【浄罪】それは眠れぬ夜のこと(夕季 麗野 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

――眠れない。
シンとした静寂に包まれた深夜、あなたはベッドの中でふと目を覚ましました。
頭から深々と布団を被ってみたり、なんども寝返りを打つなどしてもう一度寝ようと試みたのですが……やはりどうしても眠る事ができません。
おまけに急激な冷え込みのせいもあって、体もすっかり冷え切ってしまっています。

――このままじゃ休めそうにないし、起きて温かい飲み物でも飲もうかな……。
どうせ眠れそうも無いから、と一人寝室を起き出したあなたですが、夜に一人きりでいるのはやはり物寂しいものです。
キッチンでお湯を沸かしている間も、あなたの脳裏には大切なパートナーの事が浮かんでは消えていきました。
(今、どうしているんだろう)
こんな時間だし、相手はすでに眠っているかもしれません。
電話してみようか……という考えもよぎりますが、そのせいで迷惑をかけてしまうかもしれないし、休んでいるところを邪魔してしまうかもしれません。

本当は、一言でいいから声が聞きたい。
できれば今すぐに会いたい……そんな気持ちでいっぱいでした。

体の芯から凍えてしまうほど、寒い夜。
この時間が冷たい孤独に飲み込まれてしまう前に、あなたがパートナーにしてほしい事とは一体何でしょうか?

解説

時間帯は深夜で、目が覚めたのはあなた(神人)という事になります。
それだけ考慮していただければ、どのような行動を取っても自由です。
パートナー(精霊)と離れて暮らしている方は電話してみるのも良いですし、あるいは精霊の方から会いに来てくれて、一緒に過ごすと言うのでも構いません。
二人で温かいものを食べたり飲んだりしながらお喋りしても、静かに寄り添い合ってソファで暖を取るのでもOKです。
映画のDVDを観る、ゲームをして遊ぶなど、普段室内でできるものでしたら比較的なんでもプランに組み込んでいただけます。
会話内容については、シリアスでもロマンスでもコメディでも、自由に設定していただければと思います。

パートナー(精霊)と一緒に暮らしている方は、眠れなくて起き出してしまった後どうするか、と言うのは自由に決めていただければと思います。
例えば、相手の寝室にこっそり行ってみる…とかでも良いですし、相手を起こすのか起こさないのかも神人さん次第となります。

――様は、寒いので二人仲良く過ごして暖まろう! と言うだけのエピソードですので、お気軽にご参加していただければと思います。

※お茶代などで300jr消費しました。

●ギルティ・シード
本エピソードはギルティ・シードを枯らす事が目的の一つとなっているのですが、種の場所など詳しい情報はご希望が無い限り描写しない方針です。
ウィンクルムさんたちが愛に溢れた時間を過ごす事が種を根絶させる有効な手段なので、どうぞあたたかい深夜デートを過ごしていただければ幸いです。

ゲームマスターより

少しお久しぶりです。夕季です。
最近めっきり寒くなってきましたね。
一度あたたかい布団に包まると、起きるのが辛い季節になりました……。
どうぞ、風邪等お引きにならないようにお気をつけ下さいませ。
本エピソードは、ウィンクルさんたちが「深夜のほかほかデート」を満喫していただければなんでもOKですので、暖を取るつもりでラブラブプランを書いていただければと思います。
それでは、ご参加お待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  ☆生活拠点にしている宿屋にて神人と精霊それぞれ別の部屋で暮らしています。

(精霊の部屋を訪ねて)こんばんは。
こんな夜遅くにごめんね、何だか眠れなくて。
起こしちゃったかな。
(精霊の微笑みを見て涙腺が緩み抱き付く)エミリオ・・・っ
うん・・・あのね、一緒に・・・いてもいい?(精霊に後ろから抱きかかえられるように一枚の毛布にくるまる)

本当に綺麗だね。
エミリオ・・・。
(精霊に寄りかかり)私、この広い世界の中でエミリオと出逢えたこととても幸せだよ。

エミリオ、尻尾が揺れてるよ?
なんだか・・・嬉しそう?
そ、そっか、ありがと(赤面)
エッチって私そんなつもりじゃ・・・!
もう、エミリオってば。
お休みなさい(キス)


ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
  思わずグレンの部屋の前まで来ちゃいましたけど、寝ちゃってますよね…
こんな時間に起こすのは申し訳ないですし、
やっぱり自分の部屋に戻るべきじゃ…
でも部屋の中、何だか今日は怖いくらいに静かですし…

部屋の扉に寄りかかって無意識に溜息

…ひゃあ!
ごめんなさいっ、起こしちゃいましたかっ!
えっと…部屋が寒くてなかなか眠れなかったんです…
一応羊を数えたりして頑張って寝ようとはしたんですっ!
でも、だんだん部屋がものすごく静かなのが怖くなってきてしまって…
迷惑かけるつもりなんて全然…

流石にこの寒い中毛布を独り占めするわけには…っ
そうだ、こうやって二人で包まれば大丈夫です!
私は…グレンがそばにいてくれるだけで平気です


シャルル・アンデルセン(ノグリエ・オルト)
  ぽつりぽつりと昔の夢を見るようになりました。
記憶が戻りつつあるようです。
その夢が悲しくて苦しくて目が覚めてしまう時がある…今日もそうです。寒い夜。
そんな時は必ずと言っていいほどノグリエさんが傍に居てくれます。
暖かいミルクとブランケット。そして優しく肩を抱いてくれる。
幸せです。
悲しい夢や苦しい夢を見た後の私には幸せすぎるくらいの幸せ。
貴方は私の傍にいて私を幸せにしてくれる。愛してくれる。
そんな約束をノグリエさんとしたのです。
自分が幸せになるなんてそんなことないと思っていた。
なってはいけないと思っていた。
けれど記憶のない私をノグリエさんは幸せにしてくれた。
だから私も貴方を幸せにしたい愛したい


レベッカ・ヴェスター(トレイス・エッカート)
  携帯眺め
寂しいからちょっと話したいとか、どういう事なのよ私ってば
滅多に抱かない感情に頭抱え、何だかんだで頼りにしているのを自覚

こんな時間だし迷惑よね
でもエッカートさんなら、付き合ってくれるかも…
迷ってる内に更に深夜になるからと自分追い込み電話発信

あ、もしもし。こんな時間にごめんなさい
…もしもし?起きてる?

あ、ううん。別に用事はなかったんだけど…
えーと…
正直に声が聞きたかったと言えず口ごもり

あ、ごめんなさい。あれまだ途中…
あっ、これ長くなるやつ

こんな時間でも、やはりエッカートさんはエッカートさんだったわ
でもなんだか、安心する
次第にうつらうつらとしてきたのを自覚し、布団に移動し丸まりながら話聞く


水田 茉莉花(聖)
  ふー、仕方がないからホットミルクでも作って飲むかな
レンジだと音が大きいからミルクパンで…二人はまだ寝てるわよね

ん、こっちはぐっすり、テコでも起きなそう
ひーくんは…あっ、起こしちゃった?
ごめんねひーくん、お詫びといっちゃなんだけど、一緒にホットミルク飲もう
…あ、ますます目が覚めちゃった

飲み終わって体が温まったら、そのまま寝るのよ
って、起こしちゃったあたしが言うのもなんだけど
本?…何の本かしら?

【あ、そうか、施設育ちだから憧れがあるのかな?】
…それじゃあ待ってて

あたしの仕事道具で残ってたこの本はどうかな?
『まいごの竜のお話』
少し長い話だけど、読むわね
遠い昔、海をたくさんこえた所に竜の国がありました


●寄り添う声音
 
 やっぱり、眠れない。
レベッカ・ヴェスターは、静まり返った自室のベッドの上で訪れない睡魔を求めていた。
何回目になるか分からない寝返りを打った時、ふと枕元に置いてある携帯電話が目に入る。
すると、なぜかパートナーであるトレイス・エッカートの顔が脳裏によぎった。
(寂しいからちょっと話したいとか、どういう事なのよ私ってば……)
 それは余りに自然で――そして、レベッカ自身も滅多に抱かない感情。
(私、何だかんだでエッカートさんを頼りにしてるんだな……)
 改めて自覚すると、くすぐったい心地になった。これでは却って目が覚めてしまう。
レベッカは、無造作に手を伸ばして携帯を掴んだ。電話帳を呼び出す指は、躊躇いがちに画面をなぞる。
(こんな時間だし、迷惑だよね。でも……エッカートさんなら付き合ってくれるかも)
 休んでいるかもしれない、面倒だと思われたくない。
だけど、声を聴いたら高ぶった気持ちが落ち着くかもしれない。
――何より、彼なら受け止めてくれるのでは? と言う淡い期待もあった。
迷っている間も、時計の秒針だけが無情に進んでゆく。
ついに覚悟を決めたレベッカは、通話ボタンを押した。
ほんの少し逸る鼓動を、眠れぬ夜の言い訳にしながら。



