プロローグ
「ウィンクルムの皆様のため、質の高い睡眠効果を得られる睡眠カプセルをご用意しました!」
新市街北部にあるA.R.O.A.の本部前に、ミラクル・トラベル・カンパニーによって簡易テントが設置されました。
中には、特製の睡眠カプセルがずらっと並んでいます。
「この睡眠カプセルには、疲労回復の他に、特殊な効果があるのです。
こちらを御覧ください!」
ミラクル・トラベル・カンパニーのツアーコンダクターはそう言うと、カプセルの蓋を開けました。
「こちらは、お二人で並んで入っていただけます。
特殊な装置で、お互いの脳波を同調させ、お二人で同じ夢を見ることができるようになっています。
ですので、忙しくて最近、デートも出来ないカップルの皆様に大好評なのです」
『夢の中のデートって、ロマンチックでしょう?』とコンダクターが微笑みます。
「また、お好きな夢を見ていただくことが可能となっております!」
コンダクターは『例えば…』と、パネルを取り出す。
「このようにタブロス市内を鳥になった気分で、自由に飛び回る夢」
パネルには、手を繋いで楽しそうに空を飛ぶ人の姿が描かれれていた。
「はたまた、王様気分で、豪華なディナーを楽しむ夢」
次に、豪華なお城の一室で、ご馳走を楽しむ人の姿。
「現実では、叶えられないような事も、夢ならば自由自在です!
勿論、現実っぽい夢がお好みの方は、遊園地でデートといった夢を見ることも可能ですよ。
敢えて夢を見たくないという方は、夢機能をオフにする事で、ぐっすりと深い睡眠のみでもご利用いただけます」
コンダクターはそこまで説明すると、ピッと人差し指を立てた。
「あと、お二人一緒にカプセルへ入りますが、間に敷居がございますので、並んで眠るのが恥ずかしいという方もご安心ください。
今なら特別に、ウィンクルムの皆様は、タダでご利用いただけます。
オーガとの戦いでの疲労の回復、ストレス解消に是非、ご利用ください!」
貴方は、どのような夢を見ますか?
解説
睡眠カプセルで、パートナーと一緒に夢を見ていただくエピソードです。
以下のような行動が可能となっております。
1.神人と精霊で同じ夢を見て、夢の中で楽しく過ごす。
夢の中で楽しくデートが可能です。
通常では出来ないようなシチュエーションを、楽しんで頂けたらと思います。
どういった場所で、どんな事をするのか、プランに明記をお願い致します。
2.パートナーが見ている夢を覗き見る。
睡眠カプセルのバグにより、夢機能をオフにした場合に、相手の夢を覗く事ができます。
夢を覗かれた方は、覗かれているという事は分かりません。
あくまで夢を覗くだけですので、その夢に干渉する事は出来ません。ご注意ください。
夢を見る側と、覗く側を明記の上、どういった場所のどんな場面を覗くのか、プランに記載をお願い致します。
ゲームマスターより
ゲームマスターを務めさせていただく、『出来れば睡眠時間は7時間は欲しい』雪花菜 凛(きらず りん)です。
今回は、オーガとの戦いで疲弊した身体を休めつつ、夢でデートしようというエピソードとなります。
夢の中ならではの楽しみ方で、のんびり過ごしていただけたらと思います。
また、お相手の夢を覗く事で、相手の事を深く知る機会にも出来ますので、是非、お気軽にご参加ください!
