テルラ温泉郷二泊三日(森静流 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 あなたと精霊は、夕方にタブロスの駅ビルの地下街で待ち合わせをしていた。
 あなたは自分の仕事でその時間まで忙しく、精霊はA.R.O.A.本部に用事があったのである。
 駅ビルの地下街にある噴水広場で時刻通りに待っていると、精霊が小走りに駆け寄ってきた。
「待った?」
「うん、ちょっとだけ」
 あなたはにっこり笑って答える。
「そっか。それじゃ、ジュースでも奢ろうか」
「別にいいよ。すぐメシにするんだろ?」
「ああ、うん。俺、腹減ってる」
 そんな会話をしながら、あなたと精霊は地下街をぶらぶらと歩き始めた。これはつきあい始めてからよくあるコースである。二人とも仕事を持っている上で、ウィンクルムの任務をしているのであまり二人だけの時間が取れない。
 そのため、週に2~3回、地下街で待ち合わせて一緒に食事を取り、そのあと様々な店舗を見て回ったり、近くの大きな公園に行ったりして楽しむのだ。
 今日も、早速、地下街の行きつけのレストランのどれかに行こうと思うが、その前にちょっと散歩したい。
 そんな気持ちで二人で歩いていると、少し向こうの通路に人だかりがある事に気がついた。
「なんだろう?」
 あなたが立ち止まって精霊を振り返ると、背の高い精霊はちょっと背伸びをして人だかりの様子を見ていた。
「うーん? なんか、くじ引きやってるみたいだぞ」
「くじ引き?」
「うん。よくあるガラガラ。そういえば、最近、地下街のどの店でもくじ引きの券配っていたじゃないか」
「ああ、そういえば」
 あなたはゴソゴソと財布を取り出して、中を見ていた。何となく捨てるのがもったいなくて取っておいたのが何枚かある。
「お前も持ってる?」
 訊ねると、精霊はジャケットのポケットの中をゴソゴソ。
 そして二枚ほど取り出した。
「あ、これで一回引けるな」
「本当だ」
「やってみる?」
「やりたいなら、お前、やってみれば?」
 そういう訳で、あなたと精霊はくじ引きの行列に並んだ。そこから壁を眺めると様々な賞品についてのポスターが貼ってある。
(一等は無理だろう。三等の新しいトースターか、四等のトイレットペーパー20ロールが欲しいな)
 そんなことを考えていると隣の精霊は
「どうせ、参加賞のポケットティッシュだろう。でもあれば便利だよな、ティッシュ」
 などと言っている。
 あなたはむっとして精霊を睨むと、
「だって、お前、結構運が悪い方じゃん」
 そういう軽口。
「運が悪いってなんだよ! そりゃ確かにとびきり運がいい訳じゃないけどさ!」
「だって任務でもこの間……」
「あれは!」
 言い争っているとちょうど順番が来た。
「どうぞ~」
 係の人に笑顔で促され、あなたは精霊に対する対抗心もあって気合いを入れる。
(ジェンマ様! 絶対当ててください! こんなやつに運が悪いなんて言われたくない!)
 ジェンマ様はウィンクルムの愛を司っているんであって、こんな喧嘩に引き合いに出されたって御利益くれる訳がないんだが、あなたは何故かジェンマ様に神頼みしつつ、思い切りガラガラを回した。
 コロンコロン、と玉が出てくる。
(あれ、黄色い? 何等だろう。だけどやけに光っているような……)
 あなたは玉を見た後、係の人の顔を見る。バイトらしい係のあんちゃんは固まっていた。「え、何等?」
 あなたが聞くと、係のあんちゃんは、机の上のじゃらじゃらしたベルを持って思い切り振り回し始めた。
「一等! 一等が出ました! テルラ温泉郷二泊三日~!! 一等が出ました~~!!」
「ええええ!?」
 あなたよりも精霊が驚いている。
「ほら見ろ。俺は運がいい方なんだよ!」
 あなたは精霊に思い切り胸を張って言った。
「う、うん……。だけど、こういうの当たったら、後で運の反動が来るんじゃないか?」
「なんだよ運の反動って。素直に相方の幸運を喜べよ!」
「だけどさ~」
 何故かまた喧嘩を始めてしまうあなたたち。といっても、こういう小競り合いは日常の事で、あなたたちにとっては仲の良い証拠なのだが。
 するとそこにバイトが社員を呼んできて、二人に温泉のチケットを持ってきてくれた。
「はい! 一等テルラ温泉郷のホテルもみじに素泊まり二泊三日、ペアでのご利用券です!!」
「へ……?」
 あなたと精霊は目を瞬いた。
「どうぞ、お二人でご利用なさってください! 期日はこの秋の三連休でーす!!」

