【浄罪】大切なものの隠し場所(真崎 華凪 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

あっという間の出来事だった。

背後から唐突に飛びかかられたかと思うと、『それ』は目の前でこちらをじっと見据えていた。
野良犬――というには、目つきが尋常ではない。なにより、犬というには少し雰囲気が違うように思えた。

「ギルティ・シードの影響を受けたかな……」

隣に立つパートナーになにともなく声をかける。

「そうかもね」

いずれにしても、目の前の犬を放ってはおけない。
ギルティ・シードの影響を受けていることももちろんだが、それ以前に、飛びかかられたときに貴重品を奪われてしまっていた。

「大事なものを取られたみたい」
「だったら、返してもらわないとね」

一歩踏み出すと、犬は俊足を活かして街中へと走り去っていく。
慌てて追いかけると、見失わない速さではあったが、追いつくには少し難しい。
犬を追って走って、走って、そしてその犬は曲がり角を折れた。

「どこに行った?」
「犬って、こんなに速かったっけ……」

肩で息ををしながらあたりを見回す。
犬の姿はなかったが、眼前に広がっていたのはよく見知った景色。
いつもパートナーと過ごす場所だ。

「どこかに隠されたのかもしれないね」
「とりあえず、探そっか」

苦笑いを浮かべて、貴重品を探すことにする。

解説

犬っぽいなにかに奪われた、パートナーの貴重品を捜索してください。

貴重品の持ち主は神人さんでも精霊さんでも大丈夫です。
場所についても、自宅、公園、建物など、ご随意にご指定ください。

想定としては、
『お二人に縁のある場所を探していたら、懐かしいものが見つかった』
みたいな感じです。

実際には取られた気になっただけで取られてはいなくて、思い出の品が見つかっても大丈夫ですし、
本当に奪われても問題はありません。夕飯の材料とかだったら一大事です。


ちょっと甘い雰囲気なったりしつつ、お二人で探してみてください。
隠し場所についても、お好きな場所を指定していただいて大丈夫です。
(クローゼットの中とか、枕の下とか)

探しものが見つかれば、犬っぽいなにかも元に戻ってくれるはずです。


※犬を追いかけて全力で走ったので、水分補給のために300Jrの飲料を購入しました。


ゲームマスターより

探してる時ほど見つからない、ということはよくあることです。
目の前にあるものほど見えない、ということもよくあることです。

ウィンクルムさんの大事なものが見つかりますように。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)

  バイクでレムの故郷の町までツーリング
駐車場に着きバイクを降りたところで犬にキーを奪われる

このままじゃ帰る足がなくなっちゃう
急いで追いかけないと

なかなか見つからず、探しながら呟く
最悪、キーはお店に連絡すればなんとかなる
でもあれには大切な物…レムにもらった紫水晶のキーホルダーがつけてあるの
あれだけはどうしても見つけなきゃ
でも一体どこに…もしかしてまだあの犬が持ってるんじゃ

…そんな所にあったの
驚きと嬉しさでレムの手ごとキーホルダーを握りしめる
今日は災難だと思ったけどそんなことなかった、とてもいい日
だって探し物は見つかったし、レムの子供のころの話も聞けたし
結果オーライよ

…本当にいい日だった
ええ、喜んで


真衣(ベルンハルト)
  この公園にハルトとくるのひさしぶりね。
けいやくする前は、たまにここでいっしょに遊んでたもの。
大事なもの見つけたら、またハルトと遊びたいな。

ベンチの下とか、すべり台の下とかかくせそうなところをさがすわ。
きゃ、(石につまづいて転びかける
ありがとうハルト。うん、気をつけるね。

(子供なら中に入れる大きさの遊具
この中ならあるかも! さがしてくるね。
お花のしおり。おし花、っていうのよね。こういうの。
とられたのってこれかしら?
ハルト、しおりがあったの。

これであってるの?
あ! わかった。あのときお礼にあげたお花ね!
えへへ、しおりになってるのはびっくりしたけど。
大事にしてくれてるのうれしい。(笑顔でぎゅっと抱きつく


