伝えたい言葉(北乃わかめ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 『言の葉亭』へようこそ、いらっしゃいませ。
 外はお寒いでしょう、どうぞ中へお入りください。

 当店はご存じで? ……おや、ご来店はたまたま、でしたか。
 いえいえ、それでも嬉しい限りでございます。当店はどんな方であれ、喜んでお招き致します。
 私は店長のアマミと申します。当店の名と合わせて、是非覚えてくださいませ。

 当店は完全個室ですので、秘密のお話をされる方もよく来るのですよ。
 人の裏側を見ることが出来、とても面白く――おっと、失言でしたね。お忘れください。

 さて、当店でのルールをお伝えしましょう。
 難しいことではありませんよ、そう緊張なさらないでくださいませ。
 当店では、『言葉』を第一と考えております。そのため、口から出た言葉は必ず相手に聞こえるようになっております。たとえ、どんなに小さな囁きでも。
 ……え? どんな仕組みか、ですか?
 お客様、それは企業秘密、というものですよ。つまり、お教えできません。ご容赦くださいませ。
 『声に出した言葉は必ず相手に届く』――それを除けば、ほかは至って普通の茶屋でございます。単純でございましょう?

 いえね、これは私の経験談なのですが。
 大人になってから、『言霊』というものを信じるようになったのですよ。
 適当に口から出た言葉が、意図せず相手を傷つけてしまう。よくある話ではありますが、よくあっては困る話でございます。
 ですから、こんなルールを作ったのです。
 必ず相手に届くのなら、どうにも迂闊な言葉は話せないと思いませんか?
 適当なことは言えないと、自然と言葉を選ぶようになりませんか?
 感じ方は人それぞれなので、思い方の強要などは致しません。ただ、そんな背景があると知っていただければ、私のような過ちを犯すことも少なくなるかと思った次第でございます。
 『言葉』を大切に――それが、私の願いなのでございます。

 さぁ、お部屋に着きましたよ。後ほど、お飲み物もお持ちしましょう。
 どうぞごゆるりと、お二人の時間をお過ごしくださいませ。

解説

 パートナーと一緒にタブロス市内を買い物していたら、ひっそりと佇む茶屋を見つけました。

 『言の葉亭』は、見た目もメニューもどこにでもあるような普通の茶屋です。
 ただし、『口から出た言葉はすべて相手に聞こえる』ようになっています。
 耳をふさいでいても聞こえます。
 効果の範囲は、個室内に限りますため、外にいる店員等に言葉が届くことはありません。
 途中で個室の外に出た場合も、声は聞こえなくなります。
 営業時間は9時~18時まで。(夜間営業もしていますが、今回は不可としております)

 プロローグでは偶然見つけて店に入ったとなっていますが、元々存在を知っていてパートナーを連れてきた、でも構いません。
 すべての個室には、中庭が見える窓があります。外には出られませんが、外を眺めながらパートナーと語り合うのもいいかもしれません。(池の小さな和風庭園をイメージしていただければと思います)

 プランには、
 ・どんなことを話すか
 ・パートナーの言葉にどんな反応をするか など記載いただければと思います。
 ※心の声(声に出していない声)は、明確にわかるようお願いします。

『メニュー』
・飲み物……緑茶、ほうじ茶、コーヒー、紅茶、オレンジジュース(30jr)
・団子2本……みたらし、あんこ、ごま(40jr)
・甘味……お汁粉白玉入り(こし餡・つぶ餡)、あんみつ、みつ豆、抹茶アイス(50jr)
 ※お水は無料で提供可能です。

 どんな言葉でも相手に聞こえる、と言われると、少し気を張ってしまうかもしれません。
 逆に、どんな言葉を伝えようかなと考えるかもしれません。
 相手に伝えたいこと、知ってほしいことなど、いろいろお話しいただければと思います。


※交通費で300jr消費しました。
※個別描写になります。

ゲームマスターより

いつもお世話になっております。北乃わかめです。
ネットでいろんな甘味処を見ていたらおなかがすきました。甘いのを食べると幸せな気持ちになります。
お汁粉は地域によって中身が分かれるようなので、希望の方はこし餡かつぶ餡かを選んでいただければと思います。美味しいですね。

口から出てしまえば、取り消すことはどうにも無理な『言葉』をとても怖く思うときがあります。
ただそれと同時に、大切にしなければと思うこともあります。
そこまで重く捉えていただかなくても大丈夫ですが、二人でゆっくりとお話ししていただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

むつば(めるべ)

  注文
・紅茶、ごま団子2本、あんみつ。

……める、紅茶の飲み方はこうちゃ。
(音を立てず、静かに飲む)

お主こそ、何故ほうじ茶を?

