もしもし、あのさ。(北乃わかめ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 季節が変わり、すっかり日も短くなった秋のはじめ。あっという間に日が落ちて、気付けば空は橙からさらに色を変えていく。
 任務を終えて、パートナーとも早々に解散した。明日の予定はなし、緊急の任務さえ入らなければただの暇人だ。
 あぁ、と溜息がこぼれる。
 任務はさほど難しくなかったし、大して疲れる内容でもなかった。移動が長かったなと思ったくらいだ。
 それなのに、こんな虚無感を感じるのは。やはり、今の季節がそうさせているのだろうか。

「明日、何するかな……」

 特にやりたいこともないのだが、何か予定を入れたい気分ではある。暇つぶしがてら、散歩でもしようか。
 そう考えていると、傍らの携帯端末が音を鳴らしながら震えた。
 ――着信だ、それもパートナーから。

「……もしもし?」
「あ、良かったー出てくれて! もしかして寝るところだった? ごめんなー!」
「別に……」

 電話でも普段のテンションと変わらないのか。呆れたように、だけど少しほっとしながら「で、何だよ」と続きを促す。

「いやー、なんかヒマでさ! ちょっと電話してみた!」
「あぁ、そう……」
「それとついでなんだけど、明日ヒマ? サッカーの観戦チケット貰ったんだけど、一緒に行かね?」
「……行っても、いいけど」

 よっしゃーありがと! とはしゃぐパートナーの声を、電話越しに聞く。大げさだなと思ったが、寂しさやら虚無感やらはもう消えていて。
 底抜けに明るい声を聞きながら、明日の予定を手帳に書き込んだ。

解説

 パートナーと電話をしましょう。

 プロローグでは自宅にいるときに電話をしていますが、外出中や平日昼間の電話など、シチュエーションは問いません。電話をかけるのも、神人・精霊どちらからでもOKです。携帯ではなく、公衆電話からでも問題ありません。
 電話をした後に合流しても大丈夫ですが、今回は電話での会話がメインですので、合流後の描写は少なくなる予定です、ご了承くださいませ。

 面と向かって言えないことでも、何気ない会話やデートのお誘いでも、会話の内容は基本的になんでもOKです。

※個別描写となります。
※交通費または晩ごはんの買い物で300jr消費します。

ゲームマスターより

声、とても好きです。通りすがりの人の声でも、身近にいる人の声でも、時たますごくグッときます。今回はそんな趣味嗜好を詰め込んだエピソードとなっております。

このキャラはこんな声だろうなぁとかそういう妄想想像しますよね。
普通に話してもそれはそれで良いですが、より近い距離から聞こえるので電話ってなんだか役得な感じしますよね。
……しませんかね。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)

  トレーニング用品を物色しに街に出てたんだけどさ。
ラキアから電話が入って。
「どうした?」
猫達が戸棚をあけて、予備の餌をバラまいた?
そのまま大興奮で容器の水も一緒にぶちまけて、餌全滅…ぷっ(笑。
「戸棚開けるなんて、超頭いいじゃん!」と嬉しい声を上げたら
ラキアに「めっ」と叱られた。喜んでどーするのと。
「でもウチの子なんて賢いの、って絶対思ってるだろ」
とニヨニヨる。
「いつものカリカリ買ってけばいいんだよな」と確認したら、鍵も?「なんで?」
戸棚に鍵掛けるのか。なるほど。
「分かった」と返事してホームセンターへ。
カリカリと、チェーンロックと。
猫達、元気あり余っているみたいだから新しいオモチャも買って帰ろう。


咲祈(サフィニア)
  外出中、突然雨が降ってきて精霊に公衆電話で連絡
もしもし? サフィニア。咲祈だ
雨が、――え? 分かる? 言わなくても?
くす、と笑い
いや。君はすごいね、言わなくても通じる。テレパシー?
ああ、いつもの所だ(書店

