シティ・オブ・園児s(革酎 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 タブロス郊外の住宅街にある、良家の子女が通う私立幼稚園――その名もニコラスライアン幼稚園では、次の週末、恒例のお遊戯会が開催される。
 このお遊戯会は、園児達が各組毎に異なるテーマで歌やダンスを披露する一種の発表会のようなもので、親御さん方にとっては子供達の晴れ舞台として、毎年大いに盛り上がっている。
 ところが今年は、一部のクラスで例年とは異なる様相が見受けられた。

「おうおう、こんどこそは、しろくろはっきりさせるでー」
「なんやとう、かつのはぼくんとこやでー」
 園庭の真ん中で、年中さん桜組のリーダーであるアルフ・カレンドロ君(5歳)と、同じく年中さん桃組のリーダーであるサルジュ・ボルゼルス君(5歳)が互いに胸を張って、啖呵を切り合っていた。
 ふたりの背後には各組の園児達がギャラリー層を構築し、きゃあきゃあと笑い声をあげてふたりを囃し立てていた。
 どういう訳か今年の年中さんでは、桜組と桃組が何かと張り合ってお互いをライバル視していた。
 これまでも芋掘り、みかん狩り、潮干狩り遠足などで優劣を競い合い、妙に熾烈な戦いを展開し続けてきたのである。
 そして今回。
 これまでの両者の戦いの総決算だといわんばかりに、お遊戯会が決着の舞台に選ばれた模様。

 園長先生は、悩んでいた。悩み過ぎた余り、この半年程で生え際が2センチぐらい後退した。
 それは兎も角として、園長先生が何を悩んでいたかというと、桜組と桃組の過度なライバル心だった。
 お互いに切磋琢磨するのは大いに良しとするところだが、まだ5歳の時分からここまで相手を敵視するのは如何なものかと、非常に心苦しんでいたのである。
 基本的に園児達は皆が友達で、仲良くして助け合いましょうというのが、このニコラスライアン幼稚園のスローガンでもあった。
 なのに、園児達(極々一部だけ、ではあるが)がここまで敵愾心を燃やすというのは、園の方針には大いに反するといって良い。
 しかしながら、子供達の自主性も尊重したい為、無下に対立をやめなさいと強制する訳にもいかない。
 果たして、一体どうすれば――ここで園長先生は一計を案じた。

 翌日、何故かA.R.O.A.本部のボランティア募集掲示板に、悪者募集の貼り紙が掲示されていた。
 悪者といってもこれはあくまで演技の話で、本物の悪者を募集している訳ではない。
 募集者はニコラスライアン幼稚園の園長。
 説明書きにはお遊戯会当日、偽の悪者が会場に乱入してお遊戯会を邪魔しようとするが、園児達の歌やダンスに感動して改心するという台本のもとに、適当に演じて欲しい旨が記されていた。
 勿論、相手は4歳から6歳までの、何も知らない無垢な園児達。
 過度な演技で怖がらせるのはご法度である。
 それでいて園児達に危機感を植え付け、彼らがお互いに協力して悪者をやっつけようという一体感を持つように誘導しなければならないのだという。
 簡単そうに見えて、意外と難しいミッションであった。

 A.R.O.A.本部で受付を担当する事務員さんは、物凄く不安だった。
 ウィンクルム達に、そんな芸当が出来るのか、と。
 いやそれ以前に、こんなボランティアに応募する物好きなウィンクルムが居るのかどうか。

解説

 本プロローグをご覧頂き、誠にありがとうございます。
 プロローグ本文にあります通り、ウィンクルムの皆様には基本的に偽の悪役を演じて頂くことになります。
 特に要注意なのが桜組と桃組の2クラスで、この両クラスの園児達に、如何にして協力体制を敷かせることが出来るのかが肝となります。
 クラスは年少、年中、年長でそれぞれ3クラスずつあり、合計9クラスが出し物を演じていきます。
 全ての演目はここでは割愛しますが、年中さんの桜組と桃組は、以下の出し物を披露します。