……そうか。
聞き耳?しかと聞こえたぞ。

……相変わらず進歩がないのう(ぼそっ)

すまぬ、流石にこれは見た事がな……。
ん? みたらしだ……んごっ!
(口の中に突っ込まれる)
つまらぬメモをするな!

我に返り、周囲の反応を気にするように見回す。
……騒ぎ過ぎたのう、あんみつじゃ。
(一口すくって、めるの口元に持っていく)

頂こう。
みつ豆を食べた後、改めて口を開く。
これからは
わらわでよければ、話を聞く。


カイン・モーントズィッヒェル(橘 雅臣)
  悩みがあるって、何だよ
…は?
リタとのプロポーズ?
結果としてそうなったというか※イ31

あぁ、ポーリーとの結婚か…
そもそもどこが好きなん?

※聞いた
それ全部彼女に言ってみろよ
雅臣はさ、俺と契約したけど、別に俺に心変わりしてねぇじゃん?
で、仮にあの子が顕現して誰かと契約したとして、その誰かとあの子が好き合う不安ってさ、あの子だってお前の気持ち受け容れる時に考えたと思うぜ
なら、今度はお前が戦う番だろうし
その事話して、ちゃんと向き合ってから、そういう事は考えろ

リタ?
いい女だったよ※イ1
でも、あいつの飛び蹴り話の後イェルが真似したがるのは、普通に俺が死ぬから困るけどな※言葉とは裏腹に優しい微笑
※イ47、70


カイエル・シェナー(エルディス・シュア)
  偶然見つけて

「こし餡」
「お前が珈琲党であるのは自由だ。だが『こし餡以外に何がある』」
「…何? 尊敬はある だが似たいかとなれば別問題だ
その程度 お前も少しは観察能力の一つでも身につけたらどうだ」

普段は押し黙る言葉が 暴走するように届きそして口を出る
どれも偽りのない本心だが どうしてだろう 今は喧嘩をしたい訳ではない

(今は せっかくの空いた時間は ただ共に 静かに過ごしたい…だけ、なのに)

「頭に血が上った。出てくる。注文は任せた」

しばらくして戻ると あんみつが二つあった
瞬き 相手の言葉に胸が一杯になる
そう、そんな相手だから 一緒に、いたい

「……ずっと」
共に、いてくれないか…?

かすれ声でも
女神がいるなら どうか言い切る力を


楼城 簾(白王 紅竜)
  緑茶、みつ豆

「こんなお店があったんだね」
あ、注文の品が来たら完全に2人きり…?
前、僕は何であんなに普通だったんだろう…。
「紅竜は、祖父との契約を気にしているようだね。
当ててあげようか。
僕に手を出してもいいよ、って、多分書いてあったよね」
反応を見て、当たりと察する。
「当然、紅竜は契約で出来ないと嫌がった。
で、ウィンクルムだからと押し切られた、よね」
見事なまでの一致と判る。
「…その反応を祖父は見たかったんだと思うよ」
(恐らくおじい様の『最終試験』だった)
「あの狸じじい、紅竜を謀るとは」
同意してくれた紅竜から意外な事を聞く。
なるほどね。
「あなたがあなたで良かった」
(僕に遠慮ないあなたが堪らなく好き)


ルゥ・ラーン(コーディ)
  昼過ぎ

最近、曰く部屋の怪現象により風邪を引いたり睡眠を妨げられたりそんな事が続き
彼が気晴らしに誘ってくれた
嬉しい

指された先の庭園を見てほっこり
「ええ、趣がありますね、癒されます」
彼の小声に驚き
「本当に聞こえますね! お気遣いに感謝します」
可愛い仏頂面が見れて更にほっこり

お汁粉を頂きながら小声でしりとりをする事に
どこまで声を抑えられるか、聞こえるのかを試す遊び
2人して口覆い下や後ろ向き、耳塞ぎ、等色々試す
『小鳥』
『無人島』
占い師が出てダンサーがゴールと察し
ラリーが続きふふっと笑み
『サラダ』

「講じる手段はありますし、こうしてあなたが私を励まして下さるから、負けません」
鍵に触れ嬉しくて小声で『…はい』


●秘めたる言葉

「こんなお店があったんだね」
「落ち着けそうだな」

 個室へ通され、注文の品もすべて受け取ったところで、楼城 簾が部屋を見回し言った。その言葉に、白王 紅竜も肯定を示す。
 店員も離れた今、外界の音はほとんど聞こえず無いに等しい。
 そこではたと、簾は気づいた。

(あ、注文の品が来たら完全に二人きり……?)

