冬の遊園地でパレード(森静流 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 クリスマスも近づいてきましたし、年末年始の休暇や冬休みも間近です。
(今年はどこに出かけようかな)
 あなたは、何気なく、ネットで検索をしてみました。
 冬のデートにまつわる単語で色々検索していると、こんな項目が出て来ました。

『マーメイド・レジェンディア』のパレード

 かなり上位にあります。
 マーメイド・レジェンディアは人魚姫伝説が伝えられる地域に建造された遊園地です。リフォームされた古城の周りを様々なアトラクションがぐるりと囲んでいます。海岸沿いには夜に輝く『月光華』が咲き乱れているのです。
 アトラクションは大体こんな感じです。

 シアター・メリーゴーランド
 メリーゴーランドが回り出すと外界と遮断されます。
 人魚姫伝説の立体映像が自動的に再生されます。人魚姫が初恋の王子と出会い海の泡と消えるまでが美しい立体の映画となって流れます。

 ムーンライト・ロード
 月光華のための道です。海岸沿いでさざ波の音を聞きながら、月光華の咲き乱れる石畳の道を歩きます。人魚の歌声が聞こえるという噂もあります。

 ブルーム・フィール
 マーメイド・レジェンディアを一望出来る観覧車です。夜景は絶景で、古城やアトラクションは勿論、月光華の群生地も見下ろす事が出来ます。

 そのほか、12月~1月にかけて、夜の八時からパレードがあるとのことです。
 人魚姫だけではなく、白雪姫やいばら姫、赤頭巾ちゃん、アリス……誰でも知っている様々な童話のヒロインやスター達が馬車や様々な幻想的な乗り物に乗り、他の登場人物とともに一時間近くかけて園内を行進するとのことです。
 また、このパレードには飛び込みでも一般客が参加出来るとの事です。飛び込みのお客様のために貸衣装のレンタルもあるようです。

 あなたはこの情報を見て考え込みました。
(精霊は、こういうの好きかな……? 私は興味、あるけれど)

 遊園地の中には、テーマパークの中にはどこにでもあるようなカフェやレストランがいくつかあります。価格は常識的なお値段です。
 また、パレードの通路の付近には屋台がいくつも出ています。
 代表的なものでは……
 ホットココア……30jr
 ホットクレープ……40jr
 フランクフルト……35jr
 甘酒……30jr
 などなどです。屋台の近辺にはベンチやゴミ箱があります。
 

 ちなみに入場料金は580Jr。内部アトラクションもパレードも無料で利用出来ます。
 タブロスからは送迎バスで一時間。さあどうしましょう?

解説

 クリスマスから冬休みにかけて、マーメイド・レジェンディアでアトラクション&パレードです。
※アトラクションに乗って
※食事をして(屋台でも、レストランやカフェでもいいです。何を食べたかを書いてください)
※パレードに参加してください。
※パレードにはどんな服装でも参加出来ますが、周囲の参加者は童話風や人魚姫伝説にちなんだ格好をする事が多いようです。出来たらパレードらしく着替えて、そのことについてウィンクルム同志でやりとりをしてください。自分でデートコーデを考える事もOK、また、レンタル貸衣装で楽しむ事もOKです。
※その間に、ウィンクルム同士でどんなコミュニケーションを取ったかをプランに書いてください。
※入場料580jrになります。
※個別エピソードになります。ですが、それぞれのプランにありましたら、食事やパレードの際に合流した描写も入れる事が出来ます。


ゲームマスターより

寒い時期に屋外での活動になります。防寒対策をした方がいいでしょう(必須ではありません)。寒いので、精霊と密着したりするかもしれませんね。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

フィオナ・ローワン(クルセイド)

  クルセイドに、此処のお話をしてみたら
彼も、同じ広告に気付いていたみたいです
なんだか、嬉しいですね
・アトラクション:ムーンライト・ロード
月光華の咲き乱れる道って…とてもロマンチックですね
(そう感じてるのは私だけかもしれませんが)
彼と寄り添って、夜景を楽しみたいです
・パレード:貸衣装のお店
クルセイドにはアリスの帽子屋さんの衣装を選びます
ロングヘアは緩く背中で結んで貰いましょう
多分、格好いい帽子屋さんができるかも…?
彼には「素敵ですよ」と素直に伝えます
私はハートの女王様をチョイス
道を歩く時には、ドレスの裾さばきに気を付けなくては…
似合う、とか言ってくれたら、少し舞上がってしまうかも…


