勝利するまで走り続けろ!(森静流 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「今回の依頼は、マラソンです」
「……はい?」
 大真面目な顔をしているA.R.O.A.の職員に、あなたは目を瞬く。
「オーガとマラソンをしてください」
 しかしA.R.O.A.の職員はうろたえる事なく、あっさりとそう言ったのだった。
「オーガとマラソン??」
 あなたの精霊がそう繰り返して、A.R.O.A.の職員に説明を求める。

「今回のオーガは、人を襲って来ないのです。ただ、走るだけなのです」

 A.R.O.A.の職員は全く狼狽も羞恥も顔に出さず、真顔でそう言い切った。
「走るだけ?」
「オーガの名は、ヤグ・ゴールド・アス。突然変異種の、数が希少なオーガです」
「ヤグ・ゴールド・アス……突然変異種?」
 あなたはそう聞き返す。すると、職員は頷いた。
「身長2.5mで全身金色のスポーツ系筋肉マッチョ(笑顔がさわやか)な人型オーガです。能力はDスケールオーガを圧倒します。何故か、属性が「光」。スポーツを愛し、戦闘もスポーツで解決しようします。どう脳みそが変異したのか、オーガなのにスポーツで正々堂々と挑んでくるのです。自信家で、スポーツで負けてしまうとショックのあまり、何処へか去っていってしまいます」
「スポーツで負けて、去る……?」
「今回、ヤグ・ゴールド・アスはこれまた何故か旧タブロス市街を気に入ってしまいました。それで、毎日、旧タブロス市街をくまなく走り回っていたのですが、やがて自分でお気に入りのコースを作って走るようになったのです。今年の夏の炎天下も毎日毎日、走り回っていました」
 あなたと精霊は今年の酷暑を思い出し、そこを走り回る事を思っただけで目眩を感じた。
なんという体力オーガだ。
「最初は走り回っているだけのヤグ・ゴールド・アスだったのですが、そのうち、旧タブロス市街に近づく人間に、走りの勝負を挑むようになりました」
 あなたはさっと顔色を変える。
「走りを挑んで、卑怯な真似をして勝って、人に暴行を与えるとか?」
「いいえ。勝ったら相手にカツを入れて、走りについて役立つアドバイスをしてくれるそうです」
「…………」
 笑顔がさわやかなだけではなく、行動もさわやかならしい。
「ただ、そのカツの入れ方が、彼らしいというか、腹にワンパン入れてみたり、背中を叩いて気合いを注入してみたり、やればできるとお前は富士山と暑苦しい事を言ってみたり、なんだか体育会系が行き過ぎるようですね」
 そうやって眼鏡をクイっとやりながら資料をめくるA.R.O.A.職員。
「スポーツの秋らしい事件ですね……」
「夏の間もずっと走っていたんですけどね、ヤグ・ゴールド・アスは」
 あなたと精霊は目眩を感じた。
「そういう訳で、走っているだけとはいえ、いい加減暑苦しくなってきたのでヤグ・ゴールド・アスも討伐する事になりました。まあ涼しくなったので、我々としても動きやすいですし。ヤグ・ゴールド・アスの特技である走り、マラソンで彼に勝負を挑み、見事に勝ったのなら、ヤグ・ゴールド・アスの性格上、彼は去って行くだろうという見込みになっています。しかしヤグ・ゴールド・アスはなんと言っても身長2・5メートルのマッチョなオーガ、ヤグ・ゴールド・アスの走りにウィンクルム単独では勝てないでしょう。仲間を集って、ウィンクルム側はリレーを組み、旧タブロス市街を走り回って、ヤグ・ゴールド・アスに打ち勝ってください」
「こちら側はリレーでも、ヤグ・ゴールド・アスは受け入れてくれるでしょうか?」
 精霊が真面目な顔をして聞いた。
「今まで何人もの人間に勝負を挑んで、まるっきり人間が弱いということは知っているようです。ヤグ・ゴールド・アスも一緒に走って勝負をしてくれる相手が欲しいようなので、それぐらいの妥協は許してくれるでしょう」
 いいんだろうか……。