…あ
いや。すごい降りだしたな、って。雨
そっと、ざんざん降り始めた雨を見やる
すまない。お金、きれそうだ。公衆電話からかけてるから
…うん。待ってるよ


楼城 簾(白王 紅竜)
  「…しまった」
紅竜さんに預かって貰ってたファイルを受け取り忘れていた。
あれは空だったから油断していた。
携帯に連絡して、と。

1コールで出た。
最初の声だけで何故か緊張してる。
用件を伝えたら紅竜さんは届けに来ると言う。
低くて掠れたような声で…紅竜さんが言うには良くない声。
確かにミズノさんの方が響きがいい。
(何故彼はあんなことをしたのか)(ミズノEP3)
「君も押し倒すと征服した気になるのかな」
気づいたら聞いていた。
が、電話が切れる。
それから1分もしない内に紅竜さんが来てミズノさんの所在を聞いてきた。
いないと返したら、…え?
鍛えられてる腕を振り解けない。

僕は自覚する。
意味が解らないが僕は今緊張している。


ユズリノ(シャーマイン)
  夜 家

「うちで飲会になったの?
彼の家では頻繁に宴会が開かれる
最近は率先しておつまみ係りしてる
それなりに好評らしい
「オッケーだよ! レシピ増えたの披露しちゃう!
彼の声と友人達の雄叫び嫁コールが聞こえて驚き

「僕って嫁扱いなの?
「こ 光栄だよ(照) でもシャミィの嫁ポジなんて 誰かに恨まれちゃう(笑
「ないよ 皆いい人 さすがシャミィの友達だね
「りょうかーい くすくす
「ん? 家事で忙しくしてるよ 今日はずっとおつまみの作り置きやってた
 いつでもシャミィの友達もてなせるようにしてるよ!
どきん「うん 僕も声聞いたら顔見たくなった 早く帰ってきて
後の騒ぎにくすくす

胸が疼く様で吐息
「顔見たいだって どうしよう
照れ照れ
キッチンへ向う


テオドア・バークリー(ハルト)
  …用事があっただけだから。
夜にあんまり騒ぐとまたおばさんに怒られるぞ?
ああ、今日は仕事で留守なのか。

あのさ、明日の小テスト用に貸したプリントなんだけど、
うっかり途中の一枚渡し忘れてたみたいでさ。
早めに渡しておきたいから朝そっちの家に向かうよ。
だからそっちも早めに出る準備しておいて欲し…

おい、どうしたんだよっ、ハル!
通話、切れたし…
今夜は一人らしいし、まさか何かあったんじゃないだろうな…

姉ちゃん、俺今からハルのとこ行ってくるから
飯は皆で先に食っててって母さんに言っておいて!
夜這いじゃないっ!
ああもう、とうとう姉ちゃん達までハルみたいなこと言い出すように…
走って10分ってとこかな…急ごう!


●君を迎えに
 ――ぽつ、ぽつり。
 鼻先に雫が当たったのを感じ、空を仰ぐ。いつの間にか曇天になっていたそこから落ちてくるのは、――雨だ。
 気まぐれに外出途中だった咲祈は、近くの公衆電話に避難した。小銭を入れ、慣れた手つきでダイヤルする。重みのある受話器の向こうで、コールが5回。ぷつりとコール音が途切れ、相手の声が聞こえてきた。

「もしもし? サフィニア。咲祈だ」



 ほんの10分ほど前。自宅にて、サフィニアは家事に精を出していた。
 ふと、窓の外が薄暗くなっていることに気づき、晴れているからとベランダに干した洗濯物を心配する。
 それはあっという間に杞憂ではなくなり、次第にぱたぱたと雨が降り始めた。大変だ、とベランダに出る。
 ――と、そこへ。聞き慣れたコール音が響いた。携帯の着信音だ。画面には「公衆電話」の文字が。誰からだろう、と思いながら電話を取る。

「もしもし。……ああ、咲祈か」

 電話の向こうの声に、それが相方のものであるとすぐに気づいた。雨足はどんどん強くなっていくようで、洗濯物を取り込みながら咲祈との電話を続ける。

「雨が、」
「雨、降ってきたから迎えに来てほしいのかな?」
「――え? 分かる? 言わなくても?」

 言うつもりだったのだろう咲祈の言葉を予測して言えば、きょとんとした声が返ってきた。
驚きと感心、そんな声色だったが、咲祈は少ししてくすりと笑った。

「え、何。咲祈?」
「いや。君はすごいね、言わなくても通じる。テレパシー?」

 電話越しでも、咲祈の声がいつもより明るいのがわかる。いや、電話だからなのか。耳に響く声は、こんな雨の中でもよく聞こえた。

「……テレパシーか」

 使えたら便利なんだけどね――そんなサフィニアの言葉が、音に乗ることはなかった。止まない雨音だけが咲祈の鼓膜を震わすばかりだ。
 テレパシー。そう胸の内でもう一度呟いてみる。触れることも言葉を交わすこともなく、相手の考えていることがわかるなら。きっとそれはすごく便利で楽なのだろう。

