【ギルティの復活】 Cooking!!(青ネコ マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 テルラ温泉郷を中心に何かが起こっている。
 オーガ達が大量に現れその動きが激しくなり、また、オーガを信仰するマントゥール教団という邪教徒達の、A.R.O.A.を妨害するかのような動きも出てきていた。
 A.R.O.A.は今まで以上に忙しくなった。
 オーガ討伐にかりだされるウィンクルムもそうだが、その活動を支援、指示する職員達も当然忙しい。
 特に此処、テルラ温泉郷近くの支部は。
「だから、病院側の受け入れ態勢はどうなってるの?! ……はぁ? 聞いてない?! 貴方じゃ話にならないわ、院長を出しなさい!!」
「先輩、支部長は?!」
「まだ本部だ、どうした?!」
「他の支部からの応援要請です! 待機ウィンクルムがゼロになった、と!」
「すぐに移動可能な登録ウィンクルムのリストをその支部へ! 書類はこっちで作成!」
「すみません! 新規の討伐依頼です!! 場所はここから南西の集落、Dスケールオーガのヤグアート一体にデミ・オーガ・ウルフ三体が……」
 落ち着く時が無い。この数日ずっとこうだ。
 止む事の無い電話と訪問者。討伐依頼、救出依頼、護衛依頼。その準備と割り振り。それと並列して様々な調査。さらにそれぞれの案件の後処理。
「悪い、遅くなった。本部の会議で色々決まったぞ、一度作業中断、集合!」
 騒がしい支部へと戻ってきたのは、そこの責任者である男だ。
 職員が各々手を止めて支部長の下へと集まる。
 そして、支部長が口を開こうとした、その瞬間。

 ぐぅうぅぅぅ……。

 紛れも無い腹の虫が、盛大に鳴った。
「あんたねぇ……」
 さっきまで電話で病院と荒い交渉をしていた女性職員が、音の発生源である後輩の青年職員をじろりとねめつける。
「い、いや、だって!」

 ぐきゅうぅぅぅうぅ……。

 もう一度鳴る、腹の虫。
 今度はたった今、後輩をねめつけた女性職員が発生源だった。
「あれ? 先輩? あれぇ?」
 さっき腹を鳴らした青年職員は、何故か得意気な顔に変わって女性職員の顔を覗き込む。女性職員は無表情でその青年職員の後頭部をスパンと叩いた。
「朝も昼も食べてないのよ鳴って当然恥ずかしくない私間違ってない」
「俺だってそうっすよ!」
 無表情で言い訳を始めた女性に青年はムキになって噛み付く。
「……駄目だな、飯食おう。じゃなきゃ頭がまわらんだろ、お前ら」
 俺もだけど、と溜息混じりに支部長が言えば、職員達の間にほっとした空気が流れる。何も二人だけではないのだ、朝も昼も食べてないのは。食べる余裕なんて、何処にもなかったのだから。
「よし、書類持参で食堂集合。何か作ってもらおう」
「でも調理師の方達、もう帰ってしまいましたが」
「動ける奴らがいるだろう」
 くいっと支部長が顎をしゃくってある一角を指した。
 そこにいたのは……。
「……マジッすか?」
 任務から戻って一息ついている、もしくはこれから任務を受け取る予定の、ウィンクルム達。
「これから命の危機になるかもしれない相手に、ご飯作ってもらうとか……」
「何言ってんのよ、彼らが命の危機にならないように、依頼を見極めて調査をするのが私達の仕事でしょ? 私たちがちゃんとした頭で仕事しないと彼らが危ないのよ? つまり、巡り巡って彼らは自分の命の為に私達にご飯を作るのイケメンの手料理万歳カワイコちゃんの手料理万々歳」
「先輩、最後おかしいっす」
 ツッコミを入れながらも、青年職員の口内も手料理の受け入れに期待をし始めた。
 職員たちは疲れた身体と脳みそを何とか動かし、見目麗しいウィンクルム達を見てゆるりと微笑む。
「ほら、協力って大事だよね」
「あとあれだ、料理なんて今後も生きてく上で必要な事だし」
「そうそう、練習練習」
「不味くてもいい。ぶっちゃけ美男美女見て癒されればそれでいい」
「まぁ、ボクはご飯より寝たいわけですが」
「何でもいいから飯をくれ」
「同情するなら飯をくれ」
 口々に言う内容にあまり意味は無い。脳みそが疲れている時に出てくる言葉など戯言だ。
「おーい! お前ら、ちょっと頼みがあるんだけどー!」
 しかし、支部長の口から出された言葉は、明確な意図を含んでいた。