皆様の素敵なアクションをお待ちしております♪
※ゲームマスター情報の個人ページに、雪花菜の傾向と対策を記載しております。
ご参考までにご一読いただけますと幸いです。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)
○睡眠カプセル 同じ夢を見る ○夢の中の場所 恋虹華の花畑 ○行動 サフラン、サフラン 疲労回復も嬉しいですけれど 同じ夢を見るのは何だか不思議な感覚ですわね 夢の中でまた恋虹華を見れるなんて嬉しいですわ うふふっいいじゃありませんか とても綺麗で可愛いお花なんですものっ お花にまつわるお話と……言い伝えも どうせ私とサフランが見ているだけですもの 恋虹華の花畑の中にダイブ! そのままごろんと回転して寝転がります。 うふふー気持ち良いですわー 普段出来ない事…そうですわ! ブルースハープを吹くのでサフランも歌ってくれないかしら? だって誰も見てないですもの! 花冠のお礼も兼ねて、ね? (ブルースハープを吹く際は一般スキル:音楽使用) |
アリシエンテ(エスト)
2.相手が見ている夢を覗き見る。夢を見る精霊、覗く神人 ええ!夢を共有したからってどうせ奴は私の『お守り係』よ!(過去に言われたのを根に持っている) ん?相手の夢が見れる…?見ない理由が無いわね(悪どい笑み) 何これ…真っ黒──真っ黒じゃない、眠りが深いのでもなくて…『心の中に何も無い』から『何も無い』夢を見ているの……? そんなの、悲しすぎる。そんな事、あってはならない。 僅かに闇の奥底に光るものを見つけた。それはウィンクルムになってからの自分と過ごした思い出の断片だった。……共に居る事で少しでもこの闇が照らされるなら、幾らでも思い出を作ろう。 さて、覗いていないで私も深く自分の夢に浸ろうかしら。 |
エリザベータ(ヴィルヘルム)
心情: 夢ねぇ…ウィルの夢、見たいような見たくないような。 女の子でもナンパしてんのかなぁ…(溜め息 行動: 見たことがあるような?(きょろきょろ あ、ウィルのドレス工房か。 何してんのかなーっと、窓から覗き込んでる感じだぜ。 夢でもドレス作ってんのか、ホント好きだなぁ。 …一緒にいるの誰だ?またガールズって奴か? 楽しそうに話してやがって、またモヤモヤしてきた… 女が出てきた所でウィルの後ろから近寄りたいぜ、 壁抜けか扉の方に回りこんでみるぜ。 …熱心にデスクでデザイン考えちゃって、意外と真面目か? それとも結構な情熱家なのか…嫌いじゃないぜ、そういうの。 「…ただの女好きじゃねぇんだな、普段からそうしてりゃいいのに」 |
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
【夢を覗く側】 実は私って夢を見たことがない 不安だったから…悪いかなって思ったけど、ディエゴさんの夢を見てみる 夢のディエゴさんは今のディエゴさんとちょっと違う 眼鏡をかけてない、服が白い軍服、そしてちょっと若い。 護衛艦に乗って敬礼するディエゴさんは溌剌といった表情だった はじめのうちはディエゴさん、楽しそうに働いていたんだけど… そのうち偉い人と喧嘩するようになった、内容はわからないけど ディエゴさんが怒るって事は相手は悪い人なんだろうな。 ディエゴさんは自分の持ち場である医務室に篭るようになり 電話をかけてることが多くなってしまった 話をしているディエゴさんの表情は、今まで見たことないくらい暗いものだった。 |
クロス(オルクス)
アドリブOK 凄いな、夢デート ならオルクと舞踏会みたいな感じで踊ってみたいな(照笑) (中世西洋風でクロイツ国の王女クロス 今宵は隣国ブラッド国で舞踏会開く日) 此れがブラッド国の舞踏会か… 豪華で華やかだな オルク何処にいるんだ? あっあそこに居るのはオルク? (オルクスの周りに綺麗な女性達が沢山いるとクロスは軽い嫉妬が心渦巻く クーに気付いたオルクはそば迄来ると立て膝をつきダンスの申し込み 素直に承諾 まるで2人だけの空間、本物の王子と王女の様なダンス 最後はお礼と称して額にキスされる 顔が赤く染まる) オルクも格好良いし(照笑 衣装:青系統のリボンやフリル付きドレス 髪型:編み込んだ髪を下の方でお団子に纏めティアラ着用 |
●1.
煌々と照らすシャンデリア。
黄金で縁どられた大天井とそこに描かれた豪奢な天井画に見下され、クロスは大きな扉を潜った。
そこは宮殿の広間。
今宵はブラッド国で、舞踏会が開かれる日。
ブラッド国の隣国であるクロイツ国の王女クロスは、ブラッド国の城へとやって来ていたのだった。
広間では、貴族や王族たちが思い思いの豪奢な衣装でダンスや歓談を楽しみ、楽団による生演奏が辺りを包んでいる。
その中を凛と背筋を伸ばし、クロスは進んだ。
鮮やかな蒼のドレスのレースと裾が、歩みに合わせてふわりと揺れる。
編み込んで纏めた髪にティアラが煌き、少し大胆に開かれた胸元と背中が眩しく蒼の色に美しく映えた。
そんなクロスを振り返り、周囲からはため息が漏れる。
やがて、クロスの視界に探していた彼の姿が映った。
(舞踏会ってこんな感じなのか)
オルクスは物珍しげに広間を見渡していた。
今回、彼はパートナーのクロスと一緒に、睡眠カプセルで同じ夢を見る事にしたのだが、その夢がこの舞踏会だった。
辺りに視線を向けると、豪華に着飾った人々が楽しそうに踊っている。
(クーの王女様姿、とても綺麗で可愛らしいんだろうな)
想像すると自然に口元が緩んだ。
自分の格好を見下ろしてみると、白を基調としたフロックコートで、細やかな刺繍とエンブレムが格調高く少し照れ臭くなる。
(クーを探さないとな。何所に居るんだ?)
