【祭祀】夜空に咲く満開の華(森静流 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 宵闇の花降る丘。
 紫色の忍び寄る日暮れの中、月見草が風にゆらゆら揺れています。残暑の夜は、じんわりと昼の酷い暑さを思わせながら、まとわりつくような風が流れ、虫の声が季節を感じさせていました。
 花火大会開始まで、あと一時間。
 あなたは相方と丘の上を歩き回り、花火が一番よく見えそうな場所に、並んで座り込みました。
 あなたは足下に虫除けスプレーを吹きかけます。
 さりげなくオシャレをしてきたけれど、相方にはどう見えるでしょう。
 そっと顔を盗み見ますが、暗くてよく見えません。
 あなたがそうしていると、相方が不意にあなたの方を振り返りました。
「どうした?」
「え、うんっ……」
 突然、宵闇の花降る丘に、たった二人きりだということが意識されて、あなたは声を詰まらせてしまいました。
「……もうすぐ花火開始だな」
「うん、楽しみだね」
 ぎくしゃくと視線をそらしてしまうあなた。
 そのあと、ぽつぽつと、どうでもいいような会話をして、あなたは緊張がどんどん高まっていきました。
 何度も任務を一緒にしたことはあるけれど。こんな夜中に、二人きりだった事なんて、なかったから。
 やがて、夜空に大輪の花が咲きます。
 続いて轟音。
 次々と打ち上げられる花火。
 その光を受けた相方の顔を、あなたは見つめていました。
 夜空のキャンバスに、見事な花が描かれていきます。全身に響くような、大きな音を轟かせながら。
「俺さ……」
 不意に、相方が話し始めました。
「小さい時に、花火見ようとして屋根に登って落っこちた事があったんだけど」
「え?」
「俺の兄貴が、優秀なウィンクルムで、何やっても敵わなくて、俺はその頃、精霊の素質はあるって言われていても、何が出来るか何もわからないよーなガキでさ」
「……」
「俺の兄貴は三階の一番上のいい部屋から、花火見ている訳よ。ウィンクルムの相方と一緒に。それがなんだかむしょーに許せなくて、家の裏の物置からよじ登っていって屋根の上に……」
「あ、危ないじゃないっ」
「まあ夜中だったし、足場踏み外して落っこちて、親には散々怒られるし兄貴には笑われるしで、もー本当にどうしようもなかったんだけどさ」
「は、はあ……」
 あなたは呆気に取られてしまう。
「それから何年も経って、花火にも行かなくなって、なんか色々面白くなくてもてきとーにやってきたんだけれど」
「……う、うん」
「お前と出会えて……」
 そのまま、相方は口をつぐんでしまった。
「??」
 あなたは一体どういうつもりなのかがよく分からない。
「なんか俺は、何をやったって兄貴とかには敵わないみたいな、そういう気持ちがいつもあって、手抜きでてきとーに生きて来たんだけど、お前とウィンクルムになってからは、変われた」
「……」
「……よーな気がする」
「……そう、なんだ」
 相方はまたしばらく沈黙した。どんどん打ち上げられる花火が、相方の顔に光と影を交互に浮かべていく。
「……なんか、これで、あの最悪の花火の事も、水に流して笑い話に出来るし……」
「あはは、そーだね」
「……本当、お前と会えてよかったよ」
 あなたは恥ずかしいのと嬉しいのとで、膝頭をぎゅっと抱き締める。
「……うん」
「……会えてよかった。……ありがとう……」
「……私こそ」
 相方が、膝を抱く手をほどいて、一瞬、あなたの方に指を伸ばした--ようで、その手は、芝生の上のマグボトルの上に落ちた。マグボトルを空けて、冷たい麦茶を用意する相方。
「…………」
 あなたは、惜しいようなほっとしたよな気持ちで、相方の横顔を見つめる。
(言っちゃおうかな……)
 碑文の影響が高まる今なら、本音や、本心を、見せられるだろうか。