出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
  この年でメリーゴーランドはちょっと恥ずかしいけど
外からは見えなくなるし、二人きりで幻想的な映像を楽しめるのっていいわね
最初ははしゃいでいるが、しばらくすると黙って映像を食い入るように見つめ

食事中も口数少なく大人しい
あ、ごめんなさい違うの
ちょっと考え事してて…
仮装パレード?もちろんいいわよ

王子の婚約者の姫の仮装
脇役のためレムの後ろの列の目立たない場所に
人魚姫の映像を見て思ったの
あたしは彼女のようにはなれないなって
実るか分からない恋に身を投じて最後には泡になってしまう
あたしにそんな勇気はないわ
それに…王子は結局人魚姫を選ばなかった
レムと結ばれないなんて嫌だもの

レムの言葉に微笑み、嬉しそうに腕を絡め


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  シアター・メリーゴーランド
泡になって消えてしまう人魚姫に思わず涙
羽純くんの手が温かくて…うん、私達はずっと一緒に…

ムーンライト・ロード
月光華が本当に綺麗…!(それに囲まれる羽純くんも)
人魚の歌声が聞こえたら、素敵な歌声と一緒に歌ってみたい

ブルーム・フィール
何というか凄いという単語しか出てこない自分がもどかしいよっ
この景色目に焼き付けたい…こんなに綺麗なんだもの
え…?…そ、そうだね。また一緒に…

カフェで食事
カプチーノ
チキンライスプレート

パレード
レンタル貸衣装で人魚姫
羽純くん、本物の王子様みたい…
ううん、違う。羽純くんは私の王子様
ハッピーエンドの童話みたいに、私も羽純くんと絶対に幸せになる
なろうね



 今日、出石 香奈は精霊のレムレース・エーヴィヒカイトとともに、マーメイド・レジェンディアに来ています。
 マーメイド・レジェンディアには様々なアトラクションがありますが、12月から1月にかけてはパレードが行われ、一般客でも特別参加することが出来るのでした。
 香奈はパレードの事を聞いていましたが、まずは他のアトラクションや食事を楽しむ事にします。
 香奈とレムレースは、シアター・メリーゴーランドに向かいます。
「この年でメリーゴーランドはちょっと恥ずかしいけど……」
 香奈がかすかに気弱な表情を見せますが、レムレースは平然としています。香奈が乗りたいのなら、乗りたいものに乗ればいいのです。
 二人が馬車に乗り込むと、やがてメリーゴーランドは周り始め、空間は閉じられて人魚姫伝説の立体映像が浮かび上がり始めました。
 人魚姫の悲恋が、王子との出会いから、彼女が海の泡と消えるまでを、美しい音楽と映像で再現されていくのです。
「外からは見えなくなるし、二人きりで幻想的な映像を楽しめるのっていいわね」
 香奈は最初、はしゃいでいましたが、やがて食い入るように映像を見つめ始めました。美しい人魚姫、そして愛しい王子……。

 十五歳で海底から海の上に浮かんだ人魚姫は、人間の王子様に一目惚れ。
 その王子様の舟が難破したので、砂浜で介抱したのは人魚姫。
 しかし、人間の娘が近づいてきたので隠れてしまう。
 王子様はその人間の娘が、自分の命の恩人だと勘違いして恋してしまう。

 王子様に会いたい人魚姫は、魔法使いのおばあさんに舌を差し出すかわりに
 人魚の二本の尾を人間の脚に変えてしまう。
 そして、王子様の心を手に入れられなければ、自分は海の泡になってしまうという呪いをかけられる。
 体を剣に切り裂かれる痛みに耐えながら、王子様の傍に居続ける人魚姫。
 しかし、王子様は、人間の娘に恋焦がれている。目の前の人魚姫ではなく。

