雪宿り(月村真優 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「あ、雪降ってきた」

 灰色の空を見上げてそう呟いたのはどちらだったろうか。今日は久々の何でもない日。ふと街へと出かけてみれば、ちらちらと雪が舞いはじめたのだ。はしゃぐ子供達の姿を目にして『あなた』たちは笑いあった。
 だが、笑っていられたのも束の間の事だった。雪はあっという間に勢いを増して降り注ぎ始めたのだ。これは屋外をのんびり歩いている場合ではない。二人は慌てて近くにあった喫茶店へと駆け込んだ。
 かじかんだ手を擦りあわせながら、二人は適当に注文を済ませる。空いていた窓際の席で、暖かい飲み物を一口。
「あったかい」
「生き返るって感じだな」
 冷えきった体に温度が戻ってきて、あなたたちはようやく一息つくことが出来た。不運だったと苦笑いを浮かべて窓の外に視線をやる。
「天気予報じゃ晴れだったよね?」
「うん。ずっと降ってるってことはない、筈、だけど……」
 パートナーの声は外で降り注ぐ雪の勢いに押されたように尻すぼみに消えていった。今のところ雪は収まるところを知る気配すらないようだ。
「……しばらく待ってようか」
「そうだね」

 暖かな屋内から見てみれば、銀世界となった街はとても美しい風景だった。そこから視線を滑らせれば、パートナーは赤い鼻で雪景色を眺めていた。何だか珍しい光景に口元が緩む。

 とはいえ、ずっとこうして眺め続けているのも間がもたない。あなたはカップを手に取りながら考える。さて、何を話そうか。

解説

●概要

 ゆるいデート中に雪で足止めされました。景色を眺めてゆっくりするもよし、雑談に花を咲かせるもよし、冷えた手を重ね合わせるもよし。
 雪はそのうち収まるのでご心配なくゆっくり過ごしてください。また、描写はそれぞれ別とさせていただきます。

●料金

 あったかいココア、コーヒー、紅茶など。全て一つ150 ジェールです。一人一杯ずつでお願いします。……一応冷たいのも同じ料金であるにはあります。かわいそうですけど。


それでは皆様のプランを楽しみにお待ちしております!

ゲームマスターより

お久しぶりです。滅多に雪を見ることのない暮らしをしている月村真優です。
いよいよ寒くなってきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。どうぞお健やかにお過ごしくださいませ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

松風 月(真白・レクサール)

  雪凌げる場所が見つかって良かったね
※コーヒー

でも、目当ての本が見つかって良かったね
俺も目当て見つかったし
…その残念なものを見る目は何

ドルオタで何が悪いのかよく判らない
それを言うなら、真白だって本オタだよね
好きなものに熱心なのはいいことだと思うし

好きだから、が、万能とは思ってないよ
野望や欲望より愛や正義の方が人に対して容赦なくなるというのもよくある話
でも、だからと言って、好きであることを誤魔化す道理はないし
隠す必要を感じない

好きに貴賎があるなんて意識も立派な差別だよ
俺は好きを好きと隠すこともなく言いたいし、言えない人を守りたいね

面白い?
褒め言葉として受け取っておくよ
興味深いなら、幾らでも話すけど


セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  セラは大学、タイガは大工バイト帰りに遭遇しデート
■猫舌なのでふーふー少しずつ
うん。見つけたら久々に飲みたくて。マシュマロいれるのが好きなんだ

本当。暖まるね

うーん、ゆっくり決めていいんじゃない?


・・・(言わなきゃ言わなきゃ)
タイガ、あのね
ありがとう…を!伝えたくて
(声ひっくりかえった…!)覚悟を決め赤面
タイガからその…嬉しい言葉を沢山もらって、タイガの家族にもご挨拶したけど
まだタイガにお礼を言ってなかったから・・・

僕、とても嬉しかったし
改めて一緒になりたいと思ったんだ…!


言うの遅れてごめん
うん・・・!
(心も体もあったかい・・・ずっとずっとこうしてたい)



父さん!?何でここに
◆手を握って共に向かう


信城いつき(ミカ)
  ココア

喫茶店あったよ!入ろう!

さっき雪で目の前が真っ白になった時、ミカがいなくなる気がして、だから…
あれは夢だって分かってるけど、つい。

無かった事にしちゃダメ。
ミカ前に言ったよね『悩んでいい。そして自分にできる精一杯を選べ』って
俺だって最後までミカのそばにいたいよ

あれは夢だったけど
いつか現実で同じ選択をする日がくるかもしれない
ミカの気持ちも分かった。でも俺の気持ちも分かって
それで一緒に考えて。『一緒に』だよ!

