに、チョコとお寿司はあんまり味が合わないような気がしますけど……」
 しかし、桃が楽しそうに「れっつごー」と斑雪の袖を引くので、
「でも、どっちも美味しいですもんね」
 と、桃の後をついていく。
 桃が楽しんでいるのなら、それで良いのだ。

 カチューシャに鬼っぽい角をつけて、虎縞なタンクトップと巻スカートで鬼っぽい雰囲気を。小物もトラシマSで揃えて。
 元来真面目な瀬谷 瑞希にとっては少し気恥ずかしい出で立ちだが、会場内を見回して、皆一様に鬼の仮装をしていることで、一安心する。
 しかし、皆の頭の角を見ているとどうしてもオーガを連想してしまう。
(オーガも豆をぶつけて退散させられると良いのに)
「セツブンが鬼コスプレのパーティだとは知らなかった」
 そう言うフェルン・ミュラーは瑞希とお揃いの角カチューシャに、服は虎縞な気流しで和風に決めている。
「これ、本当の節分とは随分違います」
 と瑞希がフェルンに耳打ちすれば、フェルンは目を丸くする。
「え、違うの?」
 彼の故郷に節分という風習はないのだろう。瑞希は苦笑する。
「でもこんなパーティも面白くて良いと思うよ。ミズキのそんな姿が見られるし」
 唇の端を上げるフェルンに、瑞希は改めて恥ずかしさが湧き上がり、顔を赤らめた。

「節分にオニの服を着るって、ざんしん?っていうのであってる?」
 小首を傾げる真衣に、ベルンハルトが年頃の娘に対する父親のような口調で言った。
「真衣、今更だが。その服はどうかと」
「ちゃんとトラ模様の服よ?ママにみてもらったもの」
 そう、2人の衣装は真衣の母が見繕ってくれた。
 妙齢の女性が着れば色っぽいであろうトラシマSは、真衣が着ると元気で健康的なイメージになる。
 しかし、こんな服は真衣にはまだ早いとばかりに、ベルンハルトは渋い顔。
「タイツもはいてるから大丈夫」
「確かに履いてるが……」
「ハルトもママがえらんだ服でしょう?」
「俺の分も用意していただけたのは有難い、が」
(この年齢でコスプレ。いや、年齢は関係ないか?)
 ベルンハルトは複雑な気持ちで視線を泳がせた。
 ベルンハルトの衣装は虎柄ハーフパンツに虎柄ベスト。灰色のタンクトップ、角カチューチャ。
「ハルトこそ、インナーは無くてもいいと思うわ」
「着ないと露出が高い」
「オニってそんなに服着こまないと思うの」
 何と言われても、インナーを脱ぐものか。ベルンハルトは身を守るように胸の前で腕を組んだ。

 希望は、手際よく卵、胡瓜、レタスとツナでサラダ巻きを作る。
 それに倣い、モーリエもまぐろやサーモン、イクラを盛っていく。
 普段出来合いのもので食事を済ませる彼にとって、自分で作るという行為は新鮮だった。
 しかし腕前はよろしくなく、上手に巻けない。
「あの……少し、いいですか」
 見かねて希望がおずおずと指先をモーリエの巻き簾にかける。
「む……ああ」
 モーリエは素直に自分の手を引っ込めた。
「一気に巻こうとすると、綺麗にならないんです。力加減も重要でして」
 希望は丁寧に巻き簾を巻いていく。ふと、手を止めモーリエの顔を見上げる。
「一緒にやってみませんか」
「ふむ……」
 モーリエも巻き簾に手を添え、2人で太巻きを完成させた。
「お魚、好き、なんですか?」
 一連の共同作業でモーリエとの距離も縮まったように感じ、希望は微笑むが。
「嫌いだったら食べないよ」
 変わらぬ素っ気ない返事に、希望はしゅんとする。
「……そう、ですよね」

「えーあー、気を取り直して太巻き作り行くぞオラ」
 鬼の王から下っ端鬼へとクラスダウンした智、気持ちを切り替え太巻き作りのコーナーへ。
 智のマントを身に付け女王鬼にクラスアップした茉莉花もそれについて行く。
「基本は好きなもの巻きゃあ良いんだよ。アボカドとサーモンとか、カニかまにツナマヨとか」
 その作業は迅速にして精確。食材を見つめる眼差しは真剣そのもの。
(料理作ってるときは真面目よね)
 言うと怒るから、茉莉花は黙って太巻きを乗せる皿を用意する。
「あれっ?」
 智の作業を見守っていた茉莉花は声をあげた。
 智は出来上がったサーモンの太巻きにすっすっ、と包丁を入れていく。
 食べ易い大きさに切られた太巻きを茉莉花が用意した皿に乗せると、その上にイクラ、さらにオニオンスライスを散らす。
「んあ?恵方巻やる訳じゃねーんだ、綺麗に盛り付けねぇとな」
 目をパチクリさせる茉莉花に智はにんまり笑う。
 次はツナマヨの太巻きも切って皿に乗せて。そこにはかいわれをバランス良く散らす。
「見た目バッチリってね!……つまみ食いすんなよ」
 美味しそう、と皿に目が釘付けになっている茉莉花に気づき、智は先回りして注意する。
「なっ、摘み食いなんてしませんってば!」
 バチコーン!
 茉莉花の拳が智の顎にクリーンヒット。