 やがて、その人間の娘が隣国の姫で、王子様の婚約者という事が分かる。
 有頂天になる王子様。
 人魚姫は婚約者の姫の結婚式の介添え役となる。
 結婚式の朝、人魚姫の五人の姉が髪を切った姿で現れる。
 魔法使いのおばあさまに、妹のために髪を切って渡して、呪いを解く方法を教わったのだ。
 ナイフで王子様の心臓を一突きにすれば、その血が脚にかかり、人魚の尾に戻ると。
「そうすれば何もかも元通り。人魚として三百年生きられるのよ」

 人魚は三百年生きられるけれど、死ねば海の泡になるだけ。
 人間は寿命が短いけれど、魂は永遠に生きて、天国に行ける。

 それが人魚と人間の違い。
 人魚姫は、寝室に忍び込んで花嫁と眠る王子様の額にくちづけます。
 王子様は寝ぼけて、花嫁の名を呼びます。
 人魚姫はナイフを海の狭間に投げ込みます。そこから血のように赤い水が広がります。
 人魚姫は一度だけ王子様を振り返り、波間に身を躍らせます。
 みるみる体が泡になって溶けていく……

 日がのぼるとともに、人魚姫の泡はただよう空気とともに天空にのぼりはじめます。
「どこへ行くの?」
 人魚姫が問うと声が聞こえます。
「大空の娘達のところへ」
 真心をこめて王子様を愛し抜いた人魚姫は、空気の精となって空へ昇るのです。
 いつか、死ぬ事のない魂を得る事も出来るでしょう。