 ・桜組:『白雪姫・親指姫・シンデレラ、世界の三大姫、南海の大決戦』
 ・桃組:『花札vs栗きんとん、史上最大の大総統ダンスバトル』

 どのような内容なのかはご想像にお任せしますが、彼ら・彼女らが一致団結して悪者をやっつけようと思えるような演出を考えてご参集願います。

 尚、本案件はあくまでボランティアですので、ニコラスライアン幼稚園までの往復交通費300ジェールは自前でご用意頂くことになりますので、予めご了承下さい。

 それでは、ご参加お待ちしております。

ゲームマスターより

 はじめまして、革酎と申します。
 このたび、らぶてぃめっとステージでマスター業をさせて頂くことになりました。
 ちょっと頭のネジが緩んだようなシナリオが連発するかも知れませんが、どうかご容赦下さいませ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

信道 妙子(モロトフ)

  ・目的

悪者を演じて園児達に手を取り合ってもらう

・動機

年中さんの桜組と桃組の仲違いを、とびきりのワルを演じてどうにかしよう!ということですね。
私は…ご覧の通りちんちくりんでこう…どう仮装しても悪役感出そうにないんですよね。
表に出るなら着ぐるみかな…

・行動

お遊戯会前に、園児の親御さん方には乱入をする旨を伝えておこうと思います。
根回しってやつですね。
親御さん方相手にもぶっつけ本番で上手く演じるのはちょっと無理ですからね…!

子供達の敵愾心が~なんて言っちゃうと心配されちゃうでしょうし、
そこは柔らかく伝えてね。

あとは…2つのお遊戯の題が混ざっても問題ないようにある程度脚本を…
考えないといけないのかな…?


アデリア・ルーツ(シギ)
  こういうのはノリと勢いよ。
悪の女幹部役で、衣装は黒に紫のロングドレス。
子供向けなら露出は控えめよね。
ウィンクルムってバレないように、黒い手袋とドミノマスクも着けるわ。

お遊戯会に乱入して、シギくんと交互に話す。
「いつも喧嘩してる仲の悪い子供を手下にしに来たのよ」
「ここは仲が悪いって調べてあるの! 私たちが嫌いなみんな仲良くなんて、ここの子供にできっこないわ」

「仲が悪い子供に私たちがすごいなーって、思えるお遊戯ができるのかな?」積極的にたきつける。
観客席で出し物がうまく進む度に微笑んだり、小さく歓声を上げて、悪者じゃなくなっていく演技。
マスクは最後に外して、悪い自分とお別れの改心アピールをダメ押し。


●親御さん説明会

 お遊戯会前日の、ニコラスライアン幼稚園。
 その決して広くはない講堂に、園児の保護者達が呼び集められていた。
 講堂は基本的に、小さな園児達が集まれる程度の面積しか無い。
 その為、親御さん方が一斉に押しかけてくると、すし詰め状態となってしまうのだ。
 しかしながら今回は非常に重要な説明会が開催されるとあって、園児の保護者達は皆一様に、息苦しさも蒸し暑さも必死に我慢して壇上の先生方と、そして居並ぶウィンクルム達の話に意識を集中させていた。
「ずばりぶっちゃけていいますと、私達が悪役を演じて園児の皆さんに団結する意識を身に着けて頂こう、という訳です」
 壇上の中央に立って力説するアデリア・ルーツ。
 その力強い言葉に、保護者達は一斉に感嘆のどよめきを上げた。
 ウィンクルムといえば、園児達にとってはその存在自体が、何かよく分からないけど、取り敢えずちょっとだけ物凄いひと、という風に見られている(らしい)。
 そんな彼ら・彼女らが悪役を演じるという形ながら園児達の為に一肌脱ごうというのだから、親御さん方も驚きを禁じ得ない様子だった。

