君が見た流星を追って(京月ささや マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

夏の暑い日ざしが過ぎ、タブロスにも秋の気配。
そんな中、あなたは夏から心に何かひっかかってるものがありました。

『はあ…』

思わずついて出てしまうため息。
その原因は、自分のパートナーが見せた<ある表情>が原因でした。

いつも通り、A.R.O.A.に立ち寄った帰り道。
A.R.O.A.職員との会話が長引いてしまい、気が付けば周囲はとっぷり日がくれていました。
少し蒸し暑い空気に包まれて、ふたりで歩いた帰り道。
ちょうど、タブロス郊外に流れる川ぞいを歩いていた時だったはずです。
あなたは、会話が途切れた何気ない瞬間に、ふと隣のパートナーを見たのです。

(どうして、あんな顔をしたのか…)

あなたの横にいるパートナーは、あなたを見ていませんでした。
視界を遮るものがない中で、パートナーは満点に広がる星空を眺めていたのです。
今まであなたが見たことのないような顔で…

あなたは思い出します。
そういえば、その時にスウッと夜空にひと筋、流れ星が流れていたのでした。
今まで見た事のない、その表情にあなたは声をかけることもできず
パートナーは、少しするといつものパートナーの表情に戻っていました。

(あの表情の意味って、何だったんだろう…)

そう考えながら、あなたは出かける用意を進めていきます。
今日はあなたからパートナーと出かけるように誘ったのでした。
カバンの中には、映画館のレイトショー割引チケット。
どうしてもあの表情の手がかりを知りたかったあなたは
『映画を観にいこう』と連絡し、タブロス郊外に2人で出かけるキッカケを作ったのでした。

今日は平日。しかも映画はレイトショー。
映画は、パートナーの好きな映画を観ることになっています。
今日の天気は晴れ。きっと終演後には、一面の星空が広がっているはず。
そう、あの夏の日のような…

きっと、あの表情の理由が聞けるはず。
そう思ったあなたは、パートナーと出かけるために、待ち合わせ場所に向かったのでした…

解説

●目的
夏の日にパートナーが見せた『見た事もない表情』の正体を
映画館デートとその帰り道を通して探る内容となります。
普段と違う表情を見せたパートナーは神人・精霊のいずれか片方のみとなります。

●パートナーの表情について
どんな表情だったかは、それぞれに違います。
切ない表情、嬉しそうな表情、虚ろな表情など…
普段、あなたが見たことのない表情だった事は確かです。
プランには必ず『誰がどんな表情をしていたか』をお書きください。

●消費ジェールについて
映画の鑑賞料金として、300ジェール頂戴します。

●映画館について
郊外にある大きな映画館です。
アクションからホラー、シリアスからアニメなど
メジャーな作品からマイナーな作品まで、さまざまな映画が上映されています。
平日はお客さんが少なめ。
作品の内容によっては、上映ホールが貸切状態になる場合もあります。
また、映画館では軽い飲食メニューもあります。

●流れ星について
パートナーが印象に残る表情をした時には、流れ星が流れていました。
今回出かける際の天気予報でも、天気は快晴のため
夏の日と同じく、流れ星が流れる可能性は大です。
流れ星が流れるかどうかは自由にご設定ください。

●映画館のメニューについて
以下のものを注文可能。映画鑑賞中に食べても、お持ち帰りしてもOKです。
注文は自由、頼まなくてもOKです。

各種ソフトドリンク:50ジェール
各種アルコールドリンク:100ジェール
チュロス:100ジェール
ホットドッグ:100ジェール
チキンナゲット:100ジェール
各種ポップコーン:100ジェール

ゲームマスターより

お久しぶりです!京月ささやです。
大変ご無沙汰しておりました。久々のエピとなります。
今回は、夏と秋の星空と映画を舞台に、
パートナーの心情に深く踏み込んでいく内容となっております。
もしかすると、知らなかったパートナーの生い立ちが明らかになったり
意外な言葉が聞けるかもしれません。
パートナーの表情の理由を知る事ができるのかどうか、
そして表情の理由がなんだったのか…
どうぞ、絆を深めるいいきっかけになればと願っております。
堅い制約等もあまり設けておりませんので、どうかお気軽にご参加くださいませ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