 あなたはそう思ったが、職員がOKを出しているので妥協することにした。なんといっても、今年の夏中ずっと走り続けている筋肉オーガである。あなたも精霊と二人だけで勝てる気がしない。
「そういう訳ですので、マラソンの準備を整えて、旧タブロス市街に向かってください。資料はこちらです」
 あなたと精霊は職員から資料を受け取って、まずは自宅に帰って作戦を練る事にしたのだった。
「うーん……。ヤグ・ゴールド・アスに確実に勝つためにはどうすればいいんだろう」
 精霊はそう言って、A.R.O.A.本部を出た後、ちょっと旧タブロス市街の様子を回って見て行こうとあなたに提案した。
 あなたは断る理由もない。
 旧市街はヤール王朝風の大理石の建物が多い。9月とはいえ暑いので、その日陰を選んで進みながら、あなたと精霊は資料を広げ、ヤグ・ゴールド・アスのいそうな辺りや、走るコースを確かめて行く。
「ヤグ・ゴールド・アスって何が目的でそんなに走っているのかな」
「ヤグ・ゴールド・アスは突然変異種なんだろう。オーガでも変人なんだよ。考えていることなんてわからん」
 普通の声でそういう話をしながら建物の影を歩いていると、露店を出していたおばあさんが呼び止めてきた。
「あんたたち、ヤグ・ゴールド・アスを討伐するウィンクルムかい?」
 おばあさんはフードを目深にかぶった魔女のような雰囲気だった。
「えっと……そうですが」
「やっぱり、討伐するっていう話になっていたんだね。あの走り回るオーガには私達も鬱陶しくて迷惑していたんで、代表がA.R.O.A.に直訴に行こうって話になったって、噂で聞いたんだよ」
 職員から説明はされなかったが大体そういう流れらしい。
「まあ、確かに、店の営業妨害をする訳でもないし、走っているだけなんだったら、スルーでもいいかと思うんだけど、今年のあの暑さの中、黄金に輝く筋肉の塊が一日中そこらを走っているのは。……鬱陶しいというか暑苦しいというかねえ……」
「ああ……」
 それは確かにそうだろう。
「とっとと追っ払ってもらいたいんだよ」
「はい。任せてください」
 精霊が愛想よくそう言った。あなたの精霊は、老人や子供には優しいのである。
「そうかい、そうかい。……ああ、そうだ。いいものをやろう」
 そう言って、魔女のおばあさんは、露店に広げていたアクセサリーの中から一つを取りだし、あなたの手に握らせた。それはキラキラしたチェーンネックレスだった。
「ヴァハ・ネックレスだよ。これで、精霊とあんたの足を縛って一緒に走ってごらん。絶対に走りでは誰にも負けなくなるから」
「って……二人三脚でマラソンしろって事ですか!?」
「ウィンクルムの愛があれば絶対に大丈夫だよ。突風よりも速く走れるからね」
 おばあさんは得意げに言う。
「ただしね、このネックレスはとても切れやすい。切れたら、当然、走りの魔力は失われてしまう」
「ええ、そんな!」
「だが、ウィンクルムの愛があれば……。ヴァハ・ネックレスにウィンクルムの愛を注げば、切れても勝手に繋がって、また足に縛って走る事が出来る。いいかね、これは、ウィンクルムの愛があってこその魔法なんだからね」
「は、はあ……」
 あなたと精霊は顔を見合わせた。魔女のおばあさんは得意げに、ヴァハ・ネックレスの説明を続けた。何でも、ヴァハ・ネックレスは戦いの女神の魔法を受けていて、一度、オーガに勝利すると、満足してこの世から消えてしまうそうである。
 あなたと精霊は、おばあさんの話を信用することにして、お礼を言って露店の前を立ち去った。

解説

【解説】
今年の夏からずっと旧タブロス市街を走り回っていた黄金の筋肉オーガ、ヤグ・ゴールド・アスにリレーマラソンをして勝ってください。
※足をヴァハ・ネックレスで縛り、二人三脚一組でです!
マラソンコースは
旧タブロス北部 A B 
旧タブロス南部 C D 
の各地点を巡ります。ゴールは迎賓館の前になります。
A→B 緩やかな上り坂
B→C 急な下り坂
C→D うねうねと曲がりくねった道
D→ゴール だだっ広い真っ直ぐな道


