古城カフェの収穫祭(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●秋は夕暮れ
「古城カフェ『スヴニール』から、秋の収穫祭への招待状が届いている」
 窓の外の夕焼け空を眺めて、A.R.O.A.職員の男はぽつと零した。秋の日の夕暮れは見事なものだが、見る間に暮れていってしまう。
「収穫祭、といってもカフェのちょっとしたイベントだ。秋の味覚を存分に楽しむ……そういう、ごくわかりやすい趣旨になっているみたいだな」
 ビュッフェ形式で供されるのは、例えば、ごろんと大きな栗の渋皮煮がアーモンドクリームとサクサクのパイ生地に包まれたマロンパイ。ふうわりと紅茶が香る、甘酸っぱい林檎がたっぷり入ったパウンドケーキに、ほろ苦いカラメルが堪らない、まったりと濃厚なかぼちゃプリンも。
「必要なのは、古城カフェまでの交通費くらいか。場所はタブロス近郊の小村の外れだから――まあ、少しばかり遠出にはなるが、村まではバスも出ているし、ちょっとした小旅行だとでも思えるならさして苦にはならないだろう」
 ウィンクルムに、何度も救われた古城カフェである。その主であるリチェット青年は、ウィンクルム達の訪れを楽しみにしていることだろう。
「秋の日暮れのように季節の変わるのもあっという間だ。興味があるなら、楽しんでくるといい」
 アンティークなカフェは秋の味をずらりと並べて、お客がやってくるのをそわそわとして待っているから。

解説

●古城カフェ『スヴニール』について
タブロス近郊の小さな村の外れに位置する、豪奢な造りの古城。
その中で、価値のあるアンティークやとっておきのスイーツが楽しめるカフェです。
『古城カフェの~』というタイトルのエピソードが関連エピソードとなりますが、ご参照いただかなくとも古城カフェを楽しんでいただくのに支障はございません。

●秋の収穫祭メニュー
マロンパイ・林檎と紅茶のパウンドケーキ・かぼちゃプリンがビュッフェ形式で食べ放題です。
マロンパイは拳大サイズの物を一つから、パウンドケーキは一切れから。
巨大なかぼちゃプリンは器に好きなだけ掬ってお楽しみくださいませ。
なお、スイーツの詳細はプロローグをご参照ください。
お飲み物は、
1)古城カフェの定番ローズティー
2)珈琲
3)紅茶
から、お好みでお選びいただけます。

●リチェットについて
一族に伝わる古城をカフェとして蘇らせたパティシエの青年です。
特にご指定なければリザルトにはほとんど(若しくは全く)登場しない予定です。

●消費ジェールについて
タブロス市内から古城カフェまでの交通費として300ジェール頂戴いたします。
古城カフェでの飲食は無料です。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

秋って美味しい物がいっぱいですよね!
ご多忙なウィンクルムの皆さまに、偶にはゆったりまったりと秋の味覚を楽しむ時間を。
勿論、テーブル越しに真面目な話をするのも、食べ放題だ! とはしゃぐのも。
過ごし方は、どうぞ、お心のままに。
秋色のスイーツビュッフェ、ご存分にお楽しみいただけますと幸いでございます。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)

  嬉しくて小躍りする奴初めて見たわ……(相方を眺めつつ)
ほら、大人しくできないなら置いてくぞ!
(飛んできた様子に)ったく、しょうがねえなぁ

いつも通りにリチェットに挨拶してテーブルへ
飲み物は紅茶を
イグニス、わかってると思うが食いきれる分だけ持って来いよ!
俺もついつい口出す癖もいい加減なんとかせんとなあ
ってお前俺の話聞いてたか!?あぁ、2人分か……ありがと、な

ころころ表情を変えるイグニスを微笑ましく見つめ
笑ったり固まったり忙しい奴だな……(紅茶を一口)
ん?んー……まあ、な(目をそらし)
っ、わざわざ言わなくていいっつうの!
(赤くなりつつも否定はしない)
ああもう、ちょっと黙っとけ!(口にケーキ押し込み


羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
  再び二人でお店へ行ける事を喜ぶ
秋の味覚にも心躍らせながら

どれも美味しそうで、選べなくて
おかわり出来ると分かっていても、たくさんよそう
ローズティーをお供に収穫祭を心行くまで楽しむ

甘い物はもともと大好きだけれど
栗や南瓜を使ったものだなんて、堪らない
ラセルタさん!どれもね、とっても美味しいよ
さくさくと落ち葉を踏みしめるようにパイ生地を楽しんで
甘い渋皮煮は最後のお楽しみ

あれ、もういいの?
?!食べすぎかなぁ…(俯き

短い秋の陽射しをカップの水面が反射して
黄金色に染まる相手の瞳から目が離せず瞬く
栗にやきもち?

