プリンにまつわるありきたりの悲劇と喜劇(紺一詠 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 関係者は語る。
 ――きっかけは本当に些細な事件でした。それが、まさかあんなことになるなんて。


「プリンがない!」
 A.R.O.A.の事務所を突き抜ける素っ頓狂な悲鳴、竜巻のような。
「僕のプリンがないんだ。あとで食べようと思って、冷蔵庫に閉まっておいたのに」
 その日、結構な数量のカスタードプディングがA.R.O.A.に差し入れられたそうな。その場に居合わせたものたち全員に行き渡るほど沢山のプリン、しかしそのときは小用を抱えているものが大勢だったから、プリンはひとまず冷蔵庫に入れておき、あとで皆で等しく分けようとなった。
 2、3時間経過。おやつだ、休憩だ、と、ふたたび賑わうA.R.O.A.冷蔵庫付近。しかし、扉を開けた先に、彼等の期待の卵菓子は影も形もみあたらなかった。心当たりのあるものがもんどりうって、冷蔵庫に詰めかける。
「俺のもない!」
「自分のも」
「私のは、ありますね。でも、この状況で残ってるってことは……ああ、やっぱり。賞味期限切れでした」
「それでもいいから、寄越せ」
 大騒ぎだ。万が一のため自署を記しておいたプリン(誰だよそんなせこい奴は)ですらなくなってるのだから、故意にさらわれたのは明らかである。現況を理解したウィンクルム達、次第に各々の拳を固める。
「許せん、犯人の野郎……。俺のかわいいプリンを……」
「ぜったい取り戻してやるっ」
「この詫びはバケツプリン10個でも足りませんね」
「あ、じゃあ、こっちはかぼちゃプリン追加で」
「ウィンクルムの誇りにかけて!」
 その手の誇りは対オーガにとっとけよ、というまともな指摘はうやむやにされ、ここに臨時のプリン探偵団が結成されることとあいなったのだ。


 関係者は、語る。
 ――本当にまさか、あれだけのウィンクルムが、たかがプリンにあんなに必死になるなんて。


 タブロス市街の一角に佇む、満月色のシルエット。くつくつという戯笑を零し、とてもとても悪目立ちしていた。
「ウィンクルムたちよ、せいぜい慌てふためくがよい……」
 彼は裾付きのぞろりとしたマントを、ぴーかんの青空に向けて――つまるところ、現在真っ昼間ど真ん中だ――大きくはためかせる。
「ミッドランド全てのプリンはこの私、プリン仮面が食い尽くしてくれようぞ!」
「ママー、あの人なにしてるのー?」
「しっ。目を合わせちゃいけません

解説

プリン食べたい。

・PC様の立場はなんでもかまいません。「プリンを食べられた被害者」はできれば一人ぐらいいるとうれしいですが、「実はこっそりプリンを食べちゃった人」「プリンを差し入れた人」「探偵ごっこがしたいだけ」「ただの野次馬」etc お好きにどうぞ。

・特にこれといってNPCを出す予定もないので、必要ならプロローグの科白を乗っ取ってくださってかまいません。口調のあれやそれは気にしない。だから、第一発見者や関係者やプリン仮面を名乗ってくださってもいいのですよ。

・プリン仮面を名乗ってくださってもいいのですよ(くりかえし)。

・役割はいないならいない・だぶったならだぶったで、こちらでなんとかしますので、あまり深く考えず御自由におたのしみください。で、プリン仮面を(そろそろ引っ込みます)。

・神人と精霊の立場をそろえる必要もありません。でも、パートナーのプリンを食べちゃった場合あとでちゃんと「ごめんなさい」は云っておいたほうがいいと思います。

ゲームマスターより

御拝読ありがとうございます。紺一詠です。先日、水族館に行って参りました。
ジンベイザメやあざらしやウミガメがとてもかわいかったので、そんなおはなしが作りたくなりました。
で、できたネタが水族館のすの字もない↑これだったりするので、わけがわからないよ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

木之下若葉(アクア・グレイ)

  冷蔵庫の前が賑わっていると思ったら、そうかプリン……
食べようとは思って居なかったけれど
無いって聞くとちょっと食べたくなるよね

かぼちゃプリン、牛乳プリン、
苺プリンにキャラメルプリン
うん。何だかプリンな気分になってきた
晩御飯はプリンにしようかな

へえ、プリン仮面か
そうだね。暖かくなってくると
愉快な人が出てくるものね
(生温かい目)

おや、皆でプリン作るの?
それなら俺は後ろで応援してるよ
みんな頑張れーって
見てるのも楽しいもんだよ

飾り付け……それならさくらんぼがいいなぁ
ん?だってプリンと言えばてっぺんに
生クリームとさくらんぼって感じじゃない?