解説

 男子の方に出していたものをこちらにも書き下ろしました。
 他に誰もいない花降る丘で、相方と二人きり。
 やがて花火が次々上がって来ます。(花火は21:00~22:00)
 そういうシチュエーションで、どんなプランでも自由です。(公序良俗は守ってください)
 飲食物は屋台巡りをして好きなものを持ち込んでいるという設定です。虫除けなどの対策も充分取っている事でOK。このあたりはプランに書いても書かなくてもOKです。
 また、現在碑文の影響で、どんな本音でも打ち明けてしまいやすくなっています。本文のように告白などをしてもOK。キスしたいなどそういう内心が出てもOK。普段言えないような話もしてしまうかもしれません。

※飲食代や虫除けスプレー代として300Jrかかりました。


ゲームマスターより

花火大会で二人きりのデートです。自由に過ごしてください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

七草・シエテ・イルゴ(翡翠・フェイツィ)

  花火が始まる前、星空を眺めながら、
この前の、翡翠さんの過去を思い出す。
翡翠さんとギャンブルをしていた、あの女の人の事を。

親友とは言ってましたけど……本当に親友なんでしょうか。
そう思っていても、自分からは聞き出せませんでした。

何となく……何となく思ってしまうんです。
私、翡翠さんにばかり守られて何も出来ていないんじゃないかって……。
あのお茶が見せた景色も、もしかして、翡翠さん、
本当は、あの人に何か未練があったんじゃないかって!

そうじゃないなら(急に翡翠から抱き締められ)

人気がなくなっても、しばらく私は翡翠さんに抱かれながら、瞳を閉じました。
もう、何も考えない方がいいのかもしれない。そう思いながら。


出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
  花火が始まる前
二人で場所探し

想いが通じ合って初めて出かけるけど
何も言わないレムが気になって屋台どころじゃない
よさそうな場所が見つかったところで思い切って話しかける

ね、ねえ!
…えっと、レムからどうぞ
あたしから?じゃあ…
あたし達、一応両思いなのよね
ということは、もう恋人って言ってもいいのかしら

レムの真面目な言葉に思わず吹き出す
あ、別に嫌というわけじゃなくて
レムのそういう律儀なところ好きだなって思って

これって遠回しなプロポーズ…?
今まで付き合った中でそんな風に言ってくる人はいなかった
それだけレムは真剣なのね
嬉しい、と呟いてレムの肩にもたれかかる
この人となら長続きできそうな気がする
ううん、そうしたい


シルキア・スー(クラウス)
  浴衣処暑 +下駄 ※共に紹介無くても可です

花火を待つ間 座ってたい焼き食べつつ
楽しみだね等声を掛け星を眺めている

花火が始まって見入る
「きれーい
彼の様子は気になっていたので声は届いた 何の事か察し
「どんまい! 私が標的になってたらあの姿は私だったと思うから
 無事切り抜けられて良かった
笑いかけ

(はぁ 頬にキスしちゃったんだよな… 
 愛しいって一念だったけど どう受け取ったのか…
 私の片想い 少しずつ昇華させてきたのに やり直しみたい
 この機に伝える…?
ぽろり「ダメダメ ムリムリ 自信無い

はっと
「あれ? 声にでちゃった?
「…お互い 話せてない事多そうね(くす
「一緒にいたい気持ちが同じなら 急ぐ事ないよね

頷き身を任せる


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  花火の上がる前の待ち時間って、ワクワクと同時に少し寂しい気持ちになるの
花火って、大体お祭りの締め括りに上がるじゃない?
皆一緒に夜空を見上げて…お祭りの終わり、最後の一時をじっと待つ…花火はとても楽しみだけど、お祭りは花火を見たら終わってしまう
小さい頃ね、花火を待ってる間に…お祭り終わるのやだーって泣いて、両親を困らせた事があったんだ
その時、お父さんとお母さんが言ったの
物事には必ず終わりが来るけど、それはまた新しい出来事に出会う為に必要な事なんだって
だから、もしこのお祭りが終わっても、また必ずまた新しいお祭りに出会えるからって…

