読書の秋(梅都鈴里 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「ねえちょっと」
「んー……?」
「今日この後カフェに行くんじゃなかったの?」
「うん……」

 話しかける神人に、精霊は生返事ばかりだ。
 生憎の雨だからだと、立ち寄った図書館で、彼はすっかり本の虫と化してしまった。

「それ面白いの?」
「うん、面白い」
「どこが? どんな風に?」
「うーん……読んで見る?」
「いや……わたしはあなたから教えてもらいたいんだけど」
「そっか……」
「………」

 彼はすっかり本の世界の住人だ。
 しびれを切らして、神人は立ち上がった。

「もう、知らないからね!」
「うん」
「一人で行っちゃうからね!?」
「うーん……それは困る」
「きゃっ!?」

 話を聞いていなかったと思ったら聞いていたようで、ぐい、と腰を引かれて肩口に抱き寄せられてしまった。
 片手で本を読みつつ、片手間に頭を撫でている。とはいえ彼女にはやる事がない。
 頭を撫でてくれる手は心地いいけれど、ずっとこの状態なのはつまらない。

(どうしようかなあ……)

 きょろ、と館内を見回せば興味を惹きそうな本はたくさんある。折角二人で居るけれど、自分も何か一冊くらい読んでもいいかもしれない。
 彼の手元を覗き込めば、彼の趣味に見合うたくさんの事。興味はなかったけれど、コレを期に一緒に知ってみるのもいいかもしれない。
 はたまた無理矢理連れ出して、自分の好きな場所に引っ張り出すのでも。
 ハロウィンも近いから、あんまり振り向いてくれない彼に悪戯を仕掛けるのもいいかも。
 さて、あなたはどんな一日にする?

解説

雨が降っていたので図書館で本を読みましょう、というだけのシナリオです。
無理に本だけ読まなくてもいいです。途中で出てどっか行っても。
冒頭は一例なので、彼女が本の虫になるでも、二人で最初から何か読んでてもいいです。
読むジャンルはなんでもかまいません。漫画でも小説でも図鑑でも。
とにかく、図書館での二人の一日をご自由に過ごしてください。

・プランにいるもの
何をどんな風に読むのか
その際のパートナーのリアクション、など。

・個別描写となります。

・入館料で300jr.消費しました。


ゲームマスターより

お世話になります、梅都です。
読書の秋っぽいものが書きたいなぁ、と思い立ったシナリオです。
ただ図書館に居るのでも、彼と二人でデートとなると、神人さんによって違ったアクションになるのかなぁ、と。
趣味や知識を共有したり、知ってもらったり。
相談期間が短いのですが、よければお気軽にご参加ください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  シリウスの姿が見えないことに気づき探す
ほとんど人のいない書架の隅で立って本を読んでいるのを発見
薄暗い場所 斜めに光に照らし出された彼の横顔が綺麗で どきりとする
思いのほか長い睫毛に

…男の人なのに綺麗って ずるい…

呟きにこちらを向いた彼と目が合い なんでもないと首を振る
寄っていって彼の手元をのぞき込み

A.R.O.Aの本?勉強熱心なのね
淡々とした説明には ふうんと首を傾げ
行くか と本をかけられ笑顔で頷く

あのね 併設されてる喫茶店のメニューが…!?
薄暗いせいで足元の台に気づかずバランスを崩す
落ちてくる本に小さく悲鳴 目を閉じ

…痛く、ない…?

そろそろと目を開けると自分を庇う彼の姿
鼻先にあった彼の顔に 真っ赤に


リヴィエラ(ロジェ)
  リヴィエラ:

ロジェ…いいえ、ロジェ様。
私はもう逃げたりしません。シエンテ家の娘として申し上げます。
私をどうぞ処刑なさってください。
貴方の復讐の道具としてお使いください。
私には、それでしか貴方に償う事ができない…(涙を零す)

(ロジェから童話を受け取り、ページを開く)
『お姫様は、それから騎士と一緒に末永く幸せに暮らしました…』
…私はこのお姫様のように、幸せな終わり方はできないけれど…

(童話をぎゅっと抱きしめ、大粒の涙を流す)
それでも…死ぬまでの間だけでも、貴方と一緒にいたいです…!