シルヴァ・アルネヴ(マギウス・マグス)
  目的
プリンプリンな一日にしたい。

行動
用事でA.R.O.A.事務所に来たんだけど、プリン誘拐事件?

冷やす容器を借りてきたり調理以外でお手伝い
つまみ食い等でつまみ出されるかも

仕掛け設置後
「そういえば。この前、食料品店に行ったら、棚に並べてるプリンが
全部逆さまに伏せて置かれてたんだよ

子どもの悪戯かなーと思って、通り過ぎようとしてよく見たらさ……
全部、プチッてされてたんだよな。悪い事する奴がいるよなー」
プリン好きに悲劇的な雑談(誘き寄せに?)

プリン食時
皿に二つ並べてぷりんぷりんさせながら満面の笑み
調理は出来ないが、クッキングアートで見事な生クリームのブラを着けた
おっぱいプリンを今回一番の功労者に差出す


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  ◆囮作戦前
ランスが楽しみにしていたプリンまでもが食べられたらしい
吠えているから多分そう;

そんなに(プリンが)好きだったのか(知らなかった…
相棒が殺人犯になったら困るし捕まえようか(苦笑

そのための囮に皆とプリンを作る
「別にお前に食べさせる為じゃないぞ」
「で、味はプレーンでいいのか?」←

◆作戦中
物陰に隠れて犯人を待つ
犯行を麺棒で防いで(剣で防いだら過剰防衛だし)
「そんなにプリンが好きなら、一緒に作ろう!」と時間稼ぎだ!
*それに犯人がノッてきたら逆に驚くよ、俺が(爆

プリン作りになるか乱闘になって捕縛になるかは流れによるが、できたら穏便に済ませたい

オシオキが甘いって?
「だってプリンは甘いものだろ?」笑



栗花落 雨佳(アルヴァード=ヴィスナー)
  騒がしいね、何かあったのかな?
…何だか、差し入れで貰ったプリンが1つも無いみたいだね…って、如何したの?アル?

あー、そう言えばアルも作って持ってきてたよね…
アル、顔怖いよ
皆距離とってるじゃない…


ふふ、プリン仮面?面白いね
そんなにプリンが好きなのかな?
アルのプリン美味しいしね

何だか話が思わぬ展開になってきたけど皆楽しそうだから良いか
僕は料理からきしだし作るより作ってる過程を見ている方が楽しいから皆を応援してるよ

プリン仮面、誘き出せると良いね
…捕まった後が恐ろしいけどね

それにしても、何であんなに怒ってたの?人に食べて貰うの好きじゃない…え、僕の為に作って来てくれたやつだったの?
ふふ、ありがとう



瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
  全く……プリン一つで何を騒いでるんだか
なまらはんかくさい
しかもおれは、珊瑚にまでプリン仮面だと疑われるているから厄介だ
ならば、プリン仮面が誰なのか突き止めるぞ

アルヴァードさん達とプリン作りを手伝い
そのプリンでプリン仮面を誘い出す
プリンを冷蔵庫に入れた後
紙コップの底に大きめの穴を開けたら
防犯ブザーを入れ、穴に防犯ブザーの引き抜く部分を通す
通したら引き抜く部分に紐を結びつけ
冷蔵庫の内側にある玉子入れの穴にも紐を通して結ぶ
完了したら冷蔵庫を閉め
プリン仮面が来て、ドアを開けるのを待つ

だが、珊瑚
プリン仮面の捕獲がどう転ぼうと、プリンは返ってこないべ
おれのクッキーをお前にやるから、いい加減機嫌を直してくれ



●ぷりんがないっ
「プリンがないだと?!」

 怒りとも哀しみとも付かぬ雄叫びが、A.R.O.Aの事務所をつんざく。たまたま通りがかった木之下若葉が足を止めるほど、甚大な負を放射するそれが、ひとっきり窓硝子を振るわせる。

