ち、ちっちゃくなっちゃった!?(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●トラブルメーカーwith????
「おはようございます。またお会いできてとても嬉しく」
 場所は、A.R.O.A.本部の受付である。にっこりと言った男の名は、ミツキ=ストレンジ。白衣をすらりと着こなし、整ったかんばせには見惚れんばかりの微笑を乗せたこの青年が来訪する度に、受付の男は頭をガンガンと痛めている。
「おや? 顔色が優れませんね……丁度ここに、万病に効く(と思う)薬(の試作品)が」
「心の声! 全部! 聞こえてますからね!? ええ、長い付き合いですから!!」
 ミツキが怪しげな紫の液体が入った小瓶を取り出し掛けるのを、制することに成功する受付の男。これだから、ミツキの相手は大変なのである。
「……で、今日はどのような発明品を?」
 やや雑な感じで、受付の男は厄介な来訪者へと問いを零した。ミツキは、ストレンジラボという、傍迷惑な発明に心血を注いでいる謎の研究所の代表であり、その傍迷惑をA.R.O.A.に持ち込んでは、多数のウィンクルムに被害をもたらしているのだ。
「はい、今日は……ああ、ご説明させていただくよりも、こちらを見ていただいた方が早いかもしれませんね」
 言って、ミツキはふと足元を見遣った。受付の男も、仕方なしにその視線を追う。ミツキの傍らには3~4歳ほどに見える男の子がちょこんと立っていて、じぃと受付の男を見上げていた。
「……子供、ですか? ハッ! ま、まさか遂に人体実験の為に誘拐に手を染めて……!」
「違いますよ。実験体なら足りていますから、ねぇ?」
 男の子が、ミツキの顔へと視線を移して無言のままでこくりと頷く。実験体、と聞いて、受付の男はある人物の存在を思い出した。
「ミツキ様。今日……シャトラ様の姿が見えませんね」
 シャトラというのは、ストレンジラボの研究員たる無口な大男だ。常に影のようにしてミツキに付き従っているのだが、今日はその姿がない。
「なんかもう色々わかっちゃった気がしますが……ミツキ様、改めて、今日の発明品は?」
「チョコレートですよ。食べると、子供になります」
 やっぱりか……と受付の男は天を仰いだ。ミツキが、にこにことして言う。
「先ほど、建物の前でウィンクルムの皆様にお配りしてきたところです。童心に返れるチョコレートだと言って……」
「いやいやいや! ちょっと童心に返りすぎじゃないですかねえ!? ていうかまた! 勝手に! ウィンクルムを巻き込んで!!」
「結構効果にばらつきがあるんですけどね。身体だけが縮んだり、心まで子供に戻ったり。記憶の保持の具合も場合によりけりですし、効果の持続時間も……」
「……聞きたくないんですけど、ちなみにそのデータってどうやって取ったんです?」
「え? そりゃあ、シャトラにこう、チョコレートを何度も何度も食べさせて……」
 当たり前のことのようにミツキが答える横で、どんなことを思っているのやら、ちびシャトラは微塵も表情を揺らがせることなく黙りこくっていた。

解説

●『童心に返れるチョコレート』について
食べると子供の姿になってしまうチョコレート。個包装。
精神まで子供化したり、見た目だけの変化だったり。
現在の記憶を保持していたり、記憶も子供の頃まで戻ってしまったり。
子供化の程度はご自由に設定していただき、必ずプランにてご指定くださいませ。
また、何歳程度まで若返るかや、子供化した際の口調や性格、外見の特徴……等々。
外せないポイントがあれば、そちらも必ずプランにてお教え願えればと存じます。
なお、効果が続く時間にも個人差がありますが、数時間~長くて一日ほど。

●『童心に返れるチョコレート』について2
ミツキが各ウィンクルムに1つずつ配りました。
子供化できるのは神人さんか精霊さんのいずれかのみとなります。
効果については、「童心に返れるチョコレートです」としか説明されておりません。
また、「本部前でパートナーを待っていたらミツキに話し掛けられて……」等、ウィンクルムの片割れがひとりでいる時にチョコレートをGETするのもOKです。