 途端、頬に熱が集まる。少し前の自分なら、こんな空間でも平然と話していただろうに。思い返せばなぜあんな風に普通だったのかと疑問しか湧かない。
 視線をあちらこちらへ向ける簾を見て、紅竜は頬の僅かな赤みに気づいた。二人きりであることに気づいたのだと察する。

(そもそも互いの休日に散歩は一般的にデートだが……)

 指摘すれば、さらに赤くなるだろうか。恋愛面ではまるきり無垢な簾に対して抱くのは、「可愛い」という感情だった。
 しかしそれを思うたび、紅竜の脳裏に護衛の契約内容が浮かぶ。簾の祖父からの依頼を受け、簾の護衛を務めている紅竜。その契約内容に書かれていたことを思い出し、知らず眉間にしわが寄った。

「紅竜は、祖父との契約を気にしているようだね。当ててあげようか」

 ふと、簾もまた紅竜を見ていた――否、観察していたらしい。自信すら感じられるその瞳に、紅竜は沈黙により言葉を促した。

「僕に手を出してもいいよ、って、多分書いてあったよね」

 疑問ではなく、断定的に告げられた言葉。しかし紅竜は、一度目を僅かに開いたが、すぐに元のポーカーフェイスに戻す。否定はない。
 簾はさらに続ける。

「当然、紅竜は契約出来ないと嫌がった。で、ウィンクルムだからと押し切られた、よね」
「……そうだ」

 口に出された是の言葉に、簾は祖父の顔を思い浮かべる。次いで、紅竜と祖父が対面している光景を想像し、悟った。

「……その反応を祖父は見たかったんだと思うよ」
(恐らくおじい様の『最終試験』だった)

 ウィンクルムのパートナーとして。そして、簾を任せる護衛として相応しいかどうか。それを簾の祖父は、『手を出していい』という契約内容を提示して見極めようとしたのだ。
 結果、紅竜はそれをクリアしたわけだが。

「あの狸じじい、紅竜を謀るとは」
「同意しておこう」

 憎々しげな表情を表に出しつつ、簾はちょうどいい温度になった緑茶を口に含んだ。喉を潤し、一息つく。
 簾の呟きは、しっかりと紅竜に届いていた。狸、と言われて否定できないのが、簾の祖父だ。護衛の契約を簾の祖父とした際にも、掴み所がない御仁だと感じていた。

「あと、会長はクズと気づいている。社長が自分と違う分野に秀でていると気づいていない、と。拙い時は止めろとも言われている」

 護衛の契約内容を、推測とはいえ知られたのだ。もはや隠す必要もないときっぱり言うが、簾に気分を害した様子は見られない。
 むしろ、合点がいったという顔だ。そうして改めて、自分にそこまではっきりと物を言う紅竜を見つめる。

「あなたがあなたで良かった」

 祖父からの護衛の依頼があり、ウィンクルムとしてのパートナーでありながらも、それらの立場を気にしない言葉を繰り出す紅竜。そんな彼の存在が愛しいと、実感する。
 自然な弧を描いた唇から放たれた言葉。はじめよりも、頬は濃く色づいている。
 触れたい、と。そう衝動的に伸ばされた指先は、理性によるものか簾の頬を下から上へ撫でるように掠め、艶のある髪を撫でた。

「今日は休日だからな」

 かつて見た白昼夢のような、言葉も解せぬ純白の獅子ではなく。その身に触れ、熱を感じることができる『ひと』であるから。

(だから、今日は、あなたを愛するただの生身の男)
(僕に遠慮のないあなたが、堪らなく好き)

 鼻孔をくすぐる梅の香りが、やがて訪れる雪解けを予感させた。



●やさしい言葉
 太陽が、頭上を通り過ぎて間もなく。ルゥ・ラーンは、コーディに誘われて『言の葉亭』を訪れた。
 最近、ルゥの住んでいる曰く部屋ではたびたび怪現象が起きていた。それにより、風邪を引いたり睡眠を妨害されたりと、心身ともに疲弊が見えていたのだ。
 それを感じ取ったコーディが、気晴らしにと誘ってくれた今日。胸に広がるあたたかさを感じながら、ルゥは通された個室で腰を落ち着かせた。