「一大事ですか?」

 ほっそりした若葉の帯しに縋り、彼の後ろから、アクア・グレイ、垣間見る。

「そうかもね、硝子がぴりぴりしてる」

 プリンがどうのと聞こえたが、なんのことだろう。若葉、首を捻って考えるが思い当たるふしはない。

「たしかめようか。もしかすると、ウィンクルムに作用するなんらかの効果がプリンのなかに発見されて、プリンクルムが誕生したのかもしれないし」
「……違うと思います」

 たしかに違った。事務所内、冷蔵庫の扉を遮るように仁王立ち、漆黒の瘴気を放つのは、アルヴァード=ヴィスナー。プリンクルムと呼ぶにはあまりに凶悪な険相は、まさに悪魔ディアプリン(このノリもうやめよう)。

「どいつだ。俺が作ってきたプリン勝手に喰ったやつは……」
「なにがあったのかな」
「若葉さん」

 栗花落 雨佳、目礼して、修羅場の客を迎え入れる。

「それが、差し入れで貰ったプリンがなくなったみたいで。アルが作ってきたのも……」
「俺の絶品プリンもだ!」

 テイルスの尻尾を太らせ、三角な耳まで鉛直に立て、魂も裂けよと、ヴェルトール・ランスが吠える。

「楽しみにしてたのに……」
「そんなに好きだったのか」

 知らなかった、と、アキ・セイジ、呟く。この感覚は――不良が捨て犬を拾う現場に遭遇したかんじにも似て――るわけがない。億劫そうに、瑪瑙 瑠璃が言い放つ。

「全くプリン一つで何を騒いでるんだか」
「一つじゃないんだよ!」

 嗄れたランスの声。一つ以上も用意するほど、ランスはプリンが好物だったのか。セイジは意外な思いを強くする。と同時に、生来の好奇心が頭をもたげる。実際にはいくつ用意してあったのだろう、それともコストで試算するほうが適切か、彼の機嫌と今日の気圧と株の終値から勘定すると……、

「ランス、俺でよければ力になるからな」
「え?」

 セイジとランスが素晴らしきウィンクルム愛を築き上げるその傍ら、瑠璃と瑪瑙 珊瑚は、ウィンクルムらしからぬ亀裂を、丁々発止、掘り下げる。

「おい! 瑠璃、わんぬプリン返せ!」
「なまらはんかくさい」
「っていうか、取ったぬ、やーなんやんにか!」
「たくらんけ、だはんこくでねえ」

 わからん。
 さっぱりわからん。この地上に実際に存在する言葉か、ひょっとして魔界と通信しているのではないか、そんなことすら判別できん。とりわけ片割れの珊瑚、フードを目深にかぶって面差しを晦ましているものだから、瑠璃はまるで別の世界の人と話し合っているようにもみえる。
 ウィンクルム達の複雑な注目にようやく気付いたのだろう、瑠璃はぴたりと諍いを止める。いまだ食って掛る珊瑚をいなしながら、瑠璃、ウィンクルム達に向かい、襟を正す。

「自分たちは、プリンたちは甘くなるために揃って日向ぼっこに出掛けたのではないか、と、話しておりました」

 ぜったいに嘘だ、二重三重に。だが、冗談か真剣ともつかぬ表情で、納得するものがひとり。シルヴァ・アルネヴだ。

「近頃は物騒だから、プリン達、無事に帰ってこられるといいな」

 シルヴァとマギウス・マグス、瑠璃と珊瑚。どちらの対も、神人は精霊に、精霊に神人にそっくりで、相通じるところがあるからかもしれない。

「途中で変なヤツに誘拐されてなきゃいいけど」

 なあマギ、と相方から話を振られて、マギ、生真面目に肯く。

「そういえば、ここに来る少し前に満月色のスーツと、カラメル色のマントという方が、遠巻きにされてましたね」

 たしかプリン仮面と呼ばれているようでした。マギがそう言い足せば、新たなる燃料の投下に、再沸騰する者、数人。

「そいつが俺のプリンを……」

 と、アルヴァード、滞留しかけた怒りをたぎらせる。そのころのセイジは、如何にランス本人から情報を得ず、ランスが入手したであろうプリンを計算するか、に、熱中していた。

「やーがプリン仮面といあびらんよな」

 と、ふたたび瑠璃に詰めかかる珊瑚。そのころのランスは、「ランスが」「ランスならば」と譫言のように己の名を繰り返すセイジに、密かに胸を高鳴らせていた。

「プリン仮面? 面白いね」
「そうだね。暖かくなってくると愉快な人が出てくるものね」
「えっ」

 修羅の彼等とまるで関係ないように、雨佳と若葉は穏やかで、二人そろえばまるで春の木漏れ日のよう、そこにアクアがきょとんとした顔で加われば、春風駘蕩の一場面。わりともう夏ですが。

