たまにはみんなで休日を(梅都鈴里 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「レクリエーションだ」

 職員の男性が一言告げた。
 いつぞやもレクリエーションと称して模擬戦を行った事がある。
 また同じような事だろうか……と頬杖など突いて聞いていると「今回はそう物騒なものでもない」と付け足された。

「そうだな……交流だと思ってもらって構わない。新歓や景気付けにもいいかもな。ムーン・アンバー号や妖怪達の一件でもみな疲れているだろうし」

 ばさりと卓上に置かれた資料にはとある宿泊施設の情報が載っている。
 豊かな自然に囲まれた温泉宿、離れにはバーベキューの出来る施設。
 少し足を運ぶと広い芝の公園や牧場が有り、小池には水鳥が集まり、木製の簡易な小屋には牧場で飼われる動物達が暮らしている。
 また温泉宿はそれぞれに完全個室が設けられており、二人きりで自然を眺めながらゆったりと落ち着いて話をする事も出来る。
 よくある自然を利用して作られた娯楽施設の様なものだが、遊び方やプランは人それぞれといったところだろうが。

「諸君らの健闘に感謝しての一日貸切だ。テーマパークや市内の賑わしさとはまた違うが、自然に囲まれた温泉宿は疲れを癒すには丁度いいだろう」

 存分に息抜きしてくるといい、と微笑んで告げ、参加表明を募った。

解説

▼終始完全にレクリエーション施設での交流や遊びメインのシナリオになります。

▼こちらで用意する流れ

・施設到着~昼ごろ
・皆でバーベキュー
・自由時間~夕方まで
・温泉宿に宿泊~宴会場で夕食→入浴→就寝の流れ

翌朝自動的に帰路へ着くので上記一日の流れがあればいいです。
描写は全体と個別が入り混じる感じになるかなぁと。

▼自由時間の遊び場一覧

・ミニ動物園
・大きな滝
・小鳥の森

ぶっちゃけ自然しかない訳ですけど、動物と戯れたりマイナスイオン浴びたり鳥の声に心を落ち着かせてみたりしてください。
森歩きながらゆっくりお話とかでもいいです。

▼温泉宿で出来る事
・宴会場でどんちゃん騒ぎ…カラオケしたりごはんたべたり呑んだり。未成年にはジュースが出ます。
・露天、屋内型の入浴…お風呂は個室にもあります。二人だけでゆっくり入ってもいいです。表現行き過ぎてたらぼかします。
・就寝時のアクション…寝室はそれぞれ別室になるのであとは若い二人でごゆっくり。和室に二組のお布団です。ナニかあってもぼかすので、お好きにそれぞれの夜を過ごしてください。

*プランにいるもの
・どこで何をしたいか。以上です。一日の流れに沿って書くと書きやすいかなぁと。やりたい事だけ重点的に書いてもらってもいいです。
*みんなで遊ぶ系のアクションは会議室で~しようぜ!みたいにお誘いあわせておくのもいいかと思います。

▼お土産を購入したため300jr消費しました。


ゲームマスターより

修学旅行なんかで決められたプランに従いつつも夜先生にナイショで集まったりとわくわくした宿泊体験を思い出しつつ書き起こしました。怖い話したりね、枕投げしたりね。
誰かの部屋に遊びにいって寝る前に少し遊ぶとかいうのもありです。就寝時には冒頭の職員男性がちゃんと戻るようせっつきに行きます。
自由度が高い事と一日が長いのでEX、新人さんも交流できたらなと思うのでビギナーです。
あやういプランは問題ないようにこっちで書き起こすので、どうぞお気軽にご参加ください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

信城いつき(レーゲン)

  バーベキュー
ついついみんなの美味しく食べる顔が見たくて次第に焼く方へ
おっと野菜が減ってきてる、みんな食べてるー?
お腹おちついたかな?それなら締めに焼きおにぎり準備してるよ
ありがとレーゲン(もぐもぐ)

自由時間:動物園で乗馬体験
初心者なのでトテトテとゆっくり。走れたら気持ちいいだろうな
レーゲン乗れるの?
景色を楽しみながら二人で馬で散歩

宴会
これ何で味付けしてるのかな。ゆっくり味わいながら食べよう

みんなにもお酒やジュースついだりして。おっとっと

カラオケ!次は俺達も歌う。レーゲン行こう!
大丈夫、俺に会わせてくれればなんとかなる!(ポップなデュエット曲選択)
先に歌ってリズムを教える感じ


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  交流:
よし、皆で楽しもう。
皆色々とお疲れ。いつも助けてもらって感謝してる!
BBQはお肉中心に食べまくる。
お肉が囁くんだ、食べてと!
いつきさんの作る焼きおにぎりもちょーだい。ウマー。
宴会時は呑み中心。日本酒だな。チューハイでもいいぞ。
カラオケも歌う。他の人が歌う時は合いの手をいれ盛り上げる。
オレが歌うのは元気がでる系POPな歌で。振りつき(ドヤ。

個別:ミニ動物園で動物達と戯れる。
ヤギやポニーと触れあえると嬉しい。動物撫でると癒されるよな。つぶらな瞳が可愛いし。ウサギやにゃんこもいいものだ。
存分にまふらせてもらう。
温泉はラキアと2人でのんびり入る。すっゲー癒される。
また頑張ろうぜ、とラキアに笑顔。


瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
  バーベキューは、自分が持ち込んだ肉や野菜を切る(調理スキル使用)
他のウィンクルムと協力したり、会話してみよう

自由時間は大きな滝へ向かう
どんな滝が見られるか楽しみだな

温泉宿では真っ先に直行し、露天風呂へ
宴会場は浴衣を羽織り、夕食の豪華さに舌鼓
カラオケは参加。あまり上手くないが、歌うのは好きなんだ
選曲は民謡系(歌唱スキル使用)

就寝前、布団を敷いて就寝の準備後、他のウィンクルムの部屋を訪問
遊びのお誘いがあれば、最後まで付き合う

だが、寝室に戻っても布団で横になっても寝付けなかった
その内、背中に生暖かい感触がする
眠れないのか?