日向 悠夜(降矢 弓弦)

  ある日見た弓弦さんの表情…
思えば弓弦さんの過去についてあまり知らないから
今日、彼の過去を深く知れたらいいな

流れ星が見れそうな日
丁度昔の青春映画が上映されていたから弓弦さんを誘うね
名作だけれど、実際に観た事はなかったんだよね

映画を観た帰り道、面白かったと私が感想を言っていると、流れ星が…綺麗
弓弦さんの様子があの時見た雰囲気に似ている気がして思わず大丈夫か訊きたいな

弓弦さんの話が終わったら
手を大きく広げて弓弦さんを呼ぶよ
感傷的な時は人の温かさが効くよ
人目なんてないし…ね?

弓弦さんが身を預けてくれたらぎゅっと抱きしめ
背中をぽんぽんしながらこう言うよ
弓弦さん、話してくれてありがとう

◆追加
烏龍茶2つ


ドミティラ(レオカディオ・クルス)
  チュロス購入 映画はシリアス

映画を見終わって、ふと相方を見るとどこか真剣な顔をしていることに気付く
そしてその時に流れ星も同時に流れ、一瞬空に目線がいった
……レオカさん?
なにか、あった?
…なんだか、思い詰めた表情してたから

もしもの話をされ、キョトンとし、視線を相方に向ける
…取り返しのつかないこと…
……分からないわ
こう言うのもあれなんだけど、直面したことがないの。一生後悔するほど、大きなことに
でも、強いて言うなら、
ずっと自分がしたことを悔やみ続けるなら、先に行こう。前を見よう
…私なら、こう思うかしら?
あ、どうして笑うのよ…もうっ!
……分かったわ。レオカさんが話したくなったらいつでも聞くわよ


スティレッタ・オンブラ(バルダー・アーテル)
  クロスケ、流れ星見た時すっごく呆然とした顔してたわよね…
前も一緒に星眺めた時はあったけれど、一体何だったのかしら?

映画はお気に召した?
むずかゆいねぇ
恋も悩んでナンボよ
でもハッピーエンドでよかったんじゃないかしら?
フィクションぐらい幸せを求めたいわよ

貴方が死なくてよかったわ
会えて本当によかったもの
って、感謝?
当然でしょ?
私がどれだけの男相手にしてきたと思ってるの
どんな男だって生かすも殺すも自由
貴方に自信をつけることだってお安い御用よ
もっと感謝していいし、愛してるって言ってくれていいのよ

ふふ、そんな簡単に落ちないわよね
じゃあ星に願っちゃお
丁度さっき流れ星が見えたのよ
私もハッピーエンド目指すんだから


鬼灯・千翡露(スマラグド)
  ▼表情
諦めの色を帯びた無表情

▼注文
烏龍茶(50jr)

▼本題
……あ(自らの頬に触れ自覚)

……そう、だね
忘れてないよ、約束
決心が鈍らない内に、話すよ

両親がいないって話は、最初にしたよね
代わりに育ての親がいたの
姉さんと義兄さん
当時最強クラスのウィンクルムで
仲睦まじい夫婦

二人は凄かったよ
ギルティ相手に傷を負わせた
でもそれで恨まれて
ラグ君に会う三年前、私が人質にされて
二人は、殺された……

でもそのギルティは、もっと上位のギルティに粛清されたって

だから
私には、謝るべき家族も、憎むべき仇も……
もう、いないの
何も出来なかったのに

私が死んでもきっと
二人のいる、あの星空へは行けない……

(声も上げずに泣いている)


●胸の中にきらめきを秘めて

(あれは…一体何だったのかしら?)
待ち合わせ場所に向かう道すがら、スティレッタ・オンブラはひとり考え込んでいた。
もうそろそろ、レイトショーに相応しく太陽は沈みかけてタブロスの街にはきらびやかに灯りがともりはじめている。
(クロスケ、流れ星見た時すっごく呆然とした顔してたわよね…)
そう、前にも一緒に星を眺めた時はあった。
しかし、バルダー・アーテルのあの表情はどうにも正体がつかめないのだ。
が、深刻な表情をしているとアーテルに気を遣わせてしまいかねない。
待ち合わせ場所に目をやると、既にアーテルの姿があった。
サッと普段どおりにスティレッタは表情を変化させる。
今日は、アーテルの表情の意味を確認するのもあるが、『楽しむ』事も目的なのだから。
(さて…映画は楽しんでもらえるはずよ)
チケットは手元にある。笑顔をアーテルに向けると、2人は映画館の中に入って行った。