顔を上げて歩き出そうとした彼の周囲に、気付けば着飾った女性達が集まっていた。
「王子様、一緒に踊ってくださいませんこと?」
口々にダンスに誘ってくる女性達に、オルクスは目を丸くして驚く。
(参ったな……)
どう上手く躱そうか考えながら、角が立たないように女性達に笑顔を向けた。
(あそこに居るのはオルク?)
クロスの視界に映ったオルクスは、華やかな女性達に囲まれていた。
フロックコートを身に纏ったオルクスはとても綺麗で素敵で……彼を放っておく女性は居ないだろうと思うと同時に、クロスの中にもやもやとした感情が浮上する。
オルクスに声を掛けている女性達は本当に皆、綺麗だ。自分ではとても太刀打ち出来ないと思ってしまう。
「クー」
そんな彼女の姿に気付いたオルクスは、その名を呼び、女性達を置いて彼女の前にやって来た。
ふわりと目元を緩ませ微笑むと、彼はその場に立て膝を付いてから、優雅に一礼する。
「私と踊っていただけませんか? お姫様」
差し伸べられた手。
本物の王子様のような彼に、クロスの頬は赤く染まった。
「喜んで」
はにかみながら手を重ねると、オルクスは立ち上がり、彼女の腰へ手を回す。
二人のダンスが始まった。
ワルツの音楽に乗せ、オルクスがリードし、クロスがそれに合わせる。
二人の優雅なダンスに、周囲からはため息が漏れた。
息が掛かる程の距離で息を合わせて踊るのは、心臓の鼓動までもが相手に聞こえてしまいそうで。
世界に二人だけになったような、そんな感覚すら覚える。
とても楽しく、幸せな時間だった。
「クー、いい夢をありがとな」
夢のひとときが終わり、オルクスはそう言ってクロスを見つめて微笑んだ。
「キミの王女姿は……オレの見込んだ通り、綺麗で可憐だ」
再びクロスは自分の顔が熱くなるのを感じる。
「……俺も、楽しかった」
クロスがそう微笑みを返すと、オルクスは笑みを深めて、彼女の額へ口付けを落とす。
「!?」
「これはお礼だ」
これ以上になく真っ赤になったクロスへ、オルクスは悪戯っぽく笑ったのだった。
●2.
「夢の中でまた恋虹華(れんこうか)を見れるなんて……嬉しいですわ!」
マリーゴールド=エンデは、虹色の花を映す瞳を細めて、すうっと大きく息を吸い込み深呼吸した。
「マリーゴールドは、ホント恋虹華好きだな」
その様子を眺め、サフラン=アンファングは小さく笑う。
「えぇ!」
マリーゴールドは、にっこりと満面の笑顔で頷いた。
二人は恋虹華の花畑の中に居た。
見渡す限り、満開の虹色の花達が絨毯にように広がって揺れている。
マリーゴールドとサフランは、睡眠カプセルで同じ夢を見ていた。
恋虹華は、虹色に輝く3つの花びらを持つ不思議な花。
ケスケソル村にだけ咲くその花には、こんな言い伝えがあった。
曰く、紅茶に恋虹華の花びらを浮かべて飲むと、願いが叶う。
曰く、4つの花びらを持つ恋虹華を見つけたカップルは、永久に結ばれる。
「とても綺麗で可愛いお花で、私(わたくし)、大好きです! お花にまつわるお話と……その言い伝えも」
マリーゴールドはしゃがみ込むと、そっと花びらに触れて微笑んだ。
「……」
サフランの脳裏に、村のお祭りで見た恋虹華の姿が蘇る。
あの時、確かに見た4つの花びら。
マリーゴールドには教えなかった、彼だけが見たそれ。
「あくまで言い伝えで、おまじないみたいなもんデショ。マリーゴールドはロマンチストだな」
前半は半分自分に言い聞かせるように。
軽口を叩きながら、サフランも花びらに触れてみた。花びらはとても柔らかい。
