プロローグ
――とある休日のことです。
あなたはパートナーと共に、室内でゆったり過ごしていました。
外は、あいにくの豪雨です。
この悪天候では、今日は一日外出できそうもありません。
かといって、折角の自由なお休みの日。
何もせず無意味に過ごすのは、あまりにもったいないことです。
そこで二人は、のんびりティータイムを楽しみながら、これまでのオーガとの戦いや、自分達の出会い、印象に残る思い出話などを語りあって過ごす事にしました。
和やかな雰囲気に包まれ、いい感じに会話が盛り上がり始めた、その時です。
「ウィンクルムの力の源は愛」、「なら、愛を深めるにはどうすればいいのか」と言う話題がふと出てきました。
「うーん。確かにそうだけど。いきなり、愛を深めるって言われても……。どうしたらいいんだろう?」
パートナー(あなた)は、ちょっと困惑してしまいます。
しかし、ウィンクルムの役目とは、その愛の力でオーガを倒す事――。
「訓練で体を鍛えるのも大事だけど、二人の絆に勝る武器はない」
そんな結論に至ったパートナー(あなた)は、この機会に互いの愛を深めるべく、早速行動に移ったのですが……。
さて、その方法とは一体どんなものなのでしょうか……?
解説
今回は、「理由もなくいちゃいちゃしよう!」と言う、単純なエピソードです。
状況なのですが、場所はどちらかの家(同居している場合はその家で)の出来事ということになります。
仲良くソファで寄り添っている時でもいいですし、二人でお茶を淹れに台所に立ったときでもOK。
基本、室内で(二人で)出来る事で、ラブラブモードになれることなら何でも受け付けます。
精霊、神人、どちらから相手に迫るかは、ご参加して下さったウィンクルムさんたちの自由に決めて下さい。
いつもは精霊に攻められっぱなしの神人さんから逆に精霊に迫ったり、またはその逆でも可です。
押し倒される、ハプニング的にキスしてしまう、突発的に想いを告白してしまう、わりと何でも大丈夫ですが、全年齢対象なので、そこの線引きはさせていただきます……。ご了承くださいませ。
※ティータイムのお茶代で300ジェール消費しました。
ゲームマスターより
皆様。こんにちは、夕季です。
今回は、特に申し上げることはございません。とにかく自由にお過ごしください!
楽しんで絆を深めていただければ幸いです。よい休日を(^^)/
リザルトノベル
◆アクション・プラン
月野 輝(アルベルト)
休日、夕飯を作りにアルのマンションへ 腕に寄りを掛けるわねって張り切って作り出したら えっと…アル? あの、お料理できないん、だけ、ど… え、それは、確かに言ったけどっ そんな急に言われても 今、お料理してる最中だし… 真っ赤になって俯く からかってるの?でもこの手の話でからかわれた事ってなかった気がして 本気なんだったら私も応えなきゃって 振り向いて、抱きつき返して こ、今夜……泊まって、いこう、かな…… すごく、恥ずかしいから声が小さくなっていって ?アル? 俯いてた顔を上げたら えっと、どうしてそんなに目を瞠ってるの? だってずっと待ってくれてたの知ってるから 嫌じゃないから うん、それじゃあ、私、ここに引っ越す事にするわ |
かのん(天藍)
天藍の作業が一段落したら一休みできるようお茶の支度中 急な大雨にタオル抱え玄関口へ 天藍の格好に思わず頭からタオル被せ居間に慌てて戻る …びっくりしました どきどきする胸を押さえて一息ついたら背後から抱き寄せられ2度目の驚き …誰のせいですか 笑いを堪えている様子の天藍に対して、顔赤らめつつ抗議の視線を向ける 天藍の髪から滴る雫 半ば強引に彼の首にかかったタオル取って頭にかけ、自分は少し背伸びと腕を伸ばして濡れた髪をふく 手に落ちる温もりに動きが止まる 嫌か? 耳元で囁かれる声に首を横に振り 離れないように彼の服を握るのが精一杯 余裕綽々な天藍に恨めしげな眼差しを向けると少し苦笑いの後宥めるような優しいキスに目を閉じる |