ミサ・フルール(エリオス・シュトルツ)
  きゃあ!?(宿屋の手伝い、外掃除をしていて犬に襲われ尻餅をつく)
ちょっとワンちゃんに体当たりをされてしまいまして
だ、大丈夫ですよ、怪我してないですし
ごめんなさい、次からは気をつけます

(風に吹かれ髪を押さえた時 違和感)髪飾りが・・・ない!?
もしかしてさっきのワンちゃんに・・・
どうしよう(涙ぐみ)
髪飾りを盗られてしまったんです
あれはお母さんの形見なのに
はい、そうですけど・・・エリオスさん?(沈黙する彼に首を傾げ)

こんなに探しても見つからないなんて(諦めかけた時、精霊が現れる)
エリオスさん、お洋服が・・・!
私の為にそんなになるまで探してくれたんですね
エリオスさん、有り難う(涙ぐみながらも満面の笑み)


かのん(朽葉)
  朽葉おじ様、大丈夫ですか?
突然の事に怪我はしていない事に安堵
どこに仕舞っているのか自分には全く分からない、時折不意に飛びだしてくる兎の縫いぐるみが無いと聞き
彼方の方に駆けて行きました、追いかけましょう

探し場所:公園
犬の姿を探しつつ、どこかに捨て置いていないかピンクの色合いを探す
…そういえば、ここはおじ様と初めて出会った所
1人で生きていくのに手に職を付けなきゃと始めたけれど、知らない事できない事ばかりで…
師匠に怒られたのが悲しくて、木陰に隠れたようにある東屋の裏で泣いてたら、急にあの兎さんが出てきたんですよね

東屋の周囲を捜索中、あの時のように飛びだしてきた件の兎
見つかって良かったです
朽葉へ笑みを


時杜 一花(ヒンメル・リカード)
  場所:公園

時折会話を挟みつつ公園捜索
小さい頃は結構この公園で遊んでいたの
だからそれなりに詳しいとは思うのだけど…、でも隠し場所とかは浮かばないわね
…あ、な、なんだか私ばっかり喋っちゃってごめんなさい

探すも中々見つからず、段々と会話も減り
掛けられた言葉に驚き
もういいの?あのトランプ、大事にしているなって思ってたけれど…
…うん、ヒンメルさんがそれでいいのなら

出入り口近くまでお互い無言
…やっぱり、探しましょう
いない間に誰かがもっていってしまうかもしれないし
もっと探せば、きっとみつかるわ
大事なものなんでしょう?
後で後悔するのは、嫌だわ
遅くなってお母さんに怒られるより、そっちの方が、ずっと



「朽葉おじ様、大丈夫ですか?」

 突然のできごとに、かのんは朽葉に声をかけた。
 その合間にも、走り去っていく、朽葉を襲ったようにすら見えた犬の姿はしっかりと視線で追いかけていた。

「我は問題ないが……兎がおらんの」

 かのんの心配そうな声に、袖を見遣りながら朽葉が答える。
 いつもどこにしまっているのか、かのんには分からなかったが、ときおりふいに飛び出してくるピンクの兎のぬいぐるみ。
 先ほどの衝突時に裾が裂かれてしまったらしく、そのぬいぐるみが姿を消しているらしい。

「彼方のほうに駆けていきました。追いかけましょう」

 二人は犬のあとを追うように足を向け、公園へとたどり着いた。


 犬の姿を探しながらも、どこかに捨て置いていないだろうかと、ピンクの色を探す。
 公園の中にあれば、比較的目立ちやすいその色を見渡して探しながら、ふと。

(……そういえば……)

 この公園は、朽葉と初めて出会った場所だ。
 ぬいぐるみを探しながら、その時へと思いを馳せる。

(一人で生きていくのに手に職をつけなきゃと始めたけれど、知らないこと、できないことばかりで……)

 あの頃は、かのんが庭師として修業を始めて程もない頃だった。
 技術を身につけるということは、思う以上に難しい。
 失敗をして、庭師の師匠に怒られてしまったことがあった。
 まだ、今よりも幼かったころのこと。
 そのことが悲しくて、公園の、木陰に隠れるようにあった東屋の裏で泣いていた。

