インドアの秋!(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●例えば、2人のインドアな秋
「遅いですよ、シャトラ」
 読んでいた本をぱたりと閉じて、白衣の美青年――ミツキ=ストレンジは、己の研究室へと現れた山のような大男を横目に鋭く捉えた。見目ばかりはどうにも麗しいが、表情はわかりやすく不機嫌じみているし、声音にも険が混じっている。
「すまない、ミツキ」
 シャトラと呼ばれた大男は淡々としてそれだけ応じ、研究室の乱雑に散らかった机の上、ほんの僅かだけ空いているスペースに、ふわふわのオムレツを挟んだサンドウィッチと珈琲を静かに並べた。ミツキが、「いただきます」もなしにサンドウィッチへと齧り付く。
「……はあ」
 やがて、端正な唇から、疲れたような息が漏れた。ミツキは、ストレンジラボという小さな小さな研究所の代表だ。怪しくてヘンテコな、それでいて効果だけは確かなので余計に傍迷惑な発明品の数々を、整ったかんばせに涼やかな営業スマイルを乗せてはA.R.O.A.本部へと持ち込むのが常なのだが、
「今回は、難航しているようだな」
「わかったようなことを言わないでください」
「研究が上手く進まないと、読書に逃げるのは昔からだ」
 静かに言い切られて、ミツキは益々むっつりとする。
「今日はよく喋りますね。シャトラの癖に生意気ですよ」
 たっぷりと毒を含んで言い返すも、研究所のたったひとりの研究員――という名の雑用係兼実験体だ――は、今度こそ岩の如くに押し黙ってしまった。もう一度、ため息。
「――ウィンクルム達は、どんな秋を過ごすんでしょうかね」
 呟いたっきり、ミツキはサンドウィッチを咀嚼する作業へと戻った。食欲の秋というには簡単な食事だけれど、まあ、悪くはない味だと思いながら。

解説

●概要
ウィンクルムのお二人のインドアな秋の時間を描くエピソードとなっております。
タイトルには『秋』と付いていますが、秋らしいことをしなくても全く問題ございません。
神人さんのおうちで、精霊さんのおうちで、2人のおうちで、或いはそれに類する場所で。
インドアに過ごしていただけましたら、過ごされる時間は日常・非日常を問いません。
本エピソードは、自由度が高くなっております。
『どこで』『何をする』のかを、必ずプランにご記入くださいませ。
なお、今回はお二方いずれかの自宅(或いはそれに類する場所)が舞台となります。
内装等にこだわりがございましたら、プランにてお教えくださいませ。
(プランでのご指定がない部分にも可能な限り触れず、イメージを壊さないよう力を尽くします)

●消費ジェールについて
その日の食事代として300ジェール消費させていただきます。
食事のための外出もリザルトの描写範囲外となりますが、ご了承くださいませ。

●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでご注意ください。
また、白紙プランは描写が極端に薄くなりますので、お気を付けくださいませ。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

偶には外出をしない、まったりな時間もいいですよね!
読書の秋、食欲の秋、芸術の秋など、インドアでも楽しめる秋は沢山ありますが、それらとは一切関係のない秋のひと時も大歓迎でございます。
シンプルな内容ですが、その分ご自由に2人の時間を過ごしていただけますと幸いです。
また、ガイドに登場する2人は女性側にて度々お世話になっているNPCですが、今回はガイドにサンプルとしてのみの登場となります。
あれっくらい秋っぽさのない時間も、逆に秋ならではの時間も心よりお待ちしております。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  自宅でのんびり

少し困ったような顔でこちらを見る彼ににこりと笑顔
大丈夫よ
今日は教会でバザーをしてるの
村の人は皆そっちに行っているから お客さんはこないわ
家でゆっくりしましょうと言っても嫌がると思ったから
家の手伝いをしてと言っちゃったんだけど…気を悪くした?

