君だから知りたいこと(北乃わかめ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 とんとんとん、とリズミカルに野菜を刻んでいく。それを目で追うのは、となりに立つパートナー。
 じぃ、と手元を見つめるパートナーに、あなたは少しの気まずさを感じていた。

「……そんなに見られると、なんか緊張するんだけど」
「気にするな」
「そう言われても……」

 そういうことじゃないんだよなぁ、と思うものの、動こうとしないパートナーは変わらずあなたの手元を見ている。何を言っても無駄だろうと判断し、あなたは『料理』を再開した。
 以前、パートナーに手料理を振る舞ったことがある。それを思い出したらしいパートナーが、突然「料理を作ってくれ」と言ってきたのだ。

「見てるだけで面白い?」
「あぁ」
「好き嫌いは無かったっけ?」
「あぁ」
「そっかー……」

 気まずさから逃げるように会話をしようと試みるが、パートナーにその気がないのか会話が続かない。
 何を言っても反応の薄いパートナーに、いよいよ困り果てたとき。ふと、彼の視線が手元にばかり集中していることに気づいた。

「あのさ、ちょっとやってみる?」
「!!」

 バッと顔を上げたパートナーは驚いた様子だったが、どこか期待に満ちた目をしている。まるで、キッチンでのお手伝いを許可された子どものようだ。

「君が料理しているところ、見たことないしね。一緒にやってみようよ」
「……あぁ」

 態度こそぶっきらぼうではあるが、包丁を持ったパートナーはそれだけで得意げな顔をしていた。

「お、教えて、くれないか……」
「ん?」
「お前、料理するときは楽しそうだっただろう」

 だから、知りたい、と。
 君に作るためだったからだよ、なんて言いかけたが、ぐっと堪える。普段、人から教わろうなんて一切口にしない頑固なパートナーが、初めて『お願い』をしたのだ。
 ひとまず、そわそわと待ち遠しそうにするパートナーのために、まずは包丁の持ち方から教えてあげるとしよう。

解説

 相手が得意なこと・好きなことを教わってみましょう。

・自分が得意または好きなことを、パートナーに教える。
・パートナーが得意または好きなことを教わる。

 どちらかの内容でお願いします。

 プロローグでは料理を教える形になっておりますが、もちろん料理以外でも構いません。シチュエーションにも特に制限はありません。
 戦う姿がかっこいいから、剣術や戦術を教わる。
 相手の趣味に興味があるから、どこが好きなのか教えてもらう。
 学生ならば、相手に得意科目を教わるというのもいいかもしれません。

 何だか楽しそうだから、自分もちょっとやってみたいなー、知りたいなー。そんなエピソードです。


※個別描写となります。
※3時のおやつ代として300jr消費します。

ゲームマスターより

いつもお世話になっております。北乃わかめです。
誰かが美味しく食べているものは、きっと美味しいんだろうと常日頃から思っています。
そんな食い気とは少し異なりますが、パートナーの好きなもの・ことを共有するエピソードとなっておりますので、皆さまの愛を深めていただければと思います。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

信城いつき(レーゲン)

  レーゲン…大丈夫だって。ちょっと手首の筋違えただけなんだから

えっとタマネギとピーマンあるし冷蔵庫に鶏肉もあるから
オムライスにしようか、これなら難しくないよ

まず野菜切ってね
そこまで大きさそろえなくても大丈夫だよ。
レーゲンらしいね
頑張ってる姿がちょっとかわいいかも(くすくす)

野菜と鶏肉炒めてケチャップ入れて
水分をばしてからご飯入れた方がべちゃっとしないよ

本当はふんわり焼いた卵のっけて、
卵切ったら半熟卵がふわっと広がるのやりたいんだけど…なかなか成功しなくって
あ、レーゲンできた!……俺を越えちゃった

美味しいね。卵もふんわりしてるし
俺こそ美味しいご飯ありがとう
今度からオムライスはレーゲン作ってね!


鳥飼(鴉)
  鴉さん、今日は時間ありますか?
僕に手当の仕方を教えてほしいんです。(自宅へ移動

手当できる人は、一人でも多いほうがいいと思ったんです。
誰も怪我をしないのが一番ですけど、オーガと戦ってる限りそういうわけにいかないですし。
そうじゃなくても、いつどこで怪我するかわかりませんから。

はい、お願いします。(左腕を捲り、差し出す
そういえば、僕が鴉さんに包帯を巻いて貰うのは初めてですね。
ふふ、なんだか嬉しくて。
それは、そうですけど。
はい。気をつけます。(言外に、その時は治療すると言ってくれて嬉しい

次は僕の番ですね。
鴉さん、腕を貸してもらえますか?
転がすように巻く。こうでしょうか。

また教えてもらってもいいですか?


