アニバーサリーほしあざみ(森静流 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 一月のある日の事、あなたはA.R.O.A.本部に書類提出に行きました。
 用事は簡単にすみました。あなたは天気が良かったので、ついでにグリーンヒル公園に散歩に行こうと思いました。
 抜けるような冬の青空には雲一つ浮かんでいず、透き通った冷たい空気が清々しいのです。
 あなたは軽い足取りで道を歩き、ふと、グリーンヒル公園の隣に見慣れない店が出来ている事に気がつきました。
 水色とベージュを基調とした二階建ての店で、ガラス窓の辺りには花やグリーンがたっぷり活けられているようです。
 木製のドアにはプレートがかけられているようですが、何の店なのか分かりません。
(雑貨屋かな? それとも花屋? なんだろう……)
 あなたは横断歩道を渡って、その店の方に近づいて行きました。
(今月は精霊の誕生日なのよね。マンネリじゃない素敵なプレゼントを用意したいと思ってた。何か、面白いものがあるかも!)
 店の前に立つと、濃い茶色の木の扉のプレートには「星薊(ホシアザミ)」と書かれ、実際に白いホシアザミのドライフラワーが巻き付けられている事が分かりました。
 あなたは、思い切って扉を開けてみました。
 からんからんっとベルが軽やかな音を立てます。
 一歩、踏み込んでみると、そこは、花屋のようでもあり、雑貨屋のようでもあり、それでいて宝石店のようでもあり、なんだか土産物のようなものも沢山もあり、カタログもびっしりとあり、全く見た事のない店でした。花とハーブのよい匂いがします。
「???」
「いらっしゃい--」
 あなたが呆然と突っ立っていると、奥のカウンターの方から声がかけられました。
 銀髪に緑の目のポブルスで、黒いデニムのジャケットを着て、耳と指をシルバーアクセサリーで飾っています。一見してユニセックスの雰囲気で、上品な笑みを浮かべていますが、なんだか得体が知れません。
「あの……ここは……何のお店……でしょうか?」
「ここは……そうですね。アニバーサリーショップ……記念日屋……うーん……」
 なんと、店の主のポブルスの方が困っています。あなたはびっくりしてしまいました。
「ああ。私は、アニバーサリーコーディネーターのフェイ・オールシーと言います。皆さんの素敵な記念日を演出するのがお仕事です」
「記念日?」
「あなたや、あなたの大切な人の大事な日をお祝いしたり、演出したり……。そうですね、例えばあなたの恋人の誕生日とか」
「誕生日!?」
 ちょうどそのことで悩んでいたあなたは、驚いてフェイの顔を見つめました。フェイはにっこり笑っています。
「あなたの大切な人の誕生日を、300Jrで出来るだけ願いを叶えるコーディネートをしますよ。どこで、どんなプレゼントを贈りたいとか、どんな一日を過ごしたいとか、仰ってください。こちらで準備をして、その時間が滞りなく過ごせるようにしますから」
「なるほど……。誕生日だけ?」
「いえ、そんな事はありません。誕生日、結婚記念日、成人式、命日、その他もろもろ……あなたが記念としたい日、あなたが思い出に残したい日、忘れられない日……それら全てのプランを受け付けて、コーディネートします。あんまりにもお願いがぶっ飛んでいた場合は、出来ないとか、高額になることもありますが、基本は300Jr」
「そんなお仕事が……」
「ちょっと何屋って言えばいいのか分からないんですけどね」
 フェイは苦笑した。
「ちなみに、一月のおすすめはこちらなんですよ。一月の誕生花、水仙にシンビジウムに、福寿草。他にも誕生花は毎日あるんですけどね。こうして生花や、花をデザインにした小物や宝石……」
 フェイはあなたを水仙などの花のコーナーに連れて行きました。そしてざっと誕生花の雑学を教えてくれます。
「後は、定番の誕生石はこちら。女の子ならみんな知っているかな。一月はガーネットで石言葉は真実・友愛・忠実……。ガーネットをあしらった様々な商品がありますよ」
「なるほど……」
 あなたは柘榴のような光沢を放つ宝石に魅入ります。
「勿論、誕生石というのも366日毎日あるんです。例えば今日、1/10の誕生石は金。黄金の事です。石言葉は確実な助言と力」
「ええっ、金も誕生石になるんですか?」
「そうですよ。ちなみに銀は3/4で石言葉は若さの主張」
「へええ……」
 あなたはすっかりフェイの言葉に聞き入っています。
「後は、そうですね。1/10の誕生色は草色、誕生酒はオレンジ・ブロッサム、誕生鳥はニワトリで、誕生鮨はウニ。鮨言葉は饒舌です」
「誕生鮨なんてあるんですか!?」
「世の中には誕生日を祝う特別なあれこれはかなり取りそろっているんですよね。勿論、彼と鮨を食べに行きたいならば、300Jrで出来るだけかなえてあげます。オレンジ・ブロッサムでお祝いもOKです。ただし酒は……未成年の飲酒は駄目ですけどね」
 またしてもにっこりと完璧な営業スマイルを浮かべるフェイ。
「本当に何でもやってくれるんですか?」
「ええ、誕生日が説明しやすいので取り上げましたが、一月だったら成人式などもあるでしょう。他にも、どんな月であっても、二人で出会った日の記念とか……二人の忘れられない日の事とか……それらをコーディネートしてお届けするのが私のお仕事です。あなたの特別な日を、出来るだけ願いをかなえて、演出しますよ」
 フェイは得体が知れないのに、なんだか“やってくれそう”という安心感のある笑みをあなたに向けたのでした。