どうしてそこで「ばか」がつくのかなっ!
じゃあ、約束!
指切りじゃなくて、こっち(ミカと手を合わせる)

よかった、ミカの手が温かくて(ちゃんと生きてるのを感じられて)


シムレス(ソドリーン)
  店を指し
「そこに入ろう」
注文「紅茶を」
吹雪を眺め
「去年 紫陽花の咲く時期にも雨に降られ雨宿りをした事があった」
けしかけてきたが冷静に対処
「天候を操る能力か 悪くない が生憎そんなものは持ち合わせていない」

紅茶飲み
「… ロックにはすまないと思っている」
「? 無茶はやめろとは言わないのか?」
去年依頼で生死を彷徨う怪我で入院し彼にも心配を掛けたので素直に「覚えておく」
「祝い…そうかロックと契約したのは1年前のこの月だったか」
「お守…か(迷惑かけた自覚で反論できない)俺は以前とは違う 祝いの準備俺が仕切ろう」
「…相談位はさせろ」
にやりと返された

帰路
「祝おう か そんな事を言うとは意外だった」
「そうか…そうだな」


アーシェン=ドラシア(ルーガル)
  あんたと同じものをいただこう
嗜好のミラーリングは基本だとネットで見た

…そういえば話したこと、なかったか
俺には兄が二人いるが、二人とも生まれながらの神人だ
兄達は俺にとって誇りであり理想だった
顕現した時にはようやく追い付けたと思ったよ

けれど兄達は「怖くなったらすぐに逃げるんだよ」と言う
同じ土俵になど立てていなかった

悔しい
だから俺はウィンクルムとして成果を上げなければ

…そんな、ことは
いや、そうなのかもな…恋とは何たるか、いくら本を読んでも分からない

ふっ、ルーガルの言うとおりだな
ミルクティーをいただきたい
砂糖は多めで 甘い方が好きだ

食べ物も頼もうか
ルーガルは何が好きだ?
マニュアルじゃなくて、ただ知りたい


●アーシェン=ドラシアとルーガルの場合
「あんたと同じものをいただこう」
 ブラックコーヒーを注文したルーガルに続いて、迷うことなくアーシェン=ドラシアは同じものを注文した。距離を詰めたい相手がいるならば嗜好のミラーリングは基本だ、とネットで見たのを実行したのだ。確か心理学のサイトだったか。アーシェンはウィンクルムで、ウィンクルムとして戦うためには、契約した精霊であるルーガルとの仲を縮めなければいけない。それが彼の行動指標だ。
 彼にとっては当然の事だが、どうも不思議なことにルーガルにとってはそうではないらしい。注文を終えると、彼がじっとこちらを見ていた。
「なあ、なんでそうもウィンクルムにこだわるんだ?」
「……そういえば話したこと、なかったか」
 自己の開示もまた重要な要素だ。アーシェンは迷わない。
「俺には兄が二人いるが、二人とも生まれながらの神人だ。兄達は俺にとって誇りであり理想だった。……顕現した時にはようやく追いつけたと思ったよ」
 そこで一度言葉を切る。相手の行動をミラーリングするように、アーシェンは珈琲に口をつけた。抱えていた苦々しさがより一層苦くなる。それを吐き出すように彼は再び口を開いた。
「けれど兄達は『怖くなったらすぐに逃げるんだよ』と言う」
同じ土俵になど立てていなかった。悔しい。だから俺はウィンクルムとして成果を上げなければいけない。そう言うと、ルーガルは「……そういうことな」と呟いた。
「兄貴どもはお前が心底心配なだけだろうよ。俺達が未熟なのは事実なんだから、無理に真似しようとしなくていいんじゃねえか」
 ルーガルは真っ黒なコーヒーを難なく一口飲み下した。彼にとっては苦くないのだろうか。
「何だかんだお前恋とか愛とか分かってないだろ」
「……そんな、ことは」
 反射的に否定しようとしたが、言葉が出てこない。恋も愛も分かってないだろう、と指摘された時にどうすればいいのかなんてどこにも何にも書いていなかった。代わりに出てきたのは肯定の言葉だった。
「いや、そうなのかもな……恋とは何たるか、いくら本を読んでも分からない」
「好きだ惚れたはウィンクルムだからじゃなくて、そいつだからってならなきゃ意味ねえんじゃねえか。……俺はそう思ってるぜ」
 『そいつだから』か。一般化出来ない事はマニュアルに書けないじゃないか。そう思うアーシェンに対し、ルーガルは「で、だ」と人差し指を立てて見せた。
「親睦深めたいなら、相手に合わせるんじゃなくて、自分の意思を伝えた方がいいぜ」
 そう言ってルーガルは二つ並んだコーヒーカップの淵をとんとんと指で叩く。殆ど空になったものと、並々と中身が残っているもの。どちらがどちらのものかは言うまでもない。
「同じものじゃなくても、美味いって言い合えればいいじゃん。……お前ブラック苦手だろ、眉根の皺やべえぞ」
 どうやらルーガルには全てお見通しだったらしい。アーシェンはふっと笑った。
「ルーガルの言う通りだな……ミルクティーをいただきたい。砂糖は多めで。甘い方が好きだ」 
通りがかったウェイトレスを呼び止め、追加の注文をする。ふと彼女の持っていたメニューが目に留まった。
「食べ物も頼もうか。ルーガルは何が好きだ?」
 異なる味覚、異なる好み。この苦いコーヒーを好むこの男は食べ物なら何が好きなのだろうか。マニュアルではなく、ただ知りたいと思った。
「どれどれ……」
ルーガルも身を乗り出してメニューを覗き込む。自然と距離を近づける二人は、何を共に食べる事になるのだろうか。