それで、今…羽純くんとお祭りでこうして花火を待ってる
これからも一緒に


クロス(ディオス)
  ディオ、もう少しで花火大会だな
始まるまで屋台で買って来た焼きそばとかお好み焼とか食べようぜ!
(食べさせ合ったりする

おっ始まるぞ!
――わぁ…っ! 何度見ても花火は綺麗だなぁ…
(暫く魅入っている

オシリス? それってディオの代わりに実家を殲滅してくれた?
ディオ、幼い頃から辛い体験させられていたのか…
じゃぁあの時怪我だらけだったのは…
そう、だったのか…
お母さんが…
ふふっディオにとっては良き理解者でお兄ちゃん的存在だったんだな(微笑
多分だが、ディオには沢山の仲間達が出来てオシリスがいなくても平気だと考えてディオと一つになろうとしてるのかも
恩返しなら出来てるさ
ディオが死ぬ迄幸せになるのが一番の恩返しだよ(微笑


●出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)編

 今日、出石香奈と精霊のレムレース・エーヴィヒカイトは、紅月ノ神社の納涼花火大会に来ています。二人は、花火を見るために花降る丘に訪れました。
 花火が始まる前、香奈はレムレースと共にいい場所を探して丘を歩き回りました。二人の他に人影は見えず、寛ぐ事が出来るようだと思いました。
 香奈は、レムレースと想いが通じ合ってから出かけるのは初めてです。何も言わない彼の事が気になって、屋台どころではありません。大輪の園や神社の境内にはお祭りで屋台が盛大に出ているのですが。
 やがて二人は花火を見るのに良さそうな場所を見つけました。
 香奈は思い切ってレムレースに話しかけます。
「ね、ねえ!」
 ところが同時にレムレースも口を開きました。
「ところで、その……」
 二人は顔を見合わせます。
(二人ならば沈黙も心地良いが、今日は言っておかなければならないことがある。意を決して話しかけるがタイミングが被ってしまった……)
 レムレースが固まっていると香奈が促しました。
「……えっと、レムからどうぞ」
「いや、香奈の方から言ってくれ」
 レムレースが譲ると、香奈は意を決したようでした。
「あたしから? じゃあ……。あたし達、一応両思いなのよね。ということは、もう恋人って言ってもいいのかしら」
 香奈はずっとそのことを気にしていたのでした。
「そのことについてなんだが、一つ大事なことを言い忘れていた。お互いの気持ちは確認したがまだ交際の申し込みをしていなかった。だから改めて言わせてくれ。香奈、俺の恋人になってほしい」
 大まじめなレムレースの言葉に、香奈は思わず噴き出してしまいました。
「……? 俺は何かおかしいことを言ったか?」
 レムレースは不思議そうです。それになんだか悲しそうでもあります。
「あ、別に嫌というわけじゃなくて。レムのそういう律儀なところ好きだなって思って」
 そんな話をしているうちに、花火が上がり始めました。
 花火を見ながら、レムレースは横に立つ香奈の肩を抱き寄せました。
 顔は見ずに、花火の方を見ながら--顔は花火の方を向いているのですが、ちゃんと見えているのでしょうか?--香奈の顔は見ずに告げるのです。
「俺は中途半端な交際はしたくない。付き合うからには、将来のことも考慮に入れておいてほしい。俺はもとよりそのつもりでお前に告白した。……ずっと傍にいてくれ」
(これって遠回しなプロポーズ……?)
 香奈は思わずレムレースの方を振り返りますが、彼は香奈の方を見てはくれません。近くにある彼の表情は、判別するのが難しくて、香奈は胸をときめかせながらも、もどかしい思いを味わいます。
(今まで付き合った中でそんな風に言ってくる人はいなかった。それだけレムは真剣なのね)
 香奈は静かな感動を覚えます。
「嬉しい」
 そう呟いて、香奈はレムレースの肩にもたれかかりました。
(この人となら長続きできそうな気がする。ううん、そうしたい)
 今まで数多くの男性と出会い、別れました。
 そのたびに辛い思いも、悲しい思いも繰り返してきました。
 でも、今ならば、それらの出来事さえも祝福出来るような気がします。それらの別れは全て、今--レムレースと出会い、彼のこの言葉を聞くために、全て必要な出来事だったのです。
 香奈はそんな想いに駆られ、レムレースの胸板から彼の匂いを感じ取り、胸がいっぱいになっていく感動を覚えました。
 レムレースは香奈の肩を抱く手に力をこめて、彼女の方をそっと振り返ります。自分が手にした女性の事を大切に見守り、彼女と歩む未来の事を想うのでした。……花火の轟音が祝砲のように轟いています。