●ストレンジラボについて
すごいのはすごいのだけれどもよくわからない物を研究開発しているタブロス市内の小さな小さな研究所。
研究所の代表で(性格はともかく)優秀な研究者のミツキと、研究員という名の雑用係兼実験体のシャトラが2人で頑張っています。

●消費ジェール等について
子供服購入代などなどで一律300ジェール頂きます。
子供服を買わなくても勿論問題ございませんが、消費ジェールは変わりません。ご了承ください。
なお、出掛ける場所は自由ですので、場所指定のほど必ずお願いいたします。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

不思議現象の外せない定番を、ストレンジラボでまだやっていなかったなんて!
という次第で、神人さんか精霊さんが子供になっちゃうエピソードのお届けです。
ちっちゃくなっちゃう以外は、自由度高めとなっております。
どうぞ、ちょっぴり不思議なひと時をお楽しみいただけますと幸いです。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

また、余談ではありますがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

月野 輝(アルベルト)

  童心に返るって何かしら?昔懐かしい味なのかしらね?
え、それ、アルが危ないんじゃ…

……アル!?

覚えのあるその姿
いえ、私の記憶よりも少し大きいかしら?
でも懐かしい「お兄ちゃん」の姿で
思わず「かわいい~!」と抱き締めてしまったの

え?もしかして記憶も子供に戻って…?
私の事が判らないにしても
とりあえず服を何とかしましょう
買い物と食事に行って

事態を説明しようとしたら先にアルが話し始めて

あの時、黙って置いて行かれて酷いと思った
だけどアルの方もちゃんとお別れを言いたかったのだと知って涙が
何も言えずに去ったアルの方がきっと辛かったのよね

頭を撫でる小さい手
でもそれは安心できるアルの手で
もう、絶対この手を放さないわ


Elly Schwarz(Curt)
  ・戻ったら変わり果てた姿
・彼しか知らない筈の言葉に信じる他なく
ク…ルトさ?あれ…?(この子は…?それにクルトさんは…)
あの…ここに背が高いお兄さんが座ってませんでしたか?
え?あなたが??
(…でもどう見ても子供)
!ちょおっとストオオップ!!
信じます!信じますからっ!!(公開処刑になるところでした!!)

・いそいそと帰宅
(元に戻った時とか大変ですもんね)
あ、着心地はどうです?
初めて?(…そう言えばお坊ちゃんでした)
お気に召しましたか?…なら、良かった!
(改めて見ると…クルトさん…可愛い…!
抱きしめてみたい、なんて…)秘かに目を輝かせ