●松風 月と真白・レクサールの場合
突然の大雪に降られ、本を抱えて駆け込んだ喫茶店で一息ついた真白・レクサールの第一声は「本が濡れずに済んでよかった」だった。
「雪、凌げる場所が見つかって良かったね」
珈琲を片手に松風 月が声をかければ、本の様子を確認し終えた真白は顔を上げ、ようやく目の前の紅茶に気がついたというような顔をした。「ひどい目に遭った」と呟きながらゆっくりと紅茶に手を伸ばす。
「でも、目当ての本が見つかって良かったね。俺も目当て見つかったし」
「この地域の文学の歴史は興味深かったからね。で、そっちは……アイドルの歌詞の歴史だったっけ」
真白は呆れたような視線を月の鞄に投げる。正確には鞄に大事にしまわれたアイドル本に向けているのだろう。
「…その残念なものを見る目は何」
「色々揃ってるのにドルオタなんて残念だと思ってるからそういう目で見てるんだけど」
 真白は当然の事のように言う。月が「ドルオタで何が悪いのかよく判らない」と言うと、彼は逆に不思議そうな顔をした。何故空は青いのか、何故太陽は毎日昇るのかと聞かれたような顔だった。
「何が悪いって…全部じゃない?」
「それを言うなら、真白だって本オタだよね。好きなものに熱心なのはいいことだと思うけど」
 月の言葉に、真白は眉を寄せる。
「僕が本オタときみは言うけど、僕は学問だし……きみは違うかもしれないけど、犯罪犯す奴だって沢山いるでしょ」
 そう言ってから真白は「好きが万能とは限らない」と締めくくった。月は静かに「『好きだから』、が、万能とは思ってないよ」と答える。
「野望や欲望より愛や正義の方が人に対して容赦なくなるというのもよくある話」
 一口紅茶を飲みながら相手の様子を伺う。真白が同意を示して小さく頷いたのを確認してから月は続けた。
「でも、だからと言って、好きであることを誤魔化す道理はないし隠す必要を感じない」
「……きみがドルオタなのが残念でならない位の意見だね」
 返ってきたのは極めて率直な感想だった。だが、こちらの意見には耳を傾けるつもりがあるらしい。月はそのまま続ける。
「好きに貴賎があるなんて意識も立派な差別だよ」
「特に凶悪な犯罪者と呼ばれる者の心理がどうであるかを踏まえて言ってる」
 真白は月の顔を見て「道徳的でないものに対する好きも世の中にはあるだろうけど、きみが指してるものに含まれていないのは判る」と付け加えた。フォローのつもりなのだろう。
「俺は好きを好きと隠すこともなく言いたいし、言えない人を守りたいね」
 決意を表明するように、月はそう答えた。声と、コーヒーカップに添えた手に力が籠る。その手の甲に浮かぶ紋章は彼の憧れが呼び寄せたものだ。月の『好き』が具現化したものと呼んでもいい。それは彼の精霊たる真白も承知している事だ。
「……中々面白いね」
「面白い? 褒め言葉として受け取っておくよ」
 月はわずかに表情を緩める。鞄に手を伸ばし、戦利品を取り出しながら月は問いかけた。
「興味深いなら、幾らでも話すけど」
「でもアイドルは僕のジャンル外なんで遠慮しとく」
 慌てて真白はそう答えた。彼の『幾らでも』は誇張表現ではないような気がしたのだ。そうして彼もまた自身の戦利品を取り出し、読み始める。地域の文学とアイドルの歌詞。それぞれの歴史を綴る本の表紙をちらりと見比べ、真白は一つ息をついた。何が同じで、何が違うのか。月はその視線には気付くことなく、楽しげにアイドルの歌詞を読みこんでいる。この整った顔に雪景色の喫茶店、表紙が違えば絵になる風景だったろう。本当に惜しいよなあ、というのが今の率直な感想だ。
 雪は、まだ降りやむ様子はない。