夢路 希望(スノー・ラビット)
※彼の家 ソファで寛いでいたところ 「あの…何かしてほしいこととか、我慢してることとか、ありませんか?」 その…相手のことを知れば、ふ、深まるんじゃないかな、って 私、察するの得意じゃないから…何かあれば… おずおず尋ね 頭を…撫でるだけで、いいんですか? そろりと手を伸ばし 嬉しそうな様子に思わず笑み もっと…? 「じゃあ…え、えっと…」 思いきってぎゅっと抱きついて (や、やり過ぎたかな…) 抱きしめ返されてほっとしたけど今更恥ずかしくなって縮こまる 囁きにはドキドキ 「わ、私も…スノーくんに触れるの、好き、です」 触れられるのも、と尻窄みに呟き 問いには赤面しつつ頷いた、けど なん、だか…いつもと、違います …あぅ(茹蛸状態 |
スティレッタ・オンブラ(バルダー・アーテル)
オンブラ、いつまで秘密にするつもり? 気付いたのはこの間(E17) 脇腹隠したのが不自然に感じたの だから傷見たくて誘惑したのよ 秘密にしてたのは癪 でも貴方にも色々あったんでしょ? 嫌、諦めないわ 影は嘘じゃない 存在の証よ 今度は逃がさないって言ったでしょ? 嫌 じゃなくて駄目 なのね 前ならセクハラって喚いてたのに 恋人にならなくていい 終わったら全部忘れたことにするわ 今日だけ、身を任せて 今はナンナって呼んで オンブラ…ずっと会いたかった こんなこと出来るなんて夢みたいよ 愛してる 口同士のキスは互いの言葉を封印する意味があるの 約束通り忘れる為よ でも… いつかきっとまた、思い出させて 貴方が思う、私に相応しい男になった時にね |
鬼灯・千翡露(スマラグド)
(昼寝用のローソファーに二人で座り) 愛……愛かあ…… 何すれば良いんだろ? と言うかラグ君にはきついよね 恋愛感情のない相手とらぶらぶするって結構辛いんじゃ? え? 大丈夫? そっかー、ラグ君は大人だねえ 私? 私は寧ろよくわかんないかなあ 誰かをそういう意味で好きになった事ないし…… んー……経験あるからときめいたりとかはないかなあ…… (※EP3&5にてハグ経験済+シチュがシチュ故に弟感覚) あー……でもこうしてるとあったかいね 眠くなってきちゃった……ふぁあ 一緒にお昼寝しよう (巻き込んでソファに寝そべる) (すぐに静かに規則正しい寝息を立て始める) (あったかいから気持ち良くてよく眠れる この温度は、好きだ) |
●鬼灯・千翡露とスマラグド――まどろみの恋――
リビングに聴こえて来るのは、雨粒が窓を滴り落ちる音――。
千翡露は、精霊のスマラグドとソファに座りながら、ぼんやりと「愛」について考えていた。
「愛……、愛かあ……。うーん……。何すればいいんだろう?」
翡翠の大きな瞳を瞬きさせながら、小首を傾げて悩んでいる千翡露。
しかし、彼女は感情が顔に出るタイプではないため、スマラグドもそこまで真剣だとは思っていなかった。
「さぁね」
適度に相槌を打ちながら、ティーカップに口をつけようとする。
「と言うか、ラグ君にはきついよね」
「ん?」
だが、スマラグドが油断していた矢先、千翡露から不意に爆弾発言が――。
「だって、恋愛感情が無い相手とらぶらぶするって、結構辛いんじゃ?」
「!?」
これには、流石のスマラグドも気が動転した。
危うく、口に含んでいた紅茶を、口から吹き出す寸前だった。
「ごほっ……こほっ……」
「えっ? ラグ君、大丈夫?」
(大丈夫って、誰のせいだよ……!)