「……ん……?」
 トレイスが目を覚ましたとき、無機質なアラーム音だけが部屋に鳴り響いていた。
夢と現の狭間にいた彼は、腕を伸ばしてナイトテーブルの上にあった携帯をとり、相手も確認せず電話に出た。
「……もしもし……」
「あ、もしもし。こんな時間にごめんなさい」
「……んー……」
「……もしもし? 起きてる?」
「む……ああ、レベッカか」
 すぐ耳元で聞える、耳に馴染んだ神人の声――。
トレイスはすぐにレベッカだと気づき、それからベッドから上体を起こして首を傾げた。
(もう朝かと思ったが、まだ深夜だったか)
 壁掛け時計の針は、深夜二時を告げている。
こんな夜更けにレベッカから電話なんて珍しい。
「何か火急の用事でも?」
「あ、ううん……。別に用事はなかったんだけど……えーと……」
「……どうした?」
 レベッカの頭に、受話器の向こうで不思議そうな顔をしているトレイスの様子が浮かんだ。
きっと今頃レベッカの事を真剣に考え、答えを思案しているに違いない。

――「本当は、声を聞きたかっただけ」。

 どうして、このたった一言が言えないんだろう。
レベッカの心中には、思うように伝えられないもどかしさが込み上げたものの、唇が震えて音にならなかった。

「ああ、そうか」
「え……?」
 二人の間に少しの沈黙が流れた後、トレイスは何かを思いついたように明朗に語り出した。
「前に貸した本、読み終わったのか? いい本に出会うと誰かと語り合いたくなるものだしな。分かるぞ」
「ちょ……待って。ごめんなさい。あれは……まだ途中で」
 実は、レベッカは以前、トレイスから本を借りていた。少しずつ読み進めようと努力はしているのだが、気がつくとうとうとしてしまう事が多く、読破にはまだまだ時間を要しそうなのだ。
「それで、どうだった? 中々興味深かっただろう。俺としては、やはり中盤から終盤にかけての……」
(あっ、これ長くなるやつ……)
 書物を心底愛し、自他共に認める「活字中毒」のトレイス。
好きなものに対しては饒舌になるのも無理はないのかもしれない。レベッカは相槌を打ちつつ、彼の講釈にじっと耳を傾けた。
(こんな時間でも、エッカートさんはエッカートさんだったわ)
 ――なんだか、微笑ましい。
それに……安心できる。
いつどんな状況でも変わらない、トレイスの態度や言葉。
それがレベッカの心を落ち着かせてくれた。
(穏やかで……まるで子守唄のような)
 さざなみのように静かな静寂と、耳元に落ちる柔らかい声。
気がつくとレベッカは携帯を持ったまま、ベッドの上に横たわっていた。
瞼は自然と閉ざされ、あれ程訪れなかったはずの睡魔がレベッカの意識へ忍び寄っていく。
「……」
「つまり、あの書物の結論としては――ん、レベッカ?」
「……くー……」
(眠ったのか?)
 一通り話し終わったトレイスが我に帰ったとき、受話器の向こうからはレベッカの健やかな寝息が聞えて来た。
規則正しいリズムを刻むそれは、彼女が深い安らぎの中にいる証拠だろう。
レベッカの眠りを耳で確認したトレイスは、やがて自分もベッドへと潜り込んだ。
「おやすみ、レベッカ。――よい夢を」
 枕に頭を預けたトレイスが瞼を閉じると、眠っているレベッカの顔が一瞬、浮かび上がったような気がした。
 