「今いるところは、いつものところ?」
「ああ、いつもの所だ」

 相手の過去や、聞いても教えてくれないこと、そんなことまでわかってしまう。それは確かに、誰しも一度は使ってみたいものだろう。現にサフィニアだって、使いたいかと聞かれれば簡単に否定はできない。

「……あ」
「ん? どうかした?」
「いや。すごい降りだしたな、って。雨」

 だけどこうして、言葉を交わして、声を拾って。そうしてゆっくりわかり合っていくのもまた、悪くないと思うのだ。
 電話越しでもわかるくらい雨音が大きくなっている。季節も変わり、随分と肌寒くもなってきた。洗濯物を取り込み終えたサフィニアは、今度は迎えに行く準備を始める。

「すまない。お金、きれそうだ。公衆電話からかけてるから」
「あ、そっか」

 やや焦った咲祈の声色に、自然と動きが早まる。

「……じゃあ今から行くから。待ってて?」

 急がないと。彼が寒さで震えてしまう前に。

「……うん、待ってるよ」

 その言葉を最後に通話が終了する。サフィニアはてきぱきと準備を終えると、咲祈の傘を携えて玄関を出た。
 ――咲祈が待っている。それがまるでエンジンのように、サフィニアの歩調を速めた。
 行きつけの本屋の前でお互いを見つけ合うまで、あと少し。



●忘れ物を頼みに

「……しまった」

 自宅で手荷物を確認した際、楼城 簾は思わず声を漏らした。つい先ほど、白王 紅竜に自宅まで送ってもらったのだが、どうやらその際預けたままの私物のファイルを受け取り忘れていたようだ。
 自身の油断が招いた状況に、痛くなったこめかみを押さえる。簾はすぐさま、紅竜に電話をかけた。

「もしもし?」
「……僕だ。君にファイルを預けたままだっただろう」
「そのファイルなら、これから届けるつもりだ」

 1コールで出た紅竜の声に、一瞬間が生まれた。柄にもなく緊張している――だが、何故? 悶々とした心持ちで要件をファイルのことを伝えれば、届けに来ると言うので簾はそれに了承した。

(――聞き取り易い)

 電話越しに聞こえた簾の声に、紅竜は思考を巡らせていた。
 簾は、ピンとまっすぐな声をしている。それは普段の振る舞いを含め、簾が意識している部分だと察する。曲げ折れることのない背すじと同じようだ。

(人心掌握も考慮した――人としてどうかと思う理由だが)

 計算高く野心家である簾だ、意図的にそうしていると容易に想像がつく。誰だって、不安げな声よりもはっきりした声の方が安心を感じるし、つい信じてしまうものだ。
 それらを考えた結果なのだろう声だが、その聞きやすさから不思議と嫌な気持ちは湧かない。むしろ好感が持てる。

(低くて掠れたような声で……紅竜さんが言うには、良くない声)

 一方で簾も、間近で聞いた紅竜の声について考えていた。本人が言うように、聞こえやすさとはまた違う質の声だ。それが悪いとは、簾は思わなかったが。
 確かに、もう一人の精霊の方が響きはいいだろう。そこまで考えて、ふと疑問がよぎる。

(何故彼はあんなことをしたのか)

 記憶に新しい、祭りの日に起きたこと。あまりに衝撃的な出来事だったが、簾は純粋に理由が知りたかった。
 何故、突然押し倒されたのか。

「――君も押し倒すと征服した気になるのかな」
「君、『も』……?」

 それは、簾の意図したものではなかった。つい、口をついて出てしまった疑問。妙なことを聞いた、と紅竜に声をかけようとしたが、何か言葉を発する前にブツリと電話が切れてしまった。
 それから1分の間もなく自宅のチャイムが鳴る。来ると言っていた紅竜だろうが、随分早かったなと思いながら玄関のドアを開けた。