そして約2時間後…
「ラブロマンスか…お前らしい映画の選択だったな」
普段あまり見たことがない種類の映画だったのか、なんだか不思議そうな表情で映画館を出てからアーテルは呟いた。
「映画はお気に召した?」
「ん…なんというか。むずかゆいな」
見上げてくるスティレッタに、アーテルはなんとなくバツが悪そうな表情で後頭部をかいた。
そう、恋愛映画なんて自分ひとりでは見に来る事もきっとないであろう物だったからだ。
恋に悩み、恋に苦しんで、そして結末は幸せいっぱいで、展開には奇跡もいっぱいで、なんとなく見ている此方がこそばゆく感じてしまう。
絶妙に微妙な表情をしているアーテルに、スティレッタはいつも通りの明るい笑顔を向けて見せた。
「むずかゆいねぇ…恋も悩んでナンボよ?
 でもハッピーエンドでよかったんじゃないかしら?」
とりあえず歩きましょうよとスティレッタに言われてアーテルは夜道を並んで歩く。
秋の虫の鳴き声が鳴り響く中で、そっとアーテルの耳に少し小さな声が聞こえた。
「…フィクションぐらい幸せを求めたいわよ」
その声にハッとしたようにアーテルはスティレッタを見る。
が、その時に「そういえばね」と唐突に質問を投げられてアーテルはつい言葉に詰まってしまった。
「クロスケ、前に流れ星を見た時にすっごく呆然とした顔をしてたけど…どう思ったの?」
「…は?」
何を思ったか…そういわれてアーテルは記憶を遡る。
そういえば、いつの日か二人で夜空を眺めたときに流れ星が流れたのだった。
そして脳裏に過ぎったのは…
「…ついこの間を思い出しただけだ」
俺が2年前に軍を辞めたのは知ってるだろ、と言われてスティレッタは頷く。その話は以前に聞かされていた。
「で、寮を追い出されたから粗末な部屋を借りて、毎日酒煽って、
 それで昼間は死んだように寝て…ハッキリ言って廃人だ」
淡々と昔の様子を語るアーテルをじっとスティレッタは見ている。
「…で、当然のように夜目が覚める訳だ。
 俺は…流れ星を眺めて…死を願った。今度眠った時目が覚めないようにってな」
まあ生憎目は覚める訳だが、と少し自嘲気味に笑うアーテルにそっとスティレッタは笑いかけた。
驚きや動揺も勿論あるが…今はなんだか、笑いかけたい気持ちだったのだ。
「貴方が死なくてよかったわ…会えて本当によかったもの」
それは、スティレッタの心からの言葉だった。
まっすぐな瞳で言われて、ぱちりとアーテルは瞬きをした後に柔らかく微笑む。
「お前には本当に感謝している」
「感謝?」
今度は思いもよらぬ言葉にスティレッタが目を瞬かせる番だった。
「正直、その後に傭兵を始めた頃も腐ってた。
 まともに生きられるようになったのは…お前と同居してからだな」
それは、この上もない賛辞の言葉だった。
アーテルの言葉に、スティレッタは誇らしげに微笑んで胸を張ってみせる。
「当然でしょ?私がどれだけの男相手にしてきたと思ってるの。
 どんな男だって生かすも殺すも自由。貴方に自信をつけることだってお安い御用よ」
もっと自信をもちなさいよ、とバンバン背中を叩いて微笑む彼女の顔は夜に輝く太陽のようだ。
「もっと感謝していいし、愛してるって言ってくれていいのよ?」
ほら言いなさいよ、と言わんばかりのスティレッタを見てアーテルも少し意地悪く微笑む。
「は?お前には宣戦布告受けた身だぞ。そう惚れんぞ?」
「ふふ、そんな簡単に落ちないわよね♪」
だからなのよ、一緒にいて楽しいのは…というのは心の中でそっと彼女が呟いた言葉だ。
そして、スティレッタは思い出した。天気予報では、今日も流れ星がふるのだ…あの日と同じように。
それを証拠に、さっきも一筋、星が流れ落ちていった…
「じゃあ星に願っちゃお。私もハッピーエンド目指すんだから」
あの映画のようにね、と言って星が流れ始めた夜空を仰いで瞳を閉じるスティレッタ。
そんな彼女を見て、アーテルもそっと心の中でおもう。
(…今は死にたくはない。もっとお前と一緒に居られればいい…)
二人が互いに密かに抱く願いをのせて、タブロスの上で星は流れ続けるのだった…