●クロス(ディオス)編

 クロスは精霊のディオスとともに、紅月ノ神社の納涼花火大会に来ています。二人は花火を見るために花降る丘を訪れました。花降る丘は二人以外に誰もいない、心地よい暗闇に包まれた空間です。
「ディオ、もう少しで花火大会だな」
「あぁ、楽しみだ。俺は祭りとか初めてだが、面白い所だな……」
 ディオスは本当に嬉しいらしく笑顔です。
「始まるまで屋台で買って来た焼きそばとかお好み焼とか食べようぜ!」
 二人は芝生の上に座ると、誰も見ていないのをいいことに、屋台から買ってきた食糧をお互いに食べさせあいっこを始めました。ディオスはかなり照れています。
 やがて花降る丘まで、花火大会開始のアナウンスが流れてきました。
「おっ始まるぞ!」
(そろそろか……)
 ディオスがそわそわしていると、ドンッと大きな大砲のような音が響き渡りました。
 そして夜空いっぱいに大輪の華のような花火が広がっていきます。
「わぁ……っ! 何度見ても花火は綺麗だなぁ……」
「……っ! これが、花火……!! とても、美しい、な……」
 クロスはしばらくの間、花火に魅入りました。それはディオスも同じようでした。彼は、花火にとても感動していました。
「……クロ、最近夢でオシリスと話をしたんだ」
 やがて、花火を見ながら、ディオスは語り始めました。
「オシリス? それってディオの代わりに実家を殲滅してくれた?」
 ちょっとびっくりして、クロスはディオスを振り返ります。花火の光を反射するディオスの横顔。ディオスは夜空の花火よりも、もっとずっと遠くを見ているような表情でした。
「あぁそうだ。そこで色々思い出した。幼い頃から拷問や色々暗殺業をしていた時に形成されたのがオシリスだ。ストレスやトラウマが原因で心の奥に住んでいたらしい」
 淡々とした口調ですが、その裏にある彼の歴史は壮烈なものです。
「ディオ、幼い頃から辛い体験させられていたのか……じゃぁあの時怪我だらけだったのは……」
 クロスは初めて出会った時のディオスの事を思い出しました。
「……母が組に殺され命辛がら逃げ出した時だ。その頃からだ、オシリスが俺の夢に出ては慰めてくれたのは……」
 クロスはまた一つ、ディオスの過去の事、家族の事……彼自身の事を知る事が出来ました。ディオスの方から話してくれたのです。
「そう、だったのか……お母さんが……ふふっディオにとっては良き理解者でお兄ちゃん的存在だったんだな」
 クロスは寂しそうに微笑みました。彼の歴史を知る事が出来ても、彼の”そんな時”に自分は側にいることが出来なかったのです。
「あぁ今思うとそうだな」
 ディオスはフっと笑いました。
「だがあの事件以降忘れていたのに何故今……」
 彼は深く考え込んでいるようです。
「多分だが、ディオには沢山の仲間達が出来てオシリスがいなくても平気だと考えてディオと一つになろうとしてるのかも」
 オシリスがディオスと一つになろうとしている訳を、クロスは自分なりに考えて言いました。
「っ!? 俺はまだ恩返し出来てはっ!」
 オシリスがしてくれた事に対して、ディオスはまだ何も出来ていないと思ったのです。
「恩返しなら出来てるさ。ディオが死ぬ迄幸せになるのが一番の恩返しだよ」
 クロスはそう告げて、くしゃりと笑顔を見せたのでした。
「俺が、幸せになるのが、恩返し……? それで、良いのか……?」
 ディオスは呆然とそう言います。クロスは笑顔で頷きました。
 夜空に輝く花火と、芝生で笑っている彼女。それが、ディオスの手に入れた幸せ。
 彼の本当の幸せなのです。幸せになって、いいのです。