あ、えっと…抱き締めてみても??
わ、本当ですか!ふふ(嬉々と抱きしめ


ひろの(ルシエロ=ザガン)
  子供化:
体と人格が5歳児。記憶はある。
好奇心旺盛な人見知り。大人しい。
さらさら直毛おかっぱ。ぱっちり目。

食前:
「ここのお菓子おいしいし」

食後:
(近さに逃げる
「るしぇさん」
「? わかった。ひろのはね、ひろの」
「うん。おっきいひろのしってるもん」

(抜けだそうと
(見上げ
「こどもやー(嫌)でしょ?」
(首を傾ぐ
「ひいき?」

(首を傾げて考える
「ひろのも、ひろののすきがいちばん。でも、ひいきだめって」
? むずかしい。

(立って角に触る
「あったかい。らんぼう?」
やさしく。(擦る

「るしぇね。だめっていわないの。おはなしきいてくれる。だからね、おっきいひろのもすきなんだよ」(角にキス
「おっきいひろのとなかよくしてね?」


クロス(ディオス)
  12~13歳程 ボブカット オーガに家族や幼馴染を殺された記憶 精神不安定
一人称私 人見知りで大人しく幼馴染のネーベルが初恋

「あ、れ…、ここは…
父さんっ、母さんっ、おばあちゃんっ、クロノスっ、ネーベルっ!
どこっどこにいるのっ!(泣きながら探す
おー、が…?
――あぁっ…いやぁぁあああ!(絶望の瞳
な、んで、私は、生きてるの…っ
私も一緒に、死にたかったっ…!
ベルに好きって、言いたかったっ
ひっく、どぉして、かな…
おにぃ、ちゃんに、言われると信じ、られる…
初めて逢った筈なのに…
ふしぎ、だね…(泣笑
お兄ちゃん、私ね、ベルが好きだった
ううん今でも好き
でもね? いつかはお兄ちゃんみたいな素敵な人と巡り逢いたいな…(照笑」


アンジェリカ・リリーホワイト(真神)
  学校が終わって、外で待ち合わせている雪さまを探します
A.R.O.A.本部って、こんなに子供が多い所でしたっけ…?
「雪さまー、どこですかー?」
私より小さい子に話しかけられて首を傾げます
……あ、はい。えぇと、そうですね。そういう喋り方するの、雪さまだけだと思います
それにしても小さくなりましたね、どうしたのですか?
経緯を聞いて少し呆れ。
雪さま横文字弱いから…っていたい~
小さくてもそれは痛いですよ雪さまー…
それよりも、それよりも!
ほっぺたつんつんしていいですか?!
わ、ぷにぷにだー、お餅みたいー
そうだ、このままおでかけしましょう
きっと、視点が違うから楽しいですよ!
えー、帰るんですかー…つまんないですー


●不幸中の甘い幸い
「俺にこのチョコをどうしろと……」
 束の間パートナーと離れて手近な場所に腰を下ろしていたところに、白衣の青年から声が掛かった。そうして押し付けられるように受け取ったチョコレートを手に、Curtは途方に暮れて息を吐く。
(甘味は苦手なんだが……いや、エリーの為に克服すべきだろうか)
 ふと頭を過ぎったのは、Elly Schwarzの姿だった。故にクルトは、苦手なはずのチョコレートの包みをぴりりと開ける。
(とりあえず、これくらい食べてみるか……。……!?)
 間もなくして、口に広がる甘さよりも鮮烈に、異変が、クルトの身体を襲った。

「ク……ルトさ? あれ……?」
 待ち合わせの場所にクルトの姿がないのを見て留めて、エリーは青の眼差しを戸惑いに揺らした。代わりのようにそこに座っていたのは、5歳ほどに見える男の子だ。
(この子は……? それにクルトさんは……)
 おずおずとして、「あの……」とエリーは男の子に声を掛けた。金の双眸が、エリーを確かに捉える。
「ここに、背が高いお兄さんが座ってませんでしたか?」
 問いを受けた男の子の瞳が、カッと燃えた。
「俺がクルトだっ!」
「え? あなたが??」
 そう言われても、簡単に信じるのは難しい。何せ、エリーの目の前で不機嫌顔を作っている自称クルトは、どこからどう見てもお子様なのだから。エリーの心中をその表情に見て取って、男の子――ちびクルトは眼差しを険しくすると、
「スノーウッドの森で再会した時の話、してやろうか」
 と、つらつらと語り始めた。
「お前、『この月日で溢れるばかりで……』とか、『傍に居させて下さい!』とか言ってただろう?」
 ちびクルトの口からとび出すのは、記憶の中のキャンドルの光が今も鮮やかに照らすあの日の出来事。エリー以外にはクルトしか知り得ない言葉の数々は、クルトがクルトたる確かな証明だ。
「それから……」
「! ちょおっとストオオップ!!」
 耳まで真っ赤になって制止の声を上げるエリーの顔を見遣って、ちびクルトはにやりと笑う。
「何だ、まだ話し足りないんだが……信じたか?」
「はい! 信じます! 信じますからっ!!」
 ならいい、とばかりに口の端を上げるちびクルトを前に、
(あ、危うく公開処刑になるところでした!!)
 と、エリーはまだどきどきと跳ねている胸を己の手で押さえた。

