【浄罪】雪の精と耐久×××(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 季節の境。人間たちが、ハロウィンというお祭りの賑わいも一段落させた頃。
木々たちはやれやれといった体か、あっという間にその姿を次の季節へと移り変える。
スノーウッドの森。都市タブロスのずっと北の地域、ノースガルドに広がる森がある。
そこの木々たちもまた雪化粧の準備を始め、前の季節まで無かった新たな自然を露わにした。

●雪の精のお洒落っ気。絆の温度変化に作用する?
 白を含んできた森の中、冬にしかその姿を現さないという「樹氷の迷宮」が今年も無事姿を見せたと、どこからともなく風の便りが届く。
昨今、オーガやギルティ、そしてその瘴気の影響を受け自然の姿を変える場所も少なくない。
当たり前の変化ですらホッとする人々もいた。
―― その樹氷内にすでに負の種、ギルティ・シードが植え付けられているとは知らずに。

 樹氷同士が密着し合い、自然の織りなす迷路と化しているのも観光場所となる所以だが
そこに住むという雪の精たちもまた、人間へ友好的な貴重な精とあって会いに来る者も少なくない。
いたずら好きで迷路に入った人を迷わせようと、看板をひっくり返したり偽物の道標を作ったりと時々困ったものでも
最後はちゃんと出口へと、気に入った人間には氷の宮殿へとまで案内してくれるという。
人の前に姿を見せる雪の精は人を好きな証かはたまた好奇心か、どこからか拾ってきたのか人の着なくなった服、とりわけ小さな子供の服をまとって楽しそうに宙を舞うのだと。

 そのように大抵の人間が知っている情報の下、まだ現れたばかりの樹氷の迷宮を休養や気分転換がてら訪れたウィンクルムたちが数組。
……何故かパートナーとはぐれてしまっている。
そして一様に神人の方はどこかプルプルと震えているような。そのそばを、嬉しそうに楽しそうに飛び交う雪の精が幾人か。
実況の雪の精Aさーん。……は喋れないので、神人さん誰かのそばへと寄ってみてくださーい。何か呟いているかもしれませーん。
そんな雪の精Aが神人から拾ってきた声たちがコチラ。
「それ気に入った? そ、そう……良かった……はっくしょん!」
「ちょっと待ってこれも欲しい? いえいえいえさすがにっ、私、寒いから!」
「無理ですごめんなさいこれはもらった大事な物であげられないです」

 どうやら毎年同じ洋服に身を包んだ雪の精の中に、新しい物、神人が身に付けている物を欲しがる精が出てきた模様。
優しく譲り渡したか、貸してあげるだけのつもりで渡したら取られてしまったか、手袋やマフラー帽子その他それぞれ神人が迷宮に入る前に付けていた物が今は無くなっている。
ここは樹氷の迷宮。まだ本格的に樹氷が成長する前とはいえ、タブロスに比べ格段に寒いのは確か。
雪の精から返してもらうか、パートナーを見つけ暖を取るか、早々に迷路から抜けるかしないと動けなくなってしまいそうだ。
神人たちは思い思いに行動をとり始めるのだった。

 その頃の精霊さんはというと ――
可愛らしい雪の精と戯れていたかと思えば、いつの間にかその姿を消していたマイパートナーに、慌てたりため息ついたり放っておこう出口で合流するだろうと歩き出したりと、各々動き出したとか。

解説

●防寒具を雪の精へ渡してしまった(かもしれない)神人。迷宮でパートナーと分かれ分かれになった所からスタート!
雪の精に渡した防寒具は任意でお好きに指定可。ほとんどを渡してしまったり、逆に説得して全く渡さずただ精霊さんとはぐれただけ、というのもOK。
雪の精から返してもらうのも勿論可(その場合、雪の精へどう語り掛け返してもらうか、プランにお書き下さい。)

神人さんは、寒さに震えながらパートナーである精霊さんを見つけ出口へ向かう流れ。
さて、寒いのを我慢して早く出口に向かおうか……
貸して!出たら返すから! とパートナーからコートを借りようか……
むしろ精霊さんが先に気付いて、ハグしたまま(温める意味で)歩き出すか……
手だけっ、手だけでいいからっ、と、どさくさに手を繋いでもらおうか……