各地点ではA.R.O.A.の職員が立っていて給水してくれたり、怪我などあったら面倒を見てくれたりします。トイレも使えます。
それぞれの地点の間隔は8キロごとです。
D地点からゴールまでも8キロとなります。
プランには自分達がどのコースを走るか、どんな走りをするか、走りながらどんな会話をするかなどを書いてください。

※ヴァハ・ネックレスで足を縛っている間は、正に突風のように走れますが、二人の息が乱れるとヴァハ・ネックレスは切れてしまいます。そして、GMの都合で必ず一回はネックレスを切ります。
※切れたヴァハ・ネックレスに大至急ウィンクルムの愛を注いで下さい。愛を囁く、愛を誓う、キスをする、などなど、各ウィンクルムに相応しいやり方で愛を盛り上げてください。どんな愛を注ぐかプランに書いてください。
※ネックレスが繋がります。その後、走り出します。
※マラソン中に戦いを挑むと、ヤグ・ゴールド・アスはしぶしぶプロレス技で応じます。
※オーガに勝利した事を感じると、ヴァハ・ネックレスは満足して浄化され、消えます。


ゲームマスターより

最近切ない系のハピネスばかり書いていたので、たまには思い切り外を走ってみることにしました。うじうじも不安不満も全て走って爽やかに解消しましょう!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)

  【コース】
C&D

【走り方】
走っている時はマラソンに集中し
1!2!の掛声を一緒に上げてペースもアップしていく

【心境】
私は一流のアスリートとしての誇りと自覚があるッ!
例え二人三脚だとしても、組む相手は己の半身とも言えるディエゴさん…負ける気がしない!
考えることはただひとつ、勝つことだけです。

【愛を注ぐ時】
私が転んで足を引っ張ってしまいました…
また自分の驕りで失敗してしまうんでしょうか

ディエゴさんの言葉を受けて立ち上がります
貴方の言葉なら、どんな挫折でも立ち直れそうです
ディエゴさん…!私、走りたいです!

使用スキル
スポーツ:5


アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
  B→C

なんという炎の妖精的なオーガ…

走る前
切れにくくなるかなとトランス
いちにと軽く歩いて息を合わせる準備
ちゃんと走れるか不安だけど他の皆さんの迷惑にだけはならないようにしないと…

走り中
いちにと呼吸を合わせて走る
本当に風のような疾走感に驚く
しかし走り慣れてないので途中からひいひい
だ…だいじょう…ぶ…

切れたら
ど、どうしよ愛を注ぐにはえーと…
え、えいっ
抱きしめ
あ、あなたがパートナーで良かった…
親愛と信頼を込め
コンフェイト・ドライブ…?
見上げ
へっ…?
額の感触と言葉に硬直

は…はいっ…?!
ああじゃなくてっ走らないと…!

疲れとか諸々吹っ飛んで無我夢中で走る

走り終
さ、さっきはありがとう…
直す為に色々してくれて


天埼 美琴(カイ)
  A→B担当 D→ゴール(もう一組分走る)