(ロジェに促され)
は、はいっ! あ、あの…ロジェ。れ、恋愛小説もあるでしょうか?(ドキドキ)


ひろの(ルシエロ=ザガン)
  犬、猫、鳥の図鑑を抱えて、次を探す。
軽くなって、びっくりして隣を見上げる。

「重いよ?」(取り戻そうと、手を伸ばす
触られたところが温かい。「ありがとう」(呟くように
折り紙、刺繍の本も中を見てから抱える。
また取られた。

読書スペースで犬の図鑑から読む。
眺めて好きな見た目を探す。飼いたいより触りたい。
次は猫。同じように探して、気付く。
ルシェが、変化した猫だ。(ソマリ(指先で触れ、そっとルシェを見る

本を読むルシェも、きれい。
偶に意地悪だけど、優しくて。強くて、かっこよくて。
好きだな、って。(すとんと理解

「な、んでも、ない」(顔が熱いのを自覚し、俯く
そういう、好き? ルシェ、を?

どうしよう、熱いの治らない。


ファルファッラ(レオナルド・グリム)
  …図書館に来てからレオはずっと本を読んでる…。
つーまーらーなーいーわー。
わっぷ(口をふさがれる)静かにしろって。だってレオが構ってくれないんだもん!
本ばっかり読んで楽しい?なんだか難しそうな本ばっかりだし…。推理ミステリー?トリックが気になる?
あなたは童話作家(仮)でしょう?あ、むしろ普段書いてるような本のお手本なのかしら…そういえばレオの本をちゃんと読んだことがなかったわ!
図書館の中にあるかしら?
ない?自分の本は図書館向きじゃない?そんなの分かってるわよ。
これを読んでろってこれ、童話?私そんなに子供じゃないわよ…。
レオの好きな本なの?これを読んで童話作家になろうと思った?…読んでみる。


クロス(ディオス)
  ☆二人で読書

☆ジャンル:切ない恋愛系ラノベ

・全て小声
・暫く読みふけ途中こっそり飲み物買って来る(ブラック ミルクティー

ディーオ、少し休憩しとけ
ブラックで良かったよな?
――医学書…?
流石ディオ、こんな難しいの読むなんてすげぇや
あぁこれ? ハマってるラノベ
『初恋シリーズ』って奴
因みに最初は漫画だったんだ
1話完結で読みやすいから今度貸そうか?
漫画なら持ってるからさ(微笑
因みに俺のオススメは3巻の【死神の幸せ】
病弱な人間と死神の切ない物語でさ
何となく俺達みたいだなぁって(照笑
人を不幸にするから幸せを望まない死神と一緒に幸せを見付けてあげたい人間…
ほら似てるだろ?
なぁディオ、今幸せ?
続くさ、幸せは、絶対に…



 ――雨の降りしきる、図書館の庭先。
 濡れた空気の中、利用者達はみな館内へ引っ込んでいる。
 だから今、ここに居るのは二人だけだ。
 精霊ロジェと、神人リヴィエラ。
「……ここじゃ、なんだから。場所を移そう」
 俯いたまま顔を上げないリヴィエラの肩を抱いて、ラウンジへと移動した。