テーブルの上で手を重ね
何よりも誰よりも、貴方が一番大好きだよ
…っ、わざと言ったでしょう。もう(真っ赤


柳 大樹(クラウディオ)
  「全部一つは食べるの、当然だよね」
飲んだことないし。ローズティーにしようかな。
「食べ放題で気にしてどうすんのさ」
「クロちゃんも一つぐらい食べなよ?」

パイ生地さくさくして最高。
「フードも下ろしなよ。暑苦しい」(ローズティーを飲む
パウンドケーキもいい匂い。こんなに林檎入れて贅沢だなあ。
「かぼちゃの味が濃い、美味い」

「痕が残るかも知れないけど、治るって医者も言ってただろ」(呆れ
「大丈夫だって。あんただって腹に食らってただろ」
「なら、俺も問題ねぇわ」

(溜息
「欠けて無いなら、怪我ぐらいどうでもいいんだよ。俺は」
「さぁて、お代わりでも貰おうかなー」(取りに行く

「これ美味いよ」(かぼちゃプリンをクラウに渡す


ユズリノ(シャーマイン)
  お城に緊張 畏れ多くてそわそわ
「はぁ凄いお城 本当に入っていいの
彼の落ち着きと触れてくれるから心強い
「うん 秋のスイーツ食べたい!
アンティーク内装を興味深げに観察

「どれも美味しそうだね
お互い3種取ってきて席で眺めている
飲物ローズティ
「都のお菓子は綺麗で見てるだけでも幸せになる
いただきます
マロンパイぱくり
「美味しい…夢菓子だ(うっとり

「うーん 目まぐるしくてまだまだ驚く事多くて でも楽しい
外の秋の景色見て
「去年 顕現したのはこの季節で 悲観に暮れた日々だった
 なのに今こんなに幸せなんて シャミィのおかげだ
頬染めにこやかに
「パートナーになってくれてありがとう
彼の言葉が嬉しい

おかわりして共に秋の味覚をしっかり堪能


胡白眼(エドガー・ベニー)
 

ジェフリーさんと来る予定が直前でキャンセルされてしまった
最近どこへ誘っても断られるんだよな
…避けられている気がする

エドガーさんがついて来てくれたのはいいものの
見るからに甘いのダメそうだよな…大丈夫かな
(ちらっ)
怒ってる、怒ってるよぉ!!

このままでは場の雰囲気も悪くなってしまう
なんとか機嫌をとらなくては
「あの…お茶を…(がくぶる)(器から零れる紅茶)」
って す っ ご い 盛 っ て る

「え…エドガーさん、ペース早くないですか?胃もたれしますよ」
「そう…そうですか…マカロン…」

イメージが音を立てて崩れていく―…!
けど、いい意味で。だな
心理的な壁が少し薄まった気がする
「あ、はい!」
思ったほど怖い人でもないのかも


●ティーカップに想いを溶かして
「食べ! 放! 題!」
 かんばせをぱああと華やがせて、ずんと立つ古城の前、イグニス=アルデバランはくるくると回る、回る。
「何て素敵! メニューに悩まなくていいんですよ!? ふふー、嬉しいですー!」
「……嬉しくて小躍りする奴初めて見たわ……」
 イグニスの回りっぷりを眺めながら、初瀬=秀は呆れが混じった声音でぽつりと呟いた。まるで幼子か子犬のようなはしゃぎよう、色付き眼鏡越しでも、青い瞳の煌めきが目に眩しいほどだ。軽く肩を竦めた後で古城の扉に手を掛けて、秀はイグニスへと呼び掛けた。
「ほら、大人しくできないなら置いてくぞ!」
「えっ? あぁっ、置いていかないでください!」
 お姫様たる秀からの非情な宣告に、慌てるあまりちょっぴりつんのめりそうになりながらもイグニスは全力ダッシュ。とんできたイグニスの様子に、
「ったく、しょうがねえなぁ」
 なんて、秀はまたもその声に呆れの色を乗せる。けれど、その目元は仄か和らげられていた。そうして、2人は古城カフェの扉を潜る。