●君の心の未来を願って

「……ほら、また」
映画館でのレイトショーの帰り道、スマラグドはどこか諦めの色を帯びた無表情をしている鬼灯・千翡露に声をかけた。
ちひろ自身は気づいていないのか、頬には涙も薄らと流れている。
「前も、流れ星見てそんな顔してた」
映画館でちひろが頼んだ烏龍茶も、ラグが頼んだチキンナゲットとオレンジジュースも、
そして映画館で観た内容も、ちひろの気持ちを心底晴れやかにはしてくれなかったようだ。
「……あ」
ちひろは、ラグの言葉に呆然と自らの頬に触れて言われた言葉の意味に気づいたようだ。
その姿に、ラグは少し悩んだが意を決して唇を開いた。
「……ちひろが『独りだった』事と、関係あるの」
深くまで入り込んでくるラグの問いかけに、ちひろの大きな瞳が左右に揺れる。
やがて小さく、「……そう、だね」と、答えが返ってきた。
やっぱり…とラグは心の中でおもう。
できれば、この影は自分が取り払ってあげたい…と思うのは我侭だろうか。
「ねえ、約束したよね。まだ僕には話し辛い?
 …僕はちひろの決心がつくまで待てるけど」
じっと瞳を覗き込んでくるラグに、ちひろは少し迷った、
あの日交わした約束。あの時の決心はまだ鈍ってはいない。
「忘れてないよ、約束…決心が鈍らない内に、話すよ」
不安も恐れもあるけれど…彼にならば話してもいいかもと、そう思ったのだ。
「両親がいないって話は、最初にしたよね…代わりに育ての親がいたの」
「……座ろう、ゆっくり話して」
近くにあった道沿いのベンチにふたり腰をかけて、ラグはちひろの言葉の続きを待った。
ちひろの唇も手も小さく震えている。
これを話すのにどれだけの勇気が必要だったのだろうか…。
「姉さんと義兄さん…当時最強クラスのウィンクルムで、仲睦まじい夫婦。…二人は凄かったよ」
ギルティ相手に傷を負わせた事もあったのだという。しかし、それで恨みをかってしまったというのだ。
「ラグ君に会う三年前、私が人質にされて…二人は、殺された……」
当時の思い出が蘇っているのだろう。大きな瞳にはいつの間にか涙が満ち満ちていた。
それでも賢明に話そうとする彼女を、落ち着いてラグは見つめ、受け止め続ける。
「でもそのギルティは、もっと上位のギルティに粛清されたって…
 だから、私には、謝るべき家族も、憎むべき仇も……もう、いないの」
自分が何も出来なかったために、大切な人を失った。
しかしその無念を晴らす術もないまま、それは彼女の中で大きな闇になってずっと心にのしかかっているのだ。
「私が死んでもきっと、二人のいる、あの星空へは行けない……」
ちひろの瞳からは、いつの間にか涙がいく筋も流れ落ちていた。
あの日や今日、自分達の上に広がる流星広がる夜空へ行くことすら許されないと、彼女は自分を許せず罰し続けているに違いなかった。
「……何も残ってないなんて、思わないでよ」
黙って話しを聞き終えたラグは、いつになく少し強い口調でちひろに声をかけた。
ちひろは少しびくりとしたようだったが、それが怒りではないとは感じたようで、ただ狼狽しながらラグを見つめ返す。
「僕が、その二人の代わりになれるとは思ってないけど…
 でもさ、ちひろ言ったじゃん。僕の事、頼もしいって、優しいって思ったって」
そう、ちひろが自分にそう言ってくれたとき、本当にラグは心の底から嬉しかったのだ。
だから…
「もっと頼ってよ…力になれるから――力に、なるから。
 俺が、傍にいるから…」
それは、ラグのちひろへの想いであり、願いであり、決意表明だった。
はじめて口にするその想いに任せ、ラグは静かに涙するちひろをそっと抱き寄せた。
彼女を大切にしたい、守りたい…そう、流れ星に願いを込めながら…。