●寒い所へ行くと張り切って防寒具を新調した(のになんてこった……) 1組様一律【500Jr】消費。

●雪の精
 普段は実体が無いが、人間の前に出る時だけ子供くらいの大きさで洋服を纏いオシャレして現れる。
 言葉は話せない。ジェスチャーや文字の読み書きは可能。

●ギルティ・シード
 タブロス、ノースガルドに撒かれた 「人間や動植物の負の感情を増幅する」 種。
 今回、樹氷の迷宮にその種があることは、ウィンクルムの皆様は知らぬ情報とします。
 余程大喧嘩などをしない限り、今回のエピソードに限り特に存在を意識しなくとも大丈夫です。
 『このウィンクルムさんたちなら自分たちと意思疎通出来そう……(どんな方法であれ)』 と雪の精が認識した場合、リザルト最後に雪の精が何かジェスチャーするかもしれません☆
(今回は種を見つけることが目的では無い為、雪の精のアクションの有無は【成功判定に影響はしません】)

※アドリブ大好きな当GMが、参加者様たちを迷路内で絡ませる可能性が無きにしも非ず。
 絡みNGな方はお手数ですが、プラン冒頭に【×】の記載だけお願い致します。

ゲームマスターより

無期限休止に入っていたはずのとんだホラ吹き自由人、お久しぶりですコンニチハ、ぁっ、初めまして! 蒼色クレヨンと申します。
今しかもう書けない! という執筆欲求MAXな発作が起こったので……1本だけっ、復活をっ、許してクダサイ!!(ヘコヘコヘコッ)

かなり自由度は高くなっていると思います。
耐久ハグ(暖の為)にするもよし
耐久おんぶ(暖の為)にするもよし!
耐久姫抱っこ(暖の為)にするもよし!
耐久寒波(互いの根性試し)にするもよし!

皆様の個性豊かなプランをお待ちしております☆

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

  手袋、マフラー、イヤーマフ
貸すつもりで渡したらプレゼントと思われた模様
意思の疎通って難しいです

寒さに手に息かけつつ
天藍はどこにいるのでしょう、心配していますよね
彼も探しているだろうから動いてしまうと行き違う可能性
寒さを凌ぐのに少しの距離を往復しつつ自分の中では頑張った大きさの声で彼の名を呼ぶ

天藍!?
あの、これはやりすぎ…
首に添えられた手と言葉に改めて彼に寄りかかる
…あったかいです

時間の経過と共に周囲が気になり始める
そろそろ出口に向かいませんか
…えっと
幸いコートの影で周囲には見えないはず
余裕たっぷりの天藍を少し驚かせたい所もあり掠めるようにキスを
後で自分の行動が恥ずかしくなり顔赤らめながら出口へ


夢路 希望(スノー・ラビット)
  マフラー
手袋


雪の精さんを見つけ
初めて見る嬉しさに彼と繋いでいた手を離し、先へ

わぁ…わぁ…可愛い…!
ん?なぁに?
「これが欲しいの?」
屈み、マフラーをかけ手袋をはめ
喜ぶ姿を見て和み微笑む
ふふ、可愛い…ね、スノーくん
「…スノーくん?」
…いない…もしかして、私、はぐれた…?

辺りを探すけど見つからず
寒くなってきたけど、あんなに喜んでくれたのに返してなんて言えなくて
(どうして、離しちゃったんだろう…)
しょんぼりと掌を見つめていると突然抱きしめられ
驚いたけれど彼で安堵
…心配かけて、ごめんなさい

あ…その、雪の精さんが気に入ったみたいで…
「くしゅんっ」
え?…あの…スノー、くん…は、恥ずかしいです…
視線感じて赤面


ひろの(ルシエロ=ザガン)
  (貸したつもりでほぼ渡した
「コートは返してほしい。このままじゃ風邪引くから」(眉が下がる

寒い。早く帰ってあったまりたい。
出口なら、ルシェいるかな。(ルシェと出口を探す
懐炉持って来たけど、冷えたからこれじゃ足りない。
……。(寒さと迷子の独りぼっち感で泣きそう
(自分より薄着の人に懐炉を貸す

