プロローグ
「ああ、またやられた……」
掘り荒らされた後の田畑を見遣り、所有者である男は深く嘆息した。
「これで何件目ですかねぇ。毎年冬になると、こういった害獣の被害は耐えないが……」
「今年は少し異常じゃの。瘴気の影響で、獣達が活発している事もあるのかもしれん」
農家仲間である初老の男と、同じく余所に田畑を持つガタイのいい男性も続ける。
自然豊かな町で自給自足に努め生きる者たちにとって田畑は生命線だ。村を囲む雑木林もまた同様に。
自然界に住むネイチャーとは共存していく他にないものの、寒い季節になると餌を求め、人里に降りてくる害獣に人々が悩まされるというのはありふれた話でもある。
「鉄柵も獣避けも効果なし、か……」
土を被りバラバラになった案山子を軍手で拾い上げる。
町民達はあらゆる手を使って畑を守ろうとしたが、いまいち効果が薄い。
どうにもただのクマやイノシシとは違うのでは……と、ある日監視カメラを使ったところ、畑を荒らし続ける犯人の姿がしっかり映っていた。
「こ、これは……コボルトだ!」
「ああ。それに……イノシシも」
害獣の正体は森に住むネイチャー達に相違なかった。
が、こうなると町民達の手には当然負えない。
A.R.O.A.本部に依頼の一報が舞い込んだ。
解説
▼目的
田畑を荒らすコボルトとイノシシの駆除
どちらもデミ化はしていないため、無理に殺さなくてもいいです
ただし逃げ遂せるとまた次に畑を襲う可能性があります
▼敵NPC
・コボルト×5体
痩せた犬のような頭部をもつ人型モンスター
身長は人間と同じくらい。普段は小さな集落を作って暮らしている
人間と仲は悪く、見ると襲い掛かってくるが、適度にダメージを与えたり驚かせたりすると逃げていきます
カタコトですが言葉が通じます
・イノシシ(ボア)×5体
野生の猪。気性が荒く戦闘になると襲い掛かってくる
猪突猛進の言葉どおり強力な体当たり攻撃をもっている
普段は町民達が猟銃で駆除する事もあるので、倒してもかまいません
言葉は通じませんが生きたまま捕縛に成功すれば、役所などに預け遠くの森に放つよう働きかける事も出来ます
▼フィールド
農家の広い畑
深夜に待ち伏せて交戦する流れになります
月明かりがあるので視界は心配ありませんが、生きた農作物を殺さないため広い場所へ誘い出すなどの手も可
▼プランにいるもの
・戦闘での動き方
・最終的に駆除するか、逃がすならば今後の対策をどうするか、等
ゲームマスターより
敵は両者とも低レベルのネイチャーなので、上手くあしらいつつ説得、駆除など、連携しつつ思うようにやってみてください。
数が多いので参加者数によっては注意が必要ですが、新規PLさんでも普通に火力で殴って倒せるレベルかと思います。
遅くなりましたが昨年はたくさんお世話になりました。今年もよろしくおねがいします。
まだまだ寒さが続きますので皆様もどうぞご自愛ください。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
敵が来たらトランス。 コボルト達には「ここを襲うとメチャ怖い」な目に遭わせて ここを襲うのは割りに合わない、と思ってもらうぜ。 これで奴らが来なくなれば良いじゃん? ボアは戦闘で弱らせて捕獲→役場へ後の事を依頼。 シャーマインさんの交渉が巧く行けばボアをコボルト達へあげてもいい。 今度からボア狩れはいいじゃん? 昼間のうちに畑の周囲へ鳴子を仕掛け進入を検知する。 ハンティングスキルや偽装スキルでコボルトに判りにくいように設置。 戦闘時オレ達は防御の高さを生かし壁役で敵攻撃を引き受ける。 ボアの突撃は受け流す。 ハンマーで敵をスタンさせ動きを止める。 攻撃時「逃げられると思うなよ」と不敵な笑みでコボルトをビビらせる。 |
クルーク・オープスト(ロベルト・エメリッヒ)