●わたしの知らないあなたの思い出

たまには映画もいいかも…という考えのもと、ドミティラはレオカディオ・クルスを誘って映画館へと赴いたのだった。
どの映画にするかは2人のフィーリング。なんとなく、レオカの視線がそのポスターに行っているような気がして選んだのはシリアス系の映画だった。
(映画館らしく…)
そう考えてチュロスを注文し、口にしながら観賞しているうちに、いつしかドミティラは映画の世界に引きこまれていった。

(…あ…)
映画を見終わって、ふとレオカに視線をやったドミティラは目を瞬いた。
レオカの表情は、あの夜と同じ表情をしていたのだ。
そう、どこか真剣な…でも、映画の内容を見ている雰囲気とはまた違う。
だって、もう映画は終っているのだから。
そして、今、ふたりは映画館の外へ出たばかりなのだ。
視線の先には…あの夜と同じ、流れ星が流れて消えていく光景。
「……レオカさん?なにか、あった?」
同じ表情。気になる表情。自分の大事な相棒…口に出さずにいられなかった。
ところが、ドミティラの言葉にはた、と振り返ったレオカはきょとんとしていた。
「なにか、って。……なんのことだ?」
どうやら、自分が普段と違う表情をしていたことに気づいていなかったらしい。
その状況に、少しのもどかしさを感じながらもドミティラは言葉を続けた。
本人が意識していないらならば尚、ちゃんと聞いておかないといけないような気がしたからだ。
「…なんだか、思い詰めた表情してたから」
「思い詰めた表情か…」
ドミティラの言葉に、レオカは自分の記憶を辿るように視線を少し揺らした。
そして、少しの時間、沈黙が流れる。
話し出すのを迷っているのか、それとも、過去の記憶を辿っているのか…
その様子を、ドミティラは少しの緊張感と共に待つ。
彼は話してくれるのだろうか、それとも…。
そして暫くして、レオカはぽつりと唇を開いた。
「…なあ、もし、自分が取り戻しのつかないようなことを犯したとしたら、
 …あんたはどうする?」
「…取り返しのつかないこと…」
どうする、と言われてドミティラは思わずキョトンとしてしまった。
もしも、の話なのだ。彼がそんな『もしも』の状況に立っている、だなんて。
ドミティラも少しの間考えて、言葉を返す。
「……分からないわ」
「…分からない?」
今度は、レオカがドミティラの言葉に少し驚いた表情をする番だった。
レオカとしては、ドミティラが何らかの答えをすぐに出すものだと思っていた様子だったらしい。
上手に表現しにくいんだけど…と、ドミティラは暫くどう言葉にしていいものか迷っているようだった。
その様子を少し不思議そうにレオかは眺めている。
「こう言うのもあれなんだけど、直面したことがないの…一生後悔するほど、大きなことに」
そう、ドミティラ自身、レオカが言うような状況に身を置いたことがないからわからなかったのだ。
だから、彼の言う『もしも』の立場に自分を置いて考えた事などそれまでなかった。
それだけに、あの問いかけには『わからない』としか答えようがなかったのだ。
そんなドミティラではあったが、やはりレオカの言葉には誠実に答えたいという想いがあった。
更に真剣に思考を巡らし、言葉を紡ぐ。
「でも、強いて言うなら…ずっと自分がしたことを悔やみ続けるなら、先に行こう。前を見よう…」
私なら、こう思うかしら?と少し小首をかしげて自分を見てくるドミティラを見て、レオカは自然に自分の口元が緩んでゆくのを感じた。
想定外の答えではあるが…彼女の言う言葉はなんともいえず彼女らしさに満ちていて、少し殺伐とした心境がどこか温かく解されていくような感覚があったからだ。
「あ、どうして笑うのよ…もうっ!」
隠し切れないレオカの笑顔に気づいたのか、人が真剣に答えているのにとドミティラは不服そうに頬を膨らませて抗議する。
そんな彼女にくつくつと笑い返しながら、レオカはくしゃりとドミティラの頭を撫でた。
「すまん…そんな答えがあんたらしいって思っただけだ」
だからつい、と言われてドミティラは少し不機嫌そうながらどこか満更でもない表情をしている。
その表情を見て、レオカの瞳の奥にまたあの少し思いつめたような影が漂いはじめるのだった。
「…まあ。あんたになら話しても構わないか」
「えっ…?」
その瞳の影に少し不穏なものをドミティラは感じて目を瞬く。話してほしいのだ…できれば。しかし、レオカの瞳に宿る影のような何かは、まだ戸惑いと共に揺れているようだった。
「だが、まだ話せない…詳しくは」
そう口にするレオカの表情は、苦悩と迷いに満ちているようだった。
どうしてもいう事ができない、彼の見えない側面…それは一体なんなのだろうか。
今すぐに教えてほしいという気持ちと、彼を苦しめたくはないという気持ちがドミティラの中で駆け巡る。
そんなドミティラをそっと見つめ、レオカはただ、と付け加えた。
「ただ…俺は過去に一度、取り返しのつかないことをしている
 他は、いつか時がくれば、話すよ。それまで待っていろ」
あんなに思いつめた顔をさせるのは一体なんなのか…その片鱗をレオカは口にしたのだった。
そして、その詳細を自分にはいつか話してくれるのだという。
レオカの言う『取り返しのつかないこと』とは一体なんだというのか…
形の見えない不安がドミティラを包んだが、それよりもドミティラは優しい微笑みを浮かべることを選んだ。
だって、そんなにも己の胸の内に秘めていたことを片鱗だけでも口にしてくれただけでも嬉しかったのだから。
「……分かったわ。レオカさんが話したくなったらいつでも聞くわよ」
自分になら話しても構わないという、彼の隠された思い出。
そんな、今まで見せたことのない知らなかった真実があることを彼は自分に教えてくれた。
だとしたら、自分はその時がきたらそれに応えようと。そう、ドミティラは覚悟を決めて微笑んだのだった。
レオカがその詳細をいつ口に出そうとも、きっちりと受け止めよう…
ドミティラのレオカを見つめる大きな瞳に、夜空に瞬く星達がうつる。
そのひとつが誓いを立てるように、スウッと光の尾を引いて流れたのだった。