「リチェット様こんにちは!」
 立ち働く古城の主の姿を目に留めてイグニスが元気良く声を掛ければ、既知の2人の姿に気付いて破顔するリチェット。彼の元へと、2人は常のように歩み寄った。
「秋は美味しいものがたくさんなので食べ放題ありがとうございます」
 恙無く挨拶を済ませた秀の傍ら、深々と頭を下げるイグニス。あはは、とリチェットが笑った。
「どうぞ、存分に楽しんでくださいね。お飲み物もすぐに準備いたしますので」
 秀は紅茶を、イグニスはローズティーを頼んでテーブルに着く。そして、
「いざ、ビュッフェ!」
「イグニス、わかってると思うが食いきれる分だけ持って来いよ!」
「大丈夫ですってば!」
 風のように去っていこうとする背中に声を投げれば、返るのは明るい声。純白の皿を手にスイーツを吟味するイグニスの姿を見遣っていた秀だったが、
「……俺もついつい口出す癖もいい加減なんとかせんとなあ」
 と、一つ頷いて、テーブルへと向き直った。やがて、イグニスが足取り軽く戻ってくる。
「秀様、お待たせしました!」
「ってお前俺の話聞いてたか!?」
 テーブルに置かれた皿の上、栗、林檎、南瓜のスイーツがぎゅうぎゅうに並んでいるのを見て、思わずそこそこの音量でつっこみを入れる秀。しまったと決まり悪げに口を抑える秀の前に腰を下ろして、イグニスがにっこりとした。
「えへん! 秀様の分も持ってきました!」
「あぁ、2人分か……ありがと、な」
 控えめに、けれど確かに零されたありがとうに、イグニスの双眸は益々輝く。いただきますを済ませると、弾む心のまま、イグニスは秋色スイーツを口に運んだ。
「うふふー、パイがさくさくでケーキがふわふわですー」
 美味しい秋に頬をゆるゆるさせていたイグニスだったが、不意に、はっ! とある事実に気付いて目を見開いたままフリーズする。
(しまった、今日は半分こ出来ない……!)
 百面相さながらにころころと表情を変え、今度はちょっとしょんぼりとするイグニス。微笑ましさに、秀はそっと口の端を上げた。
「笑ったり固まったり忙しい奴だな……」
 少し笑いの混じった声で呟いて、紅茶を静かに口に運ぶ。姫君の声に顔を上げるや、その様子を見留めてイグニスはくるりと目を丸くした。
「あれ、そういえば秀様今日は紅茶……」
「ん? んー……まあ、な」
 歯切れ悪く応じて、秀はつと目を逸らす。その態度と漂うふくよかな香りが、手紙に綴られていた幸福をイグニスの脳裏に呼び起こした。思わず、「あ!」と声が漏れる。
「ふふー、私『も』大好きですよ!」
「っ、わざわざ言わなくていいっつうの!」
 赤くなったのを誤魔化すように額を抑えながらも、秀の口から否定の言葉が生まれることはなく。ふにゃりと頬を緩めて更に音を紡ごうとするイグニスの口に、
「ああもう、ちょっと黙っとけ!」
 と、秀は紅茶の香るパウンドケーキを押し込んだ。

●ありがとうを貴方に
「はぁ、凄いお城……」
 目前にそびえ立つ古城を首が痛くなるほどに見上げて、ユズリノは緊張の色が滲む息を漏らした。畏れ多さに、何だかそわそわとしてしまう。
「本当に入っていいの?」
「何、取って食いやしない。こっちが食べる側だしな」
 ユズリノとは対照的に落ち着いた様子で軽口めいたことを言って、シャーマインはユズリノの腰に手を回した。促すようにして、とん、と触れた腰をごく軽く叩く。
「折角のビュッフェなんだ、そんな緊張してたら胃が縮こまっちまうぞ」
 笑みを含んだ言葉に、ユズリノは「うん」と素直に頷いた。常と変わらないシャーマインの態度と触れる温度が、胸に心強さを運ぶ。
「秋のスイーツ、いっぱい食べたいね!」
 ようやっと零されたユズリノの笑顔に、シャーマインはふっと口の端を上げた。そうして2人は、古城の中へと足を踏み入れる。カフェの内装やアンティークの数々に、ユズリノは翠の双眸を興味津々輝かせた。

