ウィンクルム新春かるた大会(森静流 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 あなたは何畳もある広い畳の和室に、正月の晴れ着で精霊とともに向かい合っています。
 緊張しながらカードを見ているあなたと精霊。
 やがて、A.R.O.A.の係のファータ、エリアル・オールダムが朗々とした声で読み上げを始めました。

……君がため 春の野に出でて 若菜つむ わが衣手に 雪は降りつつ

「--はいっ!」
「はいっ!」
 あなたと精霊はほぼ同時に百人一首の札を叩きます。
 しかし、あなたの手よりも精霊の方が三秒ほど早く札を叩いてかすめ取り、あなたの負け。
「やったぜ!」
 勝ち誇る精霊。
「何よ……次は負けないわよ!」
 あなたはきっと精霊を睨みます。
 そう、今日は、A.R.O.A.のウィンクルム交流推進ナンタラカンタラの職員であるエリアルのたっての願いで、あなたはこの新春カルタ大会に参加したのでした。

 エリアルは金髪碧眼で品の良い穏やかそうなファータです。A.R.O.A.の本部勤めになったのは三ヶ月前から。元は、ファータだけの住む田舎で育ったそうで、真面目に学校を出てオーガから世界を守るためにA.R.O.A.にストレートで就職したのです。田舎の支部でそれなりに業績を上げたために本部に引き立てられたのですが、任されたのが、タブロスのウィンクルム達の団結を高めるために、各自の交流を推進し、愛とともに友情や仲間意識も育てろという係--ならしいのでした。他にも色々あったようですが、あなたはざっくばらんにそう捉えています。
 社交的なポブルスだったら難なくこなせたかもしれませんが、エリアルは生粋のファータで大人しく、世間からズレているところがあるため最初のうちは失敗ばかり。なかなか苦労しているようです。毎日毎日、タブロスの流行や情報をチェックしたり、職場のレクリエーションやコンパの本を読んだり、慣れないなりに頑張っているのがわかります。
「私もA.R.O.A.の職員として、ウィンクルムの皆様の仲間として、縁の下の力持ちとして頑張っていきたいのです。少しでも、楽しんでいただけるなら--」
 生真面目な表情で蒼い目に純粋な意志をともしてエリアルはそう言ったのでした。それにほだされたあなたは、正月早々、任務でもないのにA.R.O.A.に来て、精霊と一緒にかるた取りをしているところです。

(えーっと、若菜摘む……の意味は、確か、”君に送ろうと思って春の七草の若菜を摘んでいたら、袖に雪が降ってきたよ”って意味の歌よね。お正月らしい歌だわ。恋人へのプレゼントなのよね~……)
 あなたは、かるたはそんなに詳しくないのですが、参加すると言ったらエリアルが懇切丁寧に色々教えてくれたのでした。
 続いてエリアルが読みます。

……君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな  
(君に逢えるなら死んでも惜しくないと思っていた。でも、君に逢えた今、いつまでも長くともにありたいと思うようになったよ)

 あなたは目を皿のようにして畳のかるたを睨みます。
「はいっ!」
 端っこにあった札を勢いよくたたき上げ、奪い取るあなた。
 びっくり仰天する精霊。手が空中で止まっています。
(ふんだ。エリアルに教わって、気に入っている歌なんだもんね。絶対に取らせてあげない!)
 そういう訳で、次々とかるた大会の歌が読まれていきます。

……あふことの 絶えてしなくば なかなかに 人をも身をも うらみざらまし
(彼女との恋愛がなかったら、彼女の非情さや、自分の辛さを恨んだりする事もないのに…)
……今はただ 思い絶えなむ とばかりを 人づてならで いふよしもがな
(「もう君の事は諦めるよ」と君に会って言いたい。人づてでなくて君に会って言う方法があればなぁ)
……あひ見ての 後の心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり
(君と会った後の僕の心はもう切なくて苦しくて仕方がない。会う前もときめいていたけど、今(会った後)の気持ちとは比べられないよ)
……しのぶれど 色に出にけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで
(彼女が好きだなんて誰にも言ってないのに、顔に出ていたようだ。他人に「好きな人できたんだろ?」なんて聞かれてしまったよ)

 どういう訳か恋の歌ばかりが重なって、どぎまぎしつつもかるたを奪い合う精霊とあなた。なんだか妙に気まずい……。百人一首には季節の歌とか他にも素敵な歌がたくさんあるんですけどね。
 そのとき。

……かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを
(君のことがこんなにも好きなのに言えないでいる。言えないから君は僕の気持ちを知らないだろう。さしも草のように燃えるこの想いを)

「----はいっ!!」
 物凄い勢いで精霊がかるたに飛びかかって、あなたのすぐ斜め前にあった札を思い切り叩いて奪い取りました。
 そのすごさに、あなたは目が点。
「ど、どうしたの……?」
 自分が取るのも忘れて思わず尋ねてしまうあなた。
 すると精霊はぷいっと横を向いて何も応えませんでした。
「? なによ」
「どうでもいいだろ!」
 何か怒っています。どうしたんでしょうね。
 あなたは疑問に思いますが、エリアルは気づかずにかるたの歌を読み上げ。

……忘れじの 行く末までは かたければ 今日をかぎりの 命ともがな
(「いつまでも、忘れない」という貴方の言葉が永遠に変わらない事があろうか。いっそこの幸せを胸に、今日を限りの命としたい(死んでしまいたい))

「はいっ!」
「はいっ!」
 再び、ほぼ同時に、あなたと精霊は一つの札に飛びかかります。一瞬の差で、あなたが札を奪い取りました。
「ほほほほ。お気に入りの歌は渡さないわよ~」
「畜生、俺だって……」
 そこでエリアルの声がやみました。

「これから休憩時間に入ります。交流に時間を使ってください。歌は適宜よんでいきますが、ウィンクルムの皆様達は、お好きな方同士でかるたゲームを続けたり、各自他の方に邪魔にならない声でお話をしたりしてください。向こうに緑茶や甘酒、和菓子などを用意してあります。お好きなようにご利用ください」
 ウィンクルム同士の交流タイムのようです。あなたが部屋を見回すと、本部で何度か顔を合わせたウィンクルムが結構いました。さあ、どうしようかな。一緒にかるたをしてみようか、それとも精霊としばらく遊ぼうか……。

ちなみに百人一首にはこんな歌も入っています。
……あらざらむ この世のほかの 思ひ出に 今ひとたびの あふこともがな  
(私の命はもう、長くはない。あの世に行っての思い出に、もう一度だけあなたに逢いたい)
……明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほうらめしき 朝ぼらけかな
(夜が明ければ、また日が暮れてあなたに逢えるだろう。でもやっぱり夜が明けて(別れる)なんて恨めしい!)
……筑波嶺の みねより落つる みなの川  恋ぞつもりて 淵となりぬる
(峰から落ちて川となるように、人知れず想い続ける私の恋心も積もり積もって、今では深い淵となってしまいました)



あなたと精霊はどんな札を取るでしょう?

解説

 ウィンクルムで新春かるた大会です。
※競技かるたではありません。エリアルが適当に百人一首の歌をよみあげ、その札を互いに取り合っているだけです。一応、お手つきはルール違反になりますが、あまり細かい規程はありません。最後に、取った札を数えて勝ち負けは決まりますが、あくまで遊びの範疇です。遊びを通じての神人と精霊同士は勿論、各ウィンクルム同士の交流が目的です。
※参加費・お茶代として300Jrいただきます。本部の方から上等の緑茶や甘酒、それに上生菓子が届けられています。

※個別エピソードも受け付けます。かるた大会で、神人と精霊の間でこんなやりとりをしたという事をプランに書いてください。
※ウィンクルム同士の交流をする場合は、「交」の一字をトップに書いてください。そして相手方(略称でも構いません)とこんな話をした、こんな札を取った、などどんな交流があったかを書いてください。
※交流はかるた取りでも構いませんし、札を見ながらちょっとした会話をしたなどのプランでも構いません。互いの晴れ着を褒め合うなど、自由な会話でもOKです。
※かるた大会ですので、晴れ着などのおめかしも多いかと思われますが、かるたを取るのに動きやすい普段着でも構いません。「こんな衣装で」などの希望がありましたらプランに書いてください。
※かるた取りの勝敗に関しましては、プランに書いていただければ明記しますが、こちらの方では決着はつけません。交流相手同士で「どっちも勝ち」になっていた場合などは、こちらでダイスを振って決定します。
※場所はタブロスの本部ですが、勿論地方の支部でもかるた大会は開催されます。その場合はエリアルが出張します。