千翡露は、スマラグドが動揺した理由には、気づいていないようだ。
「本当に平気なの?」と、心配そうに背中を撫でてくる。
――まるで弟扱いされているようで、スマラグドの内心は複雑だ。
「と、兎も角! らっ、らぶらぶとか……べ、別に大丈夫だけどっ? だって、ちひろだし? 気にしないし!」
「そっかー、ラグ君は大人だねえ」
千翡露は、再び「うーん」と考えこみ始めてしまった。
「……はぁ……」
その横顔をちらりと盗み見ながら、スマラグドは溜息をつく。
千翡露が、「自分に恋愛感情を抱いていない事」は、薄々気づいていた。
それを想ったとき、スマラグドの胸はちくりと痛むのだ。
だが、強がりな面が表に出てしまって、うまく伝えられない。
「そう言うちひろは、どうなのさ」
「私? 私は寧ろ、よくわかんないかなあ。誰かをそういう意味で好きになったことないし」
「……うん。まあ何となく、予想はしてた」
千翡露は、ちょっと困ったような笑みを浮かべていた。
本当に、「好き」という感情が思い当たらないのだろう。
その表情を見てまた、スマラグドの心がキリリと締め付けられる。
(どうして、こんなにすっきりしないんだ)
痛みに反抗するかのように、スマラグドは、千翡露に腕を伸ばした。
「え?」
「――じゃあ、こういうの平気なわけ?」
そのまま、彼女の背中をぎゅっと抱き寄せる。
「んー。経験あるから、ときめいたりとかは……ないかなあ……」
「……だね。何回かやった、これ。しかも、そういう時に限って余裕無かった記憶ある」
涙するスマラグドを、姉のように抱擁した千翡露。
そして、迷い路ではぐれたときは、スマラグドが彼女を力強く抱きしめて、支えていた。
二人の間に芽生え始めた、小さくてやわらかい恋の蕾は、まだ膨らんでいる途中なのだ。
「……失敗したな。無駄に耐性つけちゃった……」
「なにか言った?」
唇を尖らせるスマラグドをよそに、千翡露はすっと目を細めた。
腕の温もりの心地よさが、彼女を安心させているようだ。
「こうしていると、あったかいね……。ねむくなってきちゃった。ふぁあ……」
「ちょ……、ちひろ!?」
「……一緒にお昼寝しよう、ラグ君……」
「って、……うわぁ!」
抱きしめあった体勢のまま、スマラグドは千翡露に押し倒された格好になってしまった。どくんと、スマラグドの心臓が早鐘を打つ。
狭いソファの上で逃げる場所は当然なく、二人は密着状態になった。
スマラグドの直ぐ傍に、千翡露の健やかな寝顔が見える。
あたたかい熱に身を委ね、すがるようにスマラグドを抱きしめる千翡露。
(気持ちいい……。この温度は、好き)
たとえ恋愛云々はわからなくても、この瞬間、彼女はスマラグドのぬくもりを、大切だと感じているに違いない。
「……無防備に寝ちゃってさ……もう」
人の気も知らずに――。
正直、恨み言は沢山有ったスマラグドだが、幸せそうな千翡露の顔を見ると、何も言えなかった。
やがて、高鳴る心臓が次第に落ち着いていくと、スマラグドはふっと、意識を手離した。
千翡露を抱き枕のように、しっかり腕の中に閉じ込めたままで。
●月野 輝とアルベルト――一緒に暮らそう――
細くて華奢な輝の背中に、艶やかな黒髪が揺れる。
キッチンに立つ彼女は、とにかく忙しなく動いていた。
料理中、髪の毛が邪魔になるため、後ろで緩く一本に結わえている。
(ええと、鍋はあと十分くらい煮込めばいいかしら……。ごはんも、もうすぐ炊けそうね)