その後、二人はこんなパンフレットを貰った。

~~秋の三連休をテルラ温泉郷で!~~
 ホテルには二泊三日、素泊まりが出来ます。こちらは無料になりますが、他の施設のご利用はそれぞれジェールがかかります。

※テルラ温泉郷
タブロスから送迎バスで二時間のところにある温泉街です。
元々二つあった温泉街が一つになって現在テルラ温泉郷と呼ばれています。
テルラ川の両側にあり、右側がテルメラ温泉、左側がテルム温泉になります。
テルメラ温泉には以下の名所があり、年間通して賑わっています。

・龍の口温泉
巨大な露天風呂で、一辺50メートルを越える湯船が三つあります。
そしてその中心に名物の龍の口という間欠泉があり、二時間に一度、80メートルの高さまでお湯を吹き上げます。その際、ドラゴンの鳴き声を連想させる大音響が響きます。
料金は一人浴で120jr。

・107温泉
107の湯船がある屋内温泉です。
全て温度や湯質が違い、奇抜な色の温泉もあります。
必ず一つ、自分にぴったりな湯質の湯船があるとされ、それを探してみるのも楽しみです。
料金は一人浴で200jr。

・女神の湯
女神スワロ(地下の女神の一人で、温泉の守護神でもある)が実際に入ったという伝説のある温泉で、このテルラ温泉で最も古い温泉です。
露天風呂で、10メートル四方のそれほど大きくない湯船は、人口のものではなく一枚岩が浸食してへこんだものです。
女神はここに入って重病の兄ケタルの回復を祈願したと言われており、病気平癒の湯として有名。ですが、これが元でスワロとケタルは結ばれたという事から縁結びの効能もあるとされます。
人気のため、前日予約が必要です。
料金は一人浴で1000jr。

食事処はこちらになります。
・レストラン「女神の台所」
ヤール王朝時代の貴族料理を食べさせてくれる珍しいお店。ハーブの使い方が今と違い、珍しい食材も多いため、人気を誇ります。
料金は「おすすめ海山コース」で、600Jrです。

・海鮮料理店「第五栄福丸」
魚料理中心の和風料理のお店。ヘルシーで低カロリーが女性客に人気を誇ります。
料金は「殿様コース」で800Jr、「お代官コース」で450Jrです。
 
~~
「……行く?」
 微妙な表情で精霊が聞く。喧嘩してからかっていた手前、一緒に行けるか不安らしい。
「仕方ないなあ。一緒に行きたいんだろ? 行くよ」
 あなたはそう答えたのだった。

解説

 秋の三連休をテルラ温泉郷で楽しんでください。
 素泊まりの料金は気にする事はありませんが、温泉や食事はそれぞれ本文に書いているだけのお金がかかります。
 露天風呂や様々なお風呂に一緒に入る事が出来ますが、公序良俗は守ってください。
(男性同士ですから水着を着る必要はありませんが、一応、人目を気にしてください。限度としてはキスまでです)
 プランにはどんなお風呂に入るか、また、どんな食事をするか、相方とどのように愛を深めるかなどを明記してください。二泊三日全ての綿密な予定を書かなくてもOKです。一番魅力を感じるところ、相方としたいこと、を書いてください。
※送迎バス、宿泊のみ無料。

ゲームマスターより

秋の連休を相方と温泉で!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)

  女神の湯に行く
(伝説の温泉に浸かってみたかったし
病気平癒って事は、フィンの疲れも癒せそうだし
縁結びの効能っていうのだって…フィンには言えないけど)

二人でゆっくり湯に
(今更でも何でも恥ずかしい物は恥ずかしく、緊張してたけど…不思議だ
湯に入ると不思議と落ち着いた)
フィンをちらりと見れば、既に見慣れた傷痕が視界に入る
(最初、フィンは傷痕を見られる事を避けてたっけ)
そっと傷痕に触れてみる
痛かったよな…
フィンの傷はフィンだけのものだ
それでも俺は…フィンの痛みなら、一緒に感じたいと思う
そして俺の痛みも…フィンに知って欲しい
俺は…どんどんフィンに対して我儘になってくみたいだ
仕方ないよな
…だってフィンのせいだ


