プロローグ
『紅月ノ神社・納涼花火大会!』では、様々な屋台が並んでいます。
ある一組のウィンクルムも、立ち並ぶ屋台を興味深く回っていました。
「そこのお二人さん、占っていかないかい?」
威勢の良い男性の声に、ウィンクルム達は足を止めます。
「占い?」
首を傾ける神人に、怪しげなヴェールを被った青年は口の端を上げました。
「占ってもいいですけど、何を占ってくれるんです?」
訝し気に精霊が尋ねれば、青年はビロードの布が敷かれた机の上にカードを伏せて並べます。
「相性占いです。お二人の相性度をこのカードで占います」
「相性……」
神人と精霊は、思わず互いの顔を見合いました。
占い師は伏せたカードをトンと叩きます。
「このカードには、相性度を示す色が6色、描かれています。その色でお二人の相性度が分かるのです」
赤:運命で結ばれた二人。100%
黄:とても気が合う。80%
緑:衝突もあるが、悪くはない。60%
青:普通。50%
紫:気は合わないかもしれない。25%
黒:とことん合わない。5%
そんな説明をして、男性はにっこりと微笑みます。
「まあ、所謂お遊びです。お気軽にやってみませんか? 話のタネにでも」
もう一度、神人と精霊は顔を見合わせました。
「ヒマだったし、試してみるか……」
神人は、そっと並べられたカードに手を伸ばします。
果たして、彼が引いたカードは──。
解説
【紅月ノ神社・納涼花火大会!】にある屋台で、相性占いをして頂くエピソードです。
プランに以下を明記して下さい。
・カードを引くのは誰か(神人、精霊、もしくは二人一緒に)※引けるのは一枚だけです。
・引いたカードの色
・占いの結果について、どのように思い、行動するのか
カードの色については、ご自身で自由に決めていただくか、または掲示板のダイス機能で決めて頂く事も可能です。
6面ダイスを一つ振り、その数字で、カードの色を決めてください。
1⇒赤
2⇒黄
3⇒緑
4⇒青
5⇒紫
6⇒黒
占いが終わった後は、自由にお祭りを楽しんで頂けます。
<行ける場所>
・屋台:一般的な日本のお祭りの屋台にあるようなものは、揃っておりますので、自由に飲食してください。
・大輪の園:屋台から少し離れた場所に用意された公園。様々な花が咲いています。
・花降る丘:屋台から少し離れた場所にある穴場スポット。満天の星空が見れます。二人きりになりたい場合は、こちらがお勧め。
なお、『ヴァルハラ・ヒエラティック』の碑文の影響で、ウィンクルムは「思っていること、普段感じていること、不安など」を吐露してしまいやすくなっています。
屋台での飲食代や、占い代金として、一律「400Jr」掛かりますので、あらかじめご了承下さい。
ゲームマスターより
ゲームマスターを務めさせていただく、『湿気はくせ毛の敵』の雪花菜 凛(きらず りん)です。
昔、ゲーセンで友人とよく相性占いをして遊んでいました。
雑誌の占いコーナーとかは、ついつい読んでしまう派です。
占い結果を切欠に、少し本音を話してみるのはどうでしょうか?