「暖かくなってくると愉快な人が出てこられるんですか?」

 アクア、菫の花が匂うがごとく、咲笑う。

「じゃあ夏になると、愉快な人がたくさんで、サーカスができますね。ものすごく暖かいですから」

 なんということでしょう。匠の手によって荒んだ空気がほのぼのと和んでゆくではありませんか。かぼちゃプリン、牛乳プリン、苺プリンにキャラメルプリン。新緑の瞳を微かにくつろげて、若葉、ありとあらゆるプリンを数え上げる。

「ないって聞くとちょっと食べたくなるよね。なんだかプリンな気分になってきた」

 それから誰が言い出したのだろう、プリンを作って、プリン仮面を釣り出そうか、と、いうことになる。

「そう決まったから。アル」

 雨上がりの空の色。深い青の瞳を精一杯尖らせて、雨佳、いまだ冷蔵庫の扉の枠を握り締めるアルヴァードをめっとする。

「皆、距離とってるじゃない。あんまり怖いと、君のほっぺにぷるるんぷりんちゃん(注)描くよ?」

 (。・-・)ぷるるん♪ ←注

「僕ぷりんちゃん見たいです」
「よしそのまま怖くてもいいぞ、アルヴァード。むしろ永遠に怖いままの、ぷりんちゃんでいてくれていい」
「おまえらは……」

 心強い味方に囲まれたことを知り、アルヴァード、がっくり肩を落とす。

「よし、俺も腹をくくった。喰ったやつをおびき出して、俺のプリンが高くつくことを思い知らせてやる。野郎共、覚悟しやがれ!」
「おーーっ!」

 大航海にでも出立するような、かような一連の流れを経て、皆でプリンを作ることとなりました。いやあ、長い前振りだった。


●ぷりんをつくるっ
 プリンの大雑把な作り方。牛乳と卵と砂糖をよく混ぜ裏漉ししたものを、容器に注ぎ、固める。

「今回は、蒸しプリンにするか。焼いたりゼラチンを使うより速いからな」
「ちゃーちが……どう違うんだ?」
「とろとろの舌触りになる。ゆるめが駄目ってやつはいないな?」
「だいじょうぶでーす」
「容器ってこれ?」
「それは、茶碗。茶碗蒸しを作ってどうする」

 A.R.O.A.の片隅の簡易キッチンに移っても、集団のはしゃぎ具合は、大して変わらない。珊瑚の問いに答えたり、アクアを指導したり、シルヴァを追い立てたり。アルヴァードは慌ただしく立ち働く。
 見ているほうが楽しいから、と、若葉と雨佳はキッチンの隅のテーブルセットに腰掛け、雑談などを交わしていた。雨佳、アルヴァードの向きへ、視線を気怠げに流し、くす、と、含み笑いを零す。

「なんだよ。俺の料理してる姿なんて、珍しくないだろ」
「ううん。君はなんだかんだで面倒見がいいよねって思ってた」

 アルヴァードの利き手に収まっていた鶏卵、ぐしゃりと潰れる。

「僕にもいつもよくしてくれるじゃない。保父さんに転職してもやっていけるんじゃない?」
「できるか! あのな、俺は誰にでも優しいわけじゃ」
「先輩、こちらの白いものは」
「生クリームだ。最後の飾り付けに使う予定だが、牛乳の代わりにしてもいい。牛乳だけより味が濃いめになる」

 言ってるそばから、瑠璃の問いへ誠実に答えているのだから、はなはだ説得力がない。雨佳はついにテーブルへ突っ伏して、綺麗な丸いかたちの頭を掩い、声を殺して笑い立てる。アルヴァード、更なる反駁を試みようとするが、まあいいかと、新しい卵を手に取り、不透明な感情をごまかした。

「雨佳、おまえ、味はどうするんだ?」
「なんでもかまわないよ。アルのプリンはどれも美味しいしね」

 2個目の卵が敢えなく昇天する。『連続バラバラ殺卵事件――ウィンクルムは見た!プリン仮面の謎』等と呟くシルヴァを、遠慮なく、アルヴァードは料理人の拳で小突く。
 製菓なんて、所詮は、化学反応の組み合わせにすぎない。手順を確実に踏んでいけば、まちがいなくできあがるはずだ。あくまでも、手順を、確実に、であるが――相棒を殺人犯にせぬため、セイジもまたプリン3分以上クッキングに挑む、気高き戦士の一人となった。