「ルールも面白いけど、僕の部屋が好きだって言ってたからそういう系統好きかなって」
「ええ、趣がありますね、癒されます」

 窓から見える庭園を指さし、コーディが言う。
 汚れのない純白の雪と、見え隠れする石の質感、それから開花に向けてじっと寒さに耐える幹の色が、古き良き時代を感じさせる。
 本日は快晴。日の光に照らされ、一面はまるで銀砂を散りばめたように輝いていた。
 対照的な金の瞳に喜色が見え、コーディはふっと笑みを漏らす。

 ――神人の幸せ補充も精霊の務めかな、なんて
「! 本当に聞こえますね! お気遣いに感謝します」

 あっ、とコーディが気づいたときには既に遅く。ぱっと向けられた素直な笑顔に、今さら口にするつもりはなかった、とも言えずに。

「……そういう事だから、楽しんでよ」

 仏頂面のまま、恥ずかしくて視線を逸らした。
 ぶっきらぼうな言い方ではあったが、コーディの優しさは本当であるし、つい口から出た言葉は本心だ。かわいらしい姿が見られた、とルゥは満足げである。

 ややあって、注文していたお汁粉が二人分届けられた。小豆の粒の食感を楽しみながら舌鼓を打つ。

「そういえば、ここはどんなに小声でも聞こえてしまうのですよね?」
「あぁ、そう聞いてるよ」
「……試してみませんか?」

 いいね、と応じたコーディも提案したルゥも、好奇心を隠せない表情だ。せっかく奇天烈な店に来たのだから、楽しまないと損だろう、と。
 スタートの合図などなかったが、二人の遊びは斯くして始まった。

 ――小鳥

 ルゥが口を覆い、背中を向けて小声で言う。
 やはりコーディの耳には説明通りはっきりと届いた。まるで、耳元で囁かれたようだ。

 ――リズム

 壁際まで離れてからコーディが続けるが、ルゥにも同様に声が届く。
 おぉ、と感嘆するルゥの様子に、コーディは誘ってよかったと心の中で呟いた。これは、届かない。

 ――無人島
 ――占い師
(おや、これは……)

 耳を塞いでも、塞いだ内側から声が響く奇妙な感覚。そんな中でコーディが示した言葉に、ルゥは彼の思惑を察した。
 自分を出してくれたのだ、彼も出さねば不公平というもの。
 言葉のラリーは続き、やがて待っていた瞬間が訪れる。いたずらが成功するのを楽しみにするような、童心を携えて。

 ――サラダ
「ダンサー!」

 コーディが高らかに宣言して、ほどなく遊びは幕を閉じた。
 甘い物で冴えた頭を活かすには、ぴったりだったらしい。きれいに終えられた快感に二人は自然と笑い合う。
 それから暫し余韻を楽しんでから、コーディは気になっていたことを切り出した。

「……最近のあの部屋の現象、何気に君への殺意を感じるんだけど、どうなの?」
「講じる手段はありますし、こうしてあなたが私を励ましてくれるから、負けません」

 コーディに気づかれていたことに驚きつつも、ルゥはいつものように柔和な笑みを浮かべる。
 そんなルゥの言葉に、コーディは引っ掛かりを感じていた。
 『負けません』――それは、何に対してか。意気込まなければ、通用しない何かと戦っているのか。
 無理をしているのではと心配したが、言い切ったルゥの様子から、コーディは聞くのを躊躇った。その代わりに、ポケットからある物を取り出す。

「これ渡しとく。今度から僕が留守でも、避難所に使っていいから。いいね!」

 ルゥの前に置かれたそれは、コーディの家の合鍵だった。呆気にとられるルゥに、びしっと指をさして念を押す。ルゥは徐に、その鍵を手に取った。
 与えられた嬉しさに綻ぶ唇から微かに、しかしコーディにははっきりと、「……はい」と答えたのが聞こえた。

(ほっとけないのは、ウィンクルムだからかな……)