解説

お疲れのA.R.O.A.職員の皆さんに簡単なご飯、軽食を作ってあげてください。
材料も器具も基本的なものは食堂に揃ってます。
会議をしながらなので、片手で食べられるものが喜ばれそうです。
例え失敗しても、頑張ってる様子を見せてくれれば勝手に癒されるようです。
勿論、皆さんも作ったご飯で食事をとってもらって構いません。


ゲームマスターより

イベントシナリオです。
前線で戦ってる人もいれば、後方支援で頑張る人もいるという事で。
そして、切羽詰っていても休憩や息抜きは必要という事で。
何やら世界が不穏な様子ですが、今は一息ついて仲良く料理をして下さい。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

八神 伊万里(アスカ・ベルウィレッジ)

  皆さん、いつもお疲れ様です。
素人の腕前ですが、いつも通り全力で作らせていただきます!

エネルギーを取るにはやはりご飯、白米です。
会議のおともにするならおにぎりにするのがいいでしょうね。
鮭とわかめ、筍と山菜の二種類の混ぜご飯を握りましょう。
まずはご飯を炊いて、その間に具を…下ごしらえって、案外時間がかかるものなのですね…
アスカ君がいなかったら、間に合わなかったかもしれません。
ご飯と具を混ぜたら握って、ラップに包んで配膳します。
さあ、どうぞ召し上がって下さい。

ずっと考えていたんです…私にはこれといった才能もありません。
でも、後方の現場を見てたら、少し掴めた気がします。
何ができるのか、何をすべきかが…



メーティス・セラフィーニ(ブラウリオ・オルティス)
  腹が減っては何とやらですよね、私に出来ることなら頑張ります

疲れたときには甘いものです!
私たちはスイーツサンドを作りましょうか
オルティスさん料理できるんですか?

白いふわふわのパンを用意
カッテージチーズとハチミツをしっかり混ぜる
よく混ぜるとクリーミーになるんですよ
これをパンにたっぷり塗って、その上にスライスしたバナナ
反対側のパンにブルーベリージャムを塗って挟んで完成です

職員さんに笑顔で手渡し
お疲れ様です、いつもありがとうございます
自分達が作ったのも食べてみましょうか
悔しいけど私のより美味しいです…
そうなんですか?
…覚えておこうかな

彼らは彼らの戦いをしているのですね
なんだか眩しいです
それなのに私は…


Elly Schwarz(Curt)
  【心情】
いつもお世話になっているA.R.O.A.職員の皆さんを
僕達で元気づけましょうね!

しかし僕は皆さんの中でも
美女、美少女枠からはみ出てると思うんですけど、大丈夫なんでしょうか。
いや、とにかく料理の方を精一杯作れば良いですよね。

【メニュー】
僕達が作る物:サラダ系のサンドウィッチ
共通飲み物:ハーブティー、緑茶、珈琲

【行動】
サンドを作る。
料理の配膳に余裕が出た場合、他の方のお手伝いにも廻ります。

クルトさんもお世話になってるんですから
下衆い態度を取ってはいけませんよ?
って、あれ……クルトさん、何をやって??
あ、ありがとうございます……。

その笑顔はやめた方が……って、何故!?

【スキル】
薬学、植物学



イフェーネ・サヴァリー(レイノル)
  料理は苦手ではないはずなので大丈夫かと
美味しく作れるよう頑張りますね

私達はバナナマフィンにしましょう
砂糖の甘さよりもバナナの甘さを味わえるのが理想ですね
材料は他にホットケーキミックス・砂糖・バター・牛乳・バナナ
中に入れるバナナを切ったら後は混ぜるだけですから簡単ですね
カップに8分目を目安に流し込んでオーブンで加熱します
最後に輪切りにしたバナナを飾り付けて完成です

まあ、レイノルがそんな積極的に手伝ってくれるとは思いませんでした
私嬉しいです!

完成したら配膳ですがその前に味見を
どうでしょうか
美味しいですか?

料理って中々楽しいですね
今度は別のものも作ってみたいです
まあ、またお手伝いしてくれるのですか?



