THE SUPER MONKEY(ナオキ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「今年ももう終わりだよ、早いね~」
「つまり?」
「そう、つまり」
「ここに集まってもらったあなたたちウィンクルムと我々とで、今年もアレをやる時期ということだ!」
 とある町の、とある集会場。地元の青年団の中心メンバーである数人の若者が、気合も露わに拳を握る。
 揃いも揃って、皆動き易さを重視した服装だ。おまけにそれぞれ網だったりロープだったりシャベルだったりと、夏休みの自由研究の材料を探しにいく子供のような装備まで携えていた。バナナやリンゴ、サツマイモ、キャベツ、木の実などが詰まった籠も大量に用意されている。
 虫捕り用にしては、大きな網。そして集会場の前に設置された、こちらもまた大きな檻。紅白の飾りで煌びやかに盛られた檻の中は、今は何も入っていない。今はまだ。
「今年はまだ楽なほうだけど、油断して怪我しないようにしないとなあ」
「ああ、猪、牛、虎、龍の時はそれこそ命懸けだったから……」
「ていうか龍って。龍って。無理があるだろ」
「兎に角、今年の干支様は頭が良く、素早い。年末年始のご馳走で太らないように、山全体を走り回るぐらいの気合で臨もう。クリスマスがナンボのもんじゃー!」
 あなたが参加するのは、この町の伝統行事である『干支様捕獲大作戦』。
 普段は住民全員から大切に飼われている干支の動物たちは、己の持ち回りの年にだけ自由に放たれ悠々自適に好きな場所で過ごし、そうして民を近くから見守り町を護るとされているのである。龍も。龍でさえも。今年は辰年ではないので詳細は省く。
 今年は、申年だ。
 一月一日に檻から出した猿五匹全てを丁重に捕獲し、来年の担当である鶏と交代の儀式を執り行わなければならない。
 聡い干支様たちは、今日だけは決められた範囲――この集会場からも見える小さな山――からは出ないでいてくれるので、人間と動物による少々ハードな鬼ごっこ、というわけだ。
 とはいえ、如何せん舞台は山。足腰に相当な負担がかかるのは必至だった。
「大丈夫、干支様はこの儀式のことわかってるから。絶対に山からは出ないし、最終的にはちゃんと捕まってくれるよ」
 段々と緊張を帯びてきたあなたに、餌を用いた罠を作るひとりの青年が優しく話しかける。
 言葉通り、周囲の若者たちは皆一様に顔を輝かせている。
 要は動き盛りの青少年の、ちょっとしたお楽しみでもあるらしかった。
「現在、午前9時58分。2分後にスタート! 各自体力と相談してちゃんと休憩取れよ」
「夕方までには任務完了させないと、暗くなって何も見えなくなるから」
 午前10時。
 あなたは網を持って、パートナーと走り出す。

解説

※現地への往復交通費として、300Jrを消費

■町について
地方によくある普通の田舎です。中途半端な自然も残っており、住宅地に普通に田んぼがあったりします。
コンビニは少なめ。商店街もあまり活気はなさげ。
参加している青年たちは15人程です。
住民は皆、ウィンクルムに対しても分け隔てなく接してくれます。

■山について
標高100メートルと少しの、小さな山です。
野生の動物も生息しています。熊はいませんのでご安心を。

■干支様について
・他の猿よりも数倍賢い
・身体は大きいが基本的に人懐こい
・大切に扱われているので、美食家
・歌や舞などを見るのが大好き
・日が暮れれば自ら捕まってくれる

■禁止事項
干支様への攻撃は全て禁止です。
○落とし穴などの罠にかけること
○餌に睡眠薬を混入させること
×直接、麻酔銃などを撃つこと

追いかけ回して挟み打ちにするのか、罠を作るのか、はたまた説得するのかは自由です。

ゲームマスターより

クリスマスを素っ飛ばして、お正月には欠かせない干支ネタです。
ついでに寒さも吹き飛ばすように、めいっぱい駆け回ってお猿さんを捕獲しちゃってください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