 もしかしたら、夢うつつに彼の声を聞いていたレベッカの夢の中にも、トレイスの姿がそっと寄り添っているのかもしれない――。
それはきっと、二人同じまどろみの中で。

●ナイショ話をしようよ
 
 なんだか、目が冴えてるみたい。
水田 茉莉花は、掛け布団を持ち上げるとゆっくりと身を起こした。
 寝返りは数え切れない程打ったし、羊を数えるのはもう飽きた。
(ふー。仕方がないから、ホットミルクでも作って飲むかな)
 思い立ったら即行動したい茉莉花だが、今は物音を立てないように、細心の注意を払わなければならなかった。
別室では、二人の精霊が眠っているはずだからだ。
念の為、扉を開けて室内を覗いた茉莉花は、ふとんを被って健やかな寝息を立てている八月一日 智の寝顔を確認した。
(ん。こっちはぐっすり、テコでも起きなそう)
 後は、そうっとキッチンへ向かう予定だったのだが。
「ん……まぶし……ママ?」
「あっ、ひーくん……。ごめんね、起こしちゃった?」
「ママ、どうしたんですか、よるおそいですよ?」
 智の隣の布団で眠っていた聖が、扉から差し込む僅かな明かりで目覚めてしまったようだ。彼は眠たそうに瞼を擦りながら、かけ布団の上に有った新幹線柄の半纏を着込み始めている。
「本当にごめんね。お詫びと言っちゃなんだけど、一緒にホットミルク飲もう」
「……ホットミルク? ハチミツ、ハチミツいっぱいなホットミルクがいいです!」
 茉莉花の言葉に、聖はパッと顔を輝かせる。眠気眼も何処へやら、大きな瞳は期待の眼差しで茉莉花を見つめていた。
(あ、ますます目が覚めちゃった……)
 茉莉花は内心苦笑しつつも、聖を連れてキッチンへと向かった。



「へへー。よ中にママと二人でこっそりのむのって、おもしろいです」
 時刻は既に、深夜二時半。
こんな夜更けに起きている事も新鮮だが、聖は茉莉花とこうして「ナイショ話」している時間を、心から満喫しているようだ。
ホットミルクがいつもより美味しく感じられるのは、きっとハチミツのせいだけではないだろう。
「でも、体が温まったらそのまま寝るのよ。起こしちゃったあたしが言うのもなんだけど」
「……ねえママ」
「なに?」
 すると、空になったカップをシンクに戻した聖は、ちょっと気恥ずかしそうにしながら小声で切り出した。
「ベッドのおふとんで、ご本よんでもらってもいいですか?」
「本? ……なんの本かしら?」
「……えっと、なんでもいいです。『寝る前のご本』が、やってみたいんです……」
 それは、ささやかで可愛らしいお願い事だった。
聖の素直なおねだりを聞いて、茉莉花はふと思い至る。
もしかして、施設育ちの彼にはこういった事への憧れがあるのでは――と。
「それじゃ、待ってて」
 茉莉花は、元保育士だ。子供の為の本ならいくつか持ち合わせがあった。
早速『まいごの竜』と言う本を自室から取ってくると、聖と共に寝室へ戻る。
まずは聖を布団へ寝かせてやり、茉莉花はその脇に座ろうとしたのだが「ママもおふとんに入って読んでください!」と、懇願されてしまった。
「ママといっしょがいいんです」
「そうね。わかったわ」
 身を寄せ合った布団の中で本のページを広げると、聖が嬉しそうにニッコリと微笑む。
「それじゃあ、少し長い話だけど読むわね。――遠い昔、海をたくさんこえた所に、竜の国がありました」
 優しく落ち着いた茉莉花の声音が紡ぐのは、竜の不思議な冒険と親子の絆の物語だ。
その独特の世界観は魅力的で、聖もすっかり引き込まれた様だ。
「あ、りゅうのたまご……! ……それはおかあさんじゃないよ!」
 聖は、時々物語に突っ込みを入れたり相槌を打ったりと元気そのものだったのだが――。
「ああ、まいごになっちゃ……た……」
 その声は次第に小さくなっていき、瞼がゆっくりと伏せられてしまった。
「うー……ん……むにゃ……」
 すーすーと気持ち良さそうな寝息を立てる聖を見守りつつ、茉莉花も静かに本を閉じたのである。
「おやすみ、ひーくん」
 ――この続きは、また今度話してあげる。
そう、心の中で聖と約束を交わしながら……。

