あなたの本音、ぷりーず!(北乃わかめ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●とある研究所にて

「らぶゆー、らぶみー、らぶぁーず、いえーい」

 ふんふふーんと鼻歌混じりに歌いながら、少女が大きな棚から小瓶を取り出す。舌足らずなその歌は、どこで覚えたのか音程はちぐはぐだ。
 少女は取り出した小瓶の蓋を開け、中の飴玉を手のひらにころんと出した。赤、黄、茶……形は違うが、林檎の甘い匂いがする。

「ふむふむ……これが、甘い……」

 赤い飴玉を口に放る少女。しかしどこか不満げに、首を傾げる。

「……ぼっちじゃ、よくわからんですな。へるぷしましょー、そうしましょー」

 それがいい、と頷くと、少女は小瓶を抱えて外へと飛び出した。
 善は急げ。考えるよりも感じろ。攻撃は最大の防御。思い立ったが吉日……などなど。あらゆる行動的な言葉を思い浮かべながら、少女はタブロスの新市街北部へと向かうのだった。



●A.R.O.A.本部
 任務の報告のため本部に訪れたあなたは、入口の前で突然誰かに声をかけられた。

「へい、ゆー! へるぷみー! ぷりーず!」
「……えっ?」

 現れた見知らぬ少女に驚くあなた。ヘルプ、とは言っているが、あまり困っている表情には見えない。
 職員か誰かの娘だろうかと考えていると、ずいっと手のひらサイズの小瓶を目の前に差し出された。

「ぱーとなーの本音、知りたくないですか! 何か知りたいこと、ないですか!?」
「え、えっと……」
「是非とも試していただきたい! そして効果のほどを教えていただきたい! 切に!」
「もしかして、最後のが本当の目的だったり?」
「いえす、ご明察!」

 答えていいのか、という疑問は飲み込むことにした。
 少女が持っているのは、何の変哲もないただの小瓶だ。少女の勢いに押されるまま、あなたは事情を聞く姿勢を取った。

「こちらなんと、一粒食べるだけで思わず本音を言いたくなる摩訶不思議な飴でっす!」
「本音……」
「その名も『マコト・ドロップス』! 林檎味!」

 曰く、飴を食べてその結果を教えてほしい、と言うのだ。味に違いはなく、飴の色で効果が若干違うらしい。
 自然由来だから体への影響もないし、とてつもなく不味いわけでもない。ただ単純に、本音が出てしまうだけ。

「わ、わかった……じゃあ、貰うね?」
「ありがとうございます! うぃんくるむの人は神さまでっす!」

 大げさだなぁと朗らかに笑えば、少女はそれではとレターセットをあなたに渡した。これに結果を書いてほしいと言う。
 あらゆる言語で『愛』とプリントされたそれには、郊外にある公園の住所が記されていた。宛名は、『ラヴァーズ研究所』。

「おうち、山奥なので。直接の配達は申し訳ないので、近場の公園で受け取るようにしているのですよ」
「そっか。じゃあ、試したら送るね。……そういえば、あなた名前は?」
「おや、申し訳ない。わたしのことは、『アルファ』と呼んでくださいませ!」

 お返事待ってます! と元気よくそう言って、少女は大きく手を振りながら去っていった。
 あなたの手には、飴玉の入った小瓶とレターセットが残された。

解説

 謎の少女・アルファから渡された、本音が出てしまう飴玉の効果を試していただきます。
 場所はどこでも構いませんが、街中だと大勢いる前で本音を暴露しかねないのでご注意ください。
 プロローグでは、神人が小瓶等を受け取っていますが、精霊が受け取ってもいいですし、飴玉を食べるのも神人・精霊問いません。
 ただし、どちらか片方だけが飴玉を食べる形となります。
 結果報告については、プラン内に1文記載いただく形となりますが、「食べた結果を書いて送った」と報告の中身を書かなくても問題ございません。