事前に酢と捕獲用の縄を申請しとく しかし寒いな…早く帰りてぇ… これから遊ぶのか?…俺は帰って寝るから●●くんと遊んでろ 敵を発見した時にトランスして…戦うためとはいえまだ慣れねぇなコレ… 「キスならさっきしただろ!」 (「戦ってあげなーい」と言われたら)こ、こいつ、足元見やがって…! 「しょうがねえなぁ…後でしてやるよ…」 敵が広い場所に引っ張られたら攻撃開始を頼む イノシシの相手はロベルトに任せて、俺は必要があればナイフでコボルトと戦う つっても他の精霊の邪魔にならねぇ程度で前に出すぎねぇようにしとく 攻撃されそうだったら避けられるように、周囲に気を配るのは忘れねぇ んで、弱ったコボルトに酢を嗅がせて、っと… |
鳥飼(鴉)
まずは畑で待ち伏せですね。 シャーマインさん達が調べてくださった来る方向が見える場所で、早めに待機ですね。 トランスは、対象が畑に踏み込んで荒らし始めたらでしょうか。 現行犯逮捕です。 誘導中は逃がさないように、後ろに回り込みます。 戦闘予定地に着いたら、対象の数を確認します。 耳がいいなら、驚かせて動きを少しでも止めることができるかも知れません。 構えたコボルトや、突進の予備動作を始めたイノシシの足元を狙って弓を引きます。 コボルトの脅し交渉は、コボルトが渋るようなら自分の足元に矢を落として態と音を鳴らします。 こういうのあまり好きじゃないですけど。そうも言ってられません。 けど、脅さない方がいいならしません。 |
ユズリノ(シャーマイン)
申請 拘束用縄 お酢 事前行動 監視カメラ映像見せて貰い対象の 来る時間 順番 方向を確認し皆と情報共有 来る時間帯に隠れて待機 寒くない? 戦闘 対象確認次第トランス 彼の後ろでr2に掛り易い様ライトで気を引く 掛った後は照明係り 弱った個体が出たら縄で手足きっちり拘束する 拘束の際暴れたらフライパンでスタン 大人しくして! MP不足にDI コボルト解放までにイノシシが現れなかった場合 ・この後この付近にイノシシがくるかもしれない ・それを狩る分にはこっちは感知しない この2点を解放の際コボルトに告げる 彼等が狩ってくれれば今回の問題は丸く収まってくれるのではという思い 戦後 依頼主に経緯を話しお酢をコボルト避けに使って欲しいと話します |
●
コボルト、及びイノシシ――ボアの討伐依頼を受けたウィンクルム達は、現場となった畑に集まり事前確認を余念なくしていた。
戦闘には初参加となるクルーク・オープストとユズリノは拘束用の縄と、コボルト対応に酢を申請した。
犬のように過敏な嗅覚で刺激物が苦手な彼らを敬遠させる為にと、精霊シャーマインが発案したものだ。
昼間の内にはセイリュー・グラシアが持ち前のハンティング、及び偽装スキルを活かし、パートナーであるラキア・ジェイドバインと共に罠を張った。
ユズリノは監視カメラ画像を確認し、対象の現れる時間や順番、方向等を、トラップの詳細と併せて周囲と共有した。
シャーマインはセイリューらと共に現場へ赴き、畑を荒らさず戦闘出来そうな広い場所を予めチェックしておいた。
方針として、コボルト対応には駆除よりも説得――もとい、脅し交渉を持ちかける算段だ。
単純に、野生のボアと違い悪知恵の働く厄介者には、ウィンクルムの名を冠する彼らは無駄な殺生をするより、多少面倒でも適度な距離を保ちつつ生かす事を選んだ。
カタコトとは言え言葉が通じいくらかの知性も集落も持ち合わせる彼らを無闇に殺すのは後味が悪い、とも。
とはいえ、精霊、鴉はこの案に若干の不安も覚えて表情を曇らせていた。
「元々人を嫌うコボルト相手に、脅し交渉ですか……」
拗れる気もしますが、と漏らすも、現状でこれ以上の手がない事も理解出来る。その時は責任を持ち、駆除してしまう構えで居た。
守るべき人間達の生活を脅かし話も通じないならば、残された手はどうしたって限られる。
「……こういうの、あまり好きじゃないですけど」
そうも言ってられません、と。神人、鳥飼も同じように顔を俯かせた。
彼は殊更、こういった作戦には向かない性格だ。
理解する事と納得出来るかどうかは別で、話して分かる相手であるなら、武力行使は極力控えたい――そんな思いも秘めつつ、現場へ向かい顔を上げた。
「ふーん……下々の人の生活って大変だね」
改めて今回の任務概要を頭で反芻したロベルト・エメリッヒは、大して興味もなさげに形だけの同情をぽつりと漏らした。
「さっさと終わらせて、クルーク……が駄目なら、●●くんと遊ぼっかな」