声の主に顔を向け、額を寄せた
「俺が傍にいる。だから」
明日からはまた、けっぱるぞ


天原 秋乃(イチカ・ククル)
  ※他ウィンクルムとの絡み大歓迎

バーベキューの間は調理に集中
誰かに声をかけられるまでは、無心で肉を焼いてる
せっかくのバーベキューなんだし、食べないと損だよな

自由時間はイチカと一緒に滝を見に行く
他愛もない話をして過ごす。滝のせいで聞き取れない時もあるけど、聞き返したら頭を触られて誤魔化された

宴会では酒は呑めないからジュースで
他の人にお酌してまわったり、逆にしてもらったり
カラオケは、恥ずかしいから遠慮しとく
……けど、押されたらイヤとは言えない。仕方なく歌う
楽しいけど、やっぱ恥ずかしいな

温泉は露天でゆっくり
先刻の宴会でのこと怒ったらからかわれた。くそ……

就寝前にイチカに声をかける
「今日、楽しかったな」


鳥飼(隼)
  のんびりできそうな素敵な場所ですね。

バーベキューは串を刺してみたいので、お手伝いです。
ただ刺すだけじゃないんですね。こう……?
焼いたとうもろこしを、一度かぶり付いてみたくて。(はにかみ

小鳥の森に行っていいですか?
動物も滝も気になりますけど、鳥が一番気になって。
ふふ、血筋かも知れません。
今は僕も鳥飼って呼ばれてますけど。
鳥に縁があるみたいで、父方の男の人は大体呼ばれてます。

宴会で歌います。
楽しく、明るい曲が良いでしょうか。アイドルの歌も歌えますよ?

露天風呂にのんびり浸かります。

寝る前に聞かれると思いませんでした。
誘ったんですけど、用事があるらしくて。隼さんが一緒で嬉しいです。
え、それはどういう。



「わあ、のんびりできそう。素敵な場所ですね……!」
 施設を含む大自然を見下ろせる丘で、大きく空気を吸い込みながら感嘆の声を漏らしたのは神人、鳥飼。
 その隣で二人分の荷物を持ちつつ「……俺の家に近いな」と精霊である隼が呟く。
 ここの近くなんですか? と鳥飼が首を傾げると、自然の中にあるという環境が、と付け足す様にして返った。
「みんなで旅行なんていいよねえ~。今日は目一杯遊ぼうね、あきのん」
「お前ははしゃぎ過ぎるなよー。まあ、でも」
 背中をぽんと叩いて顔を覗き込む精霊、イチカ・ククルに答えながら、確かにいい景色だな、と雲ひとつない青空を見上げ告げたのは神人、天原秋乃。
 どこまでも広がる緑一面の遠方に、パンフレットにも載っていた動物園や滝が見える。
 紙面を広げつつ、旅館の場所を確認する神人、瑪瑙 瑠璃の隣で「滝見えた! おれ、あそこ行きてー!」とはしゃぐのは精霊、瑪瑙 珊瑚だ。
 精霊、ラキア・ジェイドバインの手からひょいと荷物を預かり肩に掛けるのは神人セイリュー・グラシア。
「ムーン・アンバー号での一件に日頃の戦い、色々と本当にお疲れさま。いつも助けてもらって感謝してる。今日はみんなで楽しもうなっ!」
 にっ、と歯を見せ笑ったセイリューに、一行も顔を見合わせ、おおー! と声高々に意気込みを見せた。


「お手伝いしますよ」
 持ち込んだ肉や野菜を、持ち前の調理スキルでテキパキとさばいていた瑠璃の所へ鳥飼がやってきた。
「ありがとう鳥飼さん。ええと、どれを任せようかな……」
「一度、串を刺してみたかったんですけど……これ」
 束にして置いてあった長い銀色の串を鳥飼は遠慮がちに指差した。
 彼の意図を把握して、既に切り終えた厚切り肉と野菜の入ったザルを瑠璃は手渡す。
 よろしくお願いします、と笑い、また黙々と材料を切り始めた。
 また少し離れた所では、珊瑚が食材に関する知識などを楽しそうに披露しながら、相方との調理を満喫している。
「食べれる山菜選びにはコツがあってさ~」
「珊瑚、手も動かせよ」
「わかってるってー!」
 生返事しつつも変わらず、うんちく会話に熱中して作業途中のいつきの足を止めてしまっているものだから、まったくもう……と瑠璃は軽くため息を吐き、手際よくカット作業を続けた。
「よい、しょっと……ううん、案外難しいんですね」
 串に野菜と肉を交互に刺していく作業。ただそれだけなのだが、形が歪になったりバランスが悪くなったりで、存外鳥飼は苦戦していた。
 隣で見守っていた隼が、す……と静かに串をひとつ手に取り、熟れた様子で食材を通していく。
「わあ、慣れてるんですね隼さん」
 感嘆の声を上げ、パートナーの手元をじっと見る鳥飼に「サバイバル経験で、少し」とだけ隼は返す。
 見よう見真似で、鳥飼も作業を再開した。
「ただ刺すだけじゃないんですね」
「そうだな、板の上に置くとやりやすい。力を込めて、食材を固定し一息に突き刺す」
「こ、こう……?」
 ふ、と作業に没頭する神人を見れば距離がずいぶんと近い。
 見下ろせば、透き通ったまつ毛の一本一本が目視出来るほどの距離だ。
「……よし! これで、それなりの形になったと……隼さん?」
「……」
 見上げた無垢な空色になんとなく、隼はふい、と目をそらし、野菜のザルを思い出したかのように手に取る。
 そのまま、食材を処理する瑠璃と珊瑚の元へと歩いていき、ずいっとザルを目前に差し出した。
「できれば、もう少し小さく切ったものが欲しい」
「え? 構いませんけど……不都合がありますか?」
「主の手元では、この大きさは怪我をしやすい」
「……」
「……」
 きょとん、と目を丸くする二人を他所目に、処理の終わっていた野菜のいくつかをザルに入れると、再び鳥飼の元へと戻ってしまった。
「……なんか、隼さんって」
「ああ……」
 ちょっと、過保護なのかも……?
 むいていたじゃがいもの皮がポトリと落ちた。