柳 大樹(クラウディオ)

  網借りて、サツマイモ何個か持って山に入る。
歩きながらサツマイモを点々と置いてく。
んー。(問うように呼ばれ、説明
「仕掛けのない食べ物で気が緩んでくれないかな、と」
「それで他の罠にかかれば楽だし」
まあ、逃げてる猿の挟み撃ちに協力するのもありかな。

クロちゃん。ちょっと木、登って上見て来てくんない?
猿なら木の上も移動するだろうし。

昼は山下りてお昼休憩。コンビニで済ませる。
飼われてるなら、聞き込みで猿たちの好きな食べ物わかるかねえ。

入手した情報から猿の好物を朝と同じように置いてく。
一個だけ睡眠薬混ぜとく。
時間おいて様子見に来よう。かかってくれる猿がいるかもだし。

檻に入った猿に「お疲れさん」と声をかける。


李月(ゼノアス・グールン)
  可能なら他の方やNPCとの協力歓迎

やってやる!
気合十分で参加
作戦は了解済
鉢巻きにバナナ挟み
身体にもみかんやリンゴ等括りつけたタスキ掛けて囮役
姿探し進む
飛掛り等驚かないよう気構え

遭遇
「ほーらお食べー」バナナの皮剥いて気を引きにこやかに油断を誘う
猿に調子合わせながら相棒の投網待つ

網外れたら「何外してんだよ!
網掴み捕獲試み追いかけながら
「猿に嫉妬とか訳わかんないから!
息合わず惜しい所で取り逃がす
相棒が嫉妬拗らせ気味なので休憩


昼時
適当な場所で弁当
ほら
どでかいおむすび渡してやる
人目が無いの確認し寄掛かりさっきの答えとして
「頼りにしてるただ一人の相棒だよ(頬染

耳打ち
「今なら捕まえられる
相棒と網持ってそーれ


●ROUND 1
 網を携えた柳 大樹が片腕に抱える紙袋には、アツアツホクホクの焼き芋――ではなく、水洗いされただけのそのままのイモがいくつか入っていた。
 柔らかに湿った土の上を歩く大樹の歩調は、普段となんら変わりのない緩やかなものだ。
 その斜め後ろ。
 一歩半の距離を几帳面に保ち、大樹の背中を視界から外さぬまま周囲を見渡すクラウディオもまた、捕獲用の網を肩に掛けている。
 ふたりは特に言葉を交わさないが、険悪な沈黙に場が支配されることもなかった。
 任務の内容とは裏腹な、穏やかな雰囲気が一歩半の間を埋めている。
 とはいえ、小鳥が囀る静謐な山、というわけでもなく。
 遠くからは、若者たちの元気な声がしきりに聞こえてくる。慌ただしい足音が駆け抜けて行く。
「もう結構登った、よな。ここらへんでいいか」
「?」
 ひとりごちた大樹は徐に紙袋からイモを取り出し、立ち止まらずに少々腰を屈め無造作にそれを地面へと置く。進む。再び置く。
「……大樹」
 三つ目のイモを置いた大樹の背中に、感情の読めないクラウディオの声がぶつかった。
「んー?」
「何の為にサツマイモを置いている」
「ああ……、仕掛けのない食べ物で気が緩んでくれないかな、と。これを食べるのに夢中になってたせいで、他の罠にかかってくれれば楽だし」
 肩越しに振り返った大樹の説明に、クラウディオは僅かに顎を引いて頷く。
 間接的な協力を主に行うつもりでいるらしい大樹の方針。
 そうか、と。圧倒的に言葉の足りないクラウディオのそのひと言には、しかし納得の色が控えめに添えられていた。
 機微を悟った大樹は、こちらもまた控えめに右の口角だけを上げ、あっさり前へと向き直る。