パートナーの名前を口にした所で一度、背を向けて寒そうに腕を擦っているクルーク本人に目線を遣ってから、これみよがしに『●●くん』をロベルトは強調する。
彼が好んで集めている蒐集品の一人の名だ。ぴくりとクルークの肩が小さく動いて、顔だけちらりとロベルトに向けた。
「……そんな時間から遊ぶのか? 俺は帰ってすぐ寝る」
「えー? 僕んちで寝てていいのに」
「お、お前んちでっ?」
「そうだよ。ベッド貸してあげようか?」
「いっ! いらねーよ! ……●●くんとやらと」
……好きに遊んでろ。ぷい、と若干拗ねた様な半眼で視線を泳がせたクルークの顔を覗き込んだロベルトは「あはっ! 動揺してる! かわいー!」と可笑しそうに笑い、クルークは些かバツが悪そうに顔を逸らした。
●
「しかし寒いな……早く帰りてぇ」
畑の隅で草木に紛れ身を低くし、一行は敵の出現を待った。
ぴゅうと吹いたつむじ風が枯葉を運んで、ざわめく木々が一層寒気を際立たせるようで、クルークはひとつ身を震わせた。
「本当に寒いね。凍えちゃいそう……」
ユズリノも、我が身を抱き締めるように身を竦ませ腕を擦る。
それなりに防寒はしているけれども、風を遮る物の少ない真冬の夜空の下でじっとしていれば、嫌でも体温を奪われてしまう。
隣に陣取っていたシャーマインが不意にユズリノの後ろに回り、長い腕を神人の体を囲うようにして回した。
「ほら、こうすれば暖かい」
「あ、ありがと。ふふ、ほんとだ」
任務中だという緊張感は忘れずにいても、優しい精霊の体温に触れればほっこりと和んでしまうのは仕方が無い。
互いに暖を取り合えば長く感じる待機時間も悪くないと思える。
「……来たぞ。リノの読んだ時間通りだ」
気取られないよう小さな声でシャーマインが皆に伝える。
畑の隅で草木に紛れ、身を低くし敵の出現を待っていると、程無くして最初に現れたのは五匹のボアだった。
セイリューらの仕掛けた鳴子が侵入を検知する。腹を空かせていたらしいネイチャーは、すぐさま畑を荒らし始めた。
「女神リンゴのご加護を」
「滅せよ」
「……Liebe mich.」
敵の出現と共に三組がトランスを済ませる。
慣れたウィンクルム達と違い戦闘も殆ど初参加であるクルークだけは、トランス時の軽微な接触ですら躊躇ってまごついた。
戦う為とはいえまだ慣れねぇな、と胸中だけで呟いたつもりだったが、キスの後すぐさまわざとらしく距離をとったクルークの姿に、ロベルトは悪戯っぽく笑う。
「終わったらご褒美にちゅーしてね」
今度はこっちに、と中腰で見上げて唇をトントンと叩く。
「キスならさっきしただろ!」
「アレで満足したと思ってるの? 命賭けるんだから、もっとイイトコに頼むよ」
しないなら戦ってあげなーい。両手を頭の後ろで組んでぷい、とそっぽを向く。
足元見やがって……! ぐぐ、と拳を握り締めつつも、やがて諦めたようにクルークは嘆息し、頭を掻いた。
「しょうがねぇなぁ……後でしてやるよ」
「え」
けしかけたのは自分だが思ったより温度の高い返事が戻った事に驚いて、ロベルトは宝石のような目を更に丸くした。
「……本当にしてくれるんだ?」
「てめぇが言ったんだろ」
「まぁ、そうなんだけど。ふふっ」
楽しみにしてよっと。含むような笑いをくつくつと漏らし、一転やる気を見せたロベルトは敵に向き合った。
●
「ヒギッ! ニ、ニンゲン!?」
ボア達の出現からほどなくしてコボルトもすぐに姿を現した。
先陣切ったボアの一匹が偶然、昼間セイリュー達が掘った落とし穴に掛かった事を訝しんだようだ。
「掛かってくれれば儲けもの、程度のつもりだったけど。上手くいったようだね」
告げたのはラキアだ。戦闘メンバーには勿論近付かない様にと伝えてあるが、これまではなかったトラップが突然現れた事に、コボルト達は一様に慌て始めた。
しかし仲間の一体が穴に落ちた事で闘争本能を刺激されたらしい野生のボア達は、すかさず前衛へ向け突進を繰り出した。
「御用だ、畑泥棒!」
装備である十手『九頭竜』を構え『アプローチ』を発動するシャーマイン。
ユズリノも、シャーマインの背後でライトを光らせ敵の意識をひとつでも多く、アプローチの効果へ向けさせた。
