魔法のクッキー大騒動(森静流 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 その日、悪戯好きのショコランドの妖精が、タブロスにハロウィーンを見物に来ました。関係のあるA.R.O.A.の周辺を物陰に隠れながらひとまわり。
 それから、仲の良さそうなウィンクルムを見かけてこっそりついていきました。
 そのウィンクルム達はたいそう仲が良く、ちょっとした言い争いをしても、それすら楽しんでいる様子です。
 ウィンクルム達はA.R.O.A.を出た後、散歩がてらグリーンヒル公園までデート。そこではちょうど、ハロウィーンの屋台がいくつか出ていて、その中でおばけや蜘蛛の巣の焼きたてクッキーを選んで購入。
 公園のベンチに座って仲良くおしゃべりを始めました。
 興味深げに隠れて見守っていた妖精ですが、だんだん羨ましくなってきました。いいな、このウィンクルムは素敵だな……。
 そしてむくむくと悪戯したい気持ちが沸き起こって来たのです。
 妖精は二人が食べているクッキーに向かって秘密の呪文を唱えました。

(ちょっと困らせてやれ! 寝て起きたら、魔法は解ける!)

 さて、楽しくおしゃべりをしていたウィンクルムですが、片方が、クッキーを一口食べた途端……
「好き」
 普通の顔をして、片方はそう言いました。
 言った後に、びっくりした顔になります。
「え、何、好き……って」
 びっくりしたのはもう片方の方です。
「好き、す、好き。好き好き好き、好き……!」
 好きと言い始めた方は、連続して好き好きと公園の真ん中で発しています。
 たちまち真っ赤になって固まってしまうもう片方。
「好き! 好き!」
 片方はすっかりパニック状態に陥っています。……この人は、口から発するのは「好き」しか言えなくなっているのでした。
 作戦が成功してニヤリと笑うショコランドの妖精。さあ、どうなることか、じっくり見守ってやるつもりです……。

解説

 ハロウィーンのクッキーを食べたら、魔法のトラブルに巻き込まれました。
※状況は本文通りでなくても構いません。クッキーを食べた後、以下の三つのうちどれかの症状が現れます。

・「好き」しか言えなくなる。
・「嫌い」しか言えなくなる。
・全く声が出なくなる。

※寝て起きれば自動的に魔法は解けます。そのことはウィンクルムは知りません。
※クッキーを買いましたので300Jrいただきます。
※妖精は見守っていますが、魔法で隠れているのでウィンクルムには発見することが出来ません。ウィンクルムの魔法が解ければ勝手に帰ります。

 魔法のクッキーを食べるのは、神人か精霊どちらか片方でも、ウィンクルム両方でも構いません。魔法の症状が現れた後、二人でどんな一日を過ごすのか、素敵なプランを書いてください。よろしくお願いします。

ゲームマスターより

「好き」あるいは「嫌い」でどこまで意志が通じるか。そして声が立てられなくても、どこまで意志が通じるか。愛が試されるような、愛が深まるような、そんなプランが読みたいです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)

  ハロウィンのお菓子って不気味だけど可愛いものも多いですよね。
可愛いものを見つけるとつい買っちゃうんですよ。
というわけで早速買ってしまいました。おばけのクッキー!ふふ、あそこのベンチで温かいお茶でも飲みながら一緒に食べませんか?

美味しいですねイヴェさん。
「好き」
えっ?好きって言ったつもりは…!?というか喋ると好きって言っちゃう。
う~恥ずかしいし。話が出来なのも困るんですけど。
けど…普段は照れて好きってあまり言えないからこの機会に好きっていっぱい言っておこうかな。
好きですよ。好きです。大好きです。
恥ずかしいですけど。そんな風に嬉しそうな顔をされたら。
もっと言いたくなっちゃいますよ…。



ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
  あ、こんなグレンの表情初めて見た気がします。
…じゃなくて!どうしてこんなことになってるんですか…?
あのっ、違うんですっ!
何を話そうとしても嫌いっていう言葉しか出てこなくてっ!
決してグレンのこと嫌いになったとか絶対に…っ
あぁやっぱり嫌いと連呼してしまいます違うんです大好きなんですーっ!