 天空に昇る陽を見つめ、人魚姫は生まれて初めての涙を流すのでした。

(こういう空間に二人きりだとやはり少々緊張する)
 レムレースは馬車の隣に座る香奈の事が気になります。
 美麗な映像に集中しようとするのですが、チラチラと香奈の方を見てしまうのでした。
(随分真剣に見ているな……余程気に入ったのだろうか)
 香奈の集中している横顔を見て、レムレースは嬉しく思いますが、微かな寂しさも覚えます。香奈の興味は出来るならいつだって自分の方を向いていて欲しいのです。
 シアター・メリーゴーランドを降りると、二人は近くのレストランへと食事に向かいました。
「やっぱり寒いわね」
「早く店内に入って温まろう」
 レストランのテーブルに着くと、レムレースは注文を聞きに来た店員に300Jrほどの洋風のディナーセットを頼みました。飲み物はホットの紅茶です。
 香奈はレムレースに任せたまま、テーブルに頬杖をついて窓の方を見るともなしに見ています。
「まだぼーっとしているな……まさか楽しくないのか?」
 口数が少なく、大人しい香奈にレムレースはそう尋ねました。
 香奈は驚いてレムレースの方を見上げます。
「あ、ごめんなさい違うの。ちょっと考え事してて……」
 香奈は慌ててちょっと早口になっています。
「そうか……それならよかった。この後パレードに参加してみないか?」
「仮装パレード? もちろんいいわよ」
 香奈は愛想のいい笑顔を見せました。レムレースはほっとします。
 そこにウェイトレスが食事を運んで来たので、二人はそのままフォークを手に取り、食べながら他愛ない話をしました。
「レムは和食だけじゃなく、洋食もマナーがきっちりなのね」
「親が厳しかったからな」
「私のマナー、変じゃないかしら」
「気になるのか?」
「だってここは人が見てるでしょ」
「……ああ。だが、お前が気にするほどではないと思う」
「そうかな--」
 ディナーを食べながら、またふと香奈は考え事をします。人魚姫は、人魚の国のマナーなら完璧だったと思うけれど、人間の国ではどうだったのかな……と。少し悲しい表情になってしまった香奈に、レムレースは心配そうな視線を向けます。目が合った瞬間、レムレースは自然な笑みを彼女に見せました。
(……少なくとも、私の王子様は、こんな場面でも私を傷つけたり、恥ずかしい思いをさせたりする人じゃない……)
 香奈も自然と笑顔になって、レムレースの方へ心を戻しました。
 レストランを出ると、ちょうど時刻が迫ってきたので、二人はパレードの行われるメインストリートの方へ歩き始めました。
 受付で飛び入り参加を認めてもらい、二人は貸衣装の更衣室に入ります。
 香奈が着替えたのは王子の婚約者の姫の仮装でした。
 レムレースの方は王子の仮装です。
 香奈は、脇役ですので、レムレースの後ろの列の目立たない場所に移動してパレードに参加しました。
 輝かしいばかりの光と華麗な音楽を解き放って、パレードが出発します。マーメイド・レジェンディアの役者達は夢見るような装いで、彼ら自身がアトラクションの一部となって踊るように歩いて行きます。
 それに続く一般客も、多くは人魚姫、そして数々の童話のヒロインやヒーローの仮装で役者達の後を行進していくのでした。
 香奈は婚約者の姫の格好で目立たない位置を歩きます。
 王子の姿のレムレースは香奈が気になって、何度も振り向いてしまいます。
 そしてついには、列を移動して、香奈の隣へ行きました。
「香奈は脇役なのか? てっきり人魚姫をやるものだと思っていたが」
 周囲は少し驚いたようですが、二人が恋人同士と見て取り、皆見てみぬふりをしてくれました。
「人魚姫の映像を見て思ったの。あたしは彼女のようにはなれないなって。実るか分からない恋に身を投じて最後には泡になってしまう。あたしにそんな勇気はないわ」
 パレードの光の波と喧噪に包まれながら、香奈はレムレースにだけ聞こえる声で言いました。
「それに……王子は結局人魚姫を選ばなかった。レムと結ばれないなんて嫌だもの」
 例え、ただの仮装パレードであったとしても、意中の人と結ばれないのは悲しいから。
 香奈はそんないじらしい表情を見せました。
「ずっとそのことを考えていたのか。確かに第三者から見ると美しい悲恋物語だが、当人……王子から見るとどうだったのかな」
 王子にしてみれば、人魚姫は命の恩人ですが、何もかも分からないうちの出来事なのでした。難破船から助けてくれたのは、婚約者のお姫様だと信じ切っての事です。
 人魚姫が海の泡となった事を知ったならば、彼はどう思うのでしょうか。それは語られない結末の話ではあるけれど。
「だがこれだけははっきりしている。俺が好きなのは人魚姫ではなく、香奈という一人の女性だということだ」
 レムレースの言葉に、香奈は目を見開きます。やがてその瞳が潤み、寒さのせいではなく頬を紅潮させながら、香奈は微笑んでレムレースの腕に自分の腕を絡めたのでした。
 夢のようなパレードの中で、香奈はレムレースの愛情とぬくもりを抱き締めています。
 いずれこの夢は現実の世界で、彼の妻となることでかなえられるのでしょう。美しい人魚姫の悲恋とは全く違う、香奈には香奈の選んだ険しい道のりがあるけれど、それはレムレースとならばきっと、どんな試練の道も乗り越えられると信じられるのでした。
 香奈は実らない恋愛に身を投じる事は出来ません。ですが、人魚姫と同じく、陽を目指して空へ昇る魂のように、誰か一人を愛し抜く事は出来ると思えました。--それは隣のレムレースも同じです。