「だから、お前に食べさせるためじゃないぞ」
「うん、わかってる」

 家事をしない押しかけ女房ことランス、そんなセイジを観察したくてしようがない。手伝いもしないくせに、セイジのすぐ後ろを付いて回る。セイジはランスに片肘やりながら、しかし、声音からは幾分棘が抜けている。

「で、ランス。味はプレーンでいいのか?」
「うん、セイジはエプロンもよく似合ってるな」
「なっ」
「うん、だから、次は裸えぷろ」

 ごぐっ、キッチンにそぐわぬ強かな重低音、ランスの後頭部にどよもせば、彼の五体が緩々かしぐ。マギウス、金属のボールをランスに力一杯打ち当てたのだ。これマジで痛い。

「失礼、出過ぎた真似をしました」
「いや……」
「アルヴァードをこれ以上怒らせたくなかったものですから」
「俺のプリンに『す』が入ったらただじゃあおかねえぞ!」

 殆ど自棄っぱちで指示するアルヴァードに、そっとバルサミコ酢を差し入れるシルヴァ。金色の三白眼を濁らせ、トランスもしていないのに、再々度黒いオーラを蘇らせるアルヴァード。どこのウィンクルムも苦労するものだな。神人と精霊との立場を越え、セイジは不思議とマギウスに共感する。

「アルヴァード、ちゃーすんばー?」
「俺に分かる言語で喋れ!」
「っと、ごめん。次どうすりゃいい?」

 珊瑚のこれは、また別種の苦労であろうが。

「できましたっ」

 試作品1号を、アクア、若葉の前に置く。出来上がったといっても、蒸し終えたというだけで、ここから冷蔵庫で冷やす作業が残っている。だが、この時点でも食べられなくはない、というより、温かいものはまた別の味わいがある。

「ワカバさん、味見してください」
「いただきます」

 若葉、一匙を口に運ぶ。アクアらしい無邪気で素直な甘味が、口の中をほやほやゆきわたる。

「うん、美味しい。これならきっと、プリン仮面もおおよろこびだよ」
「えへへーです」
「晩御飯はプリンにしようかな」
「ふぇ?」
「いっぱいあるじゃない」

 実際10人ちかくの人数が協力し、作り上げたのだ。おやつだけですますには多すぎる。
 でも――アクアは若葉にかいぐりされながら考える――夕飯がプリン? 甘くないプディングならばともかく? 若葉はいつもどおりの動かない表情で大真面目に言っているようだが。

「流石にプリンだけじゃないですよね?」
「プリンだけじゃないよ。プリンシェイクに、クレームブリュレに、プリン大福に……」

 確実に、プリンだけだ。

「俺たちがきちんと食べないと『※この後スタッフがおいしくいただきました』と、誰かがテロップ掲げなきゃならないからね」
「ワカバさん、言ってることがちょっとわかんないです」


●ぷりんのおとりっ
 瑠璃御自慢の仕掛けである。穴を開けた紙コップに防犯ブザーを隠して冷蔵庫の内部に忍ばせ、ブザーの紐状のスイッチを冷蔵庫の扉に繋ぐ。誰かが扉を開けた途端、ブザーが侵入を知らせてくれる、というわけ。
 さて、冷蔵庫にプリンはしまった、後は待つだけである。待つだけということは、待つ以外できることはなくって、事務所の建物のつくりはかくれんぼに適しておらず、野郎共はほぼ納戸に等しい物影にぎゅうぎゅうと幾つもの身体を押し込めることとなり、それでも目だけは冷蔵庫にやらなきゃならないから、かえって両手はなにもできなくて、

「暇ですね」
「暇さー」

 寡黙な瑠璃ですら声にだして指摘せずにいられぬぐらい(つい珊瑚が真似をしてしまうぐらい)(でもあまり物真似にならないぐらい)、暇、隙、閑、お茶を挽きまくりの状態で、

「お茶といえば、俺、マギの作った抹茶プリンが食べたいなー」
「今、言わないでくださいよ。ちゃんと作ってあります。抹茶ソースと黒蜜ソース、きな粉を用意しました」
「やったあ」