目を見張る彼をじっと見つめる
怪我 ちゃんと治っていないんでしょう?
まだ痛む?
首を振るのを遮り ぎゅっと抱きしめる
痛いはずよ 大怪我だったんだから
…だからね 少しわたしに甘えてもいいのよ?
ほんの少し苦しげな笑顔と回された腕に 抱きしめる手に力を
助けてと言えない彼が少しでも楽になるように

金木犀が庭にあるの
好きじゃなかった?
小さな声に絶句
見る間に真っ赤に


かのん(天藍)
  自宅
ハロウィンの南瓜ランタン作り

生の南瓜くりぬくと日持ちしないので、今日はお客様から受注するための見本を幾つか作るんです
それだけだと寂しいので一緒に飾る南瓜に黒いシールを目や口の形に切って張る作業を天藍にお願いしても良いですか?

時折刃物の種類を変え作業の手は休めずに
ハロウィンの後はクリスマスのリースにツリー、お正月の松飾りとか秋から冬の間は庭の装飾物作る仕事が多くなるのですよね

ふとリース作りに使う材料が足りない事を思い出す
天藍、どこかで蔦を採取できる所知りませんか?

はい!ぜひ連れて行ってください
お天気良い日にお弁当持って行きたいです
花火大会の時の約束が叶って嬉しく楽しみだと返す天藍と微笑み合う


夢路 希望(スノー・ラビット)
  田舎のおばあちゃんに林檎を沢山いただきまして
…一人では食べきれないので、よかったら…

※自宅へ招待

今日は林檎のパンナコッタにしようと思います
えっと、お鍋…牛乳と砂糖と…(レシピ確認しつつ
<菓子・スイーツ、初級マニュアル本「クッキングアート」
お言葉に甘えてお手伝いをお願い
喜んでもらえますようにと心を込めて作る

無事出来上がったら一安心
喜んでもらえたらホッと

後片付け後はソファへ
気恥ずかしくて少し距離を取っていたけど近付かれて赤面
照れつつ腕の中へ

見つめられると緊張
目を閉じると触れるだけの優しいキスに少し安心
この間みたいなキス(E89)ばかりされたら身が持ちそうにないです
もし求められたら…少しだけ、なら


ひろの(ルシエロ=ザガン)
  ここかな。(執務室の扉を3回ノック
返事に扉を開けて、覗き込む。
「おやつできたよ」何読んでたんだろう。

二人並んで歩ける廊下は、広すぎると思う。
「何を読んでたのかな、って」ちょっとだけ。
「精霊学?」
ルシェは、そういうところ真面目って言うか。しっかりしてる。神人も、あるのかな。(学問が
「今はいい」その内、気が向いたら。(首を振る

「ありがとう……」自然に椅子を引くから、ちょっと困る。(まだ慣れない
紅茶を淹れてくれたエマさん(ルシェの家政婦)にもお礼を言う。
「うん。エマさんと一緒に」やっぱり見た目でわかるよね。(少し不格好
イチゴジャムをつけて、一口食べる。(ルシェの声と表情に恥ずかしさを覚え、無言になる


ミサ・フルール(エリオス・シュトルツ)
  生活拠点にしている宿屋、エリオスの部屋にて1日を過ごします。

エリオスさんったら!
どうして部屋に必要最低限の物しかないんですか?
もう、こんなところまで親子そっくりなんだから。
・・・そんなの、寂しすぎますよ。
ということで、今日は私が明るい色のカーテンとか、お花とか、チェストとか色々持ってきちゃいました!
う・・・だめ、ですか・・・?
わーい!やったー!
それじゃあ、さっそく・・・!?(精霊の言葉にうさぎぬいぐるみを置こうとした手を止める)
私のお気に入りの『みーちゃん(人形の名前)』を食べちゃダメですよ!?(精霊の冗談に乗る)
ふふ、私も冗談です。
ちょっと残念ですけど、可愛い物は置かないので安心してください