解説

アニバーサリーコーディネーターのフェイが、あなたの特別な日を300Jrで出来るだけ演出します。
※プランにはフェイを登場させても登場させなくてもOKです。
※300Jrで精霊と特別な一日を過ごしてください。あまりにも高額な買い物をした場合などは、その分、Jrを引いていきます。
※特別な一日は、誕生日から結婚式、命日まで何でもOKです。また、小さなもの、例えば「精霊から告白を受けて50日目」などでも構いません。
※星薊を利用したのは神人でも精霊でも構いません。また、プランの中に星薊の事を全く書かなくても、「どこで、どのように、何をした」などがはっきり書かれていれば受け付けます。


ゲームマスターより

ウィンクルムの皆様の誕生日や、ちょっとした記念日のお祝いにご利用ください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  おずおずとフェイさんを見上げて
あの、1月18日が彼の誕生日なんです
思い出に残るようなものをあげたいなって…

誕生石や誕生酒等の話を熱心に聞いて
あの…指輪、とか。作ってもらうことはできますか?
彼の誕生石にわたしの誕生石を添えて

待ち合わせた喫茶店で
お誕生日おめでとう
お母さんがご馳走を作って待ってるって
だからケーキは夜ね?
駄目よ あなたが生まれた大切な日なんだからちゃんとお祝いさせて
口を閉じた彼ににこりと笑って プレゼントを

男の人がしても変じゃないものにしてもらったの
それをしていたら いつも一緒にいる気持ちになれるかなって

段々声が小さく
気に入ってもらえるかなと上目遣いに
少し赤くなった彼の顔にぱっと花開く笑顔


淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)
  もうすぐイヴェさんのお誕生日なのでお祝いをしたいのです…。
プレゼントは誕生石、ガーネットの指輪を予定しています。
女性から男性に指輪というのは珍しいかもしれませんがどうしても送りたくて…その独占欲というのを最近自覚しちゃったので。
イヴェさんの指に指輪がはまってるのを想像したらなんだかしっくりきたので。
指輪は購入してあるのであとは素敵なプレゼントプランでしょうか。
お花を詰めた箱に指輪…お花はカーネーションで。氷戀華(EP26)でイヴェさんに伝わった思いは今も変わりません。

愛してます(唇にキス)
もし、もし、望めるなら今度はイヴェさんからの指輪が欲しいです。


(柘榴)
  事前にフェイさんに相談。
精霊のお誕生日祝いをしたい事、その為に何かアイデアはないか伺います。

当日は髪を結い、灰色の羽織と深緑色の着物を着ました。
料理した定食で柘榴をもてなします。
(けど、慣れない事はするものではないですね)
指に巻かれたの絆創膏がそれを物語る。

わたくしは今まで柘榴をお祝いした事がありませんでした。
ですから今回、この機会にと思いまして。

「主菜は鰹のたたき。千切りで大根、人参、胡瓜を添えました」
「小鉢はそれぞれ、肉野菜炒めと、里芋の煮物を作りました」
「お米は雑穀米を、汁物はサヨリのお吸い物」

食後、柘榴に向き直る。
少し息を吐き、お祝いを口にする。
「今日はお誕生日、おめでとうございます」


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  羽純くんと恋人としてお付き合いを始めて一年が経過しました
一年経った記念に何かできないかな…と考えていたら、星薊でフェイさんと出会いました
是非、一周年記念に特別な一日を…!