 食べる飴の色と、思わず出てしまった本音、それに対する反応や行動などをプランにご記載ください。


●飴玉『マコト・ドロップス』
 食べると、思わず本音を言いたくなる不思議な飴。成分は不明だが、自然由来なので人体に影響が出ることはありません。
 効果は10分ほど続きます。がっちり口を押さえてしまえば本音が漏れることはありませんが、かなりつらいし苦しいです。押さえる手も痛くなります。
 味は一貫して林檎味ですが、食べる飴玉の色によって効果が若干異なります。

 赤:紅葉型の飴。主に恋愛事に関しての本音が言いたくなる。
 黄:イチョウ型の飴。主にパートナーへの不平不満が言いたくなる。
 茶:どんぐり型の飴。主に過去に関しての本音が言いたくなる。


●少女と研究所
『アルファ』
 突然現れた謎の少女。テンションが割とおかしい。山奥にある研究所で住んでいる。
 見た目は10歳くらい、黒髪ツインテール。

『ラヴァーズ研究所』
 タブロス郊外の山奥にある、知名度の低い小さな研究所。
 名前からして、『愛』について研究しているらしいが、詳細は不明。

※個別描写となります。
※A.R.O.A.本部への交通費等で300jr消費しました。


ゲームマスターより

ジャンルはロマンスですが、シリアスでもコメディでも構いません。
今回出てきたNPCは、他のエピソードでも出すと思いますので「あぁいたな」くらいの感覚で見ていただければ幸いです。

どうぞよろしくお願いします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  公園のベンチに座り 受け取った小瓶を見せながら経緯を話す
額を抑え文句を言うシリウスに首を傾げ
体に影響ないって言っていたし お手伝いするくらいいいと思うの
…食べてみる?

嫌そうな顔に笑顔
じゃあ わたしが食べるね
黄色の飴を口に

…シリウスは わたしのことをどう思ってるの?
苦しいことや悲しいことは絶対教えてくれない
わたしだって力になりたいのに
信用されていないみたいで悲し…!
 
彼の顔に明らかに傷ついた色を見つけ口を押える
ー違 ごめ…!
ただ もっと頼ってほしいって…

涙が零れる 急に抱きしめられ瞬き

わたし あなたの役に立てている?
返された言葉に笑顔
あなたが苦しみに溺れてしまわないよう 
わたしがずっと手を握っているわ 

後日結果報告


上巳 桃(斑雪)
  はーちゃんに変なもの食べさせるわけにいかないから、私が食べるね
黄色いのにしよ、ぱくっ

特に変わった感じはしないけど…
なにか言いたいこと?
そうだね、1日25時間ほどお昼寝したいな
お日様の匂いのするふかふかのお布団で
でも、お布団干すのってめんどくさい

はーちゃんがお布団干してくれるの?
そんなら今朝出掛けるまえに気付いてくれればよかったのに
はーちゃん、まだ小さいもんね
そういうとこやっぱり気が利かないっていうかちょっと頼りないっていうか

って、私はなにを言ってるんだ
お布団干してもらえるだけ有り難いのに
全部なしだこれ
はーちゃん、いつも傍にいてくれてありがと
はーちゃんががんばってること、私はちゃんと知ってるよ


シルキア・スー(クラウス)
  昼間 彼の和室
2人で縁側に座ってる
飴の説明をした後
「これ 試してみたいの
 私としてはあなたに黄色を食べて貰って
 私への不平不満を聞きたいの
「なら それを試そうよ!

という訳で試す事に
飴食べたの確認
不平不満を受入れる覚悟の緊張の面持ち
「じゃあどうぞ
覚悟してた分つい反論
「そんな訳ないでしょ 料理下手で呆れるとか 女らしくないとか おっちょこちょいとか …あ
自爆に口抑え
流れる様な褒め殺し攻撃?受け
(あわわわ 羞恥で死ぬ
「…こ 光栄です (完敗

「あなた何も言わないからきっと溜め込んでると思ったのに
「!…今のがあなたの不満?
思い当たる事多々
「うん というかその…ありがとう
(…彼の貴重な本音…頼る、か

「考えてみる

結果を記し送った


リヴィエラ(ガウェイン)
  茶の飴を食べる側
参照EP116『どうか、何を知っても』

リヴィエラ:

(何かあった時だけ、ガウェイン様に相談しようだなんて
私は何て身勝手なの…)

何でも…何でもないのです…。

(飴を舐めた途端、泣きながら)
ロジェの故郷を滅ぼし、両親を殺したのは…私のお父様だったのです…。
マントゥールであるお父様がオーガをけしかけ、ロジェの大切なものを奪って…
お父様のした事なら、私のせいでもあるんです。
私は罪人です。ロジェにどう償えば良いのかわからない…!