●フィオナ・ローワン(クルセイド)編

 フィオナ・ローワンは精霊のクルセイドと、マーメイド・レジェンディアを訪れる事になりました。
 フィオナがネットで検索をかけてパレードの情報を見つけ、クルセイドに話してみたところ、彼も同じ広告に気がついていたのでした。
「なんだか、嬉しいですね」
「……同じイベントに目をつけるとは、何とも奇遇な話だ。雑誌で見かけて、フィオナが好きそうだと感じていたのだが……偶然も、味なものということか」
 クルセイドも気をよくしたようですので、二人は冬の遊園地にやってきました。
 訪れたのは夕暮れでした。
 ほどよく辺りも薄暗くなってきましたので、二人はまずムーンライト・ロードを歩く事にしました。
「散歩するだけでいいんです」
 月光華が咲き乱れる薄闇の小径を、二人はしばらく歩き続けました。
 遠い海の方角から、途切れ途切れに人魚の歌声が聞こえて来ます。歌詞はよく分からないデタラメでしたが、聞く者を海の世界に誘うような歌声でした。
「月光華の咲き乱れる道って……とてもロマンチックですね」
 フィオナがささやくような声で言いました。
(そう感じてるのは私だけかもしれませんが)
 フィオナは月の色合いをした華を見つめながら、ふと老婦人の温室の事を思い出しました。
 六月の美しい花に彩られた温室。
 亡き夫との思い出を胸に、彼と作ってきた温室を守りながら、訪れた二人に美味しいお茶を入れてくれた老婦人。
 あのときは、薔薇とコスモスの花冠をフィオナが被って、ブーケは二人で持ちました。
 普段は威張っているのかと思うほど、クールで何事も斜に構えているクルセイドが、記念撮影の時だけは笑ってくれたのです。
 もしかしたらあれが、フィオナが初めて見たクルセイドの笑顔だったのかもしれません。
(彼は、来年は笑ってくれるかしら……。やっぱり、相方の精霊には、笑顔でいて欲しいと思うから……)
 そう思って、フィオナはクルセイドの方を振り返りました。
 クルセイドは瑠璃色の瞳で闇の中に咲く花に魅入っている様子です。二人とも、人魚の歌声に耳をすましながら、黙って月の花の小径を歩いて行きます。何も言わなかったけれど二人の体の距離は寄り添い合うように近く、心の距離さえも狭まったように感じられるのでした。
 その後、クルセイドがフィオナをブルーム・フィールに誘いました。
(散歩だけでいいと、謙虚なことを言ってはいるが、観覧車で夜景を見降ろすのも乙なものだ)
 巨大な観覧車の中から、マーメイド・レジェンディアの夜景を眺め下ろします。
 一望される数々のアトラクションの輝き。古城のライトアップ。
 少し離れて、先程の月光華のムーンライト・ロードが光の霞のように広がっているのが分かるのでした。
 それは不思議で幻想的で、まるで夜の夢の中に迷い込んだように、輝かしくも圧巻、壮麗な光景でした。
 フィオナは嬉しそうな表情で窓の外を見下ろしています。ずっと飽きずに眺めている様子にクルセイドも微かに口元を綻ばせます。
(ゴンドラの中は、二人だけの空間だしな……)
 特別な会話はないものの、フィオナと落ち着いて静かに時間を過ごすのも悪くないと思えるのでした。
 窓ガラスにはフィオナの顔が映りだしています。
(……)
 そのとき、クルセイドが思い出したのはハロウィーンでの出来事でした。
 ケット・シーのお願いで、妖精の森の聖なる火の番をした時に見た、火の中に映し出された人影です。
 赤い髪と緑の瞳を持つ、フィオナとそっくりの女性。
 縁のある死者など一人も思い当たらないとフィオナは言っていました。
 クルセイドの知る限り、フィオナは旅芸人の一座で育った少女のようで、生い立ちははっきりとしないようです。本人も旅の一座から旅の一座で渡り歩く自分の身につけた技術だけが頼りの身の上です。
 その彼女と瓜二つの影が、聖なる火の上に現れた……
(あのときは何も考えず、彼女は俺が守ると……そう誓ってしまったが……あの悲しそうなご婦人は、一体誰なのだろう……フィオナは本当に何も知らないのか……)
 窓ガラスに映り出すフィオナの影。
 その窓ガラスが鏡のような役割を果たして、ガラスを通じてクルセイドとフィオナは目が合いました。
 クルセイドが頷きかけると、フィオナは目を伏せて恥じらうような表情を見せました。