 一方の他の面子はもっぱら道具の設営係だ。
 セイリューやラキアはメインのコンロを組み立てた。
 まだ何も調理の準備は出来ていないのに、ラキアが網に酢と牛脂を塗っているのを見て、何してるんだ? とセイリューが聞けば「お肉がくっつき難くなるのと、細菌増殖を防ぐ効果があるんだよ」と。
「なるほど、お肉は大事だからな!」
「もー、セイリューは本当にそればっかりなんだから」
 大して呆れた風でもなさげに、くすくす笑うラキアとセイリューの向こう側で、秋乃とイチカはテントにテーブルアンドチェアを。
 バーベキューだけならブルーシートやタープまでは必要ないのだけれど、荷物を置いたり、ちょっと一休み出来るリビングスペースは必要だろう、という配慮の元、貸し出してくれたものを遠慮なく使う事にした。
「日が昇ると暑くなりそうだもんなぁ。午後はどこ行くかな」
「あっ、僕は滝に行きたいなー!」
「ああ、そういや話してたっけ。あそこ涼しそうだし」
 いいかもなぁ、と他愛なく話しつつ作業を進めた。
 いつきとレーゲンは使い捨ての紙製皿やコップ、割り箸などを設営済みのテーブルに配置した。
 ゴミもちゃんと持って帰ろうね! と燃えるゴミ、燃えないゴミなどの分別袋も、きっちりとテーブルに下げて。
 やがて準備がしっかりと整い、程無くして、下ごしらえ担当のメンバーにより具材が次々に運ばれてくる。
 とうもろこし、バーベキュー串、その他バラ切りの肉や野菜……などなど。
 率先して秋乃が肉を焼き始めれば、やがて香ばしい匂いが漂い始める。
 端から並べられたボリューミーなバーベキュー串に、セイリューが目を輝かせた。
「おっ、すげー! それめっちゃうまそうじゃん!」
「ほー、綺麗な形に仕上がっているねえ」
 立派なものだ、とレーゲンが感嘆すれば、鳥飼がえへへ、と照れ臭げに頬を掻いた。
「隼さんに教えてもらいました。ああでも、下ごしらえはほとんど瑠璃さん達なんですけど」
「串は鳥飼さんが率先して作ってくれてましたよ。俺達は、ちょっと切ったり分けたりしただけです」
「二人とも、食材の用意ありがとう。調理は俺たちがやるから、いっぱい食べてね」
 秋乃の隣に並んだラキアも、野菜を網に次々並べていく。
 案外最初が焼けるまでの間というのは長くて、隣で肉に熱視線を送るセイリューなど餌を待ち侘びるわんこのようだ。
「ラキア、はやくはやくっ」
「はいはい、焦らないの」
 ラキアの肩から顔をのぞかせて急かすセイリューに、しかたないなーなんて甘やかし顔のラキアを見て、イチカも秋乃に同じ動きをしながら。
「あきのん、はやくはやくっ」
「お前までやることないだろ……」
 相方の戯れに、コンロから目を離す事無く冷静に秋乃は返す。
 ついでに肉もひっくり返すと、ジュワーッと肉汁がコンロに落ちてジューシーな音を立てた。
 つれないなぁ~、なんてイチカは言いつつ本気で呆れている訳でないのも解っているので、それ以上文句は言わない。
 こういう作業に没頭し始めると、あきのんは周りに意識が向かないんだよね、とひとつ肩を竦めた。
「いただきまーす!」
 焼けたものから各々、具材を皿に取っていく。
 網にまるごと置かれたとうもろこしを皿に取った鳥飼は、適度に冷めて掴めるようになった頃合で、あーん、と大きく口を開け、勢いよくかぷっ! とかぶりついた。
「鳥飼さん壮快な食べっぷりだなぁ!」
「もぐもぐ……よく焼けてて、美味しいです」
 一度かぶりついてみたかったんですよ、と、ほくほく笑う鳥飼に、俺もー! と同じだけ大きなとうもろこしにかぶりつく珊瑚。
「セイリュー、野菜も食べるんだよ」
 舌鼓を打ち続ける肉食の相方の皿を見ると案の定肉しか入っておらず、苦笑混じりに忠告するラキア。
「お肉が囁くんだ、食べてと!」
「野菜も囁いてるから聞いてあげてね?」
 焦げ目がほどよく付いたキャベツを皿の中へしれっと放り込む。
 たまねぎと椎茸を炙って、醤油を程よく付けて。
 皿に入れてしまえば彼は全部食べてくれるので、肉と野菜をバランスよく皿に盛った。
 ついでに同じような皿をもうふたつほど作って、黙々と作業に集中していた秋乃と、いつの間にか調理側に紛れていたいつきにも配る。
「あ、ありがとう。ラキア」
 は、と我に返った様に受けとる秋乃の皿にはやはりほとんど自分の物を取っておらず、食べそびれちゃうよ、と笑った。
「いつきさんはどうしたの? さっきまで食べてたのに、もうおなかいっぱいかな」
「みんなの美味しく食べてる顔が見たくって、つい」
 えへへ、とはにかんだ次には、おっと野菜が減ってきてる、と新しいものを次々に網へ放り込んでいく。
「はい、いつきどうぞ」
 楽しそうに焼いているいつきの手を止めることのないよう、と配慮し、口の前へ具材を挟んだ箸をレーゲンが差し出すと「ありがと」と嬉しそうにぱくり。
 そのまま反対隣に居た秋乃にまでつい、あーん、とやってしまって、ぱちくりと目を丸くしている彼に「……ご、ごめん、ついうっかり」と赤面し変な空気が一瞬流れて、耐え切れなくなったラキアといつきが噴出した。
「……おいしいれふ」
「そ。それは、よかった……アハハ」
 結局、差し出されたまま停止していた待ちぼうけのお肉はありがたく食べて、楽しそうな一行につられ秋乃も笑い出した。
「楽しそうじゃん秋乃。お肉、おいしいよねー」
「そうだな。イチカこそちゃんと食ってるか?」
「君よりは食べてるよ。ほらほらあきのんも、どんどん食べる!」
 ほっとくと人に差し出されるまで食べないので、秋乃が新しい食材を置く隙にあーん、で次々口に放り込んでいく。
 ほふはいらへーよ、ともごもごしながら言う秋乃に食べ終わってから喋ってよねー、と返せば「お前が入れるから食い終わらない」と目線が訴えていたのでイチカもつい噴出した。
「みんなお腹は落ち着いたかな? 締めに焼きおにぎり作ったよ」
 いるひとー! と声がけするいつきに、セイリューがまっさきに手を挙げる。
「ま、まだ食べるのっ?」
 先ほどまでの食いっぷりを見ていたラキアが驚きに声を上げれば、
「焼きおにぎりが食べてくれと囁くんだ!」
 とドヤ顔で返り、ラキアはおなかこわさないようにね……とひとつため息を吐き、やりとりを見ていた一行も楽しそうに笑い出した。


