今年の抱負を胸に(木口アキノ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「皆さん、お汁粉です!」
 新人A.R.O.A.職員の女性が、目をキラキラさせて言う。
「あ……っ、じゃなくてお雑煮……いえいえ、書き初めです!」
 とりあえず、彼女が食べ物に目がないということはよくわかった。
「えーとですね、タブロス市内のギャラリーで書き初め大会があるんです!参加者には書き初めを終えた後、お汁粉、お雑煮、お寿司が振舞われるんですよー!ウィンクルムの皆さんもぜひどうぞ、とギャラリーからお誘いがあったのです」
 と職員は料理の数だけ指を折ってゆく。
「あ、でもメインは書き初めですから!新たな年の抱負がテーマだそうです。オーガやっつける!でも、今年こそ告白する!でも、新年の抱負であれば内容は自由だそうですよ。書き初めは、ギャラリーに飾られるそうですから、ちょっと緊張しますねー。毛筆って難しいですもんね。でもお汁粉のためですから!」
 本当に書き初めがメインだと思ってる?と聞き返したくなるが……。
 新年の抱負を書き初めに認めれば、気持ちも引き締まるかもしれない。また、仲間たちはどんなことを書き初めに書くのかも興味がある。
 一年のスタートに相応しい催しではないか。
 いや、決してその後のお汁粉とかお雑煮とかお寿司とかに惹かれたわけではない!決して!

解説

書き初めをしよう!というエピソードになります。
神人と精霊、それぞれ新年の抱負を書いてください。
書き初めには基本名前も書き入れていただきますが、希望があれば無記名も可能です。
その後、お汁粉、お雑煮、お寿司を楽しんでください。食べる量に制限はありません。
温かい緑茶も用意してあります。
書き終えた書き初めはギャラリーに展示されます。
食後はギャラリーで他のウィンクルムの書き初めを鑑賞するのも良いかもしれません。

参加費用は【400jr】となります。

基本個別描写ですが、同じ会場にいますので顔を合わせることもあります。
完全な個別描写を希望する場合、その旨プランに記載願います。
また、書き初めはギャラリーに展示されますので、他のウィンクルムの目に触れ、話題に上ることもあります。ご了承ください。

ゲームマスターより

お正月らしいエピソードを……と思いまして。
書き初めと一緒にお汁粉なども用意してみました。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)

  書初めで豊富ですか…
いざこういう場になると言葉が出てこないものですね
何にしましょう
……ちょっと一枚書いてみますか
「焼肉定食」、今食べたいものです

ディエゴさんに注意されましたが
彼は何と書いたんでしょうか
のらりくらとかわされて見ることができません
あ、この焼肉定食の紙、わきによけてもらえますか
と隙をついてみる!!
ディエゴさん…そういうボケいいですから

書き直しました
今年の意気込みは「忍之一字」です
クラスの高いオーガの出現など、ウィンクルムにとって苦しい状況が続いておりますが
耐え忍べば物事はきっと良い方向に転がるだろうと信じて書きました。


明石・灯代(清瀬・光明)
  おじいちゃんと出かけるのは初めてですね
楽しんで貰えると良いけど

……わ、おじいちゃん凄い……
意味は解るけど、私そんな四字熟語ぱっと思いつきません……

そ、そっか
有難うございます
よぉし、なんて書こうかな……

よ、よし……

『一生懸命』
(丸みのある字、下手ではないが上手くもない)

今の私に出来る事はこれかなって
ありきたりだけど、何を頑張るかは自分次第だから

えへへ、有難うございます
清瀬のおじいちゃんのお陰です

と……ほっとしたらお腹空いちゃった
色々食べ物用意してくれてるんですね
折角だからお寿司頂きます!