●静けさも忘れるほど傍に

(どうしよう……)
 ニーナ・ルアルディは、ドアへ躊躇いがちに触れようとしては手を引っ込める……と言う動作を何度も繰り返していた。
ここは、グレン・カーヴェルの自室の前。
寝付けなかったニーナは一人の寝室が心細くなってしまい、恋人の元へつい出向いてしまったのだ。
ドアをノックしようと思ったのはいいものの、グレンに迷惑をかけるのでは? と言う不安も湧き上がってくる。
(こんな時間に起こすのは申し訳ないですし……やっぱり戻るべきじゃ……)
「はぁ……」
 戻るにも扉を叩くにも勇気が出なかったニーナは、憂い顔で溜息をつくと、グレンの部屋のドアにもたれかかってしまった。



(こんな時間に起きてたのか?)
 一方、グレンは先ほどから廊下を行ったりきたりする軽い足音や、ドアの外のニーナの気配をなんとなく察していた。
(流石に風邪を引くだろうし、とりあえず部屋に入れるか)
 グレンは腰掛けていたベッドサイドから立ち上がると、おもむろにドアノブを引く。
彼にはニーナの行動などお見通しだった。
「……ニーナ?」
「えっ? ……ひゃあ!」
 一度声をかけてみると、案の定びくっと肩を振るわせたニーナが後方へ倒れこんでくる。
その細く華奢な体を、グレンは腕の中にしっかり抱きとめた。
「あ……っ、ごめんなさいっ、起こしちゃいましたかっ!」
 突然の抱擁に驚いたニーナは慌てて身を離そうとするが、グレンは彼女の冷たい頬を指先で撫で、眉間に皺を寄せた。
(ったく、こんな冷え切りやがって。どんだけ外にいたんだこいつ……)
 ――放っておいたら、本当に風邪を引かせるところだった。
「ほら、これに包まってろ」
 気恥ずかしそうにしているニーナを強引に毛布で包んだグレンは、ソファに彼女を座らせて自分もその隣に腰を下ろした。
「眠れなかったのか?」
「えっと……。一応、頑張って寝ようとはしたんですっ! でも、だんだん部屋がものすごく静かなのが、怖くなってきてしまって……」
 懸命に話すニーナの横顔を見つめ、グレンはシーツをかぶって羊を数える彼女の姿を思い浮かべる。
きっと捨てられた子犬のように、心細い思いをしたに違いない。
「あの、迷惑かけるつもりなんて……」
(馬鹿だな……)
 ――眠れないなら、もっと早く言えば良かったものを。
グレンは恋人の意固地さに一度嘆息すると、少しぶっきら棒な口調で言った。
「本当に迷惑なら、部屋に入れたりするかっつーの」
「え……?」
「このままそばにいてやるから、お前は大人しく寝とけ」
「でも」
 身を包んでいるグレンの毛布はあったかい。
どことなく彼の香りが残っている気がして、ほっと安心できるのだ。しかし、自分が毛布を使ったらグレンの体が冷えてしまう。独り占めなんてできない……。
「そうだ、こうやって二人で包まれば大丈夫です!」
 悩んだ末、ニーナは毛布を広げ、半分グレンの肩へかけてあげた。
それでも、男性としては比較的高身長のグレンのこと。
どう頑張っても全身は布団に収まりきらない。
グレンは隣のニーナの肩に腕を回すと、ぐっと自分の方へ抱き寄せた。
「きゃっ……」
「ま、こいつ抱えてりゃ何とかなるだろ」
「あ、あの?」
「こっちの話だ。これでゆっくり眠れそうか?」
「はい。私は……グレンがそばにいてくれるだけで……平気です」
 グレンに柔らかく髪を撫でられている内に、幸せそうに瞼を閉じるニーナ。
それは、信頼した相手の前でだけ見せる、愛らしい寝顔だった。
(この安心しきった表情……やっぱ犬みてぇ)
 グレンは温かい右側の体温を噛み締めて、自分に身を委ねるニーナを改めて愛おしいと思った。