(とりあえずこれで一安心でしょうか。外だと、元に戻った時とか大変ですもんね)
 そして2人は共に家路を辿り――何とか無事家まで辿り着けたことに、エリーは安堵の息を漏らす。一方のクルトは、随分と小さくなってしまった手で、身に纏った子供服にぺたぺたと触れていた。
「あ、着心地はどうです?」
「……パーカー、初めて着る」
「初めて?」
 思わず彼の言葉を繰り返した後で、
(……そう言えばお坊ちゃんでした)
 と思い至るエリー。そんなエリーの前で、ちびクルトは子供服の調子を検め終えて曰く、
「ガキの頃からキッチリしたモノばかりだったからな。少し新鮮だ」
「そうですか……お気に召しましたか?」
 エリーの問いに、ちびクルトは「まぁ、な」と口元に軽く弧を描いた。エリーのかんばせにも、
「なら、良かった!」
 なんて、ついつい笑顔の花が咲く。そして――懸念が減れば、余裕も生まれるというもので。だから、
(改めて見ると……クルトさん……可愛い……!)
 という具合に、抱きしめてみたい、なんて思いが湧いてしまうのも、仕方がないこと。エリーが(彼女的には)密かに瞳を煌めかせていたのに、ちびクルトはきちりと気付いて、
「……なんだ、目を輝かせて」
 と、僅かばかり怪訝な顔で問いを零す。そわそわとして、エリーが言った。
「あ、えっと……抱き締めてみても??」
「は? ……まぁ良い、が」
「わ、本当ですか!」
 ふふ、と笑んだエリーは、嬉々として愛らしいちびクルトを腕の中に抱き締める。
(……役得ってやつ、か?)
 その温もりを身体中に感じながら、クルトは、胸の内にぽつりと呟いた。