よかった…何か起きたことは分かって貰えたみたいです…
これ以上嫌いなんて言える訳がないので、治るまでは身振り手振りで
会話するしかないですよね…
治らなかったらどうしましょう…これ以上嫌いだなんて言いたくないです…

確かに一度家に帰って落ち着きたいです。
えっと…頑張れば夕飯分は…
つ、都合のいいように解釈しないでくださいーっ


夢路 希望(スノー・ラビット)
  ※外
クッキーを促され照れつつぱくり
美味し…え?
今、私、なんて?
変に思いつつも頷き
スノーくんもどうぞ、と勧めようとして出た言葉にびっくり
あ、あれ?
どうして…何を言おうとしても「好き」になってしまいます

異変を伝えようと頑張ってジェスチャー
食べてから(クッキー指差し)、上手く喋れません(口を指差し口ぱくぱく)
つ、伝わるかな?
…えっと…う、嬉しいけど、そうじゃなくて…(もじもじ

突然の質問には首傾げつつ素直に答える
(お菓子も)好き
(動物も)好き
…ス、スノーくんも…(ぼそぼそ

※自宅
…うぅ…どうすれば治るんだろう…
不安で彼の袖を掴み離せず
慰められている内にウトウト
早く…普通にお話しできるように、なりたいな…


リヴィエラ(ロジェ)
  クッキーを食べる側
好きしか言えなくなる

リヴィエラ:

ハロウィーンの屋台だなんて素敵ですね!
このクッキーも美味しそう…買ってくださって
ありがとうございます、ロジェ。

(クッキーを食べる)
好き!(美味しい!)
好き? 好き、好き好き~!?(あら? どうして好きとしか言えないの?)

好き…(ずっとこのままだったらどうしましょう…)(涙ぐむ)

好き、好き好き!(ロジェ、名案です!)

(ロジェの掌を取り、指先で『好き』と書いて微笑む)

好き!?(はわわわっ!?)


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  突然黙ってしまった羽純くんに驚き
彼が口を開いて何か言おうとしてるのが分かり、声が出なくなったんだと気付きます

急いで屋台で温かい紅茶を購入し、羽純くんへ
紅茶のカテキンって殺菌作用があって、風邪とかウイルスに効くんだって
原因は分からないけど、兎に角喉を大事にしなきゃ
喉も温めた方が…そうだ!喉の腫れを抑えるツボを刺激するのもいいっておばあちゃんに聞いた事がある
羽純くん、首を横に向けてくれる?浮き出た胸鎖乳突筋の斜め上…たぶんここ
どう?効いてるかな?…羽純くんの声が出ますように…祈りながら真剣に

