冬の朝に(寿ゆかり マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 とある冬の朝。
 人類には強敵がいる。
 ふかふかで、やわらかくて、温かく、すべてを包み込む魔物……。
 それは――オフトゥン――。
「おはよう」
「……」
「あれ? おはよう!」
 神人は精霊が眠る部屋へ行き、声をかけた。
 返事がない。
「おーはーよー!!」
「……」
 へんじが ない。
 
 ――一方。オフトゥン要塞の中に潜む精霊はというと。
(無理……無理出れない。外なんて無理)
 ここへの立てこもりを決意していた。
 冬の空気はきりりと冴えていていいね? だ?
 何を言っているんだ――! 
 俺は死にたくない――!!

 神人と精霊の攻防戦が今幕を開ける。
 果たして神人はオフトゥン要塞から精霊を投降させることはできるのか。
「……これはどうしたもんかな」
 兵糧攻めか? くすぐり攻撃か?
 日曜の朝のお子様によるパパダイブ作戦か?
「起きてってばー」
「……無理。起きてる」
「そうじゃなくて布団からでようよ~」
「……無理……」
 こたつむりならぬ妖怪オフトゥン纏いと化した精霊を浄化できるのは神人だけかもしれない。
「くっ……タイプAを決行します!」
 飛び込む神人。
 響き渡る精霊の叫び声。
 はぎとられるオフトゥン、ああ無情。
 これは、とある寒い寒い冬の朝の出来事なのであった。

 あなたの冬の朝はどんな朝ですか?

解説

冬の朝のお話です。
冒頭のウィンクルムはおふとぅん攻防戦ですが、
起こしに行ってじゃれあうでも良し、
どちらかが起きてこないのを様子を見に行くでもよし。
共通事項は冬の朝ということだけです。
なんやかんやで300Jr消費します。

どんなことができる?(目安)
・朝起きるまでのお話
・朝起きてから出かけるまでのお話

同居しているウィンクルムの方はもちろん、
離れて暮らしている方は朝訪問するでも、電話をかけるでもOKです。

冬の朝のお話だということだけ守っていただければ割と自由。

公序良俗に反する内容
(性的描写、グロテスクなもの)
は描写しかねますので、
ご了承くださいませ。


ゲームマスターより

 冒頭はギャグの香りがしますが、もちろんシリアスも大歓迎です。
 冬の朝、もうおふとぅんとまりあーじゅ。
 それではよろしくお願いいたします。

*相談期間が短いのでご注意くださいませ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  正月休みを利用し 彼を連れて実家へ
母に話しかけられて硬直したり 弟妹にまとわりつかれて困惑したりしている姿に笑顔
家族になったらこんな感じかな とかこっそり思ったり

夢でもそんな1場面を
軽く揺すられるのに体を丸める
ーあれ、お母さんじゃない…?
もぞもぞ顔を出し彼を見て
にっこり笑って両手を伸ばし抱きつく(半分夢の中)
…あったかい、ね もうすこし、ねよ…?
そのまま布団の中へ引っ張って

…シリウス 焦ってる…?
「起きろ」って あれ、わたし今どこにいるんだったっけ
ぱちりと目を開ける
覆いかぶさるようになっている彼に目をまん丸
ー!?
状況を把握し真っ赤に シリウスを離してもう一度布団に潜る
こそり覗くと 笑っている彼を見て更に赤く


夢路 希望(スノー・ラビット)
  アラームの音が聞こえて、思わず眉間に皺が寄る
早く起きなくちゃ…布団から出なくちゃ…けど
(うぅ…寒い…眠い…)
音を止めて、頭までお布団を被り、ぬくぬく

上から優しい声がして、のっそりと顔を出す
「…スノーくん…?」
あれ?どうしてここにスノーくんがいるんだろう?
眠たい頭で考えながら、現実と夢の間をゆらゆら
話しかけてくれているけどあまり入ってこない

…キスしたら、寝ててもいいの?(手を伸ばし、顔を引き寄せ
ちゅー
したから、まだ起きなくてもいいよね
「もう少し…もう少し、だけ…」(頭をぎゅっと抱く
ふふ…ふわふわ…温かい…幸せ…

…んん…?
え?あれ?どどどうしてスノーくんが一緒にねね寝ているんでしょうか…?