朝までこのまま、抱きしめていてやるよ。
この温もりが、優しい夢になってお前を包み込むように。

●貴方を愛する未来を見つめて
 
 寒い。くるしい……。
――失われた記憶の一部が、夜の孤独を纏ってどこまでも追いかけてくる……。
シャルル・アンデルセンは、悪夢にうなされながら寝台の上で目を覚ました。
もう一度毛布を被って眠ろうとしたものの、閉ざされた視界には余計に見たくない光景が浮かんできそうで……。

「シャルル」
「……っ」

 その時、ベッドの上で丸まっているシャルルに近づき、穏やかに微笑みかけてくれたのは精霊のノグリエ・オルトだった。
「温かいミルク、淹れてみたんです。飲みませんか?」
「……ノグリエさん……。ありがとう」
 リビングテーブルの上に置かれたマグカップから、白い湯気が立ち昇るのが見える。
ノグリエは、夢にうなされるシャルルの気持ちを痛い程分かっているのだ。
だからこうして、彼女に出来る限りの思いやりを尽くしている。
――まだ伝えきれない彼女の過去を憂いているのは、ノグリエも同じだから。
(ボクはシャルルが苦しむだけの過去なんて、いっそ忘れたままでいいと思っていた。今も……)
 いつか、伝えるべき時が来るのかもしれない。
しかし、それよりも前に、彼女はすべての記憶を取り戻してしまうのかもしれない。
それを内心では酷く恐れながら……。
「さあ、こちらへ――」
「ええ」
 ノグリエは、柔らかいブランケットで起き上がったシャルルの肩を包み込み、ソファまで寄り添って連れて行った。
シャルルは、そんな小さな幸福を心から嬉しく思う。
温もりに身を委ね、二人並んでソファに腰掛けると、もう何も怖いものはないのではないか……そんな希望を持てそうになる。
ノグリエが、力強くシャルルの肩を抱いてくれるから。
多くを語らずとも、その手の平の温もりがシャルルの恐怖を癒してくれる。
「いただきます」
「どうぞ。熱いから気をつけて」
テーブルのカップを取り、ホットミルクに一口口をつけると、程よい甘さがシャルルの胸に沁みこんでいった。
「私、自分が幸せになるなんて、そんなことないと思っていました」
「……シャルル」
「けれど、記憶のない私をノグリエさんは幸せにしてくれました」
「ボクのほうこそ。キミにはいくら感謝しても足りない……」
 ――この想いに笑顔で応えてくれて、ありがとう。
ノグリエは、愛を込めて更にきつくシャルルを抱きしめた。
一枚のブランケットの下、ノグリエの胸中には様々な感情が去来する。
愛しさ、もどかしさ、切なさ。
そして、シャルルの記憶が戻ってゆくことへの複雑な感傷。
(もう、ボクには止められないのだろう。ならばせめて、ボクはキミを苦しめるものには躊躇わない……)
 秘めた悲壮な決意は、ノグリエの仮面の下に巧妙に隠された。
たとえもう一人の精霊が未来に立ちはだかろうとも、シャルルの為ならば争う事さえ厭わない。
 きっとシャルルは、彼のこんな本心を知る事はないのだろう。
うっとりと腕の温もりに浸り、安らいだ笑みを浮かべている。

(私は、ノグリエさんを幸せにしたい。……愛したい)
(ボクは、キミとの約束だけで充分だ)

 二人の思いは一つでありながら、常に交錯し続けるもの。
だからこそせめて、この夜の明けるまで寄り添い合っていたかった――。

●夜空に浮かぶ愛の星
 
 時計の針は深夜二時を回っていたが、ミサ・フルールはどうしても眠りにつく事が出来なかった。
夜の静寂に満ちた薄暗い部屋に一人となれば、自然と心も塞ぎがちになってしまうもの。
寝台を起き上がったミサの脳裏に、恋人であるエミリオ・シュトルツの顔が浮かび上がっては消えていった。
――もしかしたら、もう休んでしまっているかも知れない。
でも一目でいいから、エミリオの顔を見たい。
ミサは純粋な願いを抱え、エミリオの休む部屋へと足を運ぶことにしたのだった。