え?羽純くん、どうして平気だって思うの?
何となく羽純くんの言いたい事、分かるなって
えへへ…ずっと一緒だもんね


●リヴィエラ(ロジェ)編

 今日は楽しいハロウィンです。リヴィエラと精霊のロジェは、A.R.O.A.に行った帰りに公園までお散歩デートをする事にしました。そこで二人は屋台のハロウィンクッキーを買ってベンチに座っておしゃべりを始めました。
「ハロウィーンの屋台だなんて素敵ですね! このクッキーも美味しそう……買ってくださってありがとうございます、ロジェ」
「いや、良いんだ。でも屋台というと、全部怪しく見えてしまうんだよな……この前の焼きそばの時のように、変な事にならないと良いんだが」
 以前の事もあってロジェは心配していますが、リヴィエラは可愛いおばけのクッキーに夢中で、早速一口食べました。
「好き!」
 美味しい、と言おうとしたのですが……リヴィエラは突如、ロジェに向かってそう言ったのです。
「好き? 好き、好き好き~!?」
(あら? どうして好きとしか言えないの?)
 リヴィエラの口から発するのは好きという単語だけ。
 リヴィエラは目を白黒させながらロジェの方を見ています。
「……思った通りだ」
 予想通りの展開に、ロジェは頭を抱えています。
「好き……」
(ずっとこのままだったらどうしましょう……)
 リヴィエラは涙ぐんでしまいました。
 好きというのは素敵な言葉ですが、一生、それしか言えないで生活するなんて、どれだけ不便な事でしょう。
「リヴィエラ、落ち着け」
 ロジェはリヴィエラの手を取って信頼出来るゆっくりした声で言いました。
「こういう時はほら、掌に指で文字を書けば伝わるだろう?」
「好き、好き好き!」
(ロジェ、名案です!)
 泣いていたリヴィエラはぱっと顔を輝かせました。
 そうして、ロジェの大きな手を取ると、手の甲に指先で『好き』と書いてにっこり微笑みロジェを見上げます。
 ロジェはたちまち真っ赤になってしまいます。
 彼だって、なんと書かれたのは分かるのですから。
「……それじゃ、言っている事と変わらないじゃないか……」
 照れて額を抑えながら言うロジェ。
 リヴィエラの方は微笑みながらロジェの方を見ています。
 ロジェは指の間からそのリヴィエラを見ていましたが、やがて顔を上げて真っ直ぐに彼女の顔を見つめます。
 穏やかに微笑んでリヴィエラの青い長髪をさらっと撫でて
「俺も君が好きだ。愛してるよ、リヴィエラ」
 そう囁きました。
「好き!?」
(はわわわっ!?)
 リヴィエラは裏返った感情豊かな声で『好き』と叫んでしまいます。
 まるでずっと思い悩んでいた期間を払拭するように。
『好き』と繰り返すリヴィエラ。
 数奇な運命は何度も何度もロジェとリヴィエラを弄びましたね。リヴィエラは何の罪もないお姫様。そしてロジェは不可抗力の復讐の騎士。
 二人はちゃんと想い合っているのに、過去の辛い出来事に揺さぶりをかけられて、気持ちを伝える事すら最近はとても大変でした。
 ですが、リヴィエラの心もロジェの心もお互いの心の上にちゃんとあるのです。
「好き、好き--」
 それならば今のうちに、何度でも、好きという気持ちを伝えてあげればいいのです。魔法のクッキーは口実に過ぎないかもしれないけれど、リヴィエラは何も嘘はついていないのですから。
「好き」
 何度でも何度でも、繰り返し、好きと伝え続ければ、どこかですれ違っていた気持ちも重なって、絡み合っていた糸もほぐれて、二人は夢想花の中で愛のくちづけをかわした時のような位置に戻る事が出来るかもしれないのだから。
 いえ。--もしかしたら、そのときよりもずっと幸せで心の通じ合う二人に成長出来るかもしれませんね。
「好き、好き、好き」
(好きです、ロジェ)
 しかしなんといっても、愛する婚約者の名前を呼べないというのは、本当に困ったものです。

●桜倉 歌菜(月成 羽純)編

 ハッピーハロウィン!
 桜倉歌菜と精霊の月成羽純は、ハロウィン当日、A.R.O.A.に書類提出の用事をすませて、その後、公園まで散歩に行きました。
 屋台で焼きたてのハロウィンクッキーを買い、ベンチに座って楽しくおしゃべりを始めます。
 そのとき、クッキーを食べた羽純が、不意に黙り込んでしまいました。
(おかしい、さっきまで何ともなかったはずだが……喉を傷めた訳でもないのに)
 羽純はぱくぱくと口を開けていましたが、結局、口を噤んで考え込む顔になりました。
 歌菜は突然黙ってしまった羽純に驚きます。
(もしかして……?)
 歌菜は羽純の様子から、声が出なくなったのだと気がつきました。
「羽純くん、ちょっと待ってて」
 歌菜は急いで屋台へ走って行き、羽純のために温かい紅茶を買って戻って来ました。
「紅茶のカテキンって殺菌作用があって、風邪とかウイルスに効くんだって。原因は分からないけど、とにかく喉を大事にしなきゃ」
 羽純は目を丸くしました。
(歌菜は俺が声が出ないのを風邪のせいだと思ってる?)
 心配そうに羽純を見つめる歌菜の目はとても真っ直ぐで、羽純は思わず否定をする気も失せてしまいました。
 素直に紅茶を受け取って飲みます。
(美味い)
 そうは思っても、声は出ないのでした。
「喉も温めた方が……そうだ! 喉の腫れを抑えるツボを刺激するのもいいっておばあちゃんに聞いた事がある。羽純くん、首を横に向けてくれる? 浮き出た胸鎖乳突筋の斜め上……たぶんここ」
 歌菜が羽純の首を指差してそう言いました。
 羽純は歌菜に言われた通りに横を向きました。
 すると、歌菜は彼の喉に指で触れて行って、真剣にツボを押し始めました。
 羽純はその指先が愛しくてなりません。
「どう? 効いてるかな?」
 そう問いかけて、歌菜は一生懸命、羽純の喉へのツボ押しを繰り返します。
 羽純は黙って歌菜の事を見ています。
(歌菜が居るから、俺はパニックにならずに済んだ。冷静になれば、焦る気持ちも今はない。きっと、これは一時のもので直ぐに声は出る様になるだろう……大丈夫だ)
 彼女を見ていると、自然とそんな気持ちが沸き起こってくるのでした。
「え? 羽純くん、どうして平気だって思うの?」
 歌菜はきょとんとして目を見開きました。
(……歌菜、何故俺の考えている事を)
 羽純もびっくりして目を見開きます。
 歌菜はその羽純の表情を見て、照れたように笑いました。
「何となく羽純くんの言いたい事、分かるなって」
 笑顔の歌菜。
 それを見て、羽純は安心と信頼の笑みを浮かべます。
(そうだな。ずっと……一緒だもんな。サンキュ)
 羽純の瞳の中に、笑顔の歌菜。
 歌菜の瞳の中に、笑顔の羽純。
「えへへ……ずっと一緒だもんね」
 そう告げて、歌菜は羽純の喉を優しく撫でました。
 指で触れた部分から伝わる体温が、彼の呼吸と鼓動を伝えてきます。
 羽純の呼吸。心臓の脈打つ音。それが指先から直接分かるということに、歌菜は知らないときめきを覚えます。
 考えて見れば、首は急所です。そこを無防備に触らせてくれる羽純。
 次第に赤くなってしまいながら歌菜がじっと羽純を見つめると、羽純にも、歌菜の想いが伝わったようでした。
 唇の動きだけで羽純は言葉を歌菜に伝えようとしてきます。
 声は出ないのだけれど。
『あいしてる』
 唇の動きだけでそう告げた羽純に、歌菜は感激を覚えるのでした。思わず飛びつきたくなるのだけれど、ここは外。公園です。
「……羽純くん、部屋に帰ろう」
 歌菜が言うと、羽純は頷いて立ち上がりました。どちらかの部屋に帰って、秘密のハッピーハロウィン。声が出なくたって、気持ちを伝える方法は沢山あります。

●淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)編

 今日はハロウィーンです。
 淡島咲と精霊のイヴェリア・ルーツは、A.R.O.A.の帰りにグリーンヒル公園まで散歩に行きました。屋台にはハロウィンのおばけや蜘蛛の巣の焼きたてクッキーが並んでいます。
「ハロウィンのお菓子って不気味だけど可愛いものも多いですよね。可愛いものを見つけるとつい買っちゃうんですよ。というわけで早速買ってしまいました。おばけのクッキー!ふふ、あそこのベンチで温かいお茶でも飲みながら一緒に食べませんか?」
「ハロウィンのクッキーか……サクが買ったおばけのクッキーは可愛いな」
 そういう訳で二人は公園のベンチに並んで座りました。
(可愛いといってるサクが可愛いというか)
 イヴェリアはそんな事を考えています。
(俺は甘い物は苦手だからお茶でもゆっくり飲んでいよう。クッキーを頬張る姿も可愛くて見ていて飽きない……)
 咲はハロウィンの話題を楽しげに話ながらクッキーを食べています。イヴェリアはお茶のボトルを片手にそれを聞いています。
(美味しいですねイヴェさん)
 咲は本当ならそう言うはずでした。
「好き」
 ところが口から出てきたのはその言葉でした。
「好き」
 イヴェリアは一瞬、耳を疑いました。
(サクが好きだといった。俺の事を、でいいんだよな。サクは照れ屋だからサクがそんな風に言ってくるのはすごく貴重で嬉しい)
 一方、咲はやっぱり動揺します。
(えっ? 好きって言ったつもりは…!?)
 しかし、何か喋ろうとすると、必ず「好き、好き」と言ってしまうのでした。
(う~恥ずかしいし。話が出来ないのも困るんですけど)
 一方、イヴェリアは冷静に考えていました。
(好きの連呼具合からいって、たぶん何らかの魔法やら薬やらの効果なんだろうと思うのだけど)
 咲は羞恥を感じながらも、ふと思いつきました。
(けど……普段は照れて好きってあまり言えないからこの機会に好きっていっぱい言っておこうかな)
 それで咲はイヴェリアの方を向いて、微妙に目をそらしながら言うのでした。
 普段は意識しすぎて空回りすることも多いのですが。
「好きですよ。好きです。大好きです」
 咲が好きと言うたびに、イヴェリアの胸が温かくなっていきます。
 頬が勝手に緩みます。
(こんなにも誰かの言葉に心が動く時がくるなんて思ってもいなかった)
 繰り返される好きという言葉がイヴェリアの胸に降り積もり、それが次第に温かい光を放つ言葉となって、イヴェリアの口から出てきます。
「好きだよ、サク」
 イヴェリアが素直な気持ちを微笑みながら伝えると、咲は視線をかすかにそらして顔を赤くしたまま、唇を噛んで硬直してしまいました。
(あ、今までで一番照れた顔だな)
 イヴェリアはそう気がつきます。
(恥ずかしいですけど。そんな風に嬉しそうな顔をされたら。もっと言いたくなっちゃいますよ……)
 咲は恥ずかしいのと嬉しいのとが同じぐらいの気持ちで、好きと言っていいのか、悪いのか、分からなくなってしまいます。
 イヴェリアがこんなに嬉しそうなのは、咲が普段から好きだと言っていないからでしょう。
 そのことを強く感じてしまって、咲は少し後悔し、それでかえって好きと言いづらくなってしまいます。この不思議な状況に甘えて、数だけ言えばいいのかな。
「……好き」
 だけど咲は、ようやく。イヴェリアに真っ直ぐに視線を向けてそう言ったのでした。
 嘘をついている訳ではないし、彼に自分の気持ちを分かって欲しいという事も、本当なのですから。
「うん。俺も。サク」
「……好き。好き……」
 公園の真ん中でそんなふうに言う事ではないかもしれないけれど。でも、なかなか正直な気持ちなんて伝えづらい事なのですから。
 不思議なハロウィーンの一日に、咲は一体、あと何回彼に好きだと伝える事が出来るのでしょう。
 それは出来るだけ本当の好き、が素敵ですね。

●ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)編

 今日はハロウィンです。
 ニーナ・ルアルディと精霊のグレン・カーヴェルは、A.R.O.A.の帰りに公園まで散歩デートに行きました。そこの屋台でハロウィンのクッキーを買って一緒にベンチに座ります。
 そこで、しばらくおしゃべりしていた二人なのですが。
 ニーナが一口、クッキーを食べた後、一言。
「嫌い」
「……は?」
 ニーナはぽかんとしてしまいます。
 自分の言った事にも驚きましたが、グレンの顔にも驚きました。
(あ、こんなグレンの表情初めて見た気がします。……じゃなくて! どうしてこんなことになってるんですか……?)
 ニーナは慌ててグレンに何かを伝えようとして、また一言。
「嫌い」
 グレンはなんだか面白い顔になっています。
(あのっ、違うんですっ! 何を話そうとしても嫌いっていう言葉しか出てこなくてっ! 決してグレンのこと嫌いになったとか絶対に……っあぁやっぱり嫌いと連呼してしまいます違うんです大好きなんですーっ!)
 ニーナは何とかそう言いたいのですが、口から出てくるのは本当に「嫌い」ばかりなのでした。
(ここまで嫌い連呼されるっつーのもなかなかないよな……このまま慌てふためいてる姿を見てるのも楽しそうだが、一旦撫でて落ち着かせるか)
 グレンはニーナを見ているうちにそう思いました。目の前で百面相をして身振り手振りをバタバタしているニーナを見ているうちに、これは何かトラブルが起こったと察知したのです。
「そんな泣きそうな顔して嫌い嫌い連呼したって説得力ねぇぞ。まともに話せなくなること以外に体でおかしなトコはねぇんだな?」
 グレンのその言葉を聞いて、ニーナは少しはほっとしました。
(よかった……何か起きたことは分かって貰えたみたいです……これ以上嫌いなんて言える訳がないので、治るまでは身振り手振りで会話するしかないですよね……治らなかったらどうしましょう……これ以上嫌いだなんて言いたくないです……)
 多少、落ち着いたニーナは、グレンに対してジェスチャーを繰り返して、嫌いだなどと思っていない事を伝えようとします。
 それを見てグレンは頷いたのでした。
「……ならいい。涙目で慌てふためいてるトコ見たら誰だって気付く。不安そうな顔するなって、状況からするとさっきのクッキーのせいだろうが……治らないような危険な物は売らねぇだろ、遅くとも明日には治るんじゃねぇの」
 日頃からニーナをからかって遊んできたグレンは、かなり平常心のある態度でした。ニーナはそんなグレンに涙目で信頼の眼差しを送ります。
「さて、こんな不便な状況で買い物は流石に大変だろ、明日に回してさっさと帰るぞ。夕飯の分の材料はあるんだろ?」
 グレンはそう言って立ち上がりました。
(確かに一度家に帰って落ち着きたいです。えっと……頑張れば夕飯分は……)
 借家に同居している二人です。夕飯はニーナの係でした。
「……なるほどデザート付きかー、そうかそうかー」
(つ、都合のいいように解釈しないでくださいーっ)
 ニーナのジェスチャーを勝手に解釈して、グレンは先に歩き出しました。ニーナは慌てて追いかけます。
 この後、グレンはニーナの魔法が解けるまで、いつものように散々からかって遊んだのでした。それでもニーナが本当に困る事や悲しむような事はしないのです。そのあたりの匙加減がよく分かっているのは、グレンだけかもしれませんね。