●桜倉 歌菜(月成 羽純)編

 今日は紅月ノ神社の納涼花火大会です。桜倉歌菜と精霊の月成羽純は、花火を見に花降る丘に訪れました。花降る丘には二人しかいなくて、心地よい夜の闇を独占状態です。
 花火が上がる前、二人は、芝生に並んで座っておしゃべりを楽しみました。
「花火の上がる前の待ち時間って、ワクワクと同時に少し寂しい気持ちになるの
花火って、大体お祭りの締め括りに上がるじゃない?」
 歌菜が楽しそうに話し始めます。
「皆一緒に夜空を見上げて……お祭りの終わり、最後の一時をじっと待つ……花火はとても楽しみだけど、お祭りは花火を見たら終わってしまう。小さい頃ね、花火を待ってる間に……お祭り終わるのやだーって泣いて、両親を困らせた事があったんだ。その時、お父さんとお母さんが言ったの。物事には必ず終わりが来るけど、それはまた新しい出来事に出会う為に必要な事なんだって。だから、もしこのお祭りが終わっても、また必ずまた新しいお祭りに出会えるからって……」
 明るく話している歌菜ですが、そんな彼女の両親はもうこの世にはいないのです。
 歌菜は屈託無く笑いながら羽純の方を見ています。
「それで、今……羽純くんとお祭りでこうして花火を待ってる。これからも一緒に」
 羽純は歌菜の話をじっと聞いています。
(素敵なご両親だったんだな)
 微笑んでいる歌菜をそっと抱き寄せたいと思います。
 誰も見ていないのだから、許されるでしょう。
(歌菜がこうして亡くなった両親の事を話してくれる事が、心から嬉しいと思う。自分の中で整理出来ていなければ話せない……それは、俺もよく分かっている……。歌菜が俺に話してもいい、話したいと思ってくれて、行動に移してくれた事が、本当に嬉しい)
 夜空が明るく染まります。轟くような音が鳴り響きます。
 空いっぱいに広がる大輪の華。次々に打ち上がる連続花火。
 一瞬で散ってしまう光の花と、迫力のある音の競演。
「花火、始まったな」
 羽純は歌菜の手を握りしめ、夜空を彩る花にしばらく無言で魅入ります。

 一つとして同じ色形はない、美しい夜空
 儚く美しい
 花火に照らされた歌菜の横顔も……

 歌菜は一瞬だって同じ表情をしていることがありません。いつだって違う笑い方、違う怒り方、違う泣き方をしています。歌菜が同じ笑い方をしていると言う人もいるかもしれません。ですが、羽純には、どれ一つとして同じもののない、一瞬一瞬万華鏡のように変わり続ける宝物に思えるのです。だからこそ、歌菜を愛し、歌菜と誓い合ったのでしょう。
 夜空の花火のように一つとして同じもののない、羽純だけの宝物。
「歌菜」
 名前を呼ぶと、歌菜はすぐに羽純の方へ振り返りました。歌菜は微笑んでいます。
「また絶対に一緒に花火を見よう。一緒に楽しい一時を重ねていこう」
「うん! ……羽純くん、嬉しい」
 笑った歌菜の肩に羽純が腕を回せば、歌菜は素直に身を寄せてきます。
 歌菜からふわりと漂う【清爽】の香りにどきりとしながら、羽純は、歌菜と来年も花火を見られるか考えています。
 歌菜が両親を亡くして辛かった時に、自分は側にいる事が出来ませんでした。何故なら、神様が、二人を未だに出会わせてくれなかったから。
 今、こうして、歌菜と出会い、歌菜が身近にいることが、なんだかとても尊い奇跡のように感じられます。歌菜の呼吸する音、歌菜の囁き、それらを感じる事が出来るというのは、なんという幸せなのでしょうか。
 歌菜が側にいる。ずっとそばにいてくれる。
 その事に静かな感動を覚えながら、羽純は歌菜の心を知りたくなります。自分にとって宝物のような歌菜。そして尊い奇跡のような歌菜。それが、歌菜にとっての羽純でありますように。自分も同じように想われ、愛されたいと、強く強く願ったのでした。