「どれも美味しそうだね」
「ああ、食欲誘うな。お互い、食べ過ぎ注意だな」
 純白の皿に秋の甘味を3種類全部盛って、2人は窓際の席に腰を下ろした。益々瞳を煌めかせて皿の上の秋色を眺めるユズリノが言えば、シャーマインは冗談めかした言葉と一緒に笑みを零して。
「都のお菓子は綺麗で見てるだけでも幸せになる」
「そうだな、そんな顔してる」
 ユズリノの言に、シャーマインは頷きと共にそう返した。表情を明るくしたままユズリノは「いただきます」を唱えて、先ずはとマロンパイを口に運ぶ。サクッとした生地からアーモンドクリームが溢れ出せば、思わずうっとりとなるユズリノだ。
「美味しい……夢菓子だ」
 かんばせをより一層華やがせるユズリノの言葉に、シャーマインは思い出す。
(夢菓子、か……祭りの綿飴にも言ってたな。最大限の褒め言葉か?)
 くす、と思わず音が漏れた。きょとんとするユズリノに余裕めいた笑顔を向けて、シャーマインは自分も、秋の味をぱくりとする。林檎たっぷりのパウンドケーキを味わえば、
「んん!」
 と漏れる感嘆の声。「わ、そっちも食べたい!」なんて、ユズリノが声を上げた。

「リノ、タブロスの生活は慣れたか?」
 皿の上は、もう殆ど空になっている。まったりと流れる時間の中、最後のかぼちゃプリンを口に楽しんでいるユズリノへと、シャーマインはそう声を投げた。プリンをもぐもぐごくんとした後で、ユズリノが「うーん」と首を傾ける。
「目まぐるしくてまだまだ驚く事多くて……でも、楽しい」
「楽しいか、逞しいな」
 応じたシャーマインへとユズリノは微笑を手渡したけれど、その表情が幾らか翳ったのをシャーマインは見逃さなかった。ローズティーのカップを手に窓の外へと眼差しを遣るユズリノの横顔は、シャーマインの庇護欲をくすぐる色を纏っている。
「……去年、顕現したのはこの季節で。悲観に暮れた日々だった」
 ユズリノの声を耳に、シャーマインは彼の故郷のことを思った。遠方の寒村に生まれたというユズリノの辛い境遇を、シャーマインも少し知っている。
(契約まで3ヶ月、そんな気持ちでいたのか……)
 無意識に、手が伸びていた。不意に頬を撫でられて、ユズリノは寸の間瞳を瞬かせたけれど、
「なのに今こんなに幸せなんて……シャミィのおかげだ」
 と、次の瞬間には頬を朱に染め、にこやかに笑う。
「パートナーになってくれてありがとう、シャミィ」
 差し出すのは、どこまでも真っ直ぐな感謝の言葉。「ああ」とシャーマインは頷いた。
「俺も、いい出会いだと思ってる」
 耳に届いた言葉が嬉しくて、くすぐったいような笑みを漏らすユズリノ。そうだ、と、思いつきに、跳ねるようにして立ち上がる。
「ねえ、折角だからおかわりしようよ。秋の味覚、しっかり堪能しなくっちゃ」
「ああ、そうだな。それがいい」
 今日の思い出もまた、ユズリノの笑顔に繋がればいい。そんなことを胸に思いながら、シャーマインもまた一旦席を立った。

●貴方に残る、
「全部一つは食べるの、当然だよね」
 殆ど感情の乗らない声に、けれど零した言葉の通り「当然のことだ」という色は覗かせて、柳 大樹は純白の皿にどんどんと秋の甘味を盛っていく。その様子を、クラウディオは青灰色の双眸でじっと見つめていた。
(大樹は今取った以上に食べるのだろう)
 大樹の皿に、トドメとばかりにかぼちゃプリンがたっぷり装われるのを目に確かめながらクラウディオは思い、そして、口布の向こうで短く口を開く。
「大樹、糖分の取り過ぎになる」
「食べ放題で気にしてどうすんのさ」
 常に気にしていないだろう、というつっこみを、クラウディオは口にしなかった。けれど、大樹はクラウディオの眼差しからだろうかその心境に気付いたようで、
「クロちゃんも一つぐらい食べなよ?」
 なんて、ごく軽く肩を竦めてみせる。
(一つ、か)
 大樹が店員へと飲み物を頼む声を耳に聞きながら、クラウディオは秋色スイーツの数々に視線を走らせた。逡巡の末に選び取ったのは、一切れのパウンドケーキ。声を掛けてきた店員にクラウディオが紅茶を注文したのを確かめて、大樹はテーブルへと歩を進めた。