 シルヴァとマギのミニコントに幕を引いて尚もやはり暇で、暇ほど毒なものはない、といった言い回しもあるくらいで、

「では、本当にあったぷりんぷりんな話」

 シルヴァが語り出すのを止められないのだ、誰も。

「この前、食料品店に行ったら、棚のプリンが全部逆さまに伏せて置かれてたんだよ。子どもの悪戯かなーと思って、通り過ぎようとしてよく見たらさ……全部、プチッてされてたんだよな。悪いことする奴がいるよなー。どっとはらい」
「あ? あれ、御自由にプチッとなさってくださいねーん?」
「珊瑚!」

 意外な軽犯罪が暴露されても、動きはなく、安穏は継続する。きゅうと誰かの腹が飢えを訴える、殊更疲れを催したのは、アルヴァード、奪われた分、囮の分のプリンを作り、指導まで買って出たのだから。唾を呑んで空腹を手懐けようとすれば、胃の不足が脳にまわり、睡魔が訪れる。
 こっくり舟を漕ぐ、アルヴァード。すこしいい夢を見た、青色ひろがる。しかし、夢の形を抱き留める寸前、鼓膜を破る、甲高い鳴動。反射的に飛び起きる。九分通り本能のみで冷蔵庫の人影を塞ぐよう、身を挺す。

「よぉ、プリン泥棒。覚悟はできてるんだろうなぁ……?」

 しかし、寝ぼけ眼にも、なにかおかしいことがぼんやり分かった。細見ながらもしまった体付き、銀色のウルフショート、なにより人なつこく涼しげな笑い顔には、散々見覚えがある。

「シルヴァ? おまえがプリン仮面だったのか?」
「違うって。俺はただ、マギの作った抹茶プリンはどんな色してるのかなーって、気になったもんだから」
「抹茶色以外に、どんな抹茶プリンが存在するっていうんだあっ!」
「マギのことだから、煎茶色とか玄米茶色とか」
「シルヴァ、あなたは僕をなんだと思っているんですか」

 本日数度目のシルヴァとアルヴァードの追跡劇を横目に、セイジとランス、冷静な判断をくだす。

「血の色だな」
「つうか、血の雨だな。あ、とうとうアルネヴが追い付かれた」
「A.R.O.Aで刃傷沙汰を起こすわけにはいかないな、ちょっと止めてくる」

 いってらっしゃい。麺棒(これもわりと鈍器)片手に赴くセイジにひらりと手を挙げて、ランスは冷蔵庫を振り返る。
 詰まる所、ほんの一瞬、誰もが目を離した間隙があり、そこを狙われた。ランスは目撃する、マギウスの証言通りの風采が冷蔵庫から抹茶色のを取り上げるのを。抹茶色ということはシルヴァのか、俺のじゃない、よかった、じゃあなくって――……、

「待ちやがれ! セイジと俺のプリン、何処にやった!」
「こらあ、ヴィスナーさんのプリンを返してください!」
「うれぇ、けーせぇ!」
「待つんだ! そんなにプリンが好きなら、一緒に作ろう!」

 順番に、ランス、アクア、珊瑚、セイジである。ある意味、すごい、ここまで主張がバラバラだとは。だが、待てといわれておとなしく待つものは、ない、プリン仮面?らしき人影はA.R.O.Aの窓から外に抜ける。ランスは思わず本音を吐露することになるのだ。

「俺たちの一日はなんだったんだ」

 と。


●あとのまつりのぷりん
「君は何であんなに怒ってたの?」

 雨佳とアルヴァード、差し向かいでテーブルに着席する。無事なプリンをお互いひとつずつ、木の匙でつつく。

「人に食べてもらうの好きじゃないって言ってたじゃない」
「何でって……お前が喰いたいって言ったんだろ。お、お前の為に、わざわざ良い卵取り寄せて……任務のあと喰わせてやろうと……」
「じゃあ台無しにした分もったいなかったね。ごめん」
「まあ、あれは俺が迂闊だっただけで」
「よう、アルヴァード。プリンの先生、おつかれさま!」

 功労賞、と、シルヴァがアルヴァードの卓に皿を余計にしつらえる。アルヴァード、じんと来た。今日はいろいろありすぎるくらいあったけれど、終わりよければ全て良し、自分の分のプリンを譲ってくれるとは、シルヴァもなかなかいいやつで――……、
 ちょっと待て。
 気付いてしまうアルヴァード、シルヴァの抹茶プリンは巻き上げられたのではなかったか。では、ここにあるこれはいったいなんなのだ。
 それは、おっぱいプリン。2杯というか、一揃えというか。食紅で色付いた尖端はうっすら角立ち、レースの下着に見立てた生クリームがなかんずく官能を煽る。間の悪いことには、アルヴァード、雨佳の目前で、尖端を既にがっつり口に入れていた。