●シルキア・スー(クラウス)編

 今日は紅月ノ神社の納涼花火大会です。シルキア・スーと精霊のクラウスは、花火を見に花降る丘を訪れました。花降る丘には二人以外の人はいず、夜の闇を独り占めしている状態です。
 花火を待つ間、シルキアはクラウスとともに芝生に座って、二人でそれぞれ鯛焼きを食べています。
「楽しみだね」
 シルキアは黙りがちなクラウスにそう声をかけて、夜空の星を眺めていました。
 クラウスもともに星を眺めます。
 祭を楽しみながらも、クラウスは心の中ではくすぶる気持ちがありました。先日の依頼での失態が心に引っかかって取れないのです。
 やがて、轟音が鳴り響き、花火が打ち上げられました。
 夜空を彩る花火に対して、シルキアは身を乗り出してしまいます。
「きれーい!」
 はしゃぐシルキアの隣で、クラウスはぽつりと言いました。
「この間は 救われた……すまなかった」
 シルキアはクラウスの様子を気にしていました。だから彼の声が届いた時に、何の事かすぐに察しました。
「どんまい! 私が標的になってたらあの姿は私だったと思うから。無事切り抜けられて良かった」
 シルキアは明るくクラウスに笑いかけます。
「ああ。ありがとう……」
 シルキアは笑顔で頷いています。
 ですが、心の中では様々な想いが渦巻いていました。
(はぁ 頬にキスしちゃったんだよな……愛しいって一念だったけど どう受け取ったのか……私の片想い、少しずつ昇華させてきたのに、やり直しみたい。この機に伝える……?)
 口からぽろりと気持ちが出ます。
「ダメダメ ムリムリ 自信無い」
 それはクラウスの方も同じでした。
(だが あの口付の意味を俺は計りかねている。いや 知る事を恐れている。これまで戒め抑え込んできたモノが制御を失えば、俺は彼女を傷つけるやもしれない)
 そこでやはり気持ちがぽろり。
「己が信用ならないのだ 俺は」
 シルキアは声に出してからはっと気がつきました。
「あれ? 声にでちゃった?」
 二人はぽろりに顔を見合わせます。
「ん、碑文の影響か?」
 クラウスはそのことに気がつきました。
「……お互い、話せてない事多そうね」
 シルキアはくすっと笑いました。
「うむ。意思伝達が不足であったのは感じている」
 クラウスは頷きました。
「一緒にいたい気持ちが同じなら、急ぐことないよね」
 シルキアは笑って言いました。
「ああ、共にいるのだから」
 クラウスもようやく微笑みました。
(向き合う覚悟を決めねばな……)
 クラウスの胸にそんな強い想いが浮かびました。
「肩を……」
 クラウスがそう告げるとシルキアは頷き、彼に身を任せます。
 クラウスは彼女の肩を抱きながら、打ち上げられる花火にずっと魅入っていました。こうしているだけでも、彼女といるのは、幸せだし、とても楽しいと思うのです。
 シルキアは何でも一人で考え一人で解決しようとする癖があります。自分の事で人に心配をかけ、患わせたくないのです。
 クラウスはそんなシルキアを、忠義の対象と見ています。彼の育ちから言って、神人は守り、慈しみ、奉仕するものであるのです。そんな彼女に対して、自分の想いを自覚し、それからさらに行動に出るには、純粋過ぎました。誰も見ていない夜の闇で、たった二人きりだと言うのに。碑文の力もあったというのに。
 それでも、二人は、共にいます。
 流星融合を起こした世界で、二人だけ、互いに適合しあった存在でした。その二人がともに時を重ね、ともに歩んでいけば、やがて答えは自ずと見えてくる事でしょう。
 例えば、来年も、再来年も……一緒に二人きりで花火を見る存在は、お互いに、たった一人だけなのです。