「まあ、効果の程は不明だからね。機会があれば挟み撃ちに協力してもいいし」
「あるようだな」
「え?」
「機会だ」
「ええ?」
 身体ごと振り返った大樹の、眼帯に覆われていない右目が、クラウディオの人差し指に誘導され左方向へ視軸を動かす。
 こちらに走って来る、毛艶のいい一匹の猿。
 何事かをいがみ合いながら、それを追いかけて来る神人と、精霊。
 その内のひとり。何やら全身に果物を巻き付けた人物が、ふと大樹たちの存在に気付いた。
「や、柳さーん! 猿! そっち、逃げっ、挟み撃ち!」
 聞き覚えのある声に、大樹は僅かに瞠目して数回大きく瞬きを落とした。
「李月くんか。あれ」
 その間も、猿はぐんぐんこちらに近付いて来る。大樹たちの存在を目視しながらも、だ。
 まだまだ日は高い。捕まってやる気はない、四人がかりでも問題ないという自信の表れだろうか。
 仕方ない、と大樹が呟いたのを合図に、クラウディオが真正面から猿に駆け寄る。
 急ブレーキをかけた猿は、すぐさま右に曲がり――網を広げて待ち構えていた大樹と対面した。
 キキ、と意外そうに鳴いた猿。勝利を確信する李月と、ゼノアス・グールン。
「! 大樹」
 フードと口布で顔のほとんどを隠すクラウディオが呼ぶと同時に、猿は軽々と大樹を飛び越え、頭上の枝へと身軽に飛んでみせた。
 一斉に四人が見上げた先では、丸い瞳を上機嫌に潤ませた猿が、実に楽しそうに鳴き声をあげている。
「サル! 下りて来やがれこの野郎!」
 ゼノアスの怒号に臆することもなく、猿はそのまま枝から枝へと飛び移り、華麗に立ち去ってしまった。
 逃げられたことによる怒り、というよりは、そもそも派手な登場の際から苛立たしげに見えるゼノアスと、歩く果物店のような出で立ちの李月を交互に見遣り、大樹は飄々とした顔つきで己の頬を掻く。
「喧嘩? 仲良くしないと、捕まるものも捕まらな――」
「聞いてくださいよ! さっきゼノが!」
「聞いてくれよ! リツキの奴が!」
「……」
「……」
 綺麗に重なった言葉たち。鳥の囀り。
 この場の空気をあっさりスルーして歩き出そうとしたクラウディオの裾を引っ掴み、大樹は深々と嘆息した。
 数十分前。
 果物を使っての囮役を買って出た李月は、地元の青年らにも手伝ってもらい、漲る気合がそのまま表現されたかのような姿になった。
 頭に巻いた鉢巻きにもバナナを挟むという拘りである。そこに一切の手抜きはなかった。
『お猿さーん、干支様ー? どこですかー?』
 優しい声色で語りかけながら山中を進む李月に、木の影に隠れるようにして追随するのは、捕獲係を担当するゼノアスだ。
 李月が餌付けしている間に、ゼノアスが網を投げ、李月ごと捕獲。作戦は完璧だった。
 作戦は。
 これまで培ってきたゼノアスのスキルが、野生動物ではない本命の気配を察した。
『リツキ……!』
 ほとんど囁き声同然だった合図をしっかりと鼓膜で受け止めた李月は、そろりと右手で鉢巻きのバナナを一本抜き取り、これまたゆうっくりとした所作で皮を剥き始めた。
『美味しいバナナがありますよ、リンゴもありま、……あ』
 いつの間にここまで近寄って来たのだろうか。李月の真向かいに、ちょこんとしゃがみ込んだ念願の猿が、一匹。
 きらきらと黒目を輝かせて、今まさに剥けたばかりのバナナを見詰めているではないか。