「私、太巻きよりも具1種類の細巻きの方が好きなんです」
 巻き簾に海苔、白米、マグロの細切りにキュウリを用意しながら瑞希は言う。
「鉄火巻きとカッパ巻がお気に入りです」
 と、綺麗な細巻きを2本、作っていく。
 その手際にフェルンはただ感心し見惚れていた。
「フェルンさんの分も作りますね」
 フェルンを見上げ笑顔で問う。
「太巻きなら何が良いですか?」
「太巻き?玉子と干瓢とカニ・マグロが好きだけど」
 フェルンは、すっと目を細めて笑む。
「ミズキが細巻き好きなら、2人で両端から食べていくってのをしてみよう」
「えっ!」
 思わず素っ頓狂な声が漏れる。
「ほら、ここに書いてあるし」
 会場で配られていたパンフレットに、何故か細巻きゲームがイラスト付きで記載されている。
 ミラクルトラベルカンパニー社員モリノが作成し、レイコが回収しようとして間に合わなかったパンフレットであることはここだけの話。
「それはチョコ菓子でするゲームで……えと……」
 瑞希は視線を泳がせた。
「こういうイベントなんだよね?」
 フェルン、引く気はないらしい。
「いえ、だから、本来の節分とは違って……」
 フェルンの真剣な眼差しに瑞希の声は小さくなっていく。
「……カッパ巻きでなら」
 ついに折れた。真っ赤な顔で俯く瑞希に、フェルンの「してやったり」と言いたげな笑顔は見えなかった。
 瑞希の作ったカッパ巻きを、互いに両側から咥える。
 フェルンの顔が近い。
 瑞希は緊張のあまり掌がしっとりと汗ばむ。
 視線を合わせられない。きゅっと目を閉じる。
 フェルンが身に付けている香水の香りが少しずつ強く感じられ、2人の距離が縮まっていっているのが見なくともわかる。
 その距離は、あと……。
 瑞希が覚悟を決めた時、ふっと、フェルンの気配が離れ、瑞希は目を開けた。
「キスの味は海苔風味、になっちゃうと悲しいからね」
 フェルンが、少し悪戯っぽく笑っている。
 恥じらう瑞希を愛おしそうに見つめながら。

 真衣は、美味しそう!と思うままに、具材を白米に乗せていく。
「えびと、かにと。まぐろ!」
 対してベルンハルトは、バランスを考えながら。
「鮪は入れるとして、胡瓜と干瓢もだな」
「サーモンも入れるわ!」
 ベルンハルトは真衣の作りかけの太巻きに視線を落とし、微笑む。
「真衣のは、赤ばかりだな」
「そうね、赤ばっかりになっちゃった」
 ベルンハルトに言われてその事実に気づくと、少し考える。
 そして。
「いくらも入れる」
 せっかくだから、赤づくしにすることにした。
 ベルンハルトも、あともう少し具を乗せようと考える。
「俺は後は何にするか……」
 真衣の方は早速太巻きを巻きにかかったのだが。
「あれ?」
「巻けないのか?」
 真衣の戸惑う声にベルンハルトが目を向ける。
「ああ、これは具を入れ過ぎている」
 すぐにその原因を突き止めた。
 むむぅ、と真衣は考えると、すぐに、いいアイディアが浮かんだと表情を明るくした。
「なら、ハルトにすこしわけてもいい?」
「勿論」
 最後の具材に悩んでいたベルンハルトはすぐにそう答えた。
「ありがとう」
 真衣は笑顔でベルンハルトの太巻きに自分の太巻きの具をお裾分けしていく。
 これで、2人の太巻きはバランス良く具材が入った。
 慣れない太巻き作りに2人がおぼつかない手つきで奮闘していると、
「手伝おっか?」
 と、下っ端鬼……ならぬ智が横から声をかける。智の顎付近が少し赤味がかっている理由は追求しないでおこう。
「コツがあるなら教えてくれないか」
 というベルンハルトに智は「オッケー」と快諾する。
 かくして、真衣とベルンハルトの太巻きは中身が崩れることなく出来上がった。
「できた」
 満足そうに笑う真衣は、早速2人分のお茶を貰ってくる。
「一応、恵方を向いた方がいいのか?」
 首を傾げるベルンハルトだが、せっかくの節分イベントだから、と、2人仲良く今年の恵方と言われる方向を向いて、太巻きを頬張った。