「ロジェ……いいえ、ロジェ様」
 ソファに腰掛け、膝の腕に両手を揃えたリヴィエラが重々しく口火を切る。
 オーガに――教団、もといリヴィエラの父親がロジェの村を滅ぼしたと知った彼女は、忽然と行方をくらましていた。
 その件で同じく打ちひしがれていたロジェは、けれどもすぐに頭を上げて。
 持ち前の高位スキル――機械工学の腕を駆使し、彼女の居場所を携帯から逆探知した。
『図書館へ来てくれ』と、僅かに強く告げれば彼女は拒絶したりしなかった。
 罪の意識を逆手に取ってしまった自覚はあったけれど、そうでもしなければ、彼女と二度と会えなくなる気がしたのだ。
「私はもう逃げたりしません。シエンテ家の娘として申し上げます」
「……ああ」
「私をどうぞ処刑なさってください。貴方の、復讐の道具としてお使いください」
「君は俺の無念を、自らの命で贖うというのか?」
「はい……私には、そうすることでしか、貴方に償う事ができないから……」
 ついに一筋、涙が彼女の白い頬を零れ落ちる。
 逡巡して、ロジェは冷えた眼差しで彼女を射抜いた。
「良いだろう、殺してやる。だけどそれは今じゃない」
 顔を上げたリヴィエラを一瞥すると、卓上に置いていた一冊の分厚い本を手に取る。
「俺に殺されるまでの間、せいぜい幸せに過ごしておけ。……この童話の、姫のようにな」
 内容はとある御伽噺だった。無表情のままリヴィエラに差し出せば、彼女はおそるおそる手にとって、開く。
「『お姫様は、それから騎士と一緒に、末永く幸せに暮らしました……』」
 内容を一通り読み上げて、最後の一文で言葉を締めくくる。
 その間、ロジェはずっとリヴィエラの言葉を静かに傍聴していた。
「……私はこのお姫様のように、幸せな終わり方はできないけれど」
 視線の先の彼女は、自嘲気味に小さく笑う。
 ハッピーエンドで終わる御伽噺。今の自分とは到底結び付かない、何の罪も無い、悲劇のヒロインと騎士のお話。
 最愛の騎士を苦しめた自分に、幸せになる資格なんてない――そう思っていた彼女に、ロジェは。
「……俺の所へ戻ってこい、リヴィエラ」
 降りてきた声に、視線を上げる。
 ロジェが、手を差し出していた。
 童話に出てきた騎士のように。
「もう、何処へも行くな」
「ロジェ……?」
「いつでも俺が、君を殺せるように」
 掛けられた言葉とは――裏腹に。
 その視線は先程までの凍てついたそれなどではなくて。
 叱ればいいのか、優しくすればよいのか――困り果てたような。
 リヴィエラはその声に、童話をぎゅっと抱きしめ、大粒の涙を流した。
「わたしに、幸せになる権利なんて、ないのかもしれないけれど――」
「ああ」
「それでも……っ死ぬまでの間だけでも、貴方と一緒にいたいです……!」
 顔を上げて、涙に塗れたくしゃくしゃの顔で、強く告げた。
 いつか、どんな形でも、この罪は償いたいと思うけれど。
 それまでの猶予期間だとしても、貴方が与えてくれるというのなら。
 伸ばされたリヴィエラの冷えた手を取り、ロジェはふ、と表情をほどいて。
「さあ。わかったら雨が止むまで、もう少しここにいよう」
 ここは面白い本が沢山あるんだ。そう、何でもないように告げる。
 今日の事は全て、彼女の自責の念を取り払うため、ロジェが計画した自演に過ぎない。
 それでも彼女は確かに救われた。心が軽くなった。
 はいっ! と満面で返事をして、赤く腫れた目元をぬぐって、それから。
「あの……ロジェ。れ、恋愛小説もあるでしょうか?」
「どうかな。一緒に探そうか」
 穏やかな声音に、リヴィエラも以前と変わらない笑顔で笑って見せる。
 ふと垣間見た雨空には、陽が差し込み始めていた。


「つーまーらーなーいーわー」
 クッション素材で出来た子供用の椅子に腰掛け、投げ出した足をぷらぷらと揺らすのは神人ファルファッラだ。
 その隣で、慌てて彼女の口元を抑え「図書館で騒ぐな」と忠告するのは、彼女の精霊であるレオナルド・グリム。
「静かにしろ。司書に睨まれるだろう。下手をしたら出入り禁止になりかねん」
 それだけは勘弁だ……と、入り口に立つ司書を一瞥し、ほっと息を吐いたレオナルドに、しかしファルファッラは口元にあてがわれていた大きな手の平を押し返し盛大に噛み付いた。
「だってレオが構ってくれないんだもん!」
「だから騒ぐなと……!」
「本ばっかり読んで楽しい? なんだか難しそうな本ばっかりだし。推理ミステリー? トリックが気になるの?」
 ずい、とレオナルドの手元を覗き込むファルファッラをぞんざいに押しやりながらも、問いかけに答える。
「図書館は本がたくさん読めるからな。色々と勉強になる。この推理小説など、今書いているミステリーに役立ちそうで……」
 言いかけて、ふと考え込み言葉を止めた。
 俺は童話作家なんだが一体何を書くつもりなんだ……?
 そんな自問に答えは出ないがおおよそ子供向けの童話とはかけ離れた話ばかり書いている自覚はある。
「あなたは仮にも童話作家でしょう?」
「おい仮をつけるな」
「むしろ普段書いてる本のお手本なのかしら。そういえば、レオの書いてる本をちゃんと読んだ事がなかったわ!」
 畳み掛ける様にまくしたて、レオナルドを尻目に彼女はぱちん! と思い立ったように両手を合わせると、ぴょこんと子供のような仕草で椅子を飛び降りた。
「俺の本を探しても無駄だぞ。老若男女が集まる一般の図書館には少々不釣合いだからな」
 家でも探すなよ! とレオナルドが念を刺す様に指を差し言い放てば、今まさに彼の本を探そうと本棚で背伸びしていたファルファッラはぷくりと頬を膨らませて。
「……そんなの分かってるわよ」
 つまらなさそうに抗議する。
 はあ、と一つ溜息を付き、レオナルドは卓上に置いていた一冊の本を彼女に差し出した。
「退屈なら、これでも読んでおけ。……俺が、童話作家になりたいと思ったキッカケの作品だ」
「これ、童話?」
 分厚い表紙を見て、中身をぱらぱらと開いて。
「私そんなに子供じゃないわよ」
 釈然としない表情の彼女に、レオナルドは一つ笑いかけた。
「内容は保障する。お前もきっと楽しめるさ」
「……レオが好きな本なの?」
「まあ、そうだな」
 答えた精霊は心なしか嬉しそうな表情だ。
 童話に興味を持つほど子供じゃないけれど、本当は彼の著書だって読みたいけれど。
 彼が好きなものを教えてくれるというのは決して悪くない。
「……読んでみる」
 再びレオナルドの隣に座りなおして、今度こそ静かに童話を読み始めたファルファッラを横目で見遣り、レオナルドは口元をほころばせる。
(俺が満足できるような童話を、いつか書いてみたいものだ)
 大衆向けでなくてもいい、売れなくてもいい。
 彼女が今手にしている本を読んで、憧れたあの日の気持ちをいつでも思い出せる様な、そんな本を遠くない未来に出せたらいい。
「そのときは、お前に一番に読ませてやる」
「? 何か言った? レオ」
「いーや、なんでもないさ」
 一つくすりと笑って、小首を傾げる彼女から視線を逸らし、再び手にしていた本を読みふけった。