●七草・シエテ・イルゴ(翡翠・フェイツィ)編

 今日、七草・シエテ・イルゴは精霊の翡翠・フェイツィとともに、紅月ノ神社の納涼花火大会に来ています。二人は、花火を見るために花降る丘を訪れました。
 花火が始まる前、二人は芝生に座って星空を眺めていました。
 星を見ながら、静かに黙っていると、シエテは翡翠の過去の事を思い出してしまいます。それは、花が教えてくれた事でした。
 翡翠とともにギャンブルをしていた、ユイという女性。
(親友とは言ってましたけど……本当に親友なんでしょうか。そう思っていても、自分からは聞き出せませんでした)
 シエテは過去に婚約者に裏切られた事があります。さらに、最近は、ウィンクルムの依頼の件で自信を喪失していた事もありました。
 ずっと一緒にいたいと思っていたウィンクルムの精霊、翡翠の全く思いも寄らなかった過去を知り、彼女は深い衝撃を受けていたのでした。
(何となく……何となく思ってしまうんです。私、翡翠さんにばかり守られて何も出来ていないんじゃないかって……。あのお茶が見せた景色も、もしかして、翡翠さん、本当は、あの人に何か未練があったんじゃないかって!)
 そうは思っても、過去の婚約者の事や、依頼での自信喪失の事が重なって、シエテは自分からは何も聞き出せなくなっていました。事実を確かめる事が出来ないから、妄想が募ってがんじがらめになっていきます。
 夜の闇、すぐ隣に翡翠はいるのに、彼の事が酷く遠くに感じられ、つなぎ止めたくても、手を伸ばす事すら出来ないのでした。
「シエ、ユイの事が気になるのか?」
 そんなシエテに、翡翠の方から話しかけてきました。
 シエテはびくりと身を竦ませました。
「親友でいる事はあっても、恋人にはならなかったと思うよ。シエとは次元が違うけど、ユイも……対等である事に拘っていた。その理由の1つに、あいつも神人だった事が関係してる、未契約のね」
 シエテはびっくりして目を見開きます。
 ユイも神人だったなどと、想像もしていませんでした。
「けど、誰と適合しても組まなかった。神人は、どんなに力をつけても、精霊の戦闘力に及ばない。そうなると、必然的に守られてしまう」
 神人と精霊が恋仲になるのならば。
 それはウィンクルムの契約を結ぶ事に色々な形で繋がっていきます。
 そうしたら、ユイは翡翠と対等でいられない……そう考えたのでしょう。そして、翡翠もそれを尊重したのです。
「あいつにとって、神人は守られるだけのお姫様にしか見えない」
 翡翠はシエテを安心させるためにそのことを言ったつもりでした。そして、自分の心の中で、思い出をくすぶらせていました。
(だからあの時も奴の手を払い除けたんだろ? ユイ。そう、払い除けなかったら、お前と奴は今頃……)
 それはシエテがまだ知らない翡翠の過去に繋がっていきます。翡翠は、シエテに自分の事を本当に話していないのでした。
 思い出すうちに翡翠は目を伏せていましたが、隣で顔を曇らせているシエテに寄り添っていきます。
「なぜ、あいつの事が気になるのかわからないけど。シエは……今の、シエのままでいい」
 花火はいつの間にか終わっていました。しんと静まりかえった闇の中で、シエテはいつまでも翡翠に抱かれながら、瞳を閉じていました。もう、何も考えない方がいいのかもしれない。そう思っていました。
 ウィンクルムの神人でいるのなら、精霊の愛を堂々と受けていられる。
 けれど、ウィンクルムの神人は守られているだけのお姫様。決して対等の立場になる事は出来ない。
 ウィンクルムをやめ精霊と対等の立場でいるのなら、自由を手に入れ、誇りを手に入れ、負い目を負わずに思いのままに生きていける。けれど、そのかわり、精霊の愛は手に入らない。ウィンクルムとしての愛の繋がりを捨ててしまう事になる。
 シエテの表情の曇り、悲しげな風情に翡翠は気がつきながらも、その理由が分かりません。だから強く彼女を抱き締めるのです。こんなに、こんなに、大事な存在なのですから……。



依頼結果:大成功
MVP
名前:出石 香奈
呼び名:香奈
  名前:レムレース・エーヴィヒカイト
呼び名:レム

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 森静流
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月15日
出発日 09月21日 00:00
予定納品日 10月01日

参加者

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