 それがどこか悲しげで、クルセイドはますます火の幻の女性にそっくりだと思ってしまいます。それは何を意味しているのでしょう……。
 その後、クルセイドが予約していたレストランに向かいます。
「余り堅苦しくないものが良いから……ポトフをメインにした、家庭料理風のコースにしよう」
 クルセイドがメニューを選んで店員に注文をしました。
 料理が運ばれてくるまでの間、二人は他愛ない会話をしていました。やがて寒い季節にぴったりの熱いポトフが運ばれてきます。
「ムーンライト・ロードは肌寒かったけれど、それも風流だったと思います」
 フィオナがそう言って、クルセイドはまた微かな笑みを見せます。
 デートの最中に不平不満を口にしないのは、最低限のマナーですが、それが自然と身についているのが好ましいのでした。
 レストランを後にした二人は、パレードの貸衣装の更衣室へと向かいました。
 更衣室の手前でパレードの受付をすませ、衣装部屋へと入ります。
「パレードの衣装の方は……フィオナに任せる。旅芸人の一座にいたのだから、お手の物だろうし」
 クルセイドがそう言ったので、フィオナは考え込みながら衣装を次々と見て回ります。
 彼女が選んだのは、アリスの帽子屋さんの衣装でした。
 大きな黒のマジシャンズハット、それにネクタイにスーツなのに、どこかおどけたピエロのような雰囲気の衣装を、フィオナはクルセイドに着せつけます。
 彼のロングヘアは緩く背中で結んでしまいました。
 着替えを終えたクルセイドに、フィオナは微笑みかけました。
「素敵ですよ」
 クルセイドは鏡の中の自分を見て、少し驚いたようでしたが、何も言いませんでした。
 フィオナはフィオナでハートの女王様に着替えます。
 黒と赤と白のカードの三色を絶妙に取り込んだ、ちょっぴりコケティッシュなドレスの胸には赤と黒で大きなハートマークが染め抜かれています。
 フィオナがその衣装に着替えると、クルセイドはやはり何も言いませんでしたが、喜んでいる雰囲気は伝わってきました。
 二人は貸衣装の部屋を出て、パレードの飛び入り参加に向かいました。
 フィオナはドレスの裾捌きに気を遣います。
 普段と違うロングドレスですので、裾を踏んでしまわないか気になるのです。
「……」
「……えっ?」
 下を見ながら歩いていたフィオナは、クルセイドが突然何か言ったので、慌てて顔を上げました。
「クルセイド、何か言いましたか?」
 貸衣装の部屋から出て、パレードに向かう途中。
 マーメイド・レジェンディアの人通りはあるものの、誰も二人の事を気にとめていない路上。
 そこでクルセイドが、ちょっと視線をそらしながら言いました。
「似合っている……惚れ直した」
「……!」
 全く予測していなかった言葉に、フィオナはびっくりして固まってしまいます。
 クルセイドはそのまま足早にパレードの方に向かって行きます。
「あ、待ってください!」
 フィオナも慌てて追いかけるのでした。
 光と火と音楽が美しい滝となるようなパレードが始まります。その一部となって行進しながら、フィオナはクルセイドとの絆の事を考えました。
 二人に訪れた様々な出来事が積み重なって、新しい関係が始まりつつあるように感じられるのです。
(あんな言葉をクルセイドが言ってくれるなんて……!)
 来年はなんだかとても素敵な年のように思えて期待してしまいます。
 いえ、勿論、今だって、クルセイドと過ごす毎日がつまらないなどという事はないのだけれど。
 遊園地の役者が乗っている幻想的な乗り物から、光のシャワーが浴びせかけられ、次々と楽しい音楽が流れてきます。
 それに合わせて気分が高揚してきて、フィオナはなんだか踊り出したい気分になってきました。
 歌舞も器楽も人並み以上のフィオナは、こんなときは美しい舞の方が自分の気持ちをうまく表現出来るのです。
「踊りませんか?」
 浮き立つ気持ちに任せてフィオナはクルセイドに問いかけました。
「まさか。……行進の最中だぞ」
「ふふ……」
 フィオナはクルセイドの手を取ってパレードを抜け出しました。人のまばらな路上に彼を連れて行き、今の自分の気持ちを表現するために歌いながら踊り始めます。もうほんの数日で新しい年の幕開け。その未来に向かって、彼とどんな関係を築きたいのか……それを示す歌と舞。クルセイドは一番眩しいものを見つめる表情で、それを見守るのでした。