ユズリノ(シャーマイン)
  2泊3日
3種温泉
殿様コース
共に浴衣と羽織の温泉客姿

2日目夜
料理に舌鼓 ※内容お任せ
「はぁ~ 間欠泉は迫力満点だったし
 お風呂は最高だし ご飯も美味し 天国
注がれおっとっと 甘口で飲み易い
「琥珀色のお湯 あれ最高だった~ 体ぽかぽか

拗ねた顔でお酒ちびちび
「う~ 浴衣のシャミィはセクシーだからぁ
 や~っぱり声掛けられてたね~ 一緒に写真まで~

部屋で布団にダイブ
「おふとん~
ちゃんと布団に入れとか聞こえた気も
ごろり仰向けに 気分良くて「んー?
布団掛けられ
「わふっ うん おやしゅみ~

3日目朝
予約していた女神の湯へ
「伝説の湯…ここの効能って
(え 縁結び
わきゃっ
やったなとやり返し
「一緒に入っちゃったんだから な 何かの縁結ばれちゃうかもよ?


●蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)編

 今日、蒼崎海十は精霊のフィン・ブラーシュとテルラ温泉郷に二泊三日で遊びに来ています。
 海十とフィンは、温泉では女神の湯に行く事にしました。
 海十はフィンと連れだって温泉の脱衣所に来て、服を脱ぎます。フィンが平然と脱いでいるので、海十もあくまで気にしないようにして脱いでいます。
 温泉に二人で来る以上は、同性同士なのだし、当然脱ぐに決まっているのですが、実は海十は温泉に到着してからそのことが意識されて、緊張が高まってきていたのでした。
 今では隣でフィンが脱いでいると考えるだけで顔が真っ赤になってしまうほどの緊張感です。
 それなら、温泉は諦めればよかったのですが……
(伝説の温泉に浸かってみたかったし、病気平癒って事は、フィンの疲れも癒せそうだし、縁結びの効能っていうのだって……フィンには言えないけど)
 結局、フィンのためでした。
照れと本音を言えないもやもやを抱えたまま、海十はざっと体を洗い流します。フィンも手早く体を洗っています。
 そうして二人でゆっくり湯につかりました。
(今更でも何でも、恥ずかしいものは恥ずかしい。緊張してたけど……不思議だ。湯に入ると、落ち着いた)
 部屋を出てきてから脱衣所、それから体を洗っている時間、フィンの事を意識してしまってろくに目を合わせる事も出来なかったのですが、今、こうして温かい湯に入ってしまうと、胸がドキドキして息が詰まるような感情は消えたのでした。
 少しだけ余裕を持ってフィンをちらりと見ると、既に見慣れた傷跡が目に入ります。
(最初、フィンは傷跡を見られる事を避けてたっけ……)
 海十はフィンの傷を初めて見た時の事や、彼の傷の理由を知った時の事を思い出しました。フィンの体を走る生々しい傷跡はお湯のせいで赤く変化し、彼の皮膚の白さを際立ています。海十はなんだか沈黙してしまいました。
 海十はフィンの故郷の事をフィンから聞いていました。
 初めて聞いたのは、イベリン領の薔薇園での事。
 薔薇の香りに寄ったフィンが話してくれたのでした。普段は酒にも酔わないフィンが、あのときは真紅の薔薇の匂いに酔っていたのです。あのとき、笑いながら話していたけれど、フィンはどんな気持ちで、何を考えて、海十に打ち明けてくれたのでしょうか。
 あれはまだ、海十が告白する前の出来事。二人の間に信頼はあったし、パートナーだったけれど、心を分かち合う存在であるとは、言い切れない頃の事なのです。
 肉親を失った時の傷跡はお湯のために綺麗な赤に染まっていて、それが、薔薇園の赤と華やかな匂いの事を思い出させました。
 海十は自分の力ではどうしようもないフィンの過去に思いを馳せます。今、隣で、幸せそうな表情をしているフィンには、想像するしか出来ない壮絶な過去を持っているのです。
(女神の湯に入るのは初めて)
 一方、フィンの方はのんきに辺りを観察していました。
(本当に一枚岩で出来てるんだ……思ったよりも狭いかな。海十と一緒に入っていると思うと、リラックスしてしまう。とても心地良い)