 幸先のいいスタートにやや緊張しつつも、出来るだけ無害そうな笑顔になるよう注意して、李月は猿の口元へバナナを差し出す。
『ほーら、お食べー』
(食べろ食べろ食べろ食べろ食べろ! 油断しろ! 頼む!)
 李月の願いが通じたのか、ぱくり、といとも容易く猿はバナナを頬張った。
 内心で大きくガッツポーズした李月の後ろで、ゼノアスが投網に適した位置まで密やかに移動を開始した。
 せっかく李月がここまで引き寄せてくれているのだ、失敗するわけにはいかない。
『結構可愛いんだな。次は何がいい? ミカン? お、またバナナかー』
 慎重に足音を殺しながら、しかし、とゼノアスは眉をひそめた。
 いくら動物とはいえ、李月から直接バナナを食べさせてもらうのは如何なものだろうか。
『え? 自分で剥くのかよ。……僕に? くれるのか? 人懐こいって本当だったんだな』
(なんだとぉ?!)
 ゼノアスは、繁みに隠れるよう伏せていた頭を思わず上げてしまった。
 猿自身が剥いたであろうバナナ。
 そのバナナを、先程の礼のつもりだろうか、李月に食べさせようとしている標的。
 いわゆる、それは。
(あーんじゃねぇか!)
 ぶち、とゼノアスの頭のどこかで何かが切れる音が確かにした。
『ゴルァ! サルー!』
 果たして怒りに任せて投げた網は、案の定見当外れの場所へと落下したのだった。
 驚き逃げ出した猿を追って先に走り出したのは、落ちた網を素早く拾い上げた李月だった。ゼノアスもすぐその背中を追いかける。
『上手くいってたのに! なに外してんだよ!』
 隣に追いついたゼノアスが、李月の手から網を半分引っ手繰る。
 あとはもう、ふたりで網を広げ、猿を追い回すのみだった。
『うるせー。サルとイチャついてんじゃねぇ!』
『猿に嫉妬とか訳わかんないから!』
『わかれよ! オレを何だと思ってやがる!』
 言い争いながら歩幅をきっちりと合わせて走るあたりが、ふたりがウィンクルムたる所以なのかもしれないが、そんな彼らを嘲笑うかのように、猿は時折振り返っては挑発するように手さえ振ってくるのだった。
『クッソ! 挟み撃ちにするか?!』
『さすがに追い越せないだろ! あっ、あれ柳さんたちだ!』
 暗転、現在に戻る。
「――なっ? どう考えても相棒が悪いだろっ。あとサルもだ!」
「いやだから、どこに嫉妬してんだよ!」
「クロちゃん。ちょっと木に登って、上見て来てくんない? 猿なら木の上も移動するだろうし」
 味方を増やそうと躍起になっているふたりに両側から挟まれた大樹はしかし、話を聞いているのかいないのか、どこ吹く風といった態度でマイペースに己の精霊に指示を出す。
 音もなく一本の木に向かって歩き出したクラウディオは、その長い脚で幹を蹴り、反動を利用してしっかりとした枝に飛び乗るという業をさも当然そうにやってのけた。
「クラウディオさん、すっごいなー……」
「オレだってあれぐれえ出来る」
「……。猿以外もいるようだ。罠で至近距離まで誘き寄せるつもりがないなら、気配から辿るのは得策ではないな」
 ほぼ真上から自分の側に着地したクラウディオの報告に、大樹は、そうか、と短く応える。
 さてどうするか、と。
 自然と考え込む一同の耳に、ゼノアスの腹の虫の悲痛な叫び声が届くまで、あと五秒。
 