●いつもと違う、
「うう、遅くなってしまいました……!」
 蜂蜜色の髪を揺らして、アンジェリカ・リリーホワイトはA.R.O.A.本部へと急いだ。学校からの帰りである。放課後、契約精霊の真神と、本部前にて落ち合わせる約束だ。
「ええと、雪さま、雪さま……」
 目的の場所へと辿り着いて、アンジェリカは息を整えると、街の喧騒の中に銀色の狼耳を探した。の、だが。
(A.R.O.A.本部って、こんなに子供が多い所でしたっけ……?)
 この時既に、被害はかなり拡大していた。尤もそれは、今まさにその場にやってきたばかりのアンジェリカの知るところではない。
「雪さまー、どこですかー?」
 辺りに、探し人の姿を求めるアンジェリカ。と、その時。
「おい」
 声を掛けられて、アンジェリカはくるりと振り返った。そこに立っていたのは、銀狼を思わせる精霊の子供。身長はアンジェリカより低いし、年齢だって、年下に違いなかった。おい、と言ったっきり、男の子は黙りこくっているので、アンジェリカは戸惑いがちに首を傾ける。男の子が、むすっとした。
「何を首をかしげて居る。我は真神雪之丞ぞ」
「……あ、はい。えぇと、そうですね。そういう喋り方するの、雪さまだけだと思います」
 アンジェリカがそう応じると、男の子――ちび真神は、機嫌を直したようにふっと口の端を上げる。
「我は我だけであるからな、当たり前である」
「それにしても小さくなりましたね、どうしたのですか?」
「うむ、それはだな……」
 そして、ちび真神はここ1時間ほどの出来事をアンジェリカに語って聞かせた。
「先ず、ちょこれーととか言う菓子を貰って食った。溶けてしまうと言われて慌ててな」
 今思うと大変遺憾である、とちび真神は唇を尖らせる。
「それで、とりあえず見苦しくない様に服は用意してもらった」
 何やら受付の男がかわいそうな者を見る目で見ておったが、と益々渋い顔になるちび真神。
「まあとにかく、そういうことだ。現状の姿は……8歳程度の頃の姿か?」
「はい、それくらいに見えるような。身長は、140cmくらいでしょうか」
 ただでさえため息が口をつくところに、「私より小さいですし」と駄目押しの一言が降る。ちび真神を見つめる天青石の双眸には、幾らかの呆れの色まで覗いていた。
「それにしても、こんなことになるなんて……雪さま、横文字弱いから……」
「えぇい、じゃかしいわー!」
 アンジェリカの額に、ちび真神の全力のデコピンがクリーンヒット。「いたい~」と、アンジェリカは涙目になって患部を押さえた。
「小さくてもそれは痛いですよ雪さまー……」
「うるさい! 不遜なことばかり言った罰だと思え!」
 しかし、と、ちび真神は己の両の手のひらを見遣って仄かに眉を下げる。
「何ぞ依頼があればと思って来たが、今日は無駄足になりそうだ」
 これでは、アンジェリカにデコピンを食らわせることはできても、弓も引けないので鍛錬だってまともにはこなせないだろう。真面目に考え込むちび真神の前で、
「それよりも、それよりも! ほっぺたつんつんしていいですか?!」
 なんて、アンジェリカは瞳をきらきらさせながら身を乗り出す。指先が、ちび真神の返事を待たずに、その頬へと触れた。ふにり。
「わ、ぷにぷにだー、お餅みたいー」
「えぇい、あんじぇ、頬をつつくなー!」
 ふにふにする手は止めずに、アンジェリカは、ご機嫌斜めのちび真神へと声を投げる。
「そうだ! 雪さま、このままおでかけしましょう」
 きっと、視点が違うから楽しいですよ! とはアンジェリカの本心からの言だが、
「ならん! 帰るぞ!」
「えー、帰るんですかー……」
「当たり前だ! このまま醜態を晒してなるものかー!!」
 勢い良く言い放つや、ちび真神はずんずんと歩き出してしまった。折角の機会なのにつまらないとは思いながらも、
「雪さま、待ってくださいー!」
 アンジェリカは急いで、いつもより小さな真神の背中を追い掛けるのだった。