「フォロスさんがいるのか?」

 追いつめられたような瞳で問われた言葉に、数度目を瞬かせる簾。なぜ、ここでもう一人の精霊の名前が出てくるのか。

「いないが……――え?」

 いったい何なんだ、と思いつつ返事をした、途端。
 紅竜の鍛えられた腕が簾を引き寄せる。突然のことに簾は抵抗することもできず、紅竜はそのまま彼の体を抱きしめた。
 漏れるのは、安堵の溜息。さっきの問いから、おそらくもう一人の精霊と何かあったのだろう。でなければ、簾からあのような疑問が出てくるとは思えなかった。
 自分は簾の精霊で、日常含め警備を行うよう派遣されているのに。何かあった後では遅い、それでは自分のいる意味がない。

(彼はクズでどうしようもないが、案外可愛い護衛対象なのだから)

 硬直している彼の動揺を感じながら、紅竜はこっそり目を細めた。
 抱きしめられたままの簾は、はたと気づく。この、強張る体を支配する感情のひとつを。

(意味が解らないが――僕は今、緊張している)

 近づいた距離。全力疾走でもしたのか、ややあたたかな体と、深く吐き出された吐息。すぐ傍で感じるそれらに、体の緊張はしばらく解けそうになかった。



●買い物のお願いに
 眼前で繰り広げられた惨状に頭を抱えたのは、自宅で留守番をしていたラキア・ジェイドバインだ。

「君達、大事なゴハンを自分達でダメにしてどうするの」

 『彼ら』と目を合わせるようにしゃがみ、苦く笑いながら問いかける。しかし返って来たのは、元気のいい鳴き声だった。

「ミャウミャウ抗議しないの」

 この惨状の犯人である『彼ら』をキャリーケースに隔離する。
 家の中なのに広がる水たまり、それから散らばった『彼ら』のごはん――もとい、カリカリ。兎にも角にも、ラキアは電話をかけることにした。
 相手はもちろん、買い物途中の彼に、である。



 自身のトレーニング用品を物色している最中、震えた携帯の画面を見るセイリュー・グラシア。表示されているラキアの名前を確認し、電話に出る。

「どうした?」
「あぁ、セイリュー。あのね――」

 ラキアからの説明に、セイリューが「えっ」と声を上げる。

「――猫達が戸棚をあけて、予備の餌をバラまいた?」
「そう」
「そのまま大興奮で容器の水も一緒にぶちまけて、餌全滅……ぷっ」
「そう、なんだけど……」
「戸棚開けるなんて、超頭いいじゃん!」

 事の顛末を聞いたセイリューは、たまらず吹き出し、嬉々とした声でそう言い切った。怒るでも呆れるでもなくテンションが上がるあたり、セイリューらしいと言えばらしい反応なのだが。
 さすがにそれで片づけることができないくらいの惨状なのである。ラキアから「めっ」とお𠮟りを受けた。

「もう、賢いって喜ばないでよ」
「でもウチの子なんて賢いの、って絶対思ってるだろ」

 電話越しでも、セイリューがニヨニヨとにやけているのがわかる。しかしながらセイリューの言った言葉はあながち間違いでもないので、ラキアははっきりとした否定はしなかった。
 むしろ、あの後写真を撮るくらいには、ラキアも猫たちの賢さや器用さにテンションが上がっていたのだ。我が子のようにかわいがっている猫たちのことだ、やんちゃな子を叱りはするが、しょうがないなとつい甘やかしてしまう。
 だってかわいいのだから、仕方がない。

「……後で写真送ってあげるよ。猫の餌と、チェーンロックを買ってきてくれる?」
「いつものカリカリ買ってけばいいんだよな」
「そう、いつものやつをね」

 空っぽになってしまった餌の袋を摘まみながら、買い物のお願いをする。明日どころか、今日の夜ごはんすら残っていないのだ。

「ん、鍵も? なんで?」

 ふと、お願いされた品に首を傾げるセイリュー。玄関を厳重にでもするのかと思ったが、どうやら違うようだ。

「戸棚の取っ手に鍵掛けとけば、当面は安心だし。お願い」
「分かった」

 なるほど、と納得をしながら電話を切ってホームセンターへ向かうセイリュー。目当ての物を買い物カゴに入れたところで、家で待っている猫たちのことを思い浮かべた。
 目に止まった猫用のオモチャを手に取る。まだまだやんちゃ盛りの猫たち。戸棚に飛び乗るくらい元気があり余っているようだ。セイリューはそのままオモチャもカゴに入れ、レジへと向かった。