ゲームマスターより

新春らしいゲームで交流というエピソードです。百人一首には素敵な歌がたくさんありますね。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

 

着物に袴
着物は薄花色の地に白の花丸紋
紺色の袴
髪は軽くまとめ 桜の髪飾り

素敵な歌が多いのね
教えてもらえてよかった
満面の笑顔
いつもと違う彼の姿に頬を赤らめ 誤魔化すように
シリウスだって楽しかったでしょう?
…涼しい顔で取っていくんだもの ずるい

見知った顔に気づき笑顔に
あけましておめでとうございます
わぁ ふたりともとっても素敵!
赤い花を束ねたみたい お揃いな感じで仲良しですね
ふふ と笑う
折角ですもの かるた取りをしませんか?

好きな歌
君がため(優しい歌ね)
ちはやふる(色鮮やかで綺麗)
しのぶれど(…ちょっとわかる そんな気持ち)

取れたら手を叩いて喜んで
取られたら 取られちゃったとしょんぼり
勝っても負けても 楽しかったと笑顔


アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
 

衣装
着物+袴
着物はピンクっぽい白地に赤い亀甲柄
袴の色は紅の八塩
ワンポイントで袴の斜め下の方に白い花をいくつか散らす
髪は下ろす

わぁ、リチェさん着物も髪飾りも可愛らしくて羨ましいくらいです
シリウスさんも似合ってますよ

因みにこの模様にしたのは少し意味がありまして
私が盲亀の浮木で(亀甲

これからも一緒にやっていけるように、という願いを込めてるんです


取りたい
かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしもしらじな 燃ゆる思ひを

長からむ 心も知らず 黒髪の 乱れて今朝は 物をこそ思へ

筑波嶺の みねより落つる みなの川 恋ぞつもりて 淵となりぬる


取れたら
つい、この札の言葉に共感してしまいました…

取れなかったら
ちょっと悔しいけど仕方ない



 今日はA.R.O.A.本部の和室で新春かるた大会です。
アラノアは精霊のガルヴァン・ヴァールンガルドとともに、着物と袴に着替える事にしました。
 アラノアの着物はピンクっぽい白い地に赤い亀甲柄、袴の色は紅の八塩です。ワンポイントで袴の斜め下の方に白い花をいくつか散らしました。
 髪の毛は長く下ろしています。
 ガルヴァンの方も、羽織袴です。
 羽織は黒地に金糸で花の刺繍をしています。花は黄色いコウホネです。花言葉は、崇高、秘められた愛、危険な恋。着物は艶のある暗い赤色--赤銅色です。袴は黒でした。
 待ち合わせに現れたアラノアはガルヴァンの衣装にはっとして、その後、自分の格好に気後れしたのかうつむいてしまいました。
「着る物一つで気分も変わる。和装もたまにはいいだろう……俺が優曇華の花、だな」
 芭蕉の花も優曇華と言う別称を持ちます。ですが、優曇華は本来、三千年に一度だけ花開く想像上の植物ですから、気に入った花を当てても構わないでしょう。
 その頃、リチェルカーレと精霊のシリウスも着物に着替えていました。
 リチェルカーレは薄花色の地に白の花丸紋の着物をまとい、紺色の袴を穿きました。髪は軽くまとめて、桜の髪飾りをつけます。
 シリウスの方は、シンプルな黒の袴姿です。
 リチェルカーレは前日までに係員のエリアルに百人一首の説明を受けていました。
「素敵な歌が多いのね。教えてもらえてよかった」
 リチェルカーレは満面の笑みで上機嫌です。
 シリウスは春色の着物で笑うリチェルカーレに表情を緩めています。
「……向こうもやった甲斐があるんじゃないか?」
 リチェルカーレはいつもと違う彼の姿に頬を赤らめて、誤魔化すように言います。
「シリウスだって楽しかったでしょう? ……涼しい顔で取っていくんだもの。ずるい」
「……俺は暗記ものは得意だから」
 シリウスは暗記のスキルが高いのです。
 リチェルカーレが膨れて横を向くのにシリウスは苦笑します。
「手加減したら怒る癖に……」
 そんなこんなで、四人はA.R.O.A.の和室で鉢合わせになりました。
 そこでリチェルカーレは見知った顔に気がついて笑顔になりました。
「あけましておめでとうございます。わぁ ふたりともとっても素敵! 赤い花を束ねたみたい お揃いな感じで仲良しですね」
 シリウスも人の気配に気がついてそちらに視線を向けます。
 弾むリチェルカーレの声に合わせて軽く会釈をしています。
 見止められたアラノアとガルヴァンはあけましておめでとうございます、と二人にお辞儀をしました。
「わぁ、リチェさん着物も髪飾りも可愛らしくて羨ましいくらいです。シリウスさんも似合ってますよ」
 アラノアは着飾ったリチェルカーレに対して華やかな声を上げます。
「因みにこの模様にしたのは少し意味がありまして。私が盲亀の浮木で……これからも一緒にやっていけるように、という願いを込めてるんです」
 シリウスはいつもと違う雰囲気の二人に、軽く目を瞬いていましたが、インスパイアスペルのイメージと聞いて、なるほどと頷きました。
 華やかな雰囲気のガルヴァンならば、金の花の柄も似合うと客観的に考えます。
「ふふ」
 リチェルカーレは仲の良い二人に微笑みます。
「せっかくですもの、かるた取りをしませんか?」
 彼女の誘いに、アラノア達は二つ返事で答えました。
 四人は和室の中央に移動して、エリアルに札を読んでもらいながら、かるた取りを始めました。