ユズリノ(シャーマイン)
  夕食のクリームシチュー作り
手伝うって言われびっくり
おつまみの盛り付けなんかは手伝ってくれる事あるけど
料理作る感じの人ではないしと思ってたら言われてやっぱり(笑

慣れてない人はこれだねとピーラーを渡しイモの皮むきをしてもらう
自分はナイフで皮むき
たまに手つきを見てやる
「ん? だって楽しいよ 都は食材が豊かだし レシピもよりどりみどりだし
 何でも作っていいって幸せ!

他の具材も切り方を教えて一緒に準備 鍋で具材炒めるの任せたり
「当たり前の作業だから気にした事ないかも

煮る鍋の隣でベシャメルソース作りながら
「大げさだよ 僕はこんなに自由に料理が出来る環境に居させて貰えて感謝してるんだから

「僕も 一緒に食べてくれてありがと


カイエル・シェナー(イヴァエル)
  今兄が住んでいるという邸に顔を出した
此方の為に用意したという自室を曖昧に断りつつも、複雑な胸中で眺めていたら兄に来客が
帰りそびれた
無言で帰る訳にもいかない

上機嫌で客が帰る
部屋に向かえば途端に気だるそうな兄の姿
「兄様…何か…」
以前にも兄が客と話しているのを見たが、凛々しく丁寧だった
同じく話術を覚えたら依頼に有利になるだろうか?
「あ…兄様…
兄様は、どうやってその様な交渉術を覚えたのか?」

思わず兄の言葉に耳を傾ける
並べられた言葉の終わりに一つ言われた
『これら全てが巧い者は疑え。目的無しにそれを行う人間などいない』

深く納得し頷く
言い返せない駄目出しが悔しいが

緊張し兄の手に触れ返した
この手は…心臓に悪い


●あったかい手料理

「~♪」

 例えば、バイトが早く終わった日。もしくは、たまの休みの日。時折キッチンから聞こえてくるユズリノの鼻歌に、シャーマインの耳がぴくりと揺れた。
 日が傾き出した時分、ユズリノはキッチンに立ち夕食の準備を始める。シャーマインが帰ってくる時間に合わせて出来上がるそれは、毎日のことながらとても美味しい。
 いつもなら完成品を堪能するだけだが、ふと好奇心に駆られたシャーマインはユズリノがいるキッチンへ足を踏み入れた。

「――手伝おうか?」
「えっ!?」

 シャーマインの申し出に、ジャガイモの皮むきをしていたユズリノの肩が大げさに跳ねた。真ん丸な瞳が、シャーマインを見上げる。

(おつまみの盛り付けなんかは手伝ってくれる事あるけど……)

 料理作る感じの人ではないし……と思い、「料理したことあるの?」と聞いてみる。居候として一緒に住むようになってから、シャーマインが料理するところを見たことがなかったのだ。

「自慢じゃないがやった事が無い。どうすればいいんだ?」

 案の定、思った通りの答えが返ってきて、ユズリノはふっと笑ってしまった。それでも、学ぼうとしている姿勢が嬉しくて、キッチンの引き出しからピーラーを取り出す。

「慣れてない人はこれだね。ジャガイモの皮、むいてくれる?」
「わ、わかった」
「手切らないようにね?」

 ごろごろとボウルの中にあるジャガイモをひとつ渡すと、シャーマインは神妙な顔で皮むきを始めた。そのとなりで、ユズリノも皮むきを再開する。
 体の大きいシャーマインだが、今は少し猫背になりながらぎこちない手つきで皮むきをしている。それがなんだか可愛くて、ユズリノはこっそり微笑んだ。
 手慣れたもので、シャーマインが苦戦している横でユズリノはするすると皮むきをしていた。止まることなく滑っていく手つきは華麗で、細い指が何とも色っぽく見えて――