……って、そうだった!
わぁあ無記名にするべきだったかなあ
……そ、うかも知れないですけど
やっぱり恥ずかしい……


井垣 スミ(雨池颯太)
  抱負:走れば躓

良く書けてるわね。上手よ。
これはね。慌てると失敗をしてしまいやすいから、気をつけましょう。という言葉なのよ。

そうちゃんはどう強くなるのかしら。
あらあら、いっぱいね。(微笑む
いっぱいなら、いっぱいな分。頑張らないといけないわね。
慌てないでできることから、ね。

私はお寿司をいただこうかしら。(年齢を考え、餅を避ける
あら、そうちゃん。ほっぺたについてるわよ。はい、取れた。(ハンカチで拭く

ギャラリー鑑賞:
年の初めに一年の抱負を書く。良い事ね。
そうよ。ここに書いた事をできるように努力するの。

字には人柄が出るの。そうちゃんのはね、のびのびとして元気な字。
見てる側も元気になれるわ。
ええ、勿論よ。


和泉 羽海(セララ)
  書初きめなんて、何年ぶりだろう…
小さい頃は…毎年書いてたと…思うんだけどな…
服とか…汚さないように…しないと…
新年の抱負……がんばりたいこと……?
新作ゲームの攻略……さすがにそれはちょっと違う、かな…(しばらく悩む)

『色々がんばる』
今年はもっと…外に出たり…今までやった事ないことも…やってみたい、し…
(不安あるけど……きっと…一人じゃない、から…)
うん…よろしく…

(精霊の書初めには半眼でスルー
この人と一緒にいて…本当に大丈夫…かな…ていうか何気に…
達筆だね…ペンで書くのと毛筆とは…違うから…
うん…意外だった…

お汁粉……食べたら、他の人のも見たいな…
みんな、どんなこと書いてるんだろう…楽しみ…


アンジェリカ・リリーホワイト(真神)
  …あの、雪さま
もうひつって、なんですか?
読むのも書くのもできますよ!
都会に出てたあるおばさんに教えてもらいました!
神人だから、覚えてないと都会に出れないよって言われて
一生懸命、勉強したんですよ!!
ふぇ?書く字ですか。んー…こ、恋、とか?
だ、誰にって…そんなの、…雪さましか、いないし

毛筆って、書くの難しんですね
思ったように、書けない…
うー…ひらがなだったら、書けるかな?
『がんばる』
……。
何がんばるんだろう…
他の方が良いかなぁ…でもこれが一番うまく書けたし、雪さまに見てもらおう
どうでしょう
何が?ウィンクルムとしてとか!

飾られたらほかの皆さんのもの見ます
って、雪さま、愛情ってなんですか?誰にですか?



「あけましておめでとうーー!」
 ギャラリー前で待ち合わせていた和泉 羽海の前に現れたのは、初日の出もかくやとばかりにぺかーっと輝く笑顔のセララであった。
「新年早々、羽海ちゃんとデートできるなんて超ハッピーだよ!」
 軽く広げられた両腕は、抱擁を期待しているかのようであるが。
「………」
 羽海はちらりと一瞥しただけでくるりと踵を返し、ギャラリーの入口へ歩き出す。
 しかしセララはそれでも笑顔を崩さずに、
「今年も良い年になりそう!」
と、羽海に続きギャラリーに入った。