スキルの効果に相乗し敵のほぼすべてを引きつけ、農作物を荒らさないよう広い場所へ誘い出す。
「主殿、私達も」
「はい!」
シャーマインのアプローチが成功したのを皮切りに鳥飼と鴉もトランスを行使する。
そのまま敵を逃がさないよう鳥飼は後ろ側へ回り込み数と位置取りを確認する。
鴉は主にボアを担当する形で、同じように敵を囲み込んだ。
「頼むぜ、ロベルト!」
「言われなくてもっ!」
完全に不意を突かれた形のボア達へ、先制攻撃の『ファスト・ガン』を、ディアボロのプレストガンナーが撃ち込んだ。
しかし今回は極力『殺さず討伐』する事が目的だ。発砲は威嚇射撃程度にとどめつつも、他の味方が攻撃しやすい開けた場所へと誘導する。
「シャインスパーク!」
「フォトンサークル!」
移動の合間に、シャインスパークで敵の目をくらましたのはラキア、フォトンサークルで近距離の仲間も含め防御を強化したのはシャーマインだ。
「ブモオオッ!」
「あたらないよっ!」
飛び出してきたボアの一匹が繰り出した突進を、身軽さを活かし容易く避けるロベルト。
流れるような回避からそのまま、殺さないよう急所を避けつつ脚を狙い弾を撃ち込んでいく。
相方のクルークは邪魔にならないように、と出過ぎない位置で、しかし攻撃が向けられれば応戦出来るようナイフを構えている。
また別の方向へ向け突進の予備動作を始めた一匹の足もとには、冷静にフィールドを見渡す鳥飼が間髪入れず弓を引く。
ビィン! と地面に矢先が突き刺さり、勢いを止められたボアはじりじりと後退した。
「……出来れば殺さず捕獲したいんです。大人しくしていてください」
そんな彼の様子を見守る鴉もまた、落ち着いた所作で標的の動向を分析する。
「クルーク、行ったよっ!」
「っ!」
不意にクルークへ向かった一匹の頭上に、大きな可愛らしいハンマーが降った。
ピコ! と音を立てたそれにボアが足を止められた隙に、我に返ったクルークがナイフを振るい牽制すると、警戒したようにボアは後ずさりした。
「助かったぜ!」
「それなら良かった。お気をつけて」
発動したのは鴉の『罰ゲーム』だ。不慣れな新人ウィンクルムの様子も、彼はきっちり把握して支援する心構えで居た。
「さっすがラキアのスキル、目ぇ瞑ってても避けられるぜっ!」
威力は立派だが元々命中の低いボアの突進攻撃である。
そこへラキアのスキルが更に行使されているため限りなく命中が低下しているそれを前衛のセイリューは容易く回避し、振り向きざまにポップな水玉模様のハンマーをボアの頭上へドガン! と派手に一発打ち込んだ。
「ブモッ……!」
見かけによらず重厚な一撃を受け、セイリューを襲ったボアはスタン効果により気絶し、ズシン……と重々しく地面に倒れこんだ。
その様子を見ていたコボルトの一匹がヒッ、と怯えた声をあげる。
「コイツラ、ヤバイ」
「ツヨイ、ツヨイ! キヲツケロ!」
ぎゃあぎゃあと戦意を昂揚させ喚き始めたコボルト達に、鴉はあえて武器のマジックブック『不安』を見える位置で構えて戦闘を続ける。
表紙のタイトル通り、不安を与える効果を持つそれは見る者の恐怖を無性に煽る。
鴉自身の見た目も相まって、得体の知れない不安感に苛まれ、あるコボルトはびくっ! と足を竦ませた。
「オレ、コワイ! シニタクナイ!」
またある一匹は逃げ出そうと駆け出したが、横合いから突然音もなく姿を現した精霊の硬質な盾がガンッ! と無防備な体にヒットした。
よろりとよろけて見上げたコボルトの目の前には、柔らかな表情のファータ――ラキアが物騒過ぎる形をした武器――『カ・ギヅメ』と読んで文字の通り、凶悪な魔本を構えて、それはもう穏やかな笑顔でにこりと笑った。
その背後でまた一匹のボアがハンマーで叩き伏せられ「ブギィ!」と鳴いて気絶したのが見えた。
「オレたちを敵に回したのが悪かったな。……逃げられると思うなよ?」
ハンマーを肩に担ぎ、振り仰いだセイリューがそれはもう不敵に、邪悪な笑みを見せる。
逃げられないよう周囲を囲い込まれ、一匹一匹確実に潰されていく。そういえば先程からとある人間が持っている瓶から嫌な匂いもする。
増えていく不安要素の数々に、コボルト達は徐々に戦意を喪失していく。
