プロローグ
●来る冬に備えて
日を追う毎に、吹く風は益々以って冷たさを増していく。
唇から漏れる息はいつの間にか、薄く、煙の如くに白むようになっていた。
「――ああ、そうだ」
あなたが服のポケットに手を入れる、その傍ら。
並んで歩く彼が、ふと思いついたというように音を紡いだ。
「そういえば、今年はコートを新調しようと思ってたんだった。また買いに行かないと」
「あ、私も冬服欲しいなぁ。そろそろコタツも恋しくなる季節だよね」
「えー、コタツはまだちょっと早いだろ」
「うそ。私の家じゃ、もうコタツがスタンバイする時期だよ」
何でもないような話をしながら2人で歩くいつもの道にも、いつの間にやら覗く冬の色。
ギルティ・シードなどという険呑な種も、冬の歩みの邪魔までは流石にできないようだ。
「そういや、愛の力で種を枯らすことができる、とかって話だったよな」
「愛の力かぁ……うーん、コートにコタツの話で大丈夫なものなのかなぁ?」
「大丈夫なんじゃないか? もうすぐ冬が来るんだってわくわくを分け合えるのって、なんかいいじゃん」
そんなことを言って、彼はにっと白い歯を零した。
ああ、それはあるかもしれない。
巡る季節を共に味わう人が隣にいるのは、寒さの中にあっても心を温める幸福だから。
――あなた達の冬支度は、どんな形をしていますか?
解説
●概要
ウィンクルムのお二人の冬支度な時間を描くエピソードとなっております。
冬に備えてのお買い物や衣替え、コタツを出してまったりする……等々。
冬支度に関わる内容でしたら、どうぞご自由にお時間を過ごしていただければと。
但し、今回の舞台は首都タブロス及びその周辺が舞台となりますことご了承くださいませ。
また、公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでどうかご注意を。
本エピソードは、自由度が高くなっております。
『(タブロスorタブロス周辺の)どこで』『何をする』のかを、必ずプランにご記入くださいませ。
また、特にご希望がございましたら、時間帯も添えていただければと思います。
●消費ジェールについて
その日の食事代等として300ジェール消費させていただきます。
●ギルティ・シードについて
人々の負の感情を煽り、オーガ化を促進させる危険な種。
ですが、ウィンクルムの皆様の愛の力で枯らすことが可能です。
本エピソードでは、皆様がそれぞれに心に残る時間を過ごされることで種は枯れます。
(愛の力を意識しなくても、普通に、お二方らしく過ごしていただけましたらOKです)
なお、種がどこにあるのかの具体的な情報は、お二方の知らないところとなります。
ゲームマスターより
お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!
冬支度、大変ではあるのですが楽しみもありますよね。
お気に入りの冬服を着られるようになるとわくわくしますし、その冬初めてコタツに入った時の幸せったら。
2人で、となれば心のぬくぬくっぷりも増し増し! と、こんなエピソードのお届けです。
色んな冬支度に出会えましたら、私としても嬉しい限りでございます。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!