皆様の素敵なアクションをお待ちしております♪
リザルトノベル
◆アクション・プラン
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
カードは2人一緒に引く。手を合わせて! カードの色は緑。ラキアの瞳の色じゃん。 オレはこの色好き。 相性6割。上等じゃん。悪くない! 「よし、屋台巡りしよーぜ」 屋台でなきゃ食べられない物も多いじゃん? イカ焼。焼きそば。焼き鳥もいいよな。じゃがバターも。 そんなにガッツリか?量少なめじゃん? 野菜なら冷やしキュウリでどーだ! オレ達違うトコが結構あるからウマくいってると思うぜ。 オレが判んない所をラキアが気づいてくれるしさ。 任務中の相談も見方が違えば別の意見出てくるじゃん。 その方がきっと色々できるじゃん? いつもラキアがちゃんと後ろから護ってくれると信じてるし。 オレいつも生命は大事にって考えてるし。 ホントだぞ! |
瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
占い師にカードを引くか尋ねられ、おれがと名乗る。 だども、珊瑚と被ったすけ、結局2人で一緒に引く。 結果は黄色。 上機嫌になったのか、自分を見つめてニヤニヤする珊瑚がいた。 その後、星降る丘に行き、立ったまま幹に寄しかかる。 空を見上げ、燦然と輝く星を指差し、何の星座か言い合う。 (天文学スキル使用) 次第に、珊瑚には適当に答えているのがわかったども。 なぜか、緊張の糸が解けたように笑った。 「全く……わざとだろ」 結局、緊張していたのは珊瑚も同じだった気がした。 だから、その手を静かにそっと握る。 が、空腹音に遮られ、現実に呼び戻される。 珊瑚の持ち出した本を読みながら、 今夜は何を食べようか2人で丘を降りる事にした。 |
カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
イェルのカードは黄か。 80%ねぇ。 残り20%は俺らの努力って奴だな※頭撫でて角キス 祭り十分楽しんだし、大輪の園にでも行くか 花降る丘も悪くねぇんだけど…違和感関係者はもう諦めろ 結構色んな花咲いてるな モチーフにもいいが…イェルが隣にいるからな、花の方が遠慮するだろ あ? 見た目は宣言するまでもなく成人男性だし、かなりイケメンだぜ? ただし、中身は俺限定で最高に可愛い※頭撫で 気にする所そこかよ…※脱力後、笑う いやいや、そこは笑う そりゃイェルが飛び蹴りしたら俺吹っ飛ぶし それに…※尻尾撫でた後抱き寄せ 残り20%に含まれるんじゃねぇの? Idocrase 離さねぇから覚悟しろっつっただろ 愛してるよ、俺の可愛いイェル |
楼城 簾(フォロス・ミズノ)
引く方 「赤いカード?」 僕とミズノさんの相性が最高と言われてもピンと来ない。 屋台で飲み物を買ったら、花降る丘へ。 「屋台はもう十分楽しんだからね」 ミズノさんの隣でお茶を飲んでいたら、彼の様子がおかしい。 「…? さっきの占いで十分…」 言い終わる前にミズノさんに押し倒されてた。 今何が起きているか理解出来ない。 「何、言って…」 頭に過ぎったのは、紅竜さんに突然キスされた時の事(EP4) けど、あれは…! 睨もうと見て、ふと気づく。 「ミズノさんは、瞳の色が違うのかい?」 途端に離れ、急に入ってきた空気で咳き込んだ。 よく判らないけど、ミズノさんの弱点らしい。 それを突き止めさせて貰わないとね。 最後に這い蹲るのは君だ。 |
テオドア・バークリー(ハルト)
俺は別に…引っ張るなって! 相性も何も普通だろ普通、それ以上でもそれ以下でも…思ったより低かったな。 少しだけガッカリしたとかそんなことはない、絶対にないからな。 ハルに悟られないように平静を装う。 花降る丘に移動したのはいいけど どうしよう…思いの外ハルが落ち込んでるっぽい。 ハルは占いにノリ気だったし、ガッカリしても仕方がないか…静かだと何だか落ち着かない。 あのさ、ただの占いなんだから気にすることないって、俺達は俺達だろ? 落ち込んでなかった、呆れるほどに平常運転だった。 でもそういうとこハルらしくて安心したよ。 じゃあ、落とせるもんなら落としてみなよ。 …しかし今後ハルのアタックが7割増しかぁ…頑張ろう。 |
●1.