 この説明会を提案したのは、壇上のアデリアと同じく、お遊戯会に乱入して悪役を演じる任務を引き受けた信道 妙子。
 いきなり乱入しては、中には園児達を心配して警察に通報する親御さんも居るだろうとの懸念から、最初に根回しをしておこう、というアイデアだ。
(説明会やってて正解でした……やっぱり親御さん方相手にもぶっつけ本番で上手く演じるのは、ちょっと無理ですからね……ッ!)
 袖口に近い位置でアデリアの理路整然とした説明を聞きながら、妙子は内心で何度も頷いた。
 だが、肝心の妙子自身はというと、小柄で可愛らしい容貌の娘っ子だ。素のままで登場しては、どう考えても悪役としては通用しない。
 そこで妙子は、自分は着ぐるみに身を包んで怪人を演じることにしていた。
「しかし、良いのかヌシよ。これじゃあ顔も何も分からんぞ」
 説明会が始まる少し前、モトさんこと狼の精霊モロトフが妙子の要望に従い、夜なべして作ってきた派手な怪人の着ぐるみを持ってきた際のひと言を、妙子はふっと思い出した。
 サイズとしては、小柄な妙子をもうひと回り大きくした程度に過ぎない。
 だが、園児達を相手に廻すには、丁度良いだろう。
 余りに大き過ぎると却って園児達を過度に怖がらせることになる。ちょっと馬鹿にされる程度の大きさが、今回の任務にはうってつけであった。
 一方、そのモロトフはというと、元来のいかつい容貌をそのまま再利用しようということになり、トゲトゲのついた肩パットや、高さ1メートルもあるモヒカンのヅラなんぞをご丁寧に用意していた。
 胡散臭さ、猛爆の勢い――だが、それが良い。

 同じ悪役でも、黒に紫をあしらったロングドレスに、黒い手袋とドミノマスクを着用するアデリアは至極真っ当な悪の女幹部という姿で、非常にしっくりきている。
 矢張りお子様方相手ということで過度な色気はご法度だから、当然露出も控えめだ。
 アデリアと同じく、漆黒に統一した衣装を纏う予定のシギも何気に格好良いスタイリッシュ悪役。
 妙子とモロトフの凸凹悪役姿の脇を締める立ち位置、といって良い。
「取り敢えず俺達は、こういう格好でお遊戯会の会場に乗り込みますんで、皆さんも真剣且つ適当に、そして物凄く控えめに断末魔のような絶叫を上げるなどして、反応してあげて下さい」
 アデリアに代わって壇上に立ち、悪の幹部姿を披露するシギ。
 説明内容がことごとく矛盾している表現に満ち満ちているが、園児向けの飛び入りアトラクションだから、その辺は本人がいうように、適当で宜しい。
 ところで、今時の特撮ヒーロー物は若手俳優の登竜門であり、イケメン俳優が数多く出演している為に、どちらかといえばお子様よりもお母さん方の方が真剣に視聴しているという噂もある。
 シギなどはまさに、特撮ヒーロー番組に登場するイケメン俳優の流れを汲んでいるというべきか。
 壇上に登場した瞬間、お母さん方から超が付く程の注目を浴びたのだが、シギはまるで気付いていない。
 逆にアデリアは、シギが無駄に格好良くて、麗しき人妻達から好感触を得ていることに、純白のハンカチの端っこをギュっと噛んで、
(キーッ! 悔しくってよッ!)
 的な勢いで、力一杯に引っ張りたいような気分に駆られた。
 キャラ崩壊が凄まじいというよりも、既にアデリアは身も心も悪の女幹部に染まっていると表現した方が正しいだろう。

●本番当日

 そしてお遊戯会の朝を迎えた。
 会場は、実は幼稚園の講堂ではなく、近所の公民館を借りているとの由。
 つまり近所の子供好きなお爺さんお婆さん方も鑑賞にいらっしゃるので、悪役を演じるウィンクルム達は下手な粗相が出来ないのだ。
 当日になって判明した更なるハードルに、着ぐるみに身を隠す妙子やお母さん方を味方にしたシギは兎も角、アデリアとモロトフはそりゃないぜってな気分だった。
 しかし、最早逃げる場所は無い。
 四人は兎に角、やるしかなかった。