アルベルトのために、おいしい夕飯をつくってあげたい。
張り切る輝をじっと観察しているアルベルトは、口元を吊り上げて微笑んでいた。
「腕に寄りをかけるわね」……なんて、いじらしい事を婚約者に言われたら、喜ばない男はいないだろう。
(……あんなに夢中になって、可愛いものだな)
後をまったく気にしない輝を見たアルベルトは、ちょっと悪戯心が湧いてきた。
足音を忍ばせて、彼女の傍へ近づいていく。
「――輝」
「え? きゃっ」
そして、輝が油断しきっている隙に、エプロンの腰元をぐっと引き寄せ、抱きしめた。
「えっと、アル……。あの、お料理できないん、だけ、ど……」
不意に接近したアルベルトとの距離。
力強い腕の感触に囚われ、輝の心臓は跳ね上がる。
(お、お料理に集中しなくちゃ……)
鍋は既に沸騰し、ふつふつと音を立て始めていた。
輝は、慌ててアルベルトから逃げようとするものの、思いのほか力が強くて、振りほどけなかった。
「も、もう、アルったら」
見る間に耳たぶを紅く染めた輝を見て、アルベルトは内心反省したものの、その腕だけは離さない。
今度は身を屈めながら、輝の耳元にそっと囁きかけた。
「そろそろ、あの約束を果たしてくれないか……?」
「……そ、それは、確かに言ったけどっ。そんな急に言われても……」
ぐつぐつ煮える鍋と同じく、アルベルトの甘い声に戸惑う輝の心は乱れ、揺れていた。
――きっかけは、プライベートビーチでの一幕。
今思い出しても、輝の身体は火を噴きそうだ。
露になった胸元を彼に見られて――けれど、どこかで『アルになら……』と考えた自分。
『一緒に暮らすまで、待っててね』
あの一言は、輝にとっては勇気を振り絞った一言だった。けれど、その気持ちに嘘偽りはない。
(アル、からかっているの? ううん。アルは、この手の話でからかってきたことはなかった……。本気なんだったら、私も応えなきゃ……)
「輝?」
白い頬を紅潮させた輝を見て、アルベルトは内心楽しんでいたが、そろそろ控えようかと考え始めた。
そのとき。
「アル――」
突然、今度は輝のほうが後ろを振り返り、アルベルトの背中に腕を巻きつけてきたのだ。
(輝……震えているのか?)
「こ、今夜……泊まって、いこう、かな……」
「!」
俯いた彼女が、小さく消え入りそうな声で告げたのは、「あの日の返事」。
その言葉は、アルベルトの胸に染み入るように熱く――。同時に、驚きを隠せなかった。
「いいのか? 無理をする必要はないんだぞ」
「アル? どうしてそんなに目を瞠ってるの?」
「どうしてって……」
アルベルトは、本心ではこの時を待ちわびていた。
キッチンに立つ輝の姿に気持ちが高揚し、共に暮らす日に想いを馳せていたのだから。
「だって。ずっと待っててくれたの、知ってるから。――嫌じゃないから……」
強い覚悟が感じられる、輝の瞳。
彼女の真っ直ぐな眼差しを見つめ、アルベルトは喜びを噛み締める。
返事を待っている間も十分楽しかったが、今日の幸せに勝るものはないだろう。
このまま彼女を自分のものにしたい欲を抑えて、アルベルトは告げた。
「今日は、心の準備もなかっただろう。だから、輝。ここへ越してこないか? 一緒に暮らそう」
「……うん……。それじゃあ私、ここに引っ越す事にするわ」
アルベルトは、愛おしい輝をきつく抱きながら、長い髪の毛を慈しむように撫でてゆく。