「自分が」
「わんが」
綺麗に重なった声に、瑪瑙 瑠璃と瑪瑙 珊瑚はお互いの顔を見た。
占い師がおやおやと口の端を上げる。
「じゃあ、珊瑚が──」
「いや、瑠璃が──」
慌てて譲り合う言葉も、まるで鏡に映したようだった。
瑠璃が瞬きするのと、珊瑚が半眼になるタイミングも同じ。
「キリがねぇ」
「確かに」
瑠璃は頷いて、カードを指差した。
「一緒に引いてみようか」
「ヤッサー」
珊瑚もカードに手を伸ばす。
二人の手が少し彷徨った後、一つのカードの上で止まった。
瑠璃の青い瞳が珊瑚を見れば、珊瑚は赤の瞳を細めて頷く。
二人の手が一緒にカードを捲った。
目に飛び込んできたのは、温かな黄色。
「トー(よし)」
小さく珊瑚が呟いた声に、瑠璃は彼の横顔を見る。珊瑚の口元は上がっていた。
「良かったら、そのカードは持っていって。どうぞ良い夜を」
占い師の言葉に珊瑚はカードを懐に仕舞うと、
「ニフェーデービル」
軽く手を振り、足取り軽く歩き出す。
「有難う御座います」
瑠璃も占い師に会釈すると、珊瑚の後を追って歩き出した。
珊瑚は鼻歌を歌い出しそうな上機嫌な様子で、ずんずん歩いていく。
「珊瑚」
「ヌー?」
くるりと振り向く珊瑚の顔は、ニヤニヤという単語がよく似合うと瑠璃は思った。
「随分ご機嫌だな」
「ヤン?」
珊瑚は首を傾けてから、ふふっと笑みを零す。
「やしが、でーじ相性が良い、だぜ?」
「何か食べるか?」
己の頬も緩むのを感じながら瑠璃が尋ねれば、珊瑚は瞳を輝かせる。きょろきょろ辺りを見渡し、林檎飴の屋台を指差した。
「林檎飴ぬ、かみふさん!」
「したっけ買うか」
瑠璃が赤く輝く林檎飴二つを買うと、一つを珊瑚に差し出す。珊瑚は早速受け取り一口齧った。
「あまさん!」
「なまらうまいべ」
二人は林檎飴を味わいながら、賑わう屋台の間を縫って花降る丘へと向かう。
丘を登ると屋台の喧噪は次第に遠くなり、二人の頭上には満天の星空が広がった。
丘の上には大きな木。夜空へ枝を広げるその木に二人は寄り掛かって、宝石箱をひっくり返したような、明るく輝く星を見上げた。
「珊瑚。あの明るい四つの星が、秋の星座の目印、秋の四辺形と呼ばれている星さ」
瑠璃が燦然と輝く星を指差す。
「この四つの星はある星座の胴体を作ってるんだべさ」
「ペガスス座かや?」
「正解。したっけ四つの星の内、一個は別の星座に含まれるんさ。これは?」
「……正座」
瑠璃は思わず瞬きして珊瑚を見た。
「不正解さ」
「ピザ」
「正解は七文字さ」
「……おぷてぃまいざ」
「意味は?」
「シラン」
そこでふっと漏れたのは、瑠璃の笑い声だった。
「全く……わざとだろ」
横目で見れば、珊瑚は涼しい顔で夜空を見上げている。
その時、瑠璃は気付いた。
そうだ、自分は酷く緊張していた。
何に?──あの相性占いに。
そして、それはきっと珊瑚も同じ。
手を伸ばせば、隣に立つ珊瑚の指先に触れる。夜風のせいか、少し冷たい指先。
瑠璃はその手を握り締めた──静かにそっと。でも強く。
瞬間、珊瑚の肩が僅かに跳ねたのを感じたが、彼は何も言わなかった。
瑠璃はゆっくりと唇を開く。
「あの事を気にしているのか?」
星明りの下、やけに声が大きく響いた。
珊瑚は瑠璃の手を握り返し、考える。
──先週、耳鳴りに苦しむオレを瑠璃は止めようとした、なのにオレ──。
言わなければ。何を?