「乙女はロマンチストと相場が決まっていますわ! えーい☆」
その隣で、マリーゴールドが両手を広げ、花畑へ身を投げ出した。
「うふふー気持ち良いですわー♪」
ごろごろと花畑の中を転がって、幸せそうにうっとりする。
「夢の中でもないと、こんな事、絶対に出来ませんわよねっ」
ごろごろごろ。
花は潰れる所かクッションのように柔らかく、その身体を受け止めてくれていた。
「夢の中でもないと、ね……」
サフランもまた、花畑に座り込むと、ぷちっとその花を手折ってみる。
花びらは色を失わない。これも夢効果のようだ。
ならばと、サフランは手折った花で花冠を作る事にする。
器用に動くその指を、マリーゴールドは寝転がりながら眺めていた。
その時間もとても贅沢に感じる。
「出来上がり、と。夢の中でまで昼寝してないで、普段出来ない事でもしたらいいじゃないの」
サフランは完成した花冠を、当たり前にようにマリーゴールドの頭へ乗せる。
「あ……。……サフラン、ありがとうございます!」
マリーゴールドは目を丸くして驚き、身を起こすと、頭を飾る花冠にそっと触れて嬉しそうに微笑んだ。
嬉しいサプライズなプレゼントだ。
「どーいたしまして」
クスッと笑うサフランを見つめ、マリーゴールドはハッと閃いた。
「普段出来ない事……そうですわ! 私、ブルースハープを吹きますから、サフランも歌ってくれないかしら?」
「……ハァ?」
突然の提案に、サフランは眉根を上げて驚く。
「だって誰も見てないですもの! 私とサフランが見ているだけですわ!」
「だからって、どーして俺が……」
「花冠のお礼も兼ねて、ね?」
「お礼なら、マリーゴールドのブルースハープだけでいいんじゃナイ?」
「いいえ、一緒がいいんです! お願いします、サフランっ」
ひしっと腕を掴んで上目遣いに見てくる彼女に、サフランは天を仰いだ。
花冠のお礼に、とんでもないブーメランが帰って来たものだ。
じーっと見つめてくるマリーゴールドの瞳に、これは逃げられないと確信する。
今日は何だか、彼女には逆らえない予感がした。
(まぁ、ブルースハープが聞けるのは嬉しいから、いいか)
覚悟を決めて、マリーゴールドの金の瞳に視線を戻す。
「歌なんて滅多に歌わないから……下手でも笑うなよ」
「笑ったりなんかしませんわっ」
少し拗ねた口調でそう答えたサフランに、マリーゴールドはこの上なく幸せそうに笑った。
虹色の花びらが、優しいブルースハープの音色にさざめくように揺れる。
サフランの歌声が何処までも青い空へ、伸びやかに響いたのだった。
●3.
エリザベータは、見たことのある風景にキョロキョロと辺りを見渡していた。
確か、自分はパートナーのヴィルヘルムと共に、疲労回復のため睡眠カプセルに入った筈だ。
一緒に夢が見れるスイッチとかいうのは、オフにした。
だから、夢を見る事はないと思っていた。
それがどうして、こんな所に……。
(あ、ウィルのドレス工房)
見知った建物を見つけた瞬間、エリザベータの身体はその建物の前まで移動していた。
そこでエリザベータは納得した。
どうやら、これは夢らしい。
そして、夢の中でヴィルヘルムのドレス工房に来ているらしいと理解する。
夢スイッチをオフにし損ねたのだろうか。
ならば、ヴィルヘルムもここに居る筈だ。
(工房の中、かな?)
エリザベータはドレス工房の中を、窓から観察する事にする。
(居た)
工房の中に、ヴィルヘルムは居た。
ただし、彼は一人ではなかった。
彼の前には、エリザベータの知らない若い女性が居る。
(一緒にいるの誰だ? またガールズって奴か?)
