風邪引き注意報(森静流 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ


 その日、あなたは精霊と映画館の前で待ち合わせをしていました。
 ですが、時刻になっても精霊が現れません。
 あなたは文句を言ってやろうとスマホを取り出しました。ちょうどそのとき、精霊から電話。
「おい、どうしたんだよ」
 不機嫌に出るあなた。
「ごべん……がぜびいで、そどにでらうぇん……」
「はあ!?」
「だがら、がぜ……」
 どうやら、精霊は最近の寒波で風邪をこじらして自宅で寝ている模様です。

 一時間後、あなたは市販の風邪薬やスポーツ飲料、それにレトルトのおかゆなどをひとそろい購入して精霊の自宅を訪れていました。
 呼び鈴を鳴らすと、奥から精霊のしゃがれた声が。
「シャレにならねーな、もう」
 ぶつくさ言いながらもあなたは合い鍵を開けて精霊の部屋の中に入ります。
 精霊はベッドの中で苦しそうに咳き込んでいました。
「あ……おばえ……」
「”おばえ”じゃねーよ」
「風邪うつるのに……」
「気合いで跳ね返すよ。いいから、ほら、腹に何か入れて薬飲めって」
 あなたは精霊の前にプリンアラモードとスポーツ飲料を差し出しました。
「……ありばどう」
 食事をしていなかったのか、精霊は遠慮無くプリンを食べます。その間に、あなたは散らかり放題の床をなんとか片付けてこたつを救出しました。
「薬飲んだら、服脱いで一回、汗をふけって。どうせ風呂も入ってないんだろ? 綺麗なパジャマに着替えて、布団厚着して汗かいてなおしちまえって」
「うん……」
 救出したこたつの中にちゃっかり入ったあなたはみかんを剥いて、精霊の方に渡してあげます。
「とりあえず、お前が寝るまでいてやるからさ」
 精霊は鼻をぐすんぐすん言わせています。どうやら感動している模様です。体が弱って心も弱っていたのでしょうか。試しにティッシュ箱を渡したら、凄い大きな音で鼻をかんでいました。

 薬を飲んで一眠りすると、精霊は声がまともになって、鼻水も治っていました。
 あなたが作ったレトルトのおかゆをおいしそうに食べて、あなたに冷たいタオルで汗を拭いてもらって、かなり気持ち良さそうにしています。
 布団の中に入れてあげるとまるでお母さんでも見るような目つきであなたを見上げ、一言。
「なあ……今日は帰るの?」
「帰るけど? 俺だって、明日予定あるし」
「嫌だ」
 急に、強い声音で精霊が言いました。
「嫌って、お前……」
「嫌だ。今日は俺のところにいてくれ」
「……」
「後で何でも言う事聞くから、今日は俺の部屋にいて」

解説

 風邪を引いた精霊(神人)の自宅で神人(精霊)が、お泊まりで看病というエピソードになります。
 文中では神人が精霊の看病をしていますが、逆でも勿論かまいません。
※市販の薬や食糧を買ったので300Jrいただきます。
※お泊まりですが、公序良俗に反する行動は出来ません。
※風邪とありますが、腹を下したとか怪我をしたなどのエピソードでも構いません。ですが重病重傷は避けてください。一晩の看病ですむ程度で。
※お泊まりの間、どのような看病をしたか、どのようなエピソードがあったかをプランに書いてください。
※看病をしてあげた方は、ご褒美として何でも一個命令出来ます。公序良俗に反さない、常識に許される程度のお願いを一つ相手にしてください。それに対する相方の反応を書いてください。お願いが叶ったかどうかは、書いても書かなくてもOKです。
※勿論、同居しているウィンクルムでも参加出来ます。
※完全個別エピソードになります。


ゲームマスターより

冬の定番で看病ネタを書いてみました。お泊まりなのできわどい事もあるかもしれませんが、なにとぞ良識の範囲内でお願いします!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)