●全てを包むあたたかな光

映画館へ向かう日向悠夜の脳裏には、あの夜に見た降矢弓弦の表情が何度も錯綜していた。
まるで、遠い過去に思いを馳せている様な切ない表情…
(思えば弓弦さんの過去についてあまり知らない…)
そう、実はあまり自分から彼の過去に踏み込んでいったことは少なかった。
今日は彼の過去を深く知れたらいい…
そう思って、ちょうどあの表情を見た流れ星が流れそうな今日の日に
悠夜は映画へと弓弦を誘ったのだった。

待ち合わせ場所で合流した2人は早速映画館へ向かう。
もう既に、観る映画は決定済みだった。
今夜のレイトショーで上映されるのは、昔の青春映画だった。
「名作だけれど、実際に観た事はなかったんだよね…って、あれ?」
受付窓口でチケットを交換していると、隣にいる弓弦の様子がおかしい事に気付いた。
弓弦は、掲げられた看板を見上げて少し驚いた表情を浮かべていたからだ。
「これ、僕は最初の上映当時に観に行ったよ…」
なんだか嬉しそうな、懐かしむような不思議な感情が彼を支配しているようだったが
それもすぐに消えて、いつもの優しい彼の表情が戻った。
「…きっと悠夜さんも楽しめる」
「そう?楽しみ!」
飲み物を買ってくる、と言って悠夜はブースへ行って烏龍茶を2つ注文する。
(悠夜さん「も」?…どういう事なのかな…)
けれど、今は映画を楽しむことが先。
そう考えて、悠夜は烏龍茶を弓弦に手渡すとホールの中へと足を運んだのだった。