●セラフィム・ロイスと火山 タイガの場合
窓際に並ぶ二つのココア。突然の雪という不運にもかかわらず、「お揃いだな」と言う火山 タイガの声はどこか弾んでいた。
「うん。見つけたら久々に飲みたくて」
 熱々のココアをゆっくりと吹き冷ましながら口にするセラフィム・ロイスの声も、それにつられて柔らかさを帯びている。
「マシュマロいれるのが好きなんだ」
「へー、今度やってみっか」
 タイガはセラフィムのよりも随分と容量が減ったカップを見下ろした。
「俺もついつい手近なもんですませちまうから久々だ。たまに飲むとうまいよな」
「本当。温まるね」
 しみじみとカップを両手に持ってセラフィムは答えた。冷えた体が芯から温まっていくようだ。少なくとも、体は。
「この後どうする?」
「うーん、ゆっくり決めていいんじゃない?」
 収まる気配を見せない雪を見ながら答えれば、タイガは「そうだな」とだけ答えた。
(言わなきゃ言わなきゃ)
 その様を見ながら、セラフィムは心を決めようとしていた。伝えなければいけない事がある。決心するためにココアを一口。まだ熱いが、その位で丁度いい。
「……タイガ、あのね」
 声をかければタイガが驚いたような、緊張したような顔でこちらを真っすぐ見ている。その目を見据えて言葉を繋いだ。
「ありがとう……を! 伝えたく、て」
 声がひっくりかえっている事に気づき、顔に血が上っていくのを感じる。だがここで退く訳にもいかないだろう。セラフィムは覚悟を決めて続けた。
「へ!?」
「タイガから、その……嬉しい言葉を沢山もらって、タイガの家族にもご挨拶したけど、まだタイガにお礼を言ってなかったから……」
 タイガはしばらく口を開けたり閉じたりしていたが、やがて「クリスマスとか?」と聞いた。
「うん」
「餅くいに実家に行った時のか?」
「うん!」
 必死で頷いていると、ゆっくりとタイガの肩から力が抜けていくのが見て取れた。つられて自分の緊張も少し解けてきたような気がする。セラフィムは柔らかい微笑と共に言った。
「僕、とても嬉しかったし、改めて一緒になりたいと思ったんだ……!」
 返って来たのはまず長い安堵の吐息、そして笑い。
「何かと思った、けど安心した……」
 タイガは「もしかして親父たちに流されて応えたんじゃねーかって不安だったんだ」と苦笑しながら言った。セラ優しいから、と。自分は彼を不安にさせてしまっていたのだろうか。
「言うの遅れてごめん」
「律儀だよな。そーゆうとこひっくるめて好きだけど」
 軽く下げていた頭を引き寄せられる。顔を上げれば目の前にはいつもの笑顔があった。
「一緒に頑張るか」
「うん……!」
 その笑顔のおかげで、心も体もぽかぽかと温かくなっていくのが自分でもわかる。ずっとずっとこうしていたい、とセラフィムは思った。ずっと雪が降っていればいい、とも。
 しかし、降り積もる雪がもたらす静寂はやがて車のブレーキの音によって破られた。窓の外を見れば、見覚えのある黒い高級車。そして、そこから降りてきた人物もまたセラフィムのよく知る人物だ。
「え」
「セラフィム!?」
 セラフィムの父親がまっすぐ店に入り、そのまま二人が座っている机へと向かってきていた。
「父さん!? 何でここに」
「やはりそうだ。来なさい家に帰るぞ」
「セラの親父!?」
あがった声に、はじめてセラフィムの父親はタイガを見た。
「丁度いい、君にも話がある」
「……俺も話したかったんだ」
そう呟いてタイガはゆっくりと立ち上がる。セラフィムもすぐに席をたち、どちらからともなく手を取り合った。
手を繋いで車に乗り込めば、吹きすさぶ雪は後ろへと飛びはじめた。その光景に、二人は手の中の温もりを握りしめた。まだ暖かさは残っている。