  *看病する方

夕方大学から帰った時、ランスが咳き込む
夕食(チキンカレー)が出来たと部屋をノック
咳が帰ってきた
あれ?(戸を開け
ランスそんな格好で寝たら風邪引くぞ?
ゆさゆさ)
って熱あるじゃないか!
なんでちゃんと寝ないかな、もうーー
過信は禁物だぞ(めっ
ほら、ちゃんとベッドに…(重い、でも頑張って運ぶ

明日になってもダメなら医者
約束だからな

加湿器出して加湿
冷凍庫の保冷剤をタオルで包む(頭の下と上

食欲を聞く
リンゴを摩り下ろしプリンと一緒に持って来る
背を支え食べさせる
薬も買ってきたよ

ゆっくり寝ろよ
時々見に来るからな(其のたび換気し菌を散らす

☆二日目のカレーは美味いぞ
☆お願い⇒今週のゴミ出し当番代わってくれ(笑


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  ラキアが何か顔赤くて、ぼーっとしてるからさ。
額触ったら、熱いじゃん。
「それ、ラキアが熱いんじゃね?」
熱計ったら、思いっきり熱ある!
そのまま抱えて、寝室へ。
早く着替えないとベッドへ放り投げちゃうぞ。
「夕飯の心配より、あったかくして寝てろよ」

薬飲むにしても何か軽く食べたほうがいいよな。りんごすりおろすか。
その間、寝室の暖房温度上げて、猫達を入れる。
「ラキアの側に居てくれよ」とクロ達に言ったら「にゃー」と心強い返事。
なんていい子達なんだ(親バカ。
すりおろし林檎と薬箱持って行こう。薬どれが良いのかワカンナイし。
夕食は鍋焼きうどん。暖かくて消化に良い!

お礼は明日美味しい夕食をラキアが作ってくれたらヨシ!



蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  フィンが仕事で一晩家を空けた間に、二人の寝室にフィンが居ない寂しさを紛らわすように一晩中作曲していたら、風邪を引いてしまった

朝方仮眠を取るつもりでソファで寝たら
声が出ない
熱で頭はクラクラするし…最悪だ
俺って、本当に子供だな…(自己嫌悪)

何とかフィンを出迎えてから、部屋に籠って寝ようと思ったけど、誤魔化せる訳もなく
フィン、怒るよな?と思ったのに…
俺の声が出なくても、俺の言いたい事、体調を察してくれる
優しい手
フィンだって仕事があって、風邪が移るかもしれないのに…
フィン…ありがとう
絶対早く治す
フィンに風邪が移ってたら、俺が看病するから

フィンの言う事に素直に従い身を任せる

お願い事には感謝を込め応えたい


瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
  (なぜ、お前が……)
目を伏せる。
布団の上で何も言わず、自分に背を向けてぐったりする珊瑚の肩に触れる。
正面に回り込むと、そっとマスクをかける。
ポケットティッシュとハンカチを枕元に置き、咳や痰を抑えて、と目で訴えた。

「……わかった」
冷水で濡れたタオルを珊瑚の額に置き、台所に向かう。
多めの鰹節に、味噌を適量入れ、
一口サイズに切った豚肉と刻み葱、梅干やじゃが芋も入れ、お湯を注いだ。
(※調理スキル使用)

「食べ切れないなら」
ふと言おうとして、だども気恥ずかしくて、目を背けた。
長い沈黙の後、深呼吸をし、意を決して言う。
「……俺に分けて」

「珊瑚……めがっさ、うめぇべ」
作るのも、顔が綻びるのも初めてだったから。



ルゥ・ラーン(コーディ)
  日中に
あんな部屋で休んだって治るモノも治らないよと言われ
彼の部屋で休ませて貰っていた
物音で目醒め
お帰りなさい
してくれるままに


少し疲れた微笑で
…最近寝かせてもらえなくて…手強いですね

十分、して貰っています
彼の不満そうな顔
本当ですよ?
そっと彼の頬に触れ
こうして私を気に掛けてくれる事、受入れてくれる事
それが私にとってどれだけの喜びか…
気が昂って瞳が潤む
私のただ一人の人…
彼の胸にもたれ掛る


