紅色椿へ言の葉を(如月修羅 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ


 赤、赤、赤……。
 そんな光景の中、目立つのは緑色の葉ではなく、枝に結ばれた白いもの。
「ありがとう」
 その声には感謝の気持ちと、愛情と、そして一抹の寂しさが混じっていた。
「この思いを、届けておくれ」
 茶色の枝に結ばれた白い紙。
 じっと見つめた彼の視線の先には、ほかにも沢山の同じような紙が結ばれている。
 赤い椿が延々と植えられたその場所は、こうやって赤い椿が咲く頃になると白い紙が結ばれるのだ。
 その紙に書かれるのは、感謝の気持ち。
 それだけだ。 
 昔ここで椿の精霊に助けられた村人が、お礼の気持ちを文にしたため結んだことが始まりらしいが、詳しいことはわかっていない。
 ただ、毎年この季節になると、こうやって「感謝の気持ち」を書き、結ぶということが行われている。
「あぁ、お前さんたちは初めてかい?」
 貴方が出会った老人はそういって、詳しい話をしてくれる。
「私は亡くなった妻に感謝の気持ちを毎年おくってるがね……。
なにも亡くなった人じゃなくていいんだよ。ちょっと遠い所に住んでいる恩人や友人でもいいし、今隣にいる人でもいい。
たとえば勤め先のみんなへ、とか小さいころから一緒にいるぬいぐるみだとか」
 とにかく、なんにでもいいから感謝の気持ちを文字にして、紙に書き、そして椿の枝に結ぶ。
 そういうものなのだそうだ。
「もちろん、きちんと声にだして相手に伝えることも大事だがね。
だが、こうやって紙に文字を書いていると……いろいろ考えさせられることもあってね」
 だから、こういう風に伝えるのも、いいものなのだと老人が笑う。
 ちなみにこの紙は水に溶けるようになっていて、自然にきちんとかえるものらしい。
「まぁだからといって個人的すぎるものは書かんようにな」
 一番いいのは、お礼の言葉のみを書くことだろうと老人は言う。
 ○○をありがとう、あの時はありがとう、いつも一緒にいてくれてありがとう。
「そんな言葉だけを書いて、結ぶときにその相手を思い浮かべながら椿に話かけるといいさ」
 先ほど私をみていたお前さんたちならわかるかな。
 そういう老人に頷き、貴方は教えられるままに紙を売っているスペースへと足を向ける。
「終わったら、椿を見ながら紅茶も飲めるし、ゆっくりしていくといいよ」
 貴方はお礼をいって、去っていく老人を見送った。
 隣の精霊をみれば、勿論やっていくだろう? と言っていて。
 勿論、と頷いた貴方は、さて、何を書こうかと思いを馳せるのだった。

解説

 依頼の帰りでも、誰かから話をきいたでも、なんとなく歩いてたら辿りついた、でも。
 お好きなシチュエーションでどうぞ!

●紙
 白い長方形の紙。
 あまり長くないので長文には向かない。
 また、水に溶けるが個人情報などを書くのには向いていない。

●椿
 沢山の椿が植えられており、そのほとんどに白い紙が結ばれている。
 どこにでも好きな場所へ結んでOK。
 ただ、誰かのをとってしまったりしないように注意を!

●お茶
 50jrで林檎の紅茶を飲めます。
 持ち込みも可能ですが、コンビニで買える程度のものになります。
 椅子とテーブルがある一角があり、そこでのんびりと眺めることが出来ます。

●jr
 紙代として、お一人様 300jr。
 お茶を飲むと、さらに+50jrです。

 神人 300 + 50 で350。 
 精霊 300 + 持ち込んだものを食べる で300。
 とかも大丈夫です。

ゲームマスターより

 昔水にとける紙でお手紙書いたことを思い出しまして。
もしよろしければお楽しみください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  依頼の帰りにたまたま目に入った椿の木

感謝の言葉に溢れた木を 同じように見上げていたシリウスに笑顔
ーやってみない?