「ルシェ」(見つけてほっとする
「雪の精が着たいっていうから、貸したんだけど」
何でコート。「!?」(一瞬思考が停止、慌てて離れようとする
「だって、」ルシェが冷える。
……あったかい。(力を抜く

「ルシェ、手」
どうしよう。こういうの、普通なの?(羞恥で混乱

誰かに見られたら:
恥ずかしさで隠れようと、顔を伏せてよりくっつく。


ユラ(ハイネ・ハリス)
  コートのみ死守
寒い…死ぬ…は、ハイネさん…どこ行ったのかな…(ぶるぶる
……いいや、出口に向かってればそのうち会えるよね

(見つけたら全速力で駆け寄る
ハイネさん、お願い!脱いで!
後で返すから、なんか貸して!
じゃあ抱いて?!
寒いの、ハグでいいから暖とらせて!
この状況でそんなもの気にしてる余裕がない!!

ほぅ…あったかい
雪の精、可愛かったからつい…
(あ、ハイネさんの匂いがする
なんの香りだろう?香水?それとも体臭かなぁ…落ち着くなぁ)

ひゃあぁぁ?!!なに?!
あるよ!感覚ないのは指先だけだよ?!
あったまってはないけど、寒さは吹っ飛んだかな…(驚きで
うぅ、もういい…はぁ~何か熱でそう
ハイネさん冷たい…


●雪の精 迷子の神人さんたちを見守る

「わぁ……わぁ……可愛い……! ん? なぁに? これが欲しいの?」

 夢路 希望 は初めて見る雪の精にすっかり目を奪われて、その後を追っていた。
なにかを一生懸命ジェスチャーしていた雪の精、察してくれた希望の言葉に こくこく☆
まん丸雪頭が頷くのを見ると、希望は微笑んで自らのマフラーと手袋を付けてやった。
マフラーはためかせ、踊るように喜び宙を飛ぶ雪の精が本当に可愛くて綻ぶ頬。
一緒に見れて良かったと、当然傍にいると思っていた大切な人の名前を呼ぶ。

「ふふ、可愛い……ね、スノーくん」

 いつもならすぐに、そうだね、とか、ノゾミさんの方が可愛いけどね、なんて言葉が返ってくるのに
どんなに待っても、時々冷気が氷の道を通る微かな音しか耳に届かない。

「……スノーくん?」

 ……いない……もしかして、私、はぐれた……?
そういえば、繋いでいた手からすっかり温かさが無くなっている。はぐれてから暫く経っているのかもしれない。
(どうして、離しちゃったんだろう……)
1人になってしまったのを意識し出した途端、心も体も急に寒さを感じた。
少し辺りを探してみるが人影は見当たらない。
指先が早くも動かなくなってきて、思わず希望はまだ宙を舞う雪の精が身に着けた、自分の手袋を見つめた。
しかしその視線をすぐに外す。
雪の精が喜んでいるのがとても伝わってきて。返してなんて言えない、言いたくなくて……。

◇ ◇ ◇

 ひろの は求められるがままに防寒具のほとんどを雪の精に渡す。『貸したつもり』で。
するとどうだろう。予想通り喜んではくれたものの、一向に返してくれる気配が無い。
以前に、雪の精の仲間をオーガ化から救えなかった事がふと思い出され、とても喜んでいる空気を壊す気になれなくて。
確か前の雪の精はこうして……と、ひろのは伝えたい言葉を探りながら、氷の道を覆う粉雪の上に指で字を書いた。