「あー、面白かった!やっぱり名作って言われるだけのことはある!」
映画の内容は悠夜にとって、とても満足できる内容だった。
上機嫌で映画館の外に出て感想を言いつつ歩いていると、ふと上を見上げた拍子に悠夜の視界をスッと星が横切っていった。
流れ星…今夜の天気予報は正解だったのだ。
(…綺麗…)
思わず目を奪われてしまった悠夜だったが、即座に思い出す。そう、この状況は以前と同じ…
気になって横を見ると、弓弦はやはりあの夜と同じ表情をしていた。しかも、以前よりもどこかその切なさはより顕著に現れているようにも思える。
「…大丈夫?」
とっさに、そう声をかけていた。
やはり、あの表情はあの時見た雰囲気に似ている気がしてならなかったからだ。
そんな悠夜に、弓弦は少し複雑な笑みを浮かべながら歩みをゆっくりとしつつ口を開いた。
「いつか少し話した事があるかな…僕の友の事を思い出していたんだ」
それは、悠夜が知らなかった弓弦の過去だった。
「僕の故郷はとても田舎でね。彼と僕は大人に内緒で遠い街まで映画を観る為に駆け出したんだ」
そう、それが今日観た映画だったというわけだ。
「あの日は時間を忘れたよ…ふふ、初めて門限を破ったな。
 感想を言いあっていた帰り道で…見上げた夜空には流れ星が流れていて…」
それは、少年時代の弓弦の思い出だった。映画と同じような、あの青春映画のような幸せな思い出。もう、戻れない過去の思い出なのだ。
そこまで話して、弓弦は少し困ったように微笑んだ。
「…はは、あまりに思い出と重なっていたから…感傷的になってしまったな」
参ったな、と苦笑する弓弦は、次の瞬間ぱちりと目を見開いた。
目の前には、話を聞き終えた悠夜が大きく手を広げていたからだ。
「弓弦さん、こっちにきて…感傷的な時は人の温かさが効くよ」
溢れんばかりの星空を背景に、自分の過去を受け止めて力強く笑う彼女は、まるでとても聖なる尊いもののようで。
悠夜は気づけば引きこまれるように彼女のもとに歩みを進めていた。
「人目なんてないし…ね?」
イタズラっぽく笑ってみせる彼女の言うとおり、周囲にはいつのまにか誰もいなかった。
「…ありがとう、悠夜さん」
聞いてくれて、と。
照れ笑いを浮かべながら、弓弦は悠夜に身を預けたのだった。
満点の星空の中、流星が流れ落ちるなかで2人だけの時間が今は流れている。
弓弦と悠夜の未来を祝福するかのように、流れ星がひと筋、きらりと流れた。



依頼結果:大成功
MVP
名前:鬼灯・千翡露
呼び名:ちひろ
  名前:スマラグド
呼び名:ラグ君

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 京月ささや
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル シリアス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 4 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月21日
出発日 09月29日 00:00
予定納品日 10月09日

参加者

会議室

  • [5]日向 悠夜

    2016/09/28-23:02 

  • こんばんは。どうにか出発できる人数になってたわね。よかった。
    スティレッタ・オンブラよ。精霊はバルダー・アーテル。
    流れ星ってロマンチックよねぇ……
    ま、皆いい夜を過ごせるように願ってるわ。

  • [3]日向 悠夜

    2016/09/27-23:10 

    こんにちは、日向 悠夜です。パートナーは降矢 弓弦さん。
    どうぞよろしくね。

    弓弦さんが見せた表情が気になってね…。
    でも、きっと大丈夫だよね。
    皆さんも、素敵な時間になりますように。

  • [2]鬼灯・千翡露

    2016/09/27-00:06 

    ……精霊のスマラグドと、相方のちひろ。
    折角だから、前にした約束を守って貰おうと思うんだ。
    あの顔は十中八九『アレ』絡みだろうし……

  • [1]ドミティラ

    2016/09/25-19:54 

    ドミティラよ、よろしくね。
    …いろいろ思うことがあると思うけど、乗り越えられると良いわね。


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