 エリアルが四人に向かって札を読み上げます。
 適当に順番に読んでいって……
「かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを」
(君のことがこんなにも好きなのに言えないでいる。言えないから君は僕の気持ちを知らないだろう。さしも草のように燃えるこの想いを)
 かくとだに……と聞いた時、シリウスがわずかに目を見開きました。軽く笑います。彼は、暗記物は得意なのですが、こめられた想いを読み取るのは苦手なのでした。ですが、この歌だけはちょっと気に入っていたようです。
「はいっ!」
「はっ!」
 アラノアとガルヴァンがほぼ同時に、札に飛びかかるようにして身を乗り出しました。
 手を伸ばしかけていたリチェルカーレが、びっくりしてその手を止めてしまうほどです。
 スパーン! と音がして、札が一瞬、宙を舞って、取ったのはアラノアの方でした。
「……む」
 ガルヴァンは畳に手をついたまま、硬直しています。
(凄い……戦いみたいだった。そんなにこの歌が気に入っていたのね)
 リチェルカーレは目をまんまるにしてそう思いました。
「……」
 シリウスはガルヴァンの様子を見ています。
 彼の目には、真剣なアラノアの表情を見た途端、怯んだ様子で、わずかだけ手が遅れたガルヴァンが見えていたのでした。
 真剣なアラノアにはかなわないという事なのでしょうか。
「ついこの歌に共感してしまって……」
 アラノアは控えめながらも嬉しそうな様子です。
 それを見て、ガルヴァンは落ち着いた調子で元の席に戻りました。
(こんなにも思っているのに、あなたは知らない……)
 このウィンクルムは、互いにそう思っているのでしょうか。
 次々に歌が読み上げられていきます。
「君がため 惜しからざりし 命さへ ながくもがなと 思ひけるかな」
(君に逢えるなら死んでも惜しくないと思っていた。でも、君に逢えた今、いつまでも長くともにありたいと思うようになったよ)
 エリアルが読み終わらないうちにリチェルカーレが動きます。
「はいっ!」
 自分の斜め前にあった札を素早い動きでスパーン! と取ってしまうリチェルカーレ。
 他の三人は、動きについていけませんでした。
「優しい歌ね。好きなの」
 リチェルカーレは手を叩いて喜んでいます。
 シリウスはそんな彼女を目を細めて見ています。
(君に逢えた今は、いつまでも……)
 歌の意味を読み取るのが苦手なシリウスですが、この歌も少し心に残っている様子。そしてその札を取って無邪気に喜んでいるリチェルカーレの笑顔を、いつまでも見ていたい様子です。
 シリウスはぬぐえない過去の記憶を持っています。
 未契約の精霊を狙ったオーガに生まれ育った環境を破壊された過去です。
 その悪夢にシリウスは苛まれ、夜に安らいで眠る事すら許されず、掌をボロボロにしていた過去--。
 その重たい想いをデミ・サトリに見抜かれて、抉られた事すらあるのです。
 その都度、その都度。
 暗く重い感情を揺るがすほどの光を投げかけたのは、彼の契約の神人、リチェルカーレでした。
(無邪気で、無防備で、危なっかしくて……)
 今だって、開けっぴろげな感情を見せて、くるくる変わる表情を見せて。
 自分を重い殻の中に隠しておきたいシリウスには時折、理解出来なくなることもあります。
 けれど、彼女のそばにいる間は、彼は重い過去から解放される気分を味わう事が出来るのでした。
 彼女に出会う前は、自分の命に価値を認められず、過去に引きずられ、現実であっても悪夢をさまよう心地で生きて来ました。
 それが、今は。
 彼女の笑顔に癒やされ、彼女の放つ光に救われている想いなのです。
(お前とともに、……いつまでもともにありたい……)