「んー……ちょっと脇を上げて貰える?」
「はーい、喜んで♪」
ヴィルヘルムの言葉に、女性が嬉しそうに腕を上げた。
すると、ヴィルヘルムはメジャーやらまち針やらを出して、女性の着ているドレスの調整を始める。
ドレスの試着をしているらしい。
(夢でもドレス作ってんのか、ホント好きだなぁ)
彼らしいなと思い、思わず少しエリザベータの頬が緩む。
(淡い水色のキャミワンピか……光沢が虹色だけど、デザインはシンプルだな。
それにしても……)
女性がヴィルヘルムを見つめる目は、艶めいて熱っぽい。
(あいつのファンか常連か……)
どう見ても、ヴィルヘルムへ向ける視線は恋するそれだ。
(露骨な態度でもう解ってるだろ、ウィル)
「私~髪型変えてみたんですけど、どうですか~?」
「うふふ、とっても可愛いわよ♪」
甘い声音で女性が問い掛けると、ヴィルヘルムは軽い調子でウインクする。
「きゃー嬉しい~♪」
(楽しそうに話しやがって……)
むか。
ムカムカムカ。
エリザベータの胸が、正体不明のもやもやで満たされていく。
「今日はこれでいいわよ。ありがとうね」
「はーい♪ また何時でも呼んでくださいね~!」
やがて試着が終わり、女性は工房から去っていった。と同時に、エリザベータの胸のつかえが緩和される。
エリザベータは、女性と入れ違いに壁をすり抜け工房の中へ入った。
ヴィルヘルムは、デスクへ向かって熱心に鉛筆を動かしている。
もう新しいドレスのデザインを始めたようだ。
(……意外と真面目か? それとも結構な情熱家なのか……嫌いじゃないぜ、そういうの)
真剣に黙々と鉛筆を動かすヴィルヘルムの背中が、何だかとても好ましく思える。
(ただの女好きじゃねぇんだな。普段からそうしてりゃいいのに)
感心しながら、後ろから、彼の描くデザインを覗き込んでみた。
(……あれ?)
立ち絵の女が、誰かに似ているような気がして、エリザベータは大きく瞬きする。
(誰……だっけ?)
その時、ヴィルヘルムが鉛筆を動かす手を止め、大きくため息を吐いた。
「はぁ……どうして作ってもエルザちゃんのイメージになるの?」
(!!?)
急に自分の名前が出て来て、エリザベータの心臓が大きく跳ねた。
「……まさかの、まさか? いやいやそんな……」
ヴィルヘルムは複雑そうな笑みを浮かべてから、大きく頭を振ると、再び鉛筆を動かし出す。
(な? ななななななな?)
心臓が早鐘のように脈打ち、エリザベータはその言葉の意味を飲み込もうと、思考をフル回転させる。
けれど、意志に反して思考は一向に纏まらない。
ヴィルヘルムの描く立ち絵が、再び視界に入った。
それは、間違いなく……。
(妙にあたしに似てねぇか?)
そんな、まさか。
けれど、一度そう見えたら、どう見ても自分に見えてしまう。
(……まさか、な?)
エリザベータは、何度も目を擦ったのだった。
●4.
(ここが……ディエゴさんの夢の中)
ハロルドは、潮風に髪を揺らしながら、ゆっくりと周囲を見渡した。
そこは、とある軍の護衛艦の中だった。
今日この船は港を出港するらしく、華々しい出港の儀式が行われている。
乗船している軍人の中に、ディエゴ・ルナ・クィンテロの姿があった。
しかし、ハロルドの知る彼とは、少し雰囲気が違う。
白い軍服に身を包んだ彼は、眼鏡を掛けていなかった。
敬礼をするその姿は、現在の彼より若く、そして溌剌とした表情が印象的だ。
やがて、出港のファンファーレが鳴り響く中、彼の乗った船は大海原へと旅立つ。
(夢って、こんなに鮮明なもの……なんだ)
音も空気も匂いも、まるで現実のようで、ハロルドは何度も瞬きした。
ハロルドは夢を見た事がない。
夢がどんな物であるか、彼女は知らなかった。
過去の記憶もなく、夢も見ない。
それが、不安になってしまったのだ。
だから、パートナーの夢を覗き見れるという噂を聞き、睡眠カプセルへディエゴを誘った。
(ディエゴさんには悪いかなって思ったけど……でも……)
ハロルドは真っ直ぐ前を向いて、ディエゴの夢を追う。
護衛艦の中、ディエゴは活き活きと仕事をしていた。
持ち場で医務室で、体調不良を訴える軍人の診察をしたり、悩みを聞いたりして、忙しそうにしていた。
