芸術の秋をしてみよう(森静流 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 鏡の森芸術公園の美術館で『女神ジェンマ』展が始まりました。
 古今東西の女神ジェンマに関する絵画や彫刻が一堂に集められるのです。
 また、女神ジェンマが加護を与えた、または強く信仰していたとされるウィンクルムの絵画や資料も展示されているそうです。
(たまにはアカデミックな気分に浸るのもいいかも……芸術の秋って言うし)
 そう思ったあなたは、早速精霊と一緒に『女神ジェンマ』展を見に行く事にしました。
 せっかくだから、秋の新しいメイクやファッションもチェックします。
(美術館に行くなんて滅多にないし、たまに違ったイメージに挑戦してみよう。帰りはベジタリアンのレストラン「サハリ」か、地中海風の魚介料理「アポロ」で食べてこようかな)
 そう思うとあなたはなんだかとても張り切った気分になってきました。相方の精霊にメールしてみると、快い返事が返ってきました。

 今回の『女神ジェンマ』展の目玉は放浪の画家アンベールの最後の作品と呼ばれる『光へ』です。
 倒れた精霊の前で自己犠牲をしようとする神人、そこに光とともに顕現して手をさしのべる女神ジェンマの愛に溢れる姿を描いたものです。
 その余りに美しい絵画は、美術にはそんなに興味のない人間でも一度ぐらいは聞いた事があるという有名なもので、あなたも以前から本物を一目見たいと思っていました。
 ウィンクルムならば誰もが感動するとまで言われている大作なのです。
 その他にもアンベールのライバルと言われるジェロランの武装した女神ジェンマがオーガに剣を突きつけている『勝利の女神』や、女流画家アリエットの描いた天使のような子供達の輪の真ん中で女神ジェンマが花飾りを編んでいる『幸せの笑顔』など、見所は沢山あるのです。ウィンクルムを見守るジェンマ、ウィンクルムの前に姿を現すジェンマの絵画も数多くあります。
 あなたはとても楽しみです。

 さて、精霊とのデートの日がやってきました。
 美しい秋晴れの日で、あなたは入念に着飾って家を出ます。
 待ち合わせは鏡の森芸術公園の門の前です。
 着くと珍しい事に精霊が先に来ていました。彼も、普段とはちょっと違うアカデミックな装いです。
「待った?」
 あなたが声をかけると、精霊は照れたように笑いました。
「ううん。ちょっと前に来た。……芸術の秋なんてやったことないから、ちょっと緊張してるかも」
 でも、早く来たということは、精霊も楽しみにしていたようですね。さて、どんな一日になるでしょうか。

解説

 鏡の森芸術公園で芸術の秋です。
※デート経費で300Jrいただきます。

※秋の普段と違ったデートということで、ファッションやメイクを普段と変えています。精霊も美術館の雰囲気に合わせた装いをしています。
お互いに普段とイメージを変えた格好をした上で、その事についてどんなやりとりをするか書いてください。
※美術館内は静粛に。ですが、小声で耳元で囁くぐらいは許容されています。様々な絵画を見ながら、どんな会話をしたか、どんな絵に惹かれたかなどを描いてください。
『女神ジェンマ』展パンフレット100Jr(別売り)
※美術館を見た後は、野菜レストラン「サハリ」か、地中海魚介レストラン「アポロ」で食事になります。
「サハリ」……旬の野菜が盛りだくさん。デザートのケーキまで野菜づくしの「農園イノベーション」コース 他にも色々ヘルシーなメニュー
「アポロ」……牡蠣の炭火焼きや生ウニのパスタetc「秋の味覚」コース 他にも新鮮な魚介メニュー
 どちらかを選んで、レストランでどんな会話をしたかなどを書いてください。

 プランはまずこの三つを書いてくださると嬉しいです。デート前、デート後のプランも余裕がありましたら受け付けます。


ゲームマスターより

芸術の秋、いつもと違った雰囲気でデートはいかがでしょう。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

吉坂心優音(五十嵐晃太)

  ☆薄緑のフォーマルワンピース 白のカーディガン 黒タイツ ブーツ ナチュラルメイク

☆美術館
「だねぇ、あたしも来た事無いから緊張するよぉ」

「わぁ、これが有名な『幸せの笑顔』…
本当に綺麗で素敵だね…」

☆サハリ
「晃ちゃん、美術館楽しかったね♪
偶にはあーゆー場所でのデートも良いねぇ(微笑
ばっバカっ(頬が赤く染まる
でもありがとう(はにかみ照笑
そりゃ晃ちゃんに相応しい女性になるように頑張ってるもん!
晃ちゃんが大好きだから!
それに晃ちゃんだって、普段と違った服装だから…
格好良くて隣にいてドキドキしちゃったもん(小声
あぅ(照
あ、あたしだって晃ちゃんの事離さないもん!
うんっそういう事だね!(ふにゃり
ふふっそうしよっか」


向坂 咲裟(カルラス・エスクリヴァ)
  美術館でカルラスさんとお出かけするのは初めてね
なんとなく、お母さんにメイクやお洋服選びを手伝ってもらったけれど…どうかしら
ふふ、カルラスさんも素敵よ
◆美術館
ゆっくり見て回るわね
見ている途中に『幸せの笑顔』に魅入って立ち止まる
カルさんの言葉になるほどと思うわ
ありがとうとお礼を言って一通り見て二週目ね

◆アポロ
コースの合間に美術館での感想をお話したいわ
『光へ』も素敵だったけれど、ワタシは『幸せの笑顔』が好きだったわ
ワタシ達は、皆の笑顔を守る為に戦っているのだもの