 海十の方はフィンの傷跡を見て様々な事を考えているのですが、フィンの方は効能のある温かい湯に海十と一緒に入られるだけで満足で、のんびりしたものでした。
 休日を利用し、二泊三日、海十と温泉。なんという安らぎでしょう。正にこの場はオアシスです。天国です。
(隣に海十が居てくれる事も相まって……このまま眠ってしまそうなくらいに)
 海十がそばにいることの安心感と、お湯のあまりの心地よさに、フィンはそのままうとうとと瞼をくっつけそうになりました。
 そのときでした。
 海十の手が、フィンの素肌に触れました。背中です。
 フィンは驚いて目を見開きます。
 海十はすっと指先でフィンの傷跡をたどりました。
「……海十?」
 海十の指は、いとおしむように、フィンの背中を抉るような傷跡に触れていました。流石にフィンの心臓も高鳴ります。
 海十が自分に触れている。そのことにときめきを感じるのです。
「痛かったよな……」
 海十は感情をこめて言いました。
 フィンはその言葉に息を飲みました。
 海十が触れているのは、自分の傷跡。決して消えない傷。
 それは、フィンも自覚しています。その傷を負った時に、フィンは心にも傷を負いました。
 体の傷は癒えて、傷跡に変わっても、心の傷は血を流し、苦痛を訴え続けました。その心の癒えない傷跡を癒やしてくれたのは、旅による体験や、様々な人との出会いや、世界にあふれるあらゆる善意だったと思います。その中でも、決して忘れていけないのは、ウィンクルムのパートナーの存在。……海十です。
 海十に出会わなかったのなら、自分は今頃、どうしているだろう。フィンにはそのことが想像出来ません。自分の人生に海十は必要不可欠であって、彼のいない世界など、最早考える事も出来ないのでした。
 その海十が、傷に触れながら、潤んだ声で言いました。
「フィンの傷はフィンだけのものだ。それでも俺は……フィンの痛みなら、一緒に感じたいと思う。そして俺の痛みも……フィンに知って欲しい。俺は……どんどんフィンに対して我儘になってくみたいだ。仕方ないよな……だってフィンのせいだ」
 真剣に思い詰めたような表情で海十は言いました。
 ずっと黙って聞いていたフィンは、優しく口元にを綻ばせました。いつにない甘やかな気持ちで、声で、海十に囁くように告げるのです。
「痛みさえも共有したいという、それの何処が我儘なの? 俺には……とても真っ直ぐな愛の言葉にしか聞こえない。俺の事を痛みも含めて知りたいと思ってくれてるって事だよね。こんなに嬉しい事はない。ただ……海十とは、痛みよりも幸せを共有したい。今だって、温泉が気持ち良いって気持ちを共有出来て、幸せなんだ」
 かつてフィンは自分に罰を与えるように、心の中で、痛みの記憶を繰り返していました。悲劇のあった一日の事を、心の中で何度も何度もなぞり続け、心が血を流すのを感じながら、誰の事も許す事なく苦しみ続けていたのです。その記憶が解放され、心の赤い流血を薔薇のように香しい記憶が覆い隠し、慰めてくれるようになったのは、いつからの事でしょう。
 海十との記憶、海十の存在、それらがフィンの心に入り込み、自然にたゆみない力でフィンの傷を傷跡に変えていきました。
 だから、フィンは思うのです。愛ならば、痛みではなく、幸福を。
 幸福感に包まれて、フィンはお湯の中、海十の腕に触れ、彼の背中に触れ、彼を自分の元へ引き寄せていきます。
 お湯の流れる静かな音を聞こえていました。やがて、自分の息づかいと心臓の音しか聞こえなくなりました。相手の心臓の音さえも聞こえそうなほど近くにいます。
 やがて焦がれた熱い息を絡め合い、幸福に満ちた甘いキスをかわしました。
 神々が結ばれたという伝説の空間で、何百回目かのキスは、なんだかとても厳粛な気持ちでした。互いの痛みも傷も許し合い、本当の幸せになりたい--そんな願いは、きっと女神に届いた事でしょう。
 二人はこの後もキスを繰り返します。互いの呼吸を重ね合わせて、痛みの時も、幸せの時も、何千回だってキスする事でしょう。そしてそのどのキスも、かけがえのない記憶になるのです。
 どのキスだって、決して忘れる事はないのです。