■戦場は厨房
 ウィンクルム達は進む、A.R.O.A.支部の食堂厨房へ。
「腹が減っては何とやらですよね、私に出来ることなら頑張ります」
 笑顔で言うのは『メーティス・セラフィーニ』で、隣を歩くパートナーの『ブラウリオ・オルティス』は同意する様に微笑んだ。
「いつもお世話になっているA.R.O.A.職員の皆さんを、僕達で元気づけましょうね!」
 無表情ながらもやる気のある声で『Elly Schwarz(エリー シュバルツ)』が言えば、『Curt(クルト)』が溜息で答える。
「料理は苦手ではないはずなので大丈夫かと。美味しく作れるよう頑張りますね」
 やはり『イフェーネ・サヴァリー』がやる気に溢れて進めば、『レイノル』は仕方なさそうについて行く。
 厨房へ入る直前、食堂に集まった職員達に声をかけたのは『八神 伊万里』だ。
「皆さん、いつもお疲れ様です。素人の腕前ですが、いつも通り全力で作らせていただきます!」
 生真面目に挨拶をすると、他のウィンクルム達もお辞儀をする。そうして伊万里も『アスカ・ベルウィレッジ』と厨房へ足を踏み入れた。
 厨房にある材料を見てそれぞれ作る料理を決めていく。
 伊万里は鮭とわかめ、筍と山菜の二種類の混ぜご飯のおにぎり。アスカはチューリップのから揚げとスティックサラダと特製ディップ。
 エリーとクルトはサラダ系のサンドウィッチに、お手製のハーブティー。
 メーティスとブラウリオはスイーツサンドで、それぞれ違うものを作るようだ。
 そしてイフェーネとレイノルはバナナマフィンを作る事にしたのだった。


 ところで、社員食堂というものは大概、カウンターを挟んで食堂から厨房が丸見えだ。
 そして精霊というものは、人間よりも基本的な身体能力が高い。
 それは例えば、聴力もそうだ。
「いいっすねこの光景。はい、資料です」
「俺結婚する、誰かが支えてくれるっていい。始めましょうか」
「献身的に家事やってくれる嫁じゃなきゃ意味ないぞ。じゃあまず本部会議での報告だ」
「私は献身的に家事やってくれる婿が欲しいんですけどねぇ。記録開始します」
 職員達は厨房のウィンクルム達を見ながら仕事をこなしていく。
 奇妙な状況だったが、皆疲れておかしくなってるので誰も何も言わない。

 そう、おかしくなっていたのだ。

 決して大きくはない彼らの声を、しかし精霊達の耳は自然と拾ってしまう。
 この後、精霊達が人間の壊れっぷりを聞いてしまうなど、一体誰が予想出来ただろうか。


■感情は無自覚
 伊万里とアスカは、実は任務後の報告の為にここへ寄っていた。
(任務帰りで俺も腹減ってるんだけど……それはみんな同じか)
 料理に覚えのあるアスカは、器用に鶏の手羽をチューリップ型に整えていく。
 骨から腱と肉を切り離したり、ずらしたり、さらにはくるりと裏返したり。そうして片手でも食べやすい、一口サイズの骨付きから揚げの原型が出来上がる。
「下味よし、油の温度も、よし。そっちは?」
「ちょうど混ぜ終えて握り始めたところです」
 伊万里は手早く握りながら答える。ふわりと鮭とわかめの塩っ気のある香りが鼻孔をくすぐり、アスカの腹をぐぅと鳴らす。
「下ごしらえって、案外時間がかかるものなのですね……アスカ君がいなかったら、間に合わなかったかもしれません。ありがとうございます」
 鮭を焼くにしても筍と山菜の味付けにしても、アスカのアドバイスや手助けがなかったら、まだ終わっていないか、終わっていてもここまで美味くならなかっただろう。
「別に、俺が美味いもん食いたかっただけだ。感謝してるならそのかわりちょっと味見させろよ、もう腹減りすぎて限界……」
 いかにも力の入っていない溜息をつくと、アスカは何処かぼんやりとしながら、一番近くのおにぎりに目標を定める。
「え」
 伊万里の妙に間の抜けた声が出たのと、アスカが伊万里の手を掴み、伊万里の手から直接おにぎりに齧り付いたのは同時だった。
「うん、美味い」
 ようやくありつけた食べ物に、アスカは上機嫌で言うが、伊万里の反応は無い。
 どうしたのかとそちらを見れば、大きな目を更に見開いて固まっていた。
 そこでようやくアスカも自覚する。自分が今取った行動を。
「―――ッあ、わ、悪ぃ!!」
 慌てて掴んでいた手を離して距離をとるが、その顔は赤い。
 伊万里もようやく我に返り、
「い、いえ! あの、そうくると思わなくてびっくりしただけでえっと大丈夫です!!」
 混乱気味に早口で喋る。
 指先に、一瞬、アスカの唇が触れた気がする。
(ただの接触じゃないですか、大体トランスの時は私の方から頬にキスして……キ、キス、して……!)
 過去の自分の行動を思い出したら急激に恥ずかしくなり、伊万里の顔もみるみる赤くなる。
「りょ、料理! 続けましょう!」
「お、おう!」
 むりやり作業を再開させる。お互い真っ赤な顔のまま、背を向けて。指先を熱くさせて。