「よい、しょっと……」
 分厚い図鑑を数冊抱えたまま。
 短い脚立の足場を、おぼつかない足取りでよたよたと降りるのは神人ひろのだ。
 犬、猫、鳥、等々。重なるのは動物の本ばかり。
 ようやっと地に足を着いて、ふう、と一息吐き出すと、突然抱えていた重みがなくなった。
「……ルシェ」
「抱え過ぎだ、ヒロノ」
 影が落ちた事に気付いて隣を見上げると、いつのまにか赤髪の大きな男が、先程まで彼女が抱えていた本を抱えなおし、立っている。
 彼女の精霊、ルシエロ=ザガンだ。
「まだ選び足りないんだろう。持ってやるから、好きに選べ」
「でも……重いよ? 自分で持つから」
 返して。取り戻そうと手を伸ばすが、さらりと軽く交わされる。
「だからだ。オレの方が力がある」
 気にするな、彼はそう言って、片手で難なく図鑑の山を抱えてしまう。
 そのまま、空いた手をひろのの頭に乗せ、やんわりと棚へ向き直らせた。
「……ありがとう」
 呟くように告げて、パートナーから本棚へと視線を移す。
 ……触れられた所から伝わるぬくもりに、ほんの少しばかり高鳴る胸の内を隠す為にも。
 折り紙、それから刺繍の本も、中身を軽く確認して抱えた。
 その都度ルシエロは本を取り上げ、片手の図鑑に積み上げていく。
 ルシエロも自身の目に付いた本をしっかり手にとって、読書スペースへと二人場所を移した。

 卓上に本を揃えて、犬の図鑑から読み始めたひろのを横目に、選んだ本をルシエロも捲る。
 少し顔を上げると、ひろのの顔が視界に入る位置だ。悪くない。
 満足げに彼はひとり微笑んで、やがてまた本へ視線を落とした。
 そんな精霊の視線に気付くことはなく、ひろのは読書に没頭している。
 眺めて、好きな見た目を探した。飼いたい訳ではないけれど、一度触れてみたいと思うものが沢山あった。
(……あ)
 猫に関する図鑑を開いた矢先に、ふと気付く。
(ソマリ。ルシェが変化した、猫だ……)
 美しく長い毛並み、特有のしなやかなフォルム、鈴が鳴る様だと評される美しい声――。
 うっとりと目を細め、次にルシェを見た。
 本を読む彼も、この猫のように美しくて、きれいだ。
(たまに意地悪だけど、優しくて、強くて、かっこよくて……)
 好きだな、って。
(……あれ?)
 すとんと、今しがたふに落ちたばかりの感情を、ひろのは改めて自覚する。
 ずっと、彼に対して持て余していた、心の奥の小さなぬくもり。
 その正体に、気づいた。
「……ん、ヒロノ?」
 視線に気付き、ルシエロが顔を上げる。
 ばちんと目が合うなり、わけのわからないような表情で、頬を朱に茹で上がらせた愛しい神人。
 これまでこんな顔をしてくれた事はなくて、もしかして、と。悪戯に顔を近付けてみる。
「ヒロノ」
「……あ、や」
「どうした?」
「……っ」
 意地悪く、くすくすと静かに笑う精霊に。
「な、んでも、ない」
 顔が熱いのを自覚してしまうともう駄目だった。
 俯いて、背を向けて、それでも視線のやり場がなくて、地を彷徨わせる。
(そういう、好き? ルシェ、を?)
 頬の熱も、はやる心臓も、何もかも収まってはくれない。
 熱を持て余す彼女の隣で、慌てる姿が可愛いあまり、一瞬理性を放棄しかけた精霊は、けれど場所を鑑みて寸でで、伸ばしかけた手をなんとか引っ込めた。
(正面から見るのもいいが。触れるにはやはり、隣だな)
 卓上に置かれた手の平に、自らのそれを重ね合わせると、ひろのの肩が大げさなくらい跳ね上がった。
 蕾が花開くその日まで、きっとあともう少し。