(ガウェインの服の裾を掴み)
お願いします…私の居場所はロジェには言わないで…
今はお友達のお父様のお世話になっているのです…
お願いします…ロジェにあわせる顔がないの…


ミサ・フルール(エリオス・シュトルツ)
  ☆生活拠点にしている宿屋、神人の部屋にて
いい茶葉を手に入れたんですよー(空元気で紅茶を淹れながら)
(精霊に何か悩んでいるのではないかと言われ)悩み事なんてないですよ、や、やだなぁ・・・!(泣きそうになるのを笑顔で誤魔化す)
(茶色の飴玉を渡され)これ飴、ですか?
私子供じゃな・・あ、待ってください、やっぱり食べたいです(←甘い物好き)

父と母の事が知りたいです
エリオスさんは両親の過去を知る唯一の人だから
けれどそれを聞けば貴方の心の傷を抉ってしまう
でも知りたいと思う気持ちは止められなくて
ごめんなさい、ごめんなさい・・・!
っ、また話してくれるんですか?
エリオスさん、ありがとう

飴のお陰で絆が深まったと報告


 ウィンクルムたちから送られてきた手紙を、アルファは興味深げに読んでいた。
 彼らの言葉で綴られたそれに込められた感情を読み取るべく、真剣に手紙を見つめる。



●Case.1
 エリオス・シュトルツは、近頃ミサ・フルールから向けられる視線が気になっていた。

「いい茶葉を手に入れたんですよー」

 拠点にしている宿のミサの部屋に招かれたエリオス。
 ミサは言いながら紅茶を淹れるが、その瞳は憂いに満ちている。悲しげに揺れる瞳が何を隠そうとしているのか、エリオスには大方の予想はついていた。

「ミサ、何か悩んでいるのではないか」
「な、悩み事なんてないですよ、や、やだなぁ……!」

 疑問ではなく断定的なその言葉に動揺するミサ。眉尻を下げ笑顔を見せるが、それが作っているものだとすぐにわかった。
 何かを堪えるように笑うミサに、エリオスは先日アルファから受け取った飴を差し出す。

「これ……飴、ですか? 私子供じゃな――」
「林檎味らしいのだが、俺には甘すぎるからな」
「――あ、待ってください、やっぱり食べたいです」

 ミサはあっさりと、どんぐり型のそれを受け取った。
 手のひらに乗せられた飴は、芳醇な林檎の香りをこれでもかと発している。たまらず口の中に入れると、更に林檎の甘さが口いっぱいに広がった。その甘さに、ミサの表情も和らぐ。

「それで、悩みがあるのではないか?」

 飴が溶けてきただろう頃を見計らい、再度エリオスが問う。投げかけられた問いに、ミサは徐に口を開いた。

「……父と母の事が知りたいです。エリオスさんは、両親の過去を知る唯一の人だから」
「……そうか」
「けれど、それを聞けば貴方の心の傷を抉ってしまう……でも、知りたいと思う気持ちは止められなくて……!」

 次第に熱を帯びる言葉を、エリオスは静かに聞いていた。ミサは肩を震わせ、溢れ出る涙を見せぬよう俯く。
 ごめんなさい、と繰り返し謝るミサ。エリオスが傷つくとわかっていても、気持ちを止めることも消すこともできなかった。それどころか、聞きたいという欲求が増えてきて。自責の念に駆られたミサは、自らの身体を掻き抱いた。