「……ッ甘酸っぺぇぇぇッ!!」
 耐え切れなくなった職員達が、小声で叫ぶという器用な事をした。
「可愛い、可愛すぎる、伊万里ちゃん押し倒したい!!」
「私はアスカ君を手篭めにしたい!!」
「いっそ二人ともうちの子になればいい」
「支部長しっかり!!」

「ここの職員は……ッ」
 さっきとは別の意味で顔を赤くして身体を震わせるアスカに、伊万里はどうしたのかと声をかける。
「……アンタは絶対に一人でここの職員に話しかけるな」
「え? でもさっきも挨拶してしまいましたが……」
「いいから! 絶対に一人で話しかけるな!」
「は、はい!」


■感情は迷走
「しかし僕は皆さんの中でも美女、美少女枠からはみ出てると思うんですけど、大丈夫なんでしょうか」
 特に卑下するでもなく、淡々と当たり前の事実のようにエリーが言った事で、クルトは思い切り顰め面になってしまった。
 クルトから見ても世間一般から見ても、エリーは確実に美少女枠に入っている。
 ただ恐ろしいほどにその自覚が無い。
(……その辺りエリーは質が悪いんだよ)
「いや、とにかく料理の方を精一杯作れば良いですよね。クルトさんもお世話になってるんですから、下衆い態度を取ってはいけませんよ? って、あれ……クルトさん、何をやって??」
 サボっているだろうと予想して振り返れば、そこには野菜を洗っているクルトがいた。
「野菜を切るのは俺がやろう。エリーはパンに挟むまでそこで見ていろ」
「あ、ありがとうございます……どうしたんですか?」
「一応世話になっているからな」
 ちなみに嘘である。
 いや、その気持ちも少しあるが、率先して調理を始めた理由はひとえに、エリーの手料理を他の奴らに食べさせたくない、というものだった。
 そんな事実を知らないエリーは、食パンにマーガリンを塗りながらクルトをまじまじと見る。
 トマトをスライスしているクルトは、背筋がまっすぐに伸びていた。
(クルトさんて下衆下衆しい下衆ですけど、立ち振る舞いが綺麗だったりするんですよね)
 黙って立っていれば文句なしの美青年だ。
 誰かを馬鹿にしたり騙す時に使う、礼儀正しい言動。普段からそうだったら。
(そうしたら僕だって、もっと―――……もっと?)
 自分の思考に疑問符が浮かび、エリーは首を傾げる。
 と、その時、トマトを切り終えたクルトが振り返った。
 目が合うと、クルトはにやりと意地の悪い笑みを浮かべる。
「惚れ直したか?」
「いいえ。というか、それだと僕がクルトさんに惚れてる事になるじゃないですか」
 さっき浮かんだ疑問符など綺麗に消え去って、エリーは立て板に水の勢いで返す。
(まぁ、クルトさんはこういう人ですよね)
 悲しいかな、もはや下衆ではない礼儀正しいクルトなど違和感でしかない。それ位には彼に慣れてしまった。
「うにっ?!」
「良い子ちゃんの頬は柔らかいけどあんま伸びないなぁ」
 クルトがいい笑顔でエリーの頬をむにむにと引っ張り始める。若干怒っているように見えるのは気のせいか。
「い、いひゃいでふ! やめ、やめて下さい!」
 頬を掴むクルトの腕をバシバシ叩いて離させると、エリーはキッと睨んで「どうしてそういう事をするんですか!」と怒り出す。
 しかし、身長差のせいでただでさえ上目遣いなのが余計に強調され、クルトは、いい眺めだ、とにやにや笑うだけだった。