「……シリウス?」
 パートナーの姿が見えない事に気付いた神人、リチェルカーレ。
 慎重に、狭い書架の間まできょろりと見回して探せば、やがて目に付いた漆黒。
(……居た)
 人気の無い書架の隅に立って、完全に本に意識を持っていかれているようだ。
 集中を妨げてしまわないよう、そうっと近付けば、至近距離で長い睫毛が見える。
 光のあまり差し込まない、薄暗い通路。
 斜め掛かる光に照らし出された彼の横顔はとても美しくて、思わず。
「男の人なのにきれいって、ずるい……」
 漏れでた呟きに、ようやっとパートナー、精霊シリウスが顔を上げた。
「すまない、気付かなくて……どうかしたか?」
「う、ううんっ。なんでもないの!」
 慌てて首を振れば、彼は無表情のままクエスチョンマークを頭上に浮かべているようだ。
 変わらない顔色にも怪訝が伺えて、慌て話題を切り替えるように、シリウスの手元をひょいと覗き込んだ。
「A.R.O.A.の本? 勉強熱心なのね」
「どこまで本当かわからないが……自分が属する組織については知っておきたい」
 元来シリウスはA.R.O.A.に対する、些かの不信感を持て余している。
 精霊は神人を守るべき存在――リチェルカーレを護る事には何の抵抗もないけれど。
 家族を失ったあの日、オーガを倒すべき機関であるA.R.O.A.は、自分に何もしてくれなかった。
 その事からも、明るい感情は抱けずにいるままだ。
 シリウスの声音には僅か不審を滲ませていたものの、彼女はふぅん、と首を一つ傾げ、手元の記事を何気なく読み耽っている。
 気付かれてない事にも、安堵交じりに苦笑し、もう行くか、と声を掛け本を元の場所へしまいこんだ。
「雨、止まないわね」
「そうだな……他に出掛ける様な場所でもあればいいんだが」
 何気なく呟かれた彼の言葉に、そうだ! とリチェルカーレが手を合わせ、振り返る。
「あのね、シリウス。併設されてる喫茶店のメニューが――」
 後ろ向きに話して居たことで、薄暗い足場に置かれていた小さな梯子の存在に気付かず、足をひっかけてついバランスを崩した。
「きゃっ……!」
「――リチェ!」
 強く凭れかかる形で手を着いた書棚がぐらりと傾いた。
 倒れこむまでいかなかったものの、数十冊の――中には分厚い図鑑なども含まれた本たちが一斉に、重力に引かれてリチェルカーレの頭上へと降り注いだ。
(倒れる……っ!)
 ぎゅ、と目を閉じ衝撃に備えて身を丸める。バサバサッ! と音はするのに、想像していた痛みは一行に振ってこない。
 不思議に思い、おそるおそる目を開けば、自分に覆いかぶさって庇う精霊の姿があった。
「シリウス!」
「……っ、大丈夫か、リチェ――」
 背中に掛かるダメージをやり過ごしてから、息を吐き出しつつシリウスは瞳を開く。
「あっ……」
「――っ……!」
 存外近い距離に、彼女の顔があって。
 朱に染まる彼女の頬を見て、自分達の置かれている状況に気付いた。
「す、すまない……」
「いっ、いいえ! わたしがドジ、踏んじゃったんだから……」
 体を起こしたパートナーに、大丈夫だった? と平静を取り戻し、背を擦る。
 それでもなお、熱が引かない顔を隠す様に視線を泳がせるシリウスは、なんだかとても。
「……綺麗だなって思ったけど、そんな可愛い顔もするなんて」
 やっぱりずるいわ。ころころと笑う彼女の心中が最後までわからずに、シリウスは首を傾げていた。
 