 それにしても、と浮かんだコーディの問いには、まだ誰も答えられないが。穏やかに流れる時間は、ルゥを確実に癒したのだった。



●背を押す言葉

「悩みがあるって、何だよ」

 『言の葉亭』を訪れたカイン・モーントズィッヒェルが、神妙な面持ちの橘 雅臣に向けて問う。
 殊の外柔らかな声色に、雅臣は詰めていた息を吐き出し。そしてまっすぐにカインを見つめた。

「リタさんへのプロポーズ話、聞きたいんだ」
「……は? リタとのプロポーズ?」

 思わぬ言葉に一瞬反応が遅れたカイン。まさか、そんなことを聞かれるとは。
 だが、雅臣の真剣な眼差しに、単なる興味本位ではないと察する。隠す必要もなし、カインはごく自然に口を開いた。

「結果としてそうなったというか」

 ――仕事じゃねぇ料理は一生独占してぇな。
 それは、調理師である彼女に向けての言葉。事も無げに言い放たれたそれに、リタの反応はなかなかに激しかったが。
 そう伝えると、雅臣は

「カインさんらしいけど、参考になんない……」

 と項垂れた。
 参考、と言われて、カインは雅臣の彼女のことを思い出す。雅臣が、自分と契約する前から大事にしている女性だ。
 つまり雅臣は、彼女であるポーリーへのプロポーズに悩み、カインを呼んだのだった。

「結婚したいって思って。でも、彼女がもし、他の誰かと相思相愛になったらどうしようって……」

 不安げに揺れる金色の瞳。いつもは夢を追いかけるまっすぐな熱で満たされているのに、今はすっかり、なりを潜めている。
 雅臣の気持ちをカインは理解できた。普段の任務は忙しいし、パートナーといることが多い。それに不満を持つ身内や恋人だっているだろう。その隙間を埋めるために、他に目を向ける可能性だってゼロとは言い切れない。

「そもそもどこが好きなん?」
「好きな所? ……全部」

 はっきりと言い切る雅臣は、愛しいポーリーの姿を思い浮かべた。
 演出家の卵である彼女と出会った当初は、舞台に対する意見がぶつかり合い、何度も喧嘩をした。それは今でもある。

「でも、握手した時何か電気流れたよ。カインさんには、そういうのない」

 まさかと言われてもいい、運命の相手であるとその瞬間に気づいた雅臣。

「いつも気が強い美人でなくていい。僕の前では、他人には見せたくない姿でいていい。僕も、ポーリーならそういうの見られていい。……そう思ってる」

 変に取り繕うことも、着飾ることもなく。ただありのままを、このままも愛していたい。
 素直で「らしい」言葉に、カインもふっと笑みをこぼす。

「それ全部彼女に言ってみろよ。雅臣はさ、俺と契約したけど、別に俺に心変わりしてねぇじゃん?」

 言われて、頷く雅臣。神人と精霊は、強い絆で結ばれる。だけど、その絆の形は様々だ。

「あの子だってお前の気持ち受け容れる時に考えたと思うぜ。なら、今度はお前が戦う番だろうし」

 恋愛ではなく、親愛を、友愛を。各々の形が絆となり、強さになっていく。

「その事話して、ちゃんと向き合ってから、そういう事は考えろ」
「……うん。話してみる」

 雅臣の胸にあった蟠りは、すっかり取り除かれていた。晴れ晴れとした表情で、雅臣はカインの顔を覗き込む。

「リタさんはどんな人だった?」
「リタ? いい女だったよ」

 こんな馬鹿な男に引っ掛かるのが勿体無い位な、と。出会ったばかりの、今の嫁にいつぞや告げた言葉を繰り返す。

「でも、あいつの飛び蹴りの話の後イェルが真似したがるのは、普通に俺が死ぬから困るけどな」

 言いながら、カインの言葉尻から感じられるあたたかさと優しい微笑みに、雅臣はあぁ、と目を細める。

(カインさんの中にはリタさんも息づいてるけど、今はイェルクさんの事、凄く凄く愛してるんだ)

 相思相愛とは、きっと彼らのことを言うのだろう。
 幸せ者だね、ともうひとりの精霊に向けて思いを馳せた雅臣は、愛する彼女にまず何から伝えようかと考えるのだった。



●これからの言葉
 並べられた数々の甘味。それから、芳醇な香りを漂わせるお茶がふたつ。
 ふむふむとそれらを眺めためるべは、むつばに紅茶を飲んでみたいとねだった。特に断る理由もなし、むつばはそれを了承したのだが。
 ずぞぞーと大きな音を立てて飲むさまに、ストップをかけたのだった。