珊瑚は口を開こうとして、でも出来なかった。
「あの時の事は気にするな」
瑠璃がそう言って珊瑚を抱き締めたから。
触れた箇所が温かく、熱かった。
珊瑚はそっと瑠璃の背中に手を回して……。
ぐぅ。
鳴り響いた音に、二人は同時に顔を上げて、目を見た。
ぐぅう。今度はもう少し大きく鳴った。それも二人同時に。
そして、二人は夢から覚めるようにゆっくりと身を離した。
珊瑚が懐から雑誌を取り出す。表紙には『タブグル』秋号の文字。
「瑠璃! マーサン食いモン、かむんぜ!」
「何を食べるべ」
瑠璃と珊瑚は、雑誌を見ながら花降る丘を後にしたのだった。
●2.
「テオ君テオ君、あれやろうぜあれ、何かめっちゃ面白そう!」
テオドア・バークリーは、瞳を輝かせているハルトを見つめ、うんざりとした様子で息を吐き出した。
「俺は別に……」
態度で示して素通りしようとするも、腕をがっちりハルトに絡め取られる。
「引っ張るなって!」
「俺とテオ君なら相性100……むしろ100%越え必須っしょ!」
拳を握るハルトに、テオドアは二度目の溜息を吐いた。
「相性も何も……普通だろ普通、それ以上でもそれ以下でも……」
「よろしくお願いしまーす!」
「いや、聞けよ人の話」
ハルトは占い師に代金を手渡すと、強引にテオドアの手を引く。
「テオ君行くよー!」
左手でテオドアの手を握り、ハルトは右手でカードを一枚選んで捲った。
現れたのは、夏の夕暮れ空を連想させるような透明な紫色。
一つ瞬きして、ハルトは占い師を見る。
「おにーさん、俺紫引いた。紫どういうのー?」
「25%。気は合わないかもしれないね」
占い師が穏やかに告げれば、ハルトの身体が大きく傾いた。
「たったの25%……だと……!」
──思ったより低かったな。
そう思わず言いそうになって、テオドアは口を閉ざす。
胸の奥がざわつく感覚……この結果に納得していない証。
テオドアは小さく首を振った。
(少しだけガッカリしたとかそんなことはない、絶対にないからな)
「25%かぁ……」
しょんぼり肩を落とすハルトに、テオドアは顔を上げた。
背を丸めているせいか彼が小さく見える。
「行くぞ、ハル」
テオドアは占い師にお礼を言い、ハルトの背を押してその場を後にした。
「これからどうする?」
「……人の居ない所に行きたいかも」
肩を落としたまま力なく答えるハルトに、テオドアは胸が痛くなるのを感じる。
(ハルが落ち込んでいるから俺も引き摺られているのであって、心配したりガッカリしてる訳じゃない)
テオドアは努めて冷静な声で言った。
「花降る丘に行こう」
頷いたハルトを促し、テオドアは歩き出す。
テオドアの少し後ろを歩きながら、ハルトは彼の横顔を盗み見た。
そして……。
(おっと)
テオドアがこちらを向く瞬間、再び俯く。
(平常心装いつつ、チラチラ心配そうにこっち見てくるの可愛すぎか!!)