お礼の気持ちはシリウスへ
「いつも護ってくれてありがとう」
空に近い高い場所に結びたくて背伸び
取り上げて結んでくれる彼に 少し驚いた顔をした後笑顔に
まっすぐで強くて 時折優しく輝く大好きな彼の瞳を思い浮かべ目を伏せる
胸の前で指を組み

いつもありがとう

目が合い 照れたように笑う

お茶を飲みながら飽きずに花を眺める
椿は冬に咲く花でしょう?
雪の中でも鮮やかに咲いて 春を待つの
だからかな 輪として綺麗な花よね
花言葉?わたしがシリウスに言いたいこと、かなぁ
(頬を染めて)-ないしょ!

花言葉は 私は常にあなたを愛します


レベッカ・ヴェスター(トレイス・エッカート)
  偶然辿り着き、折角だからと
こういうのならお手軽でいいわね
面と向かってありがとうと伝えるのも中々勇気がいる事だもの
確かにエッカートさんならあんまり気にしなさそうね…

お兄さんがいるのね
話の流れからもしやお兄さんはもう亡くなっているのではと至り返事につまる

どんな人なの?
語り口に本の事を語るものと似たものを感じ長くなる気配を察知
しかし今は亡き人との思い出なのかもと耐える

もう、ややこしい言い方しないで!
しんみりして損したわ…

まあいいわ…
私も書かなきゃ。誰にしようかしら

家族は……いいわ
家族と聞いて浮かぶ記憶につい声が暗くなる
仕事先の人にしておく。いつもお世話になってるし
話を切り上げ、手早く書き上げ椿へと


メイアリーナ・ベルティス(フィオン・バルツァー)
  この白い紙全てに感謝の気持ちが篭っているんですね
なんだか素敵です

感謝を伝えたい方は沢山いますが、ここは天国の両親に伝えましょう
「いつもありがとう」
きっといつも空から私の事を見守ってくれていると思うんです
だから私もしっかりと生きていかなくちゃ

フィオンさんも書けましたか?
もしや私宛に?と驚くも作法を勘違いしている事に気付き訂正入
私じゃなくて椿に向かって、ですよ!
と、届いてます!
ペースを乱されつつも私も結ぼうと椿に結び、ありがとうと

口に出すのは気恥ずかしく、心の中で
色々と大変な事もありますが…(精霊ちらり
ちょっとそそっかしくて目が離せないけど…いい人です
だから安心してね
私は毎日楽しく過ごしています


天埼 美琴(カイ)
  バイト先のお客さんから聞いた話で、それなら相方と行こうということになり今に至る

わあ……カイさん、椿、綺麗ですね
はい、綺麗ですよね、椿に限らず
あ、は、はいっカイさん待って下さい……!

紙には「いつも助けてくれてありがとう」と記載(精霊に対する感謝の気持ち
え……ええと、秘密、です
恥ずかしかったので、精霊には内容を言えず
あ……じゃあ、お願いします……(書いた紙を精霊に渡す

椿に結んだ後、余った時間で精霊と紅茶を飲みながら椿を楽しむ(精霊もなので+100jr)
紅茶の味に自然と顔が綻ぶ
え……!? し、してましたか? 嬉しそうな顔……


ひろの(ケネス・リード)
  「……書かないの?」(一枚購入し、ケーネを見る
「わかった」(指の向く方を見て、ケーネに視線を戻し頷く

精霊も、色々みたい。
当たり前、だよね。(つい、いつも合わせてくれるもう一人と比較
感謝、……お礼。(紙を見て考える

『いままでありがとう』
タブロスに来るまで、一緒に寝てた黒猫のぬいぐるみを思いながら枝に結ぶ。
「少し、慣れたよ」(一人寝に
まだちょっと。寂しいけど。

林檎の紅茶を買って、ケーネにところに行く。
「うん」(小さく頷き、遠慮がちに同席
周り真っ赤。なんか、すごい。
「あの。今日は、ありがとう」(視線はやや下を向く
「一緒に来てくれた、から」