●色付く世界
「もうっ、エリオスさんったら!」
 生活の拠点にしている宿屋の一室、エリオス・シュトルツの部屋にて。ミサ・フルールは室内を見渡すや、栗色の髪を揺らし、エリオスに向かって愛らしい唇を尖らせてみせた。
「どうして部屋に必要最低限の物しかないんですか?」
 ミサの問いを受けても、エリオスはその表情を微塵も揺らがせない。淡々として応じることには。
「再びウィンクルムになるまでは、色々な者や勢力に追われる身だったものでな」
 いつでも逃げられるように必要最低限な物しか置かない主義なのだと、エリオスは筋道立てて説明する。けれどミサは、エリオスの実の息子――彼女の最愛の恋人だ――の姿を頭に思い浮かべて、
「もう、こんなところまで親子そっくりなんだから」
 なんて、お小言……というには可愛らしい文句を零した。エリオスの口から、細い息が漏れる。
「おい、人の話を聞いていたのか、お前は」
「聞いてましたけど……そんなの、寂しすぎますよ」
「寂しい?」
 目の前の少女がいっそ悲しげに栗色の双眸を伏せる理由をはかりかねて、エリオスは仄か眉根を寄せた。そんなエリオスの前、ミサは、ぱっ! と面を上げると、
「ということで、今日は!」
 と、部屋の扉を開け放つ。そこには、ミサがこの部屋の為に、エリオスの為にと選んできた家具や調度品の数々がどこか誇らしげに出番を待っていた。
「これは……」
「ふふ、明るい色のカーテンとか、お花とか、チェストとか色々持ってきちゃいました!」
 応えながら、ミサは早速、部屋の中に可憐な花を咲かせた鉢植えを運び込もうとする。
「……って、こら、勝手に物を置こうとするな」
「う……だめ、ですか……?」
 問うてエリオスを見つめる瞳は、静かに光るようにして潤んでいて。エリオスは、額を抑えて再びのため息を漏らした。
「……仕方がないな」
「わーい! やったー!」
 部屋の主のお許しを得て、ぱあっと晴れるミサのかんばせ。ころころと変わる表情は、天真爛漫という言葉をそのまま形にしたような様子だ。ミサは、嬉しそうに顔を輝かせて、
「それじゃあ、さっそく……」
 と、うさぎのぬいぐるみを胸に抱く。くるりと周囲を見回して、
(うん、ここに置くのがいいかな)
 うさぎのぬいぐるみをちょこんと座らせようとした、その時だ。
「過剰な装飾はするなよ、ぬいぐるみなど置いてみろ……即行、補食してやる」
「!?」
 ぴくん、と肩を跳ねさせて、ミサはぬいぐるみを置こうとしていた手を止めた。振り返ればエリオスは、意地悪顔で笑んでいて。
「わ、私のお気に入りの『みーちゃん』を食べちゃダメですよ!?」
「わかっている、冗談だ」
「ふふ……私も、冗談です」
 エリオスが肩を竦めれば、くすり、口元を抑えてミサが笑う。冗談に冗談が返る、穏やかな時間。
「ちょっと残念ですけど、可愛い物は置かないので安心してください」
「なら、その言葉に嘘がないか見張りが要るな」
「嘘なんかつきません。でも、エリオスさんが見ていてくれるなら安心ですね」
 エリオスの言葉に楽しげに声を返しながらも、ミサは少しずつ、殺風景な部屋に様々のものを運び込んでいく。白黒のキャンバスを、新しい色で塗り変えるように。そして、何時間かの後。
「どうですか、エリオスさん?」
 やり遂げた顔のミサの言葉に、エリオスはすぐに応じることができなかった。およそ色というもののない、モノクロに映っていた部屋の様子が、気付けば見違えるように変わっていたからだ。その驚きは、彼から寸の間声を奪うのに充分なもの。やがて、エリオスの唇から音が漏れる。
「世界に色がついたようだ……いや、何でもない」
 何を言っているのだろうな俺はと、エリオスは緩く首を横に振った。そうして、こちらの反応をそわそわとして窺っているミサへと、赤の眼差しを遣る。
「とてもいいセンスをしている。礼を言うぞ、有り難う」
 真っ直ぐに零されたその言葉に、ミサの顔には眩しい程の笑顔の花が咲いた。