 いよいよ、開演。
 園長先生と園児代表の挨拶が粛々と進行して、いよいよ最初の一組目の演目が始まろうという段になったところで、不意に会場内の照明が2ランク程ダウンした。
 そしてスポットライトを浴びた四人の悪役ウィンクルム達が、観客席最後方に颯爽と現れた。
「うわっはははははッ! そのお遊戯会、ちょっと待ったぁッ!」
 モロトフが声高に叫ぶと、事前に打ち合わせておいた通り、親御さん方は何となく適当に驚いたようなワザとらしい悲鳴を細々とあげて下さった。
 一方、近所の爺さん婆さん達は事態を呑み込んでいないらしく、ニコニコと笑顔で四人のパフォーマンスを眺めている。
 だがそんな中で――園児達は本当に驚いた様子で、しかし怖がっている子はひとりもおらず、わぁぁぁーと歓声をあげていた。
 どうやら、どこぞのヒーローショーが出張で営業に来てくれたというぐらいの意識のようだ。
 良いんだか、悪いんだか。
 ともあれ、ウィンクルム達は自らに課した任務を確実に遂行せねばならない。
 悪役の口上一番手は、ボスを演じるモロトフだ。
「吾輩は世界征服を企む悪の共和帝国のボスッ! 名前はまだ無いッ!」
 某文豪作品の、猫っぽい主人公がいいそうな語り口だった。
 そもそもラスボスに名前が無いとは、どういうことなのか。
 要するにその辺は何も考えていなかったのだが、ここは怪人着ぐるみの妙子が助け舟を出してみた。
「名前を呼んではいけないラスボスッ! お子様方は大変ビビってるでヤンスッ!」
 だが残念なことに、この着ぐるみは妙子の口元から外面までの厚みが半端ではなく、発声した内容がくぐもって聞き取り辛い。
 実際には、
「なあえをよんであいえらいあうおすッ! おーさんあたはあいえんピピってうえあんすッ」
 という全く意味不明の、何語か分からないような音声に変わり果てていた。

 仕方が無いので、ここは女幹部アデリアと、イケメン幹部シギの寸劇に任せるしかなかった。
「俺達は、世界征服を狙う悪の組織だ……今日はこの幼稚園から征服しに来た」
「簡単にいうとね、いつも喧嘩してる仲の悪い子供を手下にしに来たのよッ!」
 颯爽と爽やかな悪のイケメン幹部のシギには、お母さん方から黄色い声援が飛んでいたが、悪の女幹部アデリアがシギの言葉を繋いで口上を述べると、会場は何故かしーんと静まり返っていた。
(な……何これッ! 何かムカつくんですけどッ!)
 本当に身も心も悪の女幹部に染まってしまいそうなアデリアだが、辛うじて踏みとどまっていたのは、農業を営む実家に住みついている将来の独立農家としての誇りがあった為か否か。
 いずれにせよ、アデリアは演技としてではなく、本当にダークサイドに堕ちてしまいそうな勢いで女幹部を熱演し始めた。
「ここの子供達は仲が悪いって調べてあるのよッ! さぁ、私達が大々々ッ嫌いな、『みんな仲良く』なんて芸当は、ここの子供達には出来っこないわねッ!」
 傍から見ても、凄まじいばかりに小憎たらしい表情をマスクの下に浮かべるアデリア。
 シギは段々心配になってきたが、ここで演技を止める訳にはいかない。
「仲が悪かったり、喧嘩で出る負の力は、世界征服のエネルギーになる」
 ここでシギは一旦、ひと呼吸入れた。
 そろそろ、園児達に反論させるタイミングを入れてやる必要がある。
 自分達が一方的に喋るだけでは、この作戦は上手くいかないのだ。
 ここでシギの意図を察した先生方が、
「皆さーんッ! あんな悪いひと達には負けられないよねーッ! 仲良く発表出来るかなーッ!?」
 と呼びかけると、園児達は皆一斉に手を上げて、
「はーいッ」
 と応じた。
 その姿が微笑ましく、思わずデレてしまいそうな程に可愛かったので、モロトフなどは己の役柄を忘れてついつい、ニヤついてしまいそうになった。
「ほほほほほッ! 元気が良いことッ! 仲が悪い子供に、私達が凄いなーって思えるお遊戯が、果たして出来るのかしらッ!?」
 悪の女幹部としての演技に熱が入ってきたアデリアの煽りは、しかし何故か不発。
 会場は静まり返るばかり。
 一方――。
「丁度良い。このお遊戯会で、確かめさせて貰おうか」
 爽やかな悪のイケメン幹部シギの、大根役者かくありやといわんばかりの物凄い棒読みの台詞に対しては、大歓声が上がる。
(私もう、駄目かも知れない)
 アデリアがダークサイドに堕ちてオーガの闇黒卿(注:そんなものはありません)と呼ばれる日は案外、近いのかも知れない。