(そうしたら、急にあの兎さんが出てきたんですよね)

 あの日、かのんと出会った朽葉と、その朽葉が持つピンク色の兎のぬいぐるみ。
 なんとしても、探し出さなくては。
 かのんは東屋の周辺を中心に、兎の捜索を続ける。

 *

 かのんのあとに続いて公園へと足を踏み入れた朽葉も、やはりかのんと同じく懐かしそうに公園に目を向けた。

「ほう……ここは」


 朽葉の知人――かのんの庭師の師匠が仕事をしていると聞いて、しばらくぶりに様子見を兼ねて訪れた。
 その時、知人が幼さの残る少女を叱りつけるところへ、ちょうど遭遇した。
 いくらか厳しいようにも思え、朽葉は知人に尋ねてみたのだ。
 なぜ、そこまで厳しく当たるのか、と。
 すると知人は言った。

『彼女は両親を亡くしており、身寄りもない。
 生きていくには働くしかなく、だからこそ引き受けた。
 今は辛いだろうが、一端の技術を身につけんと、当人があとで困る』

 なるほど、それはもっともな言い分だ。
 辛く当たる理由にも頷けた。
 朽葉はしばし思案した後に、彼女が走っていった東屋へと足を向けた。

 ――通りすがりのお節介はそう邪魔にならんじゃろう。
 そう、思ってのこと。
 隠れるように佇む東屋の裏で彼女を見つけると、そっと近づいて、どこからともなく兎を出現させた。

 ぱっと飛び出す兎に、彼女は涙を止め、そして、花が咲くように笑った。
 簡単な手品。
 けれど、その手品に喜び、楽しかったのは久しぶりだと言って、大輪の花を咲かせたのだ。


「おお、こんなところに……」

 朽葉はベンチでピンクの兎のぬいぐるみを見つけると、東屋の周囲を探すかのんの前に、ぱっと兎を飛び出させた。

「ここだよー」
「――!」

 朽葉が声色を変えて兎の声を出せば、かのんはゆっくりと表情を和らげた。

「――ベンチの上におった」

 東屋の中から朽葉が声を掛ける。

「見つかってよかったです」
「心配かけたの」

 あの日と変わらず、柔らかな花をほころばせたかのんが朽葉に微笑んだ。



 ●
 バイクでレムレース・エーヴィヒカイトの故郷の町までツーリングに誘われた。
 駐車場について、バイクを降りたところで、出石 香奈の手元を目掛けて犬が飛びかかってきた。