『コートは返してほしい。このままじゃ風邪引くから』

 すい~っと下りてきた雪の精。
文字と、眉が下がったひろのの顔を交互にみつめてから、こっくんと大きく頷きダッフルコートをひろのの手へと戻してくれた。
(寒い。早く帰ってあったまりたい)
冷たい空気が首や手からじわじわと浸透して芯を冷やしてくる。
ポケットに入れていた懐炉を取り出す。しかしすでに冷え切った指先に血を通わせるには、小さな懐炉だけでは足りなかった。
出口なら、ルシェいるかな……どっちだろう……。
寒さと迷子の孤独感がひろのを襲う。
じわり、と滲んできた視界に突如人影が飛び込んできた。

「!?」
「わ! ……あ、あれ、ひろのちゃん?」

 ウィンクルムの仲間であるユラの声と姿に、跳ね上がった心拍を落ち着かせる。
見るとユラもコートだけ羽織っただけの薄着で、小刻みに震えていた。
『雪の精にも困ったものだねー……くっしゃん!』と唇震わせるユラ。
ひろのは、握っていた懐炉をユラへ差し出した。

「え? へ、平気平気。それはひろのちゃんのでぷっしゅん!」
「……私、もう一個、あるので」
「……本当? じゃあ……お言葉に甘えよう、かな」

 寒さに勝てず受け取ったユラからたくさんのお礼の言葉をもらって、互いのパートナーを見つけるべく手を振り別れる。
ひろのはまた歩み出した。カラッポのポケットに手を入れながら。

◇ ◇ ◇

 手袋、マフラー、イヤーマフ。
シックな大人っぽいデザインのそれらをまとい、大喜びで向こうを飛んでいた仲間に見せびらかしに去っていく雪の精を
困ったように肩を落としつつも、 かのん は止めずに見送った。
付けてみますか? と笑顔で貸したつもりだったのが、雪の精の中ではプレゼント扱いに変換されていたらしく。
(意思の疎通って難しいです)
人同士ですら時にそれは難しい。
それが妖精相手では仕方ないかと、かのんは嬉しそうな後ろ姿に小さく笑んでからはたと周囲を見渡した。
(天藍はどこにいるのでしょう、心配していますよね)
少し夢中で雪の精を追いかけすぎたと、恋人の顔を思い浮かべ罪悪感を感じながら。
それでも、きっと自分を探してくれていると信じられるから、行き違う可能性は減らしたい。
寒さを誤魔化す為に僅かな距離を何度も往復しながら、素になった両手に吹きかける息がただ白く消えていくのを見つめた。
ふと、いつかもこんなふうに冷えた自分の手に、息を吹きかけていた事を思い出す。
暫く逡巡した後、普段のかのんにしては珍しいくらいの大きさで、愛しい人の名を樹氷の中へと響かせた ――。

◇ ◇ ◇

 雪の精にぺこぺこ頭を下げ、必死に訴えている最中のこちらは ユラ。すでにその恰好から、マフラーや手袋が消えている。

「ごめんっ本当に! でもお願い、これだけは、これだけは後生だから勘弁して……」

 伝わったのは神人の内なる力、心意気か。
素直にコートは諦めてくれた様子の雪の精に心底安堵してから、冷え切った自分の体といなくなった連れの存在に気付く。
(寒い……死ぬ……は、ハイネさん……どこ行ったのかな……)
少しでも体を動かし温めようと、足早に道を選び進んでいくもぶるぶる震える生理現象は治まる気配をみせない。
……いいや、出口に向かってればそのうち会えるよね。ハイネさんもなんだか同じこと考えていそうな気もするし。
途中、ひろのよりもらった懐炉を命綱とばかりに両手で握りしめながら、ユラはひたすら出口を目指した。

●雪の精 絆の覗き見をする

 しばし呆然と、先程まで感じていた愛しい人の温もり残る手を、スノー・ラビットは見つめる 。
自分といる時に雪の精と楽しそうにはしゃぐ彼女の姿に、ちょっとばかりやきもち焼いて目を逸らしたばかりに……。
いつの間にか見失ってしまった。
(どこに行ったんだろう……早く見つけなきゃ)
分かれ道を横切った所で、視界に炎のような長い髪が映った。同じ精霊である、ルシエロ=ザガンである。
来てたのか、久しぶり、と簡単な挨拶をすませ。