「エリーちゃぁぁぁあぁん!!」
「かわいー! かわいー! 持ち帰りたーい!! 持ち帰っていいでしょー?!」
「ヤバイ、上目遣いヤバイ、攫ってくれと言ってんだよな攫うぞ俺は!!」

 もうちょっとからかおうかと考えていたクルトの耳が、ろくでもない声を拾う。
 クルトは舌打ちをしてくるりと食堂の方を振り返る。
 睨み付けて何か言ってやろうかと思ったその瞬間。

「あ、こっち向いた、怒ってる? ヤキモチ? ヤキモチ焼いちゃった?」
「やーん、カワイイ! クルト君もかーわーいーいー!!」

 あ、こいつら駄目だ。
 即座に判断したクルトは、エリー曰く「胡散臭い笑み」に切り替えて、無駄に礼儀正しく「まだ時間がかかりますので、どうぞ業務を続けて下さい」と声を張り上げた。
「妙に丁寧ですね。でもその笑顔はやめた方が……」
 いつものエリーの苦情が聞こえる傍ら、クルトの耳は性懲りも無い職員達の「ヤキモチかわいー」「イケメン引っ込めー」「美少女よこせー」「ていうか二人ともうちの子になれー」という声を聞き取っていた。
「エリーの料理は全部俺が食っていいと思う」
「って、何故!? 根底をひっくり返さないでくださいよ!」
「大丈夫だ、奴らはきっとメシを食わなくても元気だ」
「そんな訳無いでしょう!」


■関係は喜劇
 人は食べなければ生きていけない。
 それは分かるが、何故自分達が作らなきゃいけないのか。
 レイノルは心底やる気がなさそうにホットケーキミックスの袋を開けた。
(まあイフェーネがやる気になってるみたいだし、仕方ないけど俺も手伝うか)
 隣で張り切ってバナナをまな板に置いている神人を見て、気持ちを切り替えようとした。
「っておい、お前その包丁の持ち方はなんだよ!?」
「え、持ちやすいから」
「逆手持ちが?! やめろ、見てる方が怖いから!」
 別の意味で切り替わった。
 慌てて包丁を取り上げたレイノルは開けたばかりのホットケーキミックスを押し付ける。
「俺が切るから、イフェーネは混ぜてくれ」
「まあ、レイノルがそんな積極的に手伝ってくれるとは思いませんでした。私嬉しいです!」
 俺もまさか積極的に手伝わざるをえないとは思わなかった。
 そんな本音は言えず、レイノルは乾いた笑いを零しながら、ごく普通にバナナの皮をむいてごく普通にバナナを切り出した。
「砂糖の甘さよりもバナナの甘さを味わえるのが理想ですね。材料はバナナの他にホットケーキミックス・砂糖・バター・牛乳・バナナ」
「おい、バナナ二回目」
「中に入れるバナナはレイノルがやってくれてるから、他を混ぜましょう」
「それ塩ォ!!」
 レイノルは慌ててボウルも取り上げる。間一髪で間違った白い粉は入らなかった。
「わかった、俺が混ぜるからオーブン温めておいてくれ。それは流石にできるよな?」
 頭がくらくらしてきたレイノルだったが、イフェーネは次々と仕事を任されることが嬉しいらしく、楽しそうに「ええ、任せて!」とオーブンの前へ向かった。
 ようやく一息ついて、正しい材料をざっくりと混ぜ合わせていくレイノルに、イフェーネが可愛らしく尋ねた。
「オーブンの中に爆弾を入れれば手っ取り早く温まるかしら?」
「俺に全部やらせていただけませんかやらせて下さいお願いします!!」
 普段使わない口調で叫べば、イフェーネは「まぁ、本当に今日は積極的ね!」と喜んだ。

「もうこのままずっと二人を見続けたい……ッ」
「わかる、あそこには幸せが詰まってる……ッ」
 愉快さと微笑ましさをギュウギュウ詰め込んだような二人のやりとりに、職員達はプルプルと身体を震わせながら顔をにやけさせる。
「もうあれだよね、セットだよね、セットで愛でたいよね」
「イフェーネちゃんの世話したい! レイノル君を慰めたい! とにかく愛でたい」
「ふたりがうちの子になれば……!」
「だから! 支部長!!」