あの、足引っ張っらないように頑張ります…!
ええと…体育祭に向けて練習したいって言う友達に付き合って走ったことなら…
左から…。はい、分かりました

二人三脚中はなるべく焦らず落ち着いて挑む
走っている間は走ることに集中。二人の息を合わせるために何らかの掛け声

あ。切れ…ました、ね…
声をかけられ、精霊の方を見る
前髪を彼の手により上げられ額にキスされる
一瞬顔を赤くさせ固まるものの、精霊の声で我に返り、続行

A→Bを走り終えたら、職員に伝えてD→ゴールのコースへ移動
Dからも、A→Bと同じように集中して走る



 A.R.O.A.の指令を受けてウィンクルム達は旧タブロス市街に急行した。
「資料によりますと、このへんに該当のオーガが出るはずですが……」
 ハロルドはA.R.O.A.からもらった資料のパンフレットを開いて辺りを見渡す。それを聞いて彼女の精霊のディエゴ・ルナ・クィンテロがそうだなと答えて辺りを見回した。
 旧タブロス市街はヤール王朝式の大理石の建物や道路が続く。しかし、ここ半年ほどの戦いにより塀などが崩れて荒れた雰囲気があった。以前は人通りが多かったろう表通りにも人影はそれほど見られない。
「あ、あれ!」
 そのとき、アラノアが前方に巨大な黄金の塊をみとめて、指差した。
 それで彼女の精霊のガルヴァン・ヴァールンガルドと他のみんなが表通りの遙か向こうを見ると、そこで恐ろしい勢いで砂煙を蹴立てながら黄金の筋肉がこちらに走り寄ってくる。その遙か後方にアスリートらしい人間がついてきている。
 見る間に黄金の筋肉の塊--ヤグ・ゴールド・アスはウィンクルム達のちょうど手前に駆け抜けて来て、そこで立ち止まり、爽やかな笑顔を振りまきながら後ろを振り返った。人間のアスリートはぜえぜえと息を切らしながら、だいぶ遅れてそこに到着した。
「まだまだ未熟だな! 走る時はもっと腕を高く上げるんだ! 腕をこうだ!!」
 到着するなり前のめりに倒れ伏してしまったアスリートに対してヤグ・ゴールド・アスはビシッと自分が腕を振り上げてポーズを取った。アスリートの方は全力を尽くしきったのか倒れたまま反応しない。
「大丈夫! 次からは出来る! 君なら出来る! 本気を出せ、ベストを尽くせっ! 全力を尽くせば次は君がチャンピオンだ!」
 動かないアスリートに激励を飛ばし続けるヤグ・ゴールド・アス。応援で復活させようとでも言うのだろうか。
「なんという炎の妖精的なオーガ……」
「何がどう突然変異したらああなるんだ……?」
 アラノアとガルヴァンは離れたところから呆然とそう呟くしかない。
 みながびっくりしているなか、思い切って黄金のオーガに声をかけたのは、天埼美琴と彼女の精霊のカイだった。
「あ……あの、あのっ……」
 美琴は微妙にテンパりながらヤグ・ゴールド・アスに向かう。
「私達、A.R.O.A.から来ましたっ! 私達とマラソンで勝負してくださいっ!」
 上ずった声でそう宣言する美琴。
 ウィンクルム達はヤグ・ゴールド・アスの方に注目して反応をうかがう。
 振り返った黄金のオーガは爽やかにサムズアップして答えた。
「もちろん、いいとも! お嬢さんたちからの挑戦はいつだって大歓迎だっ!」
「そうか。それなら話は早い。ただし、こちらは二人三脚が三組でリレーになる。何しろ体の構造の違うオーガとマラソンするんだからな」
 カイがぶっきらぼうにそう言った。
「それだって構わないさ。いい勝負が出来る相手だったら大歓迎!」
 ヤグ・ゴールド・アスはまたしても爽やかにサムズアップをする。その後、こちらがリレーになる分、ヤグ・ゴールド・アスのお気に入りのコースを走る事などが取り決められ、ウィンクルム達はマラソン勝負を決行することになった。