●ROUND 2
 昼食の調達がてら、住民たちから聞きたいことがあるという理由で一時下山した大樹らを見送り、李月は両手を腰に当て改めてゼノアスと向かい合った。
 唇を突き出して足元を睨め付けているゼノアスは、空腹だというのにいつものようにそれを主張したりせず、むっつりと押し黙っている。
 相棒がどうやら嫉妬している、というのは、李月にもわかっている。
 けれども何故、たかだか猿にまで嫉妬するのかという点については、理解の範疇になかった。
 そろそろゼノアスの笑顔が見たかった。
 ゼノアスの悋気は、どこか李月を面映ゆい気持ちにさせるだけで、決して不快なものでもない。
 そこまで考えて、李月は徐に雑草が生い茂る地面に座り込んだ。
「弁当持って来てるんだ。ゼノアス、昼飯にしよう」
「……」
「さっき走ったから、ちょっと形が崩れてるかもしれないけど」
「……リツキの飯は、見た目が崩れても美味いから別にイイ」
 口調こそ未だに不機嫌そうなその言葉は、どこからどう聞いても好意の塊だった。
 若干の気恥ずかしさを覚えながら、背負っていた荷物の中から特大のおにぎりを取り出し、すぐ隣に腰を落ち着けたゼノアスに渡してやる。
 五目ごはんで握ったそれは、小食な李月にとっては見ているだけで満腹になりそうな威圧感さえ放っているのだが、受け取ったゼノアスは根が素直なので嬉しげに目元を綻ばせている。
 周囲に他に人影がないことを確認してから、今まさにおにぎりを頬張ろうとしていたゼノアスの肩に頭を乗せる。
 ぴたり、とゼノアスの動きが止まった。
「……さっき、自分のことを何だと思ってんだって言ってたよな」
「……おう」
「頼りにしてるただひとりの相棒だと、思ってるよ」
「……」
「……」
 沈黙。
 何も言わないゼノアスに焦れて、リンゴの如く赤く染まった頬の李月は、伏せていた目をそっと動かして唯一の相棒の様子を確かめる。
 李月が望んでいたままの笑みを浮かべるゼノアスと、視線が、合った。
 慌てて離れようとすると、今度は逆にゼノアスがぐりぐりと肩口に頭を押し当てじゃれてくる。
「あーもう、鬱陶しい! 早く食えよ!」
「ンだよ、照れるなよ。まあでも、サルなんかに妬く必要は確かになかったよな。悪かった。さあて、リツキが作ってくれたおにぎりを早速――あ?」
 一頻りじゃれ合い、すっかり機嫌を良くしたゼノアスが手元に意識を戻すと、おにぎりは忽然と姿を消していた。
 すわ落としたか、と立ち上がりかけたゼノアスの側から、聞き覚えのある鳴き声があがる。
 見間違えるはずがない。
 先程の猿との再会である。
 そしてもちろん、その猿の手には、不釣り合いなほど大きなおにぎりが。
「テメー! 返しやがモガ」
「しー! 待て、落ち着け」
 逆上しかけたゼノアスの口を手で押さえ込み、李月は冷静に猿の動向を見守る。
 バナナを食べさせてやったときとほぼ変わらぬ距離。
 一度は李月たちから危なげなく逃げおおせたという余裕からなのか、こちらに注意を払うでもない。
 猿が美味そうにおにぎりを咀嚼している、この状況。
「僕とゼノアスなら……今なら、捕まえられる」
 李月の耳打ちに、ゼノアスは猿から視線を外さずに大きく頷いた。
 口元を押さえていた手を外し、李月もまた猿を注視したまま手探りで網を探す。
 唯一の絆で結ばれているウィンクルムは、ふたりで網を広げて静かにチャンスを待った。
 巨大なおにぎりを三分の一ほど食べたところで、腹が満たされた猿は無防備に欠伸を零す。
「「今だ!」」