借りて?
「私、物じゃないよ。」(思い至らず素で返し、首を傾げる



 バイト先のお客さんから聞いたちょっと不思議なお話。
 そんな場所へ天埼 美琴は、相方のカイと共に足を向けた。
 美琴とカイを迎え入れたその場所は、赤、赤、赤。
 椿の赤が視界いっぱいに広がっている。
「わぁ……カイさん、椿、綺麗ですね」
 隣に立つカイに鴇色の瞳を向ければ、金糸雀色の視線が赤い椿から、美琴の方へ向く。
 ああ。だな、と頷きつつ、疑問を唇にのせて。
「椿、好きなのか?」
 その問いかけに、美琴が大きく頷いた。
「はい、綺麗ですよね、椿に限らず」
「……そうか」
 頷くのに合わせて髪がさらりと揺れるのを見詰めた後、ふいっと視線を逸らすカイ。
 首を傾げた美琴へと声を掛ける。
「なら行くぞ」
 すでに彼の足は紙売り場の方へ向かっていて。
「あ、は、はいっカイさん待って下さい……!」
 慌てて追いかける美琴の声を背に聞きながら、カイは歩いて行く……。

 買った紙を前に、さて、何を書こうかと悩むカイとは裏腹に、さらさらと先に書き終えたのは美琴だ。
 紙に書かれた文字は、カイへの感謝の気持ち。
 その文字から、感謝の気持ちが滲みでているようで。
 ふと、視線を和ませる。
 そんな風に、書き終った手紙へ視線を落とし見ている背中に掛けられる視線。
 美琴を見ていれば、カイもなにやら書くことが決まったよう。
 さらさらと書いた文字は、美琴への感謝の気持ち。
 少々長くなった文章に視線を落とし、間違いがないか確認する。
 そこから伝わってくるのは、美琴への気持ちだけだ。
 金糸雀色の瞳をどこか眩しそうに細めた後、美琴へと声をかける。
「……で、なに書いた」
 紙からぱっと視線を上げた美琴が、ちょっと頬を染める。
 その様子に不思議そうに見詰め返せば、恥ずかしそうにえ……えぇと、と言葉を濁して。
「秘密、です」
 ぽつりと囁かれたその言葉に、詮索するようなことなどせず、そうかと頷きを返す。
 恥ずかしくて、言葉には出来なかった感謝の気持ちを胸に秘めた美琴は、さぁ、結びに行きましょうと椿の方へ足を向ける。


 椿の枝に結ばれた白い手紙。
 それらひとつひとつが皆の感謝の気持ちなのかとそっと視線を椿の方へ。
「結べるとこ、高い所しかないな」
 結びやすい下の方に手紙が集中しているのは仕方がないかもしれない。
 とはいえ、身長の高いカイであればむすばれていない高い場所に結ぶことも可能で。
 感謝の気持ちを胸に秘め、そっと美琴への思いを結びつける。
『美琴が依頼を頑張ってるからこっちもやりやすい。ありがとう』
 努力をする人なんだね、素敵だね?
 そういうように枝がふるりと震え、赤い椿がそれに合わせて揺れる。
 その様子を見つめ、美琴は思案顔になる。
 背伸びすれば、カイが結んだ高い枝に手が届くだろうか……。
「……貸せ。お前のも結ぶ」
 差し出された手に、瞳を瞬きふわっと笑顔を浮かべた美琴。
「あ……じゃあ、お願いします……」
『いつも助けてくれてありがとう』
 カイへの感謝の気持ちが籠った手紙が、カイの手により結ばれる。
 想いを受け取った椿が、頼りになる人なのね? というようにふるりと揺れた。
 眺めた後、少し何か飲もうかと足を進め、紅茶を頼むのだった。
 

暫し後。
 ふわりと漂う林檎の香り。
 甘い香りを楽しみながら、視線をやればどの椿もどこか誇らしげに、嬉しげに咲いている姿。
 そんな様子を見ながら紅茶を飲めば、ほっと肩の力が抜けていく。
「お前、随分嬉しそうだな」
「え……!?」
 ぱっと頬に指先を伸ばし、辿って行く。
「し、してましたか? 嬉しそうな顔……」
 その様子に瞳を細めて口元に笑みをのせ、カイが頷く。
 紅茶を飲むたびに表情が和らいでいく美琴。
 その様子がとても面白く感じたと伝えれば、一体どんな表情を浮かべてくれるのだろうか。
 色んな表情が見れるかもしれない、と椿のように赤く頬を染めた彼女を見守るのだった。