 最初のA地点からB地点は美琴とカイが走るコースになる。さらに彼女達はD地点からゴールまでも走るのだ。
「あの、足引っ張っらないように頑張ります……!」
 美琴は緊張の面持ちでカイにそう言った。
「お前、したことあるのか? 二人三脚」
 カイはちょっと睨むような表情で美琴を見ている。
「ええと……体育祭に向けて練習したいって言う友達に付き合って走ったことなら……」
 美琴はためらいがちにぼそぼそと言った。
「経験あるなら大丈夫だろ。俺も出来るだけのフォローはする。踏み出す時は左からだ」
 そうして二人はヤグ・ゴールド・アスとともにスタート地点に立った。
 いつの間にか集まって来た旧タブロス市街の見物客達が、合図のピストルを構えて立っている。毎日走り回っていたのでヤグ・ゴールド・アスはすっかり有名人。そこにウィンクルムが勝負に来たというのでみんな集まって来ているのだ。それにより美琴はますます緊張している。
 あたふたしている美琴に変わってカイが魔法のチェーンネックレスをしっかりと二人の足に巻き付け、それから肩を組んで立った。
「1,2,3,……スタート!」
 ピストルが打ち鳴らされる。
 ヤグ・ゴールド・アスは黄金の筋肉に恥じない猛烈なスピードで走り出した。盛り上がった筋肉はまるでうなり声が聞こえるようだ。
(落ち着いて……落ち着いて……)
 美琴はカイと調子を合わせながら掛け声を上げる。
「1,2! 1,2!」
 カイは掛け声はかけないが、美琴の声に合わせて足を動かしているようだった。
 何しろ、二人の走るスピードも、ヤグ・ゴールド・アスに全く負けていないものだからである。人間の限界を遙かに超えたスピードで、美琴とカイは風のように走っていた。ペースが乱れたら勢いで大変な事になってしまう。
「君たちはなかなかやるな!」
 猛スピードで走りながら爽やかに声をかけてくるヤグ・ゴールド・アス。
 美琴はカイと二人三脚であることと、異常なスピードでいっぱいいっぱいで返事をすることなど出来ない。カイの方は華麗にスルーを決め込んでいる。
(落ち着いて、落ち着いて。走る事に集中……)
 落ち着いているとしても、カイの体がすぐそばにあって彼の背中に腕を回している事を考えると、美琴の心臓は走っている事もあって不自然に高鳴っている。
 やがて、仕方の無いことだが、カイの息も荒くなってきた。何しろ8キロも走るのである。
(カ、カイさんの息が耳元で聞こえて……ああ……!)
 走りに集中したくても密着している事を意識してしまう。その途端に、美琴の足が少しだけもつれる。

ブツッ

 そんな衝撃が足下に走った。たちまち減速して転びそうになる美琴とカイ。ヴァハ・ネックレスが切れてしまったのだ。その間に、ヤグ・ゴールド・アスは黄金の疾風のように駆け去ってしまう。
「あ、切れ……ました、ね……」
 呆然として虚ろな声を立ててしまう美琴。
「美琴」
 カイが美琴を呼んだ。美琴は彼の方を見上げた。
 カイは美琴の前髪を手でかきあげると、その額にキスをした。
 美琴は一瞬で真っ赤になってしまい、固まってしまう。
 カイは美琴のその表情を見て、思わず頭をぽんっと撫でた。
 そうしている間にヴァハ・ネックレスは勝手に繋がって彼らの足に巻き付いた。
「繋がったな。……おい。ぼんやりするな。行くぞ」
 美琴はカイの声で我に返り、慌てて彼の体に腕を回し、カイも美琴の肩を抱き寄せ、二人で二人三脚で駆け出したのだった。