「……ミサ?」
 ミサが控えめにドアをノックすると、室内からはすぐエミリオの返事が返ってきた。
「今開けてあげる」と言う優しい声に、ミサもほっと胸を撫で下ろす。
 その言葉通り、エミリオはミサを笑顔で出迎えてくれた。
「こんな夜遅くにごめんね。何だか眠れなくて……起こしちゃったかな?」
「大丈夫だよ。丁度俺も眠れなくてさ……。星を見てた」
 エミリオの紅い瞳が細められ、ミサを柔らかく見つめている。
いつどんな時でも自分を想い、受け入れてくれるエミリオ――。
彼の微笑みや言葉の一つひとつが、ミサの不安を吹き飛ばしてくれる。
「エミリオ……っ」
「!」
 感極まったミサは目尻に涙が滲みそうになり、自分からエミリオにきゅっと抱きついた。彼の胸にそのまま身を預けると、世界には何も怖いものはないかのような……そんな気持ちにさえなる。
「……ふふ、今日は何だか甘えん坊だね」
 エミリオは、ミサの艶やかな髪を梳く様に撫でてやった。
その仕草が心地よくて、ミサもますます離れがたく思ってしまう。
「……あのね、一緒に……いてもいい?」
「いいよ、一緒に星を見て過ごそう。……おいで」
「うん」

 エミリオはミサを後から抱きかかえると、一枚の毛布に一緒に包まった。
「こうすれば暖かいでしょ」と笑うエミリオに、ミサも嬉しそうに頷く。
 ベッドの上でぎゅっと身を寄せ合った二人は、窓の外の夜空を眺める事にした。
カーテンが開け放たれた窓辺に、闇を灯す星々の明かりがキラキラと差し込んでいる。
「本当に綺麗だね」
「ああ……。俺、星を見るのが好きなんだ。広大な星の海を見上げると自分が考えていることなんて、小さく見えるというか……」
「エミリオ……」
 ――ミサの肩口には、エミリオの顔がぴったりくっつけられていた。
表情は見えないけれど、彼の憂いを帯びた声が胸に染み入るようで……ミサの唇からも、素直な気持ちが零れ落ちていく。
「私、この広い世界の中でエミリオと出会えた事、とても幸せだよ」
 言葉では言い表せない程、この運命に感謝してる。
ミサは、もっとこの幸福を伝えたくて、エミリオに更に身を寄せた。
「ミサ……」
 エミリオが、ミサを愛おし気に呼んだときだった。
「あれ? エミリオ、尻尾が揺れてるよ?」 
 ミサの視界には、毛布の端からはみ出たエミリオの尻尾の先端がパタパタ動いている様子が映ったのだ。
「っ、これは、その……っ」
 エミリオは、ミサに指摘されて初めてその事に気づいたようだ。
白い肌は見る間に紅潮し、彼らしくもなく狼狽した様子が窺える。
「その……好きな女がこんなに近くにいて喜ばない男なんていないよ」
「そっか、ありがと」 
 ――エミリオに「好き」と囁かれ、ミサの鼓動は一気に早まった。
密着した体を通して、お互いの体温と心音が伝わりあっていく気がする。
恋人の好意を確認できた事に、ミサは擽ったい喜びを覚えた。ついじぃっと、エミリオの黒い尻尾を見つめてしまう。
するとエミリオは悪戯な微笑を浮かべ、ミサの耳朶に唇を寄せた。
「あんまり尻尾を見つめないで……エッチ」
「なっ……エッチって、私そんなつもりじゃ……!」
「ふふ、嘘だよ。お前が可愛いから、からかいたくなった」
「もう、エミリオってば」 
 ミサが頬を染めてそっぽを向いてしまうと、エミリオは彼女が逃げないように抱きかかえて、シーツの上にそっと横たえる。
ミサはエミリオの真下に寝かせられ、彼の妖艶な瞳をただ見つめていた。

「今夜はこのまま寝ようか……おやすみ」
「……うん。お休みなさい、エミリオ」
 
 星明りに照らし出された恋人達のシルエットは、やがて一つに重なり合う。
キスのおまじないに誘われ、二人は同じ夢の中へと落ちていった――。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 夕季 麗野
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月26日
出発日 12月01日 00:00
予定納品日 12月11日

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