●ユズリノ(シャーマイン)編

 今日、ユズリノと精霊のシャーマインはテルラ温泉郷に二泊三日の旅行です。
 ユズリノとシャーマインは三つの温泉を楽しみ、それから海鮮料理店「第五栄福丸」で殿様コースを頼みました。
 二人とも浴衣と羽織の温泉客姿でした。
 二日目の夜の事です。
 二人は料理店で夕飯に舌鼓を打っていました。
「はぁ~。間欠泉は迫力満点だったし、お風呂は最高だし、ご飯も美味しい。天国」
 シャーマインはユズリノの喜んでいる様子に微笑んでいます。
 ユズリノはやはりこうした温泉郷は初めてだった様子で、見るもの聞くもの食べるもの、みんな珍しくて楽しい事ばかりだったのです。だからずっと大喜びでした。
 お猪口でお酒をぐびりとやりましたが、ふと思いついてユズリノにも注いであげました。
「おっとっと」
 ユズリノは何とかうまくお酒を受け止めて、一口飲みました。
「甘くて飲みやすい」
 こう見えてもユズリノは二十歳です。飲酒したって許されるのです。シャーマインは笑いながら見ています。
「今日は107制覇とはいかなかったが結構回ったな。効能は……冷え性なのか?」
 シャーマインは温泉の特徴の事などを思い出してユズリノにそう訊ねました。
「そう!」
 ユズリノは元気に答えます。
 二人はしばらく温泉や景色の話をして、まったりと食事を楽しみました。
 やがてユズリノは拗ねた顔になってお酒をちびちびなめ始めました。
「う~。浴衣のシャミィはセクシーだからぁ、や~っぱり声掛けられてたね~。一緒に写真まで~」
 ユズリノは昼間、他の女性客にシャーマインが捕まっていたのを思い出して、それをぶつぶつ言い始めたのです。
「うん? 旅の記念だろ。……酔ったのか?」
 ユズリノは返事をせず、シャーマインの目の前でお猪口をぐいと飲み干しました。
(やきもちか? 可愛いヤケ酒姿だな。おい)
 ユズリノはシャーマインがモテることを何度も指摘しながら、酒を飲み、彼はそれを笑いながらかわしていました。
 やがてシャーマインはふらふらしているユズリノを連れて部屋に戻る事になりました。
 部屋には既に布団が敷かれていました。
 酔っ払っているユズリノはすかさずお布団にダイブです。
「おふとん~」
(うっ)
 酔っ払って布団の上に仰向けになっているユズリノは、浴衣もはだけてあられもない姿です。
 太ももがすっかり丸見えになっています。
 ユズリノはシャーマインがちゃんと布団に入れと言ったのを聞こえたような気がしましたが、まともに取り合いませんでした。
 ごろりと仰向けになって、気持ち良さそうに
「んー?」
 と目を閉じて微笑みながら返事をします。
(おいおい。昨日から何度俺の理性に挑んでくるんだよ)
 仰向けですので太ももどころか胸元だって露わです。
(自覚がないのが性質が悪い……)
 シャーマインは遠い目になってしまいました。
 しかし、放っておいてはユズリノが風邪を引いてしまいます。
 仕方がないのでシャーマインは強硬手段を執りました。
 掛け布団をぐいっと引っ張ってばふっとユズリノの上にかけてしまいます。
「いい夢見ろ」
「わふっ。うん。おやしゅみ~」
 ユズリノには危機感と言うものがないらしく、酔っ払って気の抜けた声を立てながら、そのまま眠りに落ちてしまいました。
 シャーマインはホテルの窓際の椅子に腰掛けて、一人、冷たい水を飲み、体の熱を冷まし始めました。
 ふと、布団の方を見ればユズリノは全く太平楽な寝顔でした。
(全く、人の気も知らんで……。でも、リノが……)
 シャーマインは苦い味のする水を舐めました。
(こんな顔で寝られるようになったのは……いつからなんだろうな……)
 ユズリノは決して幸せな生い立ちとは言えません。血の繋がった兄をオーガによって殺され、それ以来故郷では疎まれ続け、生活も心も荒れ果てて故郷を飛び出し、何年も旅を続けて、タブロスまで流れ着いて……。
 その間、ユズリノがこんなふうに無防備な姿で幸せに眠る事が出来た事は、あったのでしょうか。
(…………)
 シャーマインはユズリノの明るく健気な性質を知っています。いつでも笑顔でいようと心に決めているようなその態度が、シャーマインの心を揺すぶるのでした。
 彼が遊び人のような恋を楽しんで来たにも関わらず、ユズリノになかなか手を出す事が出来ないのは、彼の過去と心を思っての事だったのかもしれません。
 自分の欲望の対価に、ユズリノが幸せな笑顔を失うような事があったら、きっと自分は自分を許す事が出来ないでしょう。
 そして自分のそんな心の動きに対して、シャーマインは意外だと思う反面、こんな自分も悪くない、と思っているのでした。
「……寝るか」
 やがて体の熱も冷め切って、シャーマインは布団の方に向かいました。布団に入る前にごく近くまでユズリノに顔を近づけて、その顔をのぞき込みました。
「んー? ……むにゃ……」
 ユズリノは楽しい夢でも見ているのか、寝言で何か言っています。シャーマインは唇に唇を近づけていきました。あと少し。あと少しで--。
「……」
 寸前でシャーマインは止め、いつものように、ユズリノのおでこに軽くちゅっとキスを散らしました。
 そしてそのまま自分の布団に寝転がり、赤い豆電球を見上げながら、深々と大きなため息をついたのでした。