 B地点からC地点を走るのはアラノアとガルヴァンである。
 二人は、ネックレスが切れにくくなるのではと思い、一応トランスをしておいた。
(二人三脚か……。体育祭で誰かと組んで以来だな……)
 アラノアとガルヴァンは早速二人三脚で組んで、いちにと声を合わせながら軽く歩いて息を合わせる準備をしている。
(ちゃんと走れるか不安だけど他の皆さんの迷惑にだけはならないようにしないと……)
 アラノアは緊張感でいっぱいだが、ガルヴァンの方はアラノアの肩をどれぐらい強く抱けばいいのかを考えあぐねていた。アラノアに触れていたいが、それで嫌われたり、あるいは任務中に気まずくなったりはしたくない。
 そこに、黄金の筋肉の塊がまばゆく輝きながらこちらに突進してきた。
 そのわずか一歩下がった位置を、美琴とカイが二人三脚で猛追している。一度、ネックレスが切れて差をつけられたのだが何とか食い下がってきたのだ。
「アラノア!」
「はい!」
 二人は定位置について美琴達を振り返る。
 走り寄ってきたカイが大きく手を伸ばして、ガルヴァンにバトンタッチ。
 ガルヴァンはアラノアの肩を軽く抱き締め、アラノアが掛け声をかけて二人は走り出した。
 ほんの少し前を、筋肉オーガが全力疾走。
「せーのっ、いちにっ」
 ガルヴァンの掛け声で、二人は息を合わせて走っている。
「いちに、いちにっ」
 アラノアもガルヴァンに合わせて声を出す。
 二人三脚ならば、相手の体の動きに合わせるため、普通なら速度が落ちるはずだが、ヴァハ・ネックレスをつけている限りは風のごとく走れる。アラノアはその疾走感に驚いていた。
 身長2.5メートルの筋肉オーガが全速力で走るのに対し、自分達は本当にわずか一歩の差ほどしかないのである。
 アラノアは勝ちたいと思うが、それでもコースがなんといっても、急な下り坂である。迂闊にペースを乱すような事は出来ない。
(ひい……)
 それにアラノアは元々、走り慣れていないので、だんだん息が上がってきて声を出すのが辛くなってきた。何しろ距離は8キロだ。
 そんなアラノアが下り坂でもちゃんと走れるように、ガルヴァンが横からしっかりと支える。
「大丈夫か?」
「だ……だいじょう……ぶ」
 そう呟いた途端、アラノアの足が乱れた。

ブチン!

 そんな感触がして、二人はたちまち減速してしまう。
 見れば、足下でヴァハ・ネックレスが切れていた。
「ああ……」
 思わず声を立ててしまうアラノア。
(ど、どうしよ愛を注ぐにはえーと……)
 目の前ではたちまち駆け去って行く筋肉オーガ。表通りではあったが、アラノアの頭は人に迷惑をかけたくないという思いでいっぱいになってしまう。
「え、えいっ」
 それで、アラノアは何も考えず傍らのガルヴァンに抱きついた。
「あ、あなたがパートナーで良かった……」
 親愛と信頼をこめて言う。
「ああ……俺もだ」
 それに対してガルヴァンも心から答える。
 自分も何かしなければと思い、アラノアの頭をぽんぽん叩いた。
(コンフェイト・ドライブ……?)
 そう思い、アラノアは抱きついたままガルヴァンの顔を見上げた。
 ガルヴァンは愛をこめてその額にくちづけた。
「俺のパートナーはお前以外ありえない」
「へっ……?」
 額の感触と思いも寄らない言葉に硬直するアラノア。
 その間に、ヴァハ・ネックレスは勝手に繋がり勝手に二人の足に巻き付いていく。ガルヴァンはそれを確認した。
「……いけるか?」
「は……はいっ……!? ああ、じゃなくて走らないと……!」
 疲れや気後れなど吹っ飛んで、真っ赤になりながらアラノアは無我夢中で走った。
 先程以上のスピードを感じていると、みるみるうちにヤグ・ゴールド・アスに迫っていく。ガルヴァンはちらりと隣の赤い顔を見て、思わず満足感を得ていた。
 オーガに肉迫しながらアラノア達は走り、ついにC地点へ。
「頼む!」
 ガルヴァンの差し出したバトンをディエゴが受け取り、彼らはヤグ・ゴールド・アスを追って走り出す。
 走り終えたアラノアはひいはあと息を切らし、前にのめりながら、ガルヴァンの顔を見上げた。
「さ、さっきはありがとう……直すために色々してくれて」
 ガルヴァンもまた息を切らしながら答えた。
「お前もな」
 再びアラノアの頭をぽんぽんするガルヴァン。アラノアはまた赤くなってしまう。
(……これで少しはこちらを意識してくれたらいいんだがな……)
  