「俺の事を気遣って涙を我慢するなど……本当に優しい娘だよ、お前は。子が親の事を知りたいと思うのは、当然のことだ」

 エリオスは嘆くミサの頬を、両手で包み込んだ。自分を見上げる、真っ赤なミサの瞳から溢れる涙を、そっと指で拭う。その仕草が殊の外優しくて、ミサはふと肩の力を抜いた。

「今日は、サリアの事について話してやろう」
「お母さん、の……?」
「そうだ。サリアは今のお前のように泣き虫なところがあった」

 面影の残るミサの顔を見、懐かしむように話すエリオス。その言葉ひとつひとつを、ミサはしっかりと耳に残していく。

「けれど、辛いことがあると気丈に振る舞おうとする。泣きたいのに、周囲に心配をかけまいと涙を笑顔の裏に隠そうとする……ちょうど、先程のお前のようにな」

 ――その嘘を暴いて、涙を拭うのはいつも俺の役目だった。
 す、とエリオスが瞳を閉じる。瞼の裏に映るのは、かつて愛した人の涙。そして、その後に見せる花のような笑顔。
 だけど。

「また機会があれば昔話をしてやろう」
「っ、また話してくれるんですか?」

 目を開ければ、涙の止まったミサの顔があった。まだ震える声に肯定すれば、花開くように明るみを帯びる笑顔になって。

「エリオスさん、ありがとう」

 そう言ったミサの顔は、やはりサリアに似ていた。だが、同じではない。甘い物が好きで、優しくて笑顔の美しい「ミサ・フルール」が、ここにいた。



●Case.2

「そうだ、公園でドロップの効果を確かめましょうっ! 黄葉にはまだ早いですけど、お散歩には気持ちのいい季節ですよ」

 飴の入った小瓶を受け取った後、斑雪の提案で近くの公園に訪れた。斑雪の言葉通り、秋の日差しはぽかぽかとあたたかく、上巳 桃は公園のベンチで微睡みかけている。
 さっさと飴の効果を確かめて寝てしまいたいな、と桃は小瓶の蓋を開けた。

「はーちゃんに変なもの食べさせるわけにいかないから、私が食べるね。……黄色いのにしよ」

 ころん、とイチョウ型の飴を手に乗せ、そのままぱくり。もごもごと口の中で飴を転がすが、差し当たって変化は感じられない。

「特に変わった感じはしないけど……」
「そうなのですか? 先ほどの話だと、本音が言いたくなるとか……」
「なにか言いたいこと? ……そうだね、1日25時間ほどお昼寝したいな。お日様の匂いのするふかふかのお布団で」

 あ、やっぱり主様だ。桃の発言に、やはり変化がないと斑雪も感じる。失敗作だったのだろうか? と首を傾げた。
 すると、ぼんやりとした目で桃が溜息を吐いた。

「でも、お布団干すのってめんどくさい」
「それじゃ拙者が、帰ってからお布団を干しますよ。今日いい天気ですから!」

 無気力なその言葉に、斑雪が返事をする。任せてください! と言わんばかりに意気込む斑雪に、桃は気だるげな視線を向ける。

「はーちゃんがお布団干してくれるの? そんなら、今朝出かけるまえに気づいてくれればよかったのに」
「主様……?」

 投げかけられた言葉に、斑雪の表情が強張る。いつもと違う桃の様子に動揺を隠せない。
 睡眠優先でいつも眠たげな桃ではあるが、斑雪にこんな冷たい視線を向けたことなどなかったのに。

「はーちゃん、まだ小さいもんね。そういうとこやっぱり気が利かないっていうか、ちょっと頼りないっていうか」
「拙者、まだまだ頼りないですか……!」

 がーん、と効果音が付きそうなほど落胆する斑雪。幼い自覚はあるが、桃の言葉は斑雪の胸に深く突き刺さった。

「……確かに拙者、主様より全然子どもです。でもでも、これでも毎日一生懸命修行したりして……うぅ」
(それに主様だって、そんなに頼れるって性格でもないですし……)

 言いながら、目に涙を浮かべる斑雪。呟いた言葉は、かろうじて桃の耳には届かなかったようだ。
 斑雪の涙を見て、桃がはたと気づく。自分はなにを言っているんだ、と。

(お布団干してもらえるだけ有難いのに……全部なしだこれ)