(書き初めなんて、何年ぶりだろう……)
 真っ白な書き初め用紙を、羽海は久し振りに見たような気がする。
(小さい頃は……毎年書いてたと……思うんだけどな……)
 昔を思い出しつつ、服を汚さないようにと袖を捲る。
 しかし、新年の抱負とは何を書けばいいのやら。
(新作ゲームの攻略……さすがにそれはちょっと違う、かな……)
「うーん、新年の抱負かぁ……ま、コレしかないよね!」
 セララは迷いなく書き始める。
 背筋をぴんと伸ばし、セララが丁寧に筆を走らせている間も、羽海は悩んでいた。
(今年はもっと……外に出たり……今までやった事ないことも……やってみたい、し……)
 羽海は静かに筆に墨汁を付ける。
 そして、ゆっくりと書き初め用紙の上に筆を置いた。
(不安あるけど……きっと……一人じゃない、から……)
 すぅっと筆を滑らせて。
 『色々がんばる』
「わーすっごく素敵!前向きでいいね!」
 書き終えると、すかさずセララが声をかける。彼は既に書き終えたようだ。
「今年も一緒に頑張ろうね!!」
 にっこり笑顔を向けられて、羽海も
『うん……よろしく……』
 と唇の動きだけで答える。
「そして最終的にはオレの目標に……!」
 セララの目標とは何なのか。羽海はちらりとセララの書き初めに視線を送る。
 『結婚!!!』
「………」
 思わず半眼になってしまった羽海。書かれていた文字はそのままスルーすることにした。
(この人と一緒にいて……本当に大丈夫……かな……)
 改めて不安が過ぎる。
(ていうか何気に……)
『達筆だね……』
 羽海が唇を動かすと、セララは飛び上がらんばかりに喜んだ。
「わ、羽海ちゃんに褒められた!」
『ペンで書くのと毛筆とは……違うから……』
 初めて見る、セララの毛筆の文字は教科書のように丁寧に書かれていた。
「こう見えてもオレ、書道習ってたことあるんだよー意外だった?」
『うん……意外だった……』
 素直な羽海の答えに、セララは得意げな笑みを見せた。
「じっとしてられなくて、すぐに辞めちゃったけどね!でもやっといて良かった!過去の俺、ぐっじょぶ!!」
 少し褒めたら、すぐこれだ。
 羽海は生温かい目でセララを見遣る。
 けれど、それがセララの良いところでもあるのだが。


「書き初めで抱負ですか……」
「抱負と言われてもな……」
 ハロルドとディエゴ・ルナ・クィンテロは揃って頭を悩ませる。
「いざこういう場になると言葉が出てこないものですね。何にしましょう」
 悩みながらもハロルドは筆を取った。
「……ちょっと一枚書いてみますか」
 では自分も、とディエゴも筆を取る。
「たまには思考を空っぽにして書いてみるか」
 するするっと筆を走らせ、書かれた言葉は。
 『タコわさ』
 何も考えずに書いたらこうなった。
 帰ったらつまみに作ろう……って、いやいや。
 ディエゴは頭を振る。
(なにふざけてるんだ俺。こんなのぜったいによそに見せられん)
 ふと隣を見ると、丁度ハロルドが筆を置いたところ。
 何を書いたか、参考までに……とディエゴが視線を遣ると。
 『焼肉定食』
「今食べたいものです」
「……ハロルド、そういうボケはいい」
 真面目な顔で言うハロルドにディエゴは額を押さえた。
「書き初めというのは一年の自分のなすことが上手くいくようにと意気込みを……」
「ディエゴさんは何を書いたんですか?」
「え、あ、俺?……いいだろうそれは、別に」
 ハロルドが首を伸ばしてきたので、ディエゴはささっと体勢を変えて書き初め用紙がハロルドに見えないように背中でガード。
「わかったら書き直すんだな」
「……わかりました」
 じとーっとディエゴを見ていたハロルドは、『焼肉定食』と書かれた用紙をひらりと持ち上げた。
「あ、この焼肉定食の紙、わきによけてもらえますか」
「ああ……」
 ディエゴが用紙を受け取ろうとした、その隙をついて、見る!
 ハロルドは上体を下げて首を伸ばし、ディエゴの腕の下から彼の書き初めを視界にロックオン。
 途端に目に入る、タコわさ、の4文字。
 2人の間に数秒の沈黙が流れた。
「ディエゴさん……そういうボケいいですから」
「……真面目にやろうか」
 新年早々夫婦漫才をしている場合ではない。

 気を取り直して。

「書き直しました」
 ハロルドは出来上がった書き初めを眺める。
 ディエゴはと言うと、字のバランスがうまく取れないようで、何度か書いてはやり直し、を繰り返している。
 真剣な顔のディエゴに、ハロルドは暫し見入ってしまう。
 やっと納得のいく出来になったようで、ディエゴは、ふう、と息をついた。
「一年の目標は『剛毅朴訥』だ。力量がついても気取らず、真面目に訓練や仕事に打ち込んでいきたい」
 ディエゴらしい内容に、ハロルドは両目を細め微笑んだ。
「私の今年の意気込みは『忍之一字』です」
 ハロルドは自分の書に視線を戻す。
「クラスの高いオーガの出現など、ウィンクルムにとって苦しい状況が続いておりますが、耐え忍べば物事はきっと良い方向に転がるだろうと信じて書きました」
 ハロルドの解説を聞き、なるほど、と納得したようにディエゴは深く頷いた。
 ウィンクルムとしての使命、何よりそれを重んじている2人は恋人であり夫婦であると共に信頼し合う戦友でもあるのだった。
 ハロルドとディエゴは顔を合わせると、唇の端を上げ笑みを交わした。