しかし、そんな彼の様子が徐々に変わり始める。
「納得が、出来ません!」
軍服から上官と思われる男性に、ディエゴは声を荒らげていた。
話の内容は、ハロルドにはよく分からなかったが、ディエゴがとても憤っているのは分かる。
そしてその出来事から、次第に彼の表情が暗く曇りがちになった。
医務室へ篭もるようになり、電話を掛けている事が多くなる。
電話の内容は、やはりハロルドにはよく分からない。
ただ、そのディエゴの顔は見たこともないくらい、暗いものであった。
やがて護衛艦が着港し、ディエゴは陸へ降りる。
表情は硬く、どこか冷たく虚ろだ。
まるで人目を忍ぶように滑り込んだ酒場で、ハロルドの知らない男に会い、何かを受け取っていた。
そして、ディエゴは船を戻ると、また医務室へ篭もり……強く壁を殴り付ける。
彼は泣いていた。
泣きながら、デスクへ向かい手紙を書き始めた。
ハロルドの胸に、言いようのない不安が広がった。
手紙の内容が知りたかったが、どうしても読み取る事は出来ない。
ただ、警告するように早くなる鼓動に、拳を握る事しか出来なかった。
また少し時が進み、護衛艦は帰港した。
今回の航海は終わったのだ。
ディエゴは船を降りて、目的地があるらしく足早へ歩いて行く。
そこは小さなアパートだった。
ディエゴの住居なのか、はたまた他の誰かの住居なのか、ハロルドには分からない。
アパートの一室では、ディエゴと同じ軍服を着た壮年の男性と、若い女性が彼を待っていた。
(あの女の人、誰なんだろう……)
男性と女性は、とても心配そうな、そして温かい眼差しでディエゴを見ている。
ディエゴはそんな二人に会い、どこか安堵した様子であった。
三人は挨拶もそこそこに、真剣な顔で話を始める。
会話の内容は、切れ切れでくぐもって聞こえ、ハロルドには分からない。
けれど、嫌な予感だけは変わらずに彼女の胸を叩く。
そうして、彼女の胸騒ぎが頂点に達した、その時。
「!!」
突然、乱暴に部屋の扉が開けられた。
軍服を着た何人もの男達が、部屋へ踏み込んでくる。
男達は恐ろしい表情で三人を取り囲み……。
(止めて!!)
それは誰の声だったのか。
ハロルドはそこで意識を閉ざした。
これ以上、見てはいられなかったのだ。
ディエゴは、苦しそうに寝ていることが多い。
多分、この夢をいつも見ているんだと、ハロルドは思う。
過去とは、このように辛いものなのか。
失くしたハロルドの過去もそうなのか……今は分からない。
(もしかしたら、記憶が戻ったら……私もこうなるかも)
それが、怖かった。
そしてディエゴの事を思うと、ただ悲しかった。
時折彼から感じる絶望の訳は、これなのかもしれない。
色んな物を自分にくれる彼に、何か返したい。
けれど、何が出来るのか……答えは見つからなかった。
●5.
(ええ! 夢を共有したからって……どうせ奴は私の『お守り係』よ!)
アリシエンテは睡眠カプセルの説明文を読みながら、少し悲しくなってしまった。
『奴』とは、アリシエンテのパートナーであるエストの事だ。
過去に彼にそう言われた事が、アリシエンテの胸に深く突き刺さっている。
「凄いの! 彼の見ている夢を覗けちゃったのよ!」
その時、背後から華やいだ女性の声が聞こえてきた。
振り返れば、同じウィンクルムの女性達が興奮した様子で話している。
彼女達の話によれば、同じ夢を見るスイッチを切っておくと、睡眠カプセルの装置のバグなのか、相手の夢を覗き見れるという。
(見ない理由が無いわね)
ニヤリ。
思わず悪人笑顔を浮かべたアリシエンテは、さりげなくパートナーの様子を伺った。
少し離れた場所で、装置のパンフレットを眺めていたエストは、幸いな事にこの話は聞いていなかったようだ。
「エスト」
アリシエンテはニコニコと笑顔を浮かべ、早速彼へ声を掛けたのだった。
(何これ……真っ黒だわ)
夢の中へ入って、アリシエンテは目を擦った。
自分の目がおかしいのかと思ったが、何度試しても、真っ暗な風景が変わる事はない。
見渡す限りの漆黒の闇。
何もない黒。
これが、彼の夢だというのか?