 普段から、何かと尽くしてくれる斑雪のことを思い出す。飴の効果をかき消すように、ぶんぶんと頭を振った。

「はーちゃん、いつも傍にいてくれてありがと」
「う……ぐすっ」
「はーちゃんががんばってること、私はちゃんと知ってるよ」

 ぽんぽん、と斑雪の頭を撫でる桃。斑雪が見上げた先に、さっきのような冷たい目の桃はもういない。
 いつもの、主様。そう確信して、斑雪はごしごしと涙を拭った。

「す、すいません、泣いたりなんかして……。拙者の勉強が足りないだけですね」

 眠たげで、寝ることが大好きで、ふわふわしていて。誰よりも、自分を見てくれる人。そんな桃だから、傍にいたいと思えるのだ。

「主様のために、明日からもいつも以上にがんばっていきますよっ」

 とりあえず、お布団を干そう。干してふかふかのお布団を献上しよう。そう意気込む斑雪の表情は、先ほどよりも晴れやかになっていた。



●Case.3
 穏やかな陽光の差す昼間。クラウスの和室にある縁側に腰掛け、シルキア・スーは飴の入った小瓶をクラウスに見せた。

「そういうわけで、これ、試してみたいの。私としては、あなたに黄色を食べて貰って私への不平不満を聞きたいの」
「その様な物は無い。効果はないだろうな」

 ふ、と微笑むクラウス。シルキアを尊重し、忠義の念を持つクラウスにとって、思い当たる不満など無いに等しかった。
 だが、シルキアはクラウスに嬉々として言い放った。

「なら、それを試そうよ!」
「……え?」

 はい、と渡されるイチョウ型の飴。食べて試さない限り、おそらく折れないだろうと悟ったクラウスは、言われるがまま飴を口に含んだ。
 本音、とは。何を口走ってしまうかわからないこの状況に、クラウスもシルキアも若干緊張する。

「じゃあ、どうぞ」

 覚悟を決め、シルキアが催促する。クラウスは暫し間を置き、口を開いた。

「……思い当たらぬ。お前はしっかり者だ」

 はっきりとした声。しかし言われた本人は納得がいかない様子だ。やや前のめりになりながら、クラウスに反論する。

「そんな訳ないでしょ! 料理下手で呆れるとか、女らしくないとか、おっちょこちょいとか……あ」
「それは、お前が気にしている事か」

 シルキアが慌てて口を押さえるも、もう遅い。言ったことはすべて、日頃シルキアが自身に感じていることだった。
 それを感じ取ったクラウスは、気まずげに目を逸らすシルキアを見つめ、すうっと息を吸った。

「何れも俺には不満に至るものではない」
「けど……っ」
「料理の習いを受けているな。不得手を克服しようとする姿は感心を覚える。そして煌めく様な笑顔を持つお前は間違いなく十分な女性としての魅力を備えている」
「ちょ、ちょっと」
「さらに粗相をしない者等いない。反省し改める心掛けを持ったお前を責める理由は無い」

 一呼吸ついた頃には、シルキアは羞恥で顔を真っ赤に染めていた。それを見据え、最後に一言。

「故に、誇りにさえ思う」
「……こ、光栄です」

 満足顔で言い切ったクラウスに、シルキアは白旗を上げるしかない。まさか、そんな風に思っていたなんて。思わぬ言葉に、顔から火が出そうだった。

「あなた何も言わないから、きっと溜め込んでると思ったのに」
「俺が言わぬのは、自らで解決したいと考えるお前のその精神を尊重したいからだ」

 自身で述べた通り、シルキアが何事にも努力していることをクラウスは知っている。だからこそ、横から口を挟まず見守っていることが、シルキアのためだと思ったのだ。現に、シルキアは自ら克服しようとがんばっている。

「……だが、そこに寂しさを覚えることがある。頼ってはくれぬのかと」
「! ……今のが、あなたの不満?」

 クラウスの表情に影が差す。目を伏せたクラウスは、ひどく寂しそうで。それがまさしく本心だと気づいた。
 誰に甘えるでもなく、自ら解決しようとすることは美徳と言えるだろう。だが、それはつまり誰も頼らないことと同じだ。今までのことを振り返り、シルキアにも思い当たることが多々あった。