「おじいちゃんと出かけるのは初めてですね」
 明石・灯代は清瀬・光明に笑顔を向ける。
 少しそわそわしているように見えるのは、彼女が
(楽しんで貰えると良いけど)
 と、不安を抱えているからだろうか。
「ふん、筆など久しく取ってないんだがな」
 唇を歪める光明に、お出掛け先の選択を誤ったか、と一瞬ドキドキした灯代だが、続く
「年の初めに気を引き締めるには悪くないか」
 という言葉にほっと胸を撫で下ろす。

 用紙を前に光明は、姿勢と呼吸を整えると静かに筆を取る。
 そっと用紙の上に筆を下ろすと、そこからすすっと筆を走らせる。
 墨汁は滑らかに伸び、文字を形成していった。
――『粉骨砕身』
 名人の書かと思う程の出来である。
 元技術者なだけに、手先が器用なのかもしれない。
「……わ、おじいちゃん凄い……」
 灯代はその一部始終を、驚きのあまり口を開けて見ていた。
「意味は解るけど、私そんな四字熟語ぱっと思いつきません……」
 灯代の方は未だ書く文字が決まらない。
 光明の立派な書き初めを見てしまったら尚更、それに見合うものを書かなければ、と気負ってしまい余計に思いつかない。
「お前は気楽に考えても良いだろう」
 悩んでいる様子の灯代に光明はそう声をかけた。
「まだ若い学生の身分だ。寧ろ柔軟さが武器と言えよう」
「そ、そっか」
 灯代は光明の言葉に幾分心が軽くなったようだ。
「有難うございます。よぉし、なんて書こうかな……」
 改めて、目を閉じ天井を仰いで考える。
「よ、よし……」
 意を決して筆を取る。
 そっと用紙に下ろされた筆は、ゆっくりと線を描く。
 『一生懸命』
 若い女性らしく丸みのある文字。光明のものに比べれば、決して上手であるとは言えないが、かといって、下手なわけでもない。
「今の私に出来る事はこれかなって。ありきたりだけど、何を頑張るかは自分次第だから」
 はにかんで言う灯代に、光明は、よく見なければわからないほど僅かに目を細めた。
「……ふ、良いんじゃないのか。少し肩の力も抜けたようだな」
 肯定の言葉を貰い、灯代は照れながらも表情を明るくする。
「えへへ、有難うございます。清瀬のおじいちゃんのお陰です」
 書き上げてほっとしたせいか、急に空腹を感じる灯代。そう言えば、お汁粉やお寿司も用意されていたんだっけ、と思い出す。
 会場内を見渡すと、食事を用意しているコーナーを見つけた。
「色々食べ物用意してくれてるんですね」
 出来上がった書き初めをスタッフに手渡すと、灯代は光明と共に食事コーナーへ向かった。