「ディーオ」
 小声で掛けられた声と共に、覗き込む銀色に、ふと意識を寄せられる。
「ああ、すまない。つい――」
 読みふけってしまった、と本を置くのは精霊ディオス。
 苦笑して、少し休憩しとけ、と今しがた買ってきたコーヒーを差し出すのは神人クロスだ。
「ブラックでよかったよな?」
「助かる。甘い物は苦手で、好まないからな」
 こちらも苦く笑い、受け取ったコーヒーをひと啜りすると、集中して張り詰めていた神経が緩和されていくようで、ほ、と一つ息を吐いた。
「……医学書?」
 開かれたままの本に視線を落としたクロスが表紙を一瞥して、ぱらぱらと中身を捲ってみる。
 内容はさっぱりわからないが、パートナーの学びには自然と興味も湧くものだ。
「へぇ。さすがディオ。こんな難しいの読めるなんてすげえや」
「東洋から西洋――日本等、全てが詰め込まれたものだ。独学ならある程度出来るが、医療専門は学んだ方が良い」
 手元のページを捲りつつ、すらすらと流暢に告げて、オシリスの件もある、と呟く様に付け足す。
 ディオスの、もうひとつの人格。
 彼とこれから先どうなっていくのかは未知数だけれど、ディオスにとって大切な存在である以上、なんとかしてやりたい、という思いはある。
「ところで、クロスは何を読んでるんだ?」
 僅か重くなった空気を切り替えようと、クロスの前に詰まれた小さな書籍たちを見遣る。
「あぁ、これ?『初恋シリーズ』ってやつ」
 全く専門外のジャンルだったけれど、こことかお気に入りなんだぜー、とページを開いたクロスから楽しげに勧められれば、決して悪い気はしない。
「最初は漫画だったんだ。人気が出たから小説化! ってなって」
「ブラクロの中でも、話には聞いた事があるな」
「だろだろっ。一話完結型で読み易いから今度貸そうか。漫画なら全部持ってるからさ」
 嬉しそうな笑顔で提案するクロスに、今度貸してもらおう、とディオスも快諾した。
「漫画は普段読まないから、楽しみだ」
「あ、因みにさ。俺のオススメはこれ」
 差し出された巻頭は【三巻・死神の幸せ】とサブタイトルが記されている。
「病弱な人間と、死神の切ない物語でさ。何となく、俺達みたいだなぁって……」
 ちょっと気障かな、と照れた様にはにかみつつ、また一枚ページを捲って。
「人を不幸にするから幸せを望まない死神と、一緒に幸せを見つけてあげたい人間……」
 ほら、似てるだろ? 穏やかな微笑みに、ディオスの心臓がどくりと跳ねる。
 自身の存在は人を不幸にすると思っていた。
 出会わなければ、生まれなければ、死んでしまえば――そんな自己否定を、他でもない最愛のクロスが笑いかけてくれる度に、言い訳がましく繰り返した。
 けれど彼女はその度に、そんな事はないのだと笑う。
「……ああ、確かに。俺たちに、似ているな……」
 自嘲気味に喉をくつりと鳴らして、ディオスは泣きそうな笑みを浮かべた。
 死神の様な存在の自分に、一緒に幸せになろうと言ってくれる人が、こんなにも近くに居るものだから。
「なあ、ディオ」
 いま、しあわせ?
 悪魔の羽にも見えるマキナの耳にそっとクロスは触れて、問うた。
 暖かな笑顔とぬくもりに、ディオスは安堵する。
「勿論、幸せだ。クロとルクと一緒に、いつまでもこの幸せが続いて欲しい……」
「続くさ。絶対に」
 力強く彼女は断言する。
 三人で幸せになろうと、あの日うららかな花園で、固く誓ったのだから。



依頼結果:成功
MVP
名前:リヴィエラ
呼び名:リヴィエラ、リヴィー
  名前:ロジェ
呼び名:ロジェ、ロジェ様

 

名前:ひろの
呼び名:ヒロノ
  名前:ルシエロ=ザガン
呼び名:ルシェ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 梅都鈴里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月13日
出発日 10月18日 00:00
予定納品日 10月28日

参加者

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