ひろの(ルシエロ=ザガン)
  肌寒さに眠りが途切れた。
枕元に置いた時計の針は、いつもより一時間早い。
時間があるなら、もうちょっと。(布団を掛け直し、目を閉じる

何か聞こえた気がした。
けど、起きれない。(そのまま意識を沈める

「……ぅ?」(ベッドに合わせ体が沈み、意識が浮上

「るしぇ……?」(ぼんやり見返す
いつ……。「ねむい」(ぽろっと零れる
「……? るしぇの、いえだよ」起こしに来たなら、起きないと。(布団をのそのそ捲る
さむ。(なんとか体を起こす
男の人が女の人と一緒の部屋だと。開けるのがマナーとか、だっけ?(戸が開いたままなのに気づいて

わ。……ん?「顔見たいって」(遅れて気づく
(言外に恋愛対象で見てると言われてるようで、顔を赤くする


ファルファッラ(レオナルド・グリム)
  お布団…なんて暖かいのかしら…。
ここから出るなんて考えられないわ。
それーなーのーにー。
(お布団剥ぎ取りに必死に抵抗)
嫌!出たくない!出たくないー!
えっ?フレンチトースト?食べる!食べるわ!
ココアは砂糖をたっぷり入れてね!
ふふふ、帰りにどこに寄ろうかしら。カフェにしようかしらそれとも雑貨屋さん?楽しみだわ!

(朝食もぐもぐしつつ髪を櫛でとく)
これってなんだかデートみたいよね。楽しみだわ!
えっ…?「デート」を否定しないの?
心境の変化?それとも悪戯?悪戯だったらしばらく立ち直れそうにないんだけど…
ふふ…でも、いいわ…!兄妹でも親子でもない。完全にカップルだってみんなに見せ付けてあげるんだから…!


向坂 咲裟(ギャレロ・ガルロ)
  ギャレロとお出かけの日
今日は家を空けているカルラスさんに早めにギャレロを起こす様言われたのよね
手強いってどういう事かしら?

そっとお邪魔してギャレロに近づいて声を掛けるわ
起きて、朝よ、ギャレロ
…なるほど、起きないわね

普段高い所にある頭が布団からぴょっこり覗いているのを見て
なんとなく撫でたくなって手を伸ばすわ…よしよし

…お母さん?違うわ、咲裟よ
あら、おはようギャレロ
理由?今日一緒にお出かけの約束だったでしょう
…お母さんの夢でもみていたの?
…ワタシはギャレロのお母さんじゃないけれど、撫でたいと思ったわ
…また撫でても良いかしら?