「ありがとう、輝……」
輝もまた、その指にうっとりと身を委ねる。
やがて、伸ばされたアルベルトの指先は、コンロの電源を静かに切った。
●夢路 希望とスノー・ラビット――もっと、もっと――
それは、希望がスノーの家のソファで、ゆったりと寛いでいたとき。
何気なく話題に上がったのは、ウィンクルムの「愛」の深め方についてだった。
「あの。スノーくんは、何かしてほしいこととか。我慢してることとか……」
「え?」
「その、相手のことを知れば、ふ、深まるんじゃないかって思って……。私、察するのは得意じゃないから、何かあれば……」
おずおずと提案を切り出したのは、希望のほうからだった。
本当は、こんな事を聞くのは恥ずかしい……。
内心はドキドキしているものの、スノーのためだったら、希望は何でもしてあげたいと思えた。
頬を桜色に染める希望が可愛らしくて、スノーはふわりと微笑みかける。
「確かに、ウィンクルムには必要なことだけど。それだけじゃなくて、今は普通の恋人として、愛を深めたい」
「恋人として……?」
――スノーにとっては、ウィンクルムとしてだけの関係が全てではなかった。
愛しい人と「もっと触れ合いたい」と願うのは、素直な気持ちだったから。
「……頭、撫でてほしいな」
「撫でるだけで、いいんですか?」
「うん。ノゾミさんに触ってもらうの、好きだから」
白くて柔らかいスノーの髪の毛は、本物の新雪のよう。
希望が優しい手つきで頭を撫でていくと、スノーはゆるやかに瞳を細めた。
「もっと」
「も、もっとですか……?」
幸せそうに頭を差し出すスノーの姿に、希望の胸は喜びで高鳴る。
(もっと、スノーくんを喜ばせてあげたい)
そう思ったものの、これ以上どうすればいいか分からず――、
「じゃあ……え、えっと……」
とりあえず、思い切ってぎゅっと抱きついてみた。
「……ノゾミさん」
まさか、彼女から抱きしめてくれるとは思わなかったスノーは、優しく腕を伸ばして、希望を抱きしめ返す。
(……やっぱり、恥ずかしいです……)
希望は、羞恥で体が熱くなるのを覚えた。
そこへ、スノーの甘い囁きが落ちる。
「触ってもらうのも好きだけど、触るのも好き」
耳元を掠めるスノーの吐息に、希望の心音は加速して、自然と『彼に応えたい』と言う感情が溢れていった。
「わ、私も……スノーくんに触れるの、好きです……」
――触れられるのも。
段々と縮こまり、室内に消える声さえ愛おしい。
スノーは、喜びにぞくりと鳥肌が立つ感覚を覚えながら、彼女からそっと体を離した。
その指先は、求める気持ちを表すように、希望の唇へ添えられる――。
「しても……いい?」
「……っ」
いよいよ真っ赤になった希望は、こくりと無言で頷くしかなかった。スノーは、そうっと顔を近づけると、熱い唇を強く重ねる。
「んぅ……っ……」
(なん、だか……いつもと違います)
痺れるように甘い感触が、希望の身体中を駆け巡っていく。
触れるだけでもなく、内側から満たされていくようなキス。
希望は翻弄されるがまま、応じるのに精一杯だ。
「……どうしよう……足りない、かも」
やがて、長い接触が解かれた後、スノーはちょっと残念そうな顔で笑った。
自分と同じように紅く染まったスノーの頬が、鏡に映った自分を見ているかのようで、恥ずかしくてたまらない。
「あぅ……」
(そんな顔でそんなことを言うの、ずるいですよ……!)