●いざ開演

 何やかんやあって、取り敢えず四人のウィンクルム達は観客席最前列の中央に四つの座席を与えられた。
 既にそこは最初から用意してあったように四人分の席が確保されており、ご丁寧に演目が記されたパンフレットやお茶とお菓子まで添えられている。
 誰がどう見ても、四人は闖入者ではなく最初から予定通りに招待された賓客のような扱いだった。
 幼稚園側からすれば、ウィンクルム達はわざわざ悪役を演じる為に足を運んで下さった大切なお客様だから、粗雑に扱うことは出来ない。
 それは分かるのだが、最初から丁重に扱われる悪役というのも、如何なものであろう。
 しかしながら、園児達はそのような矛盾には一切、気付いていない。
 子供達の視線からすれば、四つの席は最初から偶然、空いていたという風に映っているようだ。
 大体四歳から六歳ぐらいまでの子供は、そういったところには無頓着なものである。偶然だといわれたら、本当に偶然だと信じてしまう純粋さが、彼ら・彼女らにはあった。
「さぁ、見せて貰おうか。この幼稚園の園児達の演技力とやらを」
 子供達同士の敵愾心や負の感情を食い物にする悪者ではあるが、一致団結した正の心には弱い、というヒントを言外に滲ませるモロトフ。
 普通に聞いたら凄腕の将校が敵軍ロボットの性能を見定めようとする台詞にしか聞こえないのだが、流石に年の功は馬鹿に出来ず、彼の言葉の奥底に眠る真意は、絶妙なトーンや調子で園児達に伝わったようだ。
(えぇっと……問題のクラスが演じるのは、このふたつですね)
 着ぐるみ姿のままちょこんと席に座している妙子は、パンフレットの中央辺りをじっと凝視した。
 そこには、

 ・桜組:『白雪姫・親指姫・シンデレラ、世界の三大姫、南海の大決戦』
 ・桃組:『花札vs栗きんとん、史上最大の大総統ダンスバトル』

 と並んで記されている。
 時間的に見て、およそ三十分後。
 先に桜組が演じ、次に桃組が、といった具合だ。
 当初妙子は、この乱入に合わせて演目の内容にも改変が生じるものだと思い込んでいたが、どうやら少しばかり異なるようだ。
 各演目の内容は変えず、幕間でウィンクルム達が少しずつ園児達の披露する演技に感動して悪の道を改めてゆき、桜組と桃組の辺りで大いに盛り上がることでふたつのクラスの心を繋ごう、というのが現時点での段取りであるらしい。
(でもそのままですと、ふたつのクラスの敵愾心は消せませんね)
 そんなことを、妙子が隣に座るアデリアに問いかけると、そこは問題無い、との回答。
「ほら……皆、自分以外のクラスの演目が始まる時に、凄く声援送ってるでしょ?」
「あぁ、成程……おっしゃる通りですね」
 四人の悪役を改心させる為に、園児達は自分達の演技のみならず、他のクラスの演技にも頑張って貰いたいと思うようになっているようだ。
 少なくともこの時点で既に、ウィンクルム達の演技は園児達の心境に大きな変化を与えていたらしい。
「この様子なら……」
「えぇ、きっと大丈夫」
 アデリアは悪女チックな外観には似つかわしくない程の、優しげな笑みを浮かべて頷き返した。
 傍から見ると、漆黒の悪女と微妙サイズの怪人が語らい合うという異様な光景だったのだが。