●ROUND 3
「食べ過ぎた」
「断らんからだ」
「いやあ……おばさんの親切を断るほど面倒なことってないよ。まさかあんなに奢られるとは思ってなかったけど。お陰でいろいろ聞けたから、良しとするか」
 片田舎のコンビニは、都心に建っているそれらと比べて、やたらと広い駐車場を所有している。
 その駐車場を突っ切りコンビニを後にしながら、大樹は食べ過ぎ感の否めない腹を撫でた。
 昼食の買い出しに来たふたりは、愛想のいい中年女性の店員から、もっと食べな! と喝を入れられたばかりだった。
 腹ごなしに再び山へと向かうふたりは、途中で一度スタート地点でもあった集会場に立ち寄り、現在までに捕獲された猿の数を確認する。
 設置された檻の中では、如何にも「遊び回って満足した」という様子の猿が三匹、各々好きに寛いでいた。
「ボールで遊んでる小柄なのが、一番大人しい猿。……ん、尻尾が長い猿は綺麗好きだから早々に捕まるっておばさんが言ってた通りだ。で、あそこで寝てる見覚えのある猿は、一番食いしん坊で雑食の子」
「あと二匹、か」
 女性店員から聞いたばかりの情報と照らし合わせるふたりに、戻って来ていた数人の若者が感謝の言葉を伝えに来る。
 今年はいいペースです。
 あの食いしん坊な干支様を捕まえてくださったのは、もうひと組のウィンクルムのかたです。
 本当にありがとうございます。
 後半も頑張りましょう。
 熱い抱負を返すでもなく、ひとつだけと或る指示をした大樹は、ひらりと手だけを振りクラウディオと共に歩き出す。
 自分たちの後ろ姿に若者の羨望の眼差しが集まっていることなど、ふたりは無論知らないだろうし、そもそも興味もない。
 狐の親子を横目に、急ぐでもなくふたりは山の奥を目指して行く。
 朝仕掛けていったイモは全て綺麗になくなっていた。猿が食べたのか、他の動物にいただかれてしまったのか。
「残るは頭領格の一匹と、」
「運動好きのじゃじゃ馬が一匹。しかし、五匹が揃いも揃って酒好きとはね」
 自然が濃くなっていくにつれて、辺りから他の捕獲隊の気配は消える。
 大樹が指示した内容は、山頂付近に誰も近付けるな、というものだった。
 樹木の一本一本が太く長い。
 澄んだ空気を吸い込み、大樹はその場にしゃがみ込んで事前に調達してきた材料を広げ始めた。
「でも誰も酒を罠に使おうとしないんだよね」
「あからさま過ぎるからだろう」
 歯を剥いて威嚇する野犬に鋭い一瞥をくれて追い払い、クラウディオはちらりと大樹の頭頂部を見下ろす。
 彼の手元にあるのは、ビール、日本酒、ワイン、ウイスキー。そして大量の紙コップと――少量の睡眠薬。
 ビールを五つのコップへそれぞれ注ぐ。日本酒もワインもウイスキーも、五つずつ。
「二つでいいんじゃないのか」
「んー。干支様、頭いいみたいだし、もう仲間が捕まったのは知ってそうだけど、敢えて五つ。全員分用意することによって、これはあくまでも罠じゃなくて御供え物ですよ、っていう嘘をね」
「……わからん」
「ああ。クロちゃん、そういう駆け引き苦手そう」
 合計20個の紙コップの内、たったひとつにだけ睡眠薬を混ぜ終え、大樹は立ち上がって腰を伸ばす。
 最後に大樹たちも立ち去り、この場から完全に人間の気配を断って初めて作戦は始動するのである。
 時刻は15時少し前。
「さて、どうなるかねえ。おっと」
 木の根に足を取られかけた大樹を、しっかりとクラウディオが支える。