ハルトは心の中で叫び、緩みそうな口元を引き締めた。
(折角だからもう少し俯いておこう)
二人は暫し無言で歩く。
徐々に人混みの熱気が薄れ、花降る丘に辿り着くと風を冷たく感じた。
眼前に広がる澄んだ空気の夜空の下、未だ俯くハルトを、テオドアは眉を寄せて見つめる。
あんなにノリ気で自信満々だった結果があの相性度。ガッカリしても仕方がないかもしれない。
(けど……静かだと何だか落ち着かない)
「あのさ」
テオドアは意を決して口を開いた。
「ただの占いなんだから気にすることないって、俺達は俺達だろ?」
ぷるぷるとハルトの身体が震える。
「ハル……?」
慌てて一歩踏み出すと、ハルトが顔を上げた。
「あのさ、俺いつも全力でテオ君に愛を送ってるつもりだったんだけど、たったの25%しか伝わってなかったんだなぁ」
「え?」
「と、いうわけで!」
ハルトはテオドアの両肩を掴んだ。
「俺は今後残り75%の力を出し切るべく、全力で愛を注ぎたいと思いまっす!」
「……は?」
パチパチとテオドアが瞬きすれば、ハルトはパチンとウインクする。
「本気出したらテオ君もイチコロかもよー?」
(落ち込んでなかった、呆れるほどに平常運転だった)
テオドアは大きく息を吐き出した。
(でもそういうとこ、ハルらしくて安心した)
瞳を上げれば、いつも通りの明るい笑顔。
「じゃあ、落とせるもんなら落としてみなよ」
今度は、ハルトが大きく瞬きする番だった。
(あらま意外な反応……)
「おう、任せとけ!」
抱き寄せられて、テオドアは調子に乗るなと彼の胸板を押した。
(……しかし今後ハルのアタックが7割増しかぁ……頑張ろう)
これまで以上にうんざりと騒がしく、でもきっと楽しい──そんな予感。
●3.
楼城 簾は、捲ったカードの鮮やかな赤色に目を瞠った。
「赤いカード?」
「これは凄いね。最高の相性度。正に運命で結ばれた二人だね」
占い師がにこやかに告げたのに、簾は咄嗟に上手く言葉を返せなかった。
相性が最高? 僕とミズノさんが?
隣を見れば、彼──フォロス・ミズノは、いつも通りの底が見えない穏やかな笑みを湛えている。
「良ければ、カードは記念に持って帰って下さい。お二人の色だからね」
「では、お言葉に甘えて」
微笑んだフォロスが、カードを手に取るのを簾は無言で見つめた。
長いフォロスの指が、懐から取り出した名刺入れにカードを納める。
「それでは参りましょうか」
「あ、……そうだね」
その一言に、まるで魔法から解けたように簾は一つ息を吐いた。
二人は占い師に礼を告げ、その場を後にする。
「……そのカード、どうするんだい?」
ゆっくりと歩きながら、簾がフォロスに問い掛けた。
「今日の記念として部屋に飾ります」
本気とも冗談ともつかないフォロスの答えに、簾は瞳を細める。
「喉が渇きませんか?」
フォロスは飲み物の屋台を示し首を傾けた。そこで、簾は喉の渇きに気付いた。
簾はお茶を、フォロスはビールをそれぞれ買う。
それから、人混みを避けて花降る丘に登った。
「ここは空気が澄んでいて、風が心地良いね」
大木の下にある木製ベンチに並んで腰掛け、簾は夜空を見上げる。
明るい星に暗い星──様々な色や大きさの光が、暗い夜空を彩っていた。
乾いた喉にお茶も美味しい。穏やかな簾の横顔を見つめて、フォロスが唇を開く。
「屋台はもういいのですか?」
「屋台はもう十分楽しんだからね」
即座に返って来たその返事に、フォロスの口元から笑みが消える。
──楽しんだ? 誰と?
脳裏に浮かぶのは、あのカードと同じ、赤い色の瞳を持つ男。
「もう祭りは不要ですか?」
するりと出た声は、驚く程冷たかった。こちらを向いた簾が訝し気に眉を寄せる。
「……? さっきの占いで十分……」
──私がここで何もしないとでも思っているんです?