 随分、面白いことが起きたみたいだ。家で待っている猫たちとラキアのことを想うと、帰り道を歩く足取りはいつもより軽くなった。



●忘れ物を伝えに

「うわ、充電真っ赤! ゲームやりすぎたかー、流石に充電しないと……」

 日も落ち、もうそろそろ晩ごはんかという時分。最近やり始めたソーシャルゲームに夢中になっていたハルトは、やばいやばいと言いながら、充電器を探す。
 しかし充電器が見つかる前に、唐突に着信音が流れた。

「……こんな時間に電話とか……んー?」

 見れば、そこにはテオドア・バークリーの名が。めったに電話をかけない彼から、しかも夜に。ハルトは充電器そっちのけで、真っ先に電話に出た。

「もしもーし、どうしたのテオ君、おやすみ前に声が聞きたいなー的なそういうアレ?」
「……用事があっただけだから」
「もーテオ君ってば強がるくせに寂しがり屋なんだからー!」
「夜にあんまり騒ぐとまたおばさんに怒られるぞ? ああ、今日は仕事で留守なのか」
「……わあバッサリ、うん、そう来るって知ってたけどさ」

 夜でもハルトのテンションは健在だが、それをあしらうテオドアの調子もまた健在なのである。淡々としたテオドアの声に、いつも通りと思いながらも肩を落とすハルト。
 どうしたの? と要件を促せば、テオドアは「あのさ、」と続けた。

「明日の小テスト用に貸したプリントなんだけど、うっかり途中の一枚渡し忘れてたみたいでさ」
「ほんとだ、途中が飛んでるわー」

 学校で渡されたプリントを確認しながら、間が抜けていることにハルトも気づく。パラパラとプリントを眺めれば、気になる問題がいくつかあった。一人で考えるには、少し小難しい内容だ。

「早めに渡しておきたいから、朝そっちの家に向かうよ。だからそっちも早めに出る準備して欲し……」
「……そうだ、ついでに質問! 待ってて今ノートひら……ぁがッ!!!」

 わからない部分を今聞いてしまおうと、机の上に置きっぱなしだったノートを取るため慌てて立ち上がったハルト。
 テオドアを待たせまいと一歩踏み出した、ら。

「小指……小指ぶつけた……! おのれタンス……こんなところにタンス置いたの誰だよ馬鹿じゃねえの……って俺か!」

 突如として襲ってきた鈍い痛みに悶絶するハルト。形容しがたいうなり声を発し、せめて少しでも痛みが和らぐようにと強かにぶつけた小指をさすった。タンスの角にぶつけてしまった小指はやや赤くなっており、その痛みを物語っているようだ。

「あー……死ぬかと思った」

 目じりに涙を浮かべながら、荒れた息を整えるハルト。携帯の画面はもう真っ黒で、ハルトがのたうち回っている間に充電が切れてしまったようだ。電話の途中で切れてしまったのだろう、テオドアへの罪悪感が募った。



「――おい、どうしたんだよっ、ハル!」

 その頃のテオドアは、ひどく困惑した様子だった。突然悲鳴のような声の後、電話がすぐに切れてしまい、かけ直しても繋がらなくなってしまったのだ。

「まさか何かあったんじゃないだろうな……」

 今、ハルトは自宅でたった一人。もし万一のことが起きたのなら……そう考えると、ぞっとする。心配でたまらない。
 テオドアはバタバタと足音を鳴らしながら玄関へ向かった。晩ごはんの用意をしているらしい姉を見かけ、靴を履きながら声をかける。

「姉ちゃん、俺今からハルのとこ行ってくるから――」
「夜這い?」
「夜這いじゃないっ!」

 からかうような姉の言葉に全力で否定をし、晩ごはんは先に食べるよう伝えて自宅を飛び出した。
 最近、ハルトと似たようなことを言い出した姉にげんなりしながらも、頭の中を埋めるのはハルトへの心配と無事を祈る気持ちだけだった。