 その歌の札を取って胸に抱いているリチェルカーレを見て、シリウスはごく自然とそんな想いに駆られました。そして、そういう自分も悪くないと思ったのでした。
「次は負けない」
 アラノアは気合いが入ってきたようです。
 それからもエリアルは札を読み続け、四人の取り合いが続きます。ですが、シリウスはそれほど興味がないのか、半ば観戦しているような調子でした。
「しのぶれど 色に出にけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで」
(彼女が好きだなんて誰にも言ってないのに、顔に出ていたようだ。他人に「好きな人できたんだろ?」なんて聞かれてしまったよ)
「はいっ!」
「はいっ!」
 ガルヴァンとリチェルカーレが身を乗り出します。
 ぶつかるんじゃないかと思って慌てるアラノア。シリウスも半分、腰が浮きます。
 ですが、寸前のところで札を叩いて取ってしまったのはガルヴァンでした。
 そのまま札を持って自分の席に移動。
「取られちゃった……」
 しょんぼりするリチェルカーレ。
 シリウスは一瞬、むっとします。
(アラノアには譲るのに、リチェには……)
 そんな考えが過ぎったのですが、すぐに彼は気がつきました。
(神人のアラノアに好意があるのだろう……。そういう意味でリチェに譲られたら、リチェに気を持っている事になる。ならば、これでいいんだ)
 シリウスはそういう訳で、傷心のリチェルカーレを慰めました。
「大丈夫だ。落ち着いて札を見れば、次は取れる」
「そうね。頑張るわ!」
 シリウスの言葉に、リチェルカーレはすぐに笑顔を見せます。
 ガルヴァンの方は、本気になってしまった自分が照れくさいのか、いつにもましての仏頂面。アラノアが気を遣う視線を投げています。
(……実際に、そうだからな)
 最近、職場ででも何か言われたのでしょうか?
 また次々に札が読み上げられます。
「住の江の 岸に寄る波 よるさへや 夢のかよひ路 人目よくらむ」
(岸に寄せる「寄る」という意味ではないけれど、夜でさえ、夢の通い路でさえ、あなたは人目を避けて出て来てくれないのでしょうか(夢でいいから逢いたいのに))
「……はいっ」
 ガルヴァンは素早く札を叩いて取りました。
 アラノアもリチェルカーレも出遅れたために、何の問題もなく取る事が出来ました。
 夢でもいいから逢いたいのに、なかなか願望通りには行かない……。ガルヴァン自身もそういうもどかしい想いを抱えているのかもしれませんね。
 また、ガルヴァンは美しい情景が詠まれた歌によく反応し、それを中心に札を取っているようです。
…… 田子の浦に うち出でてみれば 白妙の 富士の高嶺(たかね)に雪は降りつつ
…… かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける
 こうした札はガルヴァンの手に渡りました。
 取った後は、情景を思い浮かべて満足しているようです。
(ガルヴァンさんは綺麗な風景が好きなのかな。私、ガルヴァンさんと綺麗な景色を見に行った事があったかなあ……)
 アラノアはそんなことが気になりました。
 その時、思い出したのは、蕗の傘を差しながら小径を歩いた時の事でした。咲き誇る濡れた紫陽花を見つめながら、ガルヴァンが仕事の時の顔で、ジュエリーデザインの事を語っていました。
 牧歌的な蕗の傘、綺麗に咲いている紫陽花、見た事のないきらびやかな宝石--。アラノアの中ではそれはとても美しい情景の記憶です。
 そして最後には、大空に虹がかかっていたのでした。二人で虹を見上げた記憶。
 もしも、アラノアに歌が詠めるのだったら、今からでもその光景を歌に詠んで、ガルヴァンの心に残したいと思います。実際にはそんなことは出来ないのだけれど。