「「ちょうど いい」 よかった」

 ………。

「 「オレのヒロノ」 「僕のノゾミさん」を見なかった(か)?」

 大変効率の良い最低限の会話にて、お互いの状況をすぐさま理解できた瞬間である。
居たら知らせるね、早く見つかるとよい、と苦笑いの後再び別々の道へと行く。
人との会話の後には氷の静けさが殊更胸に沁みる気がして、スノーの心に一抹の不安を生ませる。
(ノゾミさん、僕とはぐれたことに気付いてるかな……)
もしかしてまだ……
首を振ってマイナス思考を追い払う。

「ノゾミさーん!」

 希望を湧かせる呪文のように、その名前を繰り返した。
そうして3度目の角を曲がった時、名に込められた思いが形となってスノーの瞳に捉えられる。
―― 見つけた。
しょんぼりとした小さな背中。
繋いでいた方の掌を見つめ俯く姿から、自分とはぐれた事に気付いてくれていた、寂しがってくれていた事が伝わってきて。
たまらずにその足は駆け出していた。

「っひゃ!?」

 声をかけるより先にその背中を抱きしめると、驚いた声と冷え切った体温がスノーの五感に伝えられる。
どうしてこんなに冷たいの? と問うた言葉に、まだ驚いた表情の希望から説明がなされた。

「そっか……可愛かったから少し残念だけど。でもそれがノゾミさんだものね」
「……心配かけて、ごめんなさい」

 自ら手を離してしまった後悔で、まだ希望の顔には憂いが残っているものの
会いたかった人の存在感を背中からこれでもかと感じて、次第にその表情には安堵の色が広がった。
が、次に耳元で囁かれた言葉に二度目の驚き顔が浮かぶ。

「じゃあ、僕が代わりに温めてあげる」
「え? いいいえっ大丈夫で……くしゅんっ」
「ほら」

 自身のボア付きニットカーディガンのボタンを外す。
前を開いたかと思うと、くるりと彼女の体を反転させそのままポスンッ。
カーディガンで包むように抱きしめ、冷え切った手をぎゅっと握った。

「……あの……スノー、くん……は、恥ずかしいです……」

 希望が先に気付く。つららの影から覗く雪の精に。
すっかり赤面している希望の視線を追ってスノーもすぐに気付くと、にっこりと笑顔を向けた。
ノゾミさんだけは、あげないよ。
マフラーや手袋だけじゃなく、ただでさえ一緒にいる時間を少しといっても取られちゃったのだから。
出口までは……いいや、これからだってずっと、ね ――。
スノーの強く温かい想いにとけた香りが、緩やかに甘さへと変化し希望を優しく包み込むのだった。

◇ ◇ ◇
 
 ほんの僅か、樹氷の美しさに目を離した隙に、まさかヒロノを見失うとは。
ルシエロ=ザガンは、自身の不覚ぶりに舌打ちをしてひろのを探していた。
途中仲間に出くわしたが、向こうも神人を探しているようで、ひろのの事は見ていないようだった。
何かに引き寄せられるように、ルシエロの足は分かれ道で止まることなく進み続ける。
分かるまで何度だって言うぞ。
オレを呼べヒロノ……オレの居る所がお前の居場所、お前の居る所がオレの居場所なのだから。

「……ルシェ?」

 それはひろのがしている指輪の謂れ ―― 
氷の精が心打たれた想いと同じ想いが伝わったからだろうか。冷たかったはずの指の一つに熱を感じて首を傾げるひろの。
指輪を見た瞬間、呼ばれた気がして……無意識にその名を口にした。
絆が交わった瞬間、二人は邂逅を果たす。

「見つけた」
「ルシェ」

 変わらぬ力強い瞳と出会えば、ひろのはほっと息を吐いた。
転んだりなどして怪我は無いか、一通り一瞥した後ルシエロは疑問を口にする。

「防寒具はどうした」
「その、雪の精が着たいっていうから、貸したんだけど」

 かくかくしかじか。

「懐炉を持ってきていたはずだろう。使わなかったのか」
「えっと、実は……」
「………」

 恐々続けられた説明。全てにおいてひろのらしい、とルシエロは溜息をつくに留めそれ以上の説明を促しはしなかった。
己のコートの前を開くと、ひろのの真正面に立てば有無を言わせずそのままコートで包み抱きしめる。