●桜倉 歌菜(月成 羽純)編

 今日、桜倉 歌菜は精霊の月成 羽純とマーメイド・レジェンディアでデートです。
 アトラクションを全制覇してやるのだと、前日から張り切っていました。
 羽純も苦笑しながら歌菜につきあいます。テーマパークにパレードにと夢を見ている歌菜の事は本当に微笑ましく可愛く思えるのでした。先月から、パレードに行きたいと言っていたのを知っていますから。
 歌菜はマーメイド・レジェンディアに着くなり、羽純の手を握って走ります。行き先はシアター・メリーゴーランドです。
 二人が一緒に馬車に乗り込むと、すぐにメリーゴーランドが回り始めました。
 外界から閉じられた空間の中で人魚姫の美しい悲恋物語が立体映像で展開されていきます。
 その美麗でリアルな映像の素晴らしさに歌菜はしばらく声も出ませんでした。隣で羽純も感心しているようです。
 馬車に乗りながら、歌菜は息を詰めて人魚姫の物語を追いかけていきます。
--泡になって消えてしまう人魚姫に、歌菜は思わず涙をこぼしました。
 羽純は指を伸ばしてそっと歌菜の涙を拭います。
 羽純の温かい手のひらに歌菜はほっと息をつきます。
「以前も言ったが……俺が王子なら、違う結末を描いてみせる。俺は歌菜の傍にずっと居る」
「……うん、私達はずっと一緒に……」
 歌菜は羽純の掌を頬に感じながら、考えました。
(羽純くんの描く人魚姫のストーリーってどんなものだろう。王子様を薄情者って怒っていたけれど……それじゃ、羽純くんの思う王子様は、どんな振る舞いをするんだろう……)
 歌菜はじっと羽純の事を見上げました。
「歌菜?」
「羽純くんは……人魚姫の王子様だったら……どうするの?」
「?」
「羽純くんだったら、どうしたのかなって……」
 羽純はちょっと困った表情を見せました。
 確かに、以前から、羽純は人魚姫について、自分なら違う結末を描けると断言していました。
 ですが、その内容は歌菜に話した事がなかったのです。
「俺なら……命の恩人を間違えたりはしない」
 羽純は少し照れたような表情で話し出しました。
 何しろ、人魚姫は女の子向けの童話と言われています。
 それで、真剣に別の話を考えたなどと言うのは、男子としては少し不自然だと本人が思っているのかもしれません。
 ですが、その場にいるのは歌菜一人。気恥ずかしいけれど、話す事が出来る環境です。
「例え、最初は気づかなかったとしても……。難破の時は気絶していたから、間違ってしまったにしても、人魚姫が自分の前に現れたのなら、どこかで分かるはずだ。彼女の真剣な想いを……口がきけないにしたって、その視線や、その笑い方や……様々な事で、人魚姫が一体、誰なのかに途中で気がつけるはずなんだ。俺なら……」
 羽純は歌菜の瞳をじっと見つめながら言いました。
「大事な相手を……間違えたりはしない」
「えッ……う、うん」
「だから、例え父親の王様の命令であっても、婚約者の姫とは結婚しない。そうして、異種族だからとどんなに反対されたって、自分に惚れ抜いてくれた女の子と結婚する。人魚姫は、俺と結ばれれば、天国にいける魂を手に入れられるという……という事は、人間になれる可能性があるんだろう。俺なら、それに賭けてみる。男として」
 羽純の真剣な眼差しに、歌菜はくらくらしてきます。その対象の姫として選ばれているのが、自分だと分かるからです。
 やがて馬車は一回りして元の出入り口に戻りました。歌菜は慌ててハンカチで目を拭いアトラクションから降ります。
 次に目指すのはムーンライト・ロードです。
 そろそろ夕闇が忍び寄る時刻でした。冬の早い日暮れ、月光華は絢爛と花開いています。
「月光華が本当に綺麗……!」
 宵闇に月のような輝きを見せる花に歌菜はうっとりしてしまいます。
 何よりも、月光華に囲まれた羽純の麗しさにまた心が奪われてしまうのでした。
 やがて海辺から人魚の歌声が聞こえ始めました。
 歌詞はよく分からないデタラメでしたが、その歌声はどんな人間も海底へ誘ってしまうような底知れない魅力があります。
 歌うのが好きな歌菜は、その人魚の歌声に声を合わせて歌い出しました。
 羽純は思わず聞き惚れます。ですが……
(歌菜を人魚に奪われてしまいそうだ……)
 そんな危うさを覚えるのでした。
 羽純は歌菜を抱き寄せて自分のモノだと確認したい衝動に襲われますが、必死に自制します。
 次に向かったのはブルーム・フィール。
 マーメイド・レジェンディアを一望出来る巨大な観覧車です。
「凄い! 凄い、すごーいっ!」
 窓に張り付いて、歌菜は興奮気味です。