(――いかん、何を考えている)
「リノは随分楽しそうに料理をするんだな」

 邪な考えを振り払うように、シャーマインは指先から目を逸らす。

「ん? だって楽しいよ。都は食材が豊かだし、レシピもよりどりみどりだし。何でも作っていいって幸せ!」
「そうか」

 ユズリノの声も表情も本当に幸せそうで、シャーマインは自然と頬が緩むのを感じていた。
 ジャガイモの他にも、ニンジンや玉ねぎ、ブロッコリーなども切り終え、それらを鍋に入れて炒めていく。程よく炒め終えると、そこに水を加えて今度はぐつぐつと煮始めた。鍋をシャーマインに見てもらいつつ、ユズリノはとなりでベシャメルソースを作っていく。

「手間を苦に感じないのか?」
「んー……当たり前の作業だから、気にした事ないかも」

 焦げないよう時々鍋を混ぜながら、シャーマインが問う。というのも、ここまでの作業でやや面倒臭さを感じていたのだ。普段料理などほとんどしないのだから、そう思うのもしょうがない。
 だけどユズリノにとって、シャーマインに料理を振る舞うことは日常の中に組み込まれている事項だ。何を作ろうか考えるのも、美味しくなるように工夫を凝らすのも、美味しいと言ってほしいがため。疎かにした方が、逆に苦しくなってしまう。

「尊敬する」
「大げさだよ」

 そんなユズリノの言葉を受け止め、シャーマインは改めて自身のパートナーの偉大さを感じていた。労いの言葉に、ユズリノは眉を下げて笑う。

「僕は、こんなに自由に料理が出来る環境に居させて貰えて、感謝してるんだから」

 『自由』。その言葉を聞いて、以前ユズリノが語ってくれた過去を思い出していた。
 抑圧された環境故に、きっとこんな風に笑顔で料理をすることなどできなかったのだろう。穏やかに食事を共にすることなど、なかったのだろう。
 そう思うと、自由を満喫していることがただただ、素直に嬉しかった。

 完成したクリームシチューを堪能しながら、正面に座るユズリノを盗み見る。ほの暗さの感じられないその姿に安堵し、シャーマインは美味しいシチューを完食した。

「美味かった。リノは偉大だ、いつもありがとな」
「――僕も。一緒に食べてくれてありがと」

 なんてことない夜。二人で協力して作ったシチューは、なんだかいつもより特別に思えて。
こうして笑い合えることこそ幸せなのだと、お互いに実感する日となった。



●身に纏う話術
 その日、カイエル・シェナーは今現在、兄であるイヴァエルが住んでいるという邸に顔を出した。今まで任務を断り続けてきたイヴァエルが、突然任務を受けるようになったのである。
 ひとまず挨拶を、とやって来た次第なのだが。

(……帰りそびれた)

 自分のために用意したという部屋を曖昧に断ったあたりで、イヴァエルに来客が現れた。無下にすることもできないイヴァエルは、そのまま応接間へ行ってしまったのである。
 取り残されたカイエルだが、黙って帰るわけにもいかない。それは彼の性格上認められない行為だ。仕事の話だろうが、そう長くもならないだろうと踏み、カイエルは暫しその場で待つことにした。

 やがて、離れた部屋の扉が開く。ニコニコと上機嫌で目の前を過ぎる男は、先ほどイヴァエルを訪ねてきた客だった。帰るその背中を見送ってから、イヴァエルがいる部屋へ向かう。
 そこには、めったに見られない気だるそうな兄の姿があった。

「兄様……何か……」

 恐る恐る声をかければ、イヴァエルはカイエルに目を移し「家の事だ」と短く返した。
 両親が亡くなってからというもの、カイエルと別の家に引き取られたイヴァエルは修羅場を生き抜いてきた。遺産目当ての抗争をはじめとする修羅場はおぞましいものであったが、それを経て、家の立て直しを成してきたのだ。
 だが、それでも。

「下らんな。いつもの事だが馬鹿らしい」

 再興とは言え、現状はまだまだ押せば容易く潰れてしまう。それを狙ってやって来る者も、それをきっかけに甘い蜜を吸おうとする者も後を絶たない。
 知らぬ間に気でも張っていたのだろう、カイエルを前に、イヴァエルの口からは溜息と本音が漏れていた。

(以前にも客と話しているのを見たが、凛々しく丁寧だった)

 今目の前にいるイヴァエルとは、まったく違う姿だったことを思い出す。無論、客人の前でだらしない格好などするはずもないが、毅然とした振る舞いは尊敬に値するものだったのだ。