●託す、未来
「また食べる気か」
 A.R.O.A.本部前で手渡された、個包装のチョコレート。その包みをせっせと開けようとしているひろのへと、ルシエロ=ザガンは呆れ混じりの声を投げた。
「うん。ここのお菓子おいしいし」
 自宅の、ふかふかのソファに、ちょこんと腰掛けて。ひろのは、全く何でもないようにそう答える。懲りないな、とは思いながらも、ルシエロはそれ以上口を挟むことなく、ひろのが取り出したチョコレートを口に運ぶのを見守った。そして――、
「……今度はこうなったか……」
 ルシエロは、傍らの幼子を見遣って、深く息を吐く。先ほどまでひろのが座っていたはずの場所に、瞬き一つの間におかっぱ頭の女の子が座っていたのだ。
(童心どころか、子供になるとは。年の頃は……5歳ほどか?)
 なんてルシエロが考えている横で、女の子は隣に座るルシエロを見て大きな目をぱちくりとさせるや、ぴゃっと逃げ出そうとした。途端、ぶかぶかの服の裾を踏んで転び掛けるので、
「危ないな」
 と、ルシエロは流れるような所作で女の子――ちびひろのを腕の中に受け止めてやる。
「オレがわかるか?」
 こくり、素直に頷くちびひろの。
「るしぇさん」
「ルシェで良い」
 さん付けは不要だとそう応じれば、ちびひろのは不思議そうに首を傾けたけれど、
「? わかった。ひろのはね、ひろの」
 と、じきにまた一つ頷いて、自己紹介。一連の反応を見るに、人格は17歳のひろのとは別のようだが、
「オレの名がわかるということは、記憶はあるんだな?」
「うん。おっきいひろのしってるもん」
 という具合で、一先ずは安心だ。……と、思ったのだが。
「っ、おい、暴れるな。どうした」
 やり取りが落ち着いたと見るや、ちびひろのは小さい身体を懸命に駆使して、ルシエロの腕の中から抜け出さんと身動ぎを始めた。窘められたちびひろのの焦げ茶の瞳が、何か言いたげにルシエロのかんばせをじぃと見上げる。
「気にせずに言え」
「こども、やーでしょ?」
 子供は嫌いだろうと言っているのだ。どこまでも尾を引く、と痛む頭を押さえたくなるのを堪えながら、
「苦手なだけだ。それに、ヒロノなら別だ」
 なんて、ルシエロは言い聞かせるように音を紡いだ。ちびひろのが首を傾げれば、真っ直ぐの髪がさらりと揺れる。
「ひいき?」
 痛いところを、と思ったが、ルシエロは顔にも口にも出さなかった。その代わりに、
「大切な人は特別扱いするだろう」
 と返せば、またちびひろのの首が傾く。考え考え、ちびひろのは言った。
「ひろのも、ひろののすきがいちばん。でも、ひいきだめって」
「時と場合による」
 むずかしい……と頭の上にクエスチョンマークを浮かべるちびひろのを、ルシエロはごくさりげなく膝の上に乗せてソファへと座り直す。するとちびひろのは、よいしょと膝の上に立ち上がろうとした。
「何だ」
 支えてやれば、ルシエロの角にぺたぺたと触れる小さな手。
「あったかい」
「乱暴に扱うなよ」
「らんぼう?」
「触るなら優しくという意味だ」
 やさしく、と口の中で呟いて、ちびひろのはルシエロの角を先ほどよりもそろりとして擦る。
(子供時代か。思っていたよりは明るい)
 触れる温もりの中で、ルシエロはそんな感想を抱いた。人見知りで大人しいが、好奇心は十二分に旺盛だ。少なくとも、ルシエロの前では。
「あのね」
 ふと、ちびひろのが言った。
「るしぇね。だめっていわないの。おはなしきいてくれる」
「――そうか」
「だからね、おっきいひろのもすきなんだよ」
 元の姿でも聞きたいものだ、と思っていたところに、不意打ちで角に触れる、先ほどとは種類を別にする温度。それは、ちびひろのからのささやかなキスだった。
「おっきいひろのとなかよくしてね?」
「当たり前だ」
 微塵の迷いもなく、言い切る。そうして、ちびひろのをまた膝の上へと座らせると、ルシエロはそのこめかみに、お返しのようにそっと口付けを零した。