●信城いつきとミカの場合
 突然降り始めた大雪は容赦なく降りつけ、視界を白く染め上げる。信城いつきは嫌な予感がして、咄嗟にミカの腕を掴んだ。白く染まった世界を見回して、喫茶店の看板を見いだす。
「喫茶店あったよ! 入ろう!」
 いつきはミカを押し込むようにして喫茶店に飛び込んだ。
「押すなチビ、落ち着け。……コーヒーとココア、一つずつ」
 荒く息をついているいつきの背中を柔らかく叩きながらミカが手早く注文を済ませる。
「まずココア飲め。暖まってから話をしろ」
 促されるようにして椅子に座り、目の前に置かれたココアに手を付けてから、ようやくいつきは自分の体がどれほど冷えているか、そしてどれほど震えているのかに気付き始めた。震えていたのは冷えのせいだけではないだろう。いつきはぽつりぽつりと話し始めた。さっき雪で目の前が真っ白になった時、ミカがいなくなる気がしたのだ、と。前に見た悪夢を思い出したのだ、と。
「だから……あれは夢だって分かってるけど、つい」
 その先を言う前に、ミカは口を開く。
「俺はお前に手をかける事も、その逆もしたくなかった。だからあの選択をした」
 あれが本当に最善だったのかと聞かれたら、ミカにはわからない。だが、間違った選択だとも思っていない。一昨年のクリスマスのように、笑顔を失った表情を見るのはごめんだ。
「忘れろ。あの夢は無かった事にしろ」
「無かった事にしちゃダメ……ミカ前に言ったよね、『悩んでいい。そして自分にできる精一杯を選べ』って」
 俺だって、最後までミカのそばにいたいよ。その言葉はカップから上る湯気のように宙に溶けて消えてしまった。それでもミカはそれを受け止め、短く頷く。自分の言葉を大事に覚えていてくれたことが少し嬉しかった。
「あれは夢だったけど、いつか現実で同じ選択をする日がくるかもしれない」
 いつきの声がまたわずかに震えているのがわかった。寒さのせいではないはずだ。構わずにいつきは言葉を並べる。
「ミカの気持ちも分かった。でも俺の気持ちも分かって。それで一緒に考えて。『一緒に』だよ!」
 『一緒に』を強調するようにいつきの手がテーブルを叩き、ミカの手の中にあるコーヒーに波紋を作った。喫茶店に一瞬の静けさが訪れる。
いつきのまっすぐさにどこか照れたように、ミカは揶揄うような台詞を口にした。
「……チビは俺の言ったささいな言葉でも、ばかまじめに受け止めるんだな」
 そしてちゃんと大事にしてくれてるんだな、とは口には出さない。
「どうしてそこで『ばか』がつくのかなっ!」
 いつきの声に張りが戻ってきたことにまず満足してミカは頷く。それをどう解釈したのか、いつきは「じゃあ、約束!」と右手をこちらに向けた。
「はいはい。指切りでもするか?」
 ミカが小指を差し出すが、それが絡められる事はなかった。代わりに向けられたのは手のひらだ。
「指切りじゃなくて、こっち」
 ああ、そういえばいつぞや手のひらと手のひらを合わせ続けた事があったな、と思い出す。ミカは自分のコーヒーカップに触れ、改めて手を軽く温めた。そうして、向けられた手のひらに自分の手のひらを重ねる。少しでもいつきを温められるように。重ねた体温は逃げる事も無く二人の間を流れていく。
「……よかった、ミカの手が温かくて」
 ミカがちゃんと生きている事を実感したのだろう、そんな呟きがぽつりと聞こえてきた。
「お子様体温には負けるけどな」
「もう!」
 軽口を叩いても、掌が離れる事はなかった。ミカの手の中にある暖かさが離れる事もない。
 窓の外の雪は相変わらず静かに舞っている。だが、今は二人を遮る要素には成り得ない。