「夕方まで自由時間だ。食事の時間までに旅館に着いててくれ。入り口で名前を言えば通してくれるようになってるから」
 職員の案内で、それぞれ自由時間となった午後。
 鳥飼と隼は小鳥の森へと赴いた。行ってもいいですか? と聞く鳥飼に、隼は無言で頷いて返す。
 逐一許可を取らなくてもいいのに、とその都度思う。主の性分なのだろうと、今はここに居ない別精霊が言っていた。
「動物や滝も気になりましたけど、鳥が見たくて……血筋かもしれません」
 きらきらと木漏れ日が降り注ぐ新緑色のトンネルを二人きり並び歩く。
 隼が答えを返さなくても、鳥飼は誰にともなく話し続けた。ずいぶんと機嫌が良いように見える。
「今は僕も鳥飼と呼ばれていますけど、父方の男の人は大体この名でよばれています」
「……家系の男がみな同じ様に呼ばれるのなら、紛らわしい事だ」
「ふふ、そうですね。でも、僕はこの名前が好きです」
 隼や鴉に縁の濃い、この名前が。
 付け足された言葉を静かに聞き届け、心地よい秋風の中を歩いた。

「わ、白馬だ! かっこいいー!」
 いつきとレーゲンは動物園にいた。
 園とは言っても牧場で飼われている動物をそれぞれ小屋などに配置した程度の小さなものだが、乗馬体験やふれあいコーナーなど、観光客を飽きさせない工夫が随所に凝らされている。
 馬に乗りたい! と言ういつきにレーゲンも付き添った。
 乗り方などは教えてもらえるにしても、最初は見ていて振り落とされないものかと大層ヒヤヒヤしたが、初心者さん用の馬ですのでと説明を受け、ほっと胸をなでおろし見守っていた。
「走れたら気持ちいいだろうなあ、レーゲンは乗れるの?」
 待合の馬に髪の毛を食まれつつ、食べ物じゃないよ、といなしていた精霊にいつきが問いかける。
「私? 軽く走るくらいは出来るよ」
「ほんとに~?」
「……信じてないね」
 どう見ても馬に遊ばれている精霊を見ては、彼が勇ましく馬を乗りこなす姿は想像出来なかったのだろう。
 これでも乗馬のスキルは持ち合わせている。訝しむいつきに一つ溜息を付き、飼育係に一声かけると、彼が乗っていたのとは別の――薄いこげ茶色をした馬へ一息に跨った。
 あぶみに足をかけ、乗り込む仕草すらこなれているレーゲンを見て、いつきの瞳が打って変わってぱっと輝く。
「名前はなんて言うんですか?」
「この子はアリスといいます。お仕事熱心で、走るのが好きなんですよ」
 飼育員から名前を聞くと「よろしくね、アリス」と優しくレーゲンは声をかける。
 嬉しそうに一声鳴いた馬を、草原へと軽く走らせて見せた。
「すごいすごーい! サマになってる! レーゲン、かっこいいね!」
 先程までの怪訝な表情はどこへやら。あまりに彼がはしゃぐので、一緒に乗ってみる? と問いかければいつきは喜んで頷いた。
 一旦降りて、彼を先に乗せてから、レーゲンも再び馬の背中に添えつけられたくらへ腰を据えた。
「しっかり捕まっててね」
「うん!」
 いってらっしゃい、と見送る飼育員を背に、お散歩コースと書かれたルートへ向けて、ぱかぱかと芝生を闊歩する。
 見渡す限りの高原と青い空、遠くに見える湖や滝――思わずほぅ、といつきは息を吐いた。
「いい景色だねぇ、レーゲン」
「そうだね。こう暖かいと、なんだか眠くなっちゃいそうだ」
 膝には子供の様な体温もあるし、ゆったりと規則的に上下する振動は大変に心地がいい。
 じゃあお昼寝する? と茶化すいつきに、今日くらいはいいかもねー、なんて他愛なく会話を交わしながら、些細で貴重な乗馬体験を楽しんだ。

 同じく動物園の、乗馬コーナーとは少し離れた場所。
 ふれあいコーナーを掲げた看板の立つ場所には、セイリューとラキアが居た。
 放し飼いにされているヤギやポニーに、干草の束を持って近付けば、小さな子ヤギが嬉しそうに駆け寄る。
「わ、ちっちゃいなーっ。かわいい」
 見上げて餌をねだる子ヤギに干草を食べさせているとわらわらと他も群がって、あっという間に囲まれてしまい身動きがとれなくなったり。
「セイリュー、人気者だね。俺はウサギのとこに居るよ」
「あっ! 待ってくれよラキアー! 俺もそっちでモフりたい!」
 木製コテージの様な軽い休憩スペースでは暖炉とソファがあつらえられていて、一面ガラス張りで外の景色もよく見えるようになっている。
 キャットタワーで数匹戯れていた猫たちがにゃーんと鳴いて、二人の元にとてとてと駆け寄って来た。
「いい子だなー、よしよし。こいつうちの子に似てるな」
「ああ、ユキシロ? 俺もそう思ってた。柄がねー」
 家でも猫を飼っている二人だから、同種の匂いがするのかすんすんと鼻を鳴らしては猫達は二人に擦り寄る。
 猫じゃらしを使い一通りじゃらした後は、モルモットやウサギの住む小屋でクズ野菜を与えたりもした。
「俺たちばかり食べてても、申し訳ないしね」
 にんじんをもさもさと口に収めていくうさぎに癒されながら、ゆったりと流れる時間を二人は満喫した。