 お習字の経験はまだあまりないけれど、雨池颯太は懸命に文字を書き上げた。白い尻尾に墨汁が一滴撥ねている。
「よし。ひーばあちゃん、書けたよ!」
 見せてくれた書き初め用紙には、勢いのある文字で
 『強くなる』
 と書かれていた。
「良く書けてるわね。上手よ」
 井垣 スミは自信たっぷりに書き初めを見せてくれる可愛い曽孫に両目を細める。
「へへ。ひーばあちゃんはなに書いたの?」
 颯太はスミの手元にある用紙を覗き込む。
 流石は年の功と言うべきか。毛筆は嗜みとして身についているのだろう。美しい文字で
 『走れば躓』
 と書かれている。
「走れば……、よめない」
 しゅんとする颯太にスミは優しく説明した。
「これはね。慌てると失敗をしてしまいやすいから、気をつけましょう。という言葉なのよ」
 ふぅん、と小首を傾げる颯太。
「そうちゃんはどう強くなるのかしら」
 問われると、颯太は満面の笑顔を見せて答える。
「うんとね。オーガをやっつけれるようにもっと強くなって。ひーばあちゃんをまもるのに強くなって。もっとたよれる男になるのに強くなるんだ!」
「あらあら、いっぱいね」
 一生懸命に喋る颯太に、スミは微笑む。
「いっぱいなら、いっぱいな分。頑張らないといけないわね」
「うん! おれがんばるよ!」
 元気な返事に、スミはますます目尻の皺を深くした。
「慌てないでできることから、ね」
「はーい」
 颯太はまだ幼いが、素直で元気なところは、誰にも負けない武器だとスミは思うのだった。


 書き初め会場につくなり、アンジェリカ・リリーホワイトは眉を顰めて真神を見上げた。
「……あの、雪さま。もうひつって、なんですか?」
「……和を知らぬ娘よな」
 真神は手近に空いている書き初めスペースに向かうと、用意されていた筆を手に取る。
「簡単に筆の扱いを教えてやる。というか、汝は字が書けるのであろうな?」
 じとりと半眼を向けられ、アンジェリカは憤慨した。
「読むのも書くのもできますよ!都会に出てたあるおばさんに教えてもらいました!」
「ならばよいが」
 淡白な返事をしたが、真神は内心感心していた。
 アンジェリカは神人であるが故に、その存在を隠されて育ったという。しかし、その割にはきちんと教育も受け、ちゃんと育てられていたのだと。
「神人だから、覚えてないと都会に出れないよって言われて一生懸命、勉強したんですよ!!」
 胸を張るアンジェリカ。
「まぁよい。で、何を書くのだ?」
 真神は筆をアンジェリカに手渡す。
「ふぇ?書く字ですか。んー…こ、恋、とか?」
 真神はぴくりと片眉を上げた。
「……それは、誰に対してだ」
 問う声がどうしても低くなってしまう。だがアンジェリカはそんな真神の様子に気付いていない。
「だ、誰にって……そんなの、……雪さましか、いないし」
 もじもじと視線を逸らし、徐々に色付くアンジェリカの頰。
「……ならばよい」
 真神の表情が緩んでいった。
「で……では、早速書いてみますっ」
 アンジェリカは照れを隠すように、書き初め用紙に向かう。
「っと、待て!そんなに勢いよくしては墨汁が撥ねるであろう!」
 真神は慌ててアンジェリカの手を取り、墨の付け方から教えてやった。
 一通り書き方を教え、後は自力でなんとかできるだろうと、真神は自分の書き初め用紙に向き合う。
「毛筆って、書くの難しんですね」
 アンジェリカの筆運びは安定しなかった。
「思ったように、書けない……」
 一方真神は、自身が書く字をまだ決めていなかった。
 ちらりと悪戦苦闘中のアンジェリカを見遣る。
 と、自然に頭に浮かんで来た言葉は『食育』。
(食育…違うな。必要ではあるが、してどうする)
 首を一振りし、違う言葉を考える。
(やはり、これかの……)
 真神は用紙の上にそっと筆を乗せた。
 生み出される文字は、『愛情』。
 出来上がった文字を見て、真神は苦笑する。
(書き慣れん字はやはり変だのぅ)
 他人が見れば充分美しい文字ではあるのだが。
 その頃アンジェリカは。
「うー……ひらがなだったら、書けるかな?」
 漢字を諦め、難易度を下げた。
 えいやっと書き上げる。
 『がんばる』
「……」
 書いてから、(何がんばるんだろう……)と冷静になる。
「他の方が良いかなぁ…でも……」
 この文字は今までの中で一番出来が良かった。
 アンジェリカは、書き終えた用紙をスタッフに手渡し終えた真神に、書き初め用紙を掲げて見せた。
「雪さま、どうでしょう」
「……で、がんばるとは何を頑張るのだ、己は」
「何が……?えーと、ウィンクルムとしてとか!」
 随分ふわっとした答えだが、今のアンジェリカの毛筆能力の精一杯なのだ。