横になり
私取り乱しましたね…失礼しました(頬染
このお礼を…
何かして欲しい事はありますか?
避難…はい、させて貰います
最近気づいた、彼は照れると仏頂顔になる
くすっ


彼の家には余分な布団がないので一緒のベッドで就寝


●蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)編

 その日、蒼崎海十は、一晩中作曲をしていました。精霊のフィン・ブラーシュが仕事で一晩家を空けていたのです。二人の寝室に彼がいない寂しさを紛らすために作曲を続けていたら、何だか寒気がしてきました。
 朝方、仮眠を取るためにソファで寝たところ、目が覚めたら声が出ません。
 熱で頭がクラクラします。
(……最悪だ。俺って、本当に子どもだな……)
 自己嫌悪してしまう海十でした。
 やがてフィンが帰って来ました。海十が出迎えます。
「海十?」
 フィンは、海十の様子がおかしいことをすぐに見て取りました。
 ですが、海十は声が出ない事を誤魔化しながら、すぐに部屋に籠もって寝ようとしました。フィンに怒られると思ったし、何よりも心配をかけたくなかったのです。
 フィンは素早く逃がさないように彼の手をつかみ、体を引き寄せると、額をくっつけました。
「……熱がある」
 海十がフィンを誤魔化せる訳がなかったのです。
「海十、寒気はある?」
 予想外にフィンは優しい声で海十に尋ねました。
「フィン、怒るよな? と思ったのに……」
 そう言おうと思ったのですが、声がかすれて出ませんでした。
 フィンは怒りはしませんでしたが、断固として海十を捕まえてしまいました。
 フィンは海十を寝室に運び、厚手のパジャマに着替えさせると、冷えやすい首元に温かいマフラーを巻いて、足下には湯たんぽ、それからしっかりと彼を布団に包み込みました。
(俺の声が出なくても、俺の言いたい事、体調を察してくれる。優しい手)
 それからフィンはキッチンに向かうと手早く甘酒を造ります。
 薬と一緒に飲ませるつもりです。
「甘酒は飲む点滴って言われているんだよ」
 甘酒と薬を海十の口元に持って行きますが、声が出ないほど喉が腫れている海十は、うまく飲み込む事が出来ませんでした。
「海十」
 フィンは優しく言うと、自分の口の中に甘酒と薬を含みます。
 それからそっと、海十に口移しをしました。
「フィンだって仕事があって、風邪が移るかもしれないのに……フィン……ありがとう。絶対早く治す。フィンに風邪が移ってたら、俺が看病するから」
 海十は口パクでそう告げます。風邪のせいでうまく言えないのです。
「風邪が移る? 平気だよ。俺は傍に居るから、安心してゆっくり眠って」
 ですが、フィンにはしっかり通じているのでした。
 フィンは海十が眠るまで彼の髪の毛を優しく撫でていました。
 海十はフィンの言う事に素直に従い、身を任せています。そのうち本当に眠ってしまいました。
 フィンは海十のために氷枕と濡れタオル、着替え、スポーツドリンクに雑炊を用意しました。海十が目覚める時は、必ずそばにいます。
 彼の体を拭いて、着替えさせてあげるのです。
「ご飯食べて水をしっかり飲もうね」
 そして食事も手伝ってくれました。
「フィン……。俺、お礼になんて言ったら。俺に出来る事があったら何でも言ってくれ」
 ようやく喉の腫れが引いてきた海十はか細い声でそう言いました。
「お願いは、海十からキスして欲しい。キスしてくれれば治ったって確信できるしね」
 フィンは冗談っぽい口調でそう言いました。
 けれど、海十はフィンの蒼い目を見て、彼が冗談で言っている訳ではないことを読み取りました。
「フィン……」
 早く風邪を治してしまおう……海十は本当にそう思います。
 風邪が治ったら、フィンに心からのキスをするのです。感謝の気持ちと、本当の愛をこめたキス。
 それを受け入れてくれた時、フィンがどんな表情でどんな事を言うのか、想像しながら、海十はまた優しい眠りに落ちていきました。
 フィンの手に撫でられて、彼の眼差しに守られて。
 
●アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)編

 夕方、アキ・セイジが大学から帰ってきた時、精霊のヴェルトール・ランスの咳が家の奥から聞こえました。
(なんかボーッとすんなあ)
 ランスは咳き込みながら部屋に戻ります。
 ぼーっとしながら雑誌を開きます。
 ローテーブルがひんやりとして気持ち良いです。
「ランス、チキンカレーが出来たぞ。夕食にしよう」
 セイジがそう告げて、部屋をノックしました。
 返事はランスの咳でした。
「あれ?」
 ドアを開けて中を見て、セイジは奇妙な顔をします。
 ランスがローテーブルの上に伸びているのです。
「ランスそんな格好で寝たら風邪引くぞ?」
「なんか熱くてさあ……」
 そう言うランスに近づいて行って、セイジは額に手を当てました。
「って熱あるじゃないか!」
 ランスはセイジから逃げるように立ち上がります。
「大丈夫大丈夫」
 しかし、そう言いながらぱたりと床に倒れてしまいました。
「なんでちゃんと寝ないかな、もう……」
「大丈夫大丈夫」
「過信は禁物だぞ!」
 めっとランスを叱りつけるセイジでした。
「ほら、ちゃんとベッドに……」
 セイジはランスを担ぎ上げようとしますが、重さによろけてしまいます。でも頑張って運びました。
 ランスはベッドに転がされると、すぐに眠ってしまいました。
 やがて、ランスはひんやり気持ち良くて目が覚めました。
(冷やし枕気持ちいいなあ)
 耳に加湿器の音が聞こえてきます。部屋の温度も湿度もちょうどいいようです。セイジが出したのでしょう。
 そして冷凍庫の保冷剤をタオルで包んで頭の上と下に入れたのでした。
「ランス、食欲は?」
「少しある……」
 セイジはその答えを聞いて、リンゴをすり下ろしてプリンと一緒に持って来ました。
 ランスの背を支えて食べさせます。
「薬も買ってきたよ」
 セイジはかいがいしくランスの看病をしました。
「水分と糖分補給か……美味い」
 ランスは大人しく、セイジに出された物を食べ、薬も飲みました。
 医学知識のある彼は内心でセイジの事を高く評価しました。
「あんま部屋に入るなよ。付きっ切り看病して二重感染ってのはダメだ。ちと寂しいけど我慢すっから」
「ゆっくり寝ろよ。時々見に来るからな」
 ランスは熱ですぐに眠ってしまいました。
 セイジは時々、彼の部屋に来て世話をしてくれます。そのたびに窓を開けて換気をし、菌を散らします。
 セイジはランスの熱を測り、氷枕を取り換え、手を優しく握りしめてくれました。
(前にもこんなことあったなあ。ああ、あれはバレンタインでのねずみ取り騒ぎの時だ。俺が鼻がむずむずしてくしゃみをしただけだったのに、セイジは大げさに心配して色々看病してくれたんだっけ……。セイジは容赦ないところもあるけれど、俺に対して本当に大事にしてくれるんだな……)
 今までの事を振り返り、セイジの性格の良さと愛情を身に染みてわかるランスでした。一方、セイジの方は平然とした様子で、ランスに優しく笑いかけながら、力づけるように手を握ってくれているのです。
「嬉しいなあ、ありがとう」
 感激してしまうランスでした。
(たまには病気も良いかもなあ)
 などとダメな事を考えてしまい自戒します。
 翌日、回復したランスはセイジにお礼に何でも言ってくれと言いました。
「お願い? 今週のゴミ出し当番かわってくれ」
「ゴミ出し? いいぜ。ゆっくり寝てろよ」
 そう言って二人は笑ってしまいます。
「二日目のカレーは美味いぞ」
 いつもと変わらない様子でセイジがそう言って、ランスはセイジの優しさは身に備わったものだと思い、密かに惚れ直したのでした。
 そして、セイジも負けずに俺に惚れてくれたらよいと心から思うのでした。