私の希望は、ずばり羽純くんを癒す一日
いつも私に元気を勇気をくれる羽純くんに特別な癒しを

羽純くんの好きな甘いデザートを沢山食べさせてあげたいので、デザートバイキングに行きたいです
可能なら、こっそり私の手作りケーキも食べて貰えたらなと

羽純くんの疲れを取る為、アロマサロンのジャグジー付個室でマッサージを
オイルは羽純くんに好みのものを選んで貰って、マッサージは私がやりたいです

最後に羽純くんに感謝の気持ちを込めて、花束をプレゼントです♪


●桜倉 歌菜(月成 羽純)編
 桜倉 歌菜が精霊の月成 羽純と恋人としておつきあいを始め、一年が経ちました。
 歌菜は一年経った記念に何か出来ないかと考えていたところ、星薊の事を知り、フェイの力を借りてお祝いする事にしました。
(是非、一周年記念に特別な一日を……! 私の希望は、ずばり羽純くんを癒す一日、いつも私に元気を勇気をくれる羽純くんに特別な癒しを)
 歌菜は、相談する時も気合いが入ってました。
 当日、羽純は歌菜にデートに誘われて素直に喜んでいます。歌菜がやけに張り切っている事に気がつきましたが、ただ可愛いので何も聞きませんでした。
 歌菜は羽純の事をタブロスでも有名なホテルのデザートバイキングに連れて行きました。感じのいいラウンジのソファに二人向かい合って座ります。最初、歌菜が荷物を見ていて羽純がバイキングコーナーに向かい、色とりどりの可愛いスイーツを取ってきました。
 羽純は思わず頬を緩ませています。
 そこですかさず歌菜が羽純の分も飲み物を持って来ました。
「羽純くん、まだまだあるからね! 次は私が持って来てあげるね!」
「ありがとう」
 気の利く歌菜の言葉に羽純は笑顔。
 そして彼女が取りに行っている間にも、数々のスイーツに舌鼓を打ちます。正に至福の時間です。
 うっとりしながら三個目のケーキを食べていると、歌菜が新しいケーキの皿を持って来ました。いくつかあるケーキのうち、羽純は丸いころんとしたラズベリーケーキを手に取りました。ラズベリーのレアチーズケーキは綺麗な赤で、ちょうど二人のトランスの茜色のようなのです。それで羽純は目に止めたのでした。
「……ん? このケーキ」
 一口食べてみると、何だか知っている味がします。
 歌菜はやたらに嬉しそうに羽純を見ています。
「美味しい?」
「とても美味い」
 そう答えると歌菜はますます嬉しそうな顔。
(……もしかして、歌菜が作ったケーキか?)
 ケーキを取りに行った時に、こっそり自分の手作りケーキも混ぜて持って来てしまったようです。ホテルに悪戯して、と思いますが、羽純もさすがに叱る事は出来ませんでした。可愛い歌菜。
 それから歌菜は、羽純の疲れを取るために、アロマサロンに連れて行きました。フェイが予約を取っていてくれたために、案内にすぐにジャグジー付き個室に連れて行かれます。
 なんだかびっくりしている羽純。
「羽純くん、マッサージは私がするから、オイルを好きなの選んでちょうだい」
「……歌菜が?」
 さらに驚く羽純。
「私がやりたいの」
 疲れている羽純を癒やしてあげたくて、歌菜は真剣な面持ちです。
 その顔に負けてしまって、羽純は疑問は置いておいて、オイルを選ぶ事にしました。
 何だか少し照れくさいです。
 羽純が選んだオイルは柑橘系のオレンジ・スイートでした。
 羽純に服を脱いで台の上に寝てもらって、歌菜はオイルを作って彼の背中の全面に塗りつけます。そして、一生懸命、丁寧にマッサージ。
「気持ちいい……」
 羽純はつい、そう呟いてしまいました。歌菜のマッサージが初心者なりに上手だった事もありますが、何よりも歌菜の掌全体に触れられているという感覚が、羽純に安心感をもたらしたのです。
 アロマサロンでは、マッサージの後にハーブティーを出してくれました。羽純と歌菜はそこで一休み。そこで、歌菜が立ち上がりました。
「羽純くん、これ--」
 フェイがサロンのカウンタに花束を届けてくれています。歌菜はそれを持って来て、感謝をこめて羽純の前に差し出しました。
 羽純は不思議そうながらも受け取ります。
 花束にはメッセージカードが添えられていました。
『祝・一周年。これからもよろしくね』
 歌菜の字でそう書いてあります。
「そういう事か」
 羽純は納得し、心がとても温かくなりました。
「二周年は、俺が祝うからな」
 羽純は微笑みながらそう言って、歌菜の額にキスをしました。
 とても幸せなウィンクルム。三周年目、四周年目--きっとその数は、永遠に続くまで増えていく事でしょう。
  
●淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)編

 1月30日は精霊のイヴェリア・ルーツの誕生日です。淡島 咲は、彼のためにお祝いをしたくて星薊を訪れ、フェイの協力を得る事が出来ました。

 フェイに力を貸してもらって、イヴェリアの誕生日当日、咲は彼の部屋に訪れました。「咲、どうしたんだ」
 少しは期待しながらもイヴェリアはそう尋ねます。部屋の真ん中に咲を案内した後に。
「ハッピーバースデー、イヴェさん」
 そう言って、咲はリボンで飾られた白い箱を差し出しました。
「誕生日……。ああ、ありがとう」
 イヴェリアは箱を受け取り、リボンを解いて中を見ます。
 白い箱の中にはぎっしりと赤いカーネーションが詰められていました。
「あのときと、想いは何も変わっていません」
 咲が緊張した声でそう告げます。
 このカーネーション全てが咲の想いだというのです。
 過去に、氷戀華で伝わった彼女の想い、そのままだと。
 きらきらと輝く氷の華の幻影が、二人の目の前に浮かびます。
 カーネーションの花言葉は、『純粋な愛情』『熱愛』……。
 他にもその華の花言葉は、『魅力』『感動』『女性の愛』『無垢で深い愛』……。
 それらの想いが、過去の記憶とともに、咲からイヴェリアへ伝えられていきます。

「愛してます」

 咲はそう告げて、イヴェリアの唇にそっとキスをしました。
 その柔らかな唇の感触に、イヴェリアは固まってしまいます。嬉しすぎて言葉が出ないのです。

 咲は、カーネーションの箱の中から星薊で作ってもらったガーネットの指輪を取り出し、そっとイヴェリアの指に嵌めます。
「女性から男性に指輪というのは珍しいかもしれませんがどうしても送りたくて……その独占欲というのを最近自覚しちゃったので」
 咲は恥ずかしそうにそう言いました。
「イヴェさんの指に指輪がはまってるのを想像したらなんだかしっくりきたので……」
 黒髪に黒いナイトガルドコートのイヴェリアには赤い指輪はアクセントとしてよく似合いました。
「独占欲? いっぱい俺を思ってくれるなら。嬉しいくらいだ」
 イヴェリアは笑いました。
 誕生石のガーネットも、カーネーションと同じ赤で、それが特別に思えます。氷戀華のカーネーションは、咲だけではなくイヴェリアの思い出でもあったのです。

「俺の誕生日……か。サクの祝ってくれる俺の誕生日も悪くないと思ってる。だが、サクの誕生日はもちろん大事だ。サク、何か俺にして欲しい事はあるか」
 それを聞いて、咲ははっと息を飲みます。
 それから酷く真剣な顔をして言いました。
「もし、もし、望めるなら今度はイヴェさんからの指輪が欲しいです」
 咲からガーネットの指輪を贈った後に、イヴェリアからの指輪。
 それは想いに答える確かな儀式なのでしょう。
「サクからのお願い、引き受けた……」
 イヴェリアは深く頷きました。
「サクに贈る指輪はきっと特別なものになる。サクの誕生石はダイヤモンド。大事な想いを込めて贈ろう」
 ダイヤモンドは非常に高額です。けれど、イヴェリアは何の躊躇いもなくそう言い切りました。
 嬉しさに顔を花のようにほころばせ、咲はイヴェリアの胸に抱きつきました。イヴェリアはその背中に腕を回し、彼女の柔らかな黒髪をなでつけるのでした。
 大切な、大切な咲。
 そして咲に取ってイヴェリアは何にも変えられない大事なひと--。
 ガーネットの石言葉は『真実』『友愛』『忠実』……。
 しかしまだあります。
『秘めた情熱』