 灯代は取り皿を手に取ると、
「折角だからお寿司頂きます!」
 と、いくつか寿司を取る。
 光明は熱めの緑茶を飲みながら、
「おや、俺たちの書き初めか展示されるらしいな」
 と、展示場の方向を見る。
「その内、前花も見るかも知れんな」
 もう1人の精霊の名を出され、灯代は咀嚼していた寿司で咽せそうになった。
 なんとか寿司を飲み込むと、
「……って、そうだった!わぁあ無記名にするべきだったかなあ」
 と、今更ながら頭を抱える。
「ふ、其処まで慌てる必要もないだろう」
 光明はゆったりと茶を啜る。
「前花は確かにお前を揶揄して楽しんでいる素振りも見えるが、基本的には努力した結果を馬鹿にしたりはしないだろう」
「……そ、うかも知れないですけど」
 やっぱり恥ずかしい……、と、赤らむ頰を押さえる灯代に、光明は
「まあ尤も、考えの読めん男ではあるがな」
 と言って、わたわたと慌てている灯代を見守る。
 その唇に微かに笑みが浮かんでいることに、慌てふためいている灯代は気付かなかった。


 どんなに元気でも、食事が並ぶ場所で走り回るような真似はしない。
「おれ、おしるこが食べたい!」
 本当は駆けて行きたい気持ちを抑え、颯太はお汁粉コーナーへ。
「おかわりもいい?」
「もちろんよ」
 書き初めを頑張ったのだから、このくらいのご褒美は許されるだろうと、スミは承諾する。
「私はお寿司をいただこうかしら」
 自分の年齢を考慮して、お餅は避けるスミであった。
「あら、そうちゃん」
 スミは颯太の頰に目を留める。
「ほっぺたについてるわよ。はい、取れた」
「う?」
 ハンカチで撥ねたお汁粉を拭いてやると、
「ひーばあちゃん、ありがとう」
 とお礼を言ったのち、慌てて自分の衣服をあちこち見る颯太。
 折角の着物と袴をお汁粉で汚してしまっていては大変だ。
 スミは、そんな颯太の様子をにこやかに見つめていた。


「ディエゴさん、タコわさはないですけど、蛸のお寿司ならありますよ」
 ハロルドがお寿司コーナーの前で言う。
「その事はもう忘れろ」
 と言われて忘れるわけもない。
「家に帰ったら一緒にタコわさ作りましょうね。なんなら、お酌もしてあげますよ」
 苦い顔をしていたディエゴだが、その一言で表情を緩めた。
 共に作ったタコわさとハロルドの酌。悪くないではないか。
 そんな2人はまだ知らない。
 スタッフの手違いによって、『タコわさ』と『焼肉定食』の書き初めもギャラリーに飾られてしまっていることを。


「羽海ちゃんは何食べたい?」
『……お汁粉……』
「オッケー」
 セララはフットワーク軽く、羽海のためにお汁粉の碗を運んでくる。
「オレはお雑煮を食べようかなー」
 と、次に自分の分を手に取った。
「こういうの食べると、お正月!って感じがするよね」
『お汁粉……食べたら、他の人のも見たいな……』
 羽海の唇の動きを読んだセララは表情を明るくする。
 かつては引きこもりがちだった羽海が、今は他人に興味を持っている。その変化をセララは嬉しく思っている。
「うん、見に行こう!」
『みんな、どんなこと書いてるんだろう……楽しみ……』


 次々飾られていく書き初めに、アンジェリカは興味を持ったようだ。
「皆さんの書き初めも見てみたいですね!」
「そうかの」
 真神はわざと気のない返事でお汁粉の碗を手に取る。
 アンジェリカはまだ真神が書いた書き初めの内容を見ていない。
 それを見た時のアンジェリカの顔を想像し、真神はひとり北叟笑む。
「あ、全部飾り終わったみたいです!行ってみましょう!」
 アンジェリカが真神の手を引く。
「待て、我はまだ汁粉を……!」