「!?」

 全身に突如広がった温もり。一瞬何が起きたのか分からず停止したひろのだが
徐々に離れようと身じろぎをする。当然その程度で離すルシエロでは無い。

「寒いんだろう? 大人しくしろ」
「だって、」
「これぐらい何ともない」

 ルシェが寒い、そう見上げる瞳を受け止め先回りで一蹴した。
折角の機会だ。誰が逃すか。
ひろのの許容範囲を了承した上での据え膳は頂くディアボロ様である。
……あったかい。
いつも通りな、強引でいてその中に自分への優しさを感じ取れば、ひろのの肩から次第に力が抜けた。

「少しは体温が戻ったか。ならば早く出口へ向かうぞ」

 自分が持っていた懐炉をひろのの手に握らせると、もう片方の手を自身のコートのポケットへ入れる。しっかりと握ったまま。

「ルシェ、手」

 あたたかい、けど……どうしよう。こういうの、普通なの?
まだ芽生えたばかりの想いに、恥ずかしさや嬉しさ、そして混乱がいっぺんに押し寄せ、ひろのの頭はまとまらない。
その隣りで、どこか以前と変化したそんなひろのを見つめる熱のこもった瞳が細められるのだった。

◇ ◇ ◇

 ―― 子供じゃあるまいし、出口に向かえばそのうち見つかるだろう。
伊達にパートナーではないユラのカンは的中していた。
探すの面倒だし……とハイネは適当な方向を定め、すぐに歩み出していた。
二人が早々に出口という同じ目標に向かったおかげか、ユラは時間にすれば意外と早くに、ハイネの後ろ姿をみつける事が出来た。
それでも凍えそうなユラにとっては長い時間に感じたわけで。

「ハイネさん、お願い! 脱いで!」
「は、何で?」

 ざかざかざかーっと全力疾走の音が背後からして振り返ってみると、ハイネはユラがまさにこちらへ駆けてくるのが見えた。
あ、無事だ。良かった良かった、と思っていたハイネへ開口一番にユラの口から放たれた台詞に、さすがのハイネも面食らう。

「後で返すから、なんか貸して!」
「あぁそういう意味……。嫌だよ、脱いだら僕だって寒い」

 肩を震わせ続いた言葉でようやく合点がいった。
いつも通りのペース返答がお見舞いされる。そして応酬となる。

「じゃあ抱いて?!」
「抱いっ……」
「寒いの、ハグでいいから暖とらせて!」
「さっきから君は恥じらいというものを持ってないのか?」
「この状況でそんなもの気にしてる余裕がない!!」
「……はぁ仕方ないな、ほらおいで」

 寒さによって段々鬼気迫ってきたユラの押しっぷりに、彼女が予想以上に追い詰められているのを感じれば
溜息をついてハイネは了承した。
広げられた腕の中へ突進もとい抱き付くユラ。
(ほぅ……あったかい)
コート越しに感じる温もりへと頬を押し付けると、仄かに甘い香りが鼻腔をかすめる。
(あ、ハイネさんの匂いがする。なんの香りだろう? 香水? それとも体臭かなぁ……)
小さな橙花を思わせる香りの中に、どこか懐かしさを感じさせる匂いも混じっている気がして、それは次第にユラの心を落ち着かせた。
表情は和らいだものの、まだ震えるその背中を温まるようさすってやれば体温を全く感じず、ハイネは眉をしかめる。

「つめた……全く何でこんな事になったの」
「雪の精、可愛かったからつい……」

 『つい』で凍え死ぬ気だったのかと息に呆れを交えながら。
(それにしても……こんな簡単に男に触られるなんて、ちょっと無防備すぎじゃない?)
お人好しに加えての現在進行形のユラの行動に、ふつふつ湧き上がる悪戯心。少しは反省とか思い知ってもいいんじゃない?