●FINAL ROUND
 宿敵と呼んでもいい、と密かに思っていた猿を無事に捕獲し、李月が余分に握ってくれていたおにぎりで無事に腹を満たしてからというもの、ゼノアスは絶好調だった、のだが。
 午後からは地元の住民との協力戦に切り替え、残る二匹を必死に探していたものの、何故だかどこにもその姿は見当たらない。
 あたりが夕焼け色に染まり出したのは数分前で、日が暮れてしまうのも文字通り時間の問題だった。
「柳さんが上のほうに罠を仕掛けたんだろ? そっちで捕まってんじゃないのか」
「やっぱそー思うか? アイツら、どんだけえぐい罠を作りやがったんだ」
「――失礼だね」
「ひえっ!」
「おわあ?!」
 突如疲弊しきった声が後ろから聞こえ、思わず李月もゼノアスも飛び上がらんばかりに反応した。
 振り返った先。
 ぬう、と立っているのは、普段よりも目が死んでいる大樹と、ぐうぐう鼾をかく猿が入った網を無表情で提げているクラウディオと。
「……オマエ、それ、どうした?」
 ゼノアスが指差したのは、大樹の頭、にがっしり抱き付く一匹の猿。
 平素より顔を赤くした猿が離れないせいで、生来癖のある大樹の髪はすっかり乱れてしまっている。
 問い掛けに答えたのは、この状況に怒っているのか楽しんでいるのかが全く読めない精霊・クラウディオだ。
「酩酊している」
「へ?」
「猿たちが酒好きだと聞いて、大樹は20の杯を用意した。ひとつにだけ睡眠薬を混ぜてな。一匹でもそれを飲み寝てくれればと思い今し方様子を見に行けば、私たちの思惑通り一匹は寝ていた。それがこいつだ。だが、どうも……こいつは一杯目に睡眠薬入りを飲んだらしく、残りの酒を全てそこの猿が、」
「クラウ。もう何も言わないでくれる」
「了解した」
 罠はきっちり発動した。大樹の予想の遥か斜め上をいく効力で。
「あいてっ」
「イテー!」
 一瞬の出来事だった。
 大樹の頭から飛んだ猿(酔っ払い)は、李月とゼノアスの頭を踏み台にして、なんとそのまま猛スピードで山を下り始めたのだ。
 数秒の間のあと、一同は同時に走り出す。
 最早暗くなるだけの山中で、ここで見失うわけにはいかない。
「大樹、大丈夫か」
「あーもー……絶対に逃がさない」
「お猿さーん! 待て! ほら、バナナあるぞ、バナナ!」
「止まれオイ! サル! リツキ、網どこだ、網っ」
 山に残って捜索していた若者の集団が、徐々に近付いてくるその喧しい一団を見て、先頭をひた走る猿を捕獲しようと最後の力を振り絞る。
 酔っ払いは酔っ払いらしからぬ俊敏さで網を避け腕を避け、走る走る走る。
 勢いを殺さずに山を下りる。
 集会場が目視出来る距離。
 檻の前にいた壮年の男性は、迫りくる一団に戦き、咄嗟に檻の鍵を開けた。
 そして猿は――檻へ、自ら飛び込んで行った。
「……」
「……」
「……」
「……」
 檻に入るなり大の字になって眠り出した猿を前に、肩で息をする四人は発するべき言葉を見付けられずにいた。
(なんで自分から入ったんだ……?)
(……この猿も今の内に入れておくか)
(どれだけ酔ってても家には帰って即寝るどっかのオヤジか?!)
(こ、この野郎……イイ性格してんじゃねぇか!)
 わっと歓声があがった。
 まるで年末年始のようにどたばたとした幕引きだったが、兎に角無事に五匹全てを捕まえることに成功したのである。
 住民にもみくちゃにされながら、大樹は檻の中の猿たちへ短く声をかけた。
 お疲れさん、と。
「でもあの酔っ払いは許さない」
「大樹、髪の乱れが酷い。直して来い」
「めっ、眼鏡が落ちた!」
「おい! あんまりオレのリツキに触るなよ!」
 もうすぐ、申年は終わるのだ。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター ナオキ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 2 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月06日
出発日 12月14日 00:00
予定納品日 12月24日

参加者

会議室

  • [4]柳 大樹

    2016/12/13-22:17 

    プラン提出完了ー、と。

    うん。絡みがあったらよろしくね。
    てか、走り回るって言ったけど。全然走ってない感じになった。

  • [2]李月

    2016/12/13-19:27 

    李月と相棒のゼノアスです。
    僕は果物ぶら下げて囮してます。

    他の方やNPCと協力歓迎と入れさせて貰ったので、どこかで絡みがあるかもしれません。
    その時はどうぞよろしくお願いします。

  • [1]柳 大樹

    2016/12/13-09:43 

    柳大樹とクラウディオでーす。
    よろしく。

    俺もクロちゃんも、歌とか舞できないし。
    ふっつーに走り回ることになると思う。
    罠はなんか思いついたら、かなあ。


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