また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
月野 輝(アルベルト)
寒くなってきたらコタツは必需品よ? 今まで使ってなかったなんて信じられないわ だから早速、一緒にコタツを買いに行って配達をお願いして 配達されるまでに家に戻らないとだけど、まだ少し時間あるわね ね、私、ちょっと行きたいところが……え、アルも? 後で落ち合うことにして向かったのは手芸屋さん 今年のクリスマスプレゼントにセーターを編もうと思うから毛糸選び アルの髪色によく似た深い緑色の毛糸 コタツに入って編み物しましょう 家に帰ったらアルが持ってた大きな袋を差し出してきて さっき買いに行ってたのってこれ? 広げてみたらオフホワイトの冬用のコート え、誕生日の…? ありがとう 嬉しくて笑みが零れて 羽織ってくるりと一回転 似合う? |
水田 茉莉花(八月一日 智)
(洗剤等の日用品買い出し中、暖房器具売り場での話) …何でまたそんなレトロな物を欲しがるんですか? ほづみさんなら、オイルヒーター辺り欲しがりそうだと思ってましたけど あ、はぁ…結局食欲から来る要望だったのね(たふり) でもまあ、水を入れたやかんを乗せれば 加湿器にもなるから良いのかな? …何がどうあっても炬燵から出てきたくないってのが見え隠れしているような気が 焼き芋は要りませんよ…食べられますけど で、予算はどれくらいを考えているんですか? えっ、ちょっ、半纏まで買ったら予算オーバー… 別行動してるおちびさんの分も買いますよね、それ ってか、その模様のはサイズ大きいですよ?引きずりませんか? それよりこっちのが… |
桜倉 歌菜(月成 羽純)
タブロス インテリアショップ 冬支度として、部屋のカーテンと絨毯を冬用のものへ変えたいと思うのです 今年は思い切って新しいものを買っちゃおうという事で、羽純くんを誘ってお買い物に カーテンを遮光・遮熱の厚手のカーテンに変えるだけで防寒になるんだよ 可愛さも大事だけど機能第一…! とはいえ、デザインも可愛い方がいいなぁ… (羽純くんの好みにも合うものがいい…!) 羽純くん、この柄はどう?彼の意見を聞きつつ選びます 絨毯は…やっぱり触り心地が大事だよね♪勿論、可愛さも! 洗濯可のラグを選びます ふかふか気持ちいい♪ 帰ったら、早速お部屋の模様替えしなきゃ うん、有難う、羽純くん 私の部屋が終わったら、羽純くんの部屋を手伝うね |
ミミ(ルシード)
ショッピングモールで買い物 今年になってルシードさんと一緒に行動することが増えたし… もうちょっと、見た目に気を使ってみたり可愛い服を着たりしてみたいな や、やっぱりどう見られるかは気になるというか… でも予算はあまりないからそんなに奮発できないのが悲しい所… 一緒に服飾店に入り、買うものが違うのでしばし別行動 うーん、どっちがいいかな 値段的にはどっちか一個が限界だし… コート二つを見比べ真剣に悩み あ、あれ?そんなに時間経ってました?ごめんなさい! うん、どっちにしようかなって悩んでて… ルシードさんならどっちがいいと思いますか? ど、どっちにしよう 決め手にはならないものの、言われた言葉に少し顔が赤く |
スティレッタ・オンブラ(バルダー・アーテル)
え?コート? …クロスケ、昨夜寝てる時にでも頭打った? 何というかって何よ? …まあ、好きに選ばせてもらいましょ ふふ、まさか貴方がコート買ってくれるなんて思わなかったわ そりゃ嬉しいわよ 貴方が買ってくれたんだもの ふふ、質なんて気にしてないわよ …ん?何気にしてるの? あ、そうそう バルダー 私からもプレゼント 誕生日おめでと 私が編んだのよ 本読みながら作ったし、ちょっと最初の方は目が不揃いだけど… 重い女って思わないでよ? …ん? 何か目赤いわよ? そう 来年の誕生日、楽しみにしてるわ ふふ、クロスケの腕あったかい 家に帰るまで、ちょっと腕組みぐらいさせてよ 堂々としてれば知り合いも気づかないわよ 私、今でも十分幸せだからね…? |
●2人の冬色探し
「カーテンに絨毯……確かに、心機一転変えたら気持ち良いだろうな」
タブロス市内のインテリアショップにて。早くも店内の冬色に目移りしている桜倉 歌菜の視線の先を共に見遣りながら、月成 羽純はそう零した。
「歌菜は、部屋のカーテンと絨毯を冬用のものへ変えたいんだったか」
「えへへ、今年は思い切って新しいものを買っちゃおうかなって」
今日は付き合ってくれてありがとう、と、歌菜は羽純にふんわりとした笑みを向ける。冬支度の為、羽純を買い物に誘った歌菜なのである。
「それにしても……絨毯はともかく、カーテンも変えるんだな」
「うん♪ 遮光・遮熱の厚手のカーテンに変えるだけで防寒になるんだよ」
可愛さも大事だけど機能第一……! と、ぐっと拳を握る歌菜。成る程、と、羽純が得心したように、顎に手を宛がった。
「寒さ対策にも有効で省エネにもなるのか」
「とはいえ、デザインも可愛い方がいいなぁ、なんて思っちゃうんだけど……」
真面目な顔になる羽純を前に、歌菜は笑顔のまま、面映ゆさにちょっぴりだけ眉を下げる。と、その時。
「あ! 羽純くん、この柄はどう?」
素敵なカーテンを目に留めて、歌菜の瞳がきらきらと輝く。意見を求められて、羽純は歌菜の傍ら、じっくりと件のカーテンを検めた。
「ああ、いいんじゃないか? 歌菜らしいと思う。俺は好きだ」
手渡された言葉に、仄か朱に染まる歌菜の頬。
(羽純くんの好みにも合うものがいい……!)