ふふ、温かいミルクココアを淹れてくるから、布団から出る覚悟を決めておいてね


 今日は、精霊であるギャレロ・ガルロとお出かけの日だ。向坂 咲裟は、もう一人の精霊であるカルラス・エスクリヴァの家に居候しているギャレロを起こしに行くこととした。いつもならカルラスが起こしてくれるから問題ないのだが、今日はカルラスは所要で家を空けている。出かけるのなら早めに起こすようにと言われていた咲裟は言われた通り、出かける時間よりもだいぶ早めに彼らの家に向かったのだが。
(……手強いってどういう事かしら?)
 カルラスに言われたことが、どうにも気がかりだ。
 精霊の家に着いたら、そっと扉を開いて驚かさないようにギャレロの部屋に入る。
「起きて、朝よ、ギャレロ」
 冬の洋館の中は、暖炉の火を消せばすぐに冷えてしまう。ベッドから一向に出てくる気配のないギャレロは、さしずめ冬眠中のクマとでも言ったところだろうか。その巨体を丸めて布団の中に潜り込み、もぞもぞしている様子にもう一度咲裟は声をかけた。
「ギャレロ」
「いいだろカルラス……もうちょっと寝かせろー……」
 もぞもぞ。夢と現実の区別もつかないほどに微睡んでいるが、ギャレロはようやっと頭を布団から覗かせた。瞳は閉じたままだ。
「……なるほど、起きないわね」
 ここにいるのが神人だということにも、どうやら気付いていないようだ。
 ふと、普段は高い所にあるギャレロの頭がぴょっこりと布団から覗いており、いつも手が届かないそれに容易に触れられることに気付いて咲裟はなんとなく手を伸ばす。
「……よしよし」
 女性たる華奢な掌が、何度もギャレロの頭を往復した。優しく撫でられる感覚を、ギャレロは遠い遠い昔に知った。――もう、ずっと無かった感覚だが、確かな優しさの感覚だ。
 こうして、自分を撫でてくれたのは……。
 そっと、自分の頭を撫でる優しいその手を掴む。
「……かあさん……?」
 ぽそり、と呟いた言葉はしっかりと彼女にも聞こえていて。
「……お母さん? 違うわ、咲裟よ」
 手の温かさも相まって、ようやっと瞳を開くギャレロ。そして、意識がだんだんとはっきりしてきて、神人の声にも気づいて。
「え」
「あら、おはようギャレロ」
 ぱちくり、とひとつ瞬き。そして、心底驚いたというような声で問うた。
「なんでサカサがオレの部屋に居やがんだ!?」
「理由? 今日一緒にお出かけの約束だったでしょう」
 カルラスさんがいない日だから起こしに来たの、と言う咲裟に、ああ、そうだったのかとようやく納得する。が。
「……お母さんの夢でもみていたの?」
 ああ、かあさんと呼んだことバッチリ覚えている……。ギャレロはバツが悪そうに視線を彷徨わせた。
「あー……ああ、いや、忘れてくれ」
 なんで? と笑う神人に、なんとなく恥ずかしくて視線を合わせられない。
「……ワタシはギャレロのお母さんじゃないけれど、撫でたいと思ったわ」
 なんでかしらね。と笑っている神人を見て、ギャレロもふと表情を緩める。
「オレの頭を撫でるのは、かあさんしかいなかったから、ヘンな感じだ」
 けれど、別にいやではなかった。そう口にしなくとも、優しい表情と声色で彼が幸せを感じていることは伝わってくる。
「……また撫でても良いかしら?」
 良いとも悪いとも言わず、その強面を少し俯かせて黙り込んでしまったギャレロ。彼の性格なら、嫌な事ははっきり嫌と言うだろう。それは、無言の肯定か。
 なんとか布団から出ようと、ゆっくりと掛布団を自分でめくる。
「うう、寒っ……」
 やはりこの寒さの中外へ出るのはなかなか勇気がいる。
「ふふ、温かいミルクココアを淹れてくるから、布団から出る覚悟を決めておいてね」
 ベッドから立ち上がると、咲裟はギャレロの部屋を出る。がばり、とギャレロは布団を脱ぎ捨てて答えた。
「あったかいココア……あーアレだな、ミリョクテキだな!」
 ベッドから飛び起きて、先を歩く咲裟の後をついていく。甘く柔らかなココアの味を想像しただけで、胸が弾む心地がした。今日という日を少しでも長く二人で過ごすため、ギャレロは凍てつく冬の空気に負けずにリビングへとその大きな体を縮こまらせながらも歩くのだった。