 そしてやはり、ガルヴァンは綺麗なものや綺麗な情景に惹かれる貴族的なセンスがあるのかもしれないと思いました。
(それに比べて、私は……)
 自己評価の低いアラノアは、不安を心に抱えてしまいます。それだから、かくとだに……そういう歌に思い入れを持ってしまうのでしょう。……その札は、ガルヴァンも欲しがっていたのですがね。
 ですが、アラノアも、ガルヴァンから綺麗なものを受け取った事はあるのです。
 星の願い事の小川の出来事。
 ガルヴァンが、自分の力で何度も何度も挑戦して、射的で取った赤い蝶の髪飾り……。
 大人の彼が、たかがゲームでそこまで意地になってしまうことなど、そうはないのです。自分で見て、綺麗だと思った、似合うと思ったものをアラノアに贈ろうという気持ちは、彼だって強く持っているのです。
 だから、しのぶれど……。彼の気持ちは色々なところから漏れ出ているのだけれど、肝心のアラノアが自己評価が低くて、気がついていないのかもしれません。 
 美しい情景を取るガルヴァン。
 それに対して、女性陣は恋の歌が気になるのでしょうか。
 それでも……
「千早ぶる 神代もきかず 龍田川 からくれなゐに 水くくるとは」
(不思議な事ばかり起こっていた神代にも聞いた事がない。川が(一面に紅葉が浮かんで)真っ赤な唐紅に水を絞り染めにしているとは)
「はいっ……!」
 この歌で素早く動いたのはリチェルカーレでした。
 アラノアの陣地にあった札を、一発でスパーンと取ってしまいます。
「とても色鮮やかで綺麗な歌! 素敵!」
 やはり手を叩いて喜んでいるリチェルカーレ。
 アラノアはびっくりした様子でした。
「大丈夫、次がある」
 ガルヴァンに声をかけられて、きゅっと拳を握りしめて小さく頷きます。
 エリアルが札を読んでいきます。
「筑波嶺の みねより落つる みなの川 恋ぞつもりて 淵となりぬる」
(峰から落ちて川となるように、人知れず想い続ける私の恋心も積もり積もって、今では深い淵となってしまいました)
「はいっ!」
「……はいっ」
「はい!」
 三者三様で奪い合う形になる札。
 しかし、見事に札を取ったのはアラノアでした。
 ほっとした表情で、札の下の句を見ます。
(……降り積もって淵になるような思いって、やっぱり……)
 意識してしまうのは隣のガルヴァンの事です。
 ガルヴァンは、自分の気持ちに気がついてくれるでしょうか。
 それからも札は読まれていきます。
「長からむ 心も知らず 黒髪の 乱れて今朝は 物をこそ思へ」
((昨夜契った)貴方は決して心変わりしないと仰いましたが、本心をはかりかねています。お別れした今朝はこの黒い長髪のように心が乱れて物思いに耽るのです)
「……はっ!」
「はいっ!」
「はいっ……!」
 またしても三方から手が伸びて、同じ札を叩こうとします。
 その手をかわして、一瞬早く、札を取ったのはアラノアでした。
 何とか勝ち伸びて札を奪うアラノア。
「と、取れました……」
 やはり、好きな札はガルヴァンにも譲りたくないようです。
 相手の本心をはかりかねて、想いが千々に乱れる……。そういう経験が、アラノアにはあるのかもしれません。
 そんなこんなで百人一首の札は全て読み上げられ、結局は四人は同点で、引き分けになったのでした。
「お疲れ」
 薄く笑ってシリウスはリチェルカーレをねぎらいます。
 彼は話すのは不得手なので、基本的に聞き役で、あまり表情がかわりません。
 ですが、それはガルヴァンも似た傾向があるため、かるた取りの間は、ほとんどリチェルカーレとアラノアが話していました。
 お互いに、話すのが苦手な同士、通じ合うものがあるのか、これはこれで互いに認め合っている様子です。