なんて思っていた歌菜、「じゃあこれにしようかな」と、照れながらも笑み零した。
「えっと、じゃあ、次はレースカーテン!」
「レースカーテン?」
「保温効果の高いレースカーテンを組み合わせて使うと、より窓からの冷気を遮断できるんだよ」
「へえ……」
歌菜の説明に、羽純は心底から感心したような声を漏らす。実際、羽純からしてみれば目から鱗な話だった。
「それでレースカーテンがあるのか……単なる飾りと思ってた」
冬支度、中々に奥深い。よし、と頷く羽純。
「歌菜に付き合うだけ……と思っていたが、俺も見繕うかな」
「わ、ほんとに?」
それならば、冬色探しの楽しさも倍増だ。レースカーテンを一通り見て回った後、2人は絨毯売場へと向かった。
「絨毯は……やっぱり触り心地が大事だよね♪ 勿論、可愛さも!」
「触り心地か……歌菜がどんな物を選ぶのか、気になる」
「私は洗濯可のラグにしようかなって。あっ、これ、ふかふか気持ちいい♪」
次々と、この冬を彩るとっておき達を選び出していく歌菜。こちらは色々と悩みながらも、最終的には羽純も、自分用のカーテンと絨毯を選び取った。
「羽純くん、それって……」
「ああ。歌菜の物と色違いだ」
元より、派手な柄物ではない。色も、歌菜の物と比べて落ち着きのある物が選ばれていた。
「歌菜みたいに詳しくないからというのもあるが……何より、歌菜と一緒というのがいいと思った」
羽純がさらりとそんなことを言うものだから、嬉しさと心地良い恥ずかしさに歌菜はまた頬を赤く熟れさせる羽目に。ふにゃりと笑って、歌菜は言葉を紡いだ。
「帰ったら、早速お部屋の模様替えしなきゃ」
「なら、俺もこのまま歌菜の家に行って模様替えを手伝おう」
歌菜一人じゃ心配だからな、と悪戯っぽく付け足された言葉に、歌菜の唇からくすりと音が漏れる。
「うん、有難う、羽純くん。私の部屋が終わったら、羽純くんの部屋を手伝うね」
「ああ、勿論、俺の部屋も手伝って貰う」
それから、と、羽純は真っ直ぐに歌菜の青い目を見つめた。
「終わったらお茶しよう」
「うんっ♪」
冬色と一緒にあたたかな約束も抱えて。幸せに溢れた2人の冬支度な時間は、まだまだ続きそうだ。
●冬の寒さを打ち消すような
「寒くなってきたらコタツは必需品よ? 今まで使ってなかったなんて信じられないわ」
手際良くコタツを見繕い、配達の注文まで手早く済ませて。月野 輝は、心底から「信じられない」というふうに言葉を零した。その言い様に、アルベルトは軽く苦笑する。
「信じられないと言われても、今まであまり必要なかったからな」
家にコタツがない、という話になるや、本当に早速という具合でアルベルトを買い物へと引っ張ってきた……もとい、アルベルトと一緒に買い物へと出掛けた輝である。一仕事を終えて、輝は店内の時計へと眼差しを遣った。
「配達されるまでに家に戻らないとだけど、まだ少し時間あるわね」
ね、アル、と、輝は婚約者の顔を見る。
「私、ちょっと行きたいところが……」
「奇遇だな。私も、コタツのことがなくてもどうせ買い物に出るつもりだった」
「え、アルも?」
少し驚いたように問い返す輝に、アルベルトはふっと薄い笑みを向けた。
「言い換えれば、だからついでにコタツを買いに行くのも構わなかった、とも言えるな」
「そうだったのね……アルったら、全然言ってくれないんだから」
「ああ、輝がすごい勢いだったからな」
そう言ったアルベルトの口元はからかうような笑みを湛えている。もう、と、輝はわざと唇を尖らせ――すぐに、2人の間を、心地の良い笑いがさやさやと満たした。
「とにかく、輝も行きたい所があるんだろう? なら、別行動をしよう」
私も買いたい物があるんだ、と付け足されれば、輝の方にも頷かない理由はなく。