ふぅぅっ

「ひゃあぁぁ?!! なに?!」

 ハイネの胸にうずめられていた顔が、奇声を上げながらバッと離される。
片耳をおさえたユラ、先程までのとは違った種類の震えに陥って何事かと問うも、本人に全く悪びれは無い。

「いや、感覚ないのかと思って」
「あるよ!感覚ないのは指先だけだよ?!」
「でもいい感じに暖まっただろう?」
「あったまってはないけど、寒さは吹っ飛んだかな……」

 驚き過ぎて、とグッタリ気味のユラにはやはりしれっとした返答のみが返される。
 
「そう、ならまた寒くなる前に出ようか。……それとも、もっとくっついていたい?」

 ニヤリ。
……やる。ハイネさんならまた何かやる。
ユラ、脱力しながら そそそ、と温もりから離れた。

「うぅ、もういい……はぁ~何か熱でそう」
「風邪ひいても僕にうつさないでね」 
「ハイネさん冷たい……」
「とはいえ、本当に熱なんか出されたら僕のせいみたいで寝覚め悪いし。むしろなるべくひかないで」

 歩きにくそうにしつつも自分の肩を温めるように抱いたまま、移動を始めるハイネの心遣いは察するも
ユラの心に、切なさという名の一陣の寒風が吹いたとか。

◇ ◇ ◇

 ―― かのんどこに行った?
動揺しそうになる心を自ら落ち着かせるように天藍は深呼吸をする。
目を離したのはほんの僅かだ、そう距離は離れていないはず……大丈夫だ、見つけられる。
気配を探りながら駆け出してすぐに、曲がり角の向こうに気配があることに気付いた。愛しさ溢れる気配が。
ずっと二人で築き上げてきた絆と通わせてきた心同士が、強く惹き合わせるように。
そうしてすぐに天藍の耳に、自分を求めてくれる澄んだ声が届けられた。
全速力で自分へと向かってくる天藍の姿を捉えれば、かのんは笑顔で出迎える。
息で温めようと重ねられたその口元にあった両手を、天藍は真っ先に握りしめた。

「すまない、見失ってしまって……かのん?」
「あ、いいえ。ちょっと思い出して」

 以前にも、自分の手を温めてくれた展望台での事を。
変わらずまたこうして、必ず隣に来てくれると信じられたから不安には感じなかったと。
告げるかのんに一瞬目を丸くするも、天藍の脳裏にも思い出される。
何があってもかのんを見つけられるようになれるか……そう抱いていた当時の自分を。
けれど今は、もうそんな不安にかられる事はない。ハッキリとそう言えるのは成長の証。
こうして自分では気づかない変化をさり気なく口にしてくれるかのんに、愛しさをまた一つ募らせた。

「全くかのんには敵わない。とはいえ、まずは温めるのが先だな」
「? 何の事で……天藍!?」

 かのんの全身がすっぽりと、天藍の開かれたコートの中へと流れる動作で抱き寄せられた。
呆気に取られている間に、自身の手袋を脱げば天藍はその冷え切った頬や首筋へと触れる。

「あの、これはやりすぎ……」
「こんなに冷えているのに離せるはずがないだろう」

 思っていたより冷えていたのだと、与えられる温もりと言葉から感じて、その身をそっと寄りかからせた。
(……あったかいです)
温めている間にかのんから防寒具を失くした経緯を聞けば、天藍は苦笑いを浮かべる。

「かのんらしいな」
「可愛らしく似合っていたので、取り返すのも忍びなくて。……あの、天藍、」
「ん?」
「そろそろ出口へ向かいませんか?」

 体に血が巡り、本来の思考が戻ってきたようで落ち着かなそうに辺りを見渡すかのん。
そういえば自分たち以外にもここへやって来ているような気配を、途中感じた。
この態勢を誰かに見られたら、と恥ずかしがるかのんの思考に天藍も気付く。が、彼にとってはもったない状況でもある。