「……める、紅茶の飲み方はこうちゃ」
「ふむ、紅茶ったか」

 音を立てず、優雅に紅茶を飲むむつばを見て、めるべも「こうじゃったか」とそれに倣う。今度は自身が注文したほうじ茶で真似たものだから、優雅とは言えないアンバランスさがあった。

「お主こそ、何故ほうじ茶を?」
「法事の時に飲んだ茶が、ほうじ、ちゃ」
 ――……ゆえ、あやつも逝ってしまったわい

 やや声のトーンが落ち、普段の元気もない声がむつばの耳に届く。そうか、と返すとめるべのまんまるな瞳がぱっとむつばに向けられた。
 ここは『言の葉亭』。どんなに小声だろうとも、必ず相手に聞こえる仕様になっている。

 ――相変わらず進歩がないのう
「知っとるわい」

 からかうようなむつばの声に、つっけんどんに返す。気を取り直して、注文した団子へと目を向ける。めるべはみたらし団子を、むつばはごま団子を頼んでいた。
 食欲をそそる匂いに、めるべは身を乗り出して団子を覗き込んだ。

「める、これは?」
「これは、ごまだ……んごぉー!」

 すぽん、ときれいにめるべの口の中へ押し込まれたごま団子。ごまの香りが口いっぱいに広がり、とても美味しい。が、それどころではない。
 次は自分の番とばかりに、めるべはみたらし団子を指さして「これは?」と問う。

「すまぬ、流石にこれは見た事がな……。ん? みたらしだ……んごっ!」
「なるほど。むつは、みたらし団子を初めて見たらしい」
「つまらぬメモをするな!」

 みたらしの香ばしさを感じながらも、めるべの行動にツッコミを入れる。美味しさ云々の前に、さすがに身の危険を察知したらしい。団子を喉に詰まらせ、うっかり呼吸ができなくなることだってあるのだ。
 説教のひとつでもするべきかと立ち上がったが、ふと我に返る。

「……騒ぎすぎたのう、あんみつじゃ」
「みつ豆じゃ、三つ摘まめ」

 年の功と言うべきか、落ち着きを取り戻して居住まいを正したむつばは、注文していたもうひとつを自分の目の前に引き寄せた。
 あんこと黒蜜、それから旬のカットフルーツ。めるべは、そこに豆も添えて。一口分を木製のスプーンですくって、互いの口元に持っていく。

「頂こう」
「あぁん! みっつぅ!」
「これっ」

 あんみつの甘さに声を上げるめるべに、むつばが静かにせい、という意味を込めて頭をチョップする。
 幸いにも、近くの部屋には誰もいないようだ。みつ豆を一口貰ったむつばは、ほっと息を吐き出す。そして改めて、口を開いた。

「――これからは。わらわでよければ、話を聞く」

 今までは、自分の思いの丈を伝えることが多かったから。今度は、パートナーとして聞いてあげようという思いゆえの言葉。
 はじめに見せた、友を思う悲哀の情も。めるべが話したいと思うことも全部。
 そんなむつばの様子に、めるべはふっと笑った。

「聞いてもらわなければ、困るわい。精霊も、不死身ではないからのう。体が動かなくなると、口しか動かないからの」

 こう見えても、実年齢は二人とも還暦などとうに超えている。むつばにいたっては、喜寿を超えて米寿に近づいているのだ。
 見た目がぐっと若い分、時間の流れの感覚がずいぶん他人とは狂ってしまった。同年代の知人は、あと何人健在か。
 終わりが見えてしまう前に、話しておきたいことなど山ほどある。

「ゆえに、わしがお願いしたいくらいじゃ。――よろしく頼む、むつ」

 そう朗らかに笑んだめるべに、むつばも微笑みを返した。



●届いた言葉
 雰囲気の良い茶屋だ、と偶然『言の葉亭』を見つけたカイエル・シェナーとエルディス・シュアは、ふらりと店に立ち寄ることにした。個室に入り、二人でメニュー表を覗き込み、そして。

「こし餡」
「つぶ餡」

 ここに、戦争の火蓋が切って落とされたのである。
 世には様々な派閥や党派が存在しているが、とりわけ食事に関してはかなり熾烈な論争が引き起こされることがままある。きのこたけのこ戦争や、たい焼きを頭から食べるのか尻尾から食べるのか、はたまた腹からかと議題も多様だ。
 もちろん、今回の『お汁粉はこし餡かつぶ餡か?』も様々な意見が挙げられるひとつである。なめらかな舌触りのこし餡、食感が楽しいつぶ餡。どちらにも美点はあるのだが、どちらにも譲れないものがある、らしい。