「ここだな、滝」
 イチカと秋乃は通称『白竜の滝』などと呼ばれている、立派な水流の側へ到着した。
 滝の裏側にも入れるようになっていて、岩場の奥へ踏み入ると道祖神の様な役割を果たす地蔵に、賽銭やお供え物が置かれている。
「上から落ちたら死ぬかな」
「当たり前だろ」
「わかんないかもよー? あきのんが助けてくれるだろうから」
「お前な……」
 呆れた様に溜息を吐いていると、マイペースに僕中の方見てみるー、などとイチカは小走りに奥の方へ消えてしまう。
 見失うほど広い場所でもないのだし、とゆっくり歩いて彼の後を追うと、地蔵に何やら手を合わせていた。
「……何か願ったのか?」
 背後から問いかけるが気付いていないのか、イチカは目を伏せ手をあわせたまま振り返らない。
 滝の音に邪魔されて届いてないのだと気付くも無理に伝えるような事でもないから、そのまま彼が祈り終わるのを見守っていた。
「ごめんね、待った?」
「気付いてたのかよ」
「まぁね。旅の無事をお祈りしてた」
「へえ、殊勝だな」
 肩を並べて滝の側を歩きつつ、他愛ない会話を交わす。
 前回の任務は大変だったねぇとか、そういえばこの前通り雨に降られて災難だったな、とか。
 ふと、そう身にもならない様な話ばかりしている事に気付いて、イチカは果たしてこのときを楽しんでいるのだろうか? と疑問に思い秋乃は口をつぐんで。
「なあ、イチカ」
「んー?」
「楽しいか? ……旅行」
 俺とこんな話ばっかりしてて楽しいかな、なんて問いかけは流石に気が引けてしなかったけれど、イチカはひとたび目を丸くして、それから。
「……秋乃と居ると、どんなとこでも楽しいよ」
 ぼそりと、聞こえるかわからないほどの声量で呟く。
 はっきり聞き取れなかったのか、今なんて? と秋乃は聞き返したが、なんでもないよー、といつもの飄々とした様子で誤魔化されてしまった。
「秋乃は、周りや僕に合わせるのも上手で、いい子だなぁ~って思っただけ」
「……なんだそりゃ」
 僅かに頬を赤くして目を逸らすので、赤くなったーっ、と茶化しつつじゃれあう。
 そんな最中少し遅れて滝へ到着した瑠璃と珊瑚は、すぐに秋乃とイチカを見つけて駆け寄った。
「二人とも先に来てたんだなー! 写真撮ろうぜ、写真!」
 今時そう見る事もなくなったフィルム式のインスタントカメラを手におーいと呼びかける。
 いいねー! とノリノリのイチカはともかく、秋乃と瑠璃はくたびれたように苦笑しつつ顔を見合わせた。
「お互い、相方がああだと大変ですね……」
「そうだな……まあ、でも」
 だからこそお互い手放せないんだろうな、なんて気恥ずかしい言葉は両者とも心の中でだけ呟いて、荘厳な滝を目前に二人を手招きする精霊たちの元へ歩み寄った。