これはウィンクルム達による作戦だった。交渉を最優先に考える彼らが、コボルト達に条件を飲ませ易くするための。
不安を煽り圧倒的な力を見せつけ、戦意を削ぐ事で『ここを襲うと恐ろしい目に合う』と分からせるのだ。
そういう考えあってのこと――とはわかりつつも、セイリュー達と戦闘を共にした事のあるメンバーの目には、悪役を演じる二人はなんとも頼もしく、結構恐ろしい。
「なまじ戦闘経験豊富なだけに……怖いね……」
「あ、ああ……」
酢の入った瓶の蓋を緩めつつ、壁役兼『怖い人間役』を買って出てくれているセイリュー達に感謝するシャーマインとユズリノ。
先程から捕縛と、照明係りに徹しているユズリノも、この暗闇では厄介な存在だと踏んだのか、一匹のコボルトが不意に襲い掛かってきた。
「シネェ!」
すかさず庇うようにして進路に立ちはだかったシャーマインにビタッ! とコボルトは動きを止める。
先程から鋭い嗅覚が拾い上げているこの嫌な匂いの正体――シャーマインが手にしている瓶に、これ以上近付けないのだ。
「ナンダ、ソレハ……!?」
「この匂い、どう思う?」
牽制するよう、距離を開けているコボルトの足元に、軽く中身を振り撒く。
鼻をついた酸っぱい臭いを受けて、まるで劇薬でも目にしたかのようにコボルトは慌てた。クルークも機に乗じて申請していたボトル――つまり『酢』を、狼狽し始めたコボルト達の前へ突きつけた。
「大人しくして!」
フライパンでスタン効果を与えつつ、暴れるボアの一匹を気絶させ脚を縛り上げるユズリノ。
同じ頃合で、ロベルトや鳥飼、セイリューらが対応していたボア達も、足元への攻撃やスタン効果でそれぞれ動きを止めた。
弱ったボアはすべてきっちりと足を縛り、一先ずは逃がさないよう捕縛した。
一行の細やかな作戦と気配りの甲斐あり、コボルト達には今の所傷一つ負わせてはいない。
それでも彼らに、力を見せ付けるには充分であった。
「足りないなら、この瓶の中身、頭から浴びせてやろうか」
「ヤ、ヤメテクレッ! ソレヲイマスグ、ドコカヘヤッテクレ!」
「今後、この臭いのする場所は人間の縄張りだ、立ち入ればウィンクルムがただじゃおかない」
「グッ……! シ、シカシ……!」
おろおろとコボルトは仲間達を見る。結局は食料がないからやむなく降りて来ているだけで、嫌いな人間達とわざわざ鉢合わせたい訳ではないだろう。
と、ここで彼らの前に立ったユズリノがとある提案を持ちかける。
「貴方達の存在は確かに厄介だけれど、人間はイノシシ――そこに捕縛している、ボアたちの被害にも手を焼いている。勿論、今回みたいに狩る事は簡単だけれど」
「捕まえたボアはこっちで処分する予定だが。そっちが譲歩するっていうんなら、譲ってやっても構わないんだぜ」
足りてないんだろ? 肉。続けたセイリューの言葉に、コボルト達もハッとする。
そもそもこれまで共に人間の畑を襲っていた存在だ。ひょろりと軟弱なネイチャーであるコボルトには倒すのも骨が折れる。狩って食べる、という選択肢がそもそも存在しなかったのである。
しかし目の前には、これまで共に畑を荒らしたおかげで丸々と肥えたボア――肉の塊が五つも転がっている。
なんだか仲間意識まで芽生え始めていたような気もしていたが、腹を空かせたコボルト達には今や美味そうな食料源にしか見えていない。
コボルト達が選んだ交渉の答えは、当然ひとつであった。
●
「皆様、ありがとうございました。これで一先ずは、田畑を荒らされる脅威に怯える事もなくなるでしょう」
深く頭を下げた依頼主の男に、一行は申請した残りの酢を手渡した。
「コボルトの嫌がる匂いです。中身は普通の酢と変わりませんから、調達するのも手軽かと」
「こんなものが……?」
「犬は嗅覚が優れているので、撒かないよりは効果も違ってくると思います」
コボルト避けに使ってください、とユズリノは微笑んだ。
それでなくても『強く怖い人間達』を演じたウィンクルム達のおかげで、ここは襲うとやばい畑だ、という事は充分伝わっただろう。
嗅覚以上に、犬は頭もいい動物なのである。
結果として、捕縛したイノシシ達はコボルトに食料として全て引き渡した。