●貴女に酔いて
(……落ち着かない)
 こじんまりとした印象の部屋の中を、シリウスは心許ないような眼差しで見渡した。暖かで優しい部屋に、何と自分は不釣り合いなことだろう。
「……リチェ、いいのか? 店番よろしくと言われたのに……」
 リチェルカーレの方へと視線を移して、シリウスは躊躇いがちに問いを零した。リチェルカーレが暮らす彼女の実家は、花屋なのである。出掛けていったリチェルカーレの母と年の離れた弟妹の笑顔が、シリウスの脳裏に浮かぶ。
「大丈夫よ、シリウス」
 幾らか困惑したような顔で自分を見遣るシリウスへと、リチェルカーレはにこりとして微笑み掛けた。
「今日は教会でバザーをしてるの」
「バザー……?」
「そう、バザー。村の人は皆そっちに行っているから、お客さんはこないわ」
 リチェルカーレの言葉に、軽く見開かれる翡翠の双眸。シリウスのその反応に、リチェルカーレは仄か眉を下げた。
「家でゆっくりしましょうと言っても嫌がると思ったから、家の手伝いをしてと言っちゃったんだけど……」
 気を悪くした? との問いに、シリウスは緩く首を横に振って。
「……別に悪くはしないが、どうして」
 リチェルカーレの青と碧の眼差しは、じぃとシリウスを捉えている。やがて、花弁を思わせる唇が、
「怪我、ちゃんと治っていないんでしょう?」
 と、労わるように音を紡いだ。人型を得た大蛇のデミ・オーガに囚われ痛めつけられたこと、心を読むデミ・オーガに胸の内を曝されたこと、デミ・ギルティとの戦いで深い傷を負ったこと……頭を過ぎった出来事はシリウスの胸に決まりの悪さを運び、ここのところ怪我が絶えない彼の目をリチェルカーレからついと逸らさせる。
「……あのくらい、たいしたことない」
「まだ、痛む?」
「痛みなんて……!?」
 再び首を横に振ろうとしたのは、リチェルカーレその人の行動によって遮られた。
「痛いはずよ、大怪我だったんだから」
 細い腕が、声を失うシリウスの身体をぎゅっと抱き締めている。だからね、と、リチェルカーレは優しく囁いた。
「少し、わたしに甘えてもいいのよ?」
 触れる温度に、手渡される言葉に、シリウスはふっと息を詰める。
(頼り方も……弱音を吐く方法も、わからない)
 けれど、と、シリウスは胸中に知らず細い息を吐いた。
(縋ってもいいのだと、言われた気がする……)
 そろり、確かめるようにして華奢な身体に腕を回す。零した微笑はリチェルカーレの側から見ればほんの少し苦しげなもので、だから少女は自分を抱く腕に応えるように、
(助けてと言えない彼が、少しでも楽になるように)
 と、祈りを胸に抱え、シリウスの身体を抱き締める手に力を込めた。穏やかな沈黙が2人の間を満たし――やがてそんな2人の時を再び動かし始めたのは、辺りに漂う甘やかな香。
「……この香り……」
 匂いに気付き顔を上げたシリウスが、ぽつと呟く。零された声の意を察して、リチェルカーレは小首を傾けた。銀青の髪が、ふわりと揺れる。
「金木犀が庭にあるの。好きじゃなかった?」
「嫌いじゃないが、酔いそうだ」
 花の香に、ではない。
「……お前に」
 付け足された声の小ささは、今にも金木犀のふくよかな香りの中に溶け消えてしまいそうなほど。けれどそれは、リチェルカーレから言葉を奪うのにも、その頬を見る間に真っ赤に染め上げるのにも充分すぎるものだった。頬を熟れさせたリチェルカーレを抱き締めるその手に込める力を、シリウスはそっと強くする。
(この顔を……見られるのは、困る)
 自身の頬も熱く火照っているのは、シリウスと2人を包む金木犀だけの秘密である。