こんな真っ暗な闇が。
(眠りが深いのでもなくて……『心の中に何も無い』から『何も無い』夢を見ているの……?)
そう考え至り、アリシエンテの胸がズキリと痛んだ。
(そんなの、悲しすぎる)
あってはならない、そんな事。
(何か、何か無いの? 何か……)
アリシエンテは、もう一度辺りを見渡した。
上を、右左を、後ろを。
そして、下を見た時に……微かに光る何かが見えた。
(あれは……?)
光を目指してダイブする。
やがて光に近付き、アリシエンテは目を見開いた。
それは、記憶の断片だった。
キラキラと光るそこには、アリシエンテが居る。
出会ってから、これまで。
アリシエンテと彼が過ごした思い出が、そこにはあった。
(エスト…………!)
胸が熱くなった。
共に居る事で、少しでもこの闇が照らされるなら……幾らでも思い出を作ろう。
これからも、共に。彼と一緒に。
光を抱きしめながら、アリシエンテはそう誓う。
(私も深く自分の夢に浸ろうかしら……)
温かな思い出の光に包まれながら、アリシエンテはそっと瞳を閉じた。
ふと、アリシエンテの気配を感じた気がして、エストは瞳を開いた。
辺りは漆黒の闇。
身体に感じる浮遊感から、まだ夢の中のようだとエストは理解する。
(せっかくですし、あの暴走狂の夢でも覗いて、今後の参考対策にでもしましょうか)
装置のバグの話は、しっかりと聞こえていた。
夢など見ない自分は、彼女に覗かれても何の問題もないから、放っておいたのだ。
意識を、自分の夢から相手の夢へ。
念じると、エストの身体を新たな浮遊感が襲う。
(………これは?)
しかし、変わらない漆黒の闇に、エストは軽く目を瞠った。
上手く行かなかったのだろうか?
否。伝わる空気が違う。
自分のものではない、冷たい冷たい空気。
まるで水中をゆっくりと沈んでいくような。
間違いない、これは彼女の夢の中だと、エストは確信する。
(普段の賑やかで喧しいのは、仮面の様な取り繕いだったとでも?)
信じ難い光景に立ち尽くす。
その時、ふわりと、花びらのようなものが頭上から落下してくるのに、エストは気付いた。
ほんのり光るそれを手に取る。
柔らかくて眩しいそれから、彼の胸に温かいものが流れ込んだ。
それは、アリシエンテと共に過ごした記憶。
出会ってから今日までの、彼女と彼との思い出だった。
「アリシエンテ…………」
冷たい闇の中、彼女の中の光は、それだけだった。
(それならば……これからも、その傍に居よう)
エストは、手の中の花びらのような温かなそれに、そっと口付けたのだった。
Fin.
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 雪花菜 凛 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 05月12日 |
出発日 | 05月18日 00:00 |
予定納品日 | 05月28日 |
参加者
- マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)
- アリシエンテ(エスト)
- エリザベータ(ヴィルヘルム)
- ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
- クロス(オルクス)
会議室
-
2014/05/15-21:33
ごきげんよう、マリーゴールド=エンデと申します。
クロスさん、エリザベータさん、はじめまして!
アリシエンテさん、ハロルドさん、今回もよろしくお願いしますっ
誰かと一緒に同じ夢を見るのって初めてですわ。
うふふっ楽しみです!
素敵な夢が見られると良いですわねっ -
2014/05/15-18:48
うぃっす、初めまして。
エリザベータだぜ、よろしくな。
うーん、うちのパートナーの夢…見たいような見たくないような。
どうせ女の子でもナンパしてるんだろうなぁ… -
2014/05/15-14:04
皆さん初めましてねっ。
アリシエンテと言うわ。どうぞ宜しくお願いするわね。
……私は、パートナーの夢の中を覗き見たいわ!
どうせ、デートしても子守でもされているようでつまらないのだものっ!(泣) -
2014/05/15-11:56
初めましての人は初めましてだな。
そうじゃない人はこんにちは。
俺はクロス、宜しくな(微笑)
俺は、パートナーと一緒に夢の中で色々やりたいな…(照笑)
現実じゃ出来ない事…
うん…楽しみだ(微笑) -
2014/05/15-07:02
すごい、みんなカタカナの名前ですね(?
はじめましての方ははじめまして、そうでない方はこんにちは
ハロルドと申します、よろしくお願いします。
たぶん寝てます