「そうね。後で落ち合うことにしましょう」
そんな約束をして、輝がひとり向かったのは、手芸屋さん。
「今年のクリスマスプレゼントにはセーターを編もうと思うから……毛糸、どんな色がいいかしら」
様々の毛糸を手に取ってみて、じきに輝が選び出したのは深い緑色の毛糸だ。
(ふふ、アルの髪色によく似てる)
コタツに入って編み物しましょう、と、輝は今日から家で待つ温もりに想いを馳せた。
「取り置きを頼んでいた冬用コートを」
一方のアルベルトは、女性物の服を扱うブティックへと足を向けていた。こちらで間違いございませんでしょうかと店員が出してきたのは、間違いなく、以前、店先に飾っていたのが目に留まった品。頷いて、アルベルトは店員へと丁寧に声を投げた。
「ああ、それです。プレゼント用に、リボンを掛けていただけますか?」
綺麗にラッピングされた贈り物を受け取ったら、そのまま輝との待ち合わせ場所へ。そうして2人は、並んで家路を辿ったのだった。
「成る程、毛糸だったのか」
「ふふ、クリスマスまでにセーターを編んでみせるから」
張り切る輝を前に、アルベルトはそっと目元を柔らかくした。抱えていた何やら大きな紙袋の中身は判明したし、掲げた目標だって愛らしく愛おしい。アルベルトは、自身がここまで携えてきたショッピングバッグの中身、ラッピングされた包みを、
「輝、これを」
と、愛しい人へと差し出した。輝が、瞳をぱちぱちと瞬かせる。
「アル、さっき買いに行ってたのってこれ?」
「ああ。開けてみてくれ」
言われるままに中身を広げれば、それはオフホワイトのコートで。贈った側からしてみれば案の定といった調子で目を丸くしている輝へと、アルベルトはそっと言葉を添えて、笑い掛ける。
「誕生日おめでとう」
「え、誕生日の……? ……ありがとう」
輝のかんばせを、嬉しさから来るとびきりの笑顔が彩った。冬色を羽織って、輝はくるりと一回転してみせる。
「どう? 似合う?」
「ああ、よく似合う」
素直に告げて笑みを向ければ、輝の表情が益々華やいだ。
(輝とコタツと。今年の冬は、身も心も温かそうだ)
そんなことを思って、アルベルトは胸の底に、柔らかくあたたかなものを積もらせるのだった。
●貴方の言葉
「本格的に寒くなる前に支度しておかないとな。お互い、具合のいい物が見つかるといい」
メンズ、レディース共に扱う広い服飾店の中。真面目な顔でそう言ったルシードは、それが当然のことであるというふうで、自身の目当てを探しに向かう。それぞれに買いたい物があることが判明し、ショッピングモールを2人で訪れたミミとルシード。けれどルシードには、一緒に見て回ろう、という考えが元より頭の中になく。故にミミは、同じ店の中にいながらにして、ひとりで冬物を見て回ることになったのである。
(今年になって、ルシードさんと一緒に行動することが増えたし……)
もうちょっと、見た目に気を使ってみたり可愛い服を着たりしてみたいな、と、ミミは店内の品々に視線を配る。今は別行動ながらも、今日だって、ここまで一緒にやってきたのだ。
(や、やっぱりどう見られるかは気になるというか……)
頬が少し火照るのを感じながら、ふんわりとした栗色の髪をミミはそっと撫でつけた。店内のレディースエリアには、可愛い服や小物が幾らともなく煌めいている。目移りしてしまうのは女子の性だが、
(でも、予算はあまりないからそんなに奮発できないのが悲しい所……)
と、ミミはちょっぴりだけ眉を下げた。それでも、ショッピングにはやっぱり全力投球だ。悩んだ末にコートを2着手に取って、右と左を見比べては、「うーん」と唸るミミ。
「どっちがいいかな……値段的にはどっちか一個が限界だし……」