「あ……兄様……。兄様は、どうやってその様な交渉術を覚えたのか?」

 その言葉は、カイエルの純粋な好奇心と探求心から出たものだった。
 堅い、と呼ばれる自分の性格では、できる依頼の幅も狭くなってしまう。イヴァエルと同じような話術を覚えたら、今後の依頼に有利になるのではないか、と考えた故の問いだった。

「交渉術……?」

 カイエルの言葉に、目を見開くイヴァエル。不意の来客で時間をとってしまったのだから、帰ると言ってくるものだと思っていたのだ。本心として、ずっと居て構わないとも思っていたが。

「俺は、会話は苦手だ。だが、コツはある」
「コツ?」

 聞く姿勢になるカイエルを見て、イヴァエルはふと目を細めた。知識を得ようとする姿は、何とも言えぬ愛らしさがある。
 まずは、と前置きをした上で、イヴァエルは話し始めた。

「相手にとって話しやすい態度を取る事。相手の言葉への合いの手と、タイミング良くオウム返しをする事。自分の意見はぼかし、悟られない事」

 指折り伝えれば、カイエルは素直に頷いた。その危うさを案じ、最後にと付け足す。

「これら全てが巧い者は疑え。目的無しにそれを行う人間などいない」

 警告とも思える言葉に、カイエルは深く納得した。腹に黒い物を抱える者たちと対峙してきたイヴァエルだ、その経験を疑うことなどない。

「……お前は態度目つきからして無理があるな」

 なるほど、と呟いたカイエルに対して、イヴァエルは苦笑混じりにそう言った。悔しいが言い返せないその駄目出しに、ぐっと言葉が詰まる。自覚してはいるが、身に染みた性質を覆すのはまだ難しいようだ。

「お前には到底似合わん」

 イヴァエルは言いながら、カイエルの頬に手を伸ばした。
 人並みにぬるい頬と、強張る瞳。自分より幾らか細い肩が、緊張でやや上がり気味になっている。

「……だが、それがいい。……どこまでも誠実。ずっとそのままでいろ」

 願い、乞うように。穢れのないカイエルには、どす黒い者たちの思惑など知らなくてもいいことだ。
 震える手で、カイエルは頬に添えられたイヴァエルの手に触れた。

(この手は……心臓に悪い)

 遠慮がちに触れられた手に優越を覚えるイヴァエルをよそに、カイエルはそっと目を伏せるのだった。




●君だけの得意料理

「レーゲン……大丈夫だって。ちょっと手首の筋違えただけなんだから」
「ダメ」

 きっぱり言い切るレーゲンに、信城いつきは苦笑いを浮かべるしかなかった。
 きっかけは本当に些細なことで……ちょっとよろけた拍子に、近くのテーブルに手をついただけだったのだ。ただ、体勢が良くなかったのか、体重が思いきり手首にかかってしまった。

「ついつい手を使ってしまうから、今日のご飯は私が作るよ……野菜炒めぐらいしかできないけど」

 思った以上に赤くなってしまった手首を見て、レーゲンから今日一日何もしないようにと釘を刺されてしまったのだ。
 キッチンに立つレーゲンが心配で、そわそわと様子を窺ういつき。そんないつきに対して、レーゲンは思いついたようにぽんと手を叩いた。

「そうだ、せっかくだから何か料理を教えてくれない? いつもいつきに作ってもらってばかりだから」

 そんな申し出に、いつきが断る理由もない。むしろ動く理由が出来て嬉しいくらいだ。
いつきは痛めていない手の方で冷蔵庫を開けて、いくつか食材を取り出した。

「えっと……タマネギとピーマンあるし、冷蔵庫に鶏肉もあるから。オムライスにしようか、これなら難しくないよ」
「うん、わかったよ」

 頑張るね、と意気込むレーゲンはさっそく手を洗うと、包丁を片手にいつきの指示を待つ。
 普段はいつきが作るのだが、今日はレーゲンの指導役になった。まるで料理教室の先生になったようだ。

「まずは野菜切ってね」

 まな板の上にピーマンを置き、レーゲンが切り始める。手つきは危なげ無いが、つい大きさを揃えようと慎重になっていた。

「そこまで大きさをそろえなくても大丈夫だよ」
「そうなんだけど……つい、ね」
「レーゲンらしいね」

 言いながらピーマンを切り終えたレーゲンは、今度は玉ねぎを剥いて切り始めた。目に染みるのか、涙目になりながらも切っていくレーゲン。

(ちょっとかわいいかも)