●どうぞ、召し上がれ
(……ここかな)
 執務室の扉を、ひろのはごく遠慮がちに3回ノックした。小さすぎるその音が、部屋の中でレポートに目を通していたルシエロ=ザガンの意識を、思考の世界から引き上げる。
(この音……ヒロノか)
 時計を見れば、時刻は丁度午後3時を回ろうとしているところだった。
「開いているぞ」
 と声を投げれば、これもまたおずおずといったふうに扉が開く。そこから、ひろのがぴょこりと顔を覗かせた。何読んでたんだろう、なんて首を軽く傾け、ルシエロが書棚にファイルを戻すのを焦げ茶の眼差しで追うひろのだったが、タンジャリンオレンジの双眸が自身へと向けられれば、この部屋を訪れた目的が口をついて。
「ルシェ、おやつできたよ」
「そうか、わかった」
 ファイルをきちりと書棚に仕舞い、ルシエロはひろのの傍らに位置取って、廊下を歩き出した。向かうは、プライベート用のリビングだ。二人並んで歩ける廊下は広すぎる、と思いながらぽつぽつと歩くひろのの歩幅に合わせて、ルシエロもゆるりと歩を進める。
「ね、ルシェ」
 ひろのが、ルシエロのかんばせを見上げて、控えめに音を紡いだ。
「何を読んでたのかな、って」
「気になるのか?」
 問えば、「ちょっとだけ」と、ひろのがこくりと応じる。元より、興味ありげにファイルを見つめるひろのの視線にしかと気付いていたルシエロは、一つ頷いて、声を零した。
「あれは精霊学のレポートだ。過去のものを読み返していた」
「精霊学?」
 ぱちぱちと瞳を瞬かせるひろのへと、
「自分に関わる事だからな。一通り目は通している」
 と応えて、ルシエロは軽く口の端を上げてみせる。その言葉を頭の中に反芻して、
(ルシェは、そういうところ真面目って言うか。しっかりしてる)
 なんて、ひろのはそんな感想を胸に沈めた。代わりに、喉からはまた別の音が溢れ出る。
「神人も、あるのかな」
「ああ、神学もあるぞ。気になったなら貸すが」
「今はいい」
 端的にすぎるひろのの言葉の意を、ルシエロはしかと汲んで答えを返した。対するひろのは、「その内、気が向いたら」と、ふるふると首を小さく横に振る。じきに、2人はリビングへと辿り着いた。ルシエロが、優雅と言って微塵の差し支えもない所作でひろのの為に椅子を引く。
「ありがとう……」
 ルシエロがあまりに自然に完璧なエスコートをやってのけるから、未だそれに慣れないひろのは少しだけ困ってしまう。とぷり、ティーカップが紅茶の赤で満たされたなら、おやつの時間の始まりだ。既に席についているルシエロが、ばあや――家政婦のエマへと恙無く紅茶の礼を告げれば、
「ありがとう、ございます」
 と、ひろのもぺこりと頭を下げた。テーブルに供された菓子は、自家製のスコーンだ。添えられた赤とオレンジのジャムが、艶やかに光っている。少し不格好なスコーンを前に僅か目を細めて、ルシエロはひろのへと問いを向けた。
「作ったのはヒロノか?」
「うん。エマさんと一緒に」
 やっぱり見た目でわかるよね、と思いながら、ひろのはイチゴジャムをつけたスコーンをはむりと一口齧る。そんなひろのの姿を密か横目に見遣って、
(やはり、見立ては間違っていなかったか)
 と、ルシエロは彼女が作ったというスコーンのでこぼこにマーマレードジャムを少し乗せた。そして、洗練された様子で本日の甘味をぱくりとする。整ったかんばせを、柔らかな微笑が彩った。
「――ああ、美味いな」
 惚れた欲目かも知れない、とは思う。けれどその味は、ルシエロの心を確かに満たすものだ。一方のひろのは、彼の零した声が、彼の顔に浮かぶ表情が、何だか酷く面映ゆく感じられて。声の出し方を忘れてしまったかのように仄か俯き押し黙る菓子の作り手を前に、ルシエロは次の一口を口に運んだ。