どちらも捨て難い2着のとっておきを前に、ミミはぐるぐると考え込んだ。
「これと……後は、これだな」
一方のルシードは、ささっと店内のメンズエリアを見て回ると、さして悩むこともなしにピン! ときた物をすぐに選び取った。服や手袋などを数点。レジで会計を済ませれば、難なく買い物は完了だ。
(ミミは……)
レディースエリアへと移動して、パートナーの姿を探す。間もなく見つかったミミは、
(……何だ、まだ買い物中か)
という次第で、ルシードは少し離れた所で彼女の買い物が終わるのを待つことにした。暇に任せてミミの行動を眺めていたルシードだったが、ミミは手にしたコートを元の位置に戻してはまた手に取って……という具合に、同じような場所をうろうろしている。
(……なかなか決まる気配がない。そういえば、女性の買い物は長いとか……)
よく耳に聞く言葉を思い出して、ミミも例外ではなかったかとルシードは頷いた。そのミミが、コートを見比べたまま遂に動かなくなってしまったので、ルシードは彼女に声を掛けることを決める。
「おい、大丈夫か」
「あっ、ルシードさん!」
ハッと我に返って、ミミは店内の時計を見遣った。
「あ、あれ? こんなに時間が……ご、ごめんなさい!」
「構わないが……随分、悩んでいるようだな」
「うん、どっちにしようかなって悩んでて……ルシードさんなら、どっちがいいと思いますか?」
問い掛けるミミの声音はどこまでも真剣だ。質問への回答を、ルシードも真摯に考えた。
(どちらも、防寒性はありそうだ)
両方のコートを具に検めて、ルシードは胸の内に頷く。判断基準が、ミミの考えているそれからやや斜め上の方向にずれているのはご愛嬌だ。
「好きな方にするといい」
と、ルシードは言った。
「す、好きな方、ですか」
「ああ、どちらも似合うと思う」
「っ……!」
ミミの頬が、仄か朱に染まる。それを隠すようにして、
「ど、どっちにしよう……」
なんて、ミミはコートの方へと視線を移した。全然決め手にはならなかったけれど、それでも、手渡された言葉は胸をあたためるもので。ショッピングは、まだもう少しだけ長引きそうだ。
●ふゆのおたのしみ
「なーなー、みずたまり。そろそろウチにも石油ストーブ導入しねぇ?」
洗剤等の日用品を買いに出掛けた折、暖房器具売り場にて。八月一日 智は、実に唐突にそんなことを言った。意外な発言に、思わず怪訝な顔になる水田 茉莉花。
「……何でまたそんなレトロな物を欲しがるんですか?」
ほづみさんなら、オイルヒーター辺り欲しがりそうだと思ってましたけど、と付け足せば、
「わかってねぇなぁ」
なんて、智はやれやれと肩を竦めてみせた。茉莉花が少しむっとなったのもお構いなしに、智は続ける。
「イヤあのね、ウチにはこたつはあるじゃない」
「はい、ありますね」
「んで、そこに『暖房と加湿の出来る究極の機械』である石油ストーブを足すと、冬支度として完璧なわけ、わかる?」
「はぁ、そうですか……」
智の熱の入り様に比べて、茉莉花の方は気のない返事。けれど、智は一切めげることなく、ぐっと拳を握る。
「そこにおでん鍋仕掛けたらもう最高、餅焼いてもいいのよ?」
青い瞳に煌めきを乗せて言い切った智を前に、今度こそ、茉莉花は脱力した。
「あ、はぁ……結局、食欲から来る要望だったのね」
茉莉花の唇を、ため息が震わせる。でも、と、茉莉花は気を取り直して口元に手を宛がった。
「まあ、水を入れたやかんを乗せれば、加湿器にもなるから良いのかな?」
「おういぇ、沸いてるやかんの中にレトルトカレーと卵入れて、ご飯炊けたら茹で卵付きカレーもイケるぜ」