 会場に、チョコ撒きを始める旨のアナウンスが響いた。
「あっ、コートさん、チョコ撒きですよ。行ってきましょう?」
 希望ができるだけ明るい声を出して誘ってみる。
 しかし、モーリエは巻いている途中の太巻きから目を離さない。最早3本目である。
「甘い物嫌いだから。いってらっしゃい」
 にべもない。
「ぅ……。い、いってきます……」
 希望はこの先モーリエと仲良くなれる日が来るのだろうかと不安になった。
 そして、不安を払拭するかのように、夢中でチョコを拾うことになるのだった。

 イベントを堪能している様子の智は、
「チョコ撒くんだってよ、参加しよーぜ」
 と、チョコ撒きにも乗り気である。
「チョコ撒き……」
 茉莉花は苦笑した。だって、本来は豆を撒いて厄を落とすはずである。
 チョコ撒きのコーナーでは、ステージ上に上がったスタッフが、個別に包装された色々な種類の一口サイズのチョコを
「鬼は〜外〜!福は〜内〜!」
 の掛け声とともに撒き始めた。
 会場の皆も、撒かれたチョコを互いにぶつけ合ったりして楽しんでいる。
 そういえば、豆撒きは鬼に豆をぶつけて退治したという言い伝えが由来だったっけ。
 茉莉花はチョコを拾い智ににんまり笑いかける。
「ほづみさん、厄落しの為にチョコぶつけてもいいですか?」
「おっけー、おれの口めがけて投げてくれ、全部食うから!」
 茉莉花の言葉を冗談と受け取ったのか、智は茉莉花に向かって口をあーんと大きく開けた。
「そうですか、では、遠慮なく……」
 ふふふ、と茉莉花は何か企んでいそうな笑い方をしたかと思うと、素早く智の首根っこをひっ掴み引き寄せた。
「ほれ食えすぐ食えたんと食え!」
 茉莉花はチョコを拾っては智の口にこれでもか、と放り込む。
「…モガーッ!!」
 智は抵抗するが茉莉花は容赦しない。
 とんでもない鬼コスチュームを着せた罰である。
 これに懲りて少しは反省……するかどうかはわからない……。

 いつもは眠たそうな桃の瞳も、降り注ぐ美味しそうなチョコにはきらりと輝く。
「本当は、豆を撒くんですよ。こうやって、鬼は外〜、って」
 斑雪が桃に正しい節分について説明してくれる。
「じゃあ、私もやってみるよ」
「家の奥の方から外に向かって『鬼は外』ですよ」
 桃は麦チョコが入った小袋を見つけると、それを選んで拾った。
「これなら誰かにぶつかっても痛くなさそう」
「さくさくしていっぱい食べられるところもいいですよね」
「おにはそとー」
 ぽいぽーい、と麦チョコを投げる。そこに鬼がいる気持ちで。
「これでみんなの厄も落ちるといいね」
 桃がふわりと微笑む。
 その優しい心根に、斑雪は嬉しくなった。
「はい、主様!」
 自分はこの神人に仕えることができて本当に良かった、と心の底から思うのだった。

 スイーツが好きで、考え事のお供は甘い物である瑞希は、チョコだってもちろん好きだ。
 チョコ撒きに参加しないわけがない。
 瑞希の甘い物好きをわかっているフェルンももちろん、一緒に参加する。
「年の数だけ食べると良いんだよね」
「色々な種類のチョコがあって、嬉しいですね」
 瑞希とフェルンは屈んでチョコを拾う。
「そのチョコも美味しそうだね」
 フェルンが身を寄せて瑞希の拾ったマカデミアナッツチョコを見る。
 2人の距離が近いせいか、瑞希はつい、自然にチョコを包装から取り出し、フェルンの口元へ。
「いただきます」
 フェルンがにっこり笑って瑞希の手からチョコを食べた。
 ほんの少し、指先が唇に当たったような気がして、瑞希は我に返る。
 人前で大胆な行動をしてしまった、と、瑞希は頰を染め、フェルンはますます目を細めるのだった。