頭も心も蕩けていた希望は、再び近づいてきたスノーの顔を、黙って受け入れた。
●かのんと天藍――重ねれば重ねるほど――
窓をぱらぱらと叩く水音が聞こえてきた。
始めは規則正しかったその音は、徐々に勢いを増していく。
この大雨では、屋根を修理してくれている天藍は、ずぶ濡れになってしまうだろう。
大きめのタオルを抱えたかのんは、台所を出て、小走りで玄関へ向かった。
「天藍」
かのんが駆けつけると、ちょうど天藍が戻ってきたところだった。
「……ふぅ……。酷い雨だ」
天藍は、頭からつま先まで、ぐっしょり濡れてしまっている。首を振るたびに、大粒の雫が首筋を伝い落ちた。
「これ、使って下さ――」
かのんはタオルを差し出したのだが、天藍は上着の裾を捲り上げ、躊躇なく脱ぐ。
「きゃっ」
急に目の前に露になった、天藍の上半身。
しなやかな筋肉がついた、肩から腕にかけてのライン。
逞しくて、程よく厚みのある胸板――。
力強く抱きしめられた時の感触を、なんとなく思い出してしまう。
「あ、あの、タオル使ってください……。風邪引いちゃいますから……。わ、私、居間に戻りますね」
かのんは、天藍の頭にタオルを被せると、そそくさと玄関を立ち去ってしまった。
(真っ裸なわけでもないし、そこまで驚かなくても……)
天藍は、用意しておいた着替えに袖を通しつつ、やれやれと苦笑を浮べたのだった。
***
(……びっくりしました)
今もまだ、天藍の姿が瞼に焼きついている気がする。
高鳴る鼓動を沈めようと、かのんが深呼吸を繰り返していると。
「かのん」
「ひゃあっ?」
名前を呼ばれたと思う間もなく、かのんは天藍に背中から抱きしめられた。静まったはずの心臓が、どきどきと暴れだす。
「て、天藍……」
「ふふ……。ほんと、反応の一つ一つが可愛いよな」
かのんの動揺も知らず、天藍は爽やかな笑顔で、甘い言葉を囁いた。
「……誰のせいですか」
かのんは頬を紅くしながら、抗議の視線を向ける。
だが、そのむくれた表情さえも、天藍には愛らしく見えるのだ。
「本当のことだ。――可愛いな」
「もう……。それより、頭を拭いてください」
これ以上ドキドキしたら、心臓が持たない。
かのんは、強引に天藍の頭を拭き始めた。滴り落ちる雫が、時折足元にこぼれ落ちる。
目線を下に移した天藍は、背伸びをしているかのんの爪先が見えた。
(一生懸命、拭いてくれているんだろうな……。優しい顔をして)
そう思った瞬間、天藍は、かのんの手首をそっとつかんでいた。
「え?」
そのまま、彼女の白い指に、自身の唇を寄せる。
突然の事に驚いたかのんは、ピタリと動きを止めてしまった。
(嫌がられて……いないか。だが、怖がらせたくもない)
天藍の背筋には、冷や汗が流れる。
かのんが何よりも大切だからこそ、些細なことでも気になってしまうのだ。
「嫌か?」
思わず、訊ねる声が震えた天藍。しかし、かのんはふるふると首を横に振った。
「良かった――」
拒絶されていないと知り、天藍にはいつもの笑みが浮かぶ。それを見て、かのんはちょっと恨めしそうな目で、天藍を見上げた。
赤く潤んだ目元に、頼りなく服の裾を握る仕草。そのどれもが、天藍の理性を揺さぶってやまない。
自分に応えようとしてくれるかのんが、たまらなく愛おしかった。
(かのん……)
このまま深く抱き寄せ、閉じ込めてしまいたい。
天藍は、加速する感情を封じ込め、包み込むように柔らかいキスを、そっと落とし続けた。
「ん……っ……」
啄ばむような口づけを、かのんは瞼を閉じて受け止める。
天藍の裾をつかむかのんの指先は、僅かに震えていた。
それなのに、時折漏れる掠れた声は、おねだりするように甘く響く。
天藍にとっては、どんな蜜よりも甘く、優しく……。
●スティレッタ・オンブラとバルダー・アーテル――愛してる――
いったい、何がどうしてこうなったのか。
バルダーは、これまでの過程を思い出そうと必死だった。
だが、それを遮るかのように、スティレッタの艶やかな赤い唇が目前に迫ってくる。
「おい、何で俺を押し倒す?」
彼女は「話を聞いて」と言うのだが、この状況はバルダーにとっては毒だ。
なにせ、ベッドの上でスティレッタに押し倒されて、身動き一つ出来ないのだから。
「オンブラ、いつまで秘密にするつもり?」
落ち着かないバルダーをよそに、スティレッタの口から漏れた声は、真剣そのものである。