 夕刻。時間通りに旅館へと集まった一行を、女将と女中達が宴会場へと案内した。
 既に夕食の支度は済ませてあり、各々が着席すると程無くして最初の料理が運ばれる。
 それなりに出揃った所に職員の男性が現れ、一旦場を落ち着かせてから挨拶を述べた。
「今日は楽しんでくれたようで何よりだ。さて、では。音頭はウィンクルムとしての仕事も長い、セイリュー・グラシアにとってもらおうか」
「はえっ!? オレ!?」
 唐突に回ってきたお鉢に、景気いいの頼んだよー! なんて一行がはやし立てる。
 どちらかというと早くお酒にありつきたくてうずうずしていた側だったので完全に意表を突かれて、ぽりりと頭を一つ掻きラキアをちらりと見遣るが、セイリュー頑張って! と完全に他人事のようだ。若干面白がっている節すらある。
 とはいえここは流石に元来明るく前向きな性格のセイリューである。
 すぐに切り替えてマイクを受け取った。
「えーっと、セイリューだ。みんな本当に日々の戦いお疲れ様」
 思えば少し前の高スケール戦だったり、突然の妖怪達の反乱であったりと、いつになってもオーガとの激戦は尽きない。
 オーガだけではない。教団や感化された厄介者に、本部へ恨みを抱くもの。
 敵はそれぞれだが、ウィンクルムがこれから先も脅威に晒され続ける事に変わりはない。
 一人では勝てない戦いは多い。だからこそ、仲間との絆や有り難さは一層身に沁みるものだ。
「皆がいるお陰で、オレもラキアも頑張れてる。これからもよろしくなっ! では、頼もしい仲間達に――」
 乾杯! 高くグラスを突き上げて挨拶を締めくくる。聞き入っていた一行も同じく乾杯と声をあげたのを皮切りに、わいわいと前菜に箸をつけ始めた。
「ん……この魚、すごく新鮮だな」
 昼のバーベキューで食材の下処理に回っていた瑠璃は食事に舌鼓を打つ。
 ドリンクを足しに来た女中がありがとうございます、と嬉しそうにはにかみ、料理や下処理などの説明をしてくれた。
「これ何で味付けしてるんだろー?」
 よく味わって食べよう、と箸の進むいつきも、夕食の豪華さにご満悦だ。
 そんな中でもお酒が減っていたりドリンクがなくなり始めると率先して継ぎ足しに腰を上げた。
「レーゲンさんお酒が減ってないよ。さぁさ、ぐいっと行こう!」
 上機嫌に大人組へアルコールを勧めて回るのはイチカだ。
 酒は焼酎を、と既に二本目を開けた隼には呑むねぇ~! と茶化しつつ、隣でおっとりオレンジジュースを飲む鳥飼にも継ぎ足していく。
「あんまり無理にすすめるなよーイチカ」
「大丈夫だよ。秋乃はお酒呑めないから、ちょっと残念だねー」
「別に悔しかないけど……すぐ追いついてやるからな」
 若干ふてた物言いの秋乃の隣で、チューハイ缶を勢い良くあおるのはセイリューだ。
 先程グラスで日本酒を飲んでいた筈だが、ペースが速いな……とぼんやり秋乃が眺めていると、セイリューの横で同じようにチューハイに口をつけていくラキアが、隙を見て軽い酒にシフトさせていくのがわかった。
「奥さんかな……?」
「秋乃さん、酔ってる?」
 呑んでないし、いたって真面目に問うたつもりだったが、苦笑したラキアに一蹴されてしまった。
「ほっとくとセイリューは呑みすぎちゃうからね」
「何の話だー? ラキアに秋乃さん」
「なんでもないよ。次こっち飲もう? セイリュー」
「お! いいねーっ!」
 やっぱり夫婦みたいだ……と今度は心の中で思うだけに留めていたら、備え付けの機材を引っ張り出した珊瑚が会場に向け呼びかけ始めた。
「早速カラオケしようぜー! だれが一番手だ!?」
 それなりにアルコールも入って気分も上々なメンバーだが、中々こういった時の一番乗りは決まりづらい。
「決まらねーなら、瑠璃! 歌おうぜ!」
 一人粛々と食べたり話したりに没頭していた瑠璃を珊瑚が呼んだ。
「あまり上手くはないんだが」
「いーんだよ、こういう時は好きな歌うたえば!」
「そうだな……」
 民謡系の歌を予約して、片手にマイクを持つ。
 流石に持ち前の歌唱スキルも相まって、南国の海を思わせるような伸びやかな歌声を瑠璃は披露した。
 一番を歌い終えたところで口笛や拍手が沸き、居ても立ってもといった様子の珊瑚がもうひとつのマイクを持ち、瑠璃に並んだ。
「瑠璃ー! 二番、一緒に歌うぞ!」
「珊瑚、これ知ってたか?」
「しわさんけ、自信あるやさ!」
 デュエットではないけれど、旋律を分けた綺麗なハーモニーで声高々に歌い上げた。
 伴奏が終わる前にイチカが早々に次の歌を入れた。最近流行のドラマ主題歌だとかなんとか。
「次は俺たちも歌うー! レーゲンも行こう!」
 ステージへと手を引くいつきに「私は歌は……」と腰が引けるが、ずるずると引っ張られて壇上へ上げられてしまった。
 選曲はポップなデュエット曲。俺に合わせてくれればなんとかなるから! と、まず一番を聞かせて、ナビメロディ機能なども使って。
 二番はいつきの後について声を出し、タンバリンや歓声に見守られてなんとか最後まで歌いきった。
「どう? 一緒に歌うの楽しくなかった?」
 何気に初めての体験だ。難しかったけど、ちょっと楽しかったよ、と素直に口にすればじゃあ次は何にしようかなー! とまたデュエット系のものを探し始めたから、少し失敗したかな……なんて苦笑混じりにレーゲンは思った。
「次はオレだー! 元気がでるやつ!」
 場を盛り上げる系の選曲でもって、ステージに立ったセイリューがマイクを構え威勢良く歌い始めた。
「わー! 振りつけ全部覚えてるよ、セイリューさん!」
「あはは、見ていて楽しいなぁ」
 いつきが歓声を上げると、益々壇上のセイリューは上機嫌だ。
 ラキアは微笑ましく、タンバリンで合いの手を入れつつ見守っている。
 やがて歌が終わり、次に曲を入れていたのは鳥飼だ。
 楽しく明るめのものを、と選ぶつもりだったが、どんな歌を歌うんだろう? とわくわくしているいつきに気付いて。
「アイドルの歌もうたえますよ?」
 とはにかんで。
 流行りグループの歌を入れれば、俺も知ってるー! とセイリューが横から乗っかっていき、瑠璃と珊瑚は体を揺らしてリズムに身を預けていた。
 歌い終えて隼の隣へ鳥飼が戻ると、ぼうっと惚けている精霊の顔に気付いて首を傾げる。
「隼さん? どうかしましたか」
「ああ、いや……」
 鳥飼の歌を聞いたのは初めてだったが、気付けば聞きほれていたらしい。
 心地いい声だった……と、なんだか酒のせいか、熱っぽく言うものだから。
「あ、……ありがとうございます」
 うたっている時はそうでもなかったのに、寡黙な精霊の一言になんだか気恥ずかしくなってしまって、少し赤くなった頬を覚ますように、ぬるくなったオレンジジュースを飲み干した。
「秋乃、歌ってないよー?」
「いや、俺は……」
 急かしてきた精霊へ、恥ずかしいから遠慮しとく、と言う前に「みんな歌ってるのに、あきのんがそんなんじゃ盛り下がっちゃうでしょ。空気読めないなあ」などともっともらしい理由で言いくるめられてしまった。
「イチカ、そんな言い方するのはずるい……!」
「まあまあ、気にしない。よーし、みんなで歌おー!」
 仕方なく、他のメンバーも知っている無難なものを選曲して。
 一つのマイクを二人で使うような歌い方をすれば、アルコールは入っていなくても気分は昂揚した。
(強引に誘ったの、後で秋乃怒りそうだけど……まあいいや)
 あきのん、楽しそうな顔してるから。
 満足げに、メンバーに混じって歌う神人を見て、イチカは表情をほどかせた。