「1! 2! 1! 2!」
 掛け声もリズミカルに、徐々にペースをアップしていくハロルドとディエゴの二人三脚。
 本当に僅か鼻先をうなる黄金の筋肉が走っている。
 ハロルドは完全に走る事に集中している。
 ディエゴは、二人の体格差を考えてハロルドに歩調を合わせていた。決して引きずらないように。
(私は一流のアスリートとしての誇りと自覚があるッ! 例え二人三脚だとしても、組む相手は己の半身とも言えるディエゴさん…負ける気がしない! 考えることはただひとつ、勝つことだけです)
 ハロルドはそういう心境だった。
 実際に、ハロルドの走りは素晴らしく、見る間にヤグ・ゴールド・アスに追いついていった。
 ヤグ・ゴールド・アスが焦って大きく腕を振る。
 もう少しというところでヤグ・ゴールド・アスがわずかに前へ。
 掛け声も高らかにハロルドとディエゴが追いすがり、1㎝ほど前に出る。
 しかしヤグ・ゴールド・アスが黄金の筋肉にモノを言わせて彼らを抜く。
 それならばとハロルド達が抜き返す。
 そうして抜きあいを繰り返していたが、ヴァハ・ネックレスの加護か、女神ジェンマの加護か、ハロルド達はどんどん加速していき、ヤグ・ゴールド・アスに差をつけて抜き始めた。
 やがて、完全に、抜いた。
(やったわ!)
 後は、出来るだけ差をつけた上で、Dコースからの美琴達にバトンを渡すだけだ。美琴達はハロルドと違ってアスリートという訳ではない。それならば、今、自分達が限界まで速く走って差を稼いでおきたい。
 ハロルドはそう思い、四肢に力をこめて加速しようとした。
 だが、ものが二人三脚である。そこで呼吸が乱れて、ハロルドは前につんのめる。
 転倒。たまらず切れてしまうヴァハ・ネックレス。
 後ろから追いかけてくるヤグ・ゴールド・アス。
(私が転んで足を引っ張ってしまいました……また自分の驕りで失敗してしまうんでしょうか)
 青ざめて切れたネックレスを見つめるハロルド。
 かつての女性騎手としての挫折、絶望を思い出してたちまち目の前が真っ暗になった。自分は同じ失敗を繰り返してしまうのだろうか。
 そこで隣にディエゴが座り、転んだ姿勢のハロルドと視線を合わせた。
 それまで掛け声しか声を発していなかったが、ハロルドが落ち込んでいるとなれば、話は別である。
「自信というのは時に枷になるときがある。しかし、俺はお前のそういう所が最大の武器だと思っている。今は前を向いて走るときだ。倒れそうなら、膝をつきそうなら何度だって支えてやる。いままでお互いそうしてきただろう。お前なら、いや、俺達なら勝てると信じている。心のそこからな」
 ハロルドはディエゴの言葉を受けて立ち上がった。
「貴方の言葉なら、どんな挫折でも立ち直れそうです。ディエゴさん……! 私、走りたいです!」
 切れていたヴァハ・ネックレスがたちまち繋がり、二人の足に巻き付いていく。
 ディエゴはハロルドを支えて立ち上がり、ハロルドはディエゴの体に腕を回す。
 二人はまた息を合わせて二人三脚で走り出した。
 疾風のごとき速さ、風に乗ったような速さで駆け抜いていく。
 もう少しでヤグ・ゴールド・アスに追い抜かれるところだったが、二人は鼻先で走り出し、どんどんと距離を広げていった。
 ハロルドの頭の中は走りに集中、勝つ事のみに占められている。
 そして心の根底では、ディエゴへの愛と信頼が満ちあふれていた。
 それはディエゴも同じだった。
 完全に息を合わせて二人は区間を疾走。
 やがて前方に現れる美琴とカイ。
 ディエゴがカイにバトンを渡し、後は二人がゴールまで走る。距離はたっぷりとハロルド達が稼いでおいた。余程の事がなければ追い抜かれないだろう。


 バトンを受け取った美琴とカイは、息を合わせて二人三脚を続ける。
 本日二回目のマラソンである。
 途中で休憩を取って体をほぐしていたが、美琴はかなり息が上がっていて辛い。
「1,2……ひっはっ……1、2……」
 よろめきそうになる美琴の体を、カイが横からしっかりと支えた。
「1,2,1、2……」
 カイが美琴に聞こえる声で掛け声をかけ始める。美琴はびっくりしたが、彼の呼吸に合わせて走り始めた。彼らはゴールにつき、ヤグ・ゴールド・アスに勝利した。