「ん、パイ生地さくさくして最高」
 マロンパイに齧りついて、大樹はそう声を漏らした。もう一口を口に運んでもぐもぐと口を動かす大樹を前に、クラウディオも静かに口布を外し、パウンドケーキを一口味わう。
(甘みと酸味がある。林檎のようだ)
 そう認識して、無言のまま更に銀のフォークを操るクラウディオへと、
「フードも下ろしなよ。暑苦しい」
 と告げて、大樹は初めて口にする芳醇な香りのローズティーを喉に流した。面を上げて一旦手を止め、フードを下ろすクラウディオ。白銀の髪が、露わになる。それを右目に確かめ一つ頷いて、
「こっちもいい匂い。こんなに林檎入れて贅沢だなあ」
 と、大樹は今度はパウンドケーキにフォークを走らせた。大樹が口に楽しんでいるのと同じものを三分の一ほど食べ終えて、クラウディオは静かに紅茶を啜る。その間に、大樹は山盛りのかぼちゃプリンを食べる為にスプーンを手に取っていて、
「かぼちゃの味が濃い、美味い」
 なんて、口にした甘味の感想を漏らした。
(大樹の機嫌が良いのはいい。だが)
 その姿を静かに見遣るクラウディオの無表情の奥に、微か、色が灯る。
「大樹、そんなに食べては傷に障る」
「痕が残るかも知れないけど、治るって医者も言ってただろ」
 返る言葉には、呆れの色が滲んでいた。クラウディオとて、そのことはきちりと記憶しているのだ。けれど。
「だが、塞がり切ってはいない」
「大丈夫だって。あんただって腹に食らってただろ」
「この程度は問題無い」
「なら、俺も問題ねぇわ」
「大樹」
 己の名を呼ぶ声の響きに、大樹は深いため息を漏らした。そうして、瞳の蜂蜜色でクラウディオを捉える。クラウディオも、真っ正面から大樹の目を見据えた。交錯する視線。
「欠けて無いなら、怪我ぐらいどうでもいいんだよ。俺は」
 その言葉を耳に、クラウディオは知らず、胸の内に細く長く息を吐いた。それが、戦闘時に自棄の様な行動を取る原因か、と。
「さぁて、お代わりでも貰おうかなー」
 話はこれで終わりだと言わんばかりに、大樹が立ち上がる。彼の皿は、いつの間にか空になっていた。再びビュッフェスペースへと向かう大樹の後に、クラウディオも黙って続く。次なる甘味を、と思ったわけでは決してなく、大樹が歩き出したので、彼の後を追ったのだ。クラウディオが見守る中で、大樹がまた、新しい皿にかぼちゃプリンを装う。
「これ美味いよ」
 端的な言葉と共に差し出されたそれを、クラウディオは確かに受け取った。皿の上の秋色を、見つめる。傷のなかった肌に、刻まれてしまったもの。それが生まれたという事実を残念に思っている自身の感情には、未だ気付かないままに。