 赤い椿に結ばれた白い手紙。
 それらは全て、感謝の気持ち。
 赤と白のコントラストが美しいそんな光景の中やってきた2人。
 いらっしゃいませ、どうぞ! と渡された白い紙を受け取りつつひろのは、共に来ていたケネス・リードを振りかえった。
「……書かないの?」
 ひろのの問いかけに、ひらりと振られる指先。
「あたしは別にいいわ」
 そういうケネスを見詰めていれば、振られた指先がすいっと動く。
 動いた先は、こことはまた別の場所。
 沢山のテーブルと椅子が並べられたそこでは、人々が思い思いに楽しんでいた。 
「あっちで先に休んでるから、ゆっくり書きなさい」
「わかった」
 動かされた指先の方から、視線をケネスへ戻し頷く。
 じゃぁね、と離れていくケネスと別れ、ふっと息を吐いた。
(精霊も、色々みたい)
 当たり前、だよね。
 そう思いながらも、いつもなら合わせてくれる赤い髪のもう1人と比較してしまう。
 これからもっと時間を過ごせば変わってくるのだろうけれど。
 でも、今はまだちょっと距離があるのは否めない。
 ふぅっと知らず溜息を吐いた後、白い紙を前に、何を書こうと考え始める。
(感謝、……お礼)
 あぁ、そうだ。
 じっくりと見ていれば心に浮かんだもの。
 さらさらと文字を書きはじめる……。


 席に座り、ケネスはひろのを見ていた。
 ちょこちょこと動く彼女は、どうやら書くことが決まったようで。
 熱心に紙に向かって書きはじめた彼女から視線を外す。
(全部付き合わなくたってねえ?)
 周りの人達の楽しそうなお喋りをきくともなしにききながら、感謝って言うのも特に思い浮かばないなと思う。
(契約に感謝とかか? オーガには成りたかないし)
 思わず素でそう心の中で呟く。
「……にしても」
 テーブルに両肘をつき、手に顎を乗せつつ、ケネスは呟いた。
「見事に周り全部赤いわねえ」
 赤い椿が延々と続いていて、もしもここにあいつが居たら紛れそう。
 それは先程ひろのも思い浮かべた赤い髪の精霊だ。
 くすくす楽しげに笑うケネスの視線の先の椿は、とても美しい赤だった。
 そんな美しい赤の椿。
 ひろのはそのうちのひとつに手紙を結びつけていた。
『いままでありがとう』
 タブロスに来るまで、一緒に寝てた黒猫のぬいぐるみを思いながら枝に結んでいた。
「少し、慣れたよ」
 一人で寝るのは、まだちょっと。寂しいけど。
 それでも、今は。
 結び終え今一度みつめれば、想いを受け取った椿が大丈夫、きっと伝わってるよと言うように揺れるのだった。


 林檎の紅茶を買って、ケネスの元へ向かえば、ん。来たわね。と手を振られる。
(周り真っ赤。なんか、すごい)
 周りの赤い椿を改めて見てひろのはそう思う。
「終わったの?」
(まあ、だから来たんでしょうけど)
 彼女の持つ紅茶へ視線を落としつつその問いかけに、ひろのが遠慮がちに席へと座りながら頷く。
「うん」
(まだ距離があるわねえ)
 その遠慮がちな仕草に、心の距離はまだあるようだとケネスは思う。
「あの。今日は、ありがとう」
「ん? 何が?」
 視線をやや下に向けてのお礼に、首を傾げたケネスに、ひろのがゆっくりと唇を開いて。 
「一緒に来てくれた、から」
 ああ、そのこと、と合点してケネスが口元に笑みを浮かべる。
「あいつからひろの借りてるんだし、これぐらいはね」
 借りて? と首を傾げて。
 なんだかとても不思議な言葉を聞いてしまった。
 一体、どういうことなのだろう。
「私、物じゃないよ」
「……本気で言ってる?」
(鈍い、のか)
 これは……と小さく呟き、ぱっと浮かんだ“あいつ”に口元に笑みが浮かぶ。
(あいつも苦労してんのね)
 楽しげに笑うケネスに、ひろのは一体なんなのだろうと首を傾げて。
 確かに心の距離はまだある。
 それでも、こうやって共の時間を過ごせば分かることもあるのだと。
 そんな2人の様子を、赤い赤い椿たちが見守っていた。