「何だこの羞恥プレイ!」
「どうしました、レイノル?」
 わっ! と顔を覆ったレイノルを、イフェーネが心配そうに覗き込む。
 そんな二人の様子さえ肴にしているのか、レイノルの耳には更に「愛でたい」「愛でたい」「愛でまくりたい」という声が飛び込んできた。


■関係は不明確
「そういえば、オルティスさん料理できるんですか?」
 調理を始める前にメーティスは尋ねる。
「俺は一人暮らしだからね。メーティスより上手いかも」
 ブラウリオは最後だけメーティスを見てにやりと笑った。
 料理は出来る。だが、上手いと言い切れないメーティスは、むぅ、と唇を尖らせた。ブラウリオはそれを見て喉を震わせて笑う。
 そんな二人が作ったものは。
 メーティスは白パンのチーズクリームサンド。
 ふわふわの白パンを上下で切り分け、よく混ぜてクリーム状になったカハチミツ入りカッテージチーズをたっぷりと塗り、その上にスライスしたバナナを。そして反対側のパンにはブルーベリージャムを塗って重ねたものだ。
 ブラウリオが作ったものはティラミスサンド。
 食パンを三枚使って作ったそれは、見た目は本物のティラミスにしか見えない。
 一枚は砂糖入りの濃い珈琲に浸し、二枚にマスカルポーネチーズに砂糖と牛乳を混ぜたクリームを塗ってココアパウダーをふるい、それで珈琲に浸した一枚を挟んだものだ。
 メーティス達とエリー達の料理の方が先に仕上がったので、メーティスとブラウリオは出来上がったものを配膳しようと、エリーはハーブティーと緑茶と珈琲を入れようと動き出した。
 作られた沢山のサラダ系サンドウィッチとスイーツサンドを持って食堂へ行く。
 職員達の打ち合わせが止まり、感動の声が漏れる。
「お疲れ様です、いつもありがとうございます」
 メーティスが笑顔で沢山盛られた皿を手渡す。
「どうぞ、いつもありがとう」
 ブラウリオもまたにっこりと微笑んで渡す。
 そして二人はエリーが入れている飲み物を取ってこようと厨房へ戻った。

「女神が女神過ぎて辛い」
「イケメンがイケメン過ぎて辛い」
 職員達は感無量の笑顔のままスゥっと涙を流す。
「何あの笑顔、眩しい、眩し過ぎる……! よし、二人とも養うから結婚しましょう!!」
「俺だって嫁に欲しいわこんな労わってくれるなら!! 結婚して下さい二人とも!!」
「もう皆うちの子になればいいのに」
「支部長ぉぉおぉぉぉ!!」

「? 何か叫び声が……」
「気にしなくていい」
「え、でも……」
「メーティスは何も気にしなくていい」
 人間、疲労がピークになるとここまで壊れるのか。
 ブラウリオは目頭を押さえながら、手遅れだと言わんばかりに首を横に振った。

■愛情は御馳走
「完成したら配膳ですがその前に味見を……どうでしょうか、美味しいですか?」
 イフェーネはまるで自分が作ったかの様に言ってレイノルに感想求めるが、香ばしい匂いのバナナマフィンはほとんどレイノルによって作られた。
 それでも最後に輪切りのバナナを飾りつけたのはイフェーネで、齧り付いたレイノルの感想を今か今かと待ち構えている。
「うん、うまい。これなら人に出しても問題ないな」
 俺が作って本当によかった。
 心から安堵してレイノルは肩の力を抜いた。

「お待たせしました。さあ、どうぞ召し上がって下さい」
 二種類のおにぎりと、チューリップのから揚げにスティックサラダが運ばれる。狐色のしっとりしたバナナマフィンも運ばれる。
 既にサンドウィッチを貪っていたものの、それが呼び水になって更におなかをすかせていた職員達は、出された新たな料理にもう一度歓声を上げた。
 笑顔で食べていく職員達を見て、ウィンクルム達もよかったと微笑む。
「自分達が作ったのも食べてみましょうか」
 メーティスが言うと、皆待ってましたとばかりに食べ始めた。

「悔しいけど私のより美味しいです……」
 ブラウリオの作ったティラミスサンドを食べたメーティスは、けれど言葉に反して蕩ける様な笑顔で味わっていた。
 そんなメーティスを見守りながら、ブラウリオは「甘いの苦手だけどメーティスの作ったのは美味しいな」と嘯く。
「そうなんですか?」
 驚いたが、そういえばこのティラミスサンドは甘さが控えめだ。
(……覚えておこうかな)
 明確な理由はまだ無いまま、何となく、メーティスはブラウリオの言葉を覚えた。