「どうしてそれを……」
「この間気づいたのよ。脇腹隠したのが、不自然に感じたの。だから、傷を見たくて誘惑したのよ」
目を見張るバルダーに対して、スティレッタは毅然とした態度を貫いていた。
『この間』。
それは、プライベートビーチでの一幕。
バルダーは、彼女に正体を知られたくない一心で、パーカーで体を……と言うよりも、左脇腹の傷を隠した。
だが、それが却って、スティレッタに確信を持たせてしまう要因になってしまった。
バルダーも、いつかこの時が来ると分かっていた。
背格好や声までは変えられない。聡い彼女になら、暴かれる時は来てしまうと。
「責めないんだな」
「秘密にしてたのは癪。でも、貴方にも色々有ったんでしょ?」
真実を知って尚、スティレッタの瞳は真っ直ぐだ。
バルダーは、抉られる様な痛みを感じた。――腹の傷ではなく、心が。
「お前の父親が存命で、俺が軍に居たら、俺達は結婚していただろう。だが、俺はお前に相応しくない」
諦めろ。俺は堕ちるところまで、堕ちたのだから……。
「オンブラも影、偽りの存在だ」
バルダーは、ナンナの幸せを願い、あえて彼女を突き放した。
だが、そこにいたのはもう、幼い少女ではない。
「嫌」
「……おい」
「諦めないわ。影は嘘じゃない。『存在の証』よ」
迷いなく自分を求める女性は、美しかった。
「逃さない」と告げる、形のいい唇も。色めいた仕草で、そっと肌を撫でてくるその指も。
「駄目だ。お前との関係を壊したくない――」
「嫌じゃなくて、駄目……なのね」
スティレッタは、前はセクハラって騒いだくせに……と、くすくす笑った。そして、いとおしげにバルダーの首筋に顔を近づける。
その熱い温もりが、バルダーを苦しめた。
「駄目だ、ナンナ。嫌じゃないから、駄目なんだ」
バルダーの理性の壁は、どんどん揺らいでいく。
スティレッタは、その小さな隙間に爪を食い込ませた。
「恋人にならなくていい」
「……」
「終わったら、全部忘れたことにするわ。今日だけ、身を任せて」
それは、あまりに甘美な誘いの言葉だった。
「スティレッタ」
今なら引き返せる。いや、ここで振り切らなかったら、俺は――……。
バルダーは、マヒしかけていた理性を総動員して、そっと彼女の肩をつかんだ。
「……頼む。もっと、自分の体を大事にしてくれ……」
バルダーの目に、潤んだスティレッタの瞳が映る。
スティレッタは驚いた様子だったが、バルダーに拒否されると、切ない吐息を漏らして告げた。
「オンブラ――愛してる」
***
傍にいるだけで、心臓が苦しい。
バルダーは、静かな夜の静寂を持て余していた。
唇には、まだスティレッタの口づけの余韻が残っている。
キスだけで止めたのは良いものの、抱えてきた大きな秘密が彼女に露見した今、この想いをどうやって欺き続ければ良いのだろう。
(……憎まれ口を叩いていたあの時には、戻れそうに無い)
ベッドを抜け出したバルダーは、酒でも呑むつもりでいた。
(忘れられるかよ)
スティレッタは、熱いキスの後、バルダーに語ったのだ。
「口同士のキスは、言葉を封印する意味があるの」、と。
約束を守るため。
自分とのことを、忘れるためだと。
つまり、恋人のように甘いあの口づけの記憶でさえも、スティレッタは忘れるというのだ。
バルダーは、深い苦しみの淵に差し込んだ、ひとつの感情を拾い上げた。これは、愛情なのだと。
愛おしい男に拒絶されてもなお、「愛してる」と告白したスティレッタの姿は、美しかった。
本心では、今日のことも忘れたくなかったはずだ。
そしていつの日か、バルダーが『オンブラ』として想いに応えてくれることを、願っているに違いない。
(お前と共に生きるように……俺は、変わるべきなんだ)
バルダーは、満月を酒の肴にしながら、誓いを立てた。
――いつか、必ず伝える。愛おしいナンナに、『愛している』と。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
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マスター | 夕季 麗野 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 09月17日 |
出発日 | 09月22日 00:00 |
予定納品日 | 10月02日 |