「ふわぁ……」
 少し早く目が覚めたスノー・ラビットは、昨晩お泊りに誘った夢路 希望が、傍らですうすうと寝息を立てているのを見つけて頬を緩めた。
「ふふ……可愛い……」
 聞こえないように、小さな声で呟いて彼女の長いまつ毛を見つめている。近々一緒に住むことが決まっている二人。希望が少しでも一緒にいることに慣れてくれるようにと、昨夜は一緒に寝てほしいなんて少々大胆なおねだりをして、二人で布団に入ったのだ。
 ふにふにのほっぺたをつついてみたいような気もしたけれど、起こしては可哀想だ。ただただ、見つめている。と、目覚ましの音が鳴り響いた。スノーは大きな耳をぴんっとさせて驚きに跳ね上がる。よかった、隣の希望は起きていない。
(ノゾミさんが設定してたのかな?)
「んん……」
 希望の眉間に皺が寄った。けたたましいアラームの音に、さすがに気付いたらしい。
(あ、起きたみたい……?)
「おはよう」
 にっこりとほほ笑んで、小さな声で優しく声をかける。希望は、白い指先を布団から出して彷徨わせた。
 ――早く起きなくちゃ……布団から出なくちゃ……けど……。
(うぅ……寒い……眠い……)
 お布団は簡単に希望を解放してはくれなかった。
 伸ばした指先はアラームを止めるために動き、希望はまたあたたかなお布団を頭まですっぽりかぶり、ぬくぬくと微睡んでいく。
「あれ?」
 スノーはまるで亀のように首を引っ込めてしまった彼女を見遣り、ふふ、と笑う。
(お布団の中に潜っちゃった)
「ノゾミさん、朝だよー」
「んぅ……」
 優しい彼の声に、のっそりのっそりと亀よろしくお布団から顔だけ出す。
「スノー……くん……?」
 どうしてここにスノーくんがいるんだろう? ここはお布団なのに。眠たくて思考が追い付かない。あ、そうかぁ、夢か……。あれ? でも、昨日の夜どうしたっけ……うーん。
 ゆらゆらと、夢と現実の狭間を彷徨う希望。
「一緒に朝ご飯食べよう?」
「むゅ」
 話しかけてくれるけれど、あまり入ってこない。むしろ、彼の優しい声は子守唄か何かになってしまう。希望はまたゆるゆると瞼を閉じそうになった。
(んー……早起き苦手って言ってたし、朝弱いのかな)
 どうしたものか。スノーは考えて、ひとつの答えを見つける。
「起きないとキスしちゃうよ?」
 悪戯に、希望の耳へと囁きを落とす。こうすれば、恥ずかしがり屋な彼女なら飛び起きるはずだ。
「ん……」
「なんて……」
 冗談だよ~、といつものように笑おうとしたところで、するりと希望の腕が布団から伸びてきた。
「え?」
「……キスしたら、寝ててもいいの?」
 しっかりとスノーの頬を捕えた小さな手。そのまま、くい、と自分の方に引き寄せると希望はスノーの唇に甘い吐息と口づけを落とした。
「!?!?」
「……したから、まだ起きなくてもいいよね」
 ふにゃっと笑って、彼女は一緒に眠ろうと言うかのようにスノーを更に引き寄せる。
「……び、びっくり、した」
 滅多に無い事に、スノーの心臓は早鐘をうつ。今は顔が真っ赤になっているのを見られていないだけ幸いか。
「の、ノゾミさん? そろそろ起きない……?」
 恐る恐るの提案に、希望はふにゃりと笑う
「もう少し……もう少し、だけ……」
 そして、柔らかなスノーの髪の毛と耳ごと彼の頭をぎゅっと抱いて眠ってしまうのだった。
「ふふ……ふわふわ……温かい……幸せ……」
 むにゅむにゅ言いながら幸せそうにそんなことを言われてしまったら、スノーももうなすすべがない。
(そんな顔で言われたら断れないよ……)
 スノーも、そっと希望の腰に腕を回してぎゅっと抱きしめた。目を閉じると、恐ろしいほどの幸福感が迫ってくるのが解る。お布団の脅威と言うよりも、彼女の柔らかさと香りがダイレクトに眠りに誘ってくるのだ。
「……温かくて……何だか、僕も……」
 うとうとと瞳を閉じる。誰がこのぬくもりに逆らえようか。
 ――数分後に。
「……んん……?」
 先に目を覚ましたのは希望だった。
「え?」
 眼前にはスノーの頭。
「あれ?」
 がっちりと腰に巻き付いた彼の腕、聞こえてくるのは彼の寝息。
「どどどうしてスノーくんが一緒にねね寝ているんでしょうか……?」
 整理するのに、しばらく時間がかかったそうな。