そんな言葉が浮かんだ瞬間。
どさりと、無防備な簾の身体をベンチに押し倒して、フォロスは彼を見下ろした。
状況理解が追い付いていない様子の簾の瞳が、驚きに見開かれる。
「コウリュウさんと十分楽しんだから、不要なのかと聞いています」
「何、言って……」
簾はもう一人のパートナー、白王 紅竜の顔を思い出した。
彼の涼しい表情と、唇に触れた甘い熱を。
(けれど、あれは……!)
知らず頬に赤みが差す──その表情を見た瞬間、フォロスの中で燻っていた苛立ちが弾けた。
いっそこのまま──。
フォロスの顔が近付く。それを見上げて、簾は気付く。モノクルの奥──左右の瞳の色が違う事に。
左の瞳はブラウン。右の瞳はヘーゼル。
「ミズノさんは、瞳の色が違うのかい?」
はっと、フォロスの瞳が見開かれたのを簾は見た。
身体が離れる。圧迫感から解放され、簾は急に入ってきた空気で咳き込んだ。
フォロスはモノクルを掛け直してから簾に微笑む。
「すみません。少し冗談が過ぎました」
「……折角のお茶が零れたよ」
「買ってきます」
立ち上がったフォロスを見送り、簾は遠ざかる彼の背をじっと見た。
(よく判らないけど、瞳の色はミズノさんの弱点らしい。それを突き止めさせて貰わないとね)
一方、足早に歩きながら、フォロスは先程の簾の表情、言葉、香りと体温を思い出す。
(聡い彼は、私がこれに触れられたくないと気付いたでしょう)
モノクルに触れると、冷たい感触がした。
懐の名刺入れからカードを取り出す。二人の色だという赤いカードを。
(コウリュウさんと同じ瞳色のカードというのが気に入りませんね)
まるで──簾と己の間に、あの男が居るという暗示のような。
フォロスの瞳に昏い焔が灯る。
(面白くはありませんが、私の獲物はコウリュウさんには渡さない)
──あなたを這い蹲らせるのは私です。
──最後に這い蹲るのは君だ。
赤のカードが静かに夜風に揺れた。
●4.
緊張に僅かに震える指が、ゆっくりと選んだカードをオープンにした。
その色を見て、イェルク・グリューンは安堵の吐息を吐き出す。
明るい黄色は、まるで満月の色のように輝いている。
「80%ねぇ」
カイン・モーントズィッヒェルは、イェルクの隣でカードの色を確認して顎に手を当てた。
悪い結果では無くて良かった。イェルクはそう思いカインを見つめたのだが──。
「残り20%は俺らの努力って奴だな」
ぽふぽふと、カインの大きな手がイェルクの頭を優しく撫でた。
二人で一緒に絆を繋いで、今は100%となっている──カインがそう言ってくれたのだと理解って、イェルクの顔に笑みが広がっていく。
嬉しくて、だからほんの少し油断していたのだ。
「ひぁあっ!?」
角に触れたカインの唇に思い切り身体が跳ねる。
ラブラブだねぇと笑って、占い師が引いたカードをプレゼントしてくれたので、イェルクはもう茹蛸状態になるしかない。
恨めし気にカインを見上げれば、彼は朗らかに笑った。
「祭り十分楽しんだし、大輪の園にでも行くか」
「そうですね、少し人混みにも疲れました」
提案に頷いてから、イェルクはじっとカインを見る。
「花降る丘も悪くねぇんだけど……」
そこまで言って、カインはひらっと手を振った。
「違和感関係者はもう諦めろ」
「そうします」
見透かされていた事に目を丸くしてから、イェルクはクスッと笑う。
二人は手を繋いで、人混みの中を大輪の園へと向かった。
暫く歩けば、夜風が花の甘い香りを運んでくる。
そして辿り着いた花園は、まるで花達のステージだった。
星明りのスポットライトに照らされて、艶やかな色彩を放つ花々が優雅に揺れている。
「キンモクセイ、リンドウにアイビー、シオン……結構色んな花咲いてるな。モチーフにもいいが……」
カインは指でフレームを作り花達を眺める。花をモチーフにしたアクセサリー案が次々と浮かんだ。
けれど、それはフレームの中にイェルクが入るまで。