茉莉花の呟きを逃すことなく、智が言葉を継ぐ。茉莉花は、とりあえず想像してみた。あったかカレーにほっこり茹で卵……簡単メニューながら、確かに美味しそうではある。それは、その通りなのだが――、
「……何がどうあっても炬燵から出てきたくないってのが見え隠れしているような気が」
「イイエソンナコトハ……」
突然カタコトになる智。図星である。茉莉花は、再びのため息を漏らした。はははと誤魔化すように笑って、智はまだまだアピールを続ける。
「まぁ、導入した暁には、おれが最高の焼き芋を焼いてやっから」
な、みずたまり♪ と向けられるのは、屈託のない満面の笑み。そんな智へと、
「焼き芋は要りませんよ……食べられますけど」
と、茉莉花はじとりとした眼差しを遣った。そして、ここでごく現実的な話。
「……で、予算はどれくらいを考えているんですか?」
「むー、予算は考えてなくて、小ぢんまりしたやつが欲しいんだ!」
「またアバウトな……」
「んで、そこにはんてんも付ける! あんなのあんなの♪」
機嫌良く智が指差した先を見て、茉莉花はピシリと硬直した。渋カッコいい、大人な柄の一着である。別に、それはいい。問題は、お値段である。
「えっ、ちょっ、半纏まで買ったら予算オーバー……別行動してるおちびさんの分も買いますよね、それ」
茉莉花の脳裏に、もうひとりの幼い契約精霊の姿が浮かぶ。3人で共に暮らしているのだ、大きな買い物となれば、今ここにいない『おちびさん』のことだって考えないわけにはいかない。
「おぅ♪ いいじゃん、買ってやろうぜ」
「……ってか」
ご機嫌な智を見て、彼ご所望の半纏を見て。茉莉花は、もう一度智へと視線を戻した。もう一つ、口に出さずにはいられない問題があるのである。
「その模様のはサイズ大きいですよ? 引きずりませんか? それよりこっちのが……」
茉莉花が示したのは、小柄な智に丁度いいサイズの一着。けれど、
「イヤだぁ! 大人っぽいのがいい!」
と、智は喚いた。何せ、茉莉花が見つけた半纏は新幹線柄だったのである。
「いいじゃないですか。似合う似合う」
「ヤダ! 大人っぽいのが! いいんだって!」
冬支度を巡る2人の戦いはまだまだ続く……かも、しれない。
●例えば、こんな記念日
「え? コート?」
眼差しさえも妖艶な赤の双眸を仄か瞠って、スティレッタ・オンブラはそう問い返した。バルダー・アーテルが、真面目な顔で頷き、繰り返す。
「ああ、お前もコートを新調する頃だろ? 一緒に買いに行ってもいいと思ってな」
「クロスケが、コート……」
「何だその顔は。安心しろ。俺が買ってやるんだ」
「……ねえ、昨夜寝てる時にでも頭打った?」
バルダーからしてみれば唐突な問いを前に、金の瞳が眇められる。
「……俺は正常だぞ?」
という一幕を経て、2人は今、コートを買いに出掛けているのだった。店内のコートを次々に手に取って見定めながら、スティレッタは機嫌良く声を漏らす。
「ふふ、まさか貴方が本当にコート買ってくれるなんて思わなかったわ」
好きに選ばせてもらいましょ、と、スティレッタ。そして、彼女はやがて、これだという一着を見つけ出した。身体の前に合わせて、バルダーへと歌うように問いを零す。
「どう、クロスケ?」
「ああ、いや、何というか……」
視線を逸らして言い淀むバルダーの姿に、スティレッタはくすりと微笑した。
「何というかって何よ?」
「だから、何だ。お前が過去、男から貰ったもんより質は劣るだろうが……」
「ふふ、質なんて気にしてないわよ。貴方が買ってくれるんだもの。嬉しいわ」
スティレッタの言葉に、バルダーは殆ど詰めるようになっていた息をふっと胸の内に吐く。けれど彼は、「買ってくる」とコートを受け取った時に、ハッと気付いてしまった。
(……って、俺、その男達と同じことやってないか……?)