万が一動き出さないよう、鴉が用意していた麻酔銃を、ガンナーであるロベルトの手を借り五匹全てに撃ち込んで。
代わりに、この畑は――もとい、酢の匂いがする場所には立ち入るなと理解させて、コボルトたちを解放した。
今頃は久々の良質なお肉に腹を満たしている頃合だろう。
「……セイリューさん達、怖かったです」
「えっ」
解散に至り、思い出したように鳥飼が一言告げると、セイリューとラキアが顔を見合わせた。
「そういう作戦だったんでしょうけど。僕にはああいうの、中々出来ないから」
「主殿は、脅し交渉も乗り気ではありませんでしたしね」
装備を片しつつ鴉も続ける。「傷つけることなく終わって良かったですね」とも。
「そう見えてたなら良かったよ。飴と鞭、しっかりコボルトに効いたようだったし」
「ははっ。ラキアが凄むと特に怖いからなー」
「セイリューだって。悪役、様になってたけど?」
確かに! と笑い、依頼人とのやり取りも終えたユズリノとシャーマインも四人に続いた。
イノシシに関しては、殺さず捕獲出来たなら遠くに放つよう働きかける、という算段もあったのだが、そもそも害獣は次の被害を恐れそのまま殺されてしまう事がほとんどだ。
コボルト達の餌として与えるという選択肢に至った事は、限りなく良い結果に落ち着いたといえる。
「様になってたといえば、シャミィの十手、かっこよかったよ」
「そ、そうか?」
おまわりさんみたいで、ところころ笑うユズリノに、照れを隠せず頬を掻いてシャーマインも「一件落着だな」と笑った。
「そういえば、忘れてないよね?」
「あ?」
最後尾に続いたクルークにロベルトが琥珀色の瞳を鋭く光らせる。
「後でキスしてくれるって言ったの」
「は!? い、今やれって?」
「別に、帰ってからでもいいけど? ……それこそ」
僕んちで、寝るときでも? 悪戯っ子の様な顔つきで神人の顔を覗き込んだ精霊に、クルークはぼっ!と頬を赤く染めあげた。
「冗談ばっか言ってんじゃねぇ! あーもう、寒いから帰って寝る!ひとりで!」
「あーっ、誤魔化した! クルーク、待ってよーっ!」
最後尾から一気に追い抜いて、任務はもう終わったというのに、何か別のものと戦っているようなクルークと楽しそうなロベルトに一行も笑顔を見せつつ、帰路に着いた。
依頼結果:成功
MVP:
名前:ユズリノ 呼び名:リノ |
名前:シャーマイン 呼び名:シャミィ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 梅都鈴里 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | 日常 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 01月15日 |
出発日 | 01月23日 00:00 |
予定納品日 | 02月02日 |
参加者
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- クルーク・オープスト(ロベルト・エメリッヒ)
- 鳥飼(鴉)
- ユズリノ(シャーマイン)
会議室
-
2017/01/22-23:37
こんな間際になっちゃったけど、ユズリノさん達も今回ヨロシク。
オレ達のプランは提出できた。
昼間の間に鳴子で敵接近を検知できるようにするのと、
畑の近くに敵が躓くように穴掘って偽装しておいた。
その場所は皆にも教えておくので安心してくれ。
オレとラキアは敵攻撃を引き受けて、敵をスタンさせたり盾でぶんなぐり
基本的に敵をビビらせるので、アメとムチな感じで
シャーマインさんの交渉に役立ってくれればいいなぁと思っている。
コボルト達も食糧が手に入れば畑襲わなくても良いので、
コボルト達がイノシシ(ボア)を狩ればいいって案はなかなか良いんじゃないかな?
シャーマインさん達の交渉が巧く行ったらボアは譲っても良いとプランに書いといた。
駄目だったら役場で何とかして貰おう。
あと負傷者はラキアが回復させる予定。l5で敵命中率も下げる。
相談その他アレコレお疲れさまでした。
巧くいきますように!