「効果はあったな」
「うん、というかその……ありがとう」

 自身の言葉にはっとしたクラウスも、それが本音であると自覚したようだ。シルキアは、クラウスの言葉を胸の内で反芻する。

(……彼の貴重な本音……頼る、か)
「考えてみる」

 甘えるではなく、頼ること。
 まっすぐこちらを見つめるシルキアに、クラウスはそっと微笑み頷いた。



●Case.4

「……知らない人間から、明らかに怪しい物を貰うな」

 公園のベンチで一通り経緯を説明されたシリウスは、鈍く痛む額を押さえた。その様子に、リチェルカーレは首を傾げる。

(頼むからもう少し、警戒心を持ってほしい)

 リチェルカーレの持つ優しさを否定するつもりはないが、世の中善人だけではないのだ。いつ、リチェルカーレに害が及ぶか――そう考えるだけで、不安の渦に呑まれそうになる。

「体に影響ないって言っていたし、お手伝いするくらいいいと思うの」
「……普通の飴に見えるな」

 毒でもなさそうだ、と手のひらに乗せた黄色い飴を観察する。ふわりと香るのは間違いなく林檎の匂いで、見た目にも毒々しさは感じられない。

「……食べてみる?」

 だが、それとこれとは別問題だ。仮にただの飴だとしても、見知らぬ人間から貰ったという時点で怪しさは拭えない。シリウスは目に見えて嫌そうな顔をした。

「じゃあ、わたしが食べるね」

 そんなシリウスの様子にリチェルカーレはふふ、と微笑んだ。そして言うが早いか、シリウスの手に乗る飴を口に入れてしまったのである。
 止める間もなかったリチェルカーレの行動に目を剥くシリウス。当の本人は、ころころと口の中で飴を転がしている。

「リチェ……?」
「……シリウスは、わたしのことをどう思っているの?」

 ややあってシリウスが声をかけると、リチェルカーレはぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始めた。先ほどと変わって少し落ちた声のトーンに、シリウスの胸が軋む。
 投げかけられた問いに答える前に、リチェルカーレは続けた。

「苦しいことや悲しいことは絶対に教えてくれない……わたしだって力になりたいのに。信用されていないみたいで悲し……――!」

 その時、リチェルカーレの瞳に映ったのは、切なげに表情を歪めたシリウスだった。
 信用されていない――吐き出してしまった言葉に気づき、自らの口を押さえる。指先は冷え切っていた。

「違、ごめ……! ただ、もっと頼ってほしいって……」

 傷つけたかったわけじゃない。そんなことを言いたかったわけじゃない。それなのに、流れ出た言葉は明らかにシリウスを苦しめた。
 後悔に苛まれ、リチェルカーレの瞳に雫が溜まっていく。それを見て、シリウスは僅かに口元を緩め、リチェルカーレを抱き寄せた。近づく、花の香り。
 ぱちり、と瞬きをした拍子に、リチェルカーレの瞳から涙が一粒零れる。

「……お前は悪くない、悪いのは俺だ」

 まるで懺悔をするように、シリウスが言う。リチェルカーレはそっと、シリウスの横顔を見つめた。

「――だけど信じてくれ。信用していないんじゃない、頼りにしていないんじゃないんだ」
「シリウス……」
「差し出されるお前の手に、どう反応すればいいのかわからなくて」

 傍にいてくれる存在がある。それがどれほどシリウスの心を救っているのか、きっと誰にも推しはかることはできないだろう。
 深い水底に、一筋の光が差し込むように。眩しくてあたたかなそれに、つい縋りたくなってしまう。

「わたし、あなたの役に立てている?」
「……前にも言った。お前がいてくれるから、息ができる」

 苦しまないよう加減をしていても、思いが溢れるのに合わせてリチェルカーレを抱きしめる腕に力がこもる。
 シリウスの言葉に、リチェルカーレは安堵し笑顔になって。シリウスと同じように、彼の身体をぎゅっと抱きしめた。