「っ!?」
「香奈……?」

 レムレースが心配そうに声をかけると、香奈は手元を見つめ、そして犬の走り去る方向へと目を向ける。
 バイクのキーを、奪われてしまったのだ。

「このままじゃ帰る足がなくなっちゃう。急いで追いかけないと」
「あっちに行ったな。追いかけよう」

 レムレースと共に犬を追いかけていくと、道場の裏手にやってきた。
 そこは、レムレースの実家の道場。

「気配はしないが……」

 辺りを見回してレムレースが呟く。

「この辺りに隠したのかもしれない。手分けして探そう」

 二人で犬が隠しそうな場所を探してはみるも、なかなか見つからない。

「最悪、キーはお店に連絡すればなんとかなるけど」

 香奈がキーを探しながら言葉を続ける。

「でもあれには大切なものが……」
「大切なもの?」

 レムレースが反芻するように問い返す。

「レムにもらった紫水晶のキーホルダーがつけてあるの」
「キーホルダー?」

 探す手を止め、レムレースがやや思案する。

「そういえば、そんなものを渡したこともあったな」
「あれだけはどうしても見つけなきゃ」

 それを、バイクのキーに香奈は付けていた。それの意味するところはつまり。

「いつも肌身離さず持っていてくれてたのか」

 内心でうれしく思いつつ、レムレースはキーの捜索を再開する。

「でも、いったいどこに……もしかしてまだあの犬が持ってるんじゃ」

 犬が持っているとすれば、捜索はさらに困難になるかもしれない。
 ――隠し場所、か。

「そういえば」

 レムレースはふと、幼少期を思い出して探す場所を変えた。

「昔、よく宝物を隠していた場所があった」

 茂みのあたりで足を止める。

「ここの茂みの下に小さな窪みがあってな。今も残っているならもしかして……」

 手探りで探すと、レムレースの手に硬い感触が触れる。

「……あったぞ」

 触れたのは、紫水晶のキーホルダーのついた、バイクのキー。

「……そんなところにあったの」

 香奈は驚きとうれしさに、レムレースの手ごとキーホルダーを握りしめた。

「今日は災難だと思ったけど、そんなことなかった。とてもいい日」
「いい日?」
「だって、探しものは見つかったし、レムの子供のころの話も聞けたし」
「そんなこと――」
「結果オーライよ」

 うれしそうに笑う香奈に、レムレースも表情を和らげる。

「せっかくここまで来たんだ、挨拶していかないか?」
「挨拶……?」
「二人に香奈を紹介したい。俺のパートナーで、大切な女性だと」

 最初からそのつもりで、レムレースは香奈をツーリングに誘っていた。
 レムレースの言葉に、香奈はわずかに瞠目し、そして瞳を伏せた。

(……本当にいい日だった)

 真摯な目で、レムレースが香奈を見つめる。

「一緒に来てくれるか」
「ええ、喜んで」

 柔らかに微笑んだ香奈に、レムレースの表情も柔らかくする。




「この公園にハルトとくるのひさしぶりね」
「そういえば最近来ていなかったな」
「けいやくする前は、たまにここでいっしょに遊んでたもの」

 ベルンハルトの持ち物を犬に奪われて、その後を追いかけてやってきた公園は、真衣とよく会っていた場所。
 今では真衣がベルンハルトの家に来るようになったこともあり、公園から足が遠のいていた。

「大事なもの見つけたら、またハルトと遊びたいな」
「そうだな。早めにみつけられたらそれもいい」

 真衣の言葉を叶えるためにも、ベルンハルトは辺りを軽く見まわす。

「見える範囲にはなさそうだ」
「ベンチの下とか、すべり台の下とか、かくせそうなところをさがすわ」

 ベルンハルトの視点では見えない場所も、真衣の視線なら見えることもあるだろう。
 真衣が探し出そうと足を進めると、石に躓いてバランスを崩した。

「きゃ」
「真衣!」

 慌ててベルンハルトが真衣を支える。

「大丈夫か?」
「ありがとう、ハルト」
「走って疲れてるんだ。慌てて動かないように」
「うん、気をつけるね」

 ここまでも真衣は走って追いかけてくれていた。
 その疲労が表れていてもおかしくはない。
 安全のために、ベルンハルトは足元の石を拾って公園の隅へと放った。

「遊具、か」

 公園に置かれた遊具の周辺も見落とすことがないように探したが、やはり周辺にも見つけることはできなかった。
 子供なら入れそうなものだが、ベルンハルトが中を探すことは難しいだろう。

 ――未練はあるが。

 探しものが見つかってほしいとは思うものの、見つからないなら新調するときが来たのかもしれない。
 そう思っていると真衣が、ベルンハルトが目を向けていた遊具の中を覗き込む。

「この中ならあるかも! さがしてくるね」
「――ああ、気をつけて」

 真衣なら、遊具の中も難なく入っていける。
 遊具の中へと進んだ真衣は、その中でしおりを見つけた。

(お花のしおり。おし花、っていうのよね。こういうの。とられたのってこれかしら?)