-
2017/01/22-23:33
シャーマイン:
入れさせて貰ったよ。
グラシアさん達の意見が聞けなかったので
お二人の行動の邪魔にならない事を祈るよ。
どう転ぶか転ばないか。
プランは提出した。
では、よろしく頼む。 -
2017/01/22-23:00
ロベルト:
敵同士で争わせるのはいい案だねぇ。
>罠
はいなー。
じゃあ捕獲する人のとこまで誘導って感じにしとくよ
>トランスのタイミング
発見時で了解。 -
2017/01/22-22:10
あ。
月明りで視界は問題無いってありますね。
見落としてました。
前言は撤回して、マグナライトは持っていかないことにします。 -
2017/01/22-20:40
>トランス
最初は隠れてるんですよね。
僕も、コボルトかイノシシを発見したときにトランスするつもりです。
>コボルト
依頼としては畑に手を出されなければいい訳ですし。
確かに状況は限定されますけど。
シャーマインさんのコボルトにイノシシを狩って貰う形は、僕は入れてもいいと思います。
>戦闘
僕は命中すると音の出る弓の、バチューンを持って行きますね。
鴉さんにはマジックブック「不安」を持って行って貰うので。
コボルトを脅すのに役立てないかなと。
鴉さんにはイノシシが突進する前にt1で気を逸らして貰おうと考えてます。
あ、僕も照明にマグナライトを持って行きますね。
最初に隠れてる時は消灯しておきます。 -
2017/01/22-17:42
しまった!
申請物は拘束用縄とお酢ですね。
忘れない様にしなくちゃ(汗 -
2017/01/22-17:32
シャーマイン:
お酢作戦はやっていいようだな、ありがとう。
>罠
具体案は俺の方には無いんだ。
すまない。
>コボルト
彼等の食糧問題について間接的に何かできないかと考えて
一つ思いついたんだが、よければ行動に入れたいと思っている。
状況が限定されるが
コボルトが先に現れ、イノシシが後に来る場合、
コボルトを解放する際、
・この後この付近にイノシシがくるかもしれない
・それを狩る分にはこっちは感知しない
この2点を告げて解放したら奴らイノシシ狩ってくれないかな。
その後イノシシが来ても来なくても俺達は畑で張るんだけどな。
カメラ映像でもコボルトの方が先に確認されてるから
イノシシが後に来る可能性は高そうだと思ってな。
確実ではないからこの行動は不発になるかもしれないが。
入れてもいいだろうか?
>戦闘
俺のスキルはr2とr5を併用して使えたらと思っている。
手加減攻撃とスタン狙っていく。
ユズリノは照明係りと弱った個体出たら縄で拘束に動いてもらう。
申請物は拘束用縄。
トランスは対象発見時にするつもりだ。 -
2017/01/22-10:25
改めてよろしく頼む。
逃がす方向が多けりゃそっちに合わせるつもりだったから、駆除ってのに強い拘りはねぇな。
捕まえる方向でいいと思う。作戦に関してだが、シャーマインの案を推したい。
俺たちの行動予定だが、戦闘中心で。
広い場所に引っ張ってくれんならその後に攻撃を始めるつもりだ。
詳しくはこいつに聞いてくれ(ロベルト指し)
ロベルト:
はいはい。コボルトは殺さない程度に手加減するよ。
イノシシは…う~ん、普段猟銃で駆除されてるなら銃自体には慣れてそうだよねぇ。
注意をこっちに向けることは出来るかな?
罠を仕掛けるつもりならそっちに誘導するようにするねぇ。 -
2017/01/21-18:15
人が増えましたね。改めてよろしくお願いします。(小さくお辞儀
シャーマインさんの作戦、良いと思います。
これなら、命を奪わなくても解決できそうです。
ね、鴉さん。
鴉「どうぞ、主殿が為さりたいように。駆除に拘ってもいませんので」
イノシシは捕まえて。
コボルトは懲らしめる方向で行くなら、威力の弱い武器を持って行きますね。
鴉さんのミラーデーモンも捕まえるには向いてないと思うので、別のスキルにしていただこうと思います。
うーん。罰ゲーム、とか。 -
2017/01/21-14:46
シャーマイン:
RKのシャーマインだ、神人はユズリノ。
初めましての方もいるな、よろしく頼む。
基本的に俺もグラシアさんの考えに同意だ。
・イノシシは捕まえて役所に託す(駆除でも構わないが
・コボルトは適度に痛めつけ脅して今後近づかない様にさせたい
コボルトに関してだが、奴ら犬の様な頭部ってんなら嗅覚良さそうじゃないか?