「見つけた御褒美くれるなら考えても良い」
「……えっと」

 冗談半分、本気半分でそう口にされると、真面目なかのんは天藍の腕の中で考え込む。
ちらりと目配せすると余裕そうな天藍の顔。
(いつも私ばかり動揺している気がしますし……)
幸いコートの影で周囲には見えないはず……
彼の驚いた表情を引き出したい。そんな愛しい人への欲がかのんを動かした。
背伸びしたと思うと、弧を描いていた口元へ掠めるようにキスを落とした。
意表をつかれたとばかりに天藍の目が丸くなる。それを見とめれば、にっこりとかのんは微笑んだ。

「……やられたな」
「ふふ。では行きましょうか」
「待った。これを」

 自身のマフラーと左手の手袋をかのんへと渡してから、その左手とかのんの右手を繋いでコートのポケットへ。

「これなら手袋無くても温かいだろう」
「ありがとうございます」

 照れつつも満足げなかのんであるが、彼女以上にご満悦なのは実は天藍の胸中であったり。
(とはいえ……今日はやられっぱなしだしな)
天藍氏、こっそり何か思案中。
ちなみに、かのんが自分の行動を思い返して羞恥で顔を赤らめるのはあと数秒後……――。


 出口付近でばったりと、かのんと天藍、ひろのとルシエロが対面した。
見事に互いに、パートナーのポケットインで手を繋いているという同じ状況である。
見られた恥ずかしさですっかり顔を赤く熟れさせて、それぞれの隠れ場(=ルシエロ、天藍)へ身を寄せ顔を隠すひろのとかのん。
反面、一向に気にする気配なく挨拶を交わすルシエロ。出口までの最後の細い道を、お先にどうぞと譲る天藍。
身を縮こませたひろのを慰めるよう更にしっかり己へと寄せさせるルシエロだが、実際はただあと少しな道のりとなったこの状況を楽しんでいるだけかもしれない。
早く……出口着いて……
ひろのにとって耐久となったのは言うまでもない。

「後ろから行けば、見られることを気にしなくていいだろう」
「そ、そうですね」

 恥ずかしがった自分を気遣ってくれたのかと、かのんがお礼を述べそうになった矢先。
こういう事をしても見られないしな、と強く引っ張られた瞬間その額に唇を触れさせてきた天藍の行動に、かのんの口はぱくぱく動くのみだった。
しかして。
先を行く2組の更に後方の道に、バッチリ見た、と頬を染めた希望とユラがいたり。
『僕もしていい?』と尋ねてくるスノーに、今は無理ですっ、と必死に抵抗する希望。
『何で顔赤くしてるのさ。まさかもう熱?』 『いいの気にしないでー……』 とすれ違う反応なハイネとユラ。
神人さんたち各々の耐久羞恥心となったようだ。

 そんなウィンクルムたち全員の後ろ姿を見送った雪の精たち。
嬉しそうに、出口の足元……氷の下を覗き込んだ。
そこにはかつて瘴気を振りまいていた種が、今は枯れて砕けた姿で次第に氷の中へと吸収されていくのだった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:ひろの
呼び名:ヒロノ
  名前:ルシエロ=ザガン
呼び名:ルシェ

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: シラユキ  )


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 11月01日
出発日 11月07日 00:00
予定納品日 11月17日

参加者

会議室

  • [5]かのん

    2016/11/06-21:35 

  • [4]夢路 希望

    2016/11/06-15:45 

  • [3]かのん

    2016/11/05-23:16 

    こんにちは、かのんです……寒いですね
    (手に息ふきかけつつ)
    さっきまで天藍と一緒だったのですけれど……はぐれてしまいました

    よろしくお願いします

  • [2]ユラ

    2016/11/04-21:51 

    どうも、ユラで……くしゃんっ!!
    うーー寒い。よろしくお願いします。

    早くハイネさんと合流しないと凍死しそう……
    って、まさか私を置いて出口に行ったりしてないよね?!

  • [1]ひろの

    2016/11/04-21:15 

    ひろの、です。
    よろしく、お願いします。へくしっ

    さむい……。
    ルシェ、どこだろ。(腕をさする


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