 一生懸命頑張る姿がかわいくて、いつきは気付かれないようひっそりと笑う。いつも物腰柔らかな彼だが、今は真剣な表情で玉ねぎと格闘しているのだ。微笑ましいことこの上ない。
 野菜を切った後は、炒めるためにフライパンを準備する。

「野菜と鶏肉を炒めて、ケチャップ入れて」
「ケチャップにソースも入れてたんだね」
「それと、水分を飛ばしてからご飯入れた方がべちゃっとしないよ」

 新発見だ、とレーゲンが感心した。こうして教えてもらうと美味しさの秘密がわかるものだ。
 いつきも教えるのが楽しくなり、炒めるタイミングやケチャップの分量など細かく指示をする。誰かと料理をするのも、普段と違った面白さがあった。

「卵を流し入れて……ご飯をのせて……よっと。これでどう?」
「うん、いい出来!」

 レーゲンの慎重さが功を奏し、お皿の上には綺麗な形のオムライスが出来上がった。湯気の上がるそれは、お店にディスプレイされているものと遜色ない。ケチャップとソースの香りが食欲をそそる。

「本当はふんわり焼いた卵のっけて、卵切ったら半熟卵がふわっと広がるのやりたいんだけど……なかなか成功しなくって」

 もう一皿分作るための卵を用意するいつきの言葉に、「どうやったらいいの?」とレーゲンが反応する。
 テレビでもよく取り上げられるそのオムライスは、もちろん家庭でもできる物なのだろうが難易度は高い。半熟を保つためにかき混ぜ続けなければいけないし、半熟のまま形を整えるのだってなかなか上手くいかないのだ。

「半熟卵を作ったら、こう……柄を叩いて、形を整えて……」

 それでも興味を持ったレーゲンに、いつきはテレビで見た作り方を教えた。ふむふむと頷きつつ聞いたレーゲンが、再びフライパンに向き直る。

「つまり……こういう感じ?」

 いつきに言われた通り、それらを実践する。
 固まらないよう卵をかき混ぜ、ちょうど良い頃合いで半熟卵をフライパンの片側に寄せる。フライパンを傾けて柄をトントンと叩けば、半熟卵が器用にもくるりと回った。鮮やかな黄色が見え、いつきが「あ!」と声を上げる。

「レーゲンできた! ……俺を超えちゃった」
「いつきが教えてくれたからだよ」

 お皿にご飯をよそって、その上に出来たばかりの半熟卵の包みを乗せる。包丁で軽く縦に切り込みを入れると、卵は重力に従ってふわりと開いた。立ち上る湯気からは、卵の甘い匂いがする。
 作りたてのふわふわオムライスをいつきに、スタンダードな形のオムライスを自分のところに置いて、いざ実食。一口食べたいつきは、にこやかに顔を綻ばせた。

「いつき、美味しい?」
「美味しいよ。卵もふんわりしてるし」

 もぐもぐと止めどなく咀嚼するいつきは、ふわふわとろとろオムライスに大満足のようだ。それを見て、レーゲンも何だか胸があたたかくなる。

「喜んでくれたみたいで良かった。教えてくれてありがとう」
「俺こそ美味しいご飯ありがとう。今度からオムライスはレーゲン作ってね!」
「了解、オムライスは私の役目ということで」

 また、いつきの笑顔が見られるなら。
今度もふわふわのオムライスを作ってあげようと、レーゲンは密かに心に決めたのだった。



●この先の救急箱

「鴉さん、今日は時間ありますか?」

 任務の帰り道、鳥飼はとなりを歩く鴉に声をかけた。見上げる鳥飼の瞳が真剣で、鴉が何事かと聞き返す。

「僕に手当の仕方を教えてほしいんです」
「別に構いませんが。……まあ、いいでしょう」

 A.R.O.A.本部への報告を手早く済ませた二人は、揃って鳥飼の自宅へと向かった。
 鴉から了承を得た鳥飼は、道中やけに気合が入っているように見えた。と言っても、大っぴらに鼻息を荒くするなど目立った変化ではないが。
 それを見て、鴉がふむ、と思案する。ウィンクルムとして、頼られること自体が悪いわけではない。互いに協力をしてこそ成り立つ関係なのだ。
 ――だけど。離れがたいと思う反面、距離を置くべきではないのかと思う自分がいる。鴉自身、整理がつかない感情が渦巻いていた。