 肌寒さに、眠りが途切れた。
「……」
 外は白み始めているが、枕元に置いた時計の針はいつもよりも一時間早い。ひろのは、一度捲った布団を再度その体にかけなおすと、そっと目を閉じた。
(時間があるなら、もうちょっと……)
 いつもなら、もう一時間で起きられるはずだったが、冬の寒さはひろのをお布団から出そうとはしなかったようだ。
「……」
 一時間と、少し。
 ルシエロ=ザガンは紅茶を飲みながら時計に目をやった。朝の寒気に、紅茶の湯気が際立つ。時計の針は、ひろのがいつも起きて来る時間からもう30分は経過していた。すっと目を細め、ルシエロはぽつりと呟く。
「……待つのも良いが」
 さすがに、具合でも悪くしていたら大変だ。いや、それよりなにより……。
 足音を立てないで、ひろのの部屋へ向かう。ドアの前にて、ルシエロは驚かせないようにと扉を丁寧に、4回叩いた。
(……?)
 ひろのはその音を意識の遠く遠くで聞く。
「ヒロノ、起きているか?」
 優しい声を聞けども、ひろのは体を動かすことが出来ない。――起きられない。
 そのまま、意識が沈んでゆく。
(……返事がないな……)
 間をおいてみたが、返事もなければ動く気配も感じられない。ルシエロは仕方なしに、ドアノブに手をかけた。
「入るぞ」
 かちゃん、と抵抗なく扉が開く。また鍵をかけていないのか。無防備なものだ、とルシエロは思った。決して、嫌な気持ちにはならないが。
 部屋の中を見回すと、以前よりほんの少しだけ物が増えていることがわかった。だが、遠慮しているのか、それとも気質なのか――。いや、両方か。ひろのは年頃の娘にしては持ち物が少ない。ルシエロは規則正しい寝息を立てているひろののベッドへと近づき、そっとその顔を覗き込んだ。
(……良く寝ている)
 普段だったら見られない、薄く開いた口元に自然と目が行った。こうしてみると、あどけない。ルシエロは、ゆっくりとベッドの端へと腰かける。
「……ぅ?」
 きし、とわずかにベッドのスプリングが沈んだことで、ひろのの意識が浮上してきた。
「るしぇ……?」
「いつまで寝る気だ?」
 優しい声と共に、ルシエロの指先がそっとひろのの前髪をはらう。
(いつ……)
 言われたことが上手く整理できない。ねむたい。頭の中はそれだけだ。
「ねむい」
 ぽろっと零れたその言葉に、ルシエロはふ、と薄く笑う。
 危機感は持って欲しいが、気を許されているのなら悪くない。どこか警戒心の強い子猫のようなひろのを見て、ルシエロは思い出す。
「勝手に部屋に入って悪いな。顔が見たかった」
「……? るしぇの、いえだよ」
 のそのそと布団を捲り、ひろのはようやっとベッドから這い出ようと決意した。
「さむ」
 上半身をなんとか起こすも、寒さになかなかお布団から離れられない。
「本来、女性の部屋に勝手に入るものではないからな」
 ルシエロにそう言われて、ひろのは開いたままの戸に視線をやった。
 ……男の人が女の人と一緒の部屋だと。開けるのがマナーとか、だっけ? 
 うろ覚えの知識をぽつと呟くと、ルシエロはそうだな、とひとつ頷いた。
「ぅ」
 ぷるり、とひろのは外気の冷たさに身を震わせる。その震えに気付き、ルシエロは大きな手でひろのの身体を抱き寄せた。
「わ」
 引き締まった体、広い胸板。ルシエロの体温が、ひろのに伝わる。慣れた感覚にはなってきたけれど。
 ――ん?
「……顔見たいって」
 さっき言わなかった……? ルシエロの顔を見上げると、ルシエロは一層ひろのを強く抱きしめてくつくつと喉の奥で笑った。
「言ったぞ」
「……っ」
 それって。
 それって、まるで恋愛対象にみているみたいじゃないか。
 ひろのは、顔を真っ赤にして、それを見られないようにしばらくルシエロに抱きすくめられるまま顔を隠すのであった。