●林檎より甘い口付けを
「田舎のおばあちゃんに林檎を沢山いただきまして……」
 一人では食べきれないので、よかったら。おずおずとして夢路 希望が自宅への招待の言葉を手渡せば、
「そういうことなら、是非」
 と、スノー・ラビットは赤の双眸を柔らかくしてふわりと微笑した。そういう次第で、2人は今、希望の家のキッチンに立っている。
「今日は林檎のパンナコッタにしようと思います」
「わ、素敵だね。楽しみだな」
 本日のデザートの名前を聞いて、スノーは真っ白のうさぎの耳を揺らしながら明るい声を出した。元より、林檎が好物のスノーである。それを愛しい恋人が手ずから調理してくれるとなれば、自然、心はふわふわと弾んでしまう。
「えっと、お鍋……牛乳と砂糖と……」
 希望の方も、スノーに美味しいものを食べてもらいたいと真剣だ。懸命にレシピを繰りながら、必要なものを整えていく。健気に頑張る恋人の顔を覗き込んで、
「ねえ、ノゾミさん。何かできることあるかな?」
 なんて、スノーがごくさりげなく手伝いを申し出れば、希望の視線は吸い寄せられるようにスノーのかんばせへ。にっこりとされて頬を仄か朱に染めながら、
「じゃあ、これの計量を……」
 と、希望はお言葉に甘えてしまってお願い事を伝えた。任せて、と王子様の笑みを零すスノー。
(喜んでもらえますように)
 スノーに道具の準備や材料の計量で手助けをしてもらいながら、心を込めて、願いを込めて、希望は丁寧に工程を進めていく。白い甘味を容器に流し込み、冷蔵庫の中に。やがて冷え固まったものに林檎を飾れば、
「わあ、美味しそう!」
 無事に完成したことにほっと息を吐く希望の傍らで、スノーが瞳を輝かせながら歓声を漏らした。その表情を彩る笑顔に、希望の口元もふっと和らぐ。

「ふふ、いただきます」
 お菓子の準備ができたら、いざ実食。甘い一匙がスノーの口へと運ばれるのを、希望はどきどきしながら見守った。もぐもぐごくんとパンナコッタの最初の一口を食べ終えて、
「……うんっ、やっぱりノゾミさんの手作りは美味しい」
 と、スノーの顔に乗るのは幸せの色。
「本当、ですか? 良かった……」
「何だか、お店のとは違う……大切な人が一生懸命作ってくれたものだから、特にそう感じるのかな」
 一口、もう一口と頬張る度に、スノーの頬は益々ゆるゆるとなる。
「ごちそうさまでした」
 スノーが心を満たす幸福に頬を緩めたままで手を合わせれば、2人で仲睦まじく後片付けの時間。恙無く洗い物まで終えて、2人はソファへと腰を下ろした。希望、気恥ずかしさにスノーから少し距離を取って座っていたのだが、
(この距離……何だか、寂しいな)
 と、スノーは希望に身を寄せると、ゆるりと伸ばした手で彼女の身体を抱き締める。林檎より真っ赤になりながらも希望が腕の中に収まれば、湧き上がる愛しさがスノーの胸をいっぱいにして。愛する人の温もりを充分に身体に刻みつけた後で、スノーは彼女を抱く腕を緩めると、赤く熟れた希望の顔をじぃと見つめた。赤の眼差しに緊張して、希望の肩が幾らか強張る。そっと顔を近づけられるままに焦げ茶めいた目を閉じれば、口元を掠めるは触れるだけの優しい口付け。希望の唇から、安堵の息が細く漏れる。
(この間みたいなキスばかりされたら、身が持ちそうにないです……)
 唇は、ごく軽く、けれど何度も重ねられた。
(温かくて、柔らかくて、甘くて……幸せ)
 だけれどもまだ足りないと、スノーは僅か身を離し希望の目を真っ直ぐに見つめた後で――堪らずに、照れた様子の彼女の耳元へと囁きを落として。
「あの、ね……この間みたいなキスも……少し、してもいい?」
「っ……少しだけ、なら」
 求められて、小さな声が、けれど確かに返る。熱く、強く。痺れるような、蕩けるような。そんなキスが、2人をしっとりと満たしていった。