 赤と白のコントラスト。
 突如見えてきたのは赤い椿と、なぜかそれに白い紙が結ばれていて。
 一体これはどういったことだろうと不思議に思って立ち止まる2人に近づく影。
 レベッカ・ヴェスターとトレイス・エッカートは、偶然辿りついたその先で、赤い椿の群生の逸話をきくこととなった。
 不思議な話を教えてくれた老人と別れ、折角だからと参加することになった。
(こういうのならお手軽でいいわね)
 いらっしゃいませ、ありがとうございます。
 そうやって渡された白い紙を受け取りながら、レベッカは思う。
 同じように手渡された紙に視線を落とすトレイスと共に、手紙を書くエリアへ移動しながら唇を開いた。
 面と向かってありがとうと伝えるのも中々勇気がいる、というレベッカに対し、トレイスはそうか? と首を傾げた。
「言いたいと思ったら、言えばいいじゃないか」
 特に勇気が必要とも思わないが……と言葉をつづける。
「言いそびれたままの言葉というものは、なかなかもどかしい」
 そんな彼にレベッカが頷きを返す。
 ちらりと視線をやった先のトレイスは、不思議そうだ。
「確かにエッカートさんならあんまり気にしなさそうね……」
 その言葉が聞こえたのか聞こえなかったのか。
 トレイスは気にすることなく、感謝の気持ちか……と呟き、ペンを手にとる。
「それなら俺は兄に向けて書こうか」
「お兄さんがいるのね」
 その言葉に瞳を瞬いたレベッカは、初めて知る彼の家族のことに耳を傾けた。
 それに合わせ、赤色の髪がふわりと揺れる。
「とても素晴らしい人だった」
 そういう彼の口調はしんみりとしていて。
 そういえばどこか視線もさみしそうだ。
(もしかして……)
 その様子をみれば、もしかしたら亡くなっているのでは? と思い至り、何も言えず返事に詰まる。
 なんといえばいいだろう。
「どんな人なの?」
 葛藤を押し隠し、辛うじて言えば、さらさらと文字を書きながらも、兄のことを喋りはじめたトレイスは止まらない。
(これは……)
 語り口が本のことを語る時と同じだと察したレベッカは、ぐっと耐える。
 今は亡き人との思い出だと思えば、彼が喋るのを聞いていよう……そう思ったのだ。
 どのぐらい続くのかそれは誰にもわからない……。

 どのくらい時間がたったのか。
 いまだ手紙を書くこともせず話をきいていたレベッカは、次に紡がれた言葉に耳を疑った。
「この前届いた手紙だと今は南の方にいるらしい。すぐにどこかに行ってしまう人でな」
 出かけてしまうともうこちらからは全く連絡のしようがない。
 そんな風にさらに言われたのなど、耳に入ってこない。
 今まで自分が聞いていたのは一体なんだったのか。
「もう、ややこしい言い方しないで!」
 しんみりして損したわ……と脱力するレベッカを不思議そうに見るトレイス。
 すまないと素直に謝るけれど、彼女がなぜそんな状況なのかは理解できていない。
 無自覚な彼にまぁいいわ、と不幸な人などいなかったのだと思いなおし、さて、誰に書こうと頭を悩ます。
「家族相手でいいんじゃないか?」
 悩むレベッカへのアドバイス。
 硬くなる表情に、おや? とトレイスが瞳を瞬いた。
「家族は……いいわ」
 思い浮かんだ家族の思い出に、声が暗くなるのが分かる。
 それが分かっていても、どうすることも出来ず、話をそらすように視線を手紙へ向ける。
「仕事先の人にしておく、いつもお世話になってるし」
 この話はおしまい。
 彼女の拒絶を感じ取り、トレイスは唇を閉じた。
 そそくさと書きあげ、先へ向かうレベッカを黙って見送る。
「俺も結ぶか」
 書いた手紙を手に、椿たちが待つ場所へ歩きだす。
 トレイスがやってくれば、すでにレベッカは椿へ結んでいた。
 隣で同じように結べば、その気持ち、確かに受け取ったよ。
 とでもいうように、椿の枝がふるりと揺れるのだった。

 