 書道のことは全くわからないアンジェリカだが、優秀賞に選ばれた何点かの書き初めが美しい文字であることは理解できた。
「ひーばあちゃんの書き初め、優秀賞に選ばれてるよー!」
 後方から、颯太の嬉しそうな声が聞こてえくる。
「年の初めに一年の抱負を書く。良い事ね」
 優しげなスミの声が、追いかけてくる。
「むずかしい字はまだよめないけど、これ全部みんなの目標なんだよね?」
「そうよ。ここに書いた事をできるように努力するの」
 スミの書き初めの隣に同じく優秀賞として飾られた光明の書き初めは、颯太にはまだ難しかったようだ。
「ふーん。これは何となく読めるかな」
 足を止めたのはセララの書き初めと真神の書き初め。
 声につられてアンジェリカもそちらに視線を遣り……。
「ゆ、雪さまっ?」
 『愛情』と流れるように書かれた書き初め、その端に『真神雪之丞』としっかり書かれているのを発見する。
 真神は素知らぬ顔でお汁粉を啜っていた。
「雪さま、愛情ってなんですか?誰にですか?」
「汝以外誰が居るのというのだ」
 しれっと答える真神に、アンジェリカは頭から湯気が出そうになる。
「な……っ、何を言って……っっ!」
「まったく、騒がしい娘である。其方にはもう少し教養が必要だの」
 真神はゆっくりお汁粉を吞み下すと、隣に飾られた書き初めにも目を遣り、
「ほう、『結婚』か。これも良い字だの」
 と言うものだから、アンジェリカはますます真っ赤になった。
「でしょーっ。結婚、いいよね、夢があるよね!」
 書き初めを見に来たセララが真神の言葉を聞き、笑顔で話しかける。
「これを書いたのは汝であるか」
 真神はセララの隣にいる羽海にも会釈するが、羽海はさっとセララの背中に隠れてしまった。
 途端にセララは、人見知りをする羽海の姿に悶える。
「やっぱり羽海ちゃんは可愛いーっ」
 抱きつこうとするセララを、羽海は『やめて』と書いたメモ帳を持った手で押し返す。
 そんなお兄さんお姉さんたちの騒動をよそに、颯太は他の書き初めも見て歩く。
「なんとかの……一字?……『一生懸命』!これは読める!あ、おれの書いたのここにあるよ」
 颯太が自分の書き初めを指差した。
 改めて自分の書き初めをじっくり見る颯太。
「もっときれいな字が書けるようになりたい」
 美しい書き初めをいくつも見たせいだろうか。その声は若干沈んでいる。
「字には人柄が出るの。そうちゃんのはね、のびのびとして元気な字」
 スミはそんな颯太に言い聞かせる。
「見てる側も元気になれるわ」
「ひーばあちゃんも元気になる?」
 小首を傾げ問う颯太に、スミは深く頷いた。
「ええ、勿論よ」
 颯太の顔が誇らしげな笑顔になった。


(やっぱりしっかり飾られている……)
 灯代は自分の書き初めが飾られているのを確認し、両手で頰を押さえた。
 今更外してくださいなんて言えるはずもなく。
 前花は基本的には努力した結果を馬鹿にしたりはしないだろう、という光明の言葉を信じるしかない。
 光明はというと、皆の書き初めを見て回っていた。
「ほう、面白い書き初めもあるものだ」
 そこには、『タコわさ』と『焼肉定食』が仲良く並んでいた。
 そんな光明の後ろでは。
「……で、どうしてこれが飾られているんだ?」
 押し殺した声でハロルドに訊ねるディエゴ。
「いいじゃないですか、真面目に書いた方もちゃんと飾られているんですから」

 今年もウィンクルムたちは、仲良く過ごせそうである。



依頼結果:大成功
MVP
名前:アンジェリカ・リリーホワイト
呼び名:あんじぇ
  名前:真神
呼び名:雪さま、雪之丞さま

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木口アキノ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月27日
出発日 01月02日 00:00
予定納品日 01月12日

参加者

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