 さて、次の日。三日目の朝です。
 二人は予約していた女神の湯へ向かいました。
「伝説の湯……ここの効能って」
 ユズリノが旅館の案内を見て確かめようとします。
「縁結びだな」
 シャーマインは風呂場で大きく伸びをしました。
 寝不足でしたが、煩悩を耐えきった自分に埃を持ち、やけに清々しい気分です。
「え、縁結び」
 赤くなっているユズリノに、シャーマインは持ち込んだ水鉄砲を発射しました。
 不意打ちでユズリノはもろに顔に受けてしまいます。
「わきゃっ」
「アハハ」
 声を立てて笑うシャーマイン。
「やったな!」
 ユズリノも風呂場の杓子を使ってお湯をくみ上げ、シャーマインの体にかけました。
 しばらくじゃれあって水やお湯をかけあった後、二人はようやく湯船につかったのでした。他にお客はいなかったので許されるでしょう。
 湯船につかると、なんだか大人しくなってしまいます。ユズリノは先程の効能の事が気になっているのです。
 シャーマインと二人で、裸で隣り合って座っている上に、縁結び--恋愛成就だなんてどうしても意識してしまって、口が重くなってしまいます。
 ですが、ユズリノは小声でシャーマインから赤い顔をそらしながら言いました。
「一緒に入っちゃったんだから。な、何かの縁結ばれちゃうかもよ?」
「ああ」
 シャーマインは余裕で微笑んでいるようです。
 真横からユズリノの事を観察しながら、何か腹の決まったような表情でいました。
 それが恋人としての縁なのか、友情としての縁なのかは分かりませんが、ウィンクルムのパートナーとして、これからずっと縁が続いていくことは、もう決まったことであるとシャーマインは考えていました。
 そして、こんなふうに、大切にしたいと思った存在との縁を、女神が取り持ってくれるというのなら、それはどれだけ幸運な事でしょう。
 ユズリノは余裕で微笑むシャーマインの表情を見て、口のあたりがなんだかあわあわしていますが、やがて恥ずかしさが極まったのか、だんだん首から顔までお湯の中に埋まっていってしまいました。
 それを見て、シャーマインは思わずお湯の中に手を突っ込んでユズリノの首をくすぐりました。
「きゃわっ」
 ユズリノがお湯から顔を飛び出させます。
「アハハ」
 笑うシャーマイン。可愛く怒るユズリノ。
 いつか見た、荒れていた時代のユズリノの表情を、こんなふうに変える事が出来たのが、自分の存在であったのならよいと、シャーマインは思います。ユズリノをからかいながら。ユズリノを守ってやりながら。
 



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 森静流
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 2 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月23日
出発日 09月29日 00:00
予定納品日 10月09日

参加者

会議室

  • [2]ユズリノ

    2016/09/28-10:08 

    ユズリノと相方シャーマインです。
    よろしくお願いします。

    お風呂三昧したい!

  • [1]蒼崎 海十

    2016/09/28-00:17 


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