●巡る、廻る
「チョコレート、か……」
 白衣の青年からそれを受け取ったのは、A.R.O.A.本部前でのこと。ディオスが、個包装のそれを手の中に弄んでいた、その時。
「おーい、ディオ!」
 ぱたぱたと駆けてきたのは待ち人たるクロスその人で、その姿に、ディオスはふっと目元を和らげた。
「悪い、待たせちまったか?」
「いや、俺もさっき来たところだ……あぁ、そうだ」
 呟いて、ディオスはクロスへと、先ほど手に入れたチョコレートを手渡す。
「これ……」
「チョコレートだそうだ。俺は、甘い物は苦手だからな。良ければクロが食べてくれ」
「そっか。じゃあ、遠慮なく」
 言って、クロスはぱくりと、迷いなくチョコレートを口にした。その様子を、ディオスは愛おしげな眼差しで見守っていた――のだけれど。
「あ、れ……、ここは……」
 瞬き一つの間に視界からクロスの姿が消えた、と思ったら、足元から、幼さと戸惑いを纏った声がした。惹かれるようにそちらを見遣れば、不安げに瞳を揺らす、12、13歳程のボブカットの少女の姿。
「ク、ロ……?」
 ディオスの唇が、自然、その名を紡ぐ。少女――幼いクロスが顔を上げた。
(何故、幼い頃の姿をしている? 覚えている姿よりも成長しているが……)
 突然襲った驚きに、けれど飲み込まれることはなく。ディオスは、ごく冷静に思案を巡らせる。そんなディオスとは対照的に、幼いクロスは必死になって、辺りへと視線を走らせた。
「父さんっ、母さんっ、おばあちゃんっ、クロノスっ、ネーベルっ! どこっ、どこにいるのっ!」
 銀の瞳から、ぽろぽろと涙が零れる。ディオスはその場にしゃがみ込むと、懸命に家族や幼なじみを探すクロスの肩に、彼女を支えるようにして手を置いた。
「おい、落ち着け! 大丈夫だ、此処はオーガの被害等を管轄する……」
「おー、が……?」
 ディオスの言葉は、不運にも、幼いクロスを益々錯乱させるトリガーとなって。
「――あぁっ……いやぁぁあああ!」
「――っ!?」
 クロスの双眸から色が失せるのを、ディオスは見た。そこに映るのは、最早、底のない絶望ばかり。
(しまった! あの頃のクロか! 迂闊だった……っ)
 目の前にいるのは、故郷を滅ぼされた時のクロスだと。そのことを察して、ギリ、と口の中を噛み締めるディオスの前で、
「な、んで、私は、生きてるの……っ」
 と、クロスは目の前の何も見えていない様子で、押さえた頭を緩く振っている。
「私も一緒に、死にたかったっ……! ベルに好きって、言いたかったっ……」
 クロスを苛むのは、オーガによって家族や、初恋の相手である幼なじみを殺された記憶。泣きじゃくるクロスの小さな身体を、ディオスはぎゅっと抱き締めた。
「クロ、大丈夫、大丈夫……」
「ひっく、うっ……」
「あの時駆け付けられなくてすまない。でも、俺は生きてくれて嬉しかった」
 真摯に音を紡ぎながら、ディオスはクロスの背中を、落ち着かせるように優しく摩る。
「お願いだから死ぬなんて言わないでくれっ。もうクロを一人にせず、俺もルクも置いては逝かない」
 約束する……と締め括られた言葉に、幼いクロスはゆるゆると顔を上げると、「どぉして、かな……」と、泣き顔のままで笑った。
「おにぃ、ちゃんに、言われると信じ、られる……初めて逢った筈なのに……ふしぎ、だね……」
 ふわり、微笑を返すディオスへと、あのね、とクロスは囁くような声で零す。
「お兄ちゃん、私ね、ベルが好きだった。ううん、今でも好き」
「そう、か……」
 クロスの言葉に、ごく仄かに曇るディオスの表情。ベル――ネーベルは、今は亡きクロスの幼なじみだ。嫉妬の炎が、ディオスの胸の奥を焦がす。けれど。
「でもね?」
 と、幼いクロスははにかむようにして、泣き濡れたそのかんばせを華やがせた。
「いつかは、お兄ちゃんみたいな素敵な人と巡り逢いたいな……」
「……何、クロならきっと巡り逢えるさ」
 だから大丈夫だと、ディオスは微笑み一つ、クロスの背をもう一度撫でるのだった。