だから今後奴らを遠ざける対策として「臭い」を使いたいと思うんだ。
犬の嫌いな臭いで調べたら「酢」「酒」「タバコ」てのがあった。
この中で使い易そうなのは「酢」かと思う。
奴らを懲らしめた後これを嗅がせて
「この臭いのする場所は人間の縄張りだ、立ち入ればウィンクルムがただじゃおかない」
こんな感じで脅して退散頂く訳だ。
「臭い」ていうサインがあった方が向うも分り易いだろうし効果は上がりそうだと思う。
街の人達には畑周辺にお酢を蒔くなり瓶に入れて木に吊るすなりしてもらってコボルト避けに使って貰えたらと思う。
どうだろう、殺さなくても何とかなりそうだと思うんだが。
今後のイノシシ避けの対策はウィンクルムの仕事じゃないんで街の人に託すとして。
ても、コボルトがイノシシ狩ってくれるようになればなんか丸く収まりそうだが、それも俺達がどうこうする問題でもなさそうだし。
何かいいアイデアがあれば町民に提案してみるのもいいかもな。
俺等の行動予定だが、
事前行動で監視カメラ映像チェックさせて貰い奴らの
・来る時間
・来る順番
・来る方向
・戦闘出来そうな広い場所
を調べときたい。
で、その時間、その近辺で張って待機。
待機中寒いだろうから防寒に何か用意してもいいかもな。
カイロ位しか思いつかないが。
何にしても戦闘はあるからな、
良ければr2で広い場所へ引っ張ろうかと思う。
(ネイチャー相手だと下手すると死なせてしまいそうなのでダメージのない方使用予定)
イノシシは網を地面に仕掛けといて一網打尽もありかもな。
俺とユズリノの武器はスタン効果のあるものを持っていく予定だ。
月明かりがあるが、一応マグナライトも持っていく。
ひとまずこんな所だ。
皆の考え聞きたい。
と、長文すまん。 -
2017/01/20-21:41
セイリュー・グラシアとライフビショップのラキアだ。
挨拶顔出ししそびれてる間に、参加者が増えてるじゃん。
クルークさん達は初めましてだな。ヨロシク!
相手がオーガなら倒すトコだけど、相手はネイチャー。野生動物だな。
個人的ポリシーとして「オーガじゃない生物は殺さない」なので
出来れば倒さずに何とかしたいが、
Lv10以下推奨な依頼なので(メタ発言)
クルークさん達の「駆除」は尊重したいところ。
要はコボルトとイノシシがまたこの村の畑に来ないようにすればいいので
駆除=殺傷って事でもないよな。
イノシシは弱らせ捕獲して役場で対応して貰う方向を推したい。
命まで取らなくても良いじゃん。野生動物なんだし。
コボルトは集落があるので、イノシシと同じって訳にもいかないよな。
ただ。カタコト意思疎通可能な生物を殺したりすると、やっぱ後味悪い。
コボルトも集落に帰れば養うべき家族がいるだろうし。
『人間の畑に手を出すとすげーボコられて死にそうな目に逢う』
とコボルト達に思わせて、むちゃくちゃビビらせて帰らせるって手もあるが。
しにそーな目に遭わせる物理的説得(え?)。
普通に逃がすと他村落を襲うかもしれないから
コボルト達のペースで逃がさず「逃げられると思うなよ」と
超ビビらせてやると、人間の村を襲う気なくすかなって思うんだけど、どうだろう。
オレとラキアは火力的にビミョーなので、
上記のやや荒っぽい方法でも大丈夫、と断言しづらいけど。
今考えてるのはこのぐらいだ。
何かもっといい方法があるなら、ぜひ聞かせて欲しいぜ。
-
2017/01/19-23:05
鴉:(再投稿)
ええ、初めましてですね。
クルーク殿、ロベルト殿。よろしくお願いしますよ。
主殿からも紹介いただきましたが、私のことは鴉と。
さて、主殿は悩んでいるようですが。
私としましてはコボルトもイノシシも、駆除の方向で良いと考えていますので。
戦闘方法としては、イノシシ相手にミラーデーモンでもと考えている程度で然程決まってはいません。 -
2017/01/18-22:05
初めましてだな。
俺はクルーク・オープスト。こっちはプレストガンナーのロベルト・エメリッヒ。
よろしく頼む。
まず決めることは駆除か逃がすか、か?
俺は駆除でいいと思うが、逃がしたい人が多けりゃそっちに合わせるつもりだ。 -
2017/01/18-20:05
鳥飼と、TSの鴉さんです。
よろしくお願いしますね。
駆除か逃がすか、悩んでます。
畑を荒らしてるってことは、冬だから食べ物がないからでしょうし。
逃がしたら、別の場所で同じことが起きるかも知れません。
けど……。
少し、僕がどうしたいか考えて来ます。