『真実の愛』

 ガーネットの輝きがイヴェリアと咲を守ります。いつまでも、いつまでも。彼らは真実の愛を育むウィンクルムなのだから。

●リチェルカーレ(シリウス)編

 リチェルカーレは星薊でおずおずとフェイを見上げました。
「あの、1月18日が彼の誕生日なんです。思い出に残るようなものをあげたいなって……」
 そうしてリチェルカーレは精霊のシリウスのために特別な誕生日を演出する事になりました。

 1月18日の誕生日当日は、喫茶店で待ち合わせです。
 二人はほぼ同時刻に店について同じテーブルに着席しました。
「お誕生日おめでとう」
 リチェルカーレが笑ってそう言うと、シリウスは目を瞬きます。
「そう言えば誕生日だった」
 困ったような面映ゆいような複雑な笑みを浮かべる彼でした。
「……ありがとう」
 それでもちゃんとお礼を言うシリウスでした。
「お母さんがご馳走を作って待ってるって。だからケーキは夜ね?」
「……リチェ、そこまでしてもらわなくても。ひとつ年齢が増える。ただそれだけだ」
「駄目よ。あなたが生まれた大切な日なんだから、ちゃんとお祝いさせて」
 きっぱりと言うリチェルカーレに、シリウスは口を閉じました。
 そこでリチェルカーレはにこりと笑うと、プレゼントの小箱を渡します。

 シリウスは一瞬、躊躇いました。ですが、リチェルカーレに断って小箱を開けました。
 彼女のプレゼントは、ガーネットとブルージルコンの小粒を寄り添わせた指輪でした。
 ガーネットは一月の誕生石。柘榴のような、生命力に溢れる血のような、暗い赤の色で妖しく輝きます。その隣で、ブルージルコンは透き通った優しいブルーで、ダイヤモンドのような輝かしさを見せるのでした。
 それは本当に、シリウスとリチェルカーレの姿のよう。

 シリウスは驚いて声が出ません。
(彼女も、彼女の家族も優しくて。遠い日になくした居場所が戻ってきたようで、嬉しく思うのと同時に怖くなる。ここまで自分は弱かっただろうか)
 冷静さを保とうとするシリウスでした。
「男の人がしても変じゃないものにしてもらったの。それをしていたらいつも一緒にいる気持ちになれるかなって」
 よく見ると、渡された指輪は、自分が彼女に贈った青と碧の指輪のデザインによく似ていました。ですが台などの部分はいぶし銀でいくらかいかつい作りにされており、ガーネットの渋い色も相まって、男性的になっています。
 シリウスは珍しくぽかんとした顔でそれを聞いていました。
 そして、「いつも一緒に」と添えられた言葉にかっと頬が熱くなります。
 喫茶店の中でリチェルカーレの声はだんだん小さくなっていきます。
「気に入ってもらえるかな」
 つい上目遣いになりながらそう聞きました。
「……見るな」
 シリウスは目をそらしました。
 その少し赤くなった彼の様子にリチェルカーレはぱっと花開く笑顔を見せます。
「ありがとう」
 小さな声でシリウスが言いました。
『--約束をちょうだい』
『約束する』
 その言葉がかえってきたのは聖夜で誕生日の12月25日。
 リチェルカーレに差し出された彼女の瞳を表す青と碧の指輪。
 そしてリチェルカーレが彼の誕生日にかえしたのはガーネットとブルージルコンの指輪。

 ブルージルコンの石言葉は『幻覚・夢みる想い』

 いつも一緒にいる。
 彼を傍で抱き締める。何度でも、何度でも、彼の望む限り。
 そしてシリウスはそんな彼女の事を、真実の愛で忠実に守り続け、勝利に導く事でしょう。ガーネットの数ある石言葉のように。
 そのシリウスにリチェルカーレは想いを返し、彼を苛む悪意の幻覚を浄化して、彼の世界に夢を与えて行くのです。彼が美しい夢を見られる日へと導いていくのでしょう……。

●華(柘榴)編

 華は精霊の柘榴の誕生日を祝いたいと思いました。
 そのため、星薊のフェイに相談をしました。

 彼の誕生日である1月19日当日、華は髪を結い、灰色の羽織と深緑色の着物を着ました。
 そうして自宅で料理した定食で柘榴の事をもてなす事にします。
(けど、慣れない事はするものではないですね)
 指に巻かれた絆創膏がそれを物語ります。
 華は、日頃、あまり料理はしないのかもしれません。