 入浴時間にはそれぞれ思い思いの会話を交わして過ごした。
「ここからの眺め、きっとすげーぞ!」
 意気揚々と、真っ先に露天風呂へ直行した瑠璃と珊瑚は、頭上に広がる満天の星空と、夜闇に包まれる高原を見ながら一日の疲れを癒した。
 そのうち景色にも飽きた珊瑚が、貸切なのをいい事に飛び込んだり泳いだりするのであまり疲れが落ちなかった気もするけれど、湯上りにほかほかと頬を上気させつつ、露天も楽しかったー! と背伸びする彼を見れば、まぁいいか、と多少の疲れも苦笑いに留まった。
 のんびり湯船へと浸かった鳥飼に、並んで肩まで体を沈める隼は、今日休んだ鍛錬分をどこで取り戻すべきか……とぼんやり考えて。
 そのまま口に出ていたらしい。完全に酒が抜けていない。こんな時まで鍛錬の事なんて隼さんらしいです、と何か鳥飼のツボに入ったのか、口元を抑えてずっと笑っていた。隼は終始理由がわからず首を傾げていた。
 いつきとレーゲンも同じように、景色を見つつとりとめない会話を交わして過ごした。
 空に浮かぶ星座の話、星にまつわる昔話。ウィンクルムとして色々な現場に遭遇していれば、変わった話題にだけは事欠かない。
 秋乃はここぞとばかりに、先程の宴会で無理矢理誘った事を小言っぽく愚痴たら、
「でも、最後はすごく楽しそうな顔してたよ? 気恥ずかしそうにうたうあきのん、貴重でかわいかったな~」
などとからかわれたので、くそ……とだけぼやいて口元までぶくぶくと浸かってしまった。
 セイリューとラキアもやはり二人きりでゆったり湯船に浸かって、一行と同じく一日の疲れを癒した。
 日中から夕食時まであれだけ騒げば流石に疲れたのか、セイリューが静かに空を眺めているその横顔に、ラキアは暫し見惚れる。
「また明日から頑張ろうぜ、ラキア」
 不意に柔らかく笑ったセイリューが呟けば、そうだね、と静かに微笑んで、ラキアも満点の夜空に思いを馳せた。

 一日が終わり、就寝時。職員の男性が部屋を見回っていると、瑠璃と珊瑚の部屋は布団だけが敷かれて空になっていた。
 他の部屋へ足を運ぶと、案の定二人揃って――更には秋乃とイチカも同席し、いつきとレーゲンの部屋にトランプを広げていて。
「そろそろ消灯時間だ。程々にして戻るんだぞー」
 大して急かす風でもなく告げれば、わかってます~! と生返事が返り、ひとつ苦笑して見回りへと戻っていった。
 直に館内の電気が消えて、布団に入っても、瑠璃はなかなか寝付けずに居た。
 ふと、背中にぬくもりを感じ少しだけ頭をそちらへ向けるように動かすと、へへ、と悪戯っぽく笑い声が返る。
 珊瑚が、心細そうに身を丸めて瑠璃の背中にくっついていた。
「……来週からはいつもの日やしが、進路も卒論も決まってねぇんだよ」
「珊瑚……」
「卒業したら、皆とは道が別れる。……こんなぐとぅ、二度と出来ねぇよな」
 未来と、今をなくす不安に怯える相方の気持ちに気付いた。涙そうそう。溢れた雫が枕を濡らす。
 珊瑚の言葉に瑠璃は少しだけ考えて、身体をもそもそと反転させ、額同士をこつりとくっつけた。
「大丈夫だ、俺がそばにいる。だから……」
 明日からはまた、けっぱるぞ。安心させるように、暗闇で穏やかに告げ、微笑んで見せる。
「二度と出来ない訳じゃないだろ。いつだって出来るさ、お前がそう望むなら」
 俺も一緒に叶えるから。囁くような優しい声に、つられて珊瑚も笑った。
「やさやさ。また、ゆっくり出来る日が来るまで、がまだす」
 涙を拭って瞳を閉じると、二人分の体温に心ごと包まれるようで、安心感に浸って眠りについた。

「あきのん、寝た?」
「寝たよ」
「寝てないじゃん」
「……俺眠たいんだけど」
 もそ、と相方の声に反応して秋乃はけだるげに目線だけをそちらへ向ける。
 半ば強引に歌わされたり、就寝前までトランプに付き合わされたりと、嫌だった訳ではないけど、むしろどちらかと言えば楽しかったけれど。
 正直、面倒くさがりの秋乃には気疲れする事も多かった。
「滝の裏側で、僕が願ってた事。何か知りたい?」
 布団に入ったまま枕に頬杖を突いて、にこにこと秋乃を見ながら不意にイチカは問いかける。
「旅の無事、じゃなかったのか?」
「それもあるけど。やっぱりやーめた」
「おい、気になるだろ」
 そこまで言っておいて、と体を軽く起こすが、反対にイチカはぼふんと毛布を被り背を向けてしまう。
「明日覚えてたら教えてあげるよ。おやすみー」
「……ったく」
 呆れた様に苦笑して秋乃も自分の布団に再びもぐりこんだ。
 それから少しの沈黙があって、うつらうつらとまどろみ始めた頃、そ言い忘れてたな、と思い出したように秋乃は呟いた。
「俺も、お前と一緒だと楽しいよ」
 おやすみ、と付け足し、やがてすうすうと寝息を立て始めた秋乃の隣で。
 背を向けたまま、僅かに赤くなってしまった頬を冷ますのに、暫くイチカは寝付けなかった。

「今日は楽しかったね、レーゲン!」
「そうだね」
 布団に入りながら、とりとめなく今日あった色々な事を二人も語り合う。
 馬を乗りこなしているレーゲンはかっこよかったし、ご飯は全部美味しかったし。
「レーゲン、歌声すごくよかったから、もっと色々覚えようね!」
「そ、それはちょっと……はは。私を褒めても何も出ないよ」
「本当だよー! ミカも誘って、三人で今度はカラオケとか行きたいなぁ」
 いいよねっ? と可愛い子供は無邪気にせがんでくるのだけれど、兄弟分であるあの一癖ある精霊と一緒に行ったりしたら、今日以上に遊ばれそうなのが目に見えているので、機会があったらね……と心底から苦笑した。
 それでも、いつきが終始笑顔でいられた今日と言う日はとても輝いていて。
「……うん、また皆で遊ぼうか、いつき」
「もちろん!」
 おやすみなさい、と言い合わせて、楽しい思い出を瞼の裏に思い起こしながら、心地いいまどろみに身を委ねた。

「……鴉じゃ無くて良かったのか」
「え?」
 就寝前に、ドレッサーで髪を梳いていた所へ相方から突然質問を投げかけられて、鳥飼はきょとりと目を丸くする。
 それから、言われた意味に気付いて、ああ、と相槌を打って。
「誘ったんですけど、用事かあるらしくて」
「そうか……」
「あ、でも。僕は隼さんが一緒で嬉しいです。今日はとても楽しかった」
 長い金糸を横に流して、伏せ目がちに、心底嬉しそうに言うものだから。
 鳥飼の素なのだろう……とは理解しているものの、しばしじっと見返した後。
「あまり、そういう言葉は軽々しく使わない方が良い」
「……えっ」
 酒の影響だろうか、つい口が滑ってしまった……そんな自覚がちょっとだけあるものだから、それはどういう……? と小首を傾げる鳥飼の問いかけには何も応えられず、背を向けさっさと意識を落としてしまった。