●ルゥ・ラーン(コーディ)編

 ルゥ・ラーンは物音で目が覚めました。彼が眠っているのは、精霊のコーディの部屋です。部屋に主が帰ってきたのです。
(あんな部屋で休んだって治るモノも治らないよ)
 コーディにそう言われて、彼の部屋で休ませて貰っていたのでした。
「お帰りなさい」
 深夜の仕事から帰宅したコーディは、早速、彼のベッドで眠るルゥの顔を覗いてみます。
「起こした? 具合どう?」
「楽になりました」
 そういう彼の額に手を当てます。
「熱は引いたね、待っててよ」
 そう告げてコーディは台所に行き、スープを作り、二人で食べることにしました。
 食べ終わった後は、ルゥにシャワーを使わせます。
 その間にルゥの寝ていたベッドのシーツを変えて、シャワーから戻って来た彼に風邪薬を飲ませました。
 それからおもむろに尋ねます。
「体調崩したのってあの部屋のせいだよね?」
 それを聞くと、ルゥは少し疲れた微笑になりました。
「……最近寝かせてもらえなくて……手強いですね」
「あの部屋のいわくとはラップ音等の所謂怪現象で、長屋の仲間内では霊がいるというのが一様の認識。そんな所で暮らして無事な訳ないと思ってた」
 コーディは固い口調でそう言いました。
「僕に出来る事は?」
「充分、してもらっています」
 ルゥがそう答えると、コーディは不満そうな顔になりました。
「本当ですよ?」
 ルゥはそっとコーディの頬に触れました。
「こうして私を気に掛けてくれる事、受入れてくれる事、それが私にとってどれだけの喜びか……」
 気が昂ぶってきて、ルゥの瞳はひとりでに潤みます。
「私のただ一人の人……」
 ルゥはコーディの胸にもたれかかりました。
「えっ」
 コーディは大人な展開を想像してしまい、狼狽えますが、はっとしてルゥの額に手を当てると熱があることが分かりました。
 慌ててコーディはルゥをベッドに寝かせます。
 コーディは先日の手紙の事を考えていました。
『私はあなたの未来の変革を試みる者』
 ルゥは、あの部屋に籠もる瘴気を、神人の自分が住み続ける事で浄化して、コーディの運気を向上すると言っていました。
 だから、こんな目にあっても、あの部屋に住み続けるのだと思います。それが本当の事なのか、何が真実の目的なのか、コーディにはまだ理解出来ないのだけれど。
 ルゥはベッドに横たわり、少し冷静になった様子でした。
「私、取り乱しましたね……失礼しました」
 頬を染めています。
「別に」
 コーディも、彼の言葉を思い出して赤くなりました。
「このお礼を……何かして欲しい事はありますか?」
(そんなこと聞くなよ)
 赤くなりながらそう思いつつ、コーディは横を向いて言いました。
「なら……ヤバイ時はうちに避難する事」
 神人が自分のために、自己犠牲をする事は、胸が痛むような反発がありました。
「避難……はい、させてもらいます」
 ルゥはそこで、最近気がついていた事を思い返しました。
 コーディは照れると仏頂面になるのです。
 ルゥはくすっと笑いました。
 なんて愛しい精霊なのでしょう。
 コーディの家には余分な布団がないので、二人は一緒のベッドで就寝しました。
 互いの体温を感じ、互いの呼吸と鼓動に耳を澄ましながら、冬の長い夜の静けさをいつまでも噛みしめて--いつか眠りに落ちました。

●瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)編

「熱出るし、咳も痰も止まらねぇ」
 精霊の瑪瑙 珊瑚が、神人の瑪瑙 瑠璃に布団の上で延々と愚痴っています。
「少し食べても吐き気がする」
「……」
「ちゃーすりゃあいいんだよぉぉぉぉぉぉぉ!」
 ポーカーフェイスの瑠璃は今も最低限の事しか話しません。
 目を伏せて、布団の上で何も言わず、自分に背を向けてぐったりしている珊瑚の肩に触れます。それから正面に回り込むと、そっとマスクをかけました。
 ポケットティッシュとハンカチを枕元に置き、咳や痰を抑えて、と目で訴えました。
 珊瑚はゲホゲホしながら何か言っています。
 瑠璃は看病しようと彼に近づくと、珊瑚の体臭を感じ取りました。
 そこで反対に、自分の体臭の事が気になります。
 瑠璃は、珊瑚が言うには、父親の部屋から出てきた、自分の母親じゃない女性の写真……そこでかいだ匂いと同じものを瑠璃は持っているそうです。そして、それは珊瑚にとっては思い出の匂いで、消さないで欲しいのだと言っていました。瑠璃は、そこでまた、自分と珊瑚の?がりの事について一瞬深く考えました。
 既に神人と精霊というだけではない感情を、互いに抱いている二人。どんな運命の絆がそこにはあると言うのでしょうか。
「……わかった」
 でも、今はまず、珊瑚の看病です。
 冷水で濡れたタオルを珊瑚の額に置いて、台所に向かいます。
 多めの鰹節に、味噌を適量入れ、一口サイズに切った豚肉と刻みネギ、梅干しやジャガイモを入れて、お湯を注ぎました。
 こう見えて、瑠璃は調理スキルが高いのです。
「くぬ味……かちゅー湯! 子供の頃、おとうがご飯ぬ度に必ず作ったあの味」
 珊瑚の方は大感激です。
 止まらない涙とともに、音を立てて湯を飲みました。
「……デージマーサン……!」
 瑠璃は珊瑚の食欲を危なっかしく見守りながらも、安心した様子です。
「風邪治ったらさー、わん、何すればいい?」
 珊瑚がそう尋ねると、瑠璃は頭を左右に振りました。
 何もいらないと言うのです。
 かわりに、自分の料理を最後まで食べて欲しいと呟くように言いました。
「……食べきれないなら」
 ふと、言おうとして、
(だどもしょすくて)
 目を背けてしまいます。
 珊瑚は不思議そうに瑠璃を見ています。
 長い沈黙の後、深呼吸をして、意を決して瑠璃は言いました。
「……俺に分けて」
「瑠璃、あーんしろ」
 そんな瑠璃の事をどう思ったのか、珊瑚はニヤニヤして、かちゅー湯をすくい、瑠璃の口元に持って行きました。
 口を開けるのを待ってましたとばかりに、かちゅー湯を注ぎます。
 瑠璃は目を見開きました。
「珊瑚……めがっさ、うめぇべ」
 瑠璃はかちゅー湯を作るのも、顔がほころびるのも初めてだったのでした。
「初!?」
 やしが。
 珊瑚はニっと笑うと、狙いを定めるように瑠璃の額にくちづけました。
「にふぇーど」
 にふぇーどは、珊瑚の育った土地で、ありがとうという意味の言葉です。
 瑠璃が、珊瑚のために生まれて初めての料理を作ってくれた事。
 そうして、初めて顔をほころばせて笑うところを見せてくれた事。
 そうした事全てに対して、珊瑚は何の陰りもない笑顔を見せて、にふぇーどと言いました。
 瑠璃は眩しそうにその笑顔を見ています。
 風邪の時だって、こんなにも快活な笑顔を見せる彼。
「……早く、治してしまえ」
 風邪が治ったならば、もっといい笑顔を見せて、もっと明るい光を放ってくれるかもしれないから。瑠璃はもっともっとと珊瑚を求める自分の心に戸惑いを感じながらも、そう望むのでした。

●セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)編

 セイリュー・グラシアは精霊のラキア・ジェイドバインが、何だか顔が赤くてぼーっとしている事に気がつきました。
 それで、ひょいとラキアの額を触ったら、熱いのです。
「セイリューの手が冷たくて気持ちいいねぇ」
「それ、ラキアが熱いんじゃね?」
 セイリューはそう言ってラキアに体温計で熱を測るように勧めました。
 結果、思いっきり熱がある事が分かりました。
「確かに高い……」
 ラキアはぼんやりと言います。
(どーりで、頭くらくらすると思った。帰宅時の手洗い、うがい、家の中の保湿、ちゃんと気をつけていたつもりだったのに……)
 いつもと違って動作の鈍いラキアを抱えて、セイリューは寝室へと運びました。
「早く着替えないとベッドへ放り投げちゃうぞ」
 ラキアは着替えて大人しくベッドに潜り込みます。
「夕食の下ごしらえは冷蔵庫に……」 
「夕飯の心配より、あったかくして寝てろよ」
 そう言って、セイリューはキッチンに向かいました。
 なんだかちょっと嬉しい気持ちもします。
 何しろラキアは、しっかり者ですから、滅多に風邪を引いたりしないのです。怪我や病気で看病されるのはセイリューの方が断然多いのです。いつもお世話になっている、そんな彼を看病する機会など、滅多にあるものではありません。
 何よりも大好きなラキアに元気になってもらうためです。頑張って看病をしたいのです。
(薬飲むにしても何か軽く食べたほうがいいよな。りんごすりおろすか)
 すると、人間達の気配を察した猫達がセイリューの足下に寄ってきました。セイリューは猫とレカーロ達を寝室に入れて、暖房の温度を上げます。
「ラキアの傍にいてくれよ」
 クロ達に言うと「にゃー」と心強い返事です。黒猫はクロウリー、茶虎はトラヴァース、三匹目はバロン、そしてレカーロのユキシロ。それぞれもふもふとラキアの傍に寄っていって、彼の顔をのぞき込んだり、手を舐めたり。そしてそれぞれラキアの傍にばふっと座り込みました。
「なんていい子達なんだ」
 ラキアもセイリューもすっかり親馬鹿です。
 ラキアが猫達をまふまふと構っていると、セイリューがすりおろしリンゴの小鉢を持って来てくれました。
「セイリュー優しい」
 ラキアは感激しています。
 そして、セイリューは薬箱をそのまま持って行きました。
「薬どれが良いのか判らなかったので箱ごと?」
 セイリューらしさにラキアはくすっと笑います。
「熱と頭痛が主だから薬はコレだね」
 ラキアは自分で薬を選ぶと飲みました。
 それから静かにベッドに横たわります。ラキアの周りにはもふもふの猫達とレカーロが上下左右に陣取って、しっかり看病しています。こういう時にペットがそばにいてくれるのは、やはり飼い主への愛情で、相手を慰め力を与えるためなのです。ペットは家族ですから。
 やがて、セイリューがスポーツドリンクと夕飯の鍋焼きうどんを作って持って来ました。
 熱で体が火照っていたラキアはスポーツドリンクで水分補給です。おうどんももちろん食べます。
 ラキアが熱いうどんに舌を焼きそうになっていると、セイリューが箸で取ってふうふうと息を吹きかけてくれました。
「美味しいよ、ありがとう。明日までに絶対治すね」
 かいがいしく看病をしてくれるセイリューはとても頼りになります。
「ありがとう……お礼に何をすればいいかな」
「お礼は明日美味しい夕食をラキアが作ってくれたらヨシ!」
 セイリューは快活に親指を立てながらそう言い切りました。
 ラキアは、微笑み、しっかり風邪を治さなければとなべやきうどんを完食しました。
 脇では猫とレカーロ達が尻尾を振りながら仲の良い主人達を満足そうに見ています。暖かい部屋、温かい家族たち、温かい食事……それら一つ一つがラキアの疲れた体に染み渡って明日への活力へとなっていきました。
 風邪を引いていても、例えば怪我をしていても--そばに、愛する家族がいるのなら、それはとっても幸福な事で、人は必ず明日には元気になっているのです。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 森静流
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月29日
出発日 01月09日 00:00
予定納品日 01月19日

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