●シムレスとソドリーンの場合
「何だよ、この大雪はよ」
突然降り注ぎはじめた大雪にソドリーンは思わず声を荒げた。買い物の帰りに雪に降られてしまったのだ。同意を求めて横のシムレスを振り返れば、周囲を見回していた彼は喫茶店の看板を指さした。
「そこに入ろう」
 ソドリーンはそれに短く頷き、二人は喫茶店へと駆け込んだ。案内されるままに席に座り、二人でメニューを覗き込む。
「紅茶を」
「俺は珈琲」
 かしこまりました、と頭を下げたウェイトレスの後姿を見送り、ようやく一息ついたシムレスは窓の外に目をやった。相変わらず窓の外では大雪が降り積もり続けている。その容赦ない吹雪に、ふとシムレスはかつての雨模様を思い出した。あの時も冷たい雨が降り注いでいたんだった。
「去年」
「んあ?」
 窓の外を眺めていたソドリーンがこちらを見た。
「紫陽花の咲く時期にも雨に降られて雨宿りをした事があった」
「ああロックとだな、聞いてるぜ。……そうか、この吹雪はあんたの所為か。雨男? 雪男か?」
 ソドリーンはけけけと冗談めかして笑って見せた。
「天候を操る能力か。悪くない」
 シムレスは片眉を上げるソドリーンの前で冷静に「が、生憎そんなものは持ち合わせていない」と続けた。いい切り返しだ、と満足する。彼が見守っている中で、シムレスは確実にお坊ちゃんから変わってきている。彼は余裕の笑みをもって答えた。
「ああ。そんなおっかねえのは御免だ」
 ウェイトレスが紅茶と珈琲を運んできたのはその直後だった。
「……去年、ね」
湯気踊る珈琲を一口啜ってからソドリーンはぽつりと零す。
「あんたら随分無茶してくれたよな」
「……ロックにはすまないと思っている」
「ふん。なら今年は分相応な無茶にしとけ」
 伏せられていた目がこちらを見た。その奥に疑問符が浮かんでいるのが見えるようだ。
「無茶はやめろとは言わないのか?」
「無茶は楽しいもんだ。だが命を脅かす線は見極めろ」
 去年に依頼で生死を彷徨う怪我を負って入院した事を思い出したのだろう。返事は素直なものだった。
「覚えておく」
「よろしい。……ま、それはいいとして」
 素直な返事に満足して珈琲をもう一口啜る。うまい。
「今月はよ、ドカッと祝おうぜ。3人揃った祝いだ」
「祝い……そうか、ロックと契約したのは1年前のこの月だったか」
「おうよ。ロックにはあんたのお守任せっきりだったからな、慰労も兼ねて」
 わずかにむっとした様子でシムレスは「お守……か」と答える。反論したいのだろうが出来ない、といった顔だ。
「俺は以前とは違う。祝いの準備は俺が仕切ろう」
 返って来た声はわずかに語調が荒かった。にやりと笑って「ほう、お手並み拝見」と言ってみれば、途端に静かに「……相談位はさせろ」としおらしくなる。シムレスがそのままぐっと紅茶を飲み下す様子をソドリーンは面白く眺めていた。
あれほどの吹雪も店を出るころには大分収まっていたようだ。ちらつく雪を見上げて歩いていれば隣から「祝おう、か」という独り言が聞こえてきた。
「ん?」
「そんな事を言うとは意外だった」
自分の横顔に刺さる視線を感じながら彼は答えた。
「色々とよ、仕切り直したくてな」
「そうか……そうだな」

 急に降り始めた大雪も、やがて勢いを弱めていく。雪が止んだとき、そこにはどんな雪景色が広がっているのだろうか。



依頼結果:大成功
MVP
名前:信城いつき
呼び名:チビ、いつき
  名前:ミカ
呼び名:ミカ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 月村真優
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月28日
出発日 02月05日 00:00
予定納品日 02月15日

参加者

会議室

  • [5]信城いつき

    2017/02/04-23:47 

    信城いつきと相棒のミカだよ
    色々話ししてたらこんな時間になっちゃった。
    ギリギリだけど、みんなよろしくね。

  • [4]信城いつき

    2017/02/04-23:45 

  • [3]セラフィム・ロイス

    2017/02/04-17:52 

    どうも。僕セラフィムと相棒のタイガだ。よろしく
    雪で足止めなんてついてないけど、二人で過ごすあったかい一時っていいよね・・・
    まあ喫茶店でゆっくり過ごそうかなと思ってるよ

  • アーシェン=ドラシア。精霊はルーガルだ。
    よろしく頼む。

  • [1]シムレス

    2017/01/31-21:18 

    シムレスだ、相方はソドリーン。
    よろしく。


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