●壁の向こうに見えるもの
「古城カフェの話は共通の趣味を持つ友人から聞いたことがあってな」
 むっつりとした表情は崩さぬまま、愛想の覗かぬ声音で。エドガー・ベニーは、長い前髪の向こう側から古城の内部を見回してぽつと漏らした。
(古きを守りながらも、そのなかに新しい風を通す。見上げた心がけだ)
 胸の内にはそんなことを思っているのだが、
「そ、そうでしたか……」
 と応じる胡白眼は、当然、エドガーの頭の中までは覗けない。
(エドガーさんがついて来てくれたのはいいものの、見るからに甘いのダメそうだよな……大丈夫かな)
 こちらはこちらで、そんなふうに気を揉んでいる白眼。そして彼には、他にも悩みの種があって。
(最近、どこへ誘っても断られるんだよな……避けられている気がする)
 脳裏に浮かぶのは、白眼の1人目の精霊たる赤い猫の姿。元々は彼と共に古城を訪れる予定になっていたのだが、直前で約束をキャンセルされてしまったのだ。白眼の口から細い息が漏れた、丁度その時。
「で、今日は何が出るんだ」
 素っ気のない声が、白眼を今ここへと呼び戻す。
(そうだ、今はエドガーさんのことを……)
 心の焦点が戻った時には、エドガーは前髪から覗く金の瞳で、ビュッフェスペースに並ぶ秋色の甘味達をぎろりと睨み付けていた。ちらりとエドガーの様子を窺った白眼、
(怒ってる、怒ってるよぉ!!)
 という具合に盛大な勘違いをして、思いっきり顔を青くする。その間も、エドガーの方は相変わらずの仏頂面で、栗や林檎や南瓜をふんだんに使った菓子を、穴が空きそうなほどにじぃと見つめていて。決意を胸に、白眼は痛いほどに拳を握った。
(このままでは場の雰囲気も悪くなってしまう。なんとか機嫌をとらなくては)
 近くにいた店員の元に歩み寄り、声を掛ける。先ずは2人分の飲み物を手配してもらおうという考えだ。すぐに用意された2人分のローズティーを、白眼は手ずから運んだ。
「あの……お茶を……」
 声が、銀のトレイを持つ手がどうしようもなく震える。がくぶるしながらエドガーの元まで戻った白眼は、ティーカップから澄んだ赤色が零れるのにも気付かぬほど仰天した。
(って、すっごい盛ってる!!!)
 エドガーは、黙々として純白の皿にスイーツを乗せまくっている。今にも皿から溢れ落ちそうなほどの秋色。
「何だ?」
「え、い、いえ何でも……!」
 そうして2人は、幾らか量の減ったローズティーと大量の甘味と共にテーブルに着いた。

(このマロンパイ……アーモンドの風味がしっかり効いてるな)
 無駄口を叩くことはせず、エドガーは傍目には静かに拳大のパイを口に味わう。
(しかし出しゃばることなく、上品な栗の味わいを引き立てている……!)
 もぐもぐ、ごくん。
(柔な女心をつんけんした態度で隠した秋の貴婦人と、それをエスコートするアーモンドの微笑が見えるようだ!)
 感想が段々グルメレポート風味に傾いてきたが、この間ずっと無言を貫いている為に白眼には同意するなりつっこみを入れるなりする余地もない。
(ケーキとプリンもいいぞ……。うん……うん……聞いたとおりの腕前じゃないか)
 口の中に広がる味わいに満ち足りた息を漏らしたそのタイミングで、白眼が恐る恐る声を投げる。
「え……エドガーさん、ペース早くないですか? 胃もたれしますよ」
「クリームとマカロンは別腹だ」
「そう……そうですか……マカロン……」
 呟いたっきり、白眼は言葉を失った。エドガー・ベニーという男に対して抱いていたイメージが、音を立てて崩れ落ちていく。
(けど、いい意味で。だな)
 2人の間を隔てる心理的な壁が幾らか薄くなったように、白眼には感じられた。一方のエドガーも、
(やむを得ずの契約だったが、いいこともあるもんだ)
 と、胸中に頷きを零す。白眼を捉える、金の眼差し。
「あんたも食ったらどうだ」
「あ、はい!」
 掛けられた言葉に応じて、思ったほど怖い人でもないのかも、と白眼は銀のフォークを握り直した。

●黄昏に見惚れる
「うう、どれも美味しそうで選べない……」
 栗、林檎、南瓜。誇らしげに並ぶ秋色スイーツを前に、羽瀬川 千代はそんな声を漏らした。目移りしきりではあるが、本気で困っているわけではない千代である。
(またこうして、二人でお店に来られて嬉しいな。秋の味覚も、どれもきらきらしてる)
 傍らの人の温もりと幸せな秋の香りが、放っておいても千代の心を躍らせる。自然と頬を緩ませれば、ラセルタ=ブラドッツもまた、口元を綻ばせた。
(収穫祭と聞いて、心惹かれぬ訳がない)
 そして、極めつけが千代の嬉しそうな笑顔である。このビュッフェの話題を口にした時も、ここに向かうバスの車内でも。ずっとそわそわしていた千代の姿を思い出し、ラセルタはふっと笑み零した。
「千代、言うまでもないだろうがビュッフェ形式だぞ」
「うん、おかわりできるってわかってるんだけど……」
 千代の手の中、純白の皿には、既に大量の甘味が盛られている。一方のラセルタの皿には、3種の甘味が一通り、上品に盛りつけられていた。
「あ、パウンドケーキが多めだね」
「紅茶と林檎の相性は抜群だと相場は決まっている」
 当然だと言わんばかりのラセルタの言い様に、くすぐったいように少し笑う千代。そうして2人は、秋色の誘いを心行くまで楽しむ為、テーブルへと向かった。