 しおりを手に、真衣は遊具の外へ出る。

「ハルト、しおりがあったの」
「真衣、それは」

 手にしたしおりを目にすると、ベルンハルトがすぐに声をかけた。

「ありがとう。これを探してたんだ」
「これであってるの?」
「当たりだ。よくわかったな」

 しおりを見つめて、真衣は思案顔をする。
 そして、少しして声を上げた。

「あ! わかった。あのときお礼にあげたお花ね!」

 そのしおりは、当時出向先に持っていった際に、経緯を知った同僚がしおりにしたものだ。
 それを、あえて言ったことはなかったし、真衣もベルンハルトがそんな形で持っていることは知らなかったはず。

「えへへ、しおりになってるのはびっくりしたけど」

 真衣が笑顔でベルンハルトに抱きつく。

「大事にしてくれてるのうれしい」
「これからも大事にするよ」

 使い続けたことは偶然に近い。
 けれど、真衣がここまで喜んで、笑ってくれるのなら、これから先も、ずっと大切に――。



 ●
「きゃあ!?」

 宿屋の手伝いのため、外を掃除していたミサ・フルールが突然悲鳴を上げた。

「ミサ、なにがあった!?」

 その声に、自室で本を読んでいたエリオス・シュトルツが慌てた様子で外へ出てきた。
 尻餅をついているミサに手を貸す。

「ちょっとワンちゃんに体当たりをされてしまいまして」
「犬に……?」

 襲い掛かられ、驚いて尻餅をついてしまった――ということらしかったが。

「噛まれていないだろうな!?」

 見える範囲でミサの身体に傷がないことを確認すると、エリオスは安堵するとともに低く呟く。

「おのれ犬の分際で……消し炭にしてやろうか」
「だ、大丈夫ですよ、怪我してないですし」

 その声が、本当に消し炭にしそうだったためか、ミサは頭を振る。
 宥めるように言葉を重ねるも、エリオスは納得した様子を見せない。

「まったく、お前は甘いな」

 一度言葉を区切ったエリオスは、再び言葉を継ぐ。
 その言葉は――。

「だいたい怪我がなかったからいいものの、痕が残るような怪我などしてみろ――」

 年頃の娘が、と続く。
 まるで、お父さんだ。――と思っても、口にしなかったけれど。

「ごめんなさい、次からは気をつけます」

 心配してくれるエリオスの気遣いはうれしいものだ。
 ひとつ頭をさげると、風が強く吹いた。
 その風に舞う髪を押さえたミサは、刹那に違和感を覚えた。

(髪飾りが……ない!?)

 つけていたはずの髪飾りがなくなっている。

(もしかしてさっきのワンちゃんに……)

 体当たりをされた時に落として、持っていかれたのだろうか。

(どうしよう……)

 じわりと涙が浮かぶ。

「っ、どうした?」

 そんなミサの異変にも、エリオスはすぐに気づく。

「やはりどこか……」

 怪我をしていたのでは、とエリオスがミサを見遣ると、涙ぐみながらミサが呟いた。

「髪飾りを盗られてしまったんです」
「盗られた――?」
「あれはお母さんの形見なのに」

 エリオスが事実だけを確認するように反芻すると、ふっと息を吐く。

「仕方ない、新しい物を買ってやろう」

 そう、言いはしたものの、はっとしたようにエリオスがミサを見た。

「待て、母の形見だと?」
「はい」
「それはもしや薔薇の髪飾りか?」
「そうですけど……エリオスさん?」

 エリオスがふいに沈黙すると、ミサは首を傾げる。

「…………」

 ――その髪飾りは……

 エリオスには心当たりがあった。
 過去に贈った覚えのあるもの、だったから。

 ――『彼女』に贈ったもの……

「いや、なんでもない。手分けして探すぞ」

 エリオスの言葉に、周辺をくまなく捜索する。
 けれど、犬も髪飾りも見つからなかった。

「こんなに探しても見つからないなんて」

 肩を落としながら諦めかけるミサの前にエリオスが姿を見せた。
 けれど、エリオスの服はひどく汚れている。

「エリオスさん、お洋服が……!」
「公園の木の枝に引っかかっていた」

 薔薇の髪飾りをミサの前に差し出すと、ミサは弾かれたように顔を上げる。

「私のためにそんなになるまで探してくれたんですね」
「大切なものなのだろう? ……もう、手放すなよ」
「エリオスさん、ありがとう」

 涙を浮かべながらも、ミサは満面の笑みをエリオスに向けた。




 犬にヒンメルの手品道具であるトランプが奪われてしまった――。

「さすがに犬の足の速さには敵わないね」

 しばらくは犬の姿を捕らえられていたのだが、その俊敏な足に、完全に姿を見失ってしまう。
 ヒンメル・リカードの気持ちを表すかのように、耳も少しへにゃりと元気がなくなってしまったようだ。