「イェルが隣にいるからな、花の方が遠慮するだろ」
イェルクは瞬きした。
「カイン、私は180cmの男ですよ」
「あ?」
真顔で言えば、今度はカインが瞬きした。
「イェルは、見た目は宣言するまでもなく成人男性だし、かなりイケメンだぜ?」
きっぱりはっきり言い切ってから、カインは大真面目に人差し指を立てた。
「ただし、中身は俺限定で最高に可愛い」
ぽふぽふ。
分厚い掌に頭を撫でられて、イェルクは確信する。
豪華客船のスイートルーム。カインは眠っていたと思っていたけれど、やっぱり最初から起きていたのだと。
気付いてしまったら、一気に頬が熱くなるのを感じる。
カインはこんなにも深く愛してくれる。
だからこそ──。
「でも、飛び蹴りはしたらダメって……」
「気にする所そこかよ……」
一拍置いて脱力してから、カインが笑った。
イェルクは瞳を伏せる。
心に引っかかっているのだ。
カインの亡き妻──リタとの身長差を考えたら、飛び蹴り禁止は当たり前ではあるが、そこが20%の差ではないか──。
(メグのことも気に掛けてくれたカインは、十分気にした後だろうが、でも……)
カインは、伏せた睫毛の影が落ちるイェルクの頬に指を伸ばした。
「いやいや、そこは笑う。そりゃイェルが飛び蹴りしたら俺吹っ飛ぶし」
大真面目に言って、カインはイェルクの頬を撫で、彼の背中へ手を回す。
「それに……」
優しく尻尾を撫で抱き寄せれば、イェルクの肩が跳ねた。
「残り20%に含まれるんじゃねぇの?」
低い囁きがイェルクの全身を絡めとる。
魅了されて、幸せで、動けない。
(あの時みたいに……)
初めて唇を重ねた時も、こんな風に甘く痺れた。力の抜ける身体を大きな手が支えてくれた。
「Idocrase.
離さねぇから覚悟しろっつっただろ」
唇で耳朶に触れて、カインは告げる。
「愛してるよ、俺の可愛いイェル」
「離れるつもりありませんよ、あなた?」
見つめ合い、二人の唇が重なった。
──あなたの全てが愛おしい。
●5.
(相性度。気休めみたいなものだけど、少し気になるよね)
目の前に並べられたカードを見つめ、ラキア・ジェイドバインは一つ瞬きをした。
引いてみる? 一人で? それとも──。
「二人一緒に引こうぜ。こうやって手を合わせて!」
ぐいと手を引っ張られて、ラキアは目を丸くした。
隣で、にかっと白い歯を見せてセイリュー・グラシアが笑う。
ラキアはふっと息を吐き出すと、微笑んで頷いた。
(セイリューってば、こちらが悩む隙すら与えてくれないんだね。君のその決断力は時に羨ましいよ)
重なり合った手が温かい。
「行くぜー? せーのっ」
セイリューの合図でカードに触れて、一気に捲る。現れた色は──。
「緑だ」
新緑のような瑞々しい緑色のカード。
「ラキアの瞳の色じゃん」
セイリューが菫色の瞳を輝かせた。
「オレはこの色好き」
「俺も好きな色だな。でもそれより……」
セイリューの好きという言葉に思わずドキッとしたけれども、相性度が気になる。
ラキアが視線を向ければ、占い師は微笑んだ。
「60%だね。衝突もあるかもしれないけど、悪くはない」
「6割……」
「相性6割。上等じゃん。悪くない!」
拳を握るセイリューの隣で、ラキアはそっと眉を下げた。
何だか注釈も慰めっぽく聞こえてしまう。
「記念にカードは持って行って。お二人の色だ」
「サンキュ!」
セイリューは大事そうにカードを懐に仕舞った。
「よし、屋台巡りしよーぜ」
キラリ瞳を輝かせたセイリューに、ラキアはクスッと笑みを零す。
「君、ホントに屋台巡りが好きだね」
「屋台でなきゃ食べられない物も多いじゃん?」
セイリューは急かすようにラキアの手を引き、占い師に別れを告げ食べ物の屋台へと向かった。
香ばしい屋台独特の食べ物の香りが食欲を掻き立てる。
「これは……イカ焼の匂い! くださいなー!」
早速二人分買い込むセイリューを、ラキアは微笑ましく見つめる。