ああ牡蠣は海のミルクって言うけれど…ミルクはやっぱり牛乳ね
◆衣装
普段より大人め
ワンピースにジャケット
オータムカラー
胸元にアメジストのブローチ


クロス(ディオス)
  ☆ギンガムチェックシャツ 紺フレアスカート 黒のロングカーディガン タイツ ブーツ ナチュラルメイク

☆美術館
「ふふっ、そんな事、前にも言われた事あったなぁ(微笑
俺は勝利の女神って柄じゃ無いんだけど…(苦笑
ディオにそんな事言われると、嬉しい…(照笑」

☆アポロ
「あぁそうだな
偶にはこういうのも良いもんだな(微笑
あ、ありがと
改めて言われると、嬉しいけど恥ずかしいな(照れて俯く
でも、ディオも格好良い、ぞ…?
普段そういう格好しないから、なんか新鮮だし…
うん、惚れ直した(微笑
俺、ディオのそういう所が大好きだ(ニコ
ふふっ御免なディオ(微笑
でも本当の事だし!
お詫びに、ほらあーん
(照れてる、可愛い…♪
なら今度再現するな!」


アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
 
ベレー帽
ポンチョ
タータンチェック柄スカート
黒タイツ
ムートンブーツ

格好いいと思うも
ガルヴァンさんも似合ってるよ


美術館
光へ
わぁ…

私、もしこの状況になったら、この人と同じ事すると思…

そ、即答…

…それでも
こんな状況になったら、すると思う

他を見てると一枚の絵に目が
これは…

何だろう…この絵の意味するところはよく分からないけど…でも…
見入っていると頬に一筋の感触
あ、あれ…?

おかしいな…綺麗な絵を見ると無意識に涙が出るのかな


サハリ
コース料理食後
何描いてるの?

わあ…凄い

?!
っこ、好ましいって…っ

あ、な、何でも…ない…
過剰反応しちゃ駄目だ
わ、私も…あなたと過ごす時間は…大好き、かな
…ってああ思わず大付けちゃった


シエル・アンジェローラン(レーゲン・アーカム)
  レーゲンさんは美術館、お好きでしょうか…。私の好みで選んでしまったので今更ながら不安が…ですが、後悔はありません!
今日はストールを巻いてきました。秋っぽいですよね。

美術館は嫌いじゃないとの事なので一安心です。
『女神ジェンマ』展ということでジェンマに関する作品がたくさんありますね。女神ジェンマ…遠い存在でしたが。
今では私もウィンクルム…不思議な感じです。
レーゲンさんが見てるのって『幸せの笑顔』意外です…いえ、その、ヴァンさんからレーゲンさんは子供は苦手だと窺っていたので…その、この絵を見てると一番身近な女神ってお母さんな気がしますね。

「サハリ」!デザートまで野菜なんですよ!楽しみです!


●アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)編

 今日、アラノアと精霊のガルヴァン・ヴァールンガルドは、鏡の森芸術公園での『女神ジェンマ』展でデートです。
 爽やかな秋晴れの日で、二人は芸術公園の門の前で待ち合わせました。生真面目な二人は時間ぴったりにほぼ同時に現れました。
 アラノアもガルヴァンも普段と違った服装をしています。
 アラノアは頭にベレー帽を被り、ポンチョにタータンチェック柄のスカート、足下は黒タイツとムートンブーツです。季節感がありガーリーな雰囲気も漂っていますね。
 ガルヴァンの方はPコートにハイネック、足はジーンズに革ブーツです。少し硬い雰囲気のPコートが彼のイメージと合っています。
 ガルヴァンはアラノアに対して可愛らしいと思いつつも、
「……似合ってる」
 としか言いませんでした。
 アラノアの方も格好いいと思いながらも、
「ガルヴァンさんも似合ってるよ」
 としか言えませんでした。
 二人はいつもと違う雰囲気の相手に内心どきどきしながら、何気ない表情で、美術館の中に入っていきました。まだそういう内面をさらけだせる関係ではありません。
 広い美術館には等間隔で様々な絵画や彫刻が安置されています。神々しい女神ジェンマ、親しみやすい女神ジェンマ、そのほか数々のウィンクルムがモデルのものがありました。それほど混み合ってはいませんが客はいます。静まりかえった館内にところどころ固まりながら順路に沿って歩いていました。
 アラノアとガルヴァンは順路に沿いながら進んで行き、やがて有名な絵画『光へ』の前にたどり着きました。
「おお……」
 ガルヴァンですら思わずため息を漏らします。
「わぁ……」
 アラノアもそれ以上、声が出ませんでした。
 それは戦いに傷つき倒れた精霊の前で、自己犠牲を行ってでも助けようとする神人に向かい、光と共に顕現して手をさしのべる女神ジェンマの絵でした。
 放浪の画家アンベールの生涯最後となる一枚で、ウィンクルムならば誰もが感動するとまで言われている大作なのでした。
 アラノアとガルヴァンも、しばらくはその『光へ』の前に立ち尽くして絵の世界に魅入りました。女神ジェンマの加護を受けながら戦い続けるウィンクルムです。いつかは凶悪なオーガの前に、どちらか片方が倒れてしまうことがあるかもしれません。そのとき、ウィンクルムの絆は、残された片方に何をさせるでしょう。それは、やはり、この絵にあるような『自己犠牲』なのかもしれません。愛ゆえに。
 そして女神は必ずその愛に手をさしのべ、光を与えることでしょう……。
 やがて、アラノアが口を開きました。
「私、もしこの状況になったら、この人と同じ事をすると思……」
「それはダメだ」
「そ、即答……」
 アラノアは思わずガルヴァンを振り返りました。それぐらい、ガルヴァンの返事は早かったのです。絵の世界に引き込まれていたアラノアはすっかり現実に戻ってガルヴァンを見つめました。
「当然だ」
 ガルヴァンは自信ありげで、しかも少し怒っているようでした。元から仏頂面なのですが、最近はアラノアは彼のそんな感情のさざ波も読み取れます。
 なんだか微かに怒っているような……こんな素晴らしい絵の前で、何で?
「……それでも、こんな状況になったら、すると思う」
 そんなガルヴァンに、アラノアは控えめながらもそう告げたのでした。
『光へ』は、ウィンクルムに対して、こんな究極の状況に置いてはどうするか、問いかけてくるようでもあります。
 アラノアだったら、目の前にガルヴァンが倒れていたら、なんとしてでも助けたいと思います。
 否、思うだけではなく。必ず実行に移すでしょう。きっとそれは自分の本心からの行動なので、誰にも止める事は出来ないのです。
「……なら、こうならないよう努力しよう」
 ガルヴァンは憮然としていましたが、譲歩したのかアラノアにそう答えました。アラノアはほっとして頷きました。
 それから二人は館内をさらに進み、女神ジェンマとウィンクルムの数多くの芸術を見て回りました。
 そして、アラノアは一枚の絵の前で立ち止まりました。
「これは……」
 それは背中合わせのウィンクルムでした。
 男女が互いを背にして立ち、それを女神ジェンマが優しく見守っています。
 男女の手前の手は触れそうで触れない位置にあり、奥の手と視線はそれぞれ違う方向に向かって伸びています。
 無名の画家の絵で、今日までアラノアはその画家の名も、絵の存在も知りませんでした。それなのに勝手に足が止まって、そこから動けなくなったのです。
「どうした?」
 ガルヴァンが立ち止まって動かないアラノアに声をかけました。
「何だろう……この絵の意味はよく分からないけど……でも……」
 見つめていると、頬に、涙が一筋流れ落ちる感触がしました。
「あ、あれ……?」
 アラノアは泣いている自分にびっくりします。アラノアにとって、その絵がどんな意味があるのか、自分にも分かりません。だけど、泣けてしまうのです。
「……大丈夫か?」
 ガルヴァンが声をひそめて訊ねます。
「おかしいな……綺麗な絵を見ると、無意識に涙が出るのかな……」
 アラノアは慌てて指先で涙をぬぐいました。
 ガルヴァンは、アラノアの涙を無言で見つめていました。手を伸ばせば届く距離。でもそこは、美術館の中で、他にも客がいるのです。何も言わずに、ハンカチを差し出しました。ピンと糊の効いたハンカチは、彼の厳格な性格を表しているようで、アラノアは苦笑してしまいました。
 二人は、鏡の森芸術公園にある野菜レストランのサハリに移動しました。
 二人が頼んだのは旬の野菜が盛りだくさんで、デザートまで野菜づくしのコース料理「農園イノベーション」です。
 その無添加無農薬の美味で盛りつけも美しい野菜料理を堪能した後の事です。
「何描いてるの?」
 アラノアがガルヴァンに訊ねました。
「……ん? ああ。美術館で得たインスピレーションを元に少しな」
 ガルヴァンはデザインメモを見せてくれました。
 手の甲の文様や二つの月、翼などのモチーフを取り入れたアクセサリのデザイン画です。
「わあ……凄い」
 アラノアは思わず感嘆の声を上げて微笑みました。彼は父子でデザイナーですから、ラフデザインの段階でも充分目を惹くものを描けるのでした。
 ガルヴァンはアラノアの笑顔を見て思わず表情を緩めます。雰囲気が優しく柔らかいものにかわりました。
 そしてぽつりと言ったのでした。
「……お前と過ごす時間は、とても好ましいと思う」
「!? っこ、好ましいって……っ」
 アラノアは真っ赤になってうろたえました。
「どうした?」
「あ、な、何でも……ない……」
 過剰反応してはいけないと思いつつ、アラノアは両手で頬を包みます。
「わ、私も……あなたと過ごす時間は……大好き、かな」
 声を詰まらせながら、何とかそう言いました。
(……って、ああ思わず“大”つけちゃった)
 アラノアはそのまま目を閉じてうつむいてしまいました。
「……そう、か」
 ガルヴァンはアラノアの反応を見守りながらそう答えました。
(不思議だ。好きの一言でこんなにも心が浮き立つとは……)
 恋心の自覚はあります。けれど、彼も恋愛初心者ですから、自分の感情が不思議で仕方がありません。
 恋に不得手な二人にとっては、初めての経験、初めての心の動き、何もかもが知らなかった事ばかりです。
 だけど、それは恐いものではなくて、心が軽くなっていくような、澱みが消えて澄んでいくような、明るく優しいものばかりなのでした。
 恋には激しい苦しみもあるけれど、それと同じかそれよりも遙かに大きな喜びと甘美があるのです。それを味わう直前に二人は、もどかしい思いをすれ違わせて、互いの顔を盗み見るのでした。いつか正面から向き合える時が来たらとても素敵ですね。

●吉坂心優音(五十嵐晃太)編

 今日は、吉坂心優音と精霊の五十嵐晃太は、鏡の森芸術公園での『女神ジェンマ』展でデートです。
 その日、心優音は普段とは違うデートなので、雰囲気を変えたファッションで芸術公園に向かいました。待ち合わせは門の前です。
 心優音は、薄緑色のフォーマルワンピースに白のカーディガンです。足下は黒のタイツにブーツ。それにナチュラルメイクも顔に施しました。
 晃太はなんと言ってくれるかと思い、門の前でドキドキしながら待ちます。
 晃太の方は、黒のロングTシャツに灰色のジャケット。白ジーパンに革靴の姿で現れました。
 心優音のおしとやかなお嬢様ファッションに対して、晃太はジャケットは着ているもののかなり着崩したファッションです。ですが、心優音は晃太が革靴を履いている姿はあまり見た事がないので、ますますドキドキしてきました。
「待ったか、みゆ」
「ううん。今来たところ」
 お互いに照れつつ、デートの定番の会話をしながら、二人は美術館に入っていく事にしました。
 美術館の中は、壮麗な女神ジェンマの絵画や、ウィンクルムの彫刻に溢れています。『女神ジェンマ』展というタイトルだけあって、古今東西の女神ジェンマとウィンクルムの芸術が集められているのでした。
 心優音と晃太はぴったりくっつきながら、あまり来慣れない場所を進んで行きました。あまり美術には詳しくない二人の目にも素晴らしいと分かる絵画が沢山あります。
 やがて、二人は一枚の絵の前で足を止めてため息をつきながら魅入りました。
「ほぉ、これがかの有名の……」
「わぁ、これが有名な『幸せの笑顔』……本当に綺麗で素敵だね」
「ホンマやなぁ……見てるだけで心が癒される感じがするわ……」
 二人の見ている絵画、『幸せの笑顔』は、女流画家アリエットの代表作になります。
 天使のような子供達が輪になって戯れている真ん中で、女神ジェンマが花飾りを編んで微笑んでいるのです。
 その花飾りは子供達の頭に乗せるために作っていると言われ、女神の溢れる愛と優しさの象徴のような絵なのでした。
 とても美しく心を穏やかにしていく絵画に、二人はたっぷりと温かいエネルギーを貰います。
 その後も順路に沿って女神ジェンマ展を順番に見て行って、心優音と晃太は芸術の秋を堪能しました。
 それから芸術公園内にあるレストラン「サハリ」に移動します。
「サハリ」では、二人で、季節の野菜料理のコースである「農園イノベーション」を頼みました。無添加無農薬の野菜ばかりを使ったコースで、デザートまで野菜で出来ているのです。盛りつけも美しい食事が運ばれてきた後、二人はゆっくりと食べながら会話を楽しみます。
「晃ちゃん、美術館楽しかったね♪ 偶にはあーゆー場所でのデートも良いねぇ」
 心優音はそう言って嬉しそうに微笑みました。
「せやな、結構楽しめたなぁ」
 晃太もニッと笑います。
「偶にはえぇな、あーゆー場所でのデートも! みゆの可愛らしいメイクのせいで、みゆばかり見取ったけど」
 晃太がそう言ってにやりと笑うと、心優音は面白いように顔を赤らめました。
「ばっバカっ」
 もう頬は真っ赤です。
「すまんすまん、でもホンマの事やで?」
 頭をかきながら笑う晃太。
「でもありがとう」
 はにかんで照れ笑いをする心優音。本当は怒っていないようです。
「しっかし最近みゆ、益々綺麗になるから気がきやないで? 男共に取られんよう気ぃ付けへんと!」
 晃太は真剣な顔で言いました。
「そりゃ晃ちゃんに相応しい女性になるように頑張ってるもん! 晃ちゃんが大好きだから! それに晃ちゃんだって、普段と違った服装だから……」
 心優音はテーブルに身を乗り出して晃太に顔を近づけました。
 晃太もテーブルの前に顔を出します。
 心優音は小声で言いました。
「格好良くて隣にいてドキドキしちゃったもん」
 心優音の顔を赤らめながらの可愛い台詞に晃太は全く満足です。
「ククッ、そうかそうか、おおきにな」
 晃太は嬉しさに満面の笑みを浮かべながら心優音の頭をぽふっとしました。
「あぅ」
 照れてしまう心優音。
「ほなら絶対に離さへんから覚悟しぃや?」
 甘い笑顔で晃太が言います。
「あ、あたしだって晃ちゃんの事離さないもん!」
 むきになったように心優音が言い返します。
「ふはっお互いって事やな」
 またニッと笑う晃太。
「うんっそういう事だね!」
 ふにゃりとした笑みを心優音は見せるのです。
「んじゃ料理も堪能しよか」
「ふふっそうしよっか」
 二人はまた見つめ合いながら笑顔をかわし、おいしい料理の方に向き直りました。
「去年の秋は何していたかなあ」
 秋の恵みに舌鼓を打ちながら晃太が言います。
「そうだねえ。そうだ、カフェでいずみちゃんとおしゃべりしたよ」
 心優音は、去年の秋にウィンクルムに憧れる少女と相席した事を思い出した。
「そうやな、俺達がウィンクルムになった経緯を話したんやったなあ」
 晃太も思い出した表情です。
「ふふ……晃ちゃんとあたし、五歳から契約したウィンクルムだもんね!」
 二人の契約した経緯を知ったいずみも随分驚いていたようでした。
 心優音も晃太も家族全員、ウィンクルムの家庭で育ったため、幼い頃から狙われるような事もあったのです。
 心優音が拉致されて、救いに行った晃太。
 心優音は真っ直ぐに晃太に飛びついてきて、思い切り泣いたのでした。そのときに晃太ははっきりと言ったのです。
「心優音の事は、俺が護る」
 その言葉を、心優音は忘れた事はありません。
 もちろん、晃太だって覚えています。
「不思議……まるで昨日の事みたいに覚えているよ……」
 心優音は目を細めて言いました。
 晃太も頷きます。
「いずみちゃん、俺らの話は参考になったかな。俺達のような仲の良いウィンクルムになれているといいなあ」
「ふふ、そうだねえ」
 心優音も自分達の仲の良さには自信があります。
 何しろ、幼なじみで恋人で、ウィンクルムなのですから、双子のきょうだいのように何でも通じ合える関係なのですから。
「後は……秋と言えば、怪談話をして……」
「いや----! 思い出させないで!!」
 心優音は両耳を両手で塞いで体を背けてしまいました。
「あんな簡単な話で、みゆ……そんなに恐かったんか?」
「こ、恐かったよっ」
 心優音は心なしか震えているようです。
「すまんすまん……そんなつもりはなかったんや。でも、あれも面白かったなあ」
 晃太はおかしそうに笑いました。
「面白かったっていうか、あたしは……感動したよ」
「感動?」
 心優音はこくりと頷きました。
「晃ちゃんが言ってくれたことに」
「ああ、そうか……」

『心優音の事は、俺が護る。俺の事は、心優音が護る。お互いに護りあっていこう。死ぬ迄一緒に困難を乗り越えて行こう』
『あたしの事は、晃ちゃんが護る。晃ちゃんの事は、あたしが護る。お互いに護りあっていこう。死ぬ迄一緒に困難を乗り越えて行こう』

 そういう言葉を二人はかわしたのです。それはウィンクルムの契約をかわした時から、ずっと変わらない気持ちでいるのでした。
 晃太は、幼い頃から見つめ続け、またひときわ美しく愛らしく成長した心優音に問いかけました。
「なあ。みゆ。俺はあのときの約束を、守れているん……?」
「勿論だよ、晃ちゃん」
 打てば響くように答える心優音の声。笑顔。
 それに幸せの笑顔を向けて、晃太は誓いの心を新たにしていきました。

●シエル・アンジェローラン(レーゲン・アーカム)編

 今日、シエル・アンジェローランと精霊のレーゲン・アーカムは鏡の森芸術公園の『女神ジェンマ展』でデートです。
(レーゲンさんは美術館、お好きでしょうか……。私の好みで選んでしまったので今更ながら不安が……ですが、後悔はありません!)
 シエルは待ち合わせの芸術公園の門の前へ向かいます。
(誘われるとは思ってもいなかった。契約だけしてそれで終わり、だと。弟とならともかく俺との絆なんて築いても意味がないだろう?)
 そう思うもののレーゲンも門へ向かいました。シエルは既についていました。
「今日はストールを巻いてきました。秋っぽいですよね」
「とりあえずフォーマルな恰好をしてきたが……こんなことを考えなくて行けないのは面倒だな」
 人に無関心なレーゲンがそう言ったので、シエルは遠慮してしまいます。
「レーゲンさんは美術館はお嫌いですか」
「……いや、美術館は嫌いじゃない。騒がしいところよりはいい」
 レーゲンは詰め襟をきゅっと締めてそう言いました。
 シエルは美術館は嫌いじゃないと聞いて一安心です。
 二人は連れだって美術館の中に入っていきました。
 女神ジェンマとウィンクルムの作品が、誰でも知っているような有名作品から無名の芸術家のものまで、見渡す限り取りそろえられています。
 女神ジェンマの愛、勇気、正義--そしてウィンクルムの絆。それに関する作品が一堂に会していました。
「『女神ジェンマ』展ということでジェンマに関する作品がたくさんありますね。女神ジェンマ……遠い存在でしたが。今では私もウィンクルム……不思議な感じです」
 シエルは数々の美しい絵画や彫刻に囲まれて、圧倒されてしまいながら、館内を進んで行きました。
 隣にはレーゲンが無関心なようでしっかりついてきています。
 二人は放浪の画家アンベールの大作『光へ』の安置されている大きな部屋を通り抜けて、隣の空調がよく明るい感じの小部屋にやってきました。
 入ってすぐの壁いっぱいに飾られているのは、天使のような子供達の輪の真ん中で花飾りを編みながらうっとりするような微笑を浮かべている女神ジェンマの絵です。
 女流画家アリエットの代表作で、題名は『幸せの笑顔』。
 確かに、女神ジェンマも天使のような子供たちも笑顔です。
 そして、見る者達が誰でも、ついついにっこり笑ってしまうような幸福感に満ちあふれた絵画なのでした。
(女神ね……)
 レーゲンはその『幸せの笑顔』に近寄っていき、微笑んでいる女神と視線が合う位置に立ちました。
「レーゲンさんが見てるのって『幸せの笑顔』、意外です……」
 シエルは思わずそう言いました。
「意外?」
 レーゲンは面倒そうにシエルを振り返りました。
「いえ、その、ヴァンさんからレーゲンさんは子供は苦手だと窺っていたので」
 シエルはレーゲンの隣に立ってヴァンから聞いたのだと伝えました。
 シエルがその話を聞いたのは、ヴァンとハロウィーンの廃病院イベントに行った時の事です。ヴァンが、ちびオーガの仮装をした子供達にトリックオアトリートをされた時、一緒にお菓子をあげた時に知ったのです。
 シエルは双子なのにヴァンと全く違うタイプのレーゲンに少し緊張感を持ってしまいます。ですが、せっかくのデートなのですから自分から話しかけました。
「ヴァンに俺の事を聞いたのか……確かに俺は子供は苦手だ。我儘で煩い。なにより……非力だし無力だ。昔の自分がそうだった」
 レーゲンは冷たい口調でそう言い切りました。
 レーゲンとヴァンの両親はオーガに殺されているのです。故に、レーゲンはオーガへの怒りや憎しみをため込んだまま成長しました。もしかしたらそれ故に、ことさら人に無関心で、必要最低限以外の人間を自分に寄せ付けない性格になってしまったのかもしれません。己のうちにある憎しみを溶かさなければ、他人に対して柔和になれないということはあります。
 オーガに対する憎しみもありますが、レーゲンの中には、非力な子供だった自分への怒りもあるのでした。
 何故に、あのとき、襲われている両親を救う事が出来るほど、強くなれなかったのか。自分が無力だったから、両親を助けられなかった……。レーゲンはそう思っているのかもしれません。
 その裏には、両親への深い愛情があるのでしょう。
 シエルはそう考えて、レーゲンの横顔を見つめます。レーゲンは真っ直ぐに絵画のジェンマの方を見ていました。
「……その、この絵を見てると一番身近な女神ってお母さんな気がしますね」
 それから、シエルは絵画の女神の方を見直してそう言いました。
 冷たく無関心なレーゲンに対して、女神ジェンマの笑顔は幸福そのものです。
 シエルがレーゲンとヴァンの両親の事を知っているかどうかは、分かりません。ただ女神の持つ温かく優しい雰囲気を、そう感じ取ったので言ったまでのことです。
「母親が女神か……確かに俺の母親は女神かもしれないな」
 レーゲンは口数少なくそう答えました。
 それは二重の意味に取る事が出来るでしょう。
 幼くして亡くなった実の母親を、今では女神のように思っている、という意味。
 そして、ウィンクルムの精霊である自分にとっては、女神ジェンマこそ母親であるという意味。
 シエルはそれをどちらの意味に取ればいいのでしょうか。
 どちらにも取りかねたけれど、女神と母親について話しているレーゲンからは、鋭い緊張感がわずかに和らいでいたので、シエルは嬉しくなって微笑みました。
 女神の微笑みにはかなわないけれど、シエルをそんなふうに笑わせる事が出来るのは精霊だけなのです。

 その後、二人は芸術公園の中にある野菜レストラン「サハリ」に向かいました。
「デザートまで野菜なんですよ! 楽しみです!」
「野菜がメインの店か。あまり行かないタイプの店だから新鮮だ。しかし、お前はずっと楽しそうだったな……いったい何がそんなに楽しいやら……」
 そんな会話をしながら、二人は美しく盛りつけられた野菜料理に向き直ります。
 まず目が吸い寄せられるのは10種類の秋野菜で作った野菜のテリーヌです。人参や茄子などのおなじみの野菜もありますが、ちょっと見かけない珍しい可愛い野菜もゼリーで固められています。
「うわあ、おいしそう。これ、何でしょうね?」
「知らない」
 それで二人が店員に聞いて見ると、ミラクルフルーツという秋の果物である事が分かりました。
「ミラクルフルーツを食べても甘く感じないのですが、次に食べたものを甘く感じさせるんですよ」
「ええっ、本当ですか?」
 シエルはそんな果物を聞いた事がありません。
 それでびっくりして野菜のテリーヌを切り分けると、赤いミラクルフルーツを一口食べました。甘くはありません。食べた事のない不思議な感触がします。
 それからシエルはすぐに野菜を重ねられたヘルシーハンバーグを食べてみます。ハンバーグなのに、甘い味がしました。
「本当です! レーゲンさん、食べてみて!」
「……ふうん?」
 そんな珍しい食材に対しても、レーゲンは無関心です。ミラクルフルーツを食べ、コブサラダの他の野菜を食べて、肩を竦めました。
「美味しいでしょう!?」
「そんな騒ぐほどのことか? まあ、珍しいが」
 そっけないレーゲンですが、その後、二人で秋野菜をデザートまでしっかり楽しんで帰りました。シエルは、レーゲンと親密度を高めるヒントを見つけたと思っています。

●向坂 咲裟(カルラス・エスクリヴァ)編

 今日、向坂咲裟は精霊のカルラス・エスクリヴァと鏡の森芸術公園の美術館でデートです。ウィンクルムなら一度は行ってみたいと思う『女神ジェンマ展』が開催されているのです。
 咲裟はせっかくですので普段と違うファッションで出かけました。
(美術館でカルラスさんとお出かけするのは初めてね)
 普段より大人っぽい出で立ちです。
 ワンピースの上にジャケットを羽織ります。全体的にオータムカラーです。胸元にはアメジストのブローチです。
 その姿で待ち合わせの芸術公園の門の前に行くと、ほぼ同じ時間にカルラスも現れました。
「お嬢さん、今日はエレガントだな」
「なんとなく、お母さんにメイクやお洋服選びを手伝ってもらったけれど……どうかしら」
 咲裟は自分のファッションを見下ろしながら言います。
「これは、普段よりも“レディ”として扱わなければならないな」
 カルラスは咲裟の大人びたスタイルに笑っています。
 カルラスの方はいつもと同じ三つ揃いのスーツなのですが、普段と違って着崩す事はありませんでした。
 二人は連れだって芸術公園の門をくぐり、公園の真ん中にある美術館へ向かいました。館内に入ると、さすがは『女神ジェンマ』展で、どちらを向いても美しい女神ジェンマの愛に溢れる芸術品が並んでいます。
 絵画にも、彫刻にも、女神ジェンマとウィンクルムの凜々しく美しい姿が見る事が出来るのでした。
「ゆっくり見て回るわね」
 二人は歩調を合わせて見学していきます。
 二人だってウィンクルムですから、興味深いものは結構あります。咲裟が立ち止まるとカルラスも足を止めて、手を差し出し、エスコートしながら順路を進むのでした。
「一周全ての作品を見た上で改めて、興味を持った作品をじっくり観るといい。その方が身に入る」
 カルラスはそう言って微笑みました。
 本人もチェリストと言う事で芸術に関心が高いのでしょう。
 カルラスは絵画にも知識が豊富であるようです。
「ありがとう。一通り観て、二周目ね」
 咲裟はカルラスの言う通り、館内の展示物を一度全部見てから、また順路をたどりはじめました。
 咲裟がじっくり見たいと思ったのは、やはり放浪の画家アンベールの最後の大作『光へ』です。
 戦いに力つき倒れた精霊、その目前で自己犠牲をしようとする神人、その二人の前に光とともに顕現し、手をさしのべる女神ジェンマ。
 ウィンクルムならば誰もが考えさせられる一枚なのでした。咲裟はその絵の前にしばらく立っていましたが、何も言いませんでした。
 やがて、咲裟は女流画家アリエットの代表作、『幸せの笑顔』の前で立ち止まりました。
 それはまるで天使のように愛らしい子供達の輪の真ん中で、花飾りを編みながらうっとりするような微笑を浮かべている女神ジェンマの絵画です。
 誰もがつられて微笑んでしまうような癒やしのオーラがその絵にはあります。
 二人はそうして静かに女神ジェンマ展を鑑賞しました。
 その後、芸術公園内にあるレストラン「アポロ」に向かいます。「アポロ」では地中海風の魚介料理を楽しめます。
 二人は牡蠣の炭火焼きや生ウニのパスタを楽しめる「秋の味覚」コースを頼みました。
 食事を楽しむ合間にも美術館の感想を話します。
「『光へ』も素敵だったけれど、ワタシは『幸せの笑顔』が好きだったわ。ワタシ達は、皆の笑顔を守る為に戦っているのだもの」
 咲裟は二枚の絵の印象を考えながらそう言いました。
「お嬢さんはそう思うのか。ウィンクルムは皆の笑顔を守るために戦う……そうだな。それこそ幸せに繋がる動機だ」
 カルラスは頷いています。
 それから彼は自分の感想を言いました。
「『光へ』は若い頃に一度見た事があったが、ウィンクルムとなった今見るとまた違った感想が趣きがあったな……自己犠牲して迄守るもの、か」
 咲裟は自分とカルラスの年齢差に気がつきました。
 カルラスが『光へ』を見たのは何歳ぐらいの時で、どんな機会があってのことなのでしょう。
 ちょっと聞いて見たい気もします。
 するとそこに、牡蠣の炭火焼きが運ばれてきました。
 カルラスと咲裟は店員に礼を言い、早速、フォークを取って牡蠣を賞味することにしました。
 秋の味覚は香ばしい匂いを立てながら、じんわりと口の中に芳醇な味わいを広げていきます。
 それを味わって咲裟は一言。
「ああ牡蠣は海のミルクって言うけれど……ミルクはやっぱり牛乳ね」
 カルラスはその言葉に思わず噴き出しそうになりました。
「……お嬢さんは、やはり変わらない方が良いな」
 そう言って、笑うのでした。
 大人っぽいファッションを身に纏っていた咲裟は目をぱちくりさせました。
「牛乳をいっぱい飲むと良いことがたくさん起こるのよ」
「ああ、知ってる」
 咲裟はよくそういう主張をしていますから、カルラスもそれを否定することはありません。
 カルラスは目の前のミステリアスな少女を見つめます。
 咲裟は相変わらず、何の考えも読ませない無表情でカルラスの事を見つめ返しています。
 色の濃い満月を思わせる金の髪はさらさらとジャケットの肩に流れています。オータムカラーに相応しいアメシストを思わせる紫の瞳。
 カルラスは咲裟の事を個性を持つ美しい少女だと思います。
 どんな事を考えていても不思議ではない感じを受けるのです。そして、そのままの咲裟でいて欲しいと思うのです。
「牡蠣は苦手か」
「苦手ではないわ。ただ、牛乳の方がずっとおいしいと思うの」
 咲裟はそう答えました。
「お嬢さんは本当に牛乳が好きだな。他に好きな食べ物は……ああ、クレープ?」
 カルラスは夏の出来事を思い出してそう言いました。
「クレープ?」
 咲裟はまた目をぱちくりさせます。
「好きだろう。ほら、この間。お嬢さんのお母さんと一緒になった時、買いに行って……」
「ああ、あれは……」
 珍しく咲裟は言葉を濁しました。
 あのとき、カルラスが母と話していた時に、咲裟を襲った知らない感情の事を思い出したのです。
--カルラスさんとお母さんがお話ししているのはなんだかこう……違うのよ
 それが何故沸き起こって来て、どういう意味を持つ感情なのか、咲裟はまだ自分で理解していないのです。うまく説明が出来ないのです。
「驚いたな。確かに、あの雨の日に、お嬢さんの家で見つけた写真はセピア色で……。あんな昔から、俺のファンでいてくれる人が、身近にいるなんて」
 やはりカルラスは悪い気はしていないようです。
(そう、お母さんは、ワタシが生まれる前からのカルさんのファン。だから、ワタシの知らないカルさんのことも、お母さんは知っている。でもそれがこう……違うのよ)
 咲裟はそれがどういうふうに違うのか、自分で知りたいと思いますが、うまく言えません。
「クレープよりも牛乳がいいわ。今だって牛乳が飲みたいわ」
「え? ……そりゃ、このレストランだって牛乳は出すと思うが……」
 カルラスは少し戸惑っているようです。
 それを聞いて咲裟は店員を呼び止め、牛乳を追加注文しました。
「コース料理にも牛乳か。お嬢さんらしいな」
 くっくっとカルラスは笑っています。
「当然でしょう。カルさんと飲む牛乳は、いつもよりいいことがたくさんなのよ」
 無意識のうちに咲裟はそう言っていました。
 カルラスはちょっとびっくりしましたが、その唐突さも咲裟らしいと思って、ただ笑って牛乳を飲む様子を見守っていました。

●クロス(ディオス)編

 今日、クロスは精霊のディオスと鏡の森芸術公園の『女神ジェンマ展』でデートです。
 待ち合わせは芸術公園の門の前。
 クロスは普段とは違うファッションで向かいました。
 ギンガムチェックシャツに黒のロングカーディガンと紺のフレアスカートを合わせています。足下はタイツにブーツ。それからナチュラルメイクにしてみました。
 クロスが門の前に着くと、ほぼ同時刻にディオスが現れました。
 ディオスは白Yシャツに濃い灰色のパーカージャケット、デニムに革靴です。
 お互いに普段と雰囲気の違う相手を見て、ちょっと意識してしまいます。
 それから二人は連れだって美術館の中に入りました。
 広い館内には、様々な絵画や彫刻が並べられています。
『女神ジェンマ展』と銘打つだけあって、どれも女神の愛や正義、慈しみを形にしたものばかりでした。
 女神ジェンマの他にも数々の有名無名のウィンクルムの作品も飾られています。
 クロスはディオスとともに、館内を順路に従って移動しました。
 やがて、ディオスが一枚の絵の前で足を止めました。
 画家ジェロランの代表作『勝利の女神』です。
 武装した女神ジェンマがオーガに剣を突きつける勇壮な姿が画面いっぱいに描かれているのでした。
「クロ、この『勝利の女神』はアンタに似てるな。オーガに立ち向かい、皆を奮い立たせ、敵を倒す……そんなクロに俺は、惚れたんだろう」
 そのディオスの言葉に隣のクロスは思わず笑ってしまいました。
「ふふっ、そんな事、前にも言われた事あったなぁ。俺は勝利の女神って柄じゃ無いんだけど……」
 それは苦笑いなのです。
 だけど、クロスは照れながらこう付け加えました。
「ディオにそんな事言われると、嬉しい……」
「ククッ、本当の事だからな」
 ディオスの方も笑ってそう答えます。
 そのあと、二人は順繰りに女神ジェンマとウィンクルムの芸術作品を見て周り、美術館を後にしました。
 その後、二人が向かったのは地中海風のレストラン、「アポロ」です。季節の魚介料理を食べさせてくれるのです。
 二人はアポロに入ると窓際の席に座り、「秋の味覚」コースを頼みました。
「今日は充実した一日だった」
 ディオスがそう言うとクロスが頷きました。
「あぁそうだな。たまにはこういうのも良いもんだな」
 クロスも美しいものを見た心の余裕から微笑んでそう答えます。
「クロの可愛らしい服装も見れたしな。少しメイクもしてるだろう? 今日の服装にとても似合ってるぞ」
 気障な微笑を浮かべながらディオスが言います。
「あ、ありがと。改めて言われると、嬉しいけど恥ずかしいな」
 クロスは照れてうつむいています。
「でも、ディオもかっこいい、ぞ……? 普段そういう格好しないから、なんか新鮮だし……」
「俺はファッションに疎いから、ルクに相談しながら決めたのだ」
「うん、惚れ直した」
 クロスは微笑んでそう言います。
「ほっ惚れなおっ!?」
 ディオスは真っ赤な顔になってしまいました。
「俺、ディオのそういう所が大好きだ」
 にこっと笑うクロス。
「あー、待ってくれクロ、不意打ちは止めてくれ」
 恥ずかしさにディオスは片手で顔を覆っています。
「ふふっ御免なディオ。でも本当の事だし! お詫びに、ほらあーん」
 微笑みながらクロスは秋の味覚をナイフとフォークで取り上げ、ディオスに向かって、はい、あーん。
「あぁもう言ってる傍からっ!」
 ディオスは激しく葛藤しますが、クロスに遊ばれつつ観念してクロスの手から食べます。物凄い照れ顔なのでした。
「ん、美味い……好きな味だ」
(照れてる、可愛い……♪)
 その反応にクロスも満足です。
「なら今度再現するな!!」
 男前で男装の麗人であるクロスですが、料理は結構、出来る方のようです。最近三人で婚約した事も関係あるのでしょうか。
 クロスはまた苦笑しました。
(オルク、ディオスと契約の約束をした話をした時は……。あんなに嫉妬して怒っていたのに。今ではディオスの服の面倒を見てくれるなんて……。やっぱりあいつはいい奴だ。そういえば、あのとき、オルクに死ぬまで一緒だっておまじないをしたっけ。……婚約したんだから、本当に死ぬまで一緒にいられるんだな)
 そんな考えが心に浮かんできたのです。
 三人で結婚する事については、今でも不安な気持ちが湧いてきます。紅月ノ神社で浴衣を着た時は、その不安な気持ちをそのままオルクスにぶつけていました。ですが、こうして美しい芸術品の数々を見た後では、気持ちも安定し、穏やかに優しくしていられるのでした。
 女神ジェンマが愛のあらゆる形に差別や区別をする方だとは思えないし、幸せの形は一つではないと素直に思えるからなのです。
「色々な時代のウィンクルムを見る事が出来たな……」
 ディオスが牡蠣の炭火焼きをつつきながら言いました。
「うん。大勢のウィンクルムが女神ジェンマとともに、オーガと戦う絵もあったね」
「ああ、あれ」
 クロスとディオスは同じ絵をみとめていたようです。
 その後、少し沈黙しました。
 やはり、二夫一妻という形のウィンクルムの絵画はなかったのです。
「気にするな。クロ」
 ディオスが口を開きました。
「いくら『女神ジェンマ』展とはいえ、全世界の全ての歴史を包括している訳ではないだろう。もしかしたら、大昔、どこかで、俺達のようなウィンクルムもいたかもしれない」
「うん、そうだね……」
 クロスは笑いました。笑いを作ったのかもしれません。
 せっかくのデートで、暗い話題は避けたかったのです。
「クロ。俺は、ルクの事を、本当の兄貴のように思っている……」
 そんなクロスに、ディオスは語りかけました。
「兄貴?」
「あのとき……。夢想花の花園で、クロ達に言った事は本当だ。俺は一度は、クロとルクの絆を見て身を引こうと思っていたんだ。だけど……」
 ディオスはかなわないというように笑います。
「俺の過去を知った上で、縛られるなと言ってくれたルクを俺は信じているし、今ではクロと同じようにルクの事も家族のように感じている。……何しろ、これから本当に家族になるんだからな。俺は既に、ルクの事を兄貴だと思っている……」
「ディオ……」
「だから、クロにも、俺やルクの事を信じて欲しい。家族として、信じて欲しいんだ」
 クロスはわずかに言葉に詰まりました。
 人間であるならば。生き物であるならば、当然、嫉妬の感情はあるでしょう。
 一人の女性を二人の男性が共有するということは、その嫉妬が、生涯二人を苛むのではないかと思えるのです。
 それは、きっと実の兄弟であっても難しい事。
 ディオスは本当に、オルクスに対してその嫉妬の問題は乗り越えたのかと、クロスは疑問に感じたのでした。
 ですが、それをクロスの口から言う事は出来ませんでした。二人に対して、どちらも選べない、二人とも好きと告げたのはクロス自身だったからです。
「クロ。信じる気持ちがなければ、家族にはなれないだろう。俺は、クロもルクも信じている。……クロにも、信じて欲しいんだ。本当の家族になって、本当の幸せをつかむんだって言うことを……」
「そうだね……」
 極道の妾息子として生まれ、兄弟の影武者であったディオス。
 その彼に、本当の家族の幸せを教えてあげられるのは、自分だけ。
 否、自分とオルクスだけ。
 そう気がついて、クロスは心からの笑顔をディオスに向けました。
 この先、数々の困難が三人には襲いかかってくるかもしれません。ですが、どんな困難とも完全と戦い続け、クロスは真の意味での勝利の女神となるでしょう。そんな彼女だから、二人の男に愛されたのです。



依頼結果:大成功
MVP
名前:吉坂心優音
呼び名:みゆ、心優音
  名前:五十嵐晃太
呼び名:晃ちゃん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 森静流
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ EX
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月25日
出発日 11月01日 00:00
予定納品日 11月11日

参加者

会議室

  • [5]クロス

    2016/10/30-23:33 

    クロス:
    ギリギリの参加ですまない!

    クロスとディオスだ、宜しくな!

    さぁて偶にはお洒落しないとな…
    慣れないメイクに又挑戦だ…!

  • [4]向坂 咲裟

    2016/10/30-22:21 

    ワタシもぎりぎりの参加になってごめんなさいね。
    向坂 咲裟よ。パートナーはカルラス・エスクリヴァさん。
    よろしくね。

    美術館…何時もより、素敵なお洋服を着ないとね。
    楽しみだわ。

  • [3]吉坂心優音

    2016/10/30-20:15 

    心優音:
    ギリギリの参加ですみません!

    吉坂心優音と五十嵐晃太です♪
    どうぞよろしくお願いしますしますねー

    何着て行こうかなー

  • シエル・アンジェローランとレーゲンさんです。
    よろしくお願いします。

    美術館楽しみです!あ、静かにしないと、ですね。

  • [1]アラノア

    2016/10/28-20:46 

    アラノアとガルヴァンさんです。
    よろしくお願いします。

    美術館にお出かけ、楽しみです。
    そして何着て行こうか悩みます…(うーん)


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