 スタッフが、
「皆さん、是非、年の数だけ食べてくださいね〜」
 と呼びかける。
「混ざっているというか。惜しいというか」
 ベルンハルトは微妙に本来の節分とはズレているチョコ撒きに苦笑い。
「年の数ひろうの?私は9こね」
 真衣はすっかりやる気である。
「数えだと真衣は10個だな」
「かぞえ?」
 真衣は首を傾げる。
「昔の年の数え方だ。真衣はよく知らないかもな」
「ふぅん?」
 しかしすぐに真衣は降ってきたチョコに意識を奪われる。
 真衣は時折食べつつも9個のチョコを拾い終えると、
「ハルトの分、ひろうの手伝うね。いくつひろうの?」
 と無邪気に笑う。
「俺は25か」
「25個!たくさんだね」
 たくさん……。
 何気なく言われた言葉がベルンハルトの胸に刺さる。
(16も年が違ったか)
 チョコを拾うのに夢中になった真衣が他の人にぶつからないようにさり気なく盾になりながら、しみじみ思う。
 真衣の手を見ると、その小さな手からはチョコが溢れんばかりであった。

「拾いすぎてしまいました」
 夢中になってしまった自分に照れ笑いしながら、希望はモーリエのもとへ戻る。
 モーリエはちらりと希望がパンドラのお菓子箱いっぱいにチョコを入れているのを見て、一言。
「カロリー高そうだね」
「……うぅ……」
 早速1つ食べようとしていた希望だが、その手が止まる。
 そんな希望の様子を、モーリエは面白そうに眺めていた。
 視線に気づき希望は顔をあげる。
 心なしか、モーリエの表情は来た時よりも和らいでいるようで。
(今日は、少しだけど、コートさんを知ることができました)
 一歩前進、したのかもしれない。

 チョコ撒きが終わると桃は、ふわぁ、と欠伸。
「さて、次はお昼寝……じゃなかった、お昼の太巻きだ」
「いっぱい体動かしたですし、お腹空きました」
 ここで桃がお昼寝をしてしまっては、お腹を空かせた斑雪が可哀想だ。
「お寿司楽しみです」
 太巻きコーナーに来ると、斑雪は早速、具材を物色する。
 どれにしようかと悩んでいる横で、桃は
「細切りの卵焼きとー、魚肉ソーセージも細く切ってー」
 と、着々と太巻きを作成する。
 出来上がった太巻きを食べ易い大きさに切り、その切り口を確認すると、満足そうに頷き微笑んだ。
「はーちゃん」
 未だ具材に悩んでいる斑雪を呼ぶ。振り向いた斑雪に、はい、と自作の太巻きを乗せたお皿を差し出した。
「……あ、主様、お寿司を作ってくれたんですか」
 みるみるうちに、斑雪が表情を輝かせる。
「感激ですっ」
「手抜き飾り寿司だけど、切り口がお花みたく見えるかな?」
 料理には疎い桃が作った太巻きは、ちょっと崩れていた。けれど。
「ちゃんとお花に見えますよ」
 斑雪は、桃の太巻きをひとつ摘んで口に入れる。
「すっごく美味しいですよ」
 斑雪がとても喜んでくれるので、桃も嬉しくなった。

 鬼は外。ウィンクルムの絆の間には、鬼なんて入る隙間はないのかもしれない。



依頼結果:大成功
MVP
名前:瀬谷 瑞希
呼び名:ミズキ
  名前:フェルン・ミュラー
呼び名:フェルンさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木口アキノ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月30日
出発日 02月05日 00:00
予定納品日 02月15日

参加者

会議室

  • [5]夢路 希望

    2017/02/04-23:36 

    夢路希望、です。
    最近契約した、コートさんと、参加です。
    …仲良くなれたら、いいな…

  • [4]瀬谷 瑞希

    2017/02/04-22:20 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのフェルンさんです。
    皆さま、よろしくお願いいたします。

    彼はセツブンをこういうものだと信じたようです。
    楽しい時間をすごせますように。

  • [3]水田 茉莉花

    2017/02/04-07:46 

    えっと、水田茉莉花です・・・ほづみさんと一緒に来まし・・・くっ。

    何であたしはこんな服着てんのよ、バカァ!!
    (鬼の服が際どかった模様)

  • [2]上巳 桃

    2017/02/03-19:42 

    はーちゃんと一緒に来ちゃった上巳桃でーす。よろしくー。

    太巻き美味しそう。
    何を巻こうっかなー。

  • [1]真衣

    2017/02/02-14:38 

    真衣です!
    こっちはハルト。よろしくお願いします!

    いろいろまざってるみたい?
    楽しそう。チョコまきは参加するつもりよ。


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