「出来立てなんだってさ。うまー!」
ラキアに一本イカ焼を手渡し、セイリューはもう一本のイカ焼を頬張った。広がる満面の笑顔。
「焼きそばは屋台の定番! 焼き鳥も!」
「肉系ばかりだねぇ」
イカ焼を食べながらラキアが言えば、セイリューはならばと向かいの屋台を指差した。
「じゃがバターだ!」
「そんなに食べられる?」
「そんなにガッツリか? 量少なめじゃん?」
セイリューは首を傾けた。
「野菜なら冷やしキュウリでどーだ!」
「確かにキュウリは野菜だし……」
ラキアは、セイリューから手渡されたキュウリを齧った。
「冷えてて美味しいけど」
「キンキンでうまー!」
二人は少しの間無言になって冷たいキュウリを味わう。
最後の一欠を飲み込んで、セイリューはひたとラキアを見つめた。
「あのさ、ラキア」
「何?」
「オレ達はさ、違うトコが結構あるからウマくいってると思うぜ」
真っ直ぐ目を見て告げられた言葉に、ラキアは軽く目を見開く。
「オレが判んない所をラキアが気付いてくれるしさ。任務中の相談とかも……見方が違えば別の意見出てくるじゃん。
で、その方がきっと色々できるじゃん?」
「そうだね、二人が同じ考え方だったら……きっと討伐系の任務の時、命が幾つあっても足りないよ」
ラキアは頷いて、セイリューの瞳を見返した。
「結構敵に向かって突っ込んで行くこと、多いよね」
視線を受け止め、セイリューは微笑む。
「いつもラキアがちゃんと後ろから護ってくれると信じてるし」
ラキアは息を飲んだ。
本当に、セイリューはいつも──……。
「君が『他の人に怪我させたくない』と思っているの、良く判ってるよ」
だから、ラキアが取るべき道は、いつだって一つだけなのだ。
「オレ、いつも生命は大事にって考えてるし。
ホントだぞ!」
身を乗り出したセイリューを見つめ、ラキアは瞳を細めた。
「ふふ、無茶はしないでね」
君を護る。
お互いに不足する部分を補って、ずっと一緒に歩いていく。
どちらからともなく、指先が触れて──それからぎゅっと重なった。
この温もりを、離さない。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:セイリュー・グラシア 呼び名:セイリュー |
名前:ラキア・ジェイドバイン 呼び名:ラキア |
名前:楼城 簾 呼び名:レンさん |
名前:フォロス・ミズノ 呼び名:ミズノさん |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 雪花菜 凛 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 09月20日 |
出発日 | 09月26日 00:00 |
予定納品日 | 10月06日 |
参加者
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- 瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
- カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
- 楼城 簾(フォロス・ミズノ)
- テオドア・バークリー(ハルト)
会議室
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2016/09/24-21:11
【ダイスA(6面):3】 -
2016/09/23-23:32
【ダイスA(6面):5】 -
2016/09/23-22:31
【ダイスA(6面):2】 -
2016/09/23-21:42
楼城 簾だ。
今回はミズノさんと一緒に参加したよ。
僕がカードを引く予定なんだ。
よろしくね。
【ダイスA(6面):1】 -
2016/09/23-21:23
【ダイスA(6面):2】