「……こんな時だけ子供だなぁ」
 布団に入るなり速攻で寝落ちてしまったセイリューを見つめて、ラキアは呟く。
 寝顔を眺めて、頬をつっつくと、もうたべれねぇよ~と幸せそうにもにゃもにゃ寝言を言って、また寝息を立て始めた。
「ふふ、おやすみセイリュー。……良い夢を」
 明日からはまた大変な日常や慌しい事件が待ち受けているのだろうけれど。
 今はこの安らかな寝顔に幸せを分けてもらって、活力にしておこうと心に秘め、ぱちんとランプの明かりを落とした。



依頼結果:成功
MVP
名前:鳥飼
呼び名:主
  名前:
呼び名:隼さん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 梅都鈴里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ EX
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月25日
出発日 10月03日 00:00
予定納品日 10月13日

参加者

会議室

  • プランかけたー。
    盛りだくさん過ぎて大丈夫だろうかとちと心配。
    でもきっといい感じに皆で楽しく過ごせるだろうと信じている!
    色々とハードな事もあったし、ここでじっくり癒されるんだ、オレ達(笑。

  • [13]信城いつき

    2016/10/02-23:39 

  • [12]瑪瑙 瑠璃

    2016/10/02-23:35 

    返信ありがとうございます。
    自分達も漠然とですが、
    バーベキューや就寝前に皆さんに話かける予定です。

    自由時間は、大きな滝を見に行きます。
    宴会のカラオケには珊瑚と参加しますのでよろしくお願いします。

    珊瑚:
    ウノやトランプ、持っていくぞー

    瑠璃:
    ……。

  • [11]天原 秋乃

    2016/10/02-01:49 

    すまん、挨拶が遅くなった
    改めてよろしくな

    バーベキューも宴会も楽しそうだな
    バーベキューは調理中心で動いていると思う。夢中になると食べるの忘れるかもしれないから、声かけてくれるとありがたいな
    カラオケは、俺は遠慮しとくよ。………恥ずかしいし(ぼそり
    みんなの歌をきくだけでじゅうぶんかな
    (イチカの「えーー、あきのんも歌おうよー!」という抗議の声を聞き流しつつ)
    ……イチカは歌う気まんまんらしい。あと、酒も呑む気まんまんみたいだ
    自由時間は滝を見に行くつもり

    絡むのはいつでもどこでもOKだから、よろしくな

  • [10]信城いつき

    2016/10/02-00:35 

    メンバーそろったね。改めてよろしく!

    お肉もある、野菜もある。あとは……あ、焼きおにぎりとかいいかも!
    もちろんしっかり食べるけど、つい料理する(焼く)方にも回っちゃいそう
    カラオケは俺達もやるー。レーゲンも一緒に歌うよ。
    (レーゲンが「え?」って顔してるけど、気にしない)
    自由時間は動物園の方へ行ってると思う。乗馬体験みたいなのできたらいいな。

    大まかな予定はこんな感じ。
    絡むのはいつでもどこでもオッケー♪(というよりこちらからも絡みにいきたい派)
    明日には出発か。楽しみだなぁ。

  • [7]の書き込みを見て、空腹のあまり挨拶ヘンナ事になってるぞとセルフ突っ込みを(オイ。
    それはさておき。

    瑪瑙さん達もヨロシクー♪これで満員御礼だな。
    昼間のバーベキューと夜の宴会は皆と絡みガッツリ、のつもりでプラン書くので
    ドコで絡んでもらっても大歓迎だ!
    そしてこちらからもぎゅんぎゅん絡みに行くぞ。
    バーベキューは食べ中心、宴会は呑み中心&カラオケって感じかな。

  • [8]瑪瑙 瑠璃

    2016/10/01-19:32 

    瑪瑙珊瑚やさ!
    いつき達、鳥飼達、秋乃達は久しぶり!
    隼は初めましてだよな! ゆたしく!
    セイリュー達は、この間(メダ・サテナ戦とディナス戦)お疲れ!

    皆でバーベキュー楽しそうだよな!
    嫌いな食べ物あったら、オレが全部かむん(食べる)!

    ところで今回、皆はバーベキュー以外でウィンクルムと団欒する予定はそれぞれねぇのか?
    もしあったら、瑠璃と揃って、皆に絡みに行くつもりだったんだけど。

    瑠璃:
    プラン完成させている所、聞いてしまってすみません。
    個別メインでしたら、自分達もその方向性に合わせますので……。

  • ふらためて。セイリュー・グラシアと精霊ラキアだ。
    楽しそうなメンバーが集まっているので色々と楽しみにしてるぜ。

    バーベキューはやっぱお肉だ。キノコ系やキャベツも外せない。
    いやまて。夜は夜で宴会あるんだよな。では昼間はホドホドに抑えるべきか?
    ラキア「君が程々にしか食べない、なんて…ねぇ?」(アリエナイヨネー、な顔)
    カラオケもいいよなぁ。目移りするよなぁ。

    とにかくみんなで楽しく過ごしたいと思ってるので、ヨロシク。

  • [6]鳥飼

    2016/09/30-20:04 

    できることがたくさんで、悩んじゃいますね。

    バーベキューは、焼いたとうもろこしに齧り付いてみたいです。
    やったことなくて。
    串を刺すのも楽しそうです。

    自由時間は、小鳥の森に行ってみようと思います。
    なんだか鳥がたくさん居そう。

    後、宴会でカラオケするなら僕、歌いますよ。
    歌だけは自信があります。(ぐっと拳を握る

  • [5]天原 秋乃

    2016/09/30-01:23 

  • [4]鳥飼

    2016/09/29-22:00 

  • [3]信城いつき

    2016/09/29-05:06 

  • [2]信城いつき

    2016/09/29-05:06 

    信城いつきと相棒のレーゲンだよ

    みんなと楽しい時間すごせるといいな。どうぞよろしくね
    色々できることあって何にしようか迷うなぁ


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