 
 正月休み。リチェルカーレはシリウスを連れ、実家へと帰省していた。――身寄りのないシリウスにとっては、さぞ賑やかな正月だったことだろう。リチェルカーレの母親に話しかけられて、思わず硬直したり、『おにーちゃん! おにーちゃん!』と、弟妹に纏わりつかれて困惑している姿をみて、リチェルカーレは自然と笑顔になってしまった。
(……家族になったら、こんな感じかな)
 だなんて、こっそり思ってしまったのは彼には内緒だ。
「おは……」
 おはようございますと挨拶をしようとしたところで、リビングにいるリチェルカーレの母親に捕まった。
「リチェが起きてきていないの。申し訳ないけれど起こしてきてくださいな」
 にこやかに、リチェルカーレと同じあたたかな笑顔で頼んでくるものだから断りきれずにシリウスはひとつ頷いてリチェルカーレの部屋へと向かう。
 ――『おにーちゃん!』
 ――『あそぼ!』
 ――『わかった、わかったから……順番だ』
 ――『ふふ、ふふふ……』
 ――『リチェ、笑ってないで助けてくれ』
 ――『はぁい、ふふ……すっかりお兄ちゃんね』
「……ふふ」
 幸せな夢に、リチェルカーレは頬を緩めっぱなしだ。
「……リチェ、朝だ。そろそろ起きろ」
 とりあえず、掛布団の上から軽く揺すってみる。
「ふふ、むにゃ……」
 むにゃむにゃ言いながら、リチェルカーレは体を丸めてしまった。
「……リチェ」
 少し強めに体を揺すってみる。
(……あれ、お母さんじゃない……?)
 声と、手の感覚に違和を感じる。リチェルカーレはもぞもぞと顔を布団から出して、シリウスを見上げた。その緊張感のないぽやぽやの寝ぼけ顔に、シリウスはまだ寝ているな、とちいさくため息をついた。
「……聞こえているか? そろそろ食事……っ」
 にっこりと笑ったリチェルカーレは、何を思ったのか両腕を伸ばしてシリウスの首に抱きつく。
「……あったかい、ね。もうすこし、ねよ……?」
 ぐい、と体重をベッドへ戻すようにして、リチェルカーレはシリウスを布団の中へと引きこむ。
「……」
 急に抱きつかれたものだから硬直してしまったシリウス。
「ふふ……きもちいい、ねぇ~……」
 むにゅむにゅと幸せそうな呟きに、シリウスはハッと我に返る。子供のような体温に、子供ではない女性特有の丸みがある柔らかな身体。何とか離れようと、シリウスはリチェルカーレの耳元で少し大きめの声を出した。
「……ッリチェ! いい加減起きろ!」
「ふぇ?」
 ……シリウス、焦ってる……?
「起きろ」って……あれ、わたし今どこにいるんだったっけ。
 イマイチ状況を整理できないまま、リチェルカーレはぱちりと目を開いた。
 シリウスは、盛大なため息をつく。
 数秒。
 リチェルカーレは、覆いかぶさるようにして自分の上にいるシリウスをみつけて、目をまんまるくする。
「――!?」
「……子どもじゃない云々というならもう少し……」
 諭そうとしたが、シリウスは見る間に真っ赤になっていくリチェルカーレの顔に、自分たちの体勢を見直して絶句した。
 ――これは……。
「~~~~!!」
 何も言えずシリウスを離して、リチェルカーレは恥ずかしさからもう一度布団に潜る。こんな顔、これ以上見せられない――!
 シリウスはしばらく放心していたが、今更真っ赤になって動揺しているリチェルカーレを見ていたら、なんだかおかしくなってきて噴き出してしまった。
「っふ……」
「……うぅ……」
 ちらりと布団からそんな彼を覗き見て、リチェルカーレは更に真っ赤になっていく。それは、二人だけしか知らないおはなし。