「料理って中々楽しいですね。今度は別のものも作ってみたいです」
 バナナマフィンを頬張っての発言に、レイノルは下ろした筈の肩の荷が戻ってきた感覚に襲われた。
「イフェーネは今後一人で台所立つなよ、誰かに手伝って貰え」
 心からの忠告に、けれどイフェーネはぱっと顔を輝かせる。
「まあ、またお手伝いしてくれるのですか?」
 真っ直ぐに自分を見つめるこの存在への接し方を、レイノルはまだ戸惑いの中で考える。
 考えて考えて、そんなに悪い気分じゃないまま、溜息混じりに「手伝うよ」と返事をしていた。
 顔が笑みの形になっていたのは、その返事を受け止めたイフェーネしか知らない。


 食事は進む。打ち合わせも進む。
 笑顔だった職員達も次第に真剣な顔つきに変わっていく。いや、戻っていく。
 それでも全ての皿が空になった時、職員達は笑顔でウィンクルムへ「ご馳走様でした」と感謝した。
 アスカ特製ディップとエリーお手製のハーブティーは特に好評で、レシピを聞かれたりしていた。
「満たされたし癒されたよ。今度はこっちが返す番だな」
 そう言って職員達は自身の戦場である職場へと帰っていった。


■未来は未定、希望は今
 片付け終わった伊万里は、職員達がいた場所を見つめて動きを止めていた。
「どうした?」
「考えていたんです……私には、これといった才能もありません」
「……アンタはいつも一生懸命だろ。それも才能の一つなんじゃないか?」
 零れたアスカ本音を、伊万里は気遣いだと思い苦笑する。
「ありがとうございます……でも、後方の現場を見てたら、少し掴めた気がします。何が出来るのか、何をすべきかが……」
 言って、伊万里は顔を上げてアスカに真っ直ぐ向き合う。
「アスカ君、私は戦いの場で、アスカ君の目や耳や頭になる事は出来ませんか?」
「え?」
「兵法書は読み漁ってるんです。でももっと、指揮、というと偉そうですけど、事前の作戦だけじゃなく、その場で臨機応変の補助とか……上手く言えないんですけど……」
 何が出来るのか。何をすべきなのか。
 そして。
「同じ場所で、私も戦いたいんです」
 何が、したいのか。
(正直、俺が守ってるんだから普通に暮らしてればいいって思ってたけど……神人なりの使命感ってのもあるのかな……?)
 そこまで考えて、そうではないだろうとアスカは否定する。
 胸の中に薄っすらと光が射す。
 神人だからじゃない、八神伊万里だからこその使命感なのだろう。
(だからこそ、俺は……守りたいんだ)


 片づけを終えたメーティスは、食堂に一枚落ちていた紙に気付いて拾う。
 それはさっきまで職員が打ち合わせの資料として使っていた一部だ。
 記載されている情報は多く細かく、そこに更に意見や追加事項が書き込まれていた。
(彼らは彼らの戦いをしているのですね。なんだか眩しいです。それなのに私は……)
「メーティス? どうした?」
「あ、忘れ物があったので、届けようかと」
 振り返るとブラウリオいて、優しく「そうか」と微笑んだ。
 その優しい笑みに、つい最近行った翠薫る森を思い出す。
 ただ戦う事を怖がっていたメーティスに、敵を倒すだけが『戦い』じゃないと、そう言ってくれたブラウリオは、守る力を持つ者だ。
 ここで寝る間も惜しんで仕事をしている職員達は、調べ、備え、判断する力を持つ人達。
 ―――私が今日やった事はなんだろう。
 メーティスは考える。
 倒す力、守る力、調べる力、備える力、判断する力。
 ……支える力、癒す力。
「私に出来る、戦い……」
 何かを教えてもらった気がするメーティスは、ぽつり、小さく呟いた。




依頼結果:大成功
MVP
名前:八神 伊万里
呼び名:伊万里
  名前:アスカ・ベルウィレッジ
呼び名:アスカ君

 

名前:メーティス・セラフィーニ
呼び名:メーティス
  名前:ブラウリオ・オルティス
呼び名:オルティスさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 05月13日
出発日 05月19日 00:00
予定納品日 05月29日