「知らなかった。アルって巨乳が好みだったんだ」
「誤解だ! お、俺はべつに俎だって全然かまわないし……そっちのほうがいいというか……」
「弁解しなくてもいいよ、僕は軽蔑したりしないから」

 ねえ、と、雨佳、ふっと笑む。テーブルに突っ伏したときとは似ても似つかぬ、冷えた底意地、常の倦怠はどこへやら、深い青の瞳はこんなとき、彼の奧の暗黒を愈々もって蒼然とさせる。

「はいっ、ワカバさん。僕も生クリームでデコしました」
「ああ、これはかわいいブラジャーだねえ。さくらんぼのアクセントが、青春の甘酸っぱさとリンクしている。あとでシルヴァは絞っておくからね、アクア」
「セイジ、おまえもまさか……」
「作らない」

 セイジの作ったプリンは、至極ノーマルでクラシックなそれである。壜詰のままで、ランスに一つ、己に一つ。

「気に入らないなら別に食べなくていいぞ」
「食わないわけないだろう」

 ランス、つるんと口に入れた。風味もまたクラシック、セイジらしいといおうか、しっかり卵の味がする。

「ランス、さっき『俺とセイジのプリン』と叫んでいたけれど」
「そうだよ、一緒に食おうと思って2つ冷やしておいたんだよ。あーったく、ま、俺にはこっちのほうが美味いけど」
「そうか、」

 セイジ自身には市販のほうが上出来だと思える、セイジ作成のプリン。それをランスは美味い美味いとあっというまに空っぽにする。それでもまだ物足りなかったのだろう。ランス、セイジの頬についたプリンの欠片を一舐めにする。セイジは黙ってされるがままにした。ランスは貪るようにセイジの耳朶まで達すると、低くささめく。

「次はセイジを食っていいか?」

 セイジ、自らの麺棒で返答した。





「瑠璃ー。結局、プリン仮面ってぬー者だたんなー?」
「わが知るわけねえべ」

 瑠璃と珊瑚は一足先、やいのやいのやりながら、帰路に就く。

「やぁ、ぬーやっさーか躍起んかいなったわーが馬鹿馬鹿しくなってきた! ちょぎりーさーヤケやっさー! ヤーけーったら即行で寝るぞ!」
「仕方ないべ、おれのクッキーをお前にやるから、いい加減機嫌を直してくれ」
「クッキー? 足りねーん。ポテチ、塩せんべい、ちんすこう、」
「へえへえ」

 まあ、懐には、出来上がったばかりの手作りプリン2丁。これはこれで悪くなかろう、瑠璃、では帰ってからのお茶はなにを淹れよう、珊瑚のリクエスト全てに合うものは、と、思案に入ったそのときだった。
 逃げるシルヴァとマギ(←巻き込まれた)、彼等を追うアルヴァード、トランスもしておらぬのに、えらいスピードで瑠璃たちの前を駆け抜ける。あっというまの出来事だ。

「……ウィンクルムってなんなんだべなあ」

 なあ、と、取り出したプリンに問いかける。プリンは答えず、ただ(。・-・)ぷるるん♪と初級ウィンクルムに優しく微笑むばかり。とあるタブロスのぷりんぷりんな一日である。



依頼結果:成功
MVP
名前:栗花落 雨佳
呼び名:雨佳
  名前:アルヴァード=ヴィスナー
呼び名:アル

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 神田珊瑚  )


エピソード情報

マスター 紺一詠
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月15日
出発日 05月22日 00:00
予定納品日 06月01日

参加者

会議室

  • [15]栗花落 雨佳

    2014/05/21-22:33 



    僕も作るのはいいや(笑)
    若葉さんと一緒にみんなを応援しますね。

    普段は人に食べさせるの好きなので、あんなに怒るのはちょっと意外でした…。
    皆さんと一緒につくって、少しは気が紛れるといいのですけどね…(苦笑)

  • [14]アキ・セイジ

    2014/05/21-22:17 

    ザバーー(←水に流す音

    怨念(?)は晴らしたいからな(うん

    そうそうプリン仮面には
    「そんなにプリンが好きなら一緒に作ろうぜ」と言ってしまう予定でいる
    ノッてくるかこないかはさておき、虚はつけるかな、と(笑