 だが、少しばかり予定外の事態も、あるにはあった。
 当初の計画では、アデリアが演目の進行に合わせて微笑んでみたり、或いは小さく歓声をあげて悪者を脱却していく一方で、シギがそのアデリアを脇から小突き、悪の仲間に喝を入れる。
 そして演目が進むにつれてシギもアデリアと同じように感化されて、次第に園児達の演技に心奪われてゆく、というのが彼らの考えたストーリーだった。
 ところが――。

「ほぉ……これは、素晴らしいじゃないか」
 シギが、園児達が見せる予想外にハイスペックなお遊戯に、心底感動してしまっていたのだ。
 これでは、アデリアがわざわざ感動するふりを演じるまでもない。
 中でも桜組の演目では、シギのみならず、モロトフも視線が釘付けになっていた。
 クライマックスでは、ガラスの靴を紛失したシンデレラが、実はそのガラスの靴を私用に流用したのではないかとお姫様議会で白雪姫と親指姫から糾弾され、釈明の為に号泣会見を開くというシーンがあったのだが、その圧巻の演技にウィンクルム達はただただ、言葉を失うばかりだった。
 桜組の演目が終わった瞬間、モロトフが椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がり、次いでシギがゆったりと腰を上げて、ふたり揃ってスタンディングオベーションを贈っていた。
 モロトフは若干、素で喜んでいる部分は無きにしも非ずだが、シギの場合、彼の日頃の言動からすれば、ここまでは悪の幹部として少しばかりオーバーに演技している節が見られる。
 シギは普段の自分を捨てて、悪の幹部を完璧に演じ切っていた。
 そういう意味では、アデリアも素直に感心せざるを得ない。

●みんな、仲良し

 更に演目が進み、次は桃組の番。
 桜組の華麗な演技に心奪われっぱなしだったシギとモロトフだが、桃組のパフォーマンスも決して引けを取っていなかった。
 こちらはクライマックスで、栗きんとんの私用メールと、花札の不法移民を締め出す国境の壁というふたつの必殺技で並み居る悪人どもをばったばったと薙ぎ倒してゆくシーンが実に壮大なスペクタクルを描いていた。
「こ、これはもう、園児のお遊戯会なんかじゃあねぇ……立派なショーぞッ! ショータイムぞッ!」
 モロトフの絶賛に、演技を終えた園児達も笑顔ではしゃいだ。
 しかし、シギにしろモロトフにしろ、ただ無駄に感動していただけではない。
 彼らが絶賛することで桜組と桃組はお互いの演目を、声を大にして応援していた。
 悪の幹部であろうとも、自分達が一致団結して熱演すれば、改心させられるということを肌で実感していたのだろう。
 今や、桜組も桃組も無い。
 ニコラスライアン幼稚園全体がひとつとなって、四人の悪役のみならず、全ての観客に感動の渦を巻き起こしていたのである。
 ウィンクルム達の任務は成功した、といって良い。
「君達には負けたわ……この通り、悪の幹部はもうやめるわよ」
 全ての演技が終了したところで四人のウィンクルムがステージに上がり、まずアデリアがドミノマスクを脱いで足元にそっと置いた。
 それはさながら、引退するアイドルがマイクをステージの床に置いて、普通の女の子に戻ろうとする瞬間に酷似していた。
「俺もだ……君達の演技には、本当に感動した」
 次いでシギが、マスクを置いた。
「わしもじゃ……見事だったよ」
 モロトフも、ヅラを置いた。