 あらゆるアトラクションの光の輝きとともに、先程歩いていたムーンライト・ロードの月光華の灯りも全て見渡せるのです。
「何というか凄いという単語しか出てこない自分がもどかしいよっ。この景色目に焼き付けたい……こんなに綺麗なんだもの」
 窓ガラスに鼻を押しつけるようにして喜んでいる歌菜を見て、羽純は連れてきてよかったという気持ちでいっぱいです。
「また一緒にここに来よう。そうすれば、この景色をまた一緒に見られる」
「え……? ……そ、そうだね。また一緒に……」
 自分のはしゃぎ具合に気がついて、歌菜は照れたように笑います。羽純はそんな歌菜を微笑んで見守っているのでした。
 アトラクションを全て回った歌菜と羽純は、手近なカフェに入りました。
「カプチーノと、チキンライスプレート」
「俺も同じものを」
 二人は店員に注文をすませると、今日見たアトラクションの話などを繰り返しました。それから、この間の『そらのにわ』の話も少しだけ。
「星がとても綺麗だったね。……あ、あのときは……」
「歌菜と見られた星が一番綺麗だったよ」
 また緊張してどぎまぎしている歌菜に、羽純が甘い笑顔でそう答えました。彼がどれほど理性を鍛えまくったかについては、歌菜はちょっと分からないでいるようです。
 そんな様子の歌菜に、思わず羽純が苦笑い。
(男が妻にしたい女と一緒に、露天風呂に入って、そのあと同じベッドに寝て、何事もなかったって……どんな試練だと思っているのか。それだけ、お前の事を大切に思っているんだぞ)
 歌菜は羽純の笑いの意味が分からないまま、チキンライスを食べていました。
 それからパレードの受付時間になったので、二人はカフェを出てメインストリートに向かいました。
 パレードにはレンタルの貸衣装があります。受付をすませて、二人は貸衣装の更衣室の中に入りました。
 歌菜は、人魚姫の衣装に身を包みます。思い切って肩を出したドレス。足下は魚のひれを思わせるマーメイドライン。ひれのようなフリルは歩く時に気をつけなければなりません。
 羽純の方は人魚姫の王子様です。肩に金の房をつけた純白の正式な衣装。金色の飾り帯。
 更衣室から出て、メインストリートに向かう手前で二人は着替えてから合流。
 羽純は、歌菜の仮装の美しさに、一瞬言葉に詰まります。
(羽純くん、本物の王子様みたい……)
 歌菜の方も、羽純に見とれてしまうのでした。
「ううん、違う。羽純くんは私の王子様」
 胸の前で両手を組んでそう言う歌菜に、羽純は少し照れくさくなります。
「ハッピーエンドの童話みたいに、私も羽純くんと絶対に幸せになる。なろうね」
「歌菜は俺にとって、唯一の姫君だ。ああ、必ずハッピーエンドだ。俺はお前を離さない、見失わない。愛してる」
 それから二人はマーメイド・レジェンディアのパレードに参加します。
 輝く光。素晴らしい音楽。夢の世界。おとぎの国--そんな空間の中に、姫と王子の姿で紛れ込んで行進。
 人魚姫は三百年の寿命を捨てて、たった一人の王子様のために、海の泡と消えました。
 彼女の生涯で最も尊かった事は、難破した王子様の命を助けた事。その後も、変わらず愛し抜いた事。
 その報いとして--彼女は大気の精となり、天国へ行けると言われています。
 ですが、歌菜と羽純にとっては、そのパレードの行進が天国の出来事でした。変わらぬ愛情はそのままに、お互いを間違わずに選び取り、お互いに手を握り合って今だけ姫と王子に姿を変えて、前を向いて進んでいるのです。
 二人にとって、人魚姫の悲恋は書き換えられるハッピーエンドです。
 今後も、どんな悲しい出来事が訪れたとしても……歌菜が羽純を守り、羽純が歌菜を守り、二人は二人で選んだ道を進んでいく事でしょう。
 どこまでも、どこまでも、ハッピーエンドを目指し、ひとつひとつ幸せを積み重ねる事によって……。



依頼結果:成功
MVP
名前:桜倉 歌菜
呼び名:歌菜
  名前:月成 羽純
呼び名:羽純くん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 森静流
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ EX
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月16日
出発日 12月22日 00:00
予定納品日 01月01日

参加者

会議室


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