「お前が紅茶派なのは認められても、これは認められん!つぶ餡!」
「お前が珈琲党であるのは自由だ。だが『こし餡以外に何がある』」

 白熱する二人。気持ちはヒートアップする一方で、思わぬところに凶器が潜み始める。
 断言したカイエルの言葉に、頭に血が上ってしまったのだ。

「つーか、いきなり存在否定から入るな! お前のそういうとこだけは兄貴そっくりだな!」
「……何?」

 普段のエルディスならば、カイエルのまっすぐで包み隠さない言葉に噛みつくことなどなかっただろう。「お前なー!」と不満をあらわにはするだろうが、今出た言葉は本当に言いたいことではなかった。

「尊敬はある。だが、似たいかとなれば別問題だ。その程度、お前も少しは観察能力のひとつでも身につけたらどうだ」

 だが、それはカイエルも同じで。何か不満があったとしても、いつもならばぐっと呑み込み黙るところだろう。それがなぜか、言葉が暴走したかのようにエルディスに届いてしまう。
 口に鍵はかけられない。発した言葉に偽りはないが、ここに来てまで気まずくなるような喧嘩をしたいわけではなかった。

(――今は。せっかくの空いた時間は、ただ共に、静かに過ごしたい……だけ、なのに)
(ただ、もっと、一緒にいる時間を増やしたいのに。どうしてなんだ、ただずっと一緒に……)

 思うことは同じでも、表に出てくる言葉は相手を傷つけるばかりだ。
 言葉とは、得てして見えないナイフへと姿を変える。自分でも気づかないうちに、痕跡も、証拠もない傷をつけてしまうのだ。

「……頭に血が上った。出てくる。注文は任せた」
「カイエル……!」

 気まずい空気の中、カイエルが立ち上がる。また傷つける言葉を吐いてしまいかねないと思ったからだ。
 エルディスが名前を呼ぶも、既に扉は閉ざされた後で。声は届くことなく、個室の中を虚しく響く。やってしまった、と思ったが、放たれた言葉を無かったことにはできない。
 せめて希望通り、こし餡のお汁粉を頼むべきか。そう思いながらメニュー表を見つめ、ふと思いついた。


 しばらくして、普段の落ち着きを取り戻したカイエルが個室に戻ってきた。エルディスに何と声をかけるか考えていたら、ずいぶんと時間が経っていたらしい。
 テーブルの上には、こし餡でもつぶ餡でも、お汁粉でもなく。あんみつがふたつ、鎮座していた。

「妥協点だ。あんみつふたつ。これで文句はないだろ?」

 エルディスの言葉が、すとんと胸に落ちた。
 自分の意見を押し通すことも、カイエルの意見だけを望むままに与えることもなく。双方が納得できる選択をできるのが、エルディスなのだ。
 だからこそカイエルは、共に在りたいと心の底から願う。どろどろに甘やかしてくれなくていいから、ただありのまま、落ち着ける場所を。

「……ずっと、」
 ――共に、いてくれないか……?

 ひどく掠れた声。緊張で、不安でいっぱいだった。うまく言葉を紡いだのかすら怪しい。
 だが、口からこぼれた想いは、どんなに不格好と言われようとも届く。それが、この『言の葉亭』の唯一だ。
 耳をくすぐる愛しい人の声を、エルディスが聞き逃すはずがない。ならば、それに応えなければと手を差しのべて。

「――俺以外に、」
 ――他に、誰を置く気ですか?

 声を、音を。頼りなくとも、僅かな震えに乗せて発せられたその言葉に、カイエルは言葉を失う。途端、カイエルの頬が桃色に染まり、エルディスは愛おしそうに微笑んだ。
 触れた指先には微かに、赤い糸が見えた気がした。



依頼結果:大成功
MVP
名前:カイエル・シェナー
呼び名:カイエル
  名前:エルディス・シュア
呼び名:エルディス

 

名前:ルゥ・ラーン
呼び名:ルゥ
  名前:コーディ
呼び名:コーディ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 北乃わかめ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月17日
出発日 01月24日 00:00
予定納品日 02月03日

参加者

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