 妙子も他の三人に倣って着ぐるみを脱ごうとしたが、脱げない。
 どうやらモロトフが夜なべして作ったこの一着は、一度着こんでしまうと縫い目が自然消滅する構造になっていたらしい。
 どうやって作ったかは、モロトフ自身も覚えていない。
「あー、僕それ知ってるでー」
 桜組のリーダーであるアルフ・カレンドロ君(5歳)がステージ上に駆け上がってきて、着ぐるみが脱げなくなって困り果てている妙子を指さした。
「縫い目が無いやつやんなー。それって、クールビズっていうんやでー」
「惜しいな。生憎だがちょっと違う。それはシームレスといってな」
 しれっと応じるモロトフに、妙子は混乱の視線を向けた。
(いやいやいや、惜しくないですし……っていうか、語感が微妙に似てるだけで全然被ってないですし)
 妙子の混乱はしかし、和んだ雰囲気で談笑するモロトフとアルフ君の穏やかな笑い声に、黙殺される格好となった。
 結局妙子はこの場で着ぐるみを脱ぐことを諦め、帰宅するまで怪人のままで居る破目となった。

 最後はごく一部で若干バタバタしたが、最終的には悪の四幹部は園児達と和解し、親御さん方に見送られて公民館を去っていった。
 きっと園児達にとっても、良い思い出になったであろう。
 子供達の将来が明るければ、この世界の未来もきっと明るいに違いない。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 革酎
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 2 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月10日
出発日 12月15日 00:00
予定納品日 12月25日

参加者

会議室

  • [5]信道 妙子

    2016/12/14-20:40 

    はいはいりょーかいです。

    >危機感を持ってもらう
    世界征服、うんうんうん。
    「敵愾心を食い物にする悪者だけど、一致団結した正の心には弱い」みたいな?
    倒す方法をうっかり漏らしてしまう感じの。

    モロトフさんにはボスっぽい恰好でドッシリ座ってて貰おうかなぁ

  • [4]アデリア・ルーツ

    2016/12/14-19:58 

    私とシギくんは、演技とたきつける方に集中するわね。
    ドミノマスクつけて、改心した最後に外すことで悪い自分とはお別れアピールもダメ押しでいれてみるわ。

    ただ、どうやって危機感持ってもらったらいいかしら。
    たきつけるにも、その前に「やらなきゃ!」って気になるのが大事よね。

    世界征服のために、まずはこの幼稚園から征服しに来た。っていうのが無難?
    ついでに、子供の頃から争って仲の悪い子供を手下にしに来たのだー。って。

  • [3]信道 妙子

    2016/12/13-22:44 

    おおっと勘違い、よく読まないと。
    あらためまして、信道とモロトフさんです。

    >たきつける方向で
    カドが立たないし良い感じ。
    じゃあ、私は親御さんへの根回しとかしようかな。

    人数が居た方が説得力(それっぽさ)あるし、お遊戯会中は合わせます。
    悪役っぽい恰好…き、着ぐるみとか着ていきます…。

  • [2]アデリア・ルーツ

    2016/12/13-22:32 

    アデリアと、こっちはシギくんよ。
    よろしくお願いね。

    二つの劇って訳じゃなくて。
    お遊戯会を邪魔ってあるから、全体に対しての悪役ってことだと思ってたわ。

    お遊戯会全体って場合だと私たちは
    「仲が悪い子供に私がすごいなーって、思えるお遊戯ができるのかな?」
    ってたきつける方向で考えてるけど。
    観客席で出し物がうまく進んだらちょっと優しく笑う回数とか。
    感動で声を上げる回数増やしていけばそれっぽく改心に見えるかな、って。

    どっちにしろ悪役っぽい恰好は必要よね。悪の女幹部な感じで行こうかしら。

  • [1]信道 妙子

    2016/12/13-21:56 

    よろしくおねがいしまーす!

    2つの劇で悪役を演じて一致団結させるって難易度高くないですか…?
    劇の途中で逃げ出して、もう片方の劇に乗り込むとかすればいいんでしょうか。


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