 ――お布団――それは、楽園。
 ――お布団――それは、魔窟。
 一度入った者は、決して逃がさない。ファルファッラも、その魅力に憑りつかれているところだった。
「お布団……なんて暖かいのかしら……ここから出るなんて考えられないわ……」
 うっとりとした顔で、お布団に包まれる彼女。
(すっかり布団にこもってるな……)
 そんな彼女が包まっているオフトゥン要塞を見つめ、レオナルド・グリムは小さくため息をついた。
「寒いし気持ちが分からんでもないんだが……いやむしろ同意したいくらいだ」
 彼とて寒さに強いわけではない。この冬の凍てつく空気へオフトゥンという楽園から飛び出て行くのが嫌だというのは、共通の想いであろう。
「それーなーのーにー!!」
 レオナルドの手は、お布団を引っ掴んで剥がそうとしている。
「今日は仕事の用事で外に出なくちゃならんのだ……! 観念して起きろ!」
 お布団は『やめて! 私の為に争わないで!』状態である。両方から引っ張られまくって伸びてしまわないか心配なレベルでの攻防戦。やや数分ほどそんな戦いを繰り広げた結果の勝者はレオナルドであった。
「はぁ、はぁ、力ではこちらの方がまだ有利だからな……」
 どこかからゴングの音が聞こえそうな。
「嫌! 出たくない! 出たくないー!」
 それでもファルファッラはなんとか奪い返したお布団へと再度潜り込もうとしている。
「こら、戻ろうとするんじゃないお前の好きなフレンチトーストを焼いてある」
「えっ」
 ファルファッラの目に精気が宿った。
 冷めてしまうぞ、いらないのか、という一押しに、容易に彼女のお布団要塞は陥落した。
「フレンチトースト? 食べる! 食べるわ!」
「ココアだっていれてやる」
 もそり、ファルファッラの身体が完全にお布団から出た!!
「ココアは砂糖をたっぷり入れてね!」
 わかった、とレオナルドが頷くと、ファルファッラはぴょこんと跳ね起きる。さて、問題はどうやってリビングへ向かわせるかだ。もう一押し。
「それに今日は一か所だけだがお前の好きな所に寄ってやる。だから……」
 待ってましたとばかりにファルファッラの瞳が光った。
「ふふふ、帰りにどこに寄ろうかしら。カフェにしようかしらそれとも雑貨屋さん? 楽しみだわ!」
 先刻までのお布団攻防戦が嘘のように、ファルファッラは活き活きとした顔で足取り軽くリビングへ向かい出す。
「……まったく現金なやつだ……」
 ココアの湯気が、ふわふわと立ち上る。
 朝食を口に運びながら、レオナルドは小さく安堵のため息をついた。
「何とか時間までには出かけられそうだな」
 ふんふんと鼻歌交じりに朝食を食べながら、ファルファッラは櫛を手に取る。
「これってなんだかデートみたいよね。楽しみだわ!」
「お前とデート? ……まぁ半分は仕事だがそう言えんこともない」
 ふ、と笑ったレオナルドにファルファッラは目をぱちくりと瞬かせた。
「えっ……? 『デート』を否定しないの?」
 いつもだったら何がデートだ、と窘められてしまうのだが。
(心境の変化? それとも悪戯? 悪戯だったらしばらく立ち直れそうにないんだけど……)
 やっと、やっと女性として見てもらえるかしら。ファルファッラは鼻息荒く問う。
 そんな彼女に、レオナルドは苦笑した。
「まぁ他人から見ればよくて兄妹、いいとこ親子だがな。それでいいなら付き合うさ」
 そして、少しだけ冷めたコーヒーをゆっくりと喉へ流し込む。
 ファルファッラは髪を櫛で梳かしながらにやりと笑った。
「ふふ……でも、いいわ……!」
「ん?」
「兄妹でも親子でもない。完全にカップルだってみんなに見せ付けてあげるんだから……!」
 なにやら、やる気満々だ。全くこの子ときたら。
 レオナルドは、まだまだそんなところがあどけないファルファッラに笑みを隠しきれないのだった。 



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 寿ゆかり
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月30日
出発日 01月04日 00:00
予定納品日 01月14日

参加者

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