「走って10分ってとこかな……急ごう!」

 近所なのが幸いし、テオドアは思ったよりも早くハルトの家へ着いた。震える指でインターホンを鳴らす。
 無事でいてくれ、そんなことを思うテオドアだったが、現れたハルトの様子に鉄拳制裁を下したのはまた別の話である。



●飲み会のお願いに

「うちで飲み会になったの?」
「そ。これから10人引き連れて帰る。準備頼めるか?」

 仕事終わりのサラリーマンやフリーターたちが、飲み屋を探し始める夜。電話の向こうにいるシャーマインのお願いに、ユズリノは快く「オッケーだよ!」と返事をした。

「レシピ増えたの披露しちゃう!」

 シャーマインの家に住まわせて貰っているユズリノは、率先して家事を受け持つようになった。最近では、頻繁に開かれる宴会のおつまみ係を担っている。
 それなりに好評だと言われれば、やる気も上がるというもの。さっそく準備するべく冷蔵庫を開けた。

「お、楽しみだな。――お前ら、リノの料理食わせてやるから付いてこい!」

 途端聞こえてきたのは、シャーマインの友人たちの威勢のいい声。ユズリノの料理が楽しみなのか、シャーマインの煽りが上手いのか。おそらくどちらも当たりだろう。
 ただ、その声に混じって聞こえてきた嫁コールに、ユズリノは目を丸くした。

「僕って嫁扱いなの?」
「最近は嫁で通ってるな。嫌か?」

 シャーマインの問いに、電話ではあるがユズリノはぶんぶんと頭を左右に振った。

「こ、光栄だよ! でもシャミィの嫁ポジなんて、誰かに恨まれちゃう」
「リノの良妻ぶりに俺がやっかまれる位だろ。それとも、誰かに何か言われたか?」
「ないよ、皆いい人。さすがシャミィの友達だね」

 照れくさそうに笑うユズリノの言葉に、シャーマインも少しくすぐったさを感じる。後ろを振り向けば、ユズリノのおつまみを楽しみに騒いでいる友人が。
 気のいい奴らだ、と少し誇らしげに言葉を返す。

「だが、皆酔っ払いだ。何かされそうになったら俺の所に必ず非難するんだぞ」
「りょうかーい」

 シャーマインの言葉を冗談と捉えたのか、ユズリノがくすくすと笑った。
 耳をくすぐる声は、自分よりも少し高めで。料理も上手く、甘めの顔立ちをしているユズリノを好意的に思っている者もいそうだ、と焦りを感じる。

「俺のいない間、何してるんだ?」

 会えない時間にユズリノが何をしているのか、誰かと会っているのか不安になってつい聞いてしまった。胸の内でやめろ、と止めようとした自分がいたのにも関わらず、だ。
 急な質問にやや間が空いて、ぎゅっと胸が苦しくなった。

「ん? 家事で忙しくしてるよ。今日はずっとおつまみの作り置きやってた。いつでもシャミィの友達もてなせるようにしてるよ!」

 ユズリノの返事に、ほっと胸を撫で下ろす。

「そうか……すぐ帰る。顔が見たい」
「……うん、僕も声聞いたら顔見たくなった。早く帰ってきて」

 このまま電話を続けていては、また何を口走るかわからない。そう思って伝えた言葉はやけにストレートで。一部始終を聞いていた友人たちに冷やかされたが、それも気にならないくらいユズリノの言葉が嬉しかった。
 また笑っているユズリノに「俺も手伝うから」と伝え電話を切る。

(随分余裕ないな、俺。……らしくもない)

 乱された心に、ふっと笑う。
 決して嫌悪感なんてものではない。内側に燻っていたモノの正体がわかり、つっかえが取れた感じだ。
 嫁と呼ぶのも、誰にも触れさせたくないと思うのも、頼るのは自分だけにしてほしいと思うのも。すべて、胸の奥に隠れていた――独占欲が、そうさせるのだ。
 早く帰って、顔が見たい。改めてそう思ったシャーマインは、帰路を急ぐのだった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 北乃わかめ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月03日
出発日 10月11日 00:00
予定納品日 10月21日

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