 赤い椿と、結ばれた白い紙。
 視界いっぱいに広がる赤と白の光景を前に、メイアリーナ・ベルティスは淡く優しい桃色の瞳を瞬かせ、ほぅっと息を吐いた。
「この白い紙全てに感謝の気持ちが篭っているんですね」
 そう、ここにある手紙一つ一つが、すべて感謝の気持ちなのだ。
 こんなにも沢山の「感謝の気持ち」が目に見える形で表現されているのは圧巻だろう。
「なんだか素敵です」
 微笑むメイアリーナに頷きながらフィオン・バルツァーは圧巻だねぇとしみじみと呟く。
 そんな様子に笑みを深くし、メイアリーナは共に足を進めるのだった。
 受け取った白い紙。
 感謝を伝えたい人は沢山いるのだけれど、この白い手紙に書く人は決まっていた。
 天国に居る両親。
 その2人へ、感謝の気持ちを伝えるのだとメイアリーナはフィオンへ伝える。
 まだ若いのにえらいねぇと感嘆する様は、少々若年寄りのようだけれど。
 両親を思うメイアリーナに瞳を細めて頷きつつ、さて、自分も感謝の気持ちを書こうと筆を進めるのだった。
 メイアリーナは思いを込めて、文字を紡ぎ出す。
『いつもありがとう』
(きっといつも空から私の事を見守ってくれていると思うんです)
 今、こうやってフィオンと共に居て、日々を過ごしているのも見ていてくれているに違いない。
 だから、と視線を空へと向ける。
(だから私もしっかりと生きていかなくちゃ)
 でしょう? とそんな決意を胸に秘め、視線を戻し、フィオンへと声を掛ける。
「フィオンさんも書けましたか?」
「あぁ、書けたよ」
 笑みを浮かべ、書いた紙をメイアリーナへと見せる。
「いつも笑顔をありがとう」
 見せるだけでなく、そこに書かれた感謝の言葉を優しく、愛情を持って伝えて。
 その笑みと、言葉に瞳を瞬いたメイアリーナは、もしや私宛に? と驚く。
「私じゃなくて椿に向かって、ですよ!」
 作法を勘違いしていることを慌てて伝えれば、今度はフィオンが瞳を瞬いた。
「ああ。椿にだったね」
 勘違いしちゃったよ、とへらへら笑うフィオンに溜息をひとつ。
 それでも、きちんと手順を踏み始めた彼を見つめる。
 ありがとう、と伸ばした指先で枝に手紙を結びつける。
 感謝の気持ちをちゃんと聞いたわよ? とでも言うようにフィオンの顔の傍まで赤い椿がふれた。
 頬に触れる椿を瞳を細め受け入れた後。
「……届いた?」
 君に、ちゃんと。
 振り向き、じっと見詰められ視線が絡みあう。
「と、届いてます!」
 ぱっと顔が赤くなったのは、驚いたからだけだろうか。
 ペースを乱されつつも、自分も結ぼうとフィオンに譲られた場所へ移動する。
 結ばれた、フィオンの感謝の気持ち。
 その手紙の隣へと指先を伸ばす。
 あら、貴女も?
 そういうように椿の枝が揺れるのを捕まえて、しっかりと結びつける。
(ありがとう)
 恥ずかしいから心の中で感謝の気持ちを伝えて。
(色々と大変な事もありますが……)
 椿から空へ、そしてちらりとフィオンへと視線を送れば彼は静かに見守っていて。
 そして、再び椿へと視線を戻す。
(ちょっとそそっかしくて目が離せないけど……いい人です)
 ふっと笑みが口元に浮かぶ。
(だから安心してね)
 それは、とても優しい響きを持って両親へ伝わっただろう。
(私は毎日楽しく過ごしています)
 首から下げられた指輪が、よかったわ、と伝えるようにゆらりと揺れる。
 熱心に椿へ語りかけているメイアリーナを見守るフィオンは、一体何と伝えられているのかどきどきしていた。
 先ほど椿から空へ、そして自分へと視線が移動したのを見て、自分のことを報告されているのだろうと思ったのだ。
 嫌われてはいないと思うけれど……と小さく溜息を吐いて。
 まだ椿へ、いや、空に居る両親へと報告をしているメイアリーナを見つめ呟く。
(若い子はわかんないからなぁ)
 どこか途方にくれたようなフィオンを見て、椿たちが笑ったようだった。