 --札の読み上げが終わり、かるた取りが終わると、四人のウィンクルムは和室の隅に寄って、甘酒と上生菓子を楽しみました。
 ガルヴァンとシリウスが口数が少ないのはいつもの事でしたが、男同士は別に仲が悪い訳ではない様子。意外に気を許しているのかもしれません。
 アラノアとリチェルカーレは屈託ない笑顔をかわして、新年の抱負などを語り合っていたのでした。
 新しい年が明け、新しい時間が始まります。
 時は流れ、どんな過去も遠い思い出に変わっていくのです。
 未来に、先行く時間に視線を投げれば、そこにはたくさんの新しい宝があり--そして大切な人のまだ見ぬ笑顔がたくさん埋もれているのでした。それを一つ一つ見つけ出していきたい……美しい歌にはならないけれど、素朴な言葉で彼女達はそんな想いを見せ合ったのでした。
 それを精霊達は満足そうに見ています。
 今年もよい年になる事でしょう。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 森静流
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 2 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月05日
出発日 01月12日 00:00
予定納品日 01月22日

参加者

会議室

  • [9]リチェルカーレ

    2017/01/11-23:53 

  • [8]アラノア

    2017/01/11-23:10 

    皆で着物、いいですね~(ほのぼの)

    アラノア
    わぁ、リチェさん着物も髪飾りも可愛らしくて羨ましいくらいです
    シリウスさんも似合ってますよ

    ガルヴァン
    着る物一つで気分も変わる
    和装もたまにはいいだろう

  • [7]リチェルカーレ

    2017/01/11-19:53 

    こんばんは!出発間際でやっとシリウスの説得に成功しました。
    黒の着物と袴を着てくれるそうです。
    お正月だもの、いつもと違う格好もいいでしょう?皆でお揃いよ。

    シリウス:……(諦めたようなため息ひとつ)

  • [6]リチェルカーレ

    2017/01/10-23:28 

    おふたりのインスパイアスペルだったんですね。意味が隠されているとか、百人一種と同じ。
    とても素敵です。
    わたしは単純に好きな色を選びました。
    空の色と、花の色。…早く春がきますようにと。

  • [5]アラノア

    2017/01/10-23:00 

    あ、ありがとうございます(照れ

    アラノア
    因みにこの模様にしたのは少し意味がありまして
    私が盲亀の浮木で(亀甲

    ガルヴァン
    …俺が優曇華の花、だな(花の刺繍

    アラノア
    これからも一緒にやっていけるように、という願いを込めてるんです

  • [4]リチェルカーレ

    2017/01/10-22:28 

    ふふ、ガルヴァンさん華やかですから…和装もきっと似合いますね。
    アラノアさんの着物もとても綺麗!わたしはこんな感じです。

    リチェ
    着物+袴
    着物は薄花色の地に白の花丸紋
    紺色の袴
    髪は軽くまとめて 桜の髪飾り

    シリウスは「着ない」と言っていますがもう少し説得してみます…。

    カルタは素敵なのがたくさんありますものね。どれにしようか迷っちゃう。

  • [3]アラノア

    2017/01/10-22:00 

    一応、私達の衣装はこんな感じです

    アラノア
    着物+袴
    着物はピンクっぽい白地に赤い亀甲柄
    袴の色は紅の八塩
    ワンポイントで袴の斜め下の方に白い花をいくつか散らす
    髪は下ろす

    ガルヴァン
    羽織袴
    羽織は黒地に金糸で花の刺繍
    着物は赤銅色(艶のある暗い赤色)
    袴は黒

    リチェさんはどんな袴姿なんでしょうか、楽しみです

  • [2]アラノア

    2017/01/10-20:04 

    アラノアとガルヴァンさんですよろしくお願いします

    いいですね、お話し
    リチェさんが着るのなら私も着た方がお正月っぽい雰囲気になれそうですね

    札について
    自分が取りたい札をいくつか決めて(公表しなくてもOK)
    取れた場合と取れなかった場合の反応を書くとかどうでしょう?(被った場合のジャッジはGMさんに任せる感じで)
    こちらはプロローグの札+百人一首の訳を見ながら考えてみようかと思います

    着る物に関しては私達二人とも着替えようかと思います
    ガルヴァンさん曰く「俺の場合和風な場でこの普段着(全身図)では浮くだろうな…」とのことです

  • [1]リチェルカーレ

    2017/01/09-21:47 

    リチェルカーレです。パートナーはシリウス。
    アラノアさん、ガルヴァンさん、今日はよろしくお願いします。

    一緒にお話したいなあと思うのですが、どうでしょう?
    わたしは折角だし、袴を着せてもらおうかなって思っています。
    アラノアさんたちも着るのなら、服のことを言ってもいいし…好きな札についてのお話をするのも楽しそうですよね。


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