「公園を探してみましょう」

 近くの公園に目を向けた時杜 一花がそう提案する。

「そうだね」

 可能性はある。
 二人で公園に足を向けて捜索を始める。

「小さい頃は結構この公園で遊んでいたの」
「うん」
「だからそれなりに詳しいとは思うのだけど……」

 見渡す一花に、ヒンメルは「うん」と相槌を打った。

「でも隠し場所とかは浮かばないわね」
「そう――」
「……あ、な、なんだか私ばっかりしゃべっちゃってごめんなさい」
「え?」

 一花の言葉に、ヒンメルはそこでようやく気付いた。
 相槌は打ってこそいても、心ここにあらずといったような、それはなんとも素っ気ないものばかりを返していた。
 いつもはヒンメルのほうが口数が多くしゃべっているというのに。

 ――一花さんには言ってないけど……

 盗まれたトランプは、ヒンメルが師匠から譲り受けた年季の入った大事なもの。
 軽口を叩いている余裕すらないほどに、盗まれたことが堪えていたのだ。
 ペースを乱されるなど、自分らしくない――。
 ヒンメルは気持ちを切り替えて一花に笑いかける。

「大丈夫、もっとしゃべっていいよ」

 そう言ってはみたものの、探し物は一向に見つからず、辺りも暗くなりはじめ、会話もだんだんと減っていく。

 ――あんまり付き合わせても悪いか……。

 探し物はヒンメルのものだ。
 一花に遅くまで付き合わせずともいい。
 だから。

「一花さん、そろそろ帰ろう」
「もういいの? あのトランプ、大事にしているなって思ってたけれど……」
「うん、暗くなってきたしね。もういいよ」

 心中ではまるで真逆のことを考えていた。
 あとで一人で戻って、また探せばいい、と。そう考えてはいたけれど、一花の前では気にしない素振りで取り繕う。

「……うん、ヒンメルさんがそれでいいのなら」

 躊躇うように一花が頷いて見せると、ヒンメルも頷いて公園に背を向ける。
 出入り口が近くなる。その間はずっと、互いに無言が続いた。

「一花さん?」

 ヒンメルが、ふいに足を止めた一花を振り返った。

「……やっぱり、探しましょう」
「え? いいよ、大丈夫だって」
「いない間に誰かが持っていってしまうかもしれないし、もっと探せばきっと見つかるわ」
「だいたいは探したから、もう――」

 一花は首を横に振る。

「大事なものなんでしょう? あとで後悔するのは嫌だわ」
「あんまり遅くなると怒られるよ」
「遅くなってお母さんに怒られるより、そっちの方が、ずっと……」

 ヒンメルはわずかに目を見開いた後、眩しそうに眇めた。

「一花さんも結構悪い子だね」

 公園へと引き返しながら、ヒンメルは一花に小さく微笑んだ。

「まあ、一緒に怒られてあげるよ」

 その微笑みに、一花も笑みを返した。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 真崎 華凪
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月09日
出発日 11月16日 00:00
予定納品日 11月26日

参加者

会議室

  • [6]かのん

    2016/11/15-19:08 

  • [5]時杜 一花

    2016/11/14-23:44 

    時杜一花です。
    よろしくお願いします。

    困った事になりましたね…。
    早く見つかるといいのだけど。

  • [4]ミサ・フルール

    2016/11/14-18:52 

  • [3]かのん

    2016/11/13-14:56 

  • [2]出石 香奈

    2016/11/12-20:20 

  • [1]真衣

    2016/11/12-11:46 

    真衣です! よろしくお願いします!

    ハルトのをとられちゃったの。
    がんばって探すわ。


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