●あの日の想いを、
「チョコレートか……」
「童心に返るって何かしら? 昔懐かしい味なのかしらね?」
 思案げにアルベルトが零す傍ら、白衣の青年から受け取ったチョコレートを、月野 輝はまじまじと見つめる。じきに――アルベルトが、輝、と呼んだ。
「それを私に」
「え? 構わないけど……」
「何か嫌な予感がする。先に私が試してみよう」
「え、それ、アルが危ないんじゃ……アル!?」
 輝が言い終えるよりも早くに、アルベルトは口の中へとチョコレートを放り込み――その姿が、見る間に変わっていく。気付けば、呆然とする輝の前に立っていたのは、
(この姿、覚えがある……いえ、私の記憶よりも少し大きいかしら?)
 という具合で、懐かしい『お兄ちゃん』なのだった。12歳くらいの姿にまで縮んでしまったアルベルトは、ごく仄かに眉を下げて、周囲を見回す。
「ここは……どこです?」
 辺りを窺っていた金の眼差しが、ふと、輝の姿を捉えた。途端。
「アル……か、かわいい~!」
 我に返った輝は、思わず、小さなアルベルトの身体をぎゅうと抱き締めていた。
「貴女は? ……あ、きら……?」
 名前を呼んでしまった後で、緩く首を横に振るちびアルベルト。その面差しに、つい別れ別れになってしまった『彼女』のことを重ねてしまったけれど、
(いや、そんなはずはない、あの子は、まだ4つくらいのはずだ)
 と、思い直して。アルベルトの記憶は、養父母に引き取られた1年後まで退行してしまっていた。今、輝が抱き留めているのは、精霊だということで雑に、そして乱暴に扱われ、笑顔を失っていた時分のアルベルトだ。故に、
「あの……何故、私の名前をご存知なのでしょうか」
 突然に胸に抱かれた困惑の末、彼の口をついたのはそんな言葉。ハッとして、輝はアルベルトから幾らか身を離した。
「……え? もしかして記憶も子供に戻って……?」
「それは、どういう……」
 アルベルトの金の双眸に、益々の戸惑いの色が乗る。仮説の正しさをその反応に感じ取って、輝はそっと首を横に振った。これ以上、幼いアルベルトを混乱させたくはない。
「……ううん、何でもないわ。いきなりごめんなさい」
「いえ……」
「私の事が判らないにしても、とりあえず服を何とかしましょう。買い物と、それから食事も。ね?」
 輝の提案に、アルベルトはこくりと頷くことで答えた。
(家には、戻りたくない……)
 手を引かれるままに、輝の傍らを歩き出すアルベルト。道すがら子供服を買い求めて着替えを済ませ、2人は、輝の計らいで個室の飲食店へと入った。料理が運ばれれば、後はもう、何の邪魔も入らない。
(いつ元の姿に戻るかわからないものね。それにしても……)
 何から説明したらいいだろうかと思案しながら、輝が口を開こうとした、その時。
「あの……もしかしたら、あの子の血縁の方ですか? 輝、という子なのですが……」
 フォークを握ったまま、隣に座っているアルベルトが、ぽつりと話し始めた。
「輝は、元気なのでしょうか。突然両親が亡くなって何も言えずに去ったもので、ずっと気になって……」
 俯きがちに紡がれる言葉が、輝の胸を強く打ち、心を揺さぶる。
(あの時、黙って置いて行かれて酷いと思った……)
 だけど、実際は違ったのだということを、輝は今、幼き日の彼の口からじかに聞いたのだ。アルベルトもまた、ちゃんと別れを告げられなかったことを気掛かりにしていた――。
(何も言えずに去ったアルの方が、きっと辛かったのよね……)
 涙が輝の双眸を濡らし、雫が、ぽつと落ちる。幼いアルベルトが、突然のことに目を瞠った。
「え、あの、泣かないで下さい」
 思わず、といった調子で、小さな手が輝の頭を撫でる。温もりが優しく触れる中で、輝は思った。
(小さな手……でも、これはアルの手だわ。私を、安心させてくれる……)
 もう、絶対この手を放さないわ、と、滲む世界の中で輝は誓う。間もなくアルベルトが元の姿に戻っても、勿論、その想いは変わることなく。



依頼結果:大成功
MVP
名前:月野 輝
呼び名:輝
  名前:アルベルト
呼び名:アル

 

名前:ひろの
呼び名:ヒロノ
  名前:ルシエロ=ザガン
呼び名:ルシェ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月04日
出発日 01月10日 00:00
予定納品日 01月20日

参加者

会議室


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