参加者

会議室

  • エリーさんありがとうございます。
    では飲み物はお任せ致しますね。
    ハーブティーとコーヒーがあればより美味しく頂けそうです。

    私も自分の分は自分で配膳するつもりでしたが、お手伝いに行くのは(字数的に)厳しいですね…。

  • ありがとうございますシュヴァルツさん!
    私自身は苦いのが苦手なので珈琲は飲まないのですが、一緒に飲むと美味しいと聞きましたので。

    私のほうはオルティスさんが、配膳の手伝いが必要なら回ってくれそうです。
    私はちょっと手間取りそうで…(訳:文字数つらい)

  • [11]八神 伊万里

    2014/05/17-21:54 

    エリーさん、ありがとうございます。
    なんとか文字数を捻出して、自分の分の配膳は出来るようになりました…!

  • >八神さん
    僕の方はまだ余ってますので、大丈夫ですよ!

    >メーティスさん
    やはり甘いものには珈琲ですよね!早速記入しておきます!

    配膳は各自にしていたのですか!
    では僕の方は「自分の配膳に余裕ができたら、他の方の配膳も手伝う」と記入しておきますね。

  • 配膳…自分で作った分は自分で手渡しするつもりでした!
    手が空いたらお手伝いに回ってもいいのですが文字数が…うう

    飲み物は、そうですね
    甘いものにはコーヒーをと思うのですがどうでしょう?

  • [8]八神 伊万里

    2014/05/17-09:23 

    あ、配膳…!
    それではすみませんがエリーさんにお願いしますね。
    私、もう文字数がギリギリなので……

  • そう言えば調理の手が空いたら
    配膳にも廻った方が良いんですかね?ふとした疑問なんですけど。
    その場合、僕は飲み物の配膳に廻りますね。

    あと字数が余ってしまったので、飲み物に関しても記入しようと思うんです。
    僕としてはハーブティーを用意しておこうかと思っていますが
    他にも用意した方が良いものがありましたら、気軽に言って下さいね。

  • 皆様初めまして、イフェーネ・サヴァリーと申します。
    パートナーはテイルスのレイノルです。
    今回はよろしくお願い致します。

    今のところ私達はマフィンを作ろうかと思っています。
    どんな味にするかはまだ決めかねていますが、主食系は揃っているようなので甘めに作る予定です。
    私達はお互い料理は得意という訳でもないですが、頑張って作ってみますね。

  • メーティスさんもサンドウィッチでしたか!何だかすみません。
    ……では僕達はサラダ系(レタスやトマト、ハムを挟んだもの)のものを作りますね!

  • サヴァリーさん初めまして。シュヴァルツさんはお久しぶりです。八神さんは依頼では初めましてですね。
    メーティス・セラフィーニと申します。精霊はテイルスのオルティスさんです。
    みなさまよろしくお願いいたします♪

    私たちはサンドウィッチを作ろうかと…って、読み込みしたらシュヴァルツさんの書き込みがっ
    シュヴァルツさん達はどのようなサンドウィッチを作られます?
    私たちはデザートタイプの甘いサンドウィッチを作ろうかと思っているのですが…!

  • 作るものに関して抜けてましたね。すみません。
    僕達はサンドウィッチを作りたいなと思っています。
    料理に関しては(スキルがないので解りませんけど)可もなく不可もなくなんですが
    感謝を込めて作りたいと思っています。宜しくお願いします。

  • [2]八神 伊万里

    2014/05/16-00:33 

    初めまして、エリーさんはお久しぶりです。八神伊万里です。
    パートナーの精霊はテイルスのアスカ君です。

    料理は私よりパートナーの方が上手なのですが…
    いつも後方で頑張ってくれている方たちのためにも頑張ります。
    会議中に手軽に食べられるものがいいとのことなので、ここは定番でおにぎりを作ろうかなと思っています。
    アスカ君は揚げ物にするみたいですね。
    では皆さんよろしくお願いします。

  • しゅ、瞬殺だったようですね。参加出来てて良かったです。(ホッ)
    八神さん、メーティスさんはお久しぶりです。イフェーネさんは初めましてですね。
    改めまして僕はElly Schwarz、エリーと言います。
    精霊はディアボロのCurt、クルトさんです。

    いつもお世話になっているA.R.O.A.職員の皆さんを、僕達で元気づけましょうね!


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