 依頼も終わって帰路へつく途中。
 目に入った椿はなんとも不思議な椿だった。
 枝に結ばれた白い紙。
 それらは全て手紙で、感謝の気持ちが綴られているのだという。
 瞳を眇め、その光景を見つめるシリウス。
 そしてその隣では、リチェルカーレも美しさに息を飲んでいた。
 沢山の感謝の気持ちと椿の美しさに、優しい笑みを浮かべたリチェルカーレに、シリウスの表情も緩む。
「やってみない?」
 自然と出たその問いかけにシリウスが頷く。
 いらっしゃい、素敵な時間を!
 そういって渡された紙を受け取り、何も書かれていないそれを前にする。
「……相手に伝える……」 
 相手に感謝の気持ちを伝える。
 そう老人は2人へ説明をしていた。
 シリウスは小さく老人の言葉をささやき、そして自分が想いを伝えたい相手を見つめる。
 銀青色の髪を揺らし、さらさらと文字を書くリチェルカーレはそんなシリウスの視線に気が付き、どこか照れたように瞳を細めた。
 彼女が感謝を述べたい相手は、シリウス。
 この沢山の感謝の気持ちの中に、自分たちの想いも残したい。
 2人の間に漂う穏やかな空気に、ふるりと椿が待ってるわね? というように震えるのだった。


 結ばれた想いは、とても暖かい。
『側にいてくれて、ありがとう』
 ひたむきに真っ直ぐに。
 何のてらいもなく向けられる想いと笑顔が、どれほど自分を救ってくれているか、彼女はしらないだろう。
 指先をゆっくりと離す。
(知らなくても、いい)
 シリウスは、結び終えた手紙を静かに見詰め、そう思う。
(ただ願わくば、これからも側に)
 祈るように。
 そっと心の中で囁き、手紙から視線をリチェルカーレへ移せば、爪先立って紙を結ぼうとしていた。
 どこか不安定なその様子に、そっと近寄って行く。
 そうとは知らない彼女は、真剣だった。
『いつも護ってくれてありがとう』
 そんな風にシリウスへの感謝の気持ちを込めた手紙を、空に近い一番高い場所へ結びたくて。
 リチェルカーレは背伸びをしてどうにか枝に指先を掛ける。
「ほら」
 そんな指先にシリウスの指先が触れる。
 紙を取り上げられ、結ばれれば青と碧の瞳を瞬く。
 ぱっと浮かんだ笑顔はとても嬉しそう。
 まっすぐで、強くて……時折優しく輝く、大好きな翡翠の双眸。
 それを思い浮かべて瞳を伏せ、胸の前で指を組み、椿へ感謝の気持ちを伝える。
(いつもありがとう)
 見守ってくれている、彼へ届けて。
 そんな気持ちに、椿が任せてちょうだい! というようにふるりと揺れる。
「……」
 そっと瞳をあげれば、目があい、浮かぶのは照れたような笑み。
「……感謝してる」
 柔らかな笑顔を見つめ、シリウスは囁く。
 それは椿が揺れる音で聞こえなかったのか。
 リチェカーレが僅かに首を傾げるのに微笑みを浮かべ、さぁ行こう? と歩き出すのだった。

 暖かな紅茶が指先をじんわりと温めてくれる。
 紅茶を手に席に座り、リチェルカーレは飽きることなく椿とそしてそこに集まる「気持ち」を見つめていた。
「椿は冬に咲く花でしょう? 雪の中でも鮮やかに咲いて、春を待つの」
 だからかな、凛として綺麗な花よね。
 リチェルカーレが、花より綺麗に微笑みながらそう言う。
 椿をみる合間に紡ぐ話に耳を傾けるシリウスは、ふと疑問に思った。
「……そういえば 花言葉というのがあるんじゃないのか?」
 この花にはどんな意味が? という問いかけに、首を僅かに傾げたリチェルカーレ。
「花言葉? わたしがシリウスに言いたいこと、かなぁ」
 それは? というような視線に、頬を染めたリチェルカーレはふるふると首を振ってないしょ! と唇を開かない。
 不思議そうに見詰めてくるシリウスの視線から逃れるように、椿の方へ視線をやって。
 伝えなかった花言葉。
(私は常にあなたを愛します)
 シリウスがその花言葉の意味を知るのは、いつだろうか。
 くすくすとどこか楽しげに、椿たちはそんな2人を見守っている……。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 如月修羅
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月10日
出発日 11月16日 00:00
予定納品日 11月26日

参加者

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