「あなたが苦しみに溺れてしまわないよう、わたしがずっと手を握っているわ」



●Case.5

「リヴィエラちゃん、ここなら落ち着けるぜ」

 リヴィエラから連絡を受けたガウェインは、すぐさまA.R.O.A.本部で彼女と合流した。ひとまずゆっくり話せるように、と近くのソファーに座らせる。

「俺で良ければ話聞くからさ」
「何でも……何でもないのです……」
(何かあった時だけ、ガウェイン様に相談しようだなんて……私は何て身勝手なの……)

 リヴィエラの表情は暗く冷たく、今にも闇に呑み込まれそうで。努めて明るく話しかけるガウェインの声も、まるで分厚い壁を隔てたように響かない。
 何とかしてあげたいガウェインであるが、口を閉ざされてしまっては打つ手がない。どうしたものかと頭を悩ませていると、ふとポケットに入れっぱなしだった飴の存在を思い出した。

「……お、そうだ。飴でも舐めてみろよ」
「ありがとうございます……」

 手渡されたどんぐり型の飴。暫しそれを眺め、口に放り込んだ。
 転がすほど、広がっていく林檎味。それはまるで、全て吐き出してしまえと誘っているようで。気づけばリヴィエラの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちていた。

「――ロジェの故郷を滅ぼし、両親を殺したのは……私のお父様だったのです……。マントゥールであるお父様がオーガをけしかけ、ロジェの大切なものを奪って……」

 ぽろぽろと涙と共に溢れる言葉を、ガウェインは聞き逃さぬよう黙って耳を傾けた。
 リヴィエラが涙まじりに話してくれた内容は、ロジェから聞いた話とおよそ相違なかった。

「お父様のした事なら、私のせいでもあるんです」

 実の父親が、愛する人の大切なものを奪ったとしたら――その苦しみは、どれほどのものなのか。
 苦く、ガウェインが顔を歪める。

「私は罪人です。ロジェにどう償えば良いのかわからない……!」
「――それは違うぜ、リヴィエラちゃん」

 ガウェインの大きな手が、リヴィエラの頭を撫でる。じんわりと伝わる熱に、リヴィエラがゆっくりと顔を上げた。

「それはその親父がした事で、リヴィエラちゃんのせいじゃねぇ。親父の理不尽な監禁に耐えた君は、偉いと思うぜ」
「ガウェイン様……」

 止めようとした涙が、再びリヴィエラの頬を滑る。嗚咽をぐっと堪え、リヴィエラは縋るようにガウェインの服の裾を掴んだ。

「お願いします……私の居場所はロジェには言わないで……。今はお友達のお父様のお世話になっているのです……」
「リヴィエラちゃん……」
「お願いします……ロジェにあわせる顔がないの……」

 強く握りしめているせいか、リヴィエラの指先は白くなっていた。それを見たガウェインの眉間にしわが寄る。
 痛いほどの思いを汲み取ったガウェインは、リヴィエラのお願いに小さく頷いた。

(……っていうか、悪いのはロジェだ。リヴィエラちゃんをここまで罪の意識に駆り立てて……上手くフォローできない奴が悪い)

 両手で顔を覆い、肩を震わせるリヴィエラ。そんな弱り切った姿を見て、ガウェインの目が鋭くなる。

(俺なら、リヴィエラちゃんにこんな顔はさせない。――泣かせたりしない)

 ガウェインの胸の内に広がっていく、熱い想い。もう一人の精霊への憤りを感じながらも、リヴィエラの心が落ち着くまで傍にいたのだった。





『――女の子を上手くフォローできない男はバカ野郎だってわかった』

 ガウェインからの最後の一枚を読み終えたアルファは、首を傾げた。傍らに積み上げられた少女漫画を一冊手に取る。

「事実は小説よりも奇なり……ってことですかね? まだまだ不思議がいっぱいですなぁ」

 ――らぶゆー、らぶみー、らぶぁーず、いえーい。
 言いながら、再び音程のずれた歌を口ずさんだのだった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 北乃わかめ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月02日
出発日 10月09日 00:00
予定納品日 10月19日

参加者

会議室


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