好きだとか、愛してるとか。そういう、甘やかな言葉を紡いでいるわけではない。それでいてスティレッタをこうして買い物に連れ出し、プレゼントを贈ろうというのだから。
(アイツが本当に嬉しそうなのがまあ、幸いなのかもしれんが……)
洒落た様子の、ずしりと重たいショッピングバッグを提げて、店の外へと向かう。スティレッタが、小首を傾げた。
「ねえ、さっきから何気にしてるの?」
「……何でもない」
ふぅん、と、スティレッタは深くは追及しなかった。その代わりに、店外に出るや、「あ、そうそう」と足を止める。連れが荷物の中から何かを取り出すのを、バルダーは僅か怪訝な顔で見守った。
「どうした?」
「あのね、バルダー。私からもプレゼント」
「って? 何だ? 紺色のマフラー?」
突然のことに、バルダーの頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだ。その様子に、スティレッタがふっと笑った。
「誕生日おめでと」
「え。俺の誕生日?」
「私が編んだのよ。本読みながら作ったし、ちょっと最初の方は目が不揃いだけど……」
重い女って思わないでよ? と茶目っ気混じりに付け足された言葉まで、マフラーの温もりと一緒にバルダーの胸に染み渡る。自分の誕生日のことなどすっかり忘れていたバルダー、
(言えない。プレゼントなんて子供の時養父母に貰ったきりで、不覚にもぐっとこみ上げたなんて……)
と、熱くなる目頭を隠すように抑えた。スティレッタが、そんなバルダーの顔を覗き込む。
「ちょっと、聞いてる? ……ん? 何か目赤いわよ?」
「い、いや、気のせいだろ。……これでも上等だ。暖かい。大切にする」
無骨に、けれど真摯に紡がれる言葉に、スティレッタは「そう」と口元に笑みを乗せた。
「来年の2月……誕生日、楽しみにしててもいいんだぞ?」
「じゃあ、その通りにしてるわ」
言って、スティレッタはバルダーの腕へと自身の腕を絡める。
「ふふ、クロスケの腕あったかい」
「って、こんな所で腕組みは……」
「家に帰るまで、ちょっとくらいいいじゃない。堂々としてれば知り合いも気づかないわよ」
スティレッタの言い様に、バルダーはため息を零した。
「……まあいいか」
そう呟けば、益々近づく2人の距離。スティレッタが、ごく小さく音を紡いだ。
「私、今でも十分幸せだからね……?」
「……ナンナ、ありがとう」
囁きに、囁きが返る。互いの温度を腕に感じながら、2人は家路を辿った。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:スティレッタ・オンブラ 呼び名:スティレッタ、お前 |
名前:バルダー・アーテル 呼び名:バルダー、貴方 |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 巴めろ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 11月15日 |
出発日 | 11月21日 00:00 |
予定納品日 | 12月01日 |
参加者
- 月野 輝(アルベルト)
- 水田 茉莉花(八月一日 智)
- 桜倉 歌菜(月成 羽純)
- ミミ(ルシード)
- スティレッタ・オンブラ(バルダー・アーテル)
会議室
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2016/11/20-23:59
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2016/11/20-20:40
ミミです。パートナーはルシードさん。
よろしくお願いします!
めっきり寒くなってきましたもんね。
しっかり準備しないと。 -
2016/11/20-07:29
-
2016/11/20-07:29
-
2016/11/20-07:28
月野輝とパートナーのアルベルトです。
皆さんはどんな冬支度をするのかしら?
ふふ、色々楽しみよね。
どうぞよろしくお願いしますね。
(歌菜さんの方を見て)
ふふ、歌菜ちゃん、可愛い…v(思わず頭撫で) -
2016/11/20-00:08
歌菜:ペートナーじゃない、パートナー!ですっ(真っ赤)
羽純:(後ろで笑いを耐えている) -
2016/11/20-00:07
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2016/11/20-00:06
-
2016/11/20-00:06
桜倉歌菜と申します。
ペートナーは羽純くんです。
皆様、よろしくお願いいたします!
私と羽純くんは、冬支度にカーテンと絨毯を見に行こうかなって思ってます。
良い一時となりますように…! -
2016/11/19-22:56
-
2016/11/19-22:56