「鳳はん、べっぴんでっせ」
 華の前に現れた柘榴は開口一番、そう言いました。
「女将みたいに迎えてくれるさかい、あっし、心が洗われましたわぁ。何て言うてますけど、要は嬉しいんですよ!」
 客間に招かれ、料理を前にして気さくに言う柘榴。
 華が勧めると、お膳の前で手を合わせました。
「ご馳走になります」
 それから柘榴は目を上げました。
「けれども、なんでこないな、お祝いを?」
「わたくしは今まで柘榴をお祝いした事がありませんでした。ですから今回、この機会にと思いまして」
 生真面目に堅苦しく答える華でした。
「そうでっか! いや~、今宵は鳳はんのパートナーになって最高のサプライズですわ!」
 後ろ頭をかいて大喜びする柘榴でした。

「主菜は鰹のたたき。千切りで大根、人参、胡瓜を添えました」
「小鉢はそれぞれ、肉野菜炒めと、里芋の煮物を作りました」
「お米は雑穀米を、汁物はサヨリのお吸い物」
 次々と説明をする華です。

「これ、全部鳳はんが作ったんでっか!?」
 その都度、感嘆の声を上げる柘榴です。
「頂きまひょか」
 一口食べてみると、なかなか深い味わいがありました。

「手、どないしたんでっか?」
 食べながら、柘榴は華の指先の絆創膏に気がつきました。
「これは……。料理をしていて、切ってしまって」
 柘榴は食べるのをやめてじっと絆創膏を見ています。
「あまり見ないでください」
 華は手を隠そうとしました。柘榴はその手を取って指先にくちづけました。
「あっしの為に怪我したのかと思うと、労らずにはいられまへんさかい。おおきに、ええ一時(ひととき)過ごせましたわ」
 闊達に笑う柘榴です。
 食後、華は柘榴に向き直りました。
 少し、息を吐いて、お祝いを口にします。
「今日はお誕生日、おめでとうございます」
 折り目正しく頭を下げる華に、柘榴はほほえみかけました。
 思い出します。そういえば、彼女の誕生日には林檎飴を買った事。
 あのとき、赤い指輪の謎の力だったのか、何か--

「この前は、わたくしの話を聞いてくれてありがとうございます!」
「今日を祝ってくれたことも、とてもうれしかった……」
「……気が付けば、わたくし――」
「柘榴……」

「好きです……大好きです!」

 これらの言葉は全て覚えています。いつも、忘れる事はありません。
 柘榴はほろ酔い気味ながら、そのときは機転を利かせて冗談ですませましたが、ちゃんと覚えているし、彼女の事は心に留めているのです。
 あれは碑文の力に浮かされただけだったのか、本心からの言葉だったのか--。
 そして微かに眉根を寄せます。
 ギルティの手に落ちた彼女に降りかかった悲惨な運命。
 それにより、現在も心の傷を治療を続けている彼女。絶対に許さないと復讐を誓った瞳。
 それらを、自分に打ち明けてくれた事。
 それでも、依頼以外でも逢いたいと願った自分。
 今、こうして、自分の誕生日を祝ってくれた彼女は、何か心境の変化があったのでしょうか--
「せやから鳳はん、もう1つ聞いてくれまっか?」
 華はぎこちなく顔を上げて柘榴を見上げます。
「何を?」
「家迄ご同行して下せぇ」

 この日、華は初めて彼の自宅へ行きました。
 依頼以外の日に、彼の誕生日に、自宅で彼と会い、その後、彼の家へと行きました。
 これが、依頼だけで会い続ける華の心の、何かのターニングポイントになるのかもしれません。
 柘榴は華を受け止める事が出来るでしょうか。
 そうして、華は、柘榴に傷つけられる事があっても、彼を信じる事が出来るでしょうか--。
 いえ、きっと。
 互いを補い合うウィンクルムとして、二人、成長していける事でしょう。

 



依頼結果:大成功
MVP
名前:淡島 咲
呼び名:サク
  名前:イヴェリア・ルーツ
呼び名:イヴェさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 森静流
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月08日
出発日 01月19日 00:00
予定納品日 01月29日

参加者

会議室

  • [4]リチェルカーレ

    2017/01/18-20:45 

  • [3]華

    2017/01/18-07:17 

    神人の華と、精霊の柘榴です。
    よろしくお願いします。

    これまで記念日というのを、柘榴にした事がありませんでした。
    なので、この機会にしてみようと思います。

    良い記念日にしましょう。

  • [2]淡島 咲

    2017/01/17-19:07 

  • [1]桜倉 歌菜

    2017/01/17-00:47 


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