「それで、何故手当を習いたいと?」

 鳥飼の自宅で一息ついた後、鴉は救急箱を受け取りながらそう問いかけた。鳥飼は鴉の正面に座り、居住まいを正す。

「手当できる人は、一人でも多いほうがいいと思ったんです。誰も怪我をしないのが一番ですけど、オーガと戦ってる限りそういうわけにもいかないですし」

 真摯な瞳の理由はそれか、と納得する。ウィンクルムである以上、オーガと戦うのは避けられない宿命だ。その上で、互いが負傷することも珍しくない。
 それを見越して手当を習おうとする姿勢に、鴉は感心さえ覚えた。

「心掛けは立派ですね」
「そうじゃなくても、いつどこで怪我するかわかりませんから」
「確かに。何があるかわからない以上、治療の手を増やす事には同意します」

 救急箱の蓋を開けながらそう伝えれば、鳥飼は嬉しそうにはにかんだ。
 戦闘において、主力となるのは精霊だ。神人も戦うことはあるが、精霊に比べればその力の差は歴然としてある。加えて、そんな神人がオーガに狙われやすいのだから、何かできることを探そうと考えるのは必定とも思えた。

「包帯の巻き方から行きましょうか。どちらでもいいので腕を」
「はい、お願いします」

 真っ白な包帯を取り出した鴉に言われ、鳥飼は左腕の袖を捲って差し出した。まずは見本を、と鴉が鳥飼の細い腕に包帯を巻いていく。

「そういえば、僕が鴉さんに包帯を巻いて貰うのは初めてですね」
「そうですね。それが何か」
「ふふ、なんだか嬉しくて」

 そっけないとも思える鴉の返答にも動じず、鳥飼はどこかくすぐったそうに笑った。
 それを見て一瞬動きを止めた鴉だったが、すぐさま何事もなかったようにいつもの笑みに戻った。だがどうだろう、どうにもむず痒さが消えない。

「怪我をした時に行うものです。無い方が良いでしょう」
「それは、そうですけど」

 取り繕うように正論を重ねる。それでも鳥飼はにこにこと朗らかに笑み、包帯を巻くために添えられた鴉の指先を見つめていた。

「……あまり無茶はしないように。酷いものだと、私を通り越して病院に担ぎ込まれますので」
「はい。気をつけます」

 感覚的に、ではあるが、鳥飼は垣間見える鴉の優しさを知っていた。今だって、口調は普段通りであるものの、怪我をした際は治療すると言ってくれたのだ。
 言外に潜む鴉の思いがわかって、鳥飼は緩む口元を抑えられないでいた。

「次は僕の番ですね。鴉さん、腕を貸してもらえますか?」

 巻き終えた包帯はそのままに、新しい包帯を鴉から受け取る。鳥飼の言葉に、鴉は右腕を捲った。巻きやすいよう、それから動きがぶれないようにと、左手で右腕を支える。

「引っ張らないように、転がすように巻いてください」
「転がすように巻く。……こうでしょうか」
「巻き始めと巻き終わりは同じところを二度です」

 鴉の説明と、先ほど自身に施してもらった巻き方を思い出しつつ、鳥飼が実践する。
 はじめは失敗も続いた。固く巻きすぎたり、想定した患部からずれたり。なかなか上手くいかなかったが、そのたびに鴉が事細かに指摘をし、鳥飼はみるみるうちに上達していった。

「このくらいにしておきましょう」
「そうですね。……また教えてもらってもいいですか?」

 包帯の巻き方をあらかた覚えたころには、窓の外はすっかり夕焼けに染まっていた。救急箱を片付けながら、鴉が鳥飼を見やる。純粋な探求心と知識欲であろうそれに、鴉は「断る」という選択肢を無くしていた。

「予定に入れておきます」

 そう答えた後の鳥飼の表情は、夕焼けよりも眩しかった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 北乃わかめ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月31日
出発日 11月08日 00:00
予定納品日 11月18日

参加者

会議室

  • [5]カイエル・シェナー

    2016/11/06-13:17 

    カイエル・シェナーとイヴァエルだ。
    どうかよろしく頼む。

  • [4]ユズリノ

    2016/11/06-12:12 

    ユズリノとシャーマインです。
    よろしくお願いします!

  • [3]信城いつき

    2016/11/06-09:34 

  • [2]信城いつき

    2016/11/06-09:33 

    信城いつきと相棒のレーゲンだよ。今回もよろしくね!

    レーゲンから料理教えて欲しいって言われたけど、何にしようかな……。

  • [1]鳥飼

    2016/11/06-08:44 


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