(甘い物はもともと大好きだけれど……)
 栗や南瓜を使ったものだなんて、堪らない! と、千代は落ち葉を踏み締めるが如くにさくさくと小気味の良い音を立てて、パイ生地の食感と風味を味わう。甘い渋皮煮は最後のお楽しみ、なんて口元をゆるゆるさせる千代へと、品良く珈琲を啜りながら彼の食べっぷりを眺めていたラセルタが声を投げた。
「……美味いか?」
 皿の方へと伏せられていた金の双眸が、声に惹かれるようにラセルタに向けられる。そして千代は、その表情を益々蕩けさせた。
「ラセルタさん! どれもね、とっても美味しいよ」
 窓から差し込む斜陽が彩る幸せそうな表情に、ラセルタの胸はとくりとする。
(……其の顔は反則だ。甘やかして、甘やかされたくなる)
 そんなことを思うラセルタの前、恋人の皿がいつの間にやら空になっていたことに気付いた千代が、くるりと目を丸くした。
「あれ、もういいの?」
「ああ。十二分に腹は膨れたし愉しんだ……それにしても、天高く、千代肥ゆる秋か」
「?!」
 反応を楽しみながら、くく、と喉を鳴らせば、千代は仄か眉を下げて俯いて。
「食べすぎかなぁ……」
「冗談だ。好きなだけ食せばいいだろう?」
 声に、再び顔を上げる。柔らかな微笑でそのかんばせをなおのこと華やがせて、ラセルタは千代を真っ直ぐに見つめていた。ティーカップの中、ローズティーの面が反射する短い秋の陽射し。鮮やかな水色の双眸が黄金色に染め上げられれば、千代はもう、ラセルタの瞳から目が離せない。だが、と、ラセルタの形の良い唇が音を紡いだ。
「俺様を放って夢中になるのは戴けんな」
「え……?」
「千代にとっての一番好き、は俺様で無ければ気が済まない」
 ふいっ、と眼差しを逸らして、口を尖らせるラセルタ。実は、態と拗ねたような態度を取っているのだが、
(……栗にやきもち?)
 なんて、千代はぱちぱちと瞳の緑がかった金を瞬かせた。そして――その手が、テーブルの上、ゆっくりとラセルタの手に重ねられる。触れる温度にラセルタが視線を千代の顔へと戻せば、千代はしっとりとして微笑していた。
「何よりも誰よりも、貴方が一番大好きだよ」
 手渡された言葉を確かに受け取って、ラセルタは指先を、千代の指にゆるりと絡める。満足げなその表情を見留めて、
「……っ、わざと言ったでしょう。もう」
 と、千代は頬を真っ赤に熟れさせ、その様子にラセルタはくつと笑った。



依頼結果:大成功
MVP
名前:ユズリノ
呼び名:リノ
  名前:シャーマイン
呼び名:シャミィ

 

名前:胡白眼
呼び名:
  名前:エドガー・ベニー
呼び名:

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月21日
出発日 09月27日 00:00
予定納品日 10月07日

参加者

会議室

  • [5]胡白眼

    2016/09/26-22:46 

    エドガー:
    …………エドガー・ベニー。
    パートナーの都合がつかないとかで神人が困ってたんでね。同行することになった。
    スヴニール城には個人的に興味があるので楽しみだ。

    …………ま、よろしく頼むよ。

  • [4]初瀬=秀

    2016/09/25-11:51 

    初瀬とイグニスだ。
    古城カフェは何度か来てるが食べ放題は初めてだな。
    テンション上がりっぱなしの相方連れて楽しませてもらう予定。
    よろしくな。

  • [3]柳 大樹

    2016/09/24-21:51 

    (再投稿)

    秋のスイーツ食べ放題。良い響きだね。(一人頷く
    柳大樹と、こっちはクラウディオ。よろしくね。

    甘いもんが食べれるって聞いて来たよ。
    飲み物は何にしようかなー。

  • [1]ユズリノ

    2016/09/24-15:09 

    ユズリノと相方シャーマインです。
    よろしくお願いします。

    どれもおいしそう!


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