  • [13]瑪瑙 瑠璃

    2014/05/21-22:08 

    アキさんってツンデ……いえ、何でもありません。水に流して下さい。

    半ば突発的に決まってしまいましたし、あくまでもプリン仮面を捕獲したい為の作戦もとい
    アルヴァートさんの怨念(?)を晴らすべく、考え付いた作戦ですから……。

  • [12]アキ・セイジ

    2014/05/21-21:52 

    はっ!
    この内容なら相談しなくてもいいやと思っていた俺惨状orz

    なんか本格的な作戦が立てられていて、のほほんと右往左往する予定だったのが申し訳なく…
    とりあえずアクションが衝突しないようにはしておきます。

    プリン作るのは俺が手伝うけど、これは皆のためだからな。
    別にランスに作ってあげようとかそういうんじゃないからな!(いそいそ

  • [11]木之下若葉

    2014/05/21-21:43 

    だったら僕は後ろで応援……いや、プリン作りはアクアが手伝うけれどね

    あー……自分で作ったの食べられちゃったら
    そりゃ怒るよね……

  • [10]瑪瑙 瑠璃

    2014/05/21-20:19 

    >雨佳さん

    確かに悪い意味で目立ってしまう……まどろっこしいですね。
    雨佳さんの作戦の方が一番わかりやすいですから、自分も賛成します。

    それと、自分もプリン作りを手伝いたいと思います。
    ただ、生菓子ですから冷蔵庫に保管し、それを皆で見張りながら、
    とっつかまえる事になりそうですね。

    冷蔵庫の内部に防犯ブザー(引き抜くと、音が鳴るもの)を設置したいと思います。
    ドアを開けた途端、ブザーが鳴り出すようにする予定です。

  • [9]シルヴァ・アルネヴ

    2014/05/21-01:12 

    そっかー、アルヴァードが作ったプリンだったのか……そりゃ怒るよな。
    (横目でちらちら。ちょっと怖い)

    よし、プリン作りするなら、マギと一緒にオレも手伝うぞ!
    マギに、余計に起こらせない程度にしとけって言われたけど。

  • [8]栗花落 雨佳

    2014/05/21-00:57 



    ふふ、思わぬ展開ですが、プリン作りですか。良いですねぇ。

    僕は料理はからきしですけど、アルが料理スキル持っていますし、一応アルが食べられて怒ってるプリンはアルが自作した物なので、皆で再度作る。というのもありかもしれませんね。

  • [7]木之下若葉

    2014/05/20-21:48 

    遅くなりましたが今晩は。
    木之下だよ。隣はパートナーのアクア。

    何だか冷蔵庫前がにぎわってると思ってたら、そうかプリン……。
    ん。皆でプリン作っておびき出すならアクアも参加したいって言ってるよ。

  • [6]シルヴァ・アルネヴ

    2014/05/20-21:32 

    おびき出すのにプリン作りかー。いいかもな。
    もし皆で作るなら、うちのマギも参加させて貰うぞー。

  • [5]栗花落 雨佳

    2014/05/20-03:52 

    >瑪瑙君
    ふふ、わざと周りの注目を浴びるのは危険な気がしますね。
    特にうちの相方とか凄く怒ってるし…(笑)

    そうだなぁ……。
    捕まえるのなら、やっぱりプリンを用意するのが手っ取り早いですかね?

  • [4]瑪瑙 瑠璃

    2014/05/19-18:32 

    先輩方、こんばんは。
    自分達は瑪瑙瑠璃と瑪瑙珊瑚です。

    相方である珊瑚もプリンを食べられた事で、プリン仮面どころか、自分にまで疑いを持っています。

    一瞬、プリン仮面の真似をして、わざと周りの注目を浴び、
    本物をおびき出す作戦も考えましたが、いまひとつ勇気が出ません。
    A.R.O.Aのお顔に泥を塗るようで。

  • [3]栗花落 雨佳

    2014/05/19-15:37 


    アルはプリンを食べられて怒ってるみたいですね。
    うーん、僕もプリン食べたかったな……。

    アルをなだめつつ、プリン仮面を探すつもりです。

  • [2]栗花落 雨佳

    2014/05/18-23:05 

    こんばんは。栗花落雨佳と相方のアルヴァード=ヴィスナーです。

    今回もよろしくお願いしますね。

  • [1]シルヴァ・アルネヴ

    2014/05/18-20:31 

    シルヴァ・アルネヴと、相棒のマギだ。
    一緒になった事がある人も、初めましての人もよろしくなー。

    とりあえず、プリン仮面にはならないので先にそれだけな。


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