●秋色の約束を
「これは……壮観だな」
 かのんの自宅の居間にて。ずらりと並ぶ橙色の南瓜を見遣って、天藍は息を漏らした。天藍の呟きを耳に留めて声の方へと紫の眼差しを遣ったかのんが、にこりと笑う。
「ああ、天藍。今日は、ハロウィンの南瓜ランタンを作ろうと思って……」
「なるほど、ハロウィンの準備か」
 それにしてもすごい数だと、天藍は立派な南瓜を大きな手のひらでそっと撫でた。
「今まで、1人でこれだけ作ってたのか」
「ええ、仕事の1つですし」
 答えるかのんは、真剣ながらもどこか楽しそうだ。自然、天藍の口元にも優しい笑みが乗る。
「そうか……それにしても、一度にこんなに?」
「いえ、今日は、お客様から受注するための見本を幾つか作るんです」
 生の南瓜くりぬくと日持ちしないので、と微笑するかのんは、流石、慣れた様子である。ここのところ、休日になるとかのんの家へ通い、同居に向けての修繕や模様替えに勤しんでいる天藍。けれど今日は、
「……よし。予定変更、だな」
「えっ?」
「何か、俺に手伝えることはないか?」
 瞳を瞬かせていたかのんが、天藍からの申し出にふうわりと破顔する。そうして次には、やはり楽しげだけれど真っ直ぐな――ガーデナーとしての顔を覗かせて。
「では、お言葉に甘えてしまいますね。見本だけでは寂しいので……」
 言って、かのんは辺りの南瓜を見回した。
「一緒に飾る南瓜に黒いシールを目や口の形に切って貼る作業を、お願いしても良いですか?」
「わかった。ええと、ああ、シールはこれだな……」
 そして2人は、早速それぞれの作業に取り掛かる。いかにも身に馴染んだ手つきで、時折刃物の種類を変えながら、南瓜に命を吹き込んでいくかのん。その見事な仕事っぷりに、天藍は内心で舌を巻いた。
(これは、俺が手を出すレベルじゃないな)
 刃物をまるで自分の身体の一部のように繊細に操るかのんは、単純に、南瓜に目や口を模した穴を開けていくだけではない。彫り込まれていくのは、精緻、という言葉がぴたりと填まる、感嘆の息が漏れるようなハロウィンの意匠。
(俺は俺の仕事を、と)
 天藍は天藍で、頼まれた通りに、黒いシールを切り取っては南瓜達に目や口を付けていく作業に励んだ。
(なるほどな、これなら南瓜傷つけないから傷まないのか)
 そんなことを思う天藍へと、手を休めないままにかのんが言う。
「秋から冬の間は、庭の装飾物作る仕事が多くなるのですよね」
 ハロウィンの後はクリスマスのリースにツリー、お正月の松飾りとか……と続けられた言葉に、「忙しいな」と応じながらも天藍は軽く目元を和らげた。仕事について語るかのんが、活き活きとして見えたから。そういえば、と、かのんが音を漏らす。
「リース作りに使う材料が足りないんでした。天藍、どこか、蔦を採取できる所知りませんか?」
 前半はふと思い出したという感じの呟きだったが、後半は確かに、天藍に向けての問いの形を取っていた。だから天藍は、頭をフル回転させて、普段から出入りしている山林の様子を次々と頭の中に映し出していく。
(心当たりはいくつか……ああ、そうだ)
 天藍の脳裏にふっと蘇ったのは、昨年の秋の思い出。
「かのん。去年の秋に、リスの観察をしただろう。一緒に弁当を食べた」
「ええ、よく覚えています」
「確かあそこにも、山葡萄が相当なっていたはずだ」
 蔦採取とリス観察兼ねて行ってみるか? との天藍の言葉に、手を止めたかのんの表情がぱあと華やいだ。
「はい! ぜひ連れて行ってください」
 その笑顔に、夏祭りの宵、かのんと小指を絡めたことが天藍の胸に浮かぶ。
「……花火大会の時の約束が叶って嬉しい。楽しみだ」
「ふふ。前みたいに、お天気良い日にお弁当持って行きたいですね」
 互いに心を弾ませて微笑み合い、2人はあたたかな約束を新たに刻んだ。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 越智さゆり  )


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月29日
出発日 10月05日 00:00
予定納品日 10月15日

参加者

会議室


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