 ヤグ・ゴールド・アスは敗北を認めると爽やかな笑顔を残して消えて行った。
 ウィンクルムたちは討伐を頼んだ旧タブロス市街の住民達にいたく感謝され、何とか営業を続けていたレストランに招かれて祝勝会を開いてもらったという。ウィンクルムの名声はまた一つ増し、旧タブロス市街に平和と繁栄が近づいたのであった。
 



依頼結果:大成功
MVP
名前:天埼 美琴
呼び名:ミコト
  名前:カイ
呼び名:カイさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 森静流
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 日常
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月19日
出発日 09月25日 00:00
予定納品日 10月05日

参加者

会議室

  • [8]アラノア

    2016/09/24-23:33 

    A→B:天埼 美琴
    B→C:アラノア
    C→D:ハロルド
    D→ゴール:天埼 美琴

    急ごしらえで纏めてみましたがこんな感じでいいのでしょうか?

    旧タブロス北部(AB)から旧タブロス南部(CD)に移動する手段って職員の人が何とかしてくれるのでしょうか?車移動とか。

  • [7]ハロルド

    2016/09/24-23:28 

    悪いな、一応、美琴達のコンディション次第とプランに書いておく

  • [6]天埼 美琴

    2016/09/24-23:14 

    えと…こちらがA→BとD→ゴールで2コース分走る、ということでしょうか?
    私は2コース走るでも大丈夫です。

  • [5]ハロルド

    2016/09/24-22:21 

    本当にすまん、挨拶が遅れてしまった
    よろしくな
    スポーツスキルは俺が3、ハロルドが5だ
    だからCからDまで行くか、それかローテーションで美琴に繋げるかどうかと思っている

  • [4]アラノア

    2016/09/24-17:46 

    走るコース
    それなら私達はB→Cかなと思いますが…まだハロルドさん達の意見が聞けてないので変更可能です。

    ヴァハ・ネックレス
    やはりそう思いますよね…。
    なんにせよ、ちゃんと愛が込められれば繋がるので大丈夫…なはずです。
    お互い頑張りましょう。

  • [3]天埼 美琴

    2016/09/24-14:16 

    ええと…コース、ですね。
    私達はどこでも…と言いたいところですが、そういうわけにもいかないのでA→Bを担当したいなと、思っています…
    あ。皆さんの中で既にお決まりでしたら変更、大丈夫です。

    3組でこのまま増えないなら、アラノアさんが仰るように2組分走るか、分けるかで良いと…思います。
    ちなみに、カイさんがレベル1ですがスポーツスキル、持ってます。

    >ネックレス
    えと…私は、パートナーと愛を盛り上げたらネックレスが繋がる、
    という解釈でいました…

    読み違いがありましたら、すみません。

  • [2]アラノア

    2016/09/24-10:20 

    アラノアとシンクロサモナーのガルヴァンさんです。
    よろしくお願いします。

    えっと…二人三脚、そろそろ誰がどこを走るか決めないと、ですよね…。

    A→B 緩やかな上り坂
    B→C 急な下り坂
    C→D うねうねと曲がりくねった道
    D→ゴール だだっ広い真っ直ぐな道

    それぞれの地点の間隔は8キロごと。
    D地点からゴールまでも8キロになる。

    4つに区切られたコースを走るらしいのですが、
    4組以上なら1コース1組と分けられそうですけど現状3組なので誰かが2コース分走るか、
    全員でコース度外視(8×4÷3)で均等に走るかが決め手になりそうですね…。

    あとスポーツ勝負なのでスポーツ技能が活きそうですよね…(私達は持ってませんが…)

    それとふと思ったのですが、『切れたヴァハ・ネックレスに愛を注ぐ』ってパートナーと何かをして愛を盛り上げる、という解釈でいいのでしょうか?
    私はこれでプランを書いているのですが、切れたヴァハ・ネックレスに直接何かするという解釈もできるので意見を聞きたいです。

  • [1]天埼 美琴

    2016/09/22-23:36 


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