●夢路 希望(スノー・ラビット)編

 今日はハロウィンです。
 夢路希望とその精霊のスノー・ラビットは、A.R.O.A.の帰りにグリーンヒル公園までデートに行きました。公園にはハロウィンの屋台が沢山出ていて、二人はそこで焼きたてのクッキーを買い、ベンチに座って食べる事にしました。
「はい、あーん……焼きたてだから気をつけてね」
 スノーがクッキーを食べやすいように割って、あーんをしてくれます。
 希望は赤くなって照れながらも、ぱくり。
 美味しい、そう言おうとしました。
「好き」
 ですが、口から出たのはその言葉だったのです。
(……え? 今、私、なんて?)
 勿論、その声はスノーにも聞こえています。
「好き? ふふ……そんなに美味しかった?」
 希望は変に思いながらも頷きました。
 それから、スノーくんもどうぞ、と勧めようとして
「好き」
 また、そう言ってしまったのです。
 希望はクッキーを持ったまま赤くなって硬直してしまいます。
 スノーは頷く彼女に微笑んで、差し出されたクッキーを食べようとして、さすがに違和感を覚えます。
(なんだか言葉と仕草がかみ合ってないような……)
(あ、あれ? どうして……何を言おうとしても「好き」になってしまいます)
 希望は慌てますが声を発する事が出来ません。
「ノゾミさん?」
 すると、希望はまた好きと言っています。
「それはクッキー? それとも僕?」
 希望は異変を伝えようと頑張ってジェスチャーを始めました。
 食べてから=クッキーを指差し
 上手くしゃべれません=口を指差しぱくぱく
 そんな感じです。
(つ、伝わるかな?)
 スノーは首を傾げてジェスチャーをする希望を見つめています。
 不安げな希望がスノーを見つめながらまた「好き」と言います。
 スノーはひとりでにドキドキしてきます。
「……僕も好き」
 自分の好意を訊ねられたようで、スノーは思わずそう答えてしまいました。
(……えっと……う、嬉しいけど、そうじゃなくて……)
 希望はもじもじしています。
「ごめんごめん。クッキーを食べてからしゃべれなく……好きしか言えなくなったのかな」
 スノーはようやく状況を理解してくれました。
 それから悪戯心で質問を始めます。
「お菓子は?」
 突然の質問に希望は首を傾げますが素直に答えました。
「(お菓子も)好き」
「動物は?」
「(動物も)好き」
「……僕のことは?」
「……(ス、スノーくんも)……」
 希望は赤くなって下を向いて指先をつつきまわしながらぼそぼそと言いました。
「す、好き……」
 その言葉が聞けたのでスノーは本当にいい笑顔になってしまいます。
 解決法を聞こうとその後屋台の人に聞きましたが、何も分かりませんでした。スノーは不安そうな希望を慰め、彼女の自宅まで付き添います。
(……うぅ……どうすれば治るんだろう……)
 希望は不安でスノーの袖をつかんで離せませんでした。
 慰められているうちにだんだんうとうとしてきます。
(早く……普通にお話できるように、なりたいな……)
 そのまま希望は寝てしまい、起きた時には魔法は解けていました。
 スノーも希望も一安心です。
 とんだハロウィーンのハプニングでしたが、希望がここまで何回もスノーに「好き」を繰り返したのは初めての事だったかもしれません。
 そのことにスノーはとても満足で、希望がいっそう愛しくなったのでした。
(好きです、私だけの王子様になってください--)
 そういう想いを持っている希望は、魔法がかかったのがスノーの前でよかったと安心しています。なかなか言えないけれど、スノーにだったら、何回でも、好きと伝えたい気持ちは持っているのですから。



依頼結果:大成功
MVP
名前:ニーナ・ルアルディ
呼び名:ニーナ
  名前:グレン・カーヴェル
呼び名:グレン

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 森静流